ガンダムビルドダイバーズ外伝 〜方舟の少女〜 作:楽雁つばさ
行きたいところには、いつでも行けた。
食べたいものは、いつでも食べられた。
知りたいことも。
見たいものも。
触れたいものも。
いろんなものが、いつでもそこにあった。
けどそれは、全部じゃない。
足りなかった。
貰えなかった。
作れなかった。
大切なもの。
みんなが、大切にしているもの。
わたしには、なかった。
ないままだった。
わたしは、それが一番ほしかった。
リナリアとの再会から数日後。
俺は、ハンガーエリアでコックピットに乗り込み、ガンプラの最終調整を行っていた。
「…よし、とりあえずこれで…」
呟いて、ガンプラから降りる。
「あっ、やっほー、ジン」
すると、下にはリナリアが居た。
「やぁ、リナリア。…随分早いな」
彼女とはこの場所で待ち合わせをしていたが、それにしても、決めた時間より30分以上早い。
「えへへ。…なんだか、ワクワクしちゃって」
笑ってくれるリナリアは、やがて俺のガンプラを見上げる。
「ところで、どうして今日は、いつもと違うガンプラなの?」
そう、実は今回、普段と違うガンプラをスキャンしているのだ。
「クリスタイル・オーガンダムは、宇宙空間に適応してないんだ。そこで、前の機体を用意したのさ」
俺が、クリスタイル・オーガンダムを完成させるまで使っていた、先代の愛機。
「その名も『ガンダムアヴァンシェル』。ガンダムハルートがベースの、可変機構を持つガンプラだ」
「へぇ…」
リナリアは、アヴァンシェルをじっくり眺めてから、
「なんか、ちょっとヤンチャそう…」
そんなふうに言葉を漏らした。
「ヤンチャって…」
…まぁ、間違ってはいないか。
このガンプラを主に使っていた時期は、俺がマスダイバーだった時期と重なっている。
「…まぁとにかく、このガンプラなら、ここから直接行けるんだよ」
俺はパンフレットを取り出して、リナリアに渡す。
「今日の目的地、『グレーヒー・リボン』に、さ」
グレーヒー・リボン。
とあるサーバーの管轄にある、アミューズメント施設だ。
小型のスペースコロニーと、それを取り巻く無数の小惑星群から出来ており、一帯が娯楽施設のみで構成されている。
言うなれば、スペースコロニーのテーマパーク。
今回、俺はこのエリアに、リナリアを誘った。
自分の都合を何も話さずに、彼女に心配をかけてしまったことへの、お詫びだ。
俺たちを乗せたアヴァンシェルが、ハンガーから、宇宙行きのカタパルトへと移送される。
「ジン、リナリア、ガンダムアヴァンシェル! 発進っ!」
掛け声と共に、機体を発進させた。
少し飛行し、出力の安定を待ってから、高速巡航形態に変形させる。
…よし、この速度なら数分で到着するだろう。
そんな風に思っていると、
「ねぇ、ジン」
リナリアが話しかけてきた。
「ん?」
返事をして彼女を見ると、その視線はどこか遠くを捉えていて…。
「…なんか、あっちのほう、チカチカしてない?」
「えっ?」
つられて見ると、たしかに右前方、かなり遠くで、いくつかの光が点滅していた。
銃撃戦の爆発だろうか。
「どうやら、フリーバトルが行われているらしいな…」
更によくみると、爆発の中を飛び交う、二つの機体があった。
他の爆発によって、それぞれ金色と水色に照らされる。
「…ッ、ジン! あっちに向かって!」
突然、リナリアが叫んだ。
「ど、どうした…?」
聞き返すと、リナリアは胸に手を当てて、きゅっと握る。
「感じる…。助けて、って。…金のガンプラが、助けてほしいって、叫んでる…!」
「な、何…?」
よくわからないが、リナリアの目は真剣だ。
…そういえば、この前はクリスタイル・オーガンダムと話をした、と言っていた。
彼女はエルダイバーだ。ガンプラの声を聞く、不思議な力がある…のかもしれない。
「ジン!」
もう一度、俺の名前を呼ぶ声。
ここは、信じるしかない。
「…わかった。金色の方を助ければいいんだな?」
「うん!」
確認してから、アヴァンシェルの進路を変更する。
「しっかり捕まってろよ!」
言って、俺達は二機の飛び交う宙域へ向かった。
水色の機体は、ズゴックの改造機だった。
背面と下半身がブースターに換装され、下部には大型のロングライフルを付けている。
ズゴックというより、まるでゼーゴックだ。
「お前のダイバーポイントを寄越せって言ってんだよ!」
そんな言葉を叫びながら、ゼーゴックはロングライフルを乱射した。
「やらぬと言っている!」
一方、金のガンプラは、ゼーゴックに背を向けたまま、射線から逸れた。
デルタガンダムのウェブライダー形態…のようだが、その前方には巨大な輸送用コンテナが付いている。
可変機というより『デルタガンダムの足が突き出ているコンテナ』とでもいうべきか。
「ええい、仕入れ時でなければ…っ!」
コンテナは、不規則な軌道で射撃を回避し続けているが、なにせコンテナが大きすぎる。
あれでは、射撃に当たるのも時間の問題だろう。
「そこまでだ!」
タイミングを見計らって、俺はアヴァンシェルで、二機の間に飛び込んだ。
「ん!? なんだお前! 邪魔すんな!」
ゼーゴックが軌道を変える。
アヴァンシェルを避けて行くつもりか。
「そこまでだって言ってんだよ!」
ゼーゴックの眼前に、威嚇射撃を放った。
ゼーゴックが制止する。
一方で、アヴァンシェルには金のコンテナから音声通信が入った。
「誰だか知らないが、恩にきる!」
乗っているダイバーの声。
金のコンテナはぐんぐん遠ざかっていく。
「…チッ、よくも邪魔しやがったな!」
ゼーゴックが両腕を広げた。
「こうなったら、先にテメェのポイントを頂いてやる!」
「させるかッ!」
ゼーゴックのクローが届く前に、アヴァンシェルは急加速して回避。
モビルスーツ形態に変形して、両手にライフルを持つ。
「オラぁ!」
ゼーゴックは両手のクローを開いて、中央のメガ粒子砲を放ってきた。
それらを避けて、俺もライフルを放つ。
…つもりだったが、少し間に合わず、メガ粒子砲に、左の翼を撃ち抜かれた。
「ッ!?」
メガ粒子砲の挙動はしっかり見えていた。避けられない射速ではなかったハズだ。
「オラァ!」
ゼーゴックはメガ粒子砲を連射してくる。
なんとか避けるが、今度は右の翼も撃ち抜かれた。
向こうの射撃も速いが、それ以上に、こちらの反応速度が鈍い。
「オイオイ、威勢がいいのは口だけか?」
そんな事まで言われてしまう。
「そんなはずは…」
俺はステータスを確認するが、機体に異常はない。
「…いや、そうか!」
アヴァンシェルの反応速度は、クリスタイル・オーガンダムより遅い。
あちらでは難なく避けられる射撃も、同じ感覚で扱うと、機体が遅れているように感じるんだ。
俺は、それを忘れていた。
「ジン、上!」
リナリアの声に上を向くと、二発のロケット弾が迫って来ている。
「くっ!」
ライフルで迎撃…いや、間に合わない。
落ち着け。アヴァンシェルなら、こういうときは…、
「こうだッ!」
上体を大きく逸らして、膝を上に突き出した。
膝の中には、ビームサーベルが格納されている。
これを手に取らず、直接刀身を出して、ロケット弾を切り裂いた。
「…よし!」
大丈夫だ。
クリスタイル・オーガンダムでなくても、アヴァンシェルにしかできないことはある。
例え、ブレイクデカールを搭載していなくても…。
「行くぞッ!」
ビームサーベルを膝から射出して、両手に持ち、ゼーゴックに接近する。
「こいつめ!」
ゼーゴックは腕をこちらに向けて、またメガ粒子砲を放とうとする。
だが、それは収束途中で霧散してしまった。
「何ッ!?」
ゼーゴックが一瞬、怯む。
「そこッ!」
その隙を突いて、アヴァンシェルのビームサーベルが、ゼーゴックの右肘から下を切り落とした。
「チィッ!」
飛び退くゼーゴック。
「まともにやり合うなら、燃料が足りねぇか…。命拾いさせてやるよ!」
そんな言葉と共に、頭上からロケット弾を打ち出してきた。
しかし、それらは破裂し、中からスモークが大量に溢れ出す。
「うわっ!」
俺が怯む隙に、ゼーゴックは機体を反転させて、こちらに背を向け、一目散に飛び去っていく。
一瞬、追いかけようかと思ったが、こちらも両翼を失っている。
深追いは禁物だ。俺は機体を変形させて、念のため、金のコンテナが離脱した方へと向かった。
「すまない。助かった」
金のコンテナに追い付くと、向こうから通信が入った。
「あそこで撃墜されていたら、私はとても困ったことになっていたよ…。感謝する」
映像通信なので、相手のダイバーが映される。
体躯の良い男性だ。黒い体毛はとても濃く、肌も暗い色をしている。
まるで、
「ゴリラ…?」
同じことを思ったのか、リナリアが呟いた。
「ああ。このダイバールックは、客受けが良いのさ」
答えるゴリラは、胸を張る。
「自己紹介がまだだったな。私はクッタロ。グレーヒー・リボンで、チョコバナナの屋台を経営している」
チョコバナナの屋台…。
なるほど、それでゴリラなのか。
「俺は、ジン。…こっちは、フレンドのリナリアだ」
俺も名乗り、リナリアも会釈する。
「ふむ。…では、ジンとリナリア。改めて、助けてくれたこと、感謝する」
クッタロは頭を下げた。
「そうだ、助けてくれたお礼に、私のチョコバナナを差し上げよう。このまま私と一緒に来てくれないか?」
「チョコバナナ…」
クッタロの言葉に、リナリアが目を輝かせる。
「もらうか?」
一応聞くと、彼女はこくこくと頷いてみせた。
「じゃあ、お言葉に甘えようかな…」
そう答えると、クッタロも微笑む。
「よし、なら、是非ついてきてくれ」
言われるまま、俺たちはクッタロについていった。
グレーヒー・リボンの中心地ともいえる、小型コロニーの内部。
宇宙港から娯楽施設へ続く大通りには、多くの屋台がひしめき合っている。
そのなかの一つに、クッタロの屋台があった。
「…できた。待たせたな、二人とも」
待っていた俺とリナリアに、クッタロがチョコバナナを手渡した。
「わぁっ、おいしそう… いただきます!」
リナリアは上機嫌で、それを口に運ぶ。
「…んーっ! おいしー!」
頬を抑えるその仕草は、本当に嬉しそうだ。
「そう言ってもらえると、私も嬉しいよ」
クッタロがリナリアに微笑む。
俺も食べてみた。
「んんっ!?」
思わず声が出た。甘い。
いや、当然だ。チョコバナナなんだから。
…って、そうじゃない。
おかしい。
俺のダイブ環境は、食べ物アイテムの味が、リアルの俺の味覚にフィードバックされるほど、整っていない。
現に、以前スワークルで飲んだコーヒーは、味を感じなかった。
幻覚…か?
試しに、もう一口食べてみる。
「…美味い」
間違いない。俺の味覚は、チョコバナナの味を感じている。
どういうことなんだ…?
「クッタロ、ありがとう! とっても美味しかった!」
俺が疑問を持っている間に、リナリアは全部食べてしまったらしい。
「ね、ジン!」
彼女は同意を求めて、俺に微笑んでくれる。
「…ああ、絶品だ」
俺は答えてから、また一口。
やはり、そのチョコバナナはとても美味しかった。
「あれぇっ? ジンくん!」
名前を呼ばれて振り返ると、そこには見知った顔が…、
「ということは…はうわっ! リ〜ナリアちゃ〜んッ!」
視界からすぐに消えて、
「わわっ!?」
リナリアの手を取った。
「こんな所で会うなんて、偶然、必然、いや、運命ですよー!」
早口でそんなことを言うのは、やはり、ロコモだ。
ブンブンと腕を振り、満面の笑みを浮かべている。
「こ、こんにちは、ロコモ…」
対して、腕を振られるリナリアは、苦笑いを浮かべていた。
「こんな所、とはご挨拶じゃないか、ロコモ」
そこに、クッタロが声を掛ける。
「あー、大尉。元気そうで何よりですよー」
「今日も『いつもの』を飲みに来たのか?」
「もちろん! …あっ、二人分でお願いするのですよ」
「わかった。少し待っていてくれ」
二人は知り合いなのか、なめらかに言葉を交わし、やがてクッタロは屋台の後ろから手鍋を取り出す。
何かを作るのだろうか。
「さて、リナリアちゃんっ! どこに行きたいですか? 何をしたいですか? なんでも、ボクがご一緒するのですよーっ」
ロコモは、マップを開いてリナリアに見せている。
「ご、ごめん、ロコモ。わたし、今日は先に約束が…」
リナリアが俺をみた。
「ほえ?」
つられてロコモも俺を見る。
「あー…、なるほど、そういうことですか」
その視線が鋭くなる。
「じゃあ、ボクとジンくんでフリーバトルをして、買った方がリナリアちゃんと遊ぶ権利を得る、というのはどうですか?」
なんでそうなるんだよ…。
「わざわざそんなことをしなくても、折角なんだから三人で遊べばいいじゃないか」
俺がそう提案しても、
「それじゃジンくんが邪魔なのですよ」
間髪入れずに答える。
こいつ…。よっぽどリナリアに興味があるんだな。
「…もしかして、ジンくんはボクに負けるのが怖いのですか?」
ニヤニヤと聞いてくる。
「そんな安い挑発には…」
乗らないぞ、なんて言葉を続けようとして、ふと考え直す。
「…いや、そうだな…」
さっきのゼーゴックとの戦闘で分かったが、俺は、アヴァンシェルの操作感覚を忘れていた。
それを思い出すためには、もう少し実戦が必要だ。
幸いにも、ここはバトル前にガンプラのダメージをリセットできるシステムがある。
ゼーゴックにやられた傷を修復して、五体満足で戦えそうだ。
「…わかった。バトルしようか」
「そうこなくっちゃ、ですよっ」
俺の答えに、ロコモは不適に笑った。
グレーヒー・リボンでフリーバトルを行う場合、対戦者は、専用のバトルエリアに転送される。
内装は、施設のアミューズメントを模してこそいるが、無人かつ安全。
以前俺がウティエルと対戦した、フリーバトルエリアによく似た場所だ。
前回同様、いくつかあるスタート地点にランダムで転送され、互いの機体を探して戦う、遭遇戦形のバトルとなる。
アヴァンシェルに乗った俺とリナリアも、バトル開始と共に、ロコモの機体を探した。
…そういえば、あいつはどんな機体を使うのかすら、俺は知らないな。
「リナリア、ロコモがどんなガンプラを使うか、わかるか?」
一応聞いてみたが、彼女は首を横に振る。
「そうか…」
まぁ、レーダーの反応さえ気にしていれば、見逃すということはないと思うが…、
なんて考えた、その時。
「っ!」
前方、二時の方角からアラート。
慌てて機体を急上昇させると、眼下を弾丸が通り過ぎる。
「そこかっ!」
俺は弾丸の放たれた元へ、アヴァンシェルを向かわせた。
敵機を有視界で捉えておきたい。
そう思って進んでいると、青い光とすれ違う。
「こっちですよっ!」
「ぐあっ!」
直後、背後からマシンガンを食らった。
「隙あり!」
間髪入れず、ヒートホークが迫る。
「っこのォ!」
アヴァンシェルの機首を軸に、機体を横回転させた。
主翼で弾くようにして、敵機ごとヒートホークを退ける。
「よよっ!?」
そうして少しの距離を取り、ようやく敵機の姿が判別できた。
相手のガンプラは…、
「…ヅダか」
ザクと正規採用の座を争ったモビルスーツ。
武装は普遍的だが、手数が多く、機動性も高いので、侮れない機体だ。
「そう! イグルーのヅダ、なのですよ」
通信で答えてくれたのは、やはりロコモだった。
「かっこいいでしょう?」
マシンガンを構え、ポーズを見せつけてくる。
「…ああ、確かに」
濃い藍色に塗装され、バックパックが見たことのないものに換装されている。
その他、元は対艦ライフルだったものが、銃身を短縮化されて右肩に懸下されていた。性能を削って取り回しを良くしたのか。
「…良いガンプラじゃないか」
機体の特徴を踏まえた上で、ダイバー好みにアレンジされた、実直なカスタマイズ…といったところか。
「えへへー。…って、そういうジンくんも、見慣れないガンプラなのですよ?」
ロコモも気付いてくれたか。
「ああ。ガンダムアヴァンシェルっていうのさ」
「新作なら、少し手を抜いてあげましょうか?」
ヅダのモノアイが強く光って、
「…なんていうほど、ボクは甘くないですよっ!」
マシンガンをこちらに向けた。
「そうかよ!」
対してこちらも、本体後部からGNミサイルを発射し、視界を奪う。
「よよっ!?」
ロコモが怯んでいる隙に、俺は彼女から少し距離を取った。
飛行形態の高速飛行で敵機を翻弄しつつ、隙を見て突撃しよう。
そう思ったのだが、
「逃がさないですよッ!」
ロコモは真っ直ぐに追いかけてきた。
速い。高速飛行形態で進むアヴァンシェルを、引けを取らないスピードで追いかけてくる。
ヅダの機動性は機体強度を度外視したものなので、無茶をすると空中分解を引き起こす。
しかしロコモは速度を上げ、ついにこちらに追いつき、更に追い抜いた。
「嘘だろッ!?」
眼前で急停止したヅダは、シールドのグリップを握って打撃用ピックを展開し、振りかぶる。
「こなくそッ!」
可変機構を活用し、変形しながら姿勢を反転。アヴァンシェルに急ブレーキをかける。
ヅダの攻撃は空振りに終わった。
「おお、上手いのですよ」
なんて言うロコモだが、
「でも、まだまだ!」
すぐさま、左足で回し蹴りをかましてきた。
「ですよっ!」
こちらは姿勢制御に気を取られて、その攻撃を回避できない。
「チぃっ!」
「わあっ!」
強い衝撃で、俺とリナリアが声を上げる。
シンプルな蹴りだが、その分威力も凄まじい。
とにかく、姿勢制御だ。
スラスターを反転させて機体を静止、ライフルで牽制射撃を…、
などと思ったその時、
「はうあっ!?」
ヅダの眼前すれすれを、銃撃が通り過ぎた。
「何事ですか!?」
ヅダがモノアイを向ける先。
その彼方から、更に弾丸が飛んでくる。
今度の狙いは…こっちか!
「くっ!」
避けると同時、視界にガンプラが映った。
遠方からビームマグナムを構えて、高速で迫ってくる、ザク。
あれは…スワークルの郊外エリアで見た機体だ。
「しっかり当てなさいよ!」
「ならば飛行を安定させろ!」
その足元には、戦闘機がいる。
Gアルケインの改造機だろうか。こちらは見覚えがないが、声に覚えがある。
ハロップ…いや、ミカだ。
「…っ!」
俺が悟るのと同時に、リナリアが俺の背中に隠れる。
間違いない。
この二機に乗っているのは、リナリアを狙うダイバー達だ。
「タイマンのフリーバトルに乱入するなんて、良い趣味をしているのですよ」
ロコモのヅダがマシンガンを構える。
「そんなの、知った事じゃないわよ!」
そこへ、ミカのGアルケインが接近した。
「アンタに用もないわ。とっとと堕ちなさい!」
「嫌に決まってるのですよ!」
射撃を行いながら近づくGアルケインを、ヅダがひらりと避け続ける。
一方で。
「我々の目的は、貴様が乗せているその少女だけだ」
ザクは俺たちを見ていた。
「貴様、ジンといったな」
「…ああ」
「やはり、その少女を素直に渡す気は、ないか?」
「当たり前だ」
こいつらが、何を思ってリナリアを狙うのか。
そんなことは知らないが、怯える彼女を渡すことはできない。
「ならば仕方ないな…」
ザクがヒートホークを手に取る。
「俺はラグザ。訳あって、力づくでもその少女を連れ帰らせてもらう!」
振り下ろされたヒートホークに、右膝の先を向けた。
「させねぇよ!」
膝に格納されているビームサーベルの柄から、直接刀身を出現させ、膝蹴りでヒートホークを受け止める。
「…ほう、面白い動きをするじゃないか!」
数秒の鍔迫り合いの末、ザクは自らこちらのサーベルに、わざと押し飛ばされた。
勢いを利用して素早く退け反り、軽快な足捌きで姿勢を整える。
「ならば、こうだ!」
その手には既に、ビームマグナムを構えていた。
「なっ…!」
思わず、左腕を構える。
しかし、ダメだ。今乗っているのはクリスタイル・オーガンダムじゃない。
プロテクションやディフェンサーは、搭載していない。
「ぐああっ!」
左腕が焼かれた。
「くそっ!」
後部のスラスターで機体を射線上から逸らし、なんとか被害を抑える。
左腕と左翼、持っていた片方のライフルを失い、飛行制御システムにもエラーが出た。
これでは、高速飛行ができない。
「くっ…!」
ダメだ。
やはりまだ、アヴァンシェルの操作感覚が取り戻せていない。
「タクを倒し、ミカを退けた男。どれほどのものかと期待していたが…、この程度なのか?」
ザクはビームマグナムのマガジンを交換し、改めてこちらに狙いを定めた。
「拍子抜けだな」
あのビームマグナム、反動による自壊を回避するために、出力を抑えてあるらしい。
耐久性と威力の最大妥協点を突き詰めたのだろう。
今一度まともに受ければ、致命傷は免れない。
「今一度言う。少女を渡せ。これ以上の戦いは無意味だ」
ともあれ、このダメージでは、次の射撃が避けられるかすら、わからない。
…これは、マズい。
「ロコモ!」
通信回線を入れ、彼女の名を呼ぶ。
「何ですかジンくん! こっちも手が離せないのですよ!」
ロコモは、もう一人のダイバーが乗る、Gアルケインと戦っていた。
「お前の特殊な権限で、俺たちを強制ログアウトできないか!?」
「そんなこと、やってみないとわかんないのですよ!」
「なら、試してくれ!」
認めたくないが、認めるしかない。
「今の俺じゃ、こいつには勝てない!」
「っ!?」
ロコモは一度、顔を合わせるかのように、アヴァンシェルの姿を見て、
「…了解ですよッ!」
ロングライフルをこちらに向けた。
「強制リスポーンプログラムを仕込んだ弾丸を撃つのですよ! これに当たれば、ハンガーに転送されるハズ!」
「わかった!」
ヅダが弾丸を放ち、アヴァンシェルに直撃した。
…の、だが。
「…ダメか!」
アヴァンシェルには何も起こらない。
ヅダからの弾丸がヒットした判定すら起こらない。
「お前たちの道理は通らん」
ザクがビームマグナムを構え直す。
「そのための、このガンプラだ」
ダメだ、やられる! 覚悟を決めたその時。
「させないわよ!」
ザクのビームマグナムは、遠方からの射撃を受けて誘爆した。
その射撃を放ったのは、なんと、ミカのGアルケインだ。
「…なんの真似だ、ミカ!」
「アンタに先を越されるわけにもいかないのよ、あたしはね!」
その上、わざわざアヴァンシェルとザクの間に飛び込み、銃口をラグザに向けてさえ居る。
「お前ら、仲間じゃないのか…?」
思わずそんな疑問が口から出た。
「はぁ? そんなわけないでしょ?」
ミカの言葉に、俺とリナリアは顔を見合わせる。
「…フダツキ、あんた本当に、何も知らないでオヒメサマを守ってるのね…」
何も知らない…?
「どういうことだ…?」
「…ふん。いいわ。この際だからひとつだけ教えてあげる!」
アルケインの指が、こちらを向く。
「そのオヒメサマには懸賞金が掛かってるのよ。ダイバーポイントじゃない本物の、現実のお金がね!」
懸賞金…?
「オヒメサマを連れて帰れば、あたしは莫大なお金を手に入れられるのよ!」
そんなものが、リナリアに掛けられていたのか。
じゃあコイツらは、その金が目当てでリナリアを…。
「そんな、つまらないことが…」
思わず出た言葉。
「つまらないって何よ!」
それを聞いた途端、Gアルケインはアヴァンシェルに突進してきた。
急加速に不意を突かれ、吹き飛ばされてしまう。
「こ、このっ!」
振り解こうとすると、Gアルケインは飛行形態のまま腕だけを出し、こちらの足を抑えてきた。
「ただの野次馬のクセに!」
ミカは叫びながら、アヴァンシェルをグレーヒー・リボンのコロニーの外壁に叩き付けた。
「ぐあっ!」
「きゃっ!」
俺とリナリアが声を漏らすのと同時、アヴァンシェルの右翼が、衝撃で外れてしまう。
「何の信念もないクセに! あたしの愛の邪魔、しないでよ!」
さらに、Gアルケインはアヴァンシェルをコロニーの外壁に押し当て続ける。
「ちぃッ!」
機体への負荷が大きい。早く体勢を整えなければ。
アヴァンシェルの膝を立て、ビームサーベルを突き刺そうとする。
しかし、それより早く、Gアルケインは脚部を展開して、アヴァンシェルを蹴り付けた。
反動で距離を取り、Gアルケインはライフルを手に取る。
「とっとと堕ちなさいッ!」
射撃が放たれた。
「くっ!」
俺はアヴァンシェルの背面にマウントしていた、飛行形態の機首を分離する。
これを前方に投げて、障壁として活用した。
あっけなく破壊されてしまうが、その隙に右翼からライフルを取り、爆炎の側面からGアルケインを狙う。
「愛とか信念とか、それがリナリアを連れて行く言い訳になるのかよ!」
数発撃つ。
が、どれも避けられた。
「言い訳、なんかじゃないッ!」
それどころか、向こうも射撃を返してくる。
両端の機銃からのビーム。これまでのライフルより射速が早い!
「クソッ!」
翼と後部を失い、出力が大幅に低下したアヴァンシェルには、避けられなかった。
右肩と左足に被弾。衝撃で動きが鈍る。
「あたしはあいつを助ける…」
その隙に、Gアルケインはまた肉薄した。
ビームサーベルを取り出し、振りかぶる。
「チッ!」
対してこちらも、膝先からビームサーベルの刃を出現させた。
「あたしが、あいつを助けるの!」
衝突。
「あいつはそれを待ってる!」
…ダメだ、出力差が大きすぎる!
「あいつは、あたしを待ってンのッ!」
アヴァンシェルは鍔迫り合いに負け、両足の太腿を切断された。
「ぐあああっ!」
「きゃあああっ!」
機体が大きく揺れ、俺とリナリアが声を上げる。
その先で。
「だから、あたしは負けられないッ!」
Gアルケインが、ライフルの銃口をアヴァンシェルの装甲に当てた。
引き金が引かれる。
…しかし、
「ッ!?」
ビームは出なかった。
しめた、弾切れだ!
「こなくそっ!」
アヴァンシェルは、切り落とされた右足から、ビームサーベルの基部を射出した。
これを握り、Gアルケインの左腕を切り付ける。
「ぐっ!」
Gアルケインは飛び退いたが、装甲にダメージは与えられた。
「どこまでもあたしの邪魔をするってワケ!?」
その腕と足を全て収納し、Gアルケインは機首をこちらに向ける。
「いい加減、観念しなさい! フダツキっ!」
回転しながら、こちらに突っ込んできた。
マズい、速すぎる。
今のアヴァンシェルでは、回避できない!
「ぐああああっ!」
Gアルケインが、アヴァンシェルの胴体に突き刺さり、貫く。
「くそぉぉぉおおお!」
俺の叫びは虚しく、アヴァンシェルは撃墜された。
バトルエンド。
俺の負けだ。
フィールドからアヴァンシェルが消え、俺は眼下の地面に転送される。
しかし。
「…リナリア?」
近くに、リナリアがいない。
まさか、もう連れ去られてしまったのか?
そう思って辺りを見渡す。ザクはまだ、遠くでロコモのヅダと戦っている。
そして、
「フダツキ!」
Gアルケインが、手足を展開して、眼前に降下してきた。
思わず身構えた俺は、その左手に捕まってしまう。
「さぁ、観念してオヒメサマを渡しなさい!
そう怒鳴りつけてきた。
…ということは、リナリアは、まだ捕まったわけではないのか。
どこかに隠れているのだろうか…。
「オヒメサマはどこなのよ!?」
今一度、訊かれる。
そんな事は、俺も知らないが…
「知ってても、教えねぇよ!」
そう答え、腕から抜け出そうとした。
しかし、
「ふざけんじゃないわよ!」
力強く握られ、抜け出せなかった。
「ぐあああっ!」
縛り上げられるような痛み。
痛覚のフィードバックはないのだが、視界がぼやける。
「さぁ! はやく言いなさい!」
眼前にエラー表示が出た。
ダイバールックへの不正なアクセス。
ジンというダイバーのデータそのものが、外部から書き換えられている、といった内容だ。
こいつらやっぱり、何か不正なツールを使っているんだ。
「二度とGBNにダイブできなくしてあげてもいいのよ!?」
その言葉通り、俺の前には何重ものエラー表示が出現してくる。
マズい、このままじゃ…。
そう思った時。
「そんなこと、させない!」
リナリアの声。
それと共に、Gアルケインの左腕に、何かがぶつかった。
「何っ!?」
先ほどビームサーベルで与えたダメージもあり、Gアルケインは、左腕の肘先をはたき落とされた。
そこに囚われていた俺は、ぶつかってきた「何か」に引っかかり、上に載っかる。
これは…。
「アヴァンシェル…!?」
ベース機同様、股関節に配置されていた、アヴァンシェルのGNドライヴ。
それが、単独で飛行し、Gアルケインの左腕を弾き落としたんだ。
「なんで残ってるんだ…?」
アヴァンシェルは胴体を貫かれ、フィールドから消えた。
当然、そのGNドライヴも消えたと思っていたが…。
「ジン、大丈夫!?」
また、リナリアの声がする。
どうやらその声は、このGNドライヴから聞こえるらしい。
「リナリア、これは一体…」
なんて言葉を口にすると同時、俺の目の前に、新たなエラー表示が浮かんだ。
「ごめん、ジン」
それは、少し前に一度見たことがあるもの。
ガンプラの、所有権の侵害警告。
「ジンのガンプラ、ちょっと借りるね!」
リナリアの言葉と共に、エラー表示が消える。
「借りるって…まさか!」
慌てて俺は、自分のダイバーステータスを確認した。
アヴァンシェルの名前が消えている。
俺は、ガンプラなしでダイブした時のステータスに変化していた。
「リナリア、お前、何を…うおっ!?」
言い切る前に、俺は言葉を失う。
眼下のGNドライヴから溢れた粒子が、俺の体を押し出したんだ。
地面に落ちる俺。しかし、それよりも早く地面に向かった粒子の糸が、俺を越えて、地面付近で網状に広がった。
その中に受け止められる形で、ゆっくりと地面に下ろされる。
いつかの、エペランサスでのように。
「トランザム・オーバーフロー!」
リナリアの声。
見上げると、GNドライヴは膨大な量の粒子を噴射していた。
それらは人を象り、輝きを放ちながらも、見知った姿に変わってゆく。
やがて、その変化が治まった時。
「…俺の…ガンダム…?」
融合粒子は、クリスタイル・オーガンダムの姿になった。
方舟の少女 ガンプラデータファイル07
【ガンダムアヴァンシェル】
ジンが、フューチャーコンパスに在籍していたころに制作、使用していたガンプラ。
融合粒子の研究以前から使用していたため、この機体にはクラフタルシステムを搭載していない。
【ラグザ専用ザク】
オーナーが製作し、ラグザがカスタムして使用するガンプラ。
高機動型ザク2ベースとし、武装の強化を行ったガンプラ。
ユニコーンガンダムのビームマグナムなど、強力な武装をザクに合わせてデチューンしている。
【激・戦乙女の涙雨(ジー・ワルキュレイン)】
ミカが製作し、使用するガンプラ。
Gアルケインをベースとした機体で、それまでのムラサメとは異なり、彼女自身が一から製作したもの。
ベース機の対艦ライフルの他、通常のビームライフルと、機首に機銃を備えている。
反面、ビームワイヤーとシールドはオミットされ、近接戦闘には向かない機体となった。
また、変形機構が簡略化され、完全なMS形態にはならない特異な機体になっている。
これは、エペランサスで変形の隙を狙われた事に起因しているらしい。