ガンダムビルドダイバーズ外伝 〜方舟の少女〜   作:楽雁つばさ

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最終話「あなたといっしょにいたいから」

数分くらい、リナリアはただ、俺の腕の中に居た。

やがて、その顔を上げて、俺を見る。

「…わたしね、リアルの世界では、いじめられているの」

すごく辛そうに、そんな言葉を紡いだ。

「…言いたくないことなら。無理に言わなくていいぞ」

そう言ってあげると、リナリアは苦笑する。

「ジン、前にもそう言ってくれたよね」

…そうだったな。

「でも、聞いてほしいの。…ジンに知ってもらいたい。…ジンになら、きっと全部、言えるから」

リナリアはそう答えて、さらに言葉を続けた。

それは、とても歯切れの悪い話で。

彼女自身、上手くまとめられないでいた。

それでも、全部を伝えようとするリナリアは、とても一生懸命で。

俺は、理解に努めた。

 

 

リナリアの家庭は裕福で、とても大切に育てられていた。

新しいもの、流行りの物には必ず触れられる。

同年代の子供達が憧れるような高価な物も、ほとんど買い与えられる。

そんな恵まれた存在を、誰もが最初は羨んだ。

しかし、それもしばらくすると、嫉みに変わっていった。

皮肉なことに、リナリアが恵まれていることが、リナリアと周りの子供達との壁を、作ってしまった。

 

リナリアは、誰にも構ってもらえず、寂しい日々を送っていた。

だからこそ、リナリアは人一倍努力した。

頑張ったら褒めてもらえる。きっとみんなからも頼られる、素敵な存在になれる。

そう思って努力した彼女は、勉強もスポーツも上達し、その才を発揮していった。

 

しかし、現実はそんなに甘くなかった。

リナリアが頑張れば頑張るほど、その実力が、大人たちに認められれば認められるほど、周りの子供たちは、リナリアを憎むようになっていった。

どんな事をしても、リナリアには敵わない。

そんな状況は、リナリアを孤立させてしまっていた。

 

そうして、いつからか。

リナリアは学校で、いじめられるようになっていた。

 

やがて、彼女は今の病気にかかった。

学校にも通えなくなり、病院で静かな時を過ごすだけの日々になった。

けれど彼女は、それが嬉しかった。

理由はどうあれ、リナリアはいじめから解放されたのだから。

 

その後、GBNとシナトについての話を聞いて。

リナリアはシナトを使い、GBNで遊ぶようになった。

そこはとても自由な世界だ。

生まれも育ちも関係ない。

ただ、個々の「好き」を表現し合い、競い合い、認め合う世界。

「好き」という気持ちさえあれば、何でも出来る。

それ以外のことは関係なく、誰も興味を持たない。

そんな魅力的な「別の世界」に、リナリアは完全に没頭した。

 

でも。

いくら世界が違っていても、別人になれるわけではない。

それまでずっといじめられていた彼女はもう、どんな言葉で人と接するのが正しいのか、わからなくなっていた。

羨まれ、妬まれ、憎まれて。

何をしても、否定され続けて来たことで。

リナリアはもう、人を信じる事が、できなくなっていた。

 

それでも。

GBNは、身も心もすり減ってしまった現実世界よりは、はるかに自由だった。

だからリナリアは、GBNにこだわった。

こちらにいれば、いつかは誰かと仲良くなれる。

そう、信じて。

 

 

「最初はね、なんとなく、だったの」

リナリアはそう言って、ジェマイユを見上げる。

「ジンの、クラフタルシステムを見た時に、直感で思ったの。…このガンプラと、そのダイバーと一緒にいたら、わたしはもっと自由になれるんじゃないかな、って。…それが、わたしがジンに近づいた、最初の理由」

最初…。

初めて会った時のことか。

「でもわたし、自分のことをうまく話せなくて…。普通の人と違う自分を、どんな風に説明しようかなって…。それでとっさに思いついたのが、『エルダイバー』っていう言葉だったの」

…ふむ。

「じゃあ、俺にエルダイバーだと名乗ったあの時こそまさに、リナリアにとって初めて、エルダイバーという存在を意識し始めた時だったわけか…」

なんて言いつつ、俺も考えてみる。

確かに、最初の頃は、普通のダイバーより少し感覚的な発言が多い程度だった。

おそらくそれは、エルダイバーだからではなく、シナトによる特殊な環境が成せた事、なのだろう。

「…じゃあ、リナリア。…お前が『本当のエルダイバーになりかけている』のは、いつからなんだ?」

問いかけると、リナリアは首を横に振る。

「わたしも、どこまでがシナトの性能なのか、わからないから。…でも」

と言って、ジェマイユに手を伸ばした。

「わたし自身がそれに気がついたのは、あの日、ジンと久しぶりに会って、このガンプラに触れた時、かな」

…そういえば、あの時のリナリアは『初めてできた』と言っていた。

ジェマイユに触れたまま、リナリアは俺に向き直る。

「あれ? このガンプラ、見た目は似てるけど、いままでのジンのガンプラと全然違う…」

…やはり、触れるだけでわかるのか。

「…ああ。それはロコモが、俺のために用意してくれたのさ」

「ロコモが?」

「俺のガンプラじゃ、バグを促進しかねいからな。話をする時間を少しでも作ろうと…」

と、説明していて、思い出す。

「そうだな。時間がないんだ。…決めなきゃな」

俺は改めて、リナリアに向き直った。

「さて、どうする? リナリア。…お前本当に、このままエルダイバーになるつもりか?」

その問いに、リナリアは少し考えてから、

「…ねぇ、ジン」

俺の手を握った。

「あっちの世界のわたしはね、みんなに嫌われてるし、病気にもかかってるの」

その手を見つめる目が潤んで。

「あっちの世界は、わたしにとって良いことなんて、何もない。…だからわたしは、自分が、エルダイバーに近付いてることを知った時、このままそうなってしまうことを望んだの。…でも」

涙が溢れた。

「なんでかな…。ジンがそばに居てくれて、ジンの手を握ったら…。今になって、すっごく、怖くなってきちゃった…っ」

声と共に、その体も震え始める。

「この前、わたしがジンのガンプラを借りたあとも、ね」

…ブレイクブーストで、暴走した時のことか。

「あの時、わたしの意識が、この世界のシステムデータに飲み込まれていったの。わたしという存在、わたしの意思の全部が、大きな大きな世界の中に、散り散りに飛ばされそうになって…。すごく、こわかった…」

あの時も、悪い夢を見た、って、言ってたな。

「現実に戻ってもいい事なんてないのに、エルダイバーになっちゃうのも、怖いよ…」

…そう、だろうな。

こちらの世界がどんなに美しくても、自分が自分でなくなることが、怖くないわけがない。

「ジン…。わたし…どうしたら、いいのかな…?」

だからきっと、本当にわからないのだろう。

自分がどうしたいのか。

どうしたらいいのか。

どうするのが、本当にいいことなのか。

「…そうだな…」

ずっと心の奥に閉じ込めていた、リナリア自身の本音。

それが今になって出てきた、ということは、その理由はやはり、俺にあるのだろう。

俺がこうして、リナリアに一緒にいたいと伝えたから。

リナリアは、その言葉に応えてくれた。

だから今、俺を信頼して、不安を教えてくれているんだ。

「あのさ、実は俺、お前が入院している病院まで、見舞いに行った事があるんだ。だから、リアルのお前に会いに行くまでの道のりも、だいたい把握してるんだけどさ」

…こういう時、気の利いた答えが言えたらいいんだけどな。

俺はそんなに器用じゃない。

「道中に、評判の良いケーキ屋があるんだが、店の雰囲気がこう…可愛らしいというか。流石に男一人で入るのは、気まずいんだ」

リナリアの目を見つめて。

「お前と一緒なら、行けそうな気もする」

繋がれたままの手を、優しく握り返す。

「だから、俺とケーキ、食べに行かないか?」

それは、とてもささやかな誘いかもしれない。

リナリアを待ち受ける現実の辛さに比べたら、ほんの些細な幸せなのかもしれない。

でも。

「…あのね、ジン」

リナリアは、涙を拭う。

「わたし、病気だから…、きっと、好きな物を食べられるようになるまで、時間がかかると思うの…」

一度俺を見上げて、でもまた、涙を浮かべて。

「外に出られるようになるのも、お店で食事ができるようになるのも、きっと、もっとたくさんの、時間がかかると思う。…だから」

また、涙を拭って。

「それまで、待っててくれる…?」

改めて、俺を見上げる。

「それまでずっと、わたしのそばに、居てくれる…?」

…そうだな。

現実に帰ったとしても、すぐに普通のことができるようになるわけじゃないよな。

「わかった。待つよ。約束だ」

俺は、リナリアに小指を向けた。

「その時が来るまで、俺はお前のそばにいる」

それは、いつかのゆびきりと同じ言葉。

けれど、何も知らなかったあの時と、今は違う。

「勿論、それからもずっと、な」

だから、そう付け足した。

「…ありがとう、ジン」

リナリアは俺の指に、自分の指を絡める。

「じゃあ、やくそく」

そして。

「わたしも、現実の世界、頑張ってみる」

笑ってくれた。

 

 

程なくして。

俺たちは、いつのまにか地震が起きていることに気がついた。

…いや、地震というか、今立っている黒い雲が揺れている、というのか。

「…何が起こってるんだ…?」

辺りを見渡すと、機会じかけの巨大な花が、雲の中から浮き上がっている。

「あれが原因なのか…?」

俺の視線を追う形で、リナリアもそれに気がついた。

「ガトレアが、変わろうとしてる…」

「…ガトレア? アレのことか?」

俺が花を指さすと、リナリアは頷く。

名前があったのか。

「あれは、バグの集合体みたいなもの。わたしは、あれ招かれて、あの中にいた…」

…なんだかよくわからないが、確かに、ガトレアと呼ばれたその花は、中心の建造物群の姿を変え始めている。

「…わたしが、エルダイバーになってもいい、なりたいって思ったから、わたしをエルダイバーにしようとするバクが、わたしと一つになって、実体になったもの。…わたしはあの中で、モビルドールのモンタージュを貰って、それを使ってジンを追い出そうとした…んだけど…」

そのリナリアは、エルダイバーになることを拒み、現実に帰ると決めてくれた。

つまり…もしかして。

「対象を失ったから、バグが暴走し始めているのか…?」

俺の推測が言葉になった時、ガトレアは、その花柱と花糸を、人の形に変え終わった。

よく見れば、それは様々なガンプラのパーツを、強引に接着したかのような姿をしている。

花弁が一度閉じかけて、さらに大きく広がると、その動きに乗って、ガトレアは大きく上昇した。

まるで、花弁を羽として空を飛ぶかのように。

そうして俺達を見下ろすと、やがてその羽を輝かせる。

…なんか、ヤバそうだぞ。

「リナリア!」

直感的に危機を感じた俺は、リナリアの手を引いて、ジェマイユの中に戻った。

すぐさまプロテクションを前面に展開すると、ガトレアの光は線となって、こちらに降り注ぐ。

プロテクションに衝突。すると…、

「な、なんだ!?」

プロテクションは、その形を保ったまま小さくなり、やがてコロリと暗い雲の上に落ちた。

その様子はさながら、リアルでガンプラのパーツを落とした時のようで。

「まさか…!」

などと言っているうちに、また新たな光の線が伸びてきた。

「ジャベリンクラフト!」

ビームサーベルを引き抜き、ビームジャベリンを作り出して、投げる。

それは光の線に触れると、収縮化して、落ちた。

やはりこれも、リアルでの「ガンプラのパーツ」のように。

「あの光の線、ガンプラを「リアルでの姿」にすることができるのか…!?」

GBNでは実物のように扱えるガンプラを、ただのプラモデルとしての姿に戻してしまう。

言うなれば、ガンプラの『無力化』といったところだろう。

「あんなものにジェマイユ本体が当たったら、俺たちはここから出られなくなるんじゃないか…!?」

逃げるしかない。そう思って、機体をガトレアから遠ざける。

「ライフルで牽制射撃を…」

と言いながら、機体の武装スロットを確認したが、なんてことだ。ライフルのデータがない。

流石のロコモも、完全に再現できたわけではなかったのか…。

「そうだ、ロコモといえば…!」

考えていて思い出す。アレがあった。

アイテムリストを開く。

しかし、それはアラート表示によって遮られた。

「ジン、上!」

リナリアの声。確認すると。真上からガトレアの光の線が近づいている。

「うおっ!」

緊急回避。なんとか避けられたが、光の線は次から次へとこちらに伸びていた。

まるで連続射撃。回避するのが精一杯だ。

「リナリア!」

俺は、開いたままのアイテムリストをリナリアに向けた。

「中に『ロコモブザー』ってのがあるはずだ。それを探して、取り出してくれ!」

言いながらも、機体の回避運動を続ける。

光の線は休みなく振り下ろされ続けている。

「え、えっと…、あ、あったよ!」

取り出しに成功した…らしいが、確認している余裕はない。

「そのブザーを押してくれ! ロコモが来てくれるハズだ!」

「う、うん、わかった!」

リナリアの返事と共に、

『ぽちっ!』

妙にわざとらしい、ロコモの声が鳴る。

それは…押した、って事でいいんだよな…?

不安になること数秒、やがて眼前の空間が、強引に捻じ曲げられた。

穴のようなものが出来て、中に宇宙空間が見えた…かと思えば、

「うおっ!?」

そこから、大量のオッゴとボールが流れ込んできた。

急停止して衝突を避ける。

オッゴとボールは、勢いよくこちらの空間内に広がった。

そのうちの一部は、ガトレアの光の線に当たって、無力化されていく。

「何が起きた!?」

「何よコレぇ!?」

そして、オッゴとボールに流されるように、見覚えのあるガンプラが飛び込んできた。

Gアルケインと高機動型ザクのカスタム機。

ミカと、ラグザだ。

更に。

「よよーっ!! ボクの、ボクの大列車ホウキ星があーっ!?」

なんか、クタン参型の改造機と、でかいコンテナと、よくわからないモビルアーマーが見えて…穴に詰まった。

かと思えば、クタン参型だけが取り込まれ、他の2機は更に大きなものに押しのけられる。

なんだアレ。宇宙戦艦か…?

横たわった状態で空間の穴にひっかかり、艦橋だけがこちらに入り込んでいる。

「って、ジンくん!? もしかしてブザーを使ったのですか!?」

クタンからロコモの声がする。

あそこにロコモがいるのか。

「せっかく時間稼ぎしてあげてたのに、これじゃみんな呼び込んだみたいになっちゃったのですよ!?」

なんで叫ぶが、その間に、俺たちの間にあったオッゴが、光の線に焼かれて無力化される。

「…って、ええ!? なんですか!? あのでっかいガンプラ!?」

驚くロコモ。

「コイツ、さっきから変な光撃ってくるんだけど!?」

怒り散らすミカ。

「どういうことだ!? 何故あの光に当たったガンプラたちが、ただのプラモに戻っていくんだ!?」

慌てるラグザ。

「ジンさん、そこに居るのですか!? ナライア様は!?」

艦橋から声を響かせる、ケイ。

「ジンくん! これ、どういう状況なんですか!?」

…いや、それは俺も聞きたい。

向こうで何があったのか知らないが、どうやらかなりの取り込み中だったものを、強制的に呼び出してしまったらしい。

現れた四人が、それぞれ混乱している。

誰に何から説明するべきか。そう考える俺の横で、

「みんな!」

リナリアが、叫んだ。

「わたし、ジンと一緒にいるよ!」

ジェマイユを操作する俺の手に、彼女は自分の手を乗せる。

そうして、ジェマイユの腕をガトレアに向けた。

「アレは、わたしをエルダイバーにしようとするバグの塊で、アレがある限り、わたしは現実世界に戻れないの! だから!」

リナリアは、俺に一度笑ってみせる。

「みんな、お願い! アレ、やっつけて!」

ただ、それだけの言葉。

それが。

「…わかったのですよ!」

「オーケー!」

「アレを倒せば良いんだな?」

「お任せ下さい、ナライア様!」

この場にいる全員の意識を、ガトレアに向けさせた。

「リナリア、お前って奴は…」

俺は驚きつつも、納得する。

そうだ。

今ここに居る全員、立場や理由が違っても。

みんな、これまでずっとリナリアのために戦ってきたんだ。

リナリア自身の言葉で、動かないわけがない。

「…よし、みんな、やるぞ!」

俺だって、その一人だからな。

 

 

「ジンくん、コレを!」

ロコモに呼ばれて振り返ると、クタンから滑空砲が撃たれた。

それに被弾すると、ジェマイユは、オリジナルのクリスタイル・オーガンダムの換装形態「Ver.SH」の姿に変わる。

こっちも用意してたのか。

「助かった。これでまともに戦える!」

再現された融合粒子弾ライフルを構える。

その間にも、ミカとラグザが先行していた。

「このォ!」

アルケインの対艦ライフルが、ガトレアの右の羽を撃ち抜く。

「そこだッ!」

大きく怯んだその隙を突いて、ザクのバズーカが火を吹いた。

ガトレアの左足に連続で命中し、破壊する。

これに対して、ガトレアは両腕を左右に広げた。

肘から先が分離し、それぞれがザクとGアルケインに迫る。

その動きはジオングの腕のようだが、大きさが桁違いだ。

指から放たれるメガ粒子砲は、ザクの右腕と左足、Gアルケインの左腕と両翼を焼き尽くした。

「ぐあああっ!」

「嘘でしょッ!?」

一撃で大破まで追い詰められた二人。

しかし。

「露払いご苦労、なのですよ!」

その隙を突いたのは、ロコモだった。

「行くですよ! 土星エンジン、フルパワー!」

クタンが大きく開いたかと思えば、信じられないスピードで、ヅダが飛び出している。

ノズルから溢れ出す青白い光は、やがて機体の全てを包み込んだ。

アレじゃ自爆特攻みたいなものじゃないか、そう思ったのも束の間、よくみるとヅダの周りには、光の円のようなものが浮かんでいる。

その姿は、まさに『土星』。

あの円は…サイコフレームだろうか。

円の内側に居るヅダの光は、サイコフレームに吸収されている。

臨界に達したエネルギーを吸い取り、外側に増幅して放出しているんだ。

なんで無茶な改造を…。

「食らうのですよ! ヅダの出力と! サイコシャードのオカルトパワー! 相乗効果でスーパー威力のォ…必殺!『マルノコ・オブ・サターン』!!」

発言と同時にサイコフレームが高速回転し、ガトレアに襲いかかる。

まさに丸鋸を押し付けられたかのように、ガトレアは火花を散らして削られ始めた。

「このまま削り切ってやるのですよ!」

と、ロコモが言った直後、ガトレアは残った羽から光の線を撃ち、ヅダに当てる。

「よよっ!?」

ヅダはどんどん縮小し、やがて完全に無力化された。

「そんなァ! そんなのってないのですよぉー!」

弾き出されたロコモは、傘のようなものを持って、ふわふわと降下してくる。

一方で、ガトレアにもダメージはあったようだ。

身動きが鈍い。

「今だ!」

俺はロコモの残したクタンに近づいた。

両端の巨大なアームが、ロコモが飛び出した衝撃で切り離されている。

それを拾い上げ、ガトレアに向けて放り投げた。

対して、ガトレアは胴体から複数の銃口を露出させ、それらからメガ粒子砲を斉射。

投げたクタンのパーツは、跡形もなく砕かれてしまう。

が。

「うおおおおっ!」

実は、その影に隠れて、俺も接近していた。

クタンのパーツが砕かれた隙に、融合粒子弾を構え、連射する。

狙ったのは、ロコモが付けた傷。

数発逸れたが、半数以上がヒットした。

ガトレアは大きく身を反り、ミカのGアルケイン、ラグザのザクを狙っていた腕を呼び戻して、ロコモが付けた傷元に手を当てていた。

まるで、傷を庇うかのように。

「…よし、効いてる!」

確認した俺に、

「どいてください、ジンさん!」

背後から届く通信。

振り向いた先には、先ほど開いた空間の穴がある。

宇宙戦艦が引っかかっていたそこには、2本のカタパルトデッキが強引に押し込まれ、中央の砲身をこちらに向けていた。

ものすごい質量の光が、その中心に集まっている。

言われた通り、俺はその斜線上からずれた。

「フォトンブラスターキャノン、発射ァッ!」

途端、巨大な砲撃が放たれて、ガトレアに当たる。

あまりにも大きなその砲撃は、ガトレアを大きく吹き飛ばした。

全身を焼き尽くす巨大な砲撃を浴びても尚、ガトレアはまだ、ゆっくりと動いている。

まだ足りていないようだが、相当効いているハズだ。

あと一撃、大きな技を当てれば…!

「トランザム!」

それが、できる。

俺の、必殺技なら!

「…オーバーフロー!」

ジェマイユは融合粒子弾ライフルを頭上に構え、それを起点とし、高速回転を始めた。

更に左腕の融合粒子ディフェンサーを展開し、オーバーフローで溢れ出した融合粒子が、回転の軌跡で一つに繋がり、幕のように、壁のように重なっていく。

やがてジェマイユは、巨大な円錐のような形になった。

「必殺!」

円錐となったジェマイユで、きりもみを描いてから、真っ直ぐにガトレアへと向かう。

「ダイナミックリスタイル!」

狙うは、ガトレアの傷口。

大きく弱ったその体は、抵抗することもできず。

ジェマイユは、ガトレアを貫いた。

やがて、謎の空間も崩れ始め、それを埋めるように、宇宙エリアが広がり始める。

「…やった、んだな…」

「…うん」

隣に居るリナリアは、崩れ行くガトレアを見つめている。

「今までありがとう、ガトレア」

その言葉を最後にかけられて。

ガトレアは、完全に消滅した。

 

 

その後、お互いに話すべきことを話し、状況を充分に理解して。

俺は、リナリアの身柄をケイに託した。

彼女自身も、それを決意していた。

事態は一刻を争う。俺は最後に、もう一つだけ約束をして、リナリアと別れた。

次に会うのは、リアルの世界で、と。

 

 

それから、一ヶ月くらいが経過して。

「…で、結局ボクらがケイたちと戦った意味って、何だったんですよ?」

ここは、グレーヒー・リボンの、クッタロの屋台付近。

共に一服をしていたロコモが、俺にそんなことを言った。

「なんだ、急に?」

見ると、彼女は難しい顔をしている。

「だって、そうでしょう? ボクらはずっと、リナリアちゃんがケイたちを拒むから、ケイたちと敵対し続けたのに、結果的にケイの意思だけが達成された。…ボクたちは、なんの意味もなく戦っていたことになりませんか?」

それが不服なのか。

…まぁ確かに、リナリアが出した選択と、その結果を考えれば、それまで俺たちがしていたことは、単なる邪魔でしかなかったのかもしれない。

「…そうじゃない、とは言い切れないけどな」

そうだ、とも言えない。

「俺は、良かったと思ってる。リナリアを守って戦った意味は、確かにあった、ってな」

そう答える俺には、確信があった。

「…どうしてですよ?」

「簡単な話さ」

俺と出会う前のリナリアは、リアルに戻ることを、怯えるくらいに嫌がっていた。

でも、ガトレアを倒してケイについて行った時のリナリアは、もう覚悟を決めていた。

「これまで、あいつは俺といろんなところに行って、いろんな戦いをしてきた。…俺の過去に触れたり、お前の優しさに触れたり。…そうやってリナリアは、この世界でいろんなことを経験した」

だから、あの時はもう、震えていなかった。

「成長したんだ、リナリアは。俺たちがあいつを守って過ごした時間が、あいつに覚悟を決めさせた。リアルの世界に向き合う勇気を与えた。…俺の戦いは、その時間を作るためにあったのさ」

そう。

俺の戦いの意味は、そこにあったんだ。

「…なぁんだ。わかってたんですね。ジンくんも」

と、ロコモは笑う。

「なんだ? それじゃ、俺を試したかのような言い草じゃないか」

「その通りですよ。ボクは、ジンくんが結果だけを意識して、自分が戦っていた意味がわからなくなっているんじゃないかって思ったから、わざと言わせたのですよ」

…マジかよ。

「食えない奴だな、お前は」

「心配してあげたのですよ?」

「余計なお世話だ」

少し苛立つが、まぁいい。

気を落ち着かせるために、俺もココアに口を付ける。

「…うん、やっぱり、味を感じないな…」

元より、俺は味覚までフィードバックされないはずだった。

そういう意味では、これで正しいのだが…。

「前に来た時は、味を感じられたんだが…」

「うん? ああ、それは多分、バグの影響なのですよ」

と、ロコモ。

「バグって、リナリアをエルダイバーにしようとしていた、ガトレアのことか?」

「もちろん。…あのバグは、もともとジンくんのクラフタルシステムと、リナリアちゃんのシナトの相乗効果で引き起こされたものですからね。その影響がリナリアちゃんに『だけ』現れていた、とは限らないでしょう?」

…言われてみれば、確かにそうだ。

「…じゃあ、あのまま放っておいたら、俺もエルダイバーになったかもしれない…のか?」

「いやいや。リナリアちゃんがクラフタルシステムの近くに居ても、ジンくんはシナトでダイブしてるわけじゃないので。…なんていうか『余波』みたいなものだと思うのですよー」

余波…ねぇ。

まぁ、それでクッタロのチョコバナナが本当に美味いと知れたのは、良いことだったのかもしれないな。

「念のため、あとでボクがジンくんのダイバーデータを検査しておくのですよ」

「…いいのか?」

「はいですよ。…どっちみち、ボクの立場上、いずれ今回の件に関わったダイバーと、そのガンプラの検査をしろ、っていう命令が来るでしょうからね。厄介事は先に片付けておきたいのですよ」

なんて言いながら、ロコモはため息をつく。

よくわからないが、彼女も大変なのだろう。

俺のダイバーデータか…。

「…そういえば、まだジェマイユのデータを返してなかったな」

そう思い、俺は自分のステータスを開こうとして。

「…あ、やばい」

時計が目に入った。思ったより時間が進んでいる。

「すまん、ロコモ。そろそろリアルに帰るよ」

約束の時間が近い。

「またですか? 最近付き合い悪いですよ。ジンくん」

「前にも言ったじゃないか。リアルが色々と忙しいんだ」

そんな風に答えつつ、席を立つ。

「で、今日は何の約束ですか?」

俺はログアウト画面を開き、

「一番大切なヤツ、さ」

そう答えて、GBNを出た。

…結局、ジェマイユは返し忘れた。

 

 

それから、数十分後。

やがて、俺はリナリアの病室に着いた。

「やぁ。久しぶりだな、リナリア」

声をかけると、

「…ジン?」

彼女は不思議そうに、俺を見る。

「…びっくりした。向こうの世界と、あんまり変わらないんだね」

…ああ、そうか。

リナリアにとっては、これがリアルでの初対面だったな。

「もっとイケメンかと思ったか?」

つい、軽い皮肉を返してしまうが、

「ううん、むしろ安心しちゃった」

リナリアは微笑んでくれる。

「ジンは、ジンなんだね。…向こうでも。こっちでも」

「…そうかもな」

ダイバールックを派手に弄っていないだけなのだが、まぁ…それは良しとして。

「…それで、その…どうなんだ? 病気のほうは」

気の進まない問いだが、聞かないわけにはいかない。

リナリアは少し俯いた。

「…実は、ちょっと前に、大きな手術を受けたの。…経過を見ながら、まだ何回か、手術を受けなきゃいけないみたい」

「やっぱり、相当悪いのか」

「うん。…上手くいっても、完治までは一年くらいかかるって、言われちゃった…」

一年…か。

思ったより長いな…。

「…そりゃあ、一ヶ月も面会謝絶なわけだ…」

思わず呟いた俺。

「あっ、それは違うの」

これに対して、リナリアは、俺に手を伸ばした。

「ほら、見て」

言われた通り、俺は彼女の手を見つめる。

とても細い腕だ。真っ白で、毛も生えていない。

それは綺麗というより、生気を感じられないものだ。

「ずっと寝たきりだったから、筋肉が衰退しているんだって。…だから、こんな姿をジンに見せたくなくて…」

…そういうことだったのか。

俺は前に来た時も見たから、あまり気にならない。

「なんだ、そんなことを気にしてたのか」

だから、そんな風に軽く言ってしまう。

「気にするよ。…わたしだって、女の子だもん」

リナリアは、その細すぎる手を、自分の胸に当てた。

「…本当はね、もうちょっと良くなってから、ジンに会おうと思ったんだけど…。やっぱり、不安になっちゃって…」

そして、その手を俺に伸ばした。

「ねぇジン、わたしのこと、本当に待っててくれる…?」

思うように力が入らないのか、伸びきる前に垂れ下がってしまう。

「本当に、わたしのそばに、いてくれる?」

それでも、もう一度。

諦めずに、伸ばされた手を、

「当たり前だ」

俺は、しっかりと握る。

「約束したじゃないか。大丈夫、ずっとそばにいる」

俺だって、この一ヶ月、何もしていなかったわけじゃない。

リナリアを現実に戻せば、全てが終わると思っていたわけじゃ、ない。

「これを見てくれ」

俺はリナリアに見えるように、一枚の紙を掲げた。

「これは…?」

それは、アパートの情報をプリントアウトした紙。

「ちょっと古い建物だが、景観は悪くない。自転車があれば、この病院から10分前後の距離なんだ。スーパーはちょっと遠いけど、近くにコンビニもある…」

言いながら、さらに一つのものを取り出した。

それは、ストラップがついた鍵。

「俺は一週間前から、ここに住んでる」

そう。

この一ヶ月で、俺の生活環境は大きく変わった。

「仕事は、マエザキさん…ケイに紹介してもらってさ。…まぁ、なんて言うか」

リナリアの目を見て、微笑んでみせる。

「俺だって、何も考えずに『ずっとそばにいる』って言ったわけじゃない、ってことさ」

鍵と紙をテーブルに置いてから、改めてリナリアの手を握った。

「だから、安心してくれ。俺は本当に、お前のそばにいる。…お前のためになること、俺にできることなら、俺は何だってやってやるさ」

「ジン…。どうして、わたしのために、そこまで…」

どうして…か。

「言ったじゃないか」

その答え、今ならハッキリと言える。

「俺は、お前と一緒に居たいんだ」

下手な理屈や根拠なんて要らないんだ。

一番大切なことなら、尚更。

「…ありがとう、ジン。わたし、がんばるね」

リナリアは笑ってくれる。

「わたしも、あなたといっしょにいたいから」

それはとても、穏やかな笑顔だった。

 

 

 

こうして、俺の『リナリアを守るための戦い』は、幕を閉じた。

けれどまだ、戦いそのものが終わったわけじゃない。

俺たちの戦いは、これからも続いていく。

それは、この世界で生きていくための戦いだ。

 

それはきっと、とても辛いものになるだろう。

もしかしたら、一年では終わらないのかもしれない。

それでも。

リナリアが前を向くのなら。

俺が、そのための力になれるのなら。

俺はずっと、リナリアのそばに居続ける。

 

俺もリナリアも、もう、一人じゃない。

 

俺たちは、二人だ。

 

 

 

 

ーー 完 ーー

 

 

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