ガンダムビルドダイバーズ外伝 〜方舟の少女〜 作:楽雁つばさ
それは、今から半年ほど前の出来事。
第2次有志連合戦。
アヴァロンのフォースネストに囚われたサラを奪還すべく、ビルドダイバーズが有志連合に戦いを挑んだ時。
俺は、有志連合の一員として、ビルドダイバーズを敵に回した。
有志連合は、負けた。
圧倒的な戦力差を持ってしても、俺達は負けたんだ。
サラと、リクや彼の仲間達。
その間にあった強い思いが成し遂げた、彼らの勝利。
その瞬間を、俺は目の前で見ていた。
あれほど固くて強い絆を、その思いが形となった奇跡を見て。
とても感動した。
あんなことができたら、俺も、変われるだろうか。
大切な誰かを守るために、全力を惜しまない。
そうすれば、何も失わないで済むのだろうか。
弱い自分を、乗り越えていけるのだろうか。
漠然と、そんな風に思っていたのだろう。
だから、あの日の俺は最後まで諦めなかった。
あの日。
それは、俺が初めて、彼女と出会った日のことだ…。
「…まずいな、コレは」
思わず、俺の口からそんな言葉が漏れた。
連戦ミッションバトルに挑んだのは良かったのだが、その7番目に差し掛かる現在、非常に苦戦している。
正直、かなり厳しい状況だ。
「…! そっちか!」
警告音に振り向くと、大型剣を振り上げている敵機がいた。
対応するべく腕を向けるが…ダメだ、間に合わない!
「ぐあぁっ!」
真っ二つにされた俺のガンプラが、粒子となってこの空間から消えた。
アバターとしての姿の俺だけが宙に残され、それも徐々に、眼下の森林地帯に落ちていく。
-MISSION FAILED-
眼前に浮かぶ半透明の文字が、俺の力不足を証明した。
「なるほどな…」
改めて詳細な戦績を確認したが、最期のミッションバトルは、完敗といっても過言ではない結果だった。
6戦目までは順調だったようだが…。
「…ま、俺一人じゃこんなもの、ってことか」
己の実力を思い知りながら、ミッションエリアからのログアウトを図る。
「…ん?」
その時、妙な気配を感じた。
誰かが、近くに居る。
周辺マップを開いてみると、やはり、少しずつ近付いている反応がある。
まるで、歩み寄るかのように。
「…誰だ?」
反応のある方角を見て、声をかけると、
「あっ…はじめまして」
そこには、少女の姿をしたダイバーが居た。
「わたしは、リナリア」
小さくお辞儀をして、
「えっと、一応『エルダイバー』です」
そう答えた。
エルダイバー。
かつて、このGBNの世界全体が存亡の危機に陥った時、その原因たるバグの一種、もしくは根源とまで称された存在。
その実態は、ダイバーがGBNにガンプラをスキャンしたことで生まれた、余剰データの集合が自ら意思を持ったもの。
その存在は、ダイバーネーム「サラ」を名乗り、ビルドダイバーズというフォースに所属していた。
一度は、存在そのものがGBNの危機とされ、運営は、その存在を消去しようとした。
これに対し、「ビルドダイバーズ」の面々は、サラの存在とGBNの両立を実現させる方法を発見。
ただ、成功確率の低く、当初は否定されていた。
しかし、その実現のために奮闘する彼らの言動は、数多のダイバーの心を動かし、やがて運営をも味方につけ、見事に、サラとGBNの両立を実現させた。
結果、彼女の存在は意志を持つガンプラとして現実世界に進出。
GBNで生まれた新たな命として、ビルドダイバーズの面々と共に、現実とGBNの二つの世界で、その生命を謳歌している。
…と、聴いている。
「…じゃあ、お前は『サラ』とは違う『エルダイバー』…ということか?」
俺の質問に、リナリアと名乗った少女は頷いた。
信じられない、と言いたいところだが、あながちそうでもない。
あの壮大な事件からは、まだ一年も経っていない。それ以前からGBNに居るダイバーにとって、エルダイバーの存在は周知の事実だ。
サラ以外のエルダイバーも、確認されているだけで100人近く存在する…なんて話も聞いたことがある。
「なるほどな…。世界は広いってわけだ」
そう納得する俺に、リナリアは不思議そうな目を向けた。
「…えっと、信じてくれるの?」
まぁ、完璧に信じたわけじゃないが、特に疑うようなことでもない。
「ああ。信じるよ」
答えると、彼女はニコリと笑って。
「ありがとう。信じてくれて」
俺の手を握った。
「お、おう。とりあえず、な」
その純粋な瞳に、こちらもなんだか少し気恥ずかしくなり、思わず目をそらす。
そうして、ふと気付いた。
「ところで、お前はどうしてこんな場所に居るんだ?」
俺達が今いるここは、ついさっきまで俺がミッションバトルをしていたエリアだ。
ガンプラでの移動と戦闘のみを想定して、作られたフィールド。
木々は簡単な遮蔽物として、地面はフィールドの端としてしか作られておらず、ガンプラバトル以外には、せいぜいダイバーが立って歩く事が出来る程度の仕様。
言うなれば『最低限の森林地帯』。
そんな場所に、何故エルダイバーである彼女が現れたのか。
「あっ、それは…ええと」
リナリアはすこし言い淀んでいたが、何故か俺をじっと見つめている。
「…ひょっとして、俺に何か理由があるのか?」
聞いてみた、その直後。
突然、俺とリナリアとの間に、黒い影が射した。
「ん?」
見上げると、頭上には見覚えのあるシルエットが…って、
「まじかッ!」
慌てて、繋がれたままの彼女の手を引き、その場から少し離れる。
直後に、俺たちが立っていた場所に、ガンプラが落下してきた。
着地と同時に姿勢を崩し、地面に倒れこむ。
あれは…、
「ガードフレーム…?」
GBNの運営が、この世界を管理するために使用するガンプラだ。
しかし、何でこんなところに、突然こんなものが…。
「…っ!」
隣で息を飲む音と共に、繋がれた手が離れた。
リナリアの方を見ると、なぜかとても震えている。
「リナリア、どうした?」
引きつった彼女の視線は、ガードフレームを捉えている。
まるで、怯えるかのように。
「この感じ…あのガンプラだ…っ!」
そんなリナリアを前に、ガードフレームは上半身を大きく捻りながら立ち上がった。
ゆっくりとこちらに顔を向け、そのバイザーに怪しげな光を灯す。
まるでゾンビだ。
「チッ…なんなんだ、こいつ!」
俺も本能的に危険だと判断し、今一度リナリアの手を取り、ガードフレームから遠ざかるべく走り出した。
少し距離を取ってから、ガンプラを出そうと思い、ウインドウを開く。
しかし、出現したのはガンプラではなく、単なるエラー表示だった。
「なんだ、どうなってんだ?」
何度試してもエラーしか出ない。
そんなことをしているうちに、ガードフレームはこちらに追いつこうとしている。
「クソっ、こっちだ!」
俺はリナリアの手を引いて、今度はガードフレームの足の間を駆け抜けた。
それを無理に捕まえようとしたガードフレームは、姿勢を崩し、また倒れる。
「とにかく、逃げるぞ!」
「う、うんっ!」
リナリアが俺の言葉に頷くのを確認してから、俺は彼女の手を引いて、森林地帯の木々の中に飛び込んだ。
夢中で走ること数分ほどして、やがてガードフレームの足音が聞こえなくなった。
見上げても、その姿はどこにもない。
「…とりあえず、撒いたようだな」
「…はぁ、はぁ、…う、うんっ、…はぁ、はぁっ」
俺の言葉に、リナリアが荒い息と共に答える。
「しかし…、なんだったんだ、アレは…」
改めて思い返すと、ガードフレームの行動は異常だった。
まるで、俺たちを捕らえようとしたかのようで。
「…俺、運営に追われるようなこと、何かしたっけかな…」
なんてぼやくと、
「…たぶん、あなたは関係ないと思う」
リナリアが、真剣な表情で答えた。
「わたし、たまに、さっきみたいなガンプラに、捕まえられそうになるの」
「…そうなのか?」
「うん。…多分」
いや…だとしても、それはそれで疑問だ。
ガードフレームは、文字通りGBNの平和を守るためにある。
一度はエルダイバーの捜索に使われていたという話も聞くが、それはブレイクデカールを発端とした事件の時のことだ。
修正プログラムが完成し、バグの脅威が完全に去った今、彼女がエルダイバーだとして、そうであること自体が、運営にとって不都合であるとは考えにくい。
「何か、運営に狙われるようなことをしたのか?」
不正なプログラムやツールを使ったのだろうか。そう思ってリナリアに聞いてみたが、彼女は首を横に振る。心当たりがないのだろう。
運営に直接聞ければいいのだが、そういうわけにも…。
「…そういえば」
考えていて思い出した。
数日前にログインした時、全ダイバーを対象とした運営からの通知があったんだ。
メールボックスを開き、ログを遡る。
「そうだ、これだ」
やっぱりそうか。
「何かわかったの?」
覗き込むリナリアに、メッセージ画面を向けてやる。
「これを見てくれ。数日前に運営から来たメッセージだ。
「ええっと…『ガードフレームの盗難被害について』…?」
リナリアが読み上げた表題のメッセージには、10日ほど前に、何者かによってガードフレームが盗まれている、ということが書いてある。
そして。
「この通知に記載されているタイプは、さっき俺たちが見たガードフレームと、同じタイプだった。…つまり、同じ個体の可能性も高い」
説明する俺だが、リナリアはイマイチよくわかっていない様子。
「…ええっと、要するに、今俺たちを襲ったのは運営じゃなくて、他の誰かが、運営のガードフレームを使って、俺たちに襲いかかってきた、ってことだ」
あくまでも可能性の話に過ぎないが。
「…そっか」
リナリアは理解してくれたのか、表情を暗くする。
…ひょっとして、運営ではない他の誰かには、狙われる心当たりがあるのだろうか。
それを聞こうとしたその時。
「あっ!」
「おわぁっ!」
リナリアが突然俺の腕を引いた。
手前によろける俺の背後で、大きな音がする。
「な、なんだ!?」
振り返ると、そこには大きな手が叩きつけられていた。
先程までそこにいた俺を、潰そうとしたかのように。
見上げると、先程のガードフレームが、正確に俺たちを捉えていた。
くそッ、もう見つかったのか。
「行くぞ、リナリア!」
今度は返事を待たず、彼女の手を引いて逃げ出す。
木の合間を数分走って、今度こそガードフレームから大きな距離を取った。
まだ彼方にその姿が見えるが、こちらを完全に見失っているらしく、辺りを見回している。
今のうちに、俺はこのミッションエリアからの脱出方法を探ることにしたが…
「…ダメだ、バトルを中断してロビーに戻ることもできない」
色々試してみたが、どの方法もエラーになってしまう。
「…ねぇ、ちょっと見せて」
そうしていると、リナリアがウィンドウを覗いていた。
「ん? ああ」
画面を向けると、彼女はそれを少し操作してから、俺に返す。
「…やっぱり。これで大丈夫だよ、たぶん」
返されたウィンドウには、-READY?- の文字が表示されていた。
このまま下のOKを押せば、ログアウトできるらしい。
「えっ…どうやったんだ?」
言いつつ確認すると、1項目だけ、俺の入力していたものが消されていた。
リナリアの名前だ。
「やっぱり、狙われてるのはわたしだけ、みたいだから」
言って、笑う。
「いいよ。大丈夫。わたしならきっと、なんとかなるから」
大丈夫って、お前…。
「さ、早くログアウトして」
そう言って、数歩後ずさりするリナリア。
いや、そんなことされてもな。
「そういう訳には行かないだろ」
言って、俺はログアウトのウィンドウを閉じた。
「自分だけ逃げ帰っちゃ、あとで飯が不味くなるじゃないか」
そんな見捨てるような真似、今の俺にはできない。
「でも…」
彼女が言いかけたその時、視界の隅で何かが輝いた。
「やべっ!」
慌てて数歩前に出ると、ビームの柱が眼前を通過する。
その先には、ライフルを構えたガードフレームがいた。
痺れを切らして、木々を破壊しながら探し始めたのか。
「ほら、このままじゃ、あなたも危険だよ!」
…あなた『も』、ねぇ。
やっぱりこの子、何か、狙われる心当たりがあるのだろう。
…けど、
「だからって、放っとけるかよ」
そう呟いた直後、再びライフルが視界の隅で輝き、銃口がリナリアを捉える。
見つかったのか!
「くそッ!」
今度はリナリアの肩を押して、間一髪で射線上から逃れる…
「ぐあっ!」
いや、少し背中に掠ったらしい。
仮想空間なので痛みはないが、衝撃ですこし視界がブれ、体が倒れた。
すぐさま立ち上がり、次の射撃に備えて、リナリアとライフルの間に入る。
「どうしてそこまで、わたしを守ってくれるの…?」
そんなことを聞かれた。
「守る…?」
そんな大した事じゃない。
「俺はただ、ここで諦めたくないだけさ」
答えた直後、目の前でライフルが、俺を捉えて光った。
撃たれる。そう思った時。
「…そっか」
後ろから、リナリアの声が聞こえて。
「わたし、あなたのこと、信じてみたい」
その手が、俺の肩に触れた。
途端、
「なっ!」
突然正面にウィンドウが表示された。
それは先程、何度試しても出てこなかった、求めていた表記だ。
ガンプラを、この空間に出現させるための確認表示。
何も操作していないのに出てきた事に驚いたが、その向こうでビームの輝き、つまり銃撃がこちらに発射された事に気付く。
迷う時間はない。慌ててOKをタッチした。
俺とリナリアは、コックピットの中に転送されていた。
そこは、俺のガンプラの機体の中。
どうやら、射撃が当たるよりも早く、ガンプラの呼び出しに成功したらしい。
「良しッ!」
ガンプラさえ出せれば、こっちのものだ。
「行くぞ、クリスタイル・オーガンダム!」
コンソールパネルを操作してグリップを出し、握った。カメラアイが点灯し、全周囲モニターに森林地帯とガードフレームが映し出される。
「まずは、こいつだ!」
左手のグリップでコマンドを入力し、両腕を突き出した。
腕の銃口からビームが放たれ、前方を進む。
その先端が、ガードフレームの足元に届いた。
今だ!
「硬化ッ!」
叫ぶと同時、トリガーを引く。
途端、ビームが実体となって硬化し、ガードフレームの動きを封じた。
これぞ、俺のガンプラ「クリスタイルオーガンダム」の特殊性能。
その名も「クラフタル・システム」。
通常のGN粒子に、自己流で編み出した特殊粒子「硬化粒子」を混ぜ込むことで、射出後に硬化する「融合粒子」を精製することができる。
結構な出力なので、そう何度も乱用はできないが…
「…よし、機体番号が一致してる」
念のため確認したところ、やはり眼前のガードフレームは、運営のメッセージに書かれていた盗難機そのもので間違いないようだ。
相手が運営そのものじゃないのなら、遠慮する必要はない。
「誰だか知らないが、丸腰の俺たちを散々痛めつけやがって…」
言いつつ、身動きの取れないガードフレームに、俺のビームライフルを構える。
「お返しだ、このヤロゥッ!」
その腹をめがけて、ライフルを放った。
ビームはガードフレームを貫通し、大きな穴を開けて爆発。
ガードフレームは撃墜した。
「ありがとう、守ってくれて」
リナリアが俺に頭を下げた。
「そんな、大したことじゃないさ」
言いつつ、無意識に背中を掻こうとして、そういえばダメージを受けていたことを思い出す。
「…ん?」
しかし、背中は何ともない。ガンプラの攻撃を受けても、ダイバールックには視覚的ダメージはないのだろうか。
「ねぇ」
背中を見ていた俺に、リナリアが何やら画面を向けてくれている。
「わたしとフレンドになってほしいな」
ああ、なるほど。
「そうだな、そうしようか」
そう言って自分のフレンド画面を開き、ふと気づく。
「…そういえば、俺はまだお前に名乗ってない…のか?」
聞いてみると、リナリアは少し考えてから、こくりと頷いた。
「あぁ、やっぱりか。…ごめんな」
一度謝ってから、俺のダイバーとしてのステータス画面を、彼女に見せる。
「俺はジン。よろしくな」
言うと、リナリアも微笑む。
「うん、よろしくね、ジン」
まもなくして、リナリアからフレンド申請が届いた。
オイ!あいつ普通にガンプラ出してきたぞ!どうなってんだ!
確かに。ヴィラーエフェクトは正常に機能していたはずだ。
落ち着いて下さい。その件は既に調査中です。
なによ、そっちにもわからないの?
チッ、手っ取り早く捕まえるためにヴィラーフレームを使ってやってんのによォ!
これでは自分のガンプラを使った方が早い、かもしれないな。
めんどくさいわねぇ…。
…いいえ、次もヴィラーフレームを使ってください。
ハァ? なんでだよ!
今回の原因を究明するためです。もう少しデータを集めさせて下さい。
なによ、つまらないわねぇ。
その意見には同意だ。…が、オーナー様の意見なら仕方ない。
わーったよ。メンテしときゃいいんだろ?
ええ。よろしくお願いします。
方舟の少女 ガンプラデータファイル01
【クリスタイルオーガンダム】
ジンが製作し、操るガンプラ。
オーガンダムをベースとして、ビルドファイターズの機体と組み合わせた徹底改修が施されている。
その最大の特徴は「クラフタル・システム」。
両肩のクラフタルジェネレーターから、数々の製作実験で偶発的に生まれた「GN粒子を硬化させる粒子」が生成される。
これと、胸部の太陽炉から生成されるGN粒子を混ぜることで「融合粒子」となり、ビームに実体としての応用性を持たせることができる。
あらかじめインジェクターにはいくつかのパターンが記憶されており、状況に応じて様々な形状の物質を具現化、これらを使い分けることが可能。
しかし、相応の出力を消費するため、これとは別に通常のビームライフルとビームサーベルを装備しており、基本的にはそれらの武装で戦闘を行う。
【ヴィラーフレーム】
何者かによって運営の手から盗まれたガードフレーム。本来はGBNの治安維持などに使用される。
ヴィラーエフェクトと呼ばれる謎のプログラムが追加されており、これによって運営の管理から抜け出しているらしい。