ガンダムビルドダイバーズ外伝 〜方舟の少女〜 作:楽雁つばさ
暗い天井。
遠くて、忙しない声。
わたしは、まだ、ここにいる。
ちがう。
わたしは、また、ここにいる。
ここにはいたくない。
わたしのいたい場所は、ここじゃない。
ここにわたしはいない。
わたしがいる意味はない。
だから、いきたい。
もどりたい。
あの世界に。
彼のいるところに。
エルダイバーを名乗る少女『リナリア』と出会ってから、数日が過ぎた。
ここは、とある非戦闘区域にある、小さなカフェの中。
ダイバー同士の交流が盛んに行われている場所だ。
俺は少し前から、この場所で、とある情報を探している。
「あっ、ジン!」
俺を呼ぶ声が聞こえたのは、そんな時だった。
「うん?」
声がしたほうを見ると、少し離れたところに、リナリアの姿が見える。
「やぁ、リナリア」
「えへへ、こんにちはっ」
俺が言葉を返すと、リナリアはこちらに歩み寄ってきた。
「ジン、それはなぁに?」
近くまで来ると、彼女は俺の持っているものを見る。
「これか? モカコーヒーだ」
「おいしい?」
「えっ? …いやぁ、どうだろうな」
いくら現実に近い仮想空間とはいえ、ここは所詮現実ではない。飲むという動作を取ることはできても、何の意味もなさないのだ。
俺のダイブ環境、つまり、リアルの世界からGBNに入るための機器や設備は、極めて簡素なもの。
そのためか、味覚情報までは、リアルの俺にはフィードバックされない。
その場に合わせたファッションアイテム、みたいな気持ちで持っていたのだ。
「うーん…小さい頃は苦くて飲めなかったけど…今なら飲めるかな…」
コーヒーをじっと見つめながら、そう言うリナリア。
「…飲んでみるか?」
そう聞いて差し出すと、頷いて受け取る。
少し見つめていたが、
「…えいっ」
思い切って、グイッと飲んだ。
「うわぁああ、にっがーい!」
ダメだったらしい。
「ははは、お前にはまだ早いって事さ」
笑いながら、残ったコーヒーを受け取る。
「ひどいよ、ジン。飲めって言ったのはジンじゃんかさ。…うぇえ…喉が気持ち悪い…」
「悪かったよ。…ちょっと待ってろ」
軽くパネルを操作して、アイテムリストから棒付きキャンディを取り出す。
ちなみにこれは、少し前のミッションバトルで、報酬として手に入れたもの。
「ほら、これで少しはマシになるだろ」
リナリアは俺の手から奪うように受け取り、口に入れる。
「むぅ…」
唸りながら、棒を持って口の中を行ったり来たりさせる。
そんな様子を尻目に、俺もコーヒーを飲んでみた。
…うん、やはり「飲む」という行為が出来ても、特に何かを感じることはない。
リナリアは現実のコーヒーであるかのような反応をしたが、やはりそれも、彼女がエルダイバーだから、なのだろう。
「ジンには、苦くないの?」
「そうだな、なんとも感じない」
こればかりは苦い苦くない以前の問題なのだが、それを言うのは少し野暮か。
「へぇ…。ジンって、大人なんだね」
そう言うリナリアも、ようやく苦味に慣れてきたのか、キャンディは口に加えたまま、その手だけを棒から離した。
そうして、カフェの中を見渡す。
様々な姿のダイバーが、それぞれ異なるカップを持ち、何かを飲んだり、会話したりしている。
それを、彼女はじっと見つめている。
「みんな、楽しそうだなぁ…」
そんな言葉が漏れた横顔は、何かを悟っているかのように見えた。
遠い世界を見つめるような、どこか大人びた視線。
それを見ていて、ふと思う。
「なぁ、リナリア」
「うん?」
振り向く彼女の口には、未だにキャンディの棒が付いている。
「お前、なんか…タバコふかしてる大人みたいだな」
場所の雰囲気も相まって、そう見えたのだろう。思わず口に出していた。
「へっ? …ふぅん、そっか…」
一度驚くリナリアだったが、ニヤリと笑ってキャンディを口から抜いた。
「ふーっ…」
舐めかけの部分に軽く息を吹いて、また口に戻す。
そしてまた抜き、一言。
「…『しゃばのくうきは、うまいぜよ』」
……。
「…どう? わたし、大人っぽい?」
……ッ!
「あははははははは!」
思わず笑ってしまった。
「なっ、なんだお前それッ、ぜよって、ぜよってなんだよ!あははははは!」
妙な土佐弁がツボに入ってしまう。
「しかも全ッ然大人っぽくないぞ! むしろ、キャンディだから子どもじゃないか!あははははは!」
おかしくて腹が割れそうだ。
「うっ、ひ、ひどいよ、ジン! わたし、ジンが大人みたいって言うから、乗ってあげたんじゃん!」
顔を真っ赤にして怒るリナリア。
「い、いや、悪い、ごめん、まさかそう来るとは思わなかったからッ、さ!」
そう言いつつ、とりあえず腹を抑える。
「はー、はー腹いてぇ、…ククッ」
一度視線を床に落として、呼吸を整えて、再び顔を上げる。
そこに、キャンディを加えたままのリナリアの顔が映る。
『しゃばのくうきは、うまいぜよ』
「ブフゥ!」
ダメだ、思い出してしまった。
「ッもう! ジンのバカ!」
リナリアはダンッと地団駄を踏んで、俺に踵を返した。
そのまま歩いてカフェから出ようとする。
「あっ、待てよリナリア! 悪かったって!」
慌てて追いかけ、その肩を掴んだ。
すると、彼女がこちらを振り向く。
…キャンディを咥えたまま。
「ぐふゥッ!」
ダメだ、また…!
「もう!もうもう!」
リナリアは俺の手を振りほどいて、
「ジンのバカ!ぼくねんじん!むしんけい!もう知らないもん! ばーかばーか!」
そんな捨てゼリフを残して、カフェを飛び出してしまった。
一人、取り残される俺。
そして冷静になり、ようやく気づいた。
周りの視線が集まっている。
さて、どうするか…。
…どうするもなにも、追いかけないとな。
こちらを見る多くの視線と向き合い、一人の男を探し出す。
「おじさん、お会計頼みますよ」
少し出遅れたが、俺もカフェを出た。
さて、リナリアはどこに行ったのか。フレンド画面からマップを開き、所在を確かめる。
…あまり遠くに行ったわけではないらしい。同じエリアの少し離れた場所で、止まっていた。
今回は完全に俺が悪い。ちゃんと謝ろう。
そう決めて、リナリアの元に向かう。
リナリアは、道の隅でうずくまっていた。
走って出て行ったから、先日のように疲れてしまったのだろう。
「悪かったよ、リナリア」
言いつつ、彼女の肩に軽く手を置く。
「…ジン…」
振り向いた彼女は、俺の手を振りほどいた。
「…なんで付いて来たの?」
睨みつけるような視線。
「なんで、って…」
思わず引き下がると、リナリアは立ち上がる。
「もう知らないって言ったじゃん! 付いて来ないでよ!」
彼女の突然の大声に、思わず耳を塞いだ。
まいったな…。思っていた以上に怒っている。
「そ、そんなこと言わないでくれよ。せっかくフレンドになったばかりじゃないか。…俺が悪かったよ。ごめんな」
頭を下げて謝るが、リナリアはそっぽを向いている。
「ふんっ! そうやってまた隙を探して、わたしのことバカにするつもりなんでしょ! そうはいかないんだから!」
言って、こちらに背を向けた。
「ちょっ、待ってくれよ!」
今一度その肩を掴んだが、
「離してっ!」
「うわっ!」
思い切り振りほどかれ、体勢を崩した俺は地面に倒れた。
「くっ…何すんだよ!」
思わずこちらも声を荒げた。
「そ、そっちが悪いんじゃん! ばーか!」
リナリアはべーっと舌を出して見せてきた。
…流石にこっちも、腹が立ってきたぞ。
「お前なぁ…人が謝ってんのに、その態度はないんじゃないか?」
すこしからかっただけじゃないか。
「なにそれ! 謝ってるジンの方がえらいみたいじゃん! そっちが先にバカにしたんでしょ!」
「ちょっと笑っただけだろうが」
「ちょっとでも、バカにしたのは本当じゃん!ちゃんと謝ってよ!」
「謝ったじゃないか。ごめんって」
「そんな態度じゃ信用できないもん! ちゃんと頭下げてよ!」
「いや、さっきも下げたじゃないか」
「知らないもん。みてなかったし。…ほら、今ここでちゃんと頭下げて見せてよ!」
…あんまり調子に乗るなよ。
「わかったよ! そらっ!」
自分の膝に鼻をぶつけるくらいの勢いで、思いっきり頭をさげてやった。
「わぁっ!」
リナリアは驚いて、尻餅をついてしまう。
グスッ!
…なんか、随分鈍い音がしたぞ。
「っくぅ! …うぅ…っ」
うめき声のようなものを上げる彼女の下には、大きめの石がある。
打ち所が悪かったのか。
思わず謝ろうとしたが、
「もうっ!」
リナリアが大声を上げて遮った。
「もう…やだ…」
その目がすこし潤んで。
「もう…ジンなんて…知らないもん…」
フッ、と、その姿が揺らいだ。
そのエフェクトは、通常のダイバーがログアウトを行う時のものと同じで。
「ま、待てよ、リナリア!」
呼び止めようとしたのも遅く、リナリアの姿は消えてしまった。
「…行っちまったか…」
流石に、ログアウトしたダイバーの行方は知りようがないので、追うこともできない。
…いや、彼女がエルダイバーだとしたら、リアルの世界を介しているわけではないので、本当の意味でGBNから出ることは、できないのかもしれないが…。
それとも、リアルで活動するための、モビルドールがあるのか…。
「まいったな…」
どちらにしても、今の俺にできる事はない。
リナリアが再びアクションを起こすまでは、待つしかない…か。
一人でカフェに戻るわけにもいかないので、俺は4キロくらい離れた、大きめの広場にやってきた。
「ちょっと休むか…」
いくら肉体的疲労がない世界とはいえ、現実に限りなく近い環境で、4キロも歩けば、気疲れする。
近くのベンチまで行き、腰を下ろした。
「ふぅ…」
息をついて、辺りを見る。
スワークル。それが、このエリアの名前。
非戦闘区域なのでガンプラバトルはできないが、数ヶ所の広場を起点として、エリア内各所に様々な施設がある。
なので、バトル以外のダイバー同士の交流が、とても盛んに行われている。
聖地ペリシアほどではないが、それでも、俺のログインしているサーバー近隣では、最も賑わっている交流用エリアだ。
故に、様々な特徴のダイバーと、そのガンプラが視界いっぱいに写っている。
見知らぬダイバーに、個性的なガンプラ。ただ見ているだけでも、しばらくは楽しめる。
…なんて思いながら、広場の光景をぼんやり見つめていたが、
「…あれは…」
そのうちに、知っている姿が、遠巻きに見えた。
あの姿、間違いない。
「おーい、セイゴ!」
俺の声に、セイゴが振り向いた。
「ジン…?」
「ああ、久しぶりだな!」
懐かしいその姿に、思わず駆け寄る。
彼はセイゴ。以前、同じフォースで活動していた仲間だ。
「ずっとログイン形跡がなかったから、心配してたんだぞ!」
言いつつ肩を組むと、セイゴは顔を曇らせる。
「ちょっと、リアルの方で、事情があって…」
「あっ…、そうなのか」
リアルでのことは、あまり聞かない方が良い…か。
「とにかく、無事でよかった。…こっちの世界じゃ、リアルでの安否もわからないからな…」
言うまでもないが、GBNでの繋がりは、所詮オンライン上での繋がりでしかない。
ログイン履歴が途絶えるということは、消息不明状態になってしまうことを意味するのだ。
「うん、それは大丈夫。…ありがとう、心配してくれて」
セイゴはそう言って、俺の腕を解いた。
「ジンはどう? 最近、何か変わった事はある?」
それを聞いてくれるか。思わず鼻息が漏れる。
「こいつを見てくれよ」
言って、俺は俺自身のダイバーステータス画面を、セイゴに向けた。
「えっ…、あっ! ダイバーランクが上がってる!」
気付いてくれたようだ。
「そうさ! 今の俺には、必殺技スキルだってあるんだぜ!」
セイゴと最後に会った時から、今の俺は二段階昇格している。
「いやぁ…すごいね。半年くらい会ってなかったから、変わっているとは思ったけど、ここまでなんて…。流石だよ、ジン」
「いやぁ…まぁ、な…」
いざ褒められると、妙に恥ずかしくなる。
「…そうか、あれから半年も経つのか…」
セイゴのログインが途絶えたのは、俺たちの所属していたフォースが解散してすぐの頃。
懐かしい気持ちになり、思わずフレンド画面を開いた。
「みんな、元気でやってるかな…」
フレンド画面から、かつて、共に活動していたフォースメンバーを確認する。
…ん?
「あれ?」
異変に気付いた。
「セイゴの名前がない…?」
フレンド一覧に、セイゴの名前がない。
「あー、ほら。…多分、僕がずっとログインしてなかったから、じゃないかな」
と、セイゴも自分のフレンドリストを開く。
「ほら。僕のフレンドリスト、真っ白になってるし」
本当だ。彼のリストには、他の元フォースメンバーの名前どころか、ダイバーネームそのものが載っていない。
「…そういうものなのか…?」
とはいえ、少し不思議だ。
これでも俺は、GBN歴が数年あるし、その分ある程度は他者と交流している。
ログインが途絶えたからといって、フレンドリストが勝手に消えた、なんて話は聞いてことがない。
「うん、だってほら、僕、そのために今スワークルに来てるんだよ。消えたフレンドリストを治すために、他のダイバーから、みんなの情報を集めようと思って」
「あー…なるほど。そういうことだったのか」
まぁ、GBNのシステムを不可解に思っていても仕方がないか…。
「わかった。じゃあ、せっかく会えたわけだし、改めてフレンド登録しようぜ」
「あ…うん、そうだね」
二人して登録画面を操作し、互いの名前をフレンドリストに追加する。
「…うん、じゃあジン、僕は他のみんなを探しに行くから」
そう言って、セイゴはログアウトの画面を開いた。
「ここで情報を集めるんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったけど、もうあらかた聞いて回ったし、次のサーバーに行くよ」
俺の問いにそう答えて、セイゴは軽く手を振る。
「じゃあ、またね、ジン」
「ああ、またな」
セイゴは一度頷いて、このエリアから消えた。
「…セイゴ、か」
改めて、その名前を呟く。
何よりも、無事でよかった。
半年会っていなかったとはいえ、ずっと一緒に戦っていた仲間だ。
彼がGBNに帰ってきてくれたのは、素直に嬉しい。
…って、あれ?
「他の奴のことも、俺に聞けば早かったんじゃねぇか…?」
今更気づいたが、セイゴはログアウトしてしまったので、追いかけようがない。
仕方ない。セイゴのことは、次にログインのタイミングが合った時にしよう。
…そういえば、リナリアはそろそろ再ログインしているだろうか。
「…そんなに早く、帰ってきてはいないかな…」
なんて言いつつも、フレンドリストからリナリアのオンライン状況を調べる。
「あ、居る」
スワークルの外に、彼女の反応があった。
…この広場からだと、まず反対方向の境界線からスワークルの外に出て、 ガンプラに乗ってから、スワークル全体を迂回するようにして向かうのが、一番早いだろう。
少し面倒だが…。
「…こういう事は、早めに解決しないとな」
自分に言い聞かせる意味も込めて、俺はそう呟き、彼女のいる位置へ向かうことにした。
適度にマップを確認しながら、ガンプラに乗って、リナリアの位置を示す場所まで来た。
森林地帯の上空。前回とは違い、今回は非戦闘エリアの付近ということもあって、川や道など、よりリアルの世界のそれに近い姿をしている。
上空から見る限りではわからないが、細かい高低差もあるはずだ。
「この辺のハズだが…」
マップの示した場所に着いた。マップを拡大して、詳細を確認する。
だが、その瞬間。
「ん?」
一瞬、なにやら奇妙な違和感が訪れた。間も無くして、俺自身が落下していることに気づく。
「なっ!」
周囲の景色が、全周囲モニター越しではなくなっていた。
つまり、ガンプラが消えたのだ。
「嘘だろオイっ!」
なんて言葉を発しているうちに、やがて俺は地面に激突した。
「痛ッ…てぇ…」
本当に痛覚に刺激があるわけではないが、思わずそう言ってしまう。
…というか、この高低差なら現実では死んでいたな…。
「何が起きたんだ…?」
起き上がり、状況を確認する。…やはり、俺のガンプラはそこに存在せず、持ち物の中に戻されている。
そもそも、ダイバーが自分の意思でガンプラを戻した場合、ダイバーはゆっくりと地面に「降下」するのが基本だ。
しかし今回は、その補正がかからず、俺はいわば「落下」した。
つまり、なんらかの要因で、ガンプラを強制的に戻された、ということになる。
考えられる理由としては、ガンプラの性能上活動できない環境に来た場合や、ガンプラでの移動そのものが制限されている区域に入った場合のどちらか、だろうか。
…とはいえ、この辺りは幾度となく、俺自身がガンプラで移動したことのある区域だ。
そんな可能性は考えにくい…
「…ん?」
待てよ?
ガンプラでの移動、というより、ガンプラの操作そのものができない環境だとしたら、どうだ?
それが、つい最近身に覚えがある要因だと仮定した場合…。
それは、リナリアと初めて会って、リナリアを狙った盗難ガードフレームが現れた時で…
つまり、今また、例のガードフレームが、近くに居るのか?
「…ッ!」
思わずマップを確認した。まだこの近くに、リナリアの反応がある。
そして、いつのまにか、正体不明のガンプラの反応も映っていた。
つまり。
「やばいぞ…!」
今まさに、リナリアの近くに、例のガードフレームが迫っている。
いや、もしかしたら既に遭遇しているのかも…。
「リナリアっ!」
思わず、俺は駆け出した。
いた。
良かった、まだ無事だ。盗難ガードフレームの姿も見えない。
「リナリア!」
名前を叫ぶと、彼女は驚いてこっちを見た。
「ジン…?」
駆け寄ろうとしている俺をみて、リナリアは逃げようとした。
「ちょっと、待ってくれよ!」
慌てて足を早め、なんとか追いついて腕を掴む。
「放してよ。もうジンのことなんて知らないって言ったじゃん!」
「え? …ああ、それは…」
しまった、何を言うべきか考えてから来るべきだった。
…って、そうじゃない。
「待ってくれ、それよりも今はここから離れないと。…近くにアイツが居る」
「アイツって…?」
「前にお前を狙ってきたガンプラ、盗まれたガードフレームだ」
その単語で、リナリアの顔は一気に青ざめた。
前回もそうだったが、この事になると、彼女は急に怯える。
俺と会う以前に、よほど怖い思いをしたのだろうか。
「とにかく、今はまず、ここから出よう!」
言って、リナリアの手を取った。
これで、このエリアから二人同時にログアウトできるはずだ。
…通常なら。
「…ちっ、またダメか」
しかし、エラーが出てしまう。
前と同じだ。このエリアから離脱ができない。
となれば、やはりガンプラで一気に移動するのが手っ取り早い、のだが…。
「…こっちもか」
こちらも、エラー表示に邪魔される。
一度強制的に戻されたから、察しはついていたが…。
やはり、あのガードフレームが近くにいると、ガンプラを使うことができないようだ。
一体なぜ…。
…って、そんなことはあとでいい。
「とにかく今は、アイツに見つからないうちに、このエリアを出ないと…」
ログアウトができないなら移動するしかない。しかし、ガンプラは出せない。
ここは…
「こいつの出番だ」
俺だって前回とは違う。こんなこともあろうかと、ガンプラではない移動手段を用意しておいた。
これもダメなら手詰まりだったが…よし、大丈夫。無事に出現する。
なるべく目立たないサイズで、二人で、高速で移動するための手段。
「これって…バイク?」
そう。前回襲われた後、有り合わせのダイパーボイントで購入した、バイクだ。
「ああ。これなら前みたいに、たくさん走る必要はないからな」
取ったままだったリナリアの手を引いて、バイクに跨ろうとする。
しかし、彼女の手が、俺の手からするりと抜けた。
「…ん、どうした?」
振り返ると、リナリアは俯いていた。
「早くしないとアイツに見つかるぞ」
再びその手を取ろうとした俺を、
「…っ!」
彼女は、一歩踏み下がって、避けた。
「わたし、もうジンのことなんて知らないもん」
首をブンブンと横に振り、さらに一歩踏み下がる。
「いや、今はそんなことを言ってる場合じゃ…」
そういって聞かせようとした俺だったが、やめた。
リナリアの手が、震えている。
「リナリア、お前…」
彼女はただ、考えなしに聞き分けのない事を言っているんじゃない。
状況を理解した上で、この結論を出したんだ。
「…そうか」
正直、『そんなこと』かと思わないと言えば、嘘になる。
だが、それは俺の、彼女を笑った人間の理屈だ。それは彼女の決断に関係ない。
今、リナリアは怯えるほどに怖い相手を前にして、それでも俺を否定している。
それが事実であり、彼女の本気なんだ。
そして、彼女にそれをさせているのは、…他でもない、俺自身。
「リナリア、聞いてくれ」
彼女が俺を見てくれるのを待って。
「…ごめん。俺が悪かった」
大きく、ゆっくりと頭を下げた。
経緯はどうであれ、俺は彼女を笑った。
それが、彼女の心を傷つけた。
どんなに些細なことだとしても、それを些細だと感じるかどうかは、人それぞれだ。
だから、それは言い訳にしていいことじゃない。
「すまなかった。この通りだ。…どうか、許してくれ」
言って、リナリアの反応を待つ。
そのまま少しの時間が経って。
「…あの、あのね、ジン」
呼ばれて、頭を上げた俺は、リナリアと目があった。
「その、わたし…」
その、視界の隅で、何か動くものが見えた。
直後、
「きゃあっ!」
リナリアが視界から消える。
「リナリア!?」
慌てて辺りを見回すと、彼方の方角へ、彼女の姿が急速に遠のいていた。
その姿は、同じく彼方へと遠のいていき、屋根のない車の中に引きずり込まれる。
あの車が、リナリアを連れ去ったんだ。
「待てっ!」
俺は急いで、自分の出したバイクに乗り、車を追った。
相手は森林地帯を想定していたのか、屋根のない四輪のオフロードカーのようで、満足に舗装されていない道を、構わず進んでいく。
対してこちらは、あり合わせのポイントで購入した簡単なバイクだ。路面の凹凸が邪魔をして、うまくスピードが出ない。
「くそっ、このままじゃ…」
何か手はないのか。そう思い、片手でマップを開き、現在地を確認した。
このままだと、あの車は大きなカーブに差し掛かる。
「だったら!」
俺は道を外れ、木々の間に飛び込んだ。
カーブの終了地点まで、最短距離を直線上に進むんだ。
勿論そこに道はないので、木々の間を縫って進むしかない。
どうせ仮想空間だ。ダイバーであるこの体が、木に衝突したところで、痛みなんて感じない。
「っ、よし!」
再び道に出たところで、わずかに車の前に出た。
こちらの姿に驚いたのか、車は減速し始める…のだが。
…ダメだ、制動距離が足りない。
衝突する!
「ぐあっ!」
バイクの後部に車が衝突した。俺の体が弾き飛ばされ、地面に倒れる。
一方、ぶつかった衝撃で車は軌道を逸らし、道の側面の木に再度衝突して、完全に停止した。
乗っていた男は弾き飛ばされるが、リナリアは座席に体を弾かれ、中に留まっている。
「っ、リナリア!」
一足先に立ち上がった俺は、車と彼女の元に駆け寄った。
「リナリア、大丈夫か? 立てるか?」
「う…、ジン…」
俺を確認して手を伸ばしてきたので、それを握る。
「この…クソっ!」
声に振り向くと、運転していた男が立ち上がって、こっちを睨みつけていた。
「お前、なんでリナリアを!」
思わず叫ぶ俺を、男は怪訝な顔で見る。
「リナリアぁ? …そのガキのことか」
なんて笑い、男は手招きをした。
「おい、そのガキをこっちに渡せ」
言われるが、俺は奴とリナリアの間に立つ。
「…リナリアをどうする気だ?」
「そんな事、お前に教える道理はねぇな!」
俺の問いには答えず、男はパネルを操作した。
途端に背後にガンプラが現れる。
例の盗まれたガードフレームだ。
「くっ…!」
俺もガンプラを出そうとするが、先程エラーが出たばかりだということを思い出し、辺りを見回す。
俺のバイクは遥か彼方に吹き飛ばされていた。道の側面の木々をいくつか倒し、その幹や枝が絡まっている。すぐには動かせない。
どちらにせよ、リナリアが車の中から動けない。
となれば…、
「リナリア、しっかり掴まってろ!」
握っていた彼女の手を開き、代わりに助手席の手すりを握らせ、俺は車の運転席に飛び込む。
この車を使うしかない。
「動いてくれッ!」
ギアをバックに入れてアクセルを踏んだ。
車は後方に急発進し、今度は後方の木々にぶつかる。
そして、眼前をライフルの射撃が通り過ぎた。
「チィッ…このっ!」
すぐに二発目が向けられるが、俺は急いでギアとハンドルを操作し、それを避けた。
そのまま道なりに車を進める。…前回のように車を降りて木々に隠れながら進む方法もあるが、車を降りる一瞬を狙われたら逃げれない。
とりあえず、この車で距離を取る。その後で逃げ切るか、ガンプラで応戦するか…
「…ジン…」
対策を考えていると、リナリアが少し弱々しい声で俺を呼んだ。
「怪我はないか?」
「う、うん…」
運転しながら、横目で彼女の様子を確認する。
よかった。とりあえずなんともなさそうだ。
「すまなかった。お前にまた痛い思いをさせて。…でも、今はとにかく、アイツから逃げることが先決だ。俺を見限るのはその後にして…」
そこまで言った時、ふと。
俺の腰に、温もりのようなものを感じて。
「…怖かった」
リナリアが、俺の腰にしがみついていた。
「ジンはね、わたしが初めて、わたしの言葉で、仲良くなってくれたひと。なんだ」
その声は、辿々しくも、確かに俺に聞こえる。
「初めてなの。わたしを、わたしだけで見てくれるひと。リナリア、って呼んで、優しくしてくれたひと。…だから、わたし、とってもうれしくて…」
何を言っているのか、よくわからない。
でも、今それを聞き返すのは、なぜか気が引けた。
「だから、だからね、わたし、ジンのこと信じたんだ。でも、わたし、ジンに笑われて…。わたし、怒ったけど、ほんとは、すっごく怖かったんだ。なにか、間違えたのかなって。…なにを間違えたのか、全然わからなくて、不安で、怖かった…」
ぎゅっ、と、俺の腰を強く握る。
「だからわたし、強がって、ジンのこと、知らないっ、って、言っちゃって…。それで、どんどん、へんなことに、なっちゃって…」
腰に濡れるかのような感覚を感じて、ふと見る。
リナリアは泣いていた。
「ねぇジン、わたしね、ほんとはただ、ジンと一緒にいたいだけなの。それだけなの。…だからお願い、わたしの…、わたしを…」
聞き取れたのは、そこまで。
その先は言葉になっておらず、リナリアは静かに泣いている。
…なんだか、よくわからないが。
「えっと…要するに、リナリアは俺のこと、許してくれるのか?」
チラリと見ながらそう聞くと、彼女も俺を見上げた。
「うん。許す。許すから。…ジンも、わたしのことを、許して…」
それなら、話が早い。
「ありがとな、リナリア」
俺は、彼女の頭に片手を乗せる。
「正直、よくわからないが、お前が許してくれるなら、今の俺にはそれでいい」
せっかく仲良くなれたんだ。ケンカ別れなんてしたくない。
「お前がいいなら、俺はこれからも、お前のフレンドだ」
それだけは確かにしておきたい。そう思って言うと、
「…ありがと、ジン」
リナリアは、俺の体から離れる。
横目で確認すると、涙目に笑顔を作ってくれていた。
その直後、頭上を大きな影が通り過ぎる。
「逃げ切れると思うんじゃねェよ!」
盗まれたガードフレームが、俺たちの乗る車を通り過ぎたんだ。
理解と同時、ガードフレームは車の前に、膝を付けて着陸する。
これでは前回のように、足の間を縫って避けることができない。
「くっ!」
ハンドルを切ってUターンしようにも、それほどの道幅はなく、一時的に停車する。
そこにガードフレームの腕が伸びてきた。
ダメだ、今度は降車も間に合わない!
と思った途端、
「ぐがっ!?」
突如、目の前のガードフレームが倒れた。
その横には、いつのまにか俺のガンプラが居る。
まるで、その拳でガードフレームの不意を突いたかのような姿勢で。
「お前…」
呼び出せないハズじゃ…と思ったが、
「…いや、今は好都合だ!」
ひとまず、理由を考えるのは後だ。
「行くぞ、リナリア」
「うんっ」
ガードフレームが怯んでいるスキに、俺はリナリアの手を引いて、ガンプラに飛び込んだ。
リナリアの手が肩に触れたのを確認して、両手をコンソールに添え、愛機であるクリスタイル・オーガンダムを起動させる。
「てめェ、何しやがる!」
声に驚いてモニターを見ると、体勢を立て直したガードフレームが、俺たちにライフルを向けていた。
その銃口をクリスタイルの腕で弾き、射線そのものをずらす。
「こっちのセリフだ、ドロボー野郎」
そう言いつつ、背中からビームサーベルを引き抜いた。
腹を貫こうとする俺だったが、相手もそれを悟り、大きく距離をとった。
「もう一度聞くぞ。お前、なんでリナリアを狙うんだ?」
牽制のために、俺も左手でライフルを構えるが、
「うるせェよ!」
奴の答えは新たな射撃だった。横に飛んでそれを避ける。
「答える気はない、ってか」
どういうつもりか知らないが、それならそれで、俺にも考えがある。
「…あの後、運営に呼び出されて、大変だったんだからな」
前回、俺はこのガードフレームを撃墜した。
しかし、その状況を側から見れば、ダイバーが運営の機体を攻撃する、つまり「一種の反逆行為」と捉えられても仕方ないことなのだ。
…なんてことを、運営に散々言い聞かされてな。
状況が状況だから、具体的な処罰があったわけではないが、その話を受けた時間は、決して有意義なものなんかではなかった。
要するに。
「俺も、これ以上お前の相手をしたくないんだ」
運営に渡されたプログラムを、クリスタイル・オーガンダムに組み込む。
「かかってこい。もう逃げも隠れもしないぞ」
ライフルを捨てて、その手で手招きをしてみせる。
「ナメやがって…調子に乗るんじゃねェ!」
思った通り、奴はライフルを撃った。
それでいい。
「プロテクションッ!」
ボイスコマンドで、左腕のインジェクターから六角形状の障壁を生成する。
弾くほどの強度はないが、防ぐのには充分だ。
「オラオラどうしたァ!」
相手は構わず、連続で銃撃を行う。GNフィールドを突き破るつもりだろうか。
だが、その間にも俺の用意は整っている。
「たッ!」
素早く横に飛んで射線上からずれ、俺は右手で持ったままだったビームサーベルを、ガードフレームのいる方向へ投げた。
「フン、そんなモン!」
ガードフレームはライフルの銃口を俺のビームサーベルに合わせるが、俺の目的はそうじゃない。
「ジャベリンクラフト!」
ボイスコマンドを叫ぶと、右腕のジェネレーターから融合粒子が飛び出した。螺旋を描きつつ直線上に伸びた二本の粒子が、サーベルに追いついたところで硬化し、一本の棒になる。
つまり、擬似的なビームジャベリンを形成したのだ。
「せいッ!」
それを、素早く持ち替えて、ガードフレームに投げる。
「なっ、ぐッ!」
意表を突くことに成功したらしい。
相手はライフルで迎撃せず、腕ではたき落した。
その隙に、
「そこだッ!」
左腕で形成したもう一本のビームジャベリンを投げる。
「がッ!」
ガードフレームの左肩に突き刺さった。
「こんなモン…ッ!?」
ガードフレームは右腕でそれを引き抜こうとするが、その動きが突然停止する。
「な、なんだ!? なんで止まるンだよ!? 動けッ!」
男の声は聞こえるが、ガードフレームは右腕を左肩に伸ばした姿勢のまま、ピクリとも動かない。
そのはずだ。
「…盗まれていても、所詮は運営の機体、ってことさ」
俺が先程組み込んだプログラムは、どうやら正常に機能したらしい。
運営に呼び出され、長い説教の後に渡されたプログラム。
「ガードフレーム専用のワクチンプログラムを打ち込んだ。もうお前に、そのガンプラは使えない」
詳しい原理はわからないが、そういうものらしい。
事実、目の前のガードフレームは全く動かない。
それどころか、ついにエリアから消え始めた。
「なっ…くそッ!」
男性ダイバーが、ガードフレームから降りてきた。間も無くしてガードフレームは完全に消えてしまう。
「テメェ…ッ! これ以上オレの邪魔しやがったら、タダじゃすまねぇからな!」
言って、男性は小さな球を上に掲げた。
あれは…まさか、
「待てッ!」
俺の声より少し早く、男性ダイバーが小さな球を地面に叩きつけた。
辺り一面に強い光が差す。
やはり、閃光弾だ。
「くっ!」
「わぁっ!」
俺とリナリアは思わず目を閉じてしまう。
光が止み、再び目を開けた時にはもう、男性ダイバーの姿は見当たらなかった。
「…逃げられたか…」
少し経って、運営からの通知が来た。
俺がワクチンプログラムを打ち込んだガードフレームは、話に聞いていた通り、正常に運営の元へ戻ったそうだ。
「…これで、とりあえずは一安心だな」
「うん」
声をかけると、リナリアも頷く。
「ありがとう、ジン。また助けてもらっちゃって」
「いいさ。お前が無事で何よりだよ」
今はそれだけで充分だ。
なんて思っていると、リナリアは少し言いづらそうに、
「あのね、ジン…」
俺を見て、ゆっくり頭を下げた。
「…ごめんなさい」
そして、また上げる。
「わたし、まだちゃんと、ジンに謝ってなかったから…」
…いや、リナリアが謝るようなことはない…と言おうとしたが、
「…わたしね、あんまり人とお話しするの、慣れてないんだ。…うまく言えないけど、今までずっと、そうだったから…」
…ふむ。
「だからね、えっと…ジンにとっては軽い気持ちだったのかもしれないけど、わたしにとっては…、って、そうじゃなくて…」
リナリアは、なんだか辿々しく、それでも何かを言おうとする。
「あの、わたし、わからないの。…どんな言葉が冗談なのか、とか、どんな言葉で答えていいのか、とか、普通の人が、どんな話をするのか、とか…」
…うん。
「だから、わたしの答え方で、余計にジンを困らせちゃったり、するかもしれない。ジンを怒らせちゃうかもしれない。…でも、わたしはそんなつもりじゃなくて…だから、その…」
…ああ、まどろっこしい。
「…すまん、もうちょっと簡潔に言ってくれるか?」
俺がそう答えると、リナリアはハッとして、
「あっ、ご、ごめん…」
そう言ったきり、少し黙ってしまう。
…なんだろう、妙に気まずい沈黙が流れる。
こういう時はどうするか。とりあえずリナリアの言葉を思い出す。
「…ええと、リナリア」
「あっ、うん」
俺を見るその目は、不安そうで、何かを期待するようで。
「お前、さっき俺がフレンドでもいい、って言ってくれた…よな?」
「う、うん。それは、もちろん!」
俺の言葉に力強く頷く。その目はとても真剣で。
「…じゃあ、今はそれだけでも、いいんじゃないか?」
そんな言葉が出た。
「…えっ?」
「なんていうか、さ。…要するに、お前は人付き合いは苦手だけど、それでも俺がフレンドに居てもいいって、思ってくれてるんだろ?」
聞くと、頷く。
「だったら、とりあえず今はそれだけでいいんじゃないかなって」
俺だって、人付き合いは得意な方じゃない。
でも、誰かと繋がっていたいという気持ちはよくわかる。
だからこそ。
「その先のことは、俺たち同士で、少しずつ積み上げていけば、いいんじゃないかな」
今は、それでいいと思うんだ。
「…そう、なのかな」
リナリアはそう言って、俺の手を握った。
「それじゃあ、ジンはわたしとフレンドでいてくれるの?」
「ああ。俺はそう思ってる。…リナリアは?」
その手を握り返しつつ、聞き返してみると、
「わたしも同じ」
彼女は、少しずつ笑顔になり、
「わたしも、ジンのフレンドでいたいな」
そう答えてくれた。
だったら。
今は、それだけでいい。
それだけが、確かであれば。
ヴィラーフレームを回収されたようね?
うるせェ!あんなワクチンがあったなんて聞いてねぇぞ!
そうですね、運営の対処がこれほどとは…少々甘く見ていたようです。
それで、今後どうするんだ。
ヴィラーフレームを使えない…ってことはやっぱり、あたしら自身のガンプラにエフェクトを組み込むしかないのかしら?
いえ、あのガードフレームの他にも、試験的にヴィラーエフェクトを組み込んだ機体がいくつかあります。それらを皆さんに差し上げましょう。
あら、差し上げる、ってことは、自由に改造していいのかしら?
ええ、そこはお任せします。
意外と気前が良いのだな。
いえ。我々の目的はただ一つ。ガンプラなど、その手段に過ぎませんから。
ふぅん。やけに嫌な言い方ね。
我々も、それを言える立場ではないがな。
…冗談じゃねェ。オレはオレのガンプラで行かせてもらうぜ。
なんだと?
どういうつもりよ、タク。
他人からの貰い物をベースに急造したって、アイツには勝てねェよ。
…急造? 別に急がなくてもいいんじゃないの?
お前らはそうでも、オレはそうじゃねェ。…オレに残された時間は、そんなに多くねェんだよ…。
方舟の少女 ガンプラデータファイル02
【クリスタイル・オーガンダム】
両腕に装着された融合粒子インジェクターは、それぞれ二門の射出砲塔が存在し、同時射出も可能。
GN粒子と硬化粒子を同時に射出すると、それらは長細い糸のように生成される。これを「融合粒子ワイヤー」と呼ぶ。
更に、同時に射出した二本の融合粒子ワイヤーを、螺旋状に束ねることもある。
より高密度で硬化された融合粒子は、 ワイヤーではなく取り回しの良い棒、いわば「融合粒子ロッド」となる。
「ジャベリンクラフト」
融合粒子ロッドの生成時、先端にビームサーベルが来るように硬化する事で「擬似的なビームジャベリンを作り出す」という融合粒子射出のパターン、及びそれを意味するボイスコマンド。
この際に生成される武器は「融合粒子ジャベリン」となり、広範囲攻撃や投擲などに使用される。
「プロテクション」
前方に融合粒子を広範囲射出して生成される障壁の名称、及びそのボイスコマンド。
正六角形型の障壁を作り出す。その様は、まるで傘を開くかのようにも見える。
物理、射撃問わず防御可能だが、ほんの数秒しか形状を維持できず、粒子消費量も激しいので、多用はできない。