ガンダムビルドダイバーズ外伝 〜方舟の少女〜 作:楽雁つばさ
つめたい手。
わたしの手も、その先にあるものも。
ぼんやりとわかる。
わたしの手を取る、だれか。
だれかはわからない。
でも、きっと、『だれか』。
わたしをすきなひとじゃない。
わたしが、手を取ってほしいひとじゃない。
ただ、わたしの手を、取りたいひと。
そこに、わたしはいらない。
わたしの手、それだけを取るひと。
わたしのことが、ほしいひと。
わたしの、いらないひと。
いつもそう。
こんなに近くに、だれかが居ても。
わたしは、いつも、ひとり。
「なんだ、これ…?」
リナリアの行動履歴を、確認できる範囲で確認していた俺。
その中には、見たことのない文字列が記されていた。
リナリアはこの数ヶ月間、人気の多い場所には、ほとんど行っていない。
記録が残っているのは、ほとんど俺が直接関わってきた案件ばかり。
そして、それ以外のログには謎の文字列が繰り返し表示されている。
「どっかのフォースネストか…?」
文字列をみつめながら、考え込む。
識別番号とも位置座標とも異なる、なんだか奇妙な文字と番号の羅列。
まあ、何者かに狙われている以上、安全な場所に留まるのは当然だが…、これは本当に「GBN内の位置情報」なんだろうか。
それとも、エルダイバー特有のなにかを意味する表示なのか…?
「…いや、やめよう」
自分に言い聞かせるように呟いて、俺はフレンドの情報画面を閉じた。
あまり個人の詮索をするのは良くない。
「…誰にだって、聞かれたくないことはあるだろうさ」
また、そんなことを自分に言い聞かせて…。
…ともあれ。
安全な場所にいる彼女を、わざわざ呼び出して危険に晒すほどの用事もない。
今日は一人で行動しよう。
「…よし」
改めて、エントランスロビーからハンガーへ向かう。
行先は、いつかリナリアとばったり会った、スワークルの喫茶店。
中断していた情報収集の続きをしよう。
正直、あまり気の向かないことだが…それでも「気になること」ではある。
いやはや、人の感情とは複雑なものさ。
リビルドコンパス。
その名前を最初に聞いたのは、リナリアと出会う数日前のこと。
とあるミッションバトルで、一時的にパーティを組んだダイバーの口から「そういうフォースがある」ということだけを聞いた。
彼も詳しくは知らないようだったが、どうにも気になる。
何か、関連性がありそうなんだ。
かつて俺が居て、今は解散してしまった「フューチャーコンパス」というフォースに。
人伝いに情報を集めるにつれ、近くのサーバーに、リビルドコンパスに所属しているダイバーがいる、という情報を掴んだ。
俺はガンプラに乗り、スワークルを出て、そこに向かう。
その途中で。
「ん?」
フレンド回線から通信が入った。リナリアだ。
「やぁ、リナリア。どうかしたか?」
音声通信なので、飛行しながら応答する。
しかし、リナリアは何も言わない。
「…ん? 何かあったのか?」
聞き返してから、さらに数秒の間があって。
「…ジン、あのね」
リナリアはようやく答える。
「わたし、ジンに言わなきゃいけないこと、あるんだ」
それは、いつになく真剣な声で。
「だから、顔を合わせて話がしたいの。…ねぇジン、今日はこれから、時間ある?」
…様子から察するに、彼女はとても大事な話をしようとしているのだろう。
相応の覚悟をもって。
「…ああ、大丈夫だ」
リビルドコンパスのことは、後日改めて調べればいい。
今は彼女の覚悟に答えよう。
「…ありがとう。じゃあ…うん。今、位置情報をメールで送ったから、そこに来てくれる?」
「ああ」
答えつつ、一度ガンプラを止めて、メール画面を確認した。リナリアから送られてきた座標を確認する。
公園風のエリアだ。偶然にも、俺が向かっていたサーバーに近い。
「数分くらいでつきそうだ」
「わかった。それじゃ、現地で待ってるね」
そう言って、リナリアは通信を切った。
俺も通信画面を閉じて、改めてガンプラを動かす。
「こんにちは、ジン」
ガンプラから出て公園に降り立つと、既にリナリアが居た。
「ああ。待たせたな、リナリア」
「ううん、大丈夫。…じゃあ、とりあえずこっちに来て」
彼女の指差す先にはベンチがあった。
言われた通りに付き添い、二人でベンチに座る。
「えっと…、まず、この前は、ありがとうね」
彼女の言葉は、その一言から始まった。
一瞬、なんのことかわからなかったが、
「美味しかったよ、ケーキ」
そう付け足され、理解する。
エペランサスから追い出された後、二人でケーキを食べた時のことだろう。
「ああ、それならよかった」
俺も…まぁ味は感じられなかったが、共にケーキを楽しむことが出来たのは嬉しかった。
「あのケーキ屋さんもそうだったけど、ジンっていろんなことを知ってるよね…」
「まぁ、伊達に何年もこの世界を楽しんでるわけじゃないさ」
実を言うと、まだ世間的にはGPDが主流だった頃から、俺はGBNで活動している。
その分、色々と経験してきた。
良いことも、悪いことも。
…なんて、すこし感傷に浸りかけたところで、ふとリナリアが言葉に詰まっていることに気付く。
更にそれから十数秒ほど経過して、
「…じゃあさ」
改めて言葉が紡がれた。
「わたし…っていうか、『エルダイバー』についても、色々と知ってるの?」
そんなふうに聞かれた。
「えっ? うーん…」
エルダイバー。改めて単語を聞いて、少し思い返してみる。
かつては、GBNにおける大事件になったこともあったから、「リアルの世界に実体がない存在で、この世界が育んだ命だとさえ言える」ということは知っている。
が、実際のところ、詳しい生態…もとい、外見以外の特徴なんて、全く知らない。
「あんまり知らないかもな…」
「…そっか」
俺の返答に、リナリアは少し安心するように、息をついて答えた。
そして、また真剣な表情になって、俺を見る。
「あのね、ジン。…実は、そのことなんだけど…」
と、そこまで言って、視線を逸らした。
「あの…えっと…」
すこし泳がせてから俯き、やがて沈黙。
「…ん? どうした?」
聞き返してみるも、返事はない。
…それだけ、言いにくいことなのだろうか。
じっと見つめるのもプレッシャーになるかと思い、とりあえず俺も視線を逸らしておく。
……
…………。
……長い沈黙。
「…なぁ、リナリア」
我慢できず、彼女を見つめ直して、気付いた。
震えている。 何かに怯えるかように。
「おい、どうした?」
まさか、また彼女を狙う奴が来たのか?
そう思い、辺りを見回した。
しかし今この付近にいるのは、俺とリナリアだけのようで。
「…何か、感じるのか?」
より詳しく周辺を警戒するために、立ち上がろうとして。
「待って、ジン!」
ぐい、と服の袖を引かれた。
見ると、リナリアが俺に掴まっている。
震えたまま、涙まで浮かべて。
「ど、どうしたリナリア。どこか、痛いのか?」
その様子に動揺する俺だが、リナリアはブンブンと首を横に振って。
「…行かないで…」
と、一言。
「…おねがい…行かないで…」
絞り出すように、もう一度言われた。
…意図は全くわからないが…。
「…ああ。わかった」
俺はとりあえず、ベンチに座り直した。
ともかく、リナリアは何故か、ひどく動揺している。
そんな状態で、行かないでという言葉だけが、確かな意思と共に伝ってきた。
なら、今は言われた通りにしよう。
「…大丈夫、そばにいるからな」
言いながら、リナリアの肩を軽くさすってやる。
今は慌てず、彼女が落ち着くのを待とう。
少しの時間が過ぎて、リナリアは随分落ち着いてきた。
「…大丈夫か?」
聞いてみると、彼女はこくりと頷いて、少し泣き跡の残っている顔で、俺を見る。
「…ごめんね、わたし、また、泣いちゃって。…こんなつもりじゃ、なかったんだけど…」
「気にするな。何か訳があるんだろ?」
そう言った途端、リナリアの顔がまた少し翳る。
「ああ、いや、すまん。今のは『訳を聞きたい』って意味じゃなくてだな…」
慌てて訂正。
しかし…なんとなく察しがついた。
リナリアはおそらく、俺に何かを伝えようとして、それが怖くなって泣いたんだ。
何を伝えようとしたのか。気になるところではあるが…。
「…そういうのは、お前のペースでいい。お前が、俺に伝えられると確信した時でいいんだ。…俺は、あんまり気にしないからさ」
半ば自分に言い聞かせるように、とぼけてみせる。
「そんなに思い込むなよ。前にも言ったが、俺はお前が俺と居たいって思ってくれるなら、それだけで充分だからさ」
そう、今は、それでいい。
それ以上のことを求めて、彼女の心が壊れてしまうくらいなら。
俺は、何も知らないままでもいい。
「…うん、ありがとう、ジン」
リナリアは微笑んで見せてくれた。
「…でも、いつかは話すね。…これは、話さなきゃいけないことだから…」
そして、俺に右手の小指を向ける。
「だから、やくそく。わたし、ジンに絶対、わたしのこと、話すから」
ゆびきりをしよう、ということだろうか。
「…ああ、約束だ」
俺は頷き、リナリアの小指に自分の小指を絡めた。
「その時が来るまで、俺はお前のそばにいるよ」
俺が彼女にできるのは、それくらいだ。
そう思っていった言葉だが、リナリアはすこしキョトンとした。
「…ん? 俺、何か変なことを言ったか?」
聞き返すと、リナリアはすこし笑って。
「ううん、わたし、嬉しくって」
ゆびきりを解いて、そのまま俺の手を握った。
「ジン、ありがとう。わたしに優しくしてくれて」
ぎゅっと、力強く。
それでも、どこか優しく。
彼女の手のぬくもりは、俺の心まで届いた。
「ところで、ジンはどうしてこの近くに居たの?」
「ん? あー…」
ふとそう聞かれ、俺は言葉に詰まる。
「…散策、かな。…ほら、ここは俺のサーバーから近いし、最近あんまり来てなかったから、何かしら面白いものがあるかも…と思ってさ、…とくに用事があったわけじゃないんだ」
思わず、嘘をついてしまった。
「なんだ、そっか」
しかし、リナリアは疑問に思わなかったようで、すくりとベンチから立ち上がった。
そのまま俺の前に来て、向き直る。
「じゃあ、せっかく会えたし、今日はわたしも、ジンといっしょに居てもいい?」
えっ?
「いいけど、別に何も面白くないかもしれないぞ?」
リナリアがそばにいるうちは、リビルドコンパスについて調べるつもりはない。
だから、本当にあてのない散策をするだけになるが…
「うん、いいよ」
言うと、リナリアはにこりと微笑んだ。
「わたしは、ジンと一緒に居たいだけ、だから」
言ってから照れ臭くなったのか、リナリアは少し顔をそらす。
…そんなふうに言われたら、無下に断ることも出来ないな。
「…じゃあ、一緒に行くか」
言って、俺は立ち上がり、リナリアに手を伸ば…そうとして、
「…そうだ、じゃあ、ちょっと面白いことをしようか」
一つ、名案が浮かぶ。
「少し待ってろよ」
首をかしげるリナリアを他所に、俺はクリスタイル・オーガンダムを出現させ、乗り込んだ。
「わあっ! すごーい!」
コックピット越しに、リナリアの声が聞こえた。
「すごいね、これ! すっごく気持ちいい!」
「ははっ、だろ?」
振り向いたリナリアに、俺も笑って見せる。
俺たちは今、ガンプラに乗って空を飛んでいる。
いつもと違うのは、コックピットには俺一人が乗っていて、リナリアはクリスタイル・オーガンダムの右手の中に居る、ということ。
「ジン! わたし、風になったみたい!」
嬉しそうに言うリナリアは、満面の笑みを見せてくれる。
「そうか、喜んでもらえて嬉しいよ…っと!」
言いながら、俺は機体を旋回させた。
「うわぁっ! …あははっ、びっくりしたぁ」
リナリアは機体の親指にしがみついているので、簡単に落ちはしない。
「ははは、それっ!」
「わあっ!」
更に機体を旋回させて、リナリアを驚かせる。
「も、もう! ジンってば!」
彼女は笑顔を絶やさない。
相当楽しんでくれているようだ。
「…よし、次はこうだ!」
「えっ…わああーっ!」
急上昇、からの急降下。念のために左手を添えながら、リナリアを楽しませてやる。
つもりだったが、
「じ、ジン! わたし、ちょっと…」
リナリアの笑顔が曇った。
しまった、今のはやり過ぎたか。
「あ、ああ。ごめんな」
言いつつ、俺は機体の速度を緩めて、ゆっくりと着地させた。
右手を下ろすと、リナリアは指から離れて、地面に降り立つ。
「ごめん。大丈夫か?」
すぐさまガンプラから降りて、彼女の元に駆け寄る。
「うー… なんか、ちょっと気持ち悪い…」
リナリアは姿勢を低くして、やがて地面に手をついた。
「ごめんな…」
言いながら、その背中をさすってやる。
しまった、すっかり失念していた。
リナリアはエルダイバー。感覚のフィードバックは俺よりも強い。
というか、彼女にとってはリアルな感覚なんだ。
「本当にごめんな…」
猛省し、頭を下げる。
「う、ううん、大丈夫。…わたし、ああいうの、慣れてなくて…」
言いつつも、リナリアは少し楽になったのか、改めて立ち上がった。
「…でも、楽しかったよ、ありがとう」
そう言ってはくれるが、まだ少し辛そうだ。
俺は辺りを見渡した。
大きな草原だ。この先に、このエリアサーバーの中心地となる都市部がある。
しかし、歩いて行くには遠い。なにか、もう少し落ち着いて休めるところは…。
なんて思っていると、視界の端で光が反射した。
よく見ると水面のようで、耳をすませば水の流れる音も聞こえる。どうやら小川があるらしい。
「リナリア、そこの川まで行こうか。水が飲めるかもしれない」
彼女のペースに合わせ、ゆっくりと小川に歩み寄った。
とても綺麗な川だ。
水は穏やかに流れ、ところどころに魚が泳いでいる。
「きれいな川だね…」
リナリアはそう言って、手で川の水をすくった。
少し見つめてから、それを口に運ぶ。
「…うん、おいしい」
彼女の顔に笑顔が戻った。
「それなら良かった…」
言いつつ、俺も手で水をすくおうとして、ふと気づく。
「…ん?」
水面が、一瞬だけ暗くなったかと思えば、すぐ元に戻った。
まるで、俺の頭上を何かが通り過ぎたようで…。
次の瞬間、俺の背後で爆発音がした。
「うわっ!」
「なんだ!?」
リナリアと共に背後を見ると、膝をついた姿勢でいた俺のガンプラの前で、爆発が起きている。
「マジかよっ!?」
思わず駆け寄ったが…大丈夫だ。
どうやら爆発したのは機体ではなく、その直前の地面のほうで、機体は少し爆風を浴びただけらしい。
とはいえ、ひとまずガンプラに乗り込んで、爆心地から距離を取る。
「一体何が起きたんだ…?」
呟きながら、モニター越しに爆発した部分を調べようとする。
しかし、それは警告音に邪魔された。
「…っ!?」
とっさに機体の姿勢を変えると、そのすれすれをビームが通り過ぎた。
これは…狙撃か!
「ジン!」
「リナリア、乗れ!」
小川の側にいたリナリアを、機体の右手ですくい上げ、同時にコックピット内へ転送させる。
その直後、次の狙撃が来た。今度は避けきれない。
「くそッ!」
左腕のインジェクターからプロテクションを生成し、これを防ぐ。
…いや、ダメだ、防ぎきれない!
「くっ!」
開いた右腕を正面に向けて、瞬間的に多量の硬化粒子を射出した。
プロテクションが完全に硬化して、遮蔽物となる。
その瞬間の隙を見つけ、大きくジャンプした。
間も無くして遮蔽物がビームに負けて爆散、その爆風に乗る形で、俺のガンプラは大きく空へ飛躍する。
「どこだ…!?」
上空から、ビームの飛んできた先を見るが、その先にビームの発生源らしきものはない。
…いや、相手が狙撃を行ったということは、何かが居るのは間違いない。
このガンプラ、クリスタイル・オーガンダムでは捕捉できないだけだ。
「また来るよ!」
リナリアの声と共に警告音が鳴った。新しいビームの柱が向かってくる。
「くそッ!」
プロテクションの耐えられない射撃なら、避けるしかない。
なんとか射線上から逃れる。
「ジン、反撃しようよ!」
リナリアにそう言われるが、
「そういわれてもな…」
そんな風に答えるしかない。
俺のガンプラ、クリスタイル・オーガンダムは、クラフタルシステムを搭載し、戦況に応じて戦い方を変えることができる機体だ。
…しかし、それは敵が視認できて、どんな武装をしているかが判明した時点で、ようやく真価を発揮する。
加えて、所持している中型のビームライフルの射程が、この機体の最大射程距離となっている。
言うなれば、近〜中距離戦特化型。
今、敵に俺が見えていても、俺に敵は見えない距離にいる。
反撃するなら、距離を詰めなければ…。
「…行くしかないかッ!」
言いながらも、俺は機体を前進させた。
カメラが敵機を捉える距離まで行けば、こちらのライフルも射程圏内に入る。
不規則な動きを心がけながら、連射される射撃を掻い潜り、前に進む。
やがて、カメラに何かが映った。
「そこだっ!」
威嚇で構わないと判断し、ロックオンよりも早くライフルを放つ。
思った通り、敵機はそれを警戒したらしく、連射が止まった。
「お前! 突然狙撃してくるなんて、一体なんのつもりだ!」
スピーカーを使って、眼前に問いかけた。
しかし、帰ってきたのは人の声ではなく、新たな射撃。
「なんか答えろよ!」
言いながらも射撃を回避し、接近すると、やがてその姿が明らかになる。
…って、
「何っ!?」
「うわぁ、なにあれ!?」
その姿を見て、俺とリナリアは同時に驚いた。
本体中央上部にジェガンの頭部。
それとはアンバランスに、モビルスーツ三体くらいは簡単に格納できそうな、巨大な胴体。
両端には四本の腕と、二本の砲身。
本体下部には脚が四つ。しかし関節らしき部分は少なく、あくまでも足先が四つ並んでいるだけ、のようにも見える。
そんな全体像を一言で表すなら、『宇宙世紀の機体で再現されたグランドガンダム』だ。
「アレが俺達を狙ったのか…?」
思わず呟く俺に、そいつは砲門を輝かせ、新たな射撃を放ってきた。
やはり、こいつで間違いない。とにかく回避する。
「っぐ!」
いや、少し間に合わなかった。こちらが持っていたビームライフルにかすめてしまう。
咄嗟にライフルを投げ捨てた。案の定誘爆し、ライフルは粉々に砕け散る。
これでは、遠距離からの攻撃手段が断たれてしまった。
「ジャベリンクラフト!」
ボイスコマンドで擬似ビームジャベリンを生成し、持ち替えて投げる。
その間に懐に飛び込むつもりだったが、先行したジャベリンは真っ直ぐ敵の装甲に命中したにもかかわらず、簡単に弾かれてしまう。
「固いな…!」
ならば関節部を直接攻撃し、巨体を順番に崩していくべきか。そう判断し、加速して敵機に急接近する。
しかし、敵も俺の接近を許したくないのか、射撃で妨害してきた。
俺もこれを回避しつつ、敵の後ろへ回り込む。
どんなに巨大でも、必ずどこかに弱点がある。それを探していたが、
「鬱陶しいんだよォ!」
敵の声らしきものが聞こえたかと思えば、その胴体装甲の一部が開き、奥から足が飛び出した。
「ぐあっ!」
とても重い蹴り。まともに食らった俺のガンプラは、大きく吹き飛ばされてしまう。
すぐに体制を整えて着地したが、またしても大きく距離を取られてしまった。
「チョロチョロとハエみたいに動き回りやがって!」
その声と共に、敵機は二基の砲塔をこちらに向けた。
それまでビーム砲を放っていた砲身が、それぞれ四方に開き、粒子を収束している。
マズい、あの光り方はメガ粒子砲だ。
まともに受けたら致命傷になってしまう。
「かっ消えろ!」
叫びと共に、敵機からメガ粒子砲が発射された。
俺は全力で横に飛び、間一髪のところでギリギリ回避する。
「チィッ!」
擬似グランドガンダムは、砲撃が回避されたのを確認すると、今度は両腕をこちらに向けて、拳を分離して射出した。
まっすぐこちらに向かって飛んでくる。捕縛してから確実に撃ち抜くつもりだろう。
「だぁっ!」
対して俺は、機体の背中からもう一本のビームサーベルを引き抜き、飛んできた両腕を斬りつける。
しかし、
「なっ!?」
それは拳ではなく、拳の形をした煙幕弾だった。
切り裂いた先から大量の煙が放出され、視界を奪われる。
マズい、この隙に射撃が来たら、避けられない。
「くそッ!」
煙を晴らすのではなく、煙から逃げるように、その場から大きく後退した。
直後、背中が壁に当たり、機体が衝撃を受ける。
…壁? ここは草原フィールドのはずじゃ…
「…ッ! ジン! 跳んで!」
リナリアの声。条件反射でジャンプすると、真下を拳が通り過ぎた。
ついさっき俺が見間違えた、煙幕弾と同じ形の拳。
じゃあ、この壁はまさか!
「逃すかよォ!」
空に逃げようとしたが、機体の左足を別の腕に掴まれ、地面に引きずり落とされた。
「がはっ!」
衝撃と共に理解する。
俺が壁と間違えたのは、擬似グランドガンダムの胴体だった。
つまり、コイツは俺の背後に回り込んでいたのだ。
煙幕弾を発射してから、それを俺が『煙幕』と判断してバックステップを踏むまでの、とても短い時間に。
「いつの間に…ッ!?」
なんて言う間にも、擬似グランドガンダムは、二本目の腕で俺の機体の右腕を掴んだ。
こちらが左足と共に二箇所を固定されて動けない中、敵機は三本目と四本目の腕を伸ばし、胴体を左右から挟み込む。
マズい、完全に捕まってしまった。
そのまま吊るし上げられ、敵機の右側の砲門前まで誘導された。
「消えちまいな!!」
またメガ粒子砲だ。なんとかしなければ!
「このォ!」
背面スラスターからGN粒子を最大出力で噴射するが、敵の拘束力は強く、メガ粒子砲の射線上から逸れることが出来ない。
だったら!
「撃たせねェ!」
左腕のインジェクターから融合粒子を射出し、砲門に注ぎ込んだ。
粒子収束を妨害されたことで、メガ粒子砲の輝きが陰る。
しかも、性質上こちらの融合粒子も収束してしまい、砲門が塞がった。
不完全な収束と出口の封鎖で、粒子砲の砲門が膨れ上がる。
マズい、暴発する!
「クソッ!」
これに対して、擬似グランドガンダムは、砲身ごとハイメガ粒子砲を切り離した。
さらに、その巨体からは全く想像がつかないスピードで、眼前から後退する。
なんだあれは。そう驚く一瞬が、俺の反応を遅らせた。
「ジンっ!」
リナリアの声で我に帰った。俺のガンプラは敵機の後退によって拘束を解かれている。
慌ててバックステップを踏んだが、充分な距離が取れないまま、メガ粒子砲が暴発した。
「うわっ!」
機体が爆風に飲まれて、吹き飛ばされた。
同時にメガ粒子砲を形成していたパーツが飛び散り、無数の瓦礫となって、俺のガンプラの装甲に襲いかかる。
「くっ…!」
防御姿勢が取れず、機体の各部に損傷を負ってしまった。
何とか着地して体制を整えようとするが…、
「このォ!」
こちらがそうしている間にも、擬似グランドガンダムが新たな射撃を放った。
メガ粒子砲ではなく、これまで何度も避けてきた長射程射撃。
しかし、こちらは各部の損傷が激しく、挙動が安定しない。
避けられない!
「ぐぁッ!」
機体の左腕を持っていかれた。
肘先は完全に吹き飛ばされ、肩のクラフタルジェネレーターも大破する。
「くっ…そォ!」
全周囲を確認して、ジャベリンとして投げたままだったビームサーベルを見つけた。
融合粒子ワイヤーを射出し、引き寄せようとする。
しかし、インジェクターの出力が安定せず、ワイヤーが途切れてしまった。
ダメだ、やっぱり左肩のジェネレーターが機能していない。
融合粒子の生成能力が半減している。
「何か手は…!」
それでもなんとかならないかと、機体のステータスを確認した。
持っていたビームサーベルも、地面に叩きつけられた際に取りこぼしており、クラフタルシステムも半分が機能しない。
機体そのものはまだ動くが、ほぼ丸腰状態だ。
対して、敵機は長距離射撃と高機動性を兼ね備えている。
仮に懐に飛び込んだとしても、四本の腕によって手数の差でねじ伏せられてしまうだろう。
つまり。
「まいったな…勝てる気がしねぇ」
満身創痍、とでも言うのか。
どうする、考えろ…考えるんだ。
何か手があるはず…。
「消えちまえ!」
考えているうちにも、擬似グランドガンダムはもう一発を放ってきた。
回避…ダメだ、間に合わないッ!
「クソォッ!」
悔しさに叫ぶ俺の眼前に、敵の射撃が迫る。
その時だ。
突如、目の前に黒い何かが現れた。
俺がそれに気付くと同時に、黒い何かは俺めがけて放たれた射撃を受けて…。
「っな!?」
敵の驚く声。それも無理はない。
奴の長距離射撃は、黒いパーツの眼前で消え去ってしまったのだ。
まるで、黒いパーツに吸引されたかのように。
「これは…」
バウンスアブソーバー…だ。
粒子による射撃や砲撃を、吸引できる武装。
自律飛行はできず、使用時は投擲する必要があるが、ワイヤーで繋がれており、吸引後は本体に帰還して予備エネルギーとなる。
俺はこの武装を知っている。
この光景を見るのは、初めてじゃない。
この武装に助けられたことも。
「誰だッ!」
バウンスアブソーバーが帰還した先を見て、敵が声を上げる。
その視線の先には、一機のガンプラが立っていた。
ガンダムデュナメスのような外見と、多数の重火器を装備した、SD体型のガンプラ。
ガンダムウティエル。
かつて、幾度となく俺と共に戦った機体。
「セイゴ!」
俺は思わず、それを所持するダイバーの名前を叫んだ。
「テメェ、何モンだ!?」
擬似グランドガンダムから発せられる声に答えず、ウティエルは右肩からバズーカを引き抜き、放った。
小柄な体型とは不釣り合いな高火力射撃を前に、擬似グランドガンダムは回避運動を行う。
こちらも、相変わらず巨体からは想像もつかないスピードだが、こうして客観的に見ることで、一つ気づいた。
この擬似グランドガンダム、四本の足が全て地面に接しておらず、機体が少しだけ浮いている。
「…なるほど、ミノフスキークラフトだったのか」
ミノフスキークラフトとは、ホバークラフトの原理で宙に浮く機能だ。
あくまでも「浮く」だけなので、推進力を別で用意する必要がある…など、得られる効果に対して必要なリソースが大きすぎるため、常人は滅多に組み込まない機能ではある。
しかし…なるほど、浮遊している物体の射撃姿勢を安定させるほどの出力があれば、瞬間的な超スピードでの移動も不可能ではない。
それだけ高い技術を持ったビルダーが作ったガンプラ…ということか。
「答えねェなら、ぶっ壊しても文句はねぇな!?」
言いながら、擬似グランドガンダムは上二本の腕をウティエルに向けた。
それらの手首が下に垂れ、中からミサイルがせり出す。
あんな機能まであるのか…。
「消えちまえ!」
声と共に放たれるミサイル。
対して、ウティエルは両腰にマウントされたGNピストルを引き抜いた。
その射撃でミサイルの弾頭を逸らしつつ、自らも横に飛んで回避行動を取る。
「チィッ!」
それでも、擬似グランドガンダムは負けじと、更にミサイルを連射した。全てがウティエルを狙って飛んで行くが、どれも当たらない。
GNピストルによる『いなし』と、自身の機動性を活かした立ち回りで避け回っているのだ。
まるで、ダンスのステップを踏むかのように。
「踊ってんじゃねェ!」
擬似グランドガンダムは、ミサイルの連射を止めると、今度は胴体ごと下二本の腕をウティエルに向けた。
手首が下に垂れると、ガトリングがせり出す。
「これでどうだァ!」
ウティエルへと前進しながら、ガトリングが火を吹いた。
「…ッ!」
その巨体に気圧されたのか、ウティエルはついに後退しはじめる。
「逃すかよォ!」
それを追い、擬似グランドガンダムは、ガトリングを乱射しながら前進する。
やがて、先ほどまでウティエルがミサイルを回避していたポイントまで来た。
その瞬間だ。
「ぐおっ!?」
突然、擬似グランドガンダムが動きを止めた。
違う、止められたんだ。
「な、なんだこれ!? 動かねェ!」
機体の異常を叫ぶ声。そこでようやく、ミサイルとガトリングで巻き上がっていた煙が晴れてきた。
擬似グランドガンダムの外装に、細かな緑の光。
あれも、俺には見覚えがある。
「硬化粒子…カプセルを使ったのか」
ウティエルの両腕に搭載された、「GN粒子を硬化させる粒子」を凝縮したカプセル。
ウティエルがミサイルを掻い潜っていた時に、ウティエル自身が排出したGN粒子。
おそらく、それが滞留している地点に、硬化粒子カプセルを放ったんだ。
よって、GN粒子の中に飛び込む形になった擬似グランドガンダムは、粒子同士の融合による硬化に囚われ、一時的に動きを封じられている。
ということは。
「…終わりだよ」
遥か彼方で、両肩のバズーカとバスターライフルを引き抜く、ウティエル。
それらを前後に連結させ、更にバウンスアブソーバーを取り付け、巨大な砲身を作った。
来る。究極の一撃が。
「トランザム・ブレイカー!」
一瞬、ウティエルの全身が赤く輝いた。
かと思えば、その輝きは合体した砲身に吸収されていく。
「ティーロ・デル・テンペスタ!!」
叫びと共に、合体した砲身が火を吹いた。
その砲撃はウティエルの体躯はおろか、擬似グランドガンダムのそれすらを軽く超えるほどに巨大なものとなる。
避けようのない、強大な砲撃。
「なっ…くそォ!」
擬似グランドガンダムは融合粒子諸共、砲撃が作る光の柱の中へ消えていく。
「…すごい…」
リナリアが漏らす声を横に、俺も密かに驚いていた。
以前よりチャージの時間が短縮され、砲撃の威力も上がっている。
「…かなり、改良されてるみたいだな…」
それもそうか。
俺の知ってる数値は、半年以上前のものだ。
「ジン、あのガンプラ、知ってるの?」
俺の言葉が気になったのか、リナリアが聞いてきた。
「…ああ、あの機体の名は、ガンダムウティエル」
知っているさ、誰よりも。
何故なら。
「数年前、俺が作ったガンプラだ」
擬似グランドガンダムは、完全に機能を停止した。
それを確認し、俺はガンプラに乗ったまま、ウティエルに歩み寄る。
「助かったよ、セイゴ」
俺がウティエルを譲渡した、友達ともいうべきダイバーの名前を口にする。
しかし、ウティエルは背を向けると、立ち去ろうとした。
「なっ、ちょっと待てよ」
思わずガンプラの右手で、ウティエルの肩に触れる。
すると、映像通信が入ってきた。ウティエルからだ。
「あの、人違いですよ」
その声と共に映されたのは、見知らぬダイバーの姿。
セイゴじゃない。
「…えっ?」
予想だにしない光景に、思わずその機体から手を離してしまった。
直後、映像通信は途絶え、ウティエルは大きく跳躍し、俺から距離を取る。
「ま、待ってくれ!」
追いかけようとした俺だったが、ガンプラが姿勢を崩して倒れそうになった。
「きゃっ!」
リナリアが声を漏らす。
そうだ、うっかりしていたが、今俺のガンプラは満身創痍だった。
「おっ…と!」
とっさにコンソールを操作して、機体の体勢を立て直す。
だが、その間にウティエルは視認できないほど遠くへと行ってしまった。
「…なんで…」
なぜ、セイゴ以外の人間がウティエルに乗っているんだ。
「…ジン?」
気づけば、リナリアが不思議そうな顔で、俺を見ている。
「ああ…」
そうだ、まだリナリアには、何も話していない。
少しだけ話しておこう。
「ガンダムウティエルは、俺がセイゴの…友達のために作った機体なんだ」
始まりは、もう何年も前の話。
俺とセイゴは、GBNとは関係のない、とあるオンラインシューティングゲームで知り合った。
そのゲームで協力するうちに、ガンダム作品の話で意気投合して、俺が彼をGBNに誘った。
彼自身、元々興味はあったが、訳あって彼のリアルではガンプラを作ることができないので、無念に思っていたらしい。
そんなセイゴのために、俺がガンプラを用意した。
それこそが、先のガンダムウティエルだ。
GBNでは、ガンプラの所有権をダイバー同士によって譲渡し合うことができる。
ダイバーとしての所有権さえ持っていれば、リアルで同じガンプラを持っている必要はない。
ただし、所有権を譲ってしまえば、ガンプラをリアルで持っていても、GBN内で自分の機体として扱うことはできなくなる。
それでも俺は、自ら作ったウティエルの所有権を、セイゴに渡した。
セイゴと共に、GBNを楽しみたかったからだ。
セイゴは喜んでくれた。これで自分もGBNを楽しめると、笑ってくれた。
それから俺たちは、互いに競い合い、助け合い、少しずつダイバーとしての腕を上げていった。
互いに互いを高め合いながら、楽しい日々を過ごしていた。
その頃、俺は自分の機体だけでなく、譲渡後のウティエルを、リアルで改修する役割も担当していた。
最初は狙撃を得意としていたものを、出会いの原点であるシューティングゲームでできたことを踏襲した形に変更する…など、機体の特性を、可能な限りセイゴの要望に合わせていった。
一方で、俺が改修に専念できるよう、セイゴはあらゆるミッションを事前に分析し、戦術的にクリアするための作戦を立ててくれた。
前線に立つ俺と、射撃で援護するセイゴ。
二人のコンビネーションで、さまざまなミッションを攻略していった。
やがて俺たちは、当時、超難関フォースミッション攻略のために、勢力を拡大していたフォース「フューチャーコンパス」に勧誘された。
俺たちはフューチャーコンパスの一員となり、難関ミッションに挑戦。その戦果を買われ、攻略後もフォースの一員となった。
その証であるタトゥーは、今も左腕に刻まれている。
俺たちは、沢山の仲間と、多くのミッションを攻略していった…。
「…じゃあ、あのガンプラは、ジンが友達にあげたものだから、あの時ジンは、友達が助けてくれた、って思ったんだね」
「ああ。…でも、違った…」
リナリアの言葉に、俺は頷いて答える。
あの機体がウティエルであることに間違いはない。
あれはリアルでは俺が所持し、今も大切に保管しているガンプラだ。間違える要素はない。
…でも、だとしたら何故、セイゴ以外のダイバーが乗っていたのか。
「…まさか、セイゴはウティエルの所有権を、誰かに譲ったのか…?」
自分で言って、思い直す。
ありえない。
仮に今、セイゴが別の機体に乗っているとしても、ずっと一緒に戦ってきたウティエルを簡単に手放すわけがない。
セイゴはそんなことはしない。それは、長い間彼と共に居た俺自身が、よく知っている。
でも、じゃあ何故…、なんて考えていると、リナリアが口を開く。
「うーん、ひょっとして、何か理由があるのかな」
「えっ? …そういえば…」
言われて、思い出す。
以前、久しぶりにセイゴに会った時、彼は自分のフレンドデータが消えている、と言っていた。
もしや…と思い、フレンドリストを確認してみる。
「…登録ガンプラが空白になってる…」
予感は的中した。セイゴのダイバーデータには、ダイバールックなどの最低限のステータスしか記載されていない。
彼がログインしていないうちに消えてしまったのは、フレンドリストだけじゃなかったんだ。
「…セイゴが『ウティエルを使用している』というデータそのものが、GBNから消えているのか…」
そして、なぜか今、そのデータを持っているのは、先ほど見た初対面のダイバー。
「…だとすれば、さっきの奴に事情を話して、ウティエルを返してもらわないと…」
なんて呟いてみるが、ウティエルはとっくに捕捉できない位置に居る。
あるいは、このディメンションから出てしまったかもしれない。
けれど、飛んで行った方角は分かる。
俺は機体をウティエルが消えた方角に向けて、飛行させた。
「…いないね、さっきのガンプラ」
「…そうだな」
リナリアと共に、コックピットから草原を見渡す。
しかし、数十秒飛んだあたりで、機体の異常を示すアラートが鳴った。
バスン、という爆発音のあと、高度が低下しはじめる。
「うわっ、ジン! 墜落しちゃう!」
「おわっ、限界か!」
驚くリナリアを背に、コンソールを操作して、なんとか着陸姿勢をとる。
クリスタイル・オーガンダムは、墜落…とまではいかないが、草原を掻き乱しながら強引に緊急着陸した。
「きゃっ!」
着地の衝撃で、隣にいたリナリアが倒れる。
「大丈夫か?」
「う、うん、平気」
俺の言葉に頷いてから、彼女はゆっくり立ち上がる。
その後、俺はパネルを操作して、機体の損傷状況を確認した。
「…ダメだ、これ以上は飛べないな…」
脚部スラスターの駆動系に、擬似グランドガンダムのメガ粒子砲の破片が、入り込んでしまっている。
これ以上の捜索は無理だ。
「…仕方ない、一旦このディメンションから抜けるか…」
近隣のエリアにガンプラを修理できる設備はない。
一度ロビーに戻って、ハンガーエリアで修復しよう。
リナリアも一緒に来るか?
それを聞くために、口を開きかけた直後。
「逃さねェ!」
彼方から聞こえた叫び声。
同時に、俺のガンプラの右肩が吹き飛んだ。
「なっ!?」
「えっ!?」
リナリアと共に驚きの声を漏らし、俺は思わず背後を振り返る。
そこから迫ってくるのは…、
「な、何だアレ!?」
ジェガンだ。
ジェガンが、まっすぐこちらへ飛んでくる。
その右手にはビームライフルを持ち、銃口がこちらを向いている。あいつが撃って来たのか。
というか、あのジェガン、見覚えが…。
「ジン! あれって、さっきの!」
「っ、あいつか!」
リナリアの言葉で気がつく。
あのジェガン、おそらく先程、ウティエルの砲撃をモロに受けたはずの「擬似グランドガンダム」だ。
よくみると下半身はなく、推進装置のようなものを、左腕で機体後部にあてがっている。
まさか…あの巨体をパージして、あんな不安定な状態でここまで飛んできたというのか。
「逃がさねぇぞ!!」
声と共に放たれる、更なる射撃。
「くっ!」
回避のため跳躍しようとするが、やはり挙動が安定せず、姿勢が崩れて機体が大きくよろけた。
その動きによって射線上から少し逸れたが、今度は頭部が丸ごと射抜かれる。
コックピット内の全周囲モニターが消灯した。
メインカメラをやられたんだ。
すぐさま胴体のサブカメラに切り替わるが、それが写した更なる射撃は、あまりにも近くに迫りすぎていて。
「ぐああっ!」
機体の右足が射抜かれた。機体が草原に倒れこむ。
「く、くそっ!」
横転してサブカメラの向きをジェガンに向けると、既にジェガンはかなりの距離まで肉薄していた。
「逃がさねェ! テメェも! ガキも!」
ライフルを投げ捨てて、推進装置の側面から長方形の武器を取り外すジェガン。
その先端からはビームの刃が出現した。ビームサーベルだ。
「お前を連れて行かなきゃ、オレは前に進めねェんだ!」
ついに、ジェガンが俺のガンプラの上に覆い被さった。
手に持ったビームサーベルを持ち替え、胴体を狙って大きく振り上げる。
ダメだ、機体が動かない!
避けられない!
「させないのですよ!」
瞬間、突然聞こえた声と共に、ジェガンの姿が、サブカメラの視界から消えた。
「なにィ!」
驚く声を漏らすジェガンは、いつのまにか遠くに移動している。
その機体は、網のようなものに拘束されていた。
「これ以上、キミに好き勝手はさせないのですよ」
ジェガンが囚われた反対側には、別のガンプラの姿がある。
その姿は初めて見たが、そいつが響かせる声には聞き覚えがあった。
いや、声というか、喋り方なのだが。
「ダイバー・タク。ガードフレームを盗んだ罪で、運営から令状が出ているのですよ。よってこのまま、身柄を運営に送るのですよ」
行ってる最中にも、ジェガンはデータ化し、このディメンションから消えはじめる。
「さよならですよー」
なんて言葉をかけられながら、ジェガンは完全に消えてしまった。
「…さて、お手柄ですよ、ジンくん」
そんな言葉を発するガンプラから、一人の女性ダイバーが現れる。
「キミを尾行していてよかったのですよ」
どうやら俺は、この女に救われたらしい。
「ジン、この人は…?」
ふと見ると、リナリアが不思議そうにこっちを見ている。
「ああ、そうか。リナリアは初めて会うんだっけ」
彼女と知り合ったのは、まだつい最近の話。
俺が最初に、盗まれたガードフレームを撃破した時のことだ。
「彼女はロコモ。…よくは知らないけど、GBNの運営サイドにいるダイバー、だそうだ」
方舟の少女 ガンプラデータファイル04
【フォートレス・ターク・ジェガン】
ダイバー・タクが操るガンプラ。
元々はスタークジェガンをベースにカスタムしたものだが、決戦機としての武装強化を図った結果、要塞のような規模になった。
実は機体の大半が、サイコガンダムのモビルアーマー形態をベースに作成されており、ガイアガンダムのシルエットに似ているのは『偶然』である。
【ガンダムウティエル】
射撃性能と機動性に特化したガンプラ。
多数の銃器を巧みに使い分け、敵を翻弄する。
ミノフスキー粒子を吸引して己の砲撃の威力に加算する『バウンスアブソーバー』や、トランザムで上げた出力の全てを射撃の威力に変える『トランザム・ブレイカー』などにより、強力な射撃が可能。
製作したのはジンだが、使用者は…