ガンダムビルドダイバーズ外伝 〜方舟の少女〜   作:楽雁つばさ

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第10話「いちばんたいせつなこと」

リナリアへのメッセージ送信も、ログへのアクセスも拒絶されたまま、数日が経過したある日。

「ジンくん。タイムリミットですよ」

そう言うロコモに連れられて、俺はスワークルに連れて来られた。

そこに広がる光景は…。

「これは…!」

広場の噴水。

普段は水が湧き出ているそこから、禍々しい紫のオーラを纏った、濃い緑色の粒子が湧き出していた。

いつか、リナリアの体から溢れていたものだ。

クラフタルシステムの暴走による、融合粒子の奔流。

それが、ブレイクブーストによって加速させられているかのような状態。

「いや、だが俺は…」

思わず、自分のステータスを確認した。

しかし、俺が今日登録したのは、クリスタイル・オーガンダムではなく、ガンタムアヴァンシェルのほうだ。

クラフタルシステムは搭載していない。

「おそらくこれは、クラフタルシステムの暴走ではなく、『それっぽい形で具現化して進行しているバグ』ですね」

戸惑う俺に、ロコモはそう説明した。

「…どういうことだ?」

「リナリアちゃん…というか、『エルダイバー:リナリア』を構成するデータの半分は、クラフタルシステムのバグによって構成されているわけですからね。…その進行が『クラフタルシステムっぽい形』で現れるのは、そんなに不思議じゃないことですよ」

「じゃあ、これはリナリアが、エルダイバーに近付いてる証拠、ってことか?」

「ええ。しかも、目に見えるほど確かに、激しく。…このままだと、数時間もあれば、リナリアちゃんは完全にエルダイバーになってしまうでしょうね…」

…タイムリミット、というのは、そういうことか。

「どうしますか? ジンくん。今ここで結論を出せますか?」

エルダイバーになるのを見守るか。

リアルの世界に連れて帰るのか。

その答えを、今ここで出せ、というわけか。

「…目一杯、悩んだけどな」

もちろん、ずっと考えていたことだ。

考えていたからこそ。

「俺は、今はどっちも選ばない」

今、この瞬間で、俺は答えを出せない。

「本人が嫌がっていることを、強制したくはない。けれど、だからと言って俺は、リナリアにエルダイバーになって欲しいとも思わない」

だから。

「俺はまず、俺自身がそう思っていることを、リナリアに伝えたい。リナリアと話をしたいんだ」

そう言うと、ロコモはため息を吐いた。

「ジンくん。キミはお人好しですよ」

眉間に皺を寄せて、言葉を続ける。

「リナリアちゃんは、自分がエルダイバーになりかけていることを知っていた。…それがジンくんの影響を受けているからだと、最初から全部わかっていて、その上でジンくんのそばに居た。…それってつまり、ジンくんはずっと騙されていたとも言えるのですよ?」

…その可能性は、俺も考えた。

けれど。

「違うな」

確かに、リナリアはずっと、自分が人間だということを隠していた。

けれど、隠したくて隠していたわけじゃなかった。

「リナリアは、俺を騙してなんかいない」

最後に彼女に会った時。

俺が言い淀んでいるうちに、彼女は自分のことを、俺に問いかけた。

俺が『リナリアというダイバーの在り様に気付いている相手』であることを確信して。

俺の答えを、彼女自身から促したんだ。

本当に言いたくない事だったら、そんなことはできない。

「言いたくないけど、いつか言わなきゃいけない、ってことは、あいつ自身がずっとわかっていたんだ」

だからこそ、ずっと言えなかった。

言おうとして、泣いてしまって、言えなかったあの日も。

『これは、話さなきゃいけないことだから』と言っていた。

そして。

「それに、約束しちまったんだ。…『その時が来るまで、俺はお前のそばにいるよ』…って」

あの時は、何も知らなかったけれど。

それでも、約束は約束だ。

「だから、俺はリナリアのそばに行く。リナリアの言葉で全てを聞く。結論は、そこで出すさ」

中途半端な答えかもしれないけれど。

それでも、俺はそうするべきだと確信している。

そんな俺の様子を見て、ロコモは。

「…なら、ボクが言えることは、何もなさそうですね」

ため息をついて、何やら画面を開いた。

「…で? 行くってどうやって行くんですか? まさか、この前ミカに負けたガンプラで、リナリアちゃんに会いに行こうって言うんじゃないでしょうね?」

そう言われると、少し自信を無くすが…。

「…そのつもりだ」

クラフタルシステムを使えば、リナリアのエルダイバー化を進行させてしまう。

だから、アヴァンシェルを使うしかない。

「…やれやれ。そんなことだと思ったのですよ」

ロコモはため息をついた。

画面を開き、何かのデータを俺に送りつける。

「これは?」

「いいから、とっとと開けるのですよ」

言われるがままにデータを開くと、中にはガンプラのデータが入っていた。

これは…。

「クリスタイル・オーガンダムの機体データ…か…?」

似ているが、なんか…ちょっと違う。

「ジンくんのオーガンダムのデータを、ボクなりにアレンジしたものですよ」

と、ロコモは言う。

「クラフタルシステムの代わりに、ボクお手製の『それっぽいことができるシステム』を搭載したガンプラ。『Ver.ジェマイユ』とでも呼んでくださいですよ」

「ジェマイユ…?」

「これなら、リナリアちゃんのエルダイバー化を促進する危険性もなく、ジンくんオリジナルに限りなく近い感覚で扱えるのですよ」

…そんなことが可能なのか。

いや、それよりも。

「お前、…俺に力を貸してくれるのか?」

ロコモは、リナリアがエルダイバーになることを望んでいるようだったが…。

「ボクにも立場があるのでね。…今回のことに関しては、ジンくんにお任せするのが手っ取り早いのですよ」

「立場…?」

「そう。あまり表立って動くより、『フレンドにガンプラを貸しただけ』って事にしておけば、後々融通が効きそうなので」

「フレンドって、俺とお前はまだ…」

と、言いかけて己のフレンドリストを開く。

いつの間にか、ロコモの名前が登録されていた。

「…なんでもアリだな、お前」

「そんな事もないですよ。立場がある分、こう言う時にジンくんほど自由に動けないですし」

ロコモは苦笑する。

その様子から、なんとなく分かった。

彼女も、きっと色々と葛藤したのだろう。

その上の決断で、俺にこれを託したんだ。

ならば、今は彼女を信じよう。

「さ、とっとと行くのですよ」

軽く背中を押される。

「…ああ。ありがたく使わせてもらうぜ」

俺は受け取ったデータを認証し、ジェマイユを自分の所持ガンプラに上書きした。

「それに乗って、噴水の中に飛び込むのですよ。…バグの奔流の先を辿れば、きっとそこに、リナリアちゃんがいるハズ」

「なるほどな」

答えつつ、ガンプラを呼び出して搭乗する。

…すごい。外見だけでなく、操作系や操縦間隔までほとんど同じだ。

「ジンくん、気をつけるのですよ」

足元でロコモの声。

「ああ、ありがとな!」

改めて礼を言い、俺はVer.ジェマイユと共に、粒子の奔流に飛び込んだ。

待ってろよ、リナリア…!

 

 

バグの奔流。

それに逆らって進むのは、決して容易ではなかった。

「これは、結構キツイな…っ 」

損傷こそ起こらないものの、ガンプラを通じて俺の全身に伝わる振動。

流れというより、もはや爆風に晒されているかのようだ。

しかも進めば進むほど、激しく、大きくなる。

「行けるのか…?」

辛うじて『進んでいる』と言えるかのような状況。

そんな時、アラートが鳴った。

正面から壁が迫っている。

「うおっ…と!」

機体の姿勢を変え、一度壁に足をつけた。

横に飛んで回避し、事なきを得る。

「今のって…」

見覚えがあったので、後方カメラをズームして確認した。

…やはりそうか。

アレは壁ではなく、百里というガンプラの、背後に突出したブースターパーツだ。

外見のインパクトが強いので、よく覚えている。

「…まさか」

ズーム箇所を適当な方角にずらしてみる。

捉えきれない無数の塵の中に、ΖΖガンダムの砲身を見つけた。

更に、ザク改のバックパック、マグアナックの肩、ドムの足先、ガンダムNT-1の胸など、特徴が強く残っているものが多く見つけられた。

よくみると、辛うじて部位がわかるもの、原型を留めていない破片のようなもの、壊れたパーツ、細かいジョイント、削りカス同然のもの…など。

リアルの世界における「ガンプラに関連する物」の全てが、不規則にバグに流されていく。

まるでリアルの世界から、ガンプラの製作の過程で生まれたものを、片っ端からスキャンしてGBNに送っているかのようだ。

「ッ!」

またアラートが鳴った。

余所見をしていたうちに、ジェマイユの前方に、大きめのパーツが迫って来る。

「プロテクションッ!」

機体の左腕から、融合粒子にのる六角形状の障壁を生成した。

大きな衝撃はあったが、機体への損傷は防ぐことができた。

「ふぅ…」

一息をつく。今のは…ガンダムヴァーチェの脚部だろうか。

しかし…ジェマイユに確かな衝撃があったことを考えると、やはりこれらは、この仮想空間内で「質量のある物体」として具現化していることになる。

GBNとは本来、ガンプラの「完成したものを持ち込む世界」。

なので、こんな状況はとても妙だ。

「…本当に、この先にリナリアがいるのか…?」

思わず口を出た不安。

それに答える口を持たず、数多のパーツやゴミ達は、流れに乗って過ぎ去って行く…。

 

数分、そうしていると。

「うわっ!」

突如差し込んだ強い光に、思わす目を閉じてしまった。

直後、真正面にアラートが鳴るも、視界が奪われて何も見えない。

「ッ、プロテクション!」

大きめの障壁を生成して、自らの機体をぶつけるような形で、ジェマイユは大きく減速した。

姿勢を制御し、機体を止める。

ふと、どこかに機体の足が付いた。

「…ん?」

俺はそんな操作をしていない。

機体のオートバランサーが働き、自動で足を付けたんだ。

ということは…。

「重力があるのか…?」

軽い跳躍動作を行う。

やはり、1/6Gほどの重力があるようだ。

「ここは…」

周囲を細かく見渡してみる。

一面が灰色の空間。所々に濃淡の差があり、まるで曇り空を眺めているかのようだ。

俺のガンプラが立っているのは、一際暗い色をした床。

形状は不定形で、境界部分がうねうねと動いている。

雨雲の上にでも立っているのだろうか。

「…ん?」

気付けば、バグの奔流も収まっている。

振動の音は完全に消え、むしろ耳鳴りすら覚えている。

…或いは、「耳鳴りに思えるような音」が、ずっと響いているのか…?

改めて見渡す。

雄大に広がる、無彩色。

その照度差からは、時折「歪み」のようなものが生まれては、どこかへと流れ去って行く。

まるで、虫にでも成ったかのように。

「なんなんだ、ここは…」

無機質ながら、生物的な空間。

どこか恐怖を覚えてしまう。

これは本当に、GBNの中なのだろうか…。

改めて、あたりを見渡す。

「…ん?」

すると、妙な光の反射を見つけた。

何かあるのだろうか。

光を目指して、ジェマイユを歩行させる。

やがて、その先に、タワーのような建造物があることに気づいた。

よく見ると、周りには細長い建造物があり、更にそれを、アリジゴクのような大きな窪みに囲まれている。

さながら、機械仕掛けの巨大な花が、雲の中に埋もれているかのようだ。

タワーが花柱、それを囲う細長い建造物が花糸、窪みは花弁…といったところか。

「まるでラビアンローズだな…」

宇宙ドッグ艦を思わせるほどに大きなそれは、花弁の形が六方向に広がっている。

ラビアンローズが「バラ」だとするならば、こちらの形状は、試作3号機の名前の由来にもなっている「デンドロビウム」という花に近いだろうか。

ともあれ、慎重に近づき、機体越しに花びらの先端に触れてみる。

『…だれ…?』

ふと聞こえる声。

それは、見知った声だった。

「リナリア!?」

思わず周りを見渡したが、その姿はどこにもない。

『…ジン、なの…?』

篭ったようなその声は、まるで空間全域から聞こえるかのようだった。

「そうだ、俺だ。…お前はどこにいるんだ?」

声の元を探る。

ふと、タワーの中心が光ったように見えた。

『ジン…、どうして来たの?』

あの先端から声が響いているのだろうか。

「どうして、って…。お前と話をしに来たんだよ」

『…「はなし」…?』

タワーの先端が切り離された。

『でも、ジンはダメって言ったじゃん』

それは人の姿を象る。

あれは…ガンプラだろうか。

とても生物的な、曲線の多いデザインだ。

エルダイバーの持つ、モビルドールに近い気がする。

『わたしがここで生きること、ダメって、言ったじゃん!』

モビルドールは、ジェマイユに斬りかかってきた。

「それは違う! 俺もあの時は、お前のことを知らなかったんだ!」

慌ててビームサーベルを引き抜き、防御する。

『そんなのウソだよ!』

凌ぎきれない。

ジェマイユは、大きく後ろに弾かれてしまった。

『ジンが言ったんじゃん! お前はエルダイバーなんかじゃない、って!』

そこに、モビルドールの腕が向けられた。

『ジンは知ってたんだ! それなのに、わたしにダメって言ったんだ!』

腕先の形状が変化して、銃口が現れる。

『だからジンは、わたしをあっちに戻すために、ここに来たんでしょ!?』

銃撃が放たれた。

プロテクションを展開して防御する。

「違う! 確かにあの時、お前がエルダイバーじゃないことは知っていたが…」

『じゃあ、何も違わないじゃん!』

右からのアラート。

見ればモビルドールは、既に右側からジェマイユに迫っていた。

「ぐあっ!」

強烈な蹴り。

更に大きく吹き飛ばされる。

『わたしは戻るつもりなんてない! あそこに、わたしの幸せなんて、ないの!』

…幸せなんてない、か。

「…その言葉、グレーヒー・リボンでも聞いたな…」

機体の姿勢を制御して、モビルドールに向き直る。

「わかった。…お前はもう、GBNで生きていく事にしたんだな?」

ビームサーベルを背中に戻しながら。

「お前の幸せは、このGBNの中にあるんだな?」

なんて問いかけるが、俺は内心、そうは思えていない。

俺もこの数日間、ずっとリナリアのことを考えていた。

今まで彼女と過ごしてきた時間。

その仕草や表情。

いろんなことを、一つ一つ思い出して。

一つの可能性に気がついたんだ。

…リナリアは、先の問いに答えない。

その反応は、俺の気付いた可能性を、より確信に近付けるものだ。

更に数秒、沈黙が流れて。

『…違う…』

帰って来たのは、否定。

『そうじゃ、ないの…』

モビルドールが、銃となった腕を変形させて。

『やっぱり、ジンは何もわかってないッ!』

今度はバズーカになり、それを放ってきた。

「ああ、わかってないさ!」

ビームサーベルの居合抜きで、それを切り裂き、事なきを得る。

「だから、わかりに来たんだよ! お前と話して、お前の言葉を聞きに来た!」

ビームサーベルの切先を、モビルドールに向けてやる。

「来いよ! お前が俺と話す気になるまで、俺は退かないぞ!」

 

 

 

とある、宇宙空間のバトルフィールド。

ここでは少し前から、大きな戦闘が繰り広げられていた。

「このっ! 急造兵器のクセに!」

そう発するのは、Gアルケインという機体を改造したガンプラ、その名も「激・戦乙女の涙雨(ジー・ワルキュレイン)」。

操縦するのは、ミカというダイバーだ。

「なんなのよ、この数! キリがないじゃない!」

彼女らの周りには、巨大なドラム缶のようなものが、無数に浮いている。

コレらは全て、「オッゴ」と呼ばれるガンプラである。

単機の性能は決して高くなく、既にかなりの数が撃墜されている。

しかし、その度に何処からか、次から次へと現れているのだ。

「これでは全く前に進めないな…」

ジー・ワルキュレインの傍では、もう一機のガンプラが、愚痴を漏らす。

こちらは、高機動型と呼ばれるザクを、カスタマイズした機体。

操っているのは、ラグザというダイバーである。

二人と二機は、かれこれ数十分、このエリアでオッゴの編隊と戦闘しているのだ。

「そもそも、こんな強行手段じゃないと入れない、ってのがおかしいのよ!」

「仕方ないだろう。こればかりは」

二人が目指しているのは、交流エリア「スワークル」。

現在「バグによるシステムエラー」が発生しており、その広がりを抑えるため、各ゲートが運営によって閉鎖されている。

それでも中に入ろうとするならば、隣接するエリア、つまり「外側の宇宙」であるここから、外壁を突き破って強引に侵入するしかない。

そのため、二人はここを押し通ろうとしたが、オッゴに邪魔されているのだ。

「ッ!」

ジー・ワルキュレインがシールドを構える。

そこに、間髪入れずにバズーカの砲弾が激突した。

「ああ、もうッ!」

ミカは苛立ちの声を上げて、砲撃してきたオッゴに接近し、ビームサーベルで切り裂く。

しかし、その背後にはもう一機のオッゴが隠れていた。

「しまった!」

既にシュツルムファウストが向けられている。この距離では外れようがない。

そう悟ったミカは衝撃に備えたが、

「ええい!」

発射の直前、オッゴの側面にヒートホークが突き刺さり、大きく姿勢を変えられた。

それによって射角が変わり、シュツルムファウストは彼方へと飛んでいく。

少し遅れて、オッゴ本体も爆散した。

ヒートホークは柄のワイヤーを手繰られ、ラグザのザクの手元に帰還する。

「生き急ぐな、ミカ」

「わ、わかってるわよっ!」

その首元に、ジーワルキュレインの機銃が向けられた。

数発、放たれたビームはザクを通り過ぎて、その背後に迫っていた別のオッゴを撃ち落とす。

「アンタこそ、気を抜かないでよね!」

「…言ってくれる!」

ジー・ワルキュレインはザクに接近し、その背後に立った。

二機は互いの背中を合わせるようにして、改めてオッゴの編隊と向き直る。

同時に、どこからか新たなオッゴが三機現れた。

「…本当に、キリがないな」

援軍の到着というより「増殖」に近い増え方をするオッゴを前に、ラグザはミカの言葉を反芻する。

しかし、その直後。

「ッ!?」

「新手!?」

二人の期待にアラートが鳴り、その彼方を見る。

桃色の閃光。一瞬でこちらに迫ったそれは、二機の付近を通り過ぎ、オッゴ編隊の約半分を焼き払った。

「メガ粒子砲…?」

閃光の正体を推測するミカ。

「にしては出力が高すぎるな…」

少し遅れて、ラグザがそう呟くと、

「フォトンブラスターキャノンです」

二機に通信が入った。

画面には、二人がオーナーと呼ぶ人物、ケイの姿が映る。

その間に、戦場には雄大な宇宙戦艦が現れた。

「強襲揚陸モードのディーヴァ…。これまた、とんでもないものを用意してきたな…」

「アンタ、こんなのも作れるのね…」

あまりにも綿密に作られた艦体に、ラグザとミカは感心の声を漏らす。

「お褒めに預かり光栄です。…が、今は時間が惜しい。お二人とも、こちらに来てください」

ケイの言葉に従うように、二機はディーヴァの艦橋に接近した。

「僕の次の射撃で、スワークルの外壁に穴を開けます。お二人は、先に中へ行ってください。僕はモビルスーツに乗り換えて、追いかけます」

「ああ。…なら、俺達は次弾装填までの間、艦の防衛に徹しよう」

ケイの言葉に、ラグザが役割を悟る。

「いえ、そんなに待たせませんよ」

しかし、ケイはそれを否定した。

途端、ディーヴァの艦体中央の砲身が、軽い爆発によって切り離された。

艦体右側のカタパルトが、前方にスライドする。

内部から巨大な円柱が露出し、切り離された砲身の代わりに、艦体中央に移動した。

それが接続されると、カタパルトが元の位置に戻る。

「…カートリッジ式に改造してあるのか」

さながら、弾倉を交換するかのような一連の動きに、ラグザはまた感心した。

「ええ。では、撃ちます…!」

ケイの言葉の直後に、再度、フォトンブラスターキャノンが放たれる。

標的は、スワークルの外壁。まともに当たれば大穴が開くだろう。

しかし。

「ッ!?」

それは直前で、無数の線に分かれ、様々な角度に逸れた。

スワークルの外壁には、傷一つ付いていない。

「何故…」

前方をズームするケイ。

その画面には、細かい粉が大量に映っていた。

「ビーム撹乱幕…?」

「ただのビーム撹乱幕じゃないわね、これ…」

ケイとミカの推察。

ラグザはザクを駆り、粉の領域に侵入した。

「成程…。ビーム撹乱幕に、ナノラミネートアーマーの破片が混ぜ込んであるようだ」

その実態を理解したところで。

「ご明察ですよ!」

という声と共に、指を鳴らす音。

途端、ディーヴァの真横に、大型輸送機がが現れた。

「クタン参型…!? いつからそんな所に!」

「最初からですよー」

接近してきたラグザのザクを、滑空砲の射撃で牽制する輸送機。

それはクタン参型を改造した機体…なのだが、

「…おっと、こっちもステルス解除しないとですよ」

その下部からも、何やら大きな物体が現れた。

それは「ラング」と呼ばれるモビルアーマーに近い形をしている。

「何よアレ! ビグ・ラング!?」

「ビグロの代わりにクタンを使ったビグ・ラング…『クタン・ラング』とでも言ったところか」

ミカとラグザが驚く中、

「違うのですよ! このガンプラの名は『大列車ホウキ星』ッ!」

機体の主が、高らかに答える。

「そしてボク…私は! 謎の美少女ダイバー『ぽっぽちゃん』ッ!」

映像通信が、フルフェイスヘルメットを被った、小柄の女性ダイバーを映し出した。

「友のため、この世界のため、キミたち不正ダイバーを、懲らしめに来たのですよ!」

妙に大きな身振りをしながら、高らかに宣言する。

…のだが。

「…ロコモさんですよね?」

「ぎくうっ!」

その正体は、ケイによって、すぐに見抜かれてしまった。

「ち、違うのですよ! ぼ…私は謎の美少女ぽっぽちゃん! ロコモなんて名前は知らないのですよ!」

取り繕うとする『ぽっぽちゃん』だが、

「…いや、さすがに無理があるわよ…」

「別人を主張したいのなら、その鼻に付く口調や、ちんちくりんのダイバールックを変えるべきだ」

他の二人にも、既に正体がバレている。

「…ちぇっ。じゃあ、もういいですよ」

ぽっぽちゃん改め、ロコモは、諦めてヘルメットを外した。

「えーえーそうですよ、そうですとも。ボクはロコモ。フォース:特潜機勇隊のエージェントでもあり、GBNの特殊捜査官でもある、ハイブリッドなベテランハーフダイバーですよーだ」

不貞腐れる様子の彼女だが、ケイは全く気に留めない。

「どういうつもりですか? 僕らの邪魔をするなんて。…まさか、ナライア様が帰れなくても、良いというのですか?」

「そうじゃないですよ。…まぁ、本当はボクはそれでも良いと思ってますけど」

「…ふざけないで下さいッ!」

ロコモの返答に、ケイは怒りを示した。

「貴女もその目で見たのでしょう!? ナライア様の、あの痛々しい姿を!」

ディーヴァが回頭し、大列車ホウキ星に前を向ける。

機体越しに、ロコモを睨みつけるかのように。

「今こうしている間にも、ナライア様はどんどん衰弱している。貴女のおふざけに付き合っている暇はないんです!」

先のように、フォトンブラスターの砲身が切り替わった。

「最後の警告です。これ以上、僕らの邪魔をしないで!」

その様子に、ロコモは。

「…まぁ、おふざけを混ぜたのは、一応謝っておくのですよ。…けどね」

残っていたオッゴ部隊を、改めてディーヴァ周囲に集結させる。

「ケイさん。…やっぱり、あなたは一つ、大切なことがわかっていない」

「大切なこと…?」

「ええ。…それが分からない、分かろうとしない限り、ボクは貴方を通すわけには行かないのですよ」

「…なんだというのですか? その『大切なこと』とは」

ロコモを睨みつけるケイ。

対して、ロコモは小さなため息を付いた。

「それが残念なことに、ボクにもわからないのですよ。…きっと、リナリアちゃんはボクには教えてくれない。…もちろん、貴方にも…ね」

ケイも呆れたように、鼻を鳴らす。

「…何を、訳のわからないことを」

ディーヴァの左カタパルトが、そのハッチを開いた。

「もう、良いです。応じてくれないのなら、話す必要もありません」

カタパルトから、大量の何かが発進する。

モビルポッド、ボールと呼ばれるガンプラたちだ。

「貴女をねじ伏せてでも、この場を通らせて貰います」

ボールは隊列を成し、オッゴの隊に襲いかかっていく。

「…やっぱり、貴方は『そういう手段』を取るのですね」

対するロコモは、最後のステルスを解除した。

大列車ホウキ星は、ようやくその全貌を表す。

ラングとクタン参型、その後ろには、さらに巨大なコンテナと、ブースターが接続されていた。

「…じゃあ、ボクは時間を稼がせてもらうのですよ!」

コンテナから、新たなオッゴが多数出撃する。

戦闘が、より激しくなっていく。

 

ーーリナリアちゃん。

ボクはあの日、二人でスワークルを見て回った時から。

キミがエルダイバーじゃないということ、なんとなく、察していた。

けど、ボクにとってはそんなこと、どっちでも良かったのですよ。

ボクは、キミのことが好きだから。

キミがこの世界で笑っていられるなら、それ以外のことは、どうでも良かった。

でもね。

グレーヒー・リボンで戦った時に、わかったのですよ。

リナリアちゃんには、この世界にこだわる理由があるってこと。

キミには、その命をすり減らしてまで、この世界にこだわる理由が、あるのですね。

でも、それを知るには、ボクとキミとが過ごした時間は、きっとまだ、足りない。

だから、ボクは託すことにしたのですよ。

ボクより長く、キミのそばに居た彼なら。

きっと、全てを知る権利がある。

キミを思い、キミのそばに居続けていた彼になら。

キミもきっと、もっと素直になれる。

 

そのための時間は、ボクが作ってあげるのですよ。ーー

 

 

 

最初から、そこにヒントがあった。

ただ、その時はまだ、それに気付けるほど、彼女のことを知らなかった。

俺も、自分の境遇もあって、あえて触れないようにしていた。

結果、気がついてみれば、いつのまにか忘れていたんだ。

 

『戻れないの!』

叫ぶリナリア。

『わたしはもう、戻れない!』

モビルドールの猛攻が、ジェマイユを襲い続ける。

『戻る場所も、帰るところもない!』

対して俺は、それを受け止め続けた。

『だからわたしは、この世界で生きていくの!』

彼女の声を聞くために。

『それしかないのッ!』

彼女の、本当の気持ちを知るために。

「本当に、そうなのか!?」

叫ぶように、聞き返す。

「そんなこと、誰が決めたんだ!?」

俺の問いに、モビルドールの動きが止まった。

『それは…』

躊躇う声。

…今がチャンスだ。

「なぁ、リナリア」

伝えなければ。

まだ、彼女に伝えていないこと。

「覚えてるか? スワークルで、久しぶりに俺とお前が会った、あの日のこと」

答えは返ってこないが、続ける。

「お前は、何も聞かないでくれたよな」

あの日。

リナリアは、俺が居なくなった理由を、問わなかった。

「俺は…さ。信じていた友達や仲間が、知らないところで、俺だけを仲間外れにしている、ってことを知ったんだ」

フューチャーコンパスと、セイゴ。

あれからもずっと、俺は自分の過去を、振り切れていない。

「原因は、俺の過去の間違った行動にあるから、仲間たちが悪いとは思えない。…けど、それでも、何も言わないで仲間外れにされたことや、一番信頼していた友達に、ずっと教えてもらえていなかったことが、なんていうか…悲しくて、悔しかったんだ」

だから、俺はあの日から、長い間GBNを遠ざけていた。

でも。

「そんな時に、お前は俺に、『帰ってきてくれて嬉しい』って言ってくれた」

…恥ずかしい話だけどな。

「俺は…さ、その言葉が、めちゃくちゃ嬉しかったんだ」

あれがなかったら、きっと俺は、別れだけを告げて、また逃げてしまっただろう。

そうして二度と、GBNに来ることはなく、一人でずっと、塞ぎ込んでいただろう。

そして。

「それだけじゃない。…何も知らないまま、俺のために伝える言葉をずっと考えてくれていたことや、お前がその言葉を選んだ理由を伝えてくれたことも…」

少し、大袈裟かもしれないが。

「俺はあの日、お前がくれた全ての言葉に、救われたんだよ」

こんな俺にも、待っていてくれる人がいた。

その事実が、どれほどに俺を、安心させてくれたことか。

「リナリア」

今一度その名を呼び、話を戻す。

「この数日間、俺はずっと考えてた。…お前はエルダイバーになるべきなのか、そうじゃないのか」

モビルドールが少し動いた。

リナリアが、心構えをしたかのように。

「で、一つの答えが出た」

深呼吸をしてから、伝える。

「そんなこと、どうでもいい!」

そう。

どうでもいいんだ、そんなことは。

『…………えっ……?』

リナリアが驚いている。

余程想定外の言葉だったのだろうか。

「だって、仮にお前がエルダイバーになったとしても、俺は元々お前のことをエルダイバーだと思ってたわけで」

最初からずっと、俺たちはそうやって過ごしてきたんだ。

「一番大切なことさえ何も変わらなければ、お前がエルダイバーなるかどうかなんて、俺にとっちゃ、どっちでもいいんだよ」

『えっと…』

先程までの激しい口調は何処へやら、リナリアは困惑したかのような声をしている。

『わ、わたし、本当はエルダイバーじゃないんだよ? だからエルダイバーになろうとしてて…』

「いや、だからどっちでもいいんだって。そもそも俺は、お前がエルダイバーだから一緒にいるわけじゃないし」

なんで答えるが、リナリアはまだピンとこない様子だ。

『で、でもじゃあ、なんでここに来たの? わたしを現実世界に戻そうとしてたんじゃあ…』

「違うって。最初に言ったじゃないか。俺はお前と話をしに来たんだよ」

『はなし…って、まさか、これが…?』

これ、とはご挨拶じゃないか。

「そうだ。お前の言葉が聞きたかったのと、お前に伝えなきゃいけないと思うことがあった。だから来た」

これでも結構恥ずかしいことを言ったんだ。それなりに覚悟を決めて来ているつもりだったが…。

『で、でも、そんな、…じゃあ、何で…あれっ?』

リナリアは、まだ困惑している。

「繰り返すようで悪いんだが、俺は一番大切なことが変わらないのなら、お前がエルダイバーになろうがなるまいが、どうでもいい。…ここまで、わかるか?」

復唱して確認する。

『…いちばんたいせつなこと…?』

「そう。それをお前に伝えたくて、お前にわかってほしくて、だからここまで来たんだよ」

それ以上の事は、後で考える。

ロコモにもちゃんとそう言って、ここに来た。

『じゃあ、その、一番大切なことって…?』

…いや、あのな。

「さっき、俺はお前に救われた、って話、しただろ。…それは、わかってくれたか?」

察してくれ。そう思って聞き返したが。

『うん。…でも、えっと、それが『大切なこと』と、関係あるの?』

…ダメだ。わかってもらえていない。

「…ああ、クソッ、察しが悪いな…」

恥ずかしいが、しかたない。

こうなったら、はっきり言ってやる。

「リナリア!」

思わず大声が出てしまった。

『は、はいっ!』

つられて彼女も、大声で返事をくれる。

何だか余計に緊張するが…言うしかあるまい。

「俺はお前に救われて、お前のそばにいたくて。そんな俺にお前は、俺と一緒で嬉しい、って言ってくれて、俺はそれも嬉しくて…」

言い淀んでしまったので、

「だから、俺はッ!」

言い直す。

「俺は! お前と一緒にいたいッ!」

エルダイバーだろうが、そうじゃなかろうが。

「俺はお前に、俺のそばにいてほしい!」

ただ、それだけのこと。

「それが、俺にとっては一番大切なことなんだよ!」

強く、言い切る。

『ジン…』

リナリアが、俺の名を呼ぶ。

『嬉しいな…。わたし、そこまでジンに、大切に思われてたなんて…』

眼前のモビルドールが、姿を変える。

『でも…わたし、ホントはただ、ジンに甘えてただけなの』

それは球体に集約して。

『ジンに甘えて、頼って、縋って…。あなたを盾にして、ずっと逃げてた…』

その中から、少女の姿が現れる。

『ジンが、歩み寄ってくれたから。手を差し伸べてくれたから…』

見知った姿だ。

何度も、何度も共に過ごした。

『だからわたしは、それを失いたくなくて、あなたを思ってる、みたいな言葉を掛けて…』

己をエルダイバーだと名乗り、俺の前に現れた時と、変わらない姿。

『それが、ジンにとって嬉しいものになっただけ。…ぐうぜん、たまたま…なの』

リナリア。

「わたしは、あなたを利用しただけ…」

その表情は、困惑に満ちていて。

「わたし自身のために、あなたの近くにいただけなの」

…違う。

「だからわたしは、あなたのそばにいる資格なんてない」

そうじゃない。

そんなことない。

「だから、わたしは…」

ああ、もう!

「うるせぇ!」

思わず、俺はジェマイユから飛び出した。

「確かに、俺がお前に救われたのは偶然かもしれない。お前にとって俺は、ただ都合の良い存在だっただけかもしれない。…けどな、そんなことはどうでもいいんだ!」

下手に理由や根拠を探すから、ややこしくなるんだ。

大切なのは、そんなことじゃない。

「俺はお前に救われた! お前がいたから、今、俺はここにいる!」

確かなのは、俺の気持ちは最初から変わっていないということ。

「俺はこれからも、お前にそばにいてほしいんだよ!」

何も変わらないんだ。

初めて喧嘩して、仲直りした時からずっと。

「理屈や正論なんてどうでもいい! 俺はお前と一緒にいたい! この気持ちだけが、今の俺の全部なんだよ!」

俺は両腕を、リナリアに伸ばした。

「だから、来いッ! リナリア!」

叫ぶ。

「これからも、俺と一緒に居てくれッ!」

真っ直ぐに彼女を見つめる。

リナリアは、俺の言葉に頷いて。

「…うん」

涙を流しながら。

「うん…ッ!」

この腕の中に、飛び込んだ。

 

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