ガンダムビルドダイバーズ外伝 〜方舟の少女〜   作:楽雁つばさ

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第8話「なんだか気持ちが落ち着くの」

トランザム・オーバーフロー。

以前、エペランサスで使用した、クリスタイル・オーガンダムの奥の手だ。

GNドライヴと、それに対応しているクラフタルシステムの出力を上げる。

それによって溢れ出した融合粒子が、機体の損傷を擬似的に修復し、更にごく短時間だけ、機体出力を向上させる。

しかし…。

「なんで今、ここに…?」

俺は今回、クリスタイル・オーガンダムを使っていない。

この姿を形成したのは、アヴァンシェルのGNドライヴなのだ。

しかも、アヴァンシェルにはクラフタルシステムを搭載していない。

つまり、今この場に、融合粒子とクリスタイル・オーガンダムが顕現していることは、おかしい。

「いくよッ!」

リナリアの声が、俺を我に帰らせる。

粒子で構成されたクリスタイル・オーガンダムが、Gアルケインに肉薄した。

「このッ!」

Gアルケインは身構えようとする。

しかし、

「…!? うそ、動かない…!?」

その途中で、不格好のまま動きを止められた。

よく見ると、融合粒子が外側からGアルケインを抑え付けている。

しかしそれは、俺が普段使用している濃度とは、比べ物にならないほど薄い。

見慣れている俺ですら、目を凝らさなければ把握できなかったほどだ。

「でやっ!」

不格好なGアルケインに、擬似クリスタイル・オーガンダムの拳が届く。

更にもう一撃、Gアルケインはアッパーを食らった。

空高くに打ち上げられるも、その後を追う擬似クリスタイル・オーガンダムが近付くことで、その機体は空中で動かなくなる。

融合粒子が、機体から一定範囲にある敵機の動きを封じているんだ。

「なんて出力だ…」

思わず、そんな言葉が漏れる。

俺の想定したトランザム・オーバーフローは、溢れ出す融合粒子で、機体の修復を行うことができる。

しかし今は、オーバーフロー状態のまま「融合粒子で構成した装甲」から、更に融合粒子が溢れ出している。

それが、機体から一定距離の空間に充満することで、一定距離に入った他の機体の動きを封じているんだ。

自機どころか、敵機すらをも覆い被せる、融合粒子の空間領域。

オーバーフローいうより、「オーバーレイ」とでも言い表すべきか…。

「このっ! このっ!」

リナリアの操る擬似クリスタイル・オーガンダムは、その手で何度も、無防備なGアルケインを殴りつける。

「このおっ!」

やがて両腕を使い、Gアルケインを地面に叩き落とした。

「くっ!」

Gアルケインは地面に触れる直前、逆噴射で静止した。

「ブレーキが効いた? …ってことは!」

オーバーレイの仕組みに、ミカも気付いたのだろうか。

Gアルケインの手足を収納し、最大出力で遠ざかる。

「待てッ!」

追いかけるリナリア。

「待たないわよ!」

対してGアルケインは、本体後方から小さなカプセルをばらまいた。

これが融合粒子の領域に入ると同時に、黒い煙を拡散する。

スモーク弾か。

「そんなのッ!」

構わずに突破する、擬似クリスタイル・オーガンダム。

しかし、その先にはもう、Gアルケインがいない。

「どこ!?」

「ここよ!」

その上方、遙か高くからミカの声。

飛行形態のまま手足を展開し、Gアルケインの主装備である対艦ビームライフルが、その銃口をリナリアに向けていた。

「これでどう!?」

照射。

「わああっ!」

リナリアの反応は遅れ、擬似クリスタイル・オーガンダムは、左腕と両足を失う。

しかし。

「…まだまだッ!」

失われた四肢は、ビームの照射が終わって間もなく、融合粒子によって修復された。

「うそっ!?」

驚くミカ。

声こそ出なかったが、俺も驚いた。

オーバーフローによる機体の修復は、本来発動時の一回きり。

その後何度も直せるほど万能じゃないし、だからこその奥の手だった。

しかし、それが今、目の前で覆された。

「何よ…。そんなのチートじゃない!?」

ミカはそう言いつつも、また距離を取るべく、手足を収納して飛び去っていく。

「逃がさないッ!」

それを追い、擬似クリスタイル・オーガンダムが飛んでいく。

…って、これじゃ俺も置いてけぼりじゃないか。

「待てよ、おい!」

俺はアイテムリストから、いつか使ったバイクを取り出して、二機を追いかけた。

 

 

先頭を飛ぶ、Gアルケイン。

その後ろを追う、擬似クリスタイル・オーガンダム。

更にその後ろから、俺はバイクで二機を追っていた。

しかし。

「…もうッ!」

Gアルケインは空中で静止した。

更に手足を展開し、対艦ビーム・ライフルを構える。

その銃口には、すでにエネルギーが充填されていた。

リロードのために逃げていたのか。

「止まりなさい! それ以上近づいたら撃つわよ!」

その言葉に、リナリアは機体を静止させる。

オーバーレイによる融合粒子領域が、ギリギリ届かない距離。

互いに動けず、二機は、膠着状態に陥った。

「…聞いて、オヒメサマ」

そんな中、ミカは口を開いた。

「あたしね。好きな男がいるの」

その言葉から、彼女は語り始める。

「すごい男なの。映画監督になるんだ、っていう夢を持って。…それに向かって、がむしゃらに努力してる。…今はまだ、全然世の中に認められてないけど、それでもずっと諦めないで、まっすぐに前を見てるの」

ミカの言葉には、それまであった苛立ちを感じない。

「でもね、映画って、たくさんの人を動かして、たくさんの場所に行って作るものなの。…その分、ものすごいお金がかかるのよ。…だから今、あいつはとっても困ってる。次の作品を作りたくても、そのためのお金がないから…」

…そうか。

だから彼女は。

「あたしはね、アンタをオーナーに引き渡して、そのお金で、あいつに映画を作ってほしいのよ」

愛する男に、夢を追わせるため。

それが、彼女が金を求める理由だったんだ。

「だから、ね? …あたしと一緒に来てよ」

Gアルケインが、ライフルに添えていた左手を、擬似クリスタイル・オーガンダムに向けた。

「お願い。あたしに、あいつを救わせて」

彼女が求めていたもの。

それは、愛する人のためになる力、だったんだ。

俺はそれを、「つまらないこと」と言ってしまった。

ミカの気持ちも知らないで。

思わず、反省する。

…けれど。

「ねぇ…それって」

リナリアの声。

「それって本当に、その人の願いなの?」

擬似クリスタイル・オーガンダムは、オーバーレイを止めない。

「…どういう意味よ?」

「あなたが好きな人に、そう頼まれたのか、って聞いてるの」

問われて、リナリアは聞き返す。

ミカは少し黙ったが、

「違う。あたしの意思よ。あいつのためになる金を、手に入れるために」

そう答える。

「そのためなら、関係のない人は不幸になっていいの?」

すぐに、リナリアが問い返したが、

「不幸? 誰が不幸になるっていうのよ」

ミカはそれを、鼻で笑った。

「家出したオヒメサマを連れて帰るだけよ? オヒメサマの家族は喜ぶ。あいつはお金を手に入れられる。あたしは、あいつの救いになれる!」

Gアルケインの左手が、またライフルに添えられた。

「みんな、幸せになるじゃない!」

マズい、撃つ気か!?

「リナリアっ!」

その名を俺が呼ぶのと同時、Gアルケインは対艦ライフルの引き金を引いた。

擬似クリスタイル・オーガンダムは、巨大なビームの中に飲まれる。

けれど。

「そんなことない」

リナリアの声。

「そんなわけない」

それを発する、擬似クリスタイル・オーガンダムの影は、壊れない。

「そんなの、違う!」

影が大きく縮んで。

「わたしはそんなの望んでない!」

擬似クリスタイル・オーガンダムが、その身を大きく広げた。

対艦ビームライフルの射撃を、たったそれだけの動きで、かき消したんだ。

「はぁッ!?」

驚くミカの前には、もう何もない。

「あそこに、わたしの幸せなんてない!」

一瞬にして、擬似クリスタイル・オーガンダムは、Gアルケインの背後に回り込んでいた。

「だからわたしは、ここにいる!」

その機体が輝いて、更に大量の粒子を溢れ出す。

「わたしはここで、生きている!」

膨大、なんで言葉すらも不相応なほどの、粒子の奔流。

それは、巨大な羽のようにも見える。

GNフェザー…いや、月光蝶だろうか。

「その邪魔は、誰にもさせないッ!」

そこに飲まれたGアルケインは、粉々に分解された。

 

 

バトルエンドの表示が出る。

しかしそれは、何かに改竄されたかのような、ノイズ混じりの表示だった。

「な、なによ、今の…っ」

ミカが地面に降り立ち、上空の擬似クリスタイル・オーガンダムを見上げる。

溢れ出す融合粒子が、巨大な羽のような姿を象り、中に浮かんでいる、その機体。

「ミカっ!」

声に振り向くと、ザクがこちらに迫っていた。

「想定外だ。一旦引くぞ!」

ザクは一瞬だけ消え、ラグザの姿になると、ミカの手を取り、またザクの姿に戻る。

「行かせないのですよ!」

そこへ、ロコモのヅダが迫っていた。

特殊権限を弾丸として撃ち込めるロングライフルを向けていたが、

「良いのか? 我々に気を取られていて」

ラグザの声には余裕を感じた。

「どういう意味ですよ!?」

ロコモが問い返すと、

「こういう意味だッ!」

その答えと共に、画面を操作する音が聞こえた。

何かを選択し、決定した時の音。

「くあっ!?」

直後、上空でリナリアの声が聞こえる。

見上げると、疑似クリスタイル・オーガンダムを中心として、空間に大きな亀裂が入った。

「きゃぁぁぁあああああ!!」

同時に、リナリアの悲鳴が響き渡る。

「リナリア!?」

「よよっ!?」

彼女を乗せていた擬似クリスタイル・オーガンダムは、唯一実体を持っていたGNドライヴごと、その姿が粒子となって弾け飛んでしまう。

しかし尚、融合粒子が更に勢いを増していく。

出所を失ったはずの粒子。

それは、リナリアの体から、直接出ているようにさえ見える。

「な、なんで、リナリアの体から、融合粒子が…!?」

呆気にとられる俺の目の前で、やがて緑色の粒子は、次第に紫色のオーラを帯びる。

紫色のオーラが溢れ出すこの現象、俺は見覚えがあった。

「これって…ブレイクブースト…!?」

ロコモが気付いて声を上げる。

そう、この現象は、ブレイクデカールを使用した際の『ブレイクブースト』に近い。

というより、そうでないとは思えないほど、それに酷似している。

そして、それを放っているのは、ガンプラではなく、リナリア自身。

「ロコモ! 俺をそのヅダに乗せてくれ!」

なにが起きているのかは、わからない。

けれど、本能的に感じる。

「リナリアを、あのままにしておけない!」

それだけはマズい。

一刻も早く、彼女をなんとかしないと!

「はいですよ!」

ヅダが俺の体を機体に納め、リナリアに向かって飛び立つ。

しかし、少し近付いたところで、オーラの奔流の勢いが強くなった。

まるで、ヅダの推進を妨害するかのように。

「これじゃ押し返されるぞ!」

「わかってるのですよ!」

ロコモはそう言いながら、画面を操作した。

「行くですよ! 土星エンジン、フルパワー!」

機体がうねりを上げ、ヅダはオーラの奔流の中を、強引に突き破り始めた。

「お前、そんなことしたらこの機体が!」

空中分解を引き起こすのではないか、そう思ったが、

「大丈夫!」

ロコモはそう答えて、俺の体に触れた。

途端、俺の意識はコックピットから消え、どこか狭い所に移動した。

「行くですよ、ジンくん!」

眼前には円形の穴があり、そこから外が見える。

「待てロコモ! ここは一体…」

「待たないのですよ! 待ったら分解しちゃうので!」

円形の外観に、少女の影をとらえる。

まさか、この中って…

「おい、ここってまさか、お前のロングライフルの中…」

「行っけェー! ジンくんバレットぉー!」

察すると同時、俺の体は高速で打ち出された。

「嘘だろォォオ!?」

まさに、人間弾丸となった俺。

文句を言うべくヅダを確認すると、とっくに視界の隅へ消え、地面に着地していた。

「…ッ、このままいくしかないか!」

幸いにも、俺の体はしっかりと、リナリアの元に向かっている。

大丈夫、彼女の体に届く。

「リナリアぁぁぁあああッ!」

叫んで、彼女に両腕を伸ばした。

届いた瞬間、その体を抱きしめる。

「ジン…っ」

「ああ。もう大丈夫だ」

リナリアは俺の顔を確かめて、力の抜けた笑顔を浮かべ、気絶する。

俺達は、発射された時の勢いのまま、オーラの中心から遠ざかっていく。

リナリアを失ったためか、やがてオーラの奔流が途絶えた。

次第に、空間の亀裂も塞がっていく。

「よし…!」

なんて呟く俺の体も、射出の勢いを失い、落下を始めた。

「今回は破れないでくれよ…ッ!」

俺はリナリアを抱えたまま、アイテムリストからパラシュートを選択する。

無事に展開し、俺たちはゆっくりと降下して、地面に着陸した。

その時にはもう、ミカとラグザは居なかった。

 

 

「…原因は、これみたいですよ」

気を失っているリナリアのアイテムリストを漁って、ロコモは小さな物体を取り出した。

「…それは…?」

紫色の小さな水晶。

その表面には、幾何学模様のようなものが描かれていた。

「さぁ? ボクも初めて見たのですよ。…でも、リナリアちゃんの所持アイテムの中で、これだけが、入手ログが存在しない…」

言いながら、ロコモはダイバーギアのような形のアイテムを取り出し、その上に水晶を置く。

「めちゃくちゃ怪しいので、解析機を使うのですよ」

数秒後に、解析機と呼ばれたその機械から、水晶の情報が表示された。

「…なるほど、これは…遠隔操作でブレイクブーストを発動させる、ブレイクデカールの応用ツール…って感じですよ」

ブレイクデカール…?

「でも、アレはとっくに修正パッチができているはずじゃ…」

「そうなのですよ。そうなのですけど、コレはその『修正パッチの修正パッチ』が施されているというか。しかも遠隔操作機能付き。めちゃくちゃ厄介なシロモノですよ」

ロコモは水晶を解析機から離し、まじまじと見つめる。

「ブレイクデカールの水晶…、仮に『ブレイクオーツ』とでも呼ぶのですよ」

ブレイクオーツ…ねぇ。

「そんなものがあるんだな…」

ロコモの手元を見ていると、彼女はそれを俺に渡す。

指先でつまめるサイズだ。全方位に突起が飛び出ている。

なんというか…金平糖のようだ。

「こんなもの、どうやって作ったんだ…?」

ロコモに聞いてみる。

「うーん、詳しいことは運営の機密に関わるので、説明出来ないのですけど…」

そう言いながら、彼女は白い紐のようなものを取り出した。

「比喩表現で説明するのですよ」

両端を左右の手で持ち、俺に向ける。

「たとえば、この紐が『修正パッチが完成する前のGBN』の一部だとするのですよ」

俺が頷いて見せると、ロコモは紐を左右から引っ張った。

「で、今この紐にかけられている力が、ブレイクデカールの影響…と言った具合ですね」

やがて、紐はプツンと切れてしまう。

「こうやって、システムに負荷を与えて、千切れた隙間から不正なアクセスをするのが、以前までのブレイクデカールなのですよ」

言うと、今度は千切れた糸の先端を持って、結び直した。

糸はまた、一本の糸になる。

「ブレイクデカールは、こうやって自分でデータの異常を直してしまうから、ログに残らず、対処に長い時間がかかった…。でも、見ての通り、紐には結び目が出来ている…」

ロコモは、結ばれた紐をもう一度引っ張った。

今度は別の部分で千切れてしまうが、彼女はすぐにまた結ぶ。

「こうやって、ブレイクデカールが使用されるたびに、結び目、つまりシステムへの負荷が増えて、例の第二次有志連合戦、エルダイバー:サラをめぐる一連の事件が起こった。…まぁ、これは例えなので、実際はもっと複雑なのですけど。…とりあえず、この前提は理解できましたか?」

「…ああ」

答えて、頷いてみせると、ロコモはまた別の紐を取り出した。

今度の紐は、赤い色をしている。

「さて、じゃあこれが、修正パッチを完成させた後…、つまり、今のGBNの一部だとするのですよ。…この赤い色が、紐を頑丈にしているのですよ」

ふむふむ。

「だから、これは引っ張っても千切れない。でも…。あっ、ちょっとコレ持ってほしいのですよ」

ロコモは紐の片方を、俺に持たせた。

開いた手でアイテムリストを開き、針のようなものを取り出した。

「これを、こうすると…?」

言いながら、針を紐に近づける。

触れた場所だけ、紐が白色になった。

「こうやって、ピンポイントでシステムを弱らせて、改めて…」

ロコモが紐を引っ張る。

紐は、白くなった部分で千切れた。

「…とまぁ、こんな感じで。…わざわざシステムの一部を『ブレイクデカールの影響を受けてしまう状態』に戻してから、改めてブレイクブーストを行う。…それが、このブレイクオーツの簡単な仕組み…なのですよ」

……なるほどな。

「…でも、わざわざこんな回りくどいことをする必要があるのか…? もっと強引にシステムを侵害してしまえば、手っ取り早いんじゃ…」

俺がそう思うのと同時、

「そう、そこなのですよ」

と、ロコモも頷いた。

「こらの厄介なところは、『わざわざ回りくどい方法で』ブレイクデカールを使用させること。…これがどういうことか、分かりますか?」

いまいちわからないので、首を横に振ってみせる。

「…本来、俗に不正アクセスやハッキングなんて呼ばれる行為は、対象に侵入して、データを盗み取ったり、システムを掌握したりする。…これはこれで常識外れの技術なのですが、変な話、相手のセキュリティを上回ることさえできれば、あとは自己流で良いのですよ」

ロコモは、千切れた紐をひらひらと掲げる。

「この紐で言うなら、力で強引に千切らなくても、刃物で切ったり、火で焼き切ったり、方法はたくさんある…」

続いて、今度は先ほどの針を掲げて見せた。

「けど、これはわざわざ『修正パッチを無効化した上で』ブレイクデカールの持つ元来の方法で、システムに影響を与えている…。『修正パッチを無効にするためのデータ』が搭載されているのですよ」

「…ええと、つまり?」

ややこしくなってきたので、結論を急かす。

ロコモもそれに気づいたのか、こほんと咳払いをして、簡潔に答えた。

「要するに、これを作った人物は、『ブライクデカールの修正パッチがどうやって作られているのか』を知っている存在、ってことになるのですよ」

……えっ?

「じゃあ、もしかして…」

「ええ。おそらく」

ロコモは、俺が持ったままのブレイクオーツを見ながら、こう結論付けた。

「リナリアちゃんを狙っている連中の背後に、GBNの運営に浅からぬ繋がりを持っている存在がいる、と考えて、間違いないのですよ」

 

 

「…マジか…」

なんて言葉が思わず出る。

が…考えてみれば、おかしくはない。

奴らは前々から、あらゆるディメンジョンでガンプラの使用制限を書き換えていた。

俺がガンプラを呼び出せなかったり、呼び出したガンプラを戻せなかったり。

背後にそんな奴がいるのなら、全て、不可能な話ではない。

「…こうなってくると、特務捜査官のボクも、本格的に探らないとマズいかもですね。…まさか、運営の一部と繋がっていたとは…」

ロコモの言葉を聞いて、一つの疑問が出る。

「…そういえば、どうしてそれを『繋がりを持っている存在』って言い切れるんだ?」

あまり考えたくないが、運営全体がリナリアを狙っている可能性もある。

そう言おうとしたが、

「もし、運営全体が狙っているとしたら、わざわざ自分たちのガードフレームを盗んだり、盗まれたことを一般のダイバーに公開したりはしないのですよ」

ロコモの言葉に納得する。

「それに、運営とのつながりを持ちながら、それと相反するブレイクデカールや、一般ダイバーの力を借りている。…これは、GBNの運営全体に知られたくないから、と考えるのが妥当かと思うのですよ」

「…なるほどな」

連中の背後にいる存在は、運営の権限を持ちつつ、それを直接行使できない事情がある。

だから一般のダイバーを雇ったり、ブレイクデカールを『足の付かない状態に戻して』流用したりしているんだ。

…なんか、ここに来てようやく、連中のことがわかってきたな。

「…さて。じゃあボクは、一度この事を仲間に報告しに行くのですよ」

そう言って、気絶したままのリナリアの頭を、軽く撫でる。

「ホントは今すぐ保護してあげたいのですけど…」

優しい笑顔を浮かべて、やがてその手を離す。

「今は、誰がどう繋がっているかもわからないから…。リナリアちゃんのことは、ジンくんに任せるのですよ」

そう言って、俺を振り向く。

「あ、もちろん、何かあったらすぐにボクを呼ぶのですよ?」

その手が俺の肩に触れた。

「ジンくんのアイテムリストの中に、緊急呼び出しスイッチを入れておくので」

やがて、俺のアイテムリストが勝手に開き、謎のアイテム『ロコモブザー』が追加される。

「押せばボクが、ジンくんのいるところに直接ワープするので。ちょっとでも『ヤバい』と思うことがあったら、躊躇わずにポチッとして下さいですよ」

ポチッと…ねぇ。

俺は彼女の背後に立つヅダを見上げる。

その装甲には、傷一つ付いていなかった。

 

 

去っていったロコモを見送り、俺もフリーバトルエリアから抜ける。

気絶したままのリナリアを抱えて、人目につかない物陰に来た。

何処か安全な場所で、彼女を休ませてあげないと…。

そう思ってマップを見ていると、それを遮るように、映像通信の呼び出し画面が出てきた。

数時間前のリダイヤル…ってことは、クッタロだろうか。

「やぁ、ジン」

開いてみると、やはりそこに、ゴリラのような外見が映される。

「ロコモから事情は聞いたよ。大変なことになったね…」

言いながら、彼はこちらに向かって、何かをスワイプした。

「今、私のフォースネストへの案内データを、君に送った。今は誰も使っていない場所だから、リナリアをゆっくり休ませてあげるといい」

確認すると、たしかに招待状のようなデータが届いている。

「…いいのか?」

「ああ。君らには世話になったからね。…代わりと言ってはなんだが…」

クッタロは親指を立てて見せる。

「元気になったら、また二人で私の店に来てくれ」

…そういうことか。

「ああ、そうするよ」

俺も笑顔で返し、軽く手を振った。

 

クッタロから貰ったデータを開き、彼のフォースネストに来た。

無機質な部屋だ。宇宙戦艦の居住空間、と言ったところだろう。

備え付けのベッドにリナリアを寝かせ、俺は近くのデスクに腰掛けた。

「ふぅ…」

落ち着いたところで、息が漏れる。

コーヒーでも飲みたいところだ。

「…さて」

今日は、いろんなことが起きた。

一度、状況を整理しよう。

まず、リナリアを狙う連中の謎が、少しわかった。

彼らの目的は、リナリアにかけられた懸賞金だった。

そして、それを用意し、彼らにリナリアを狙わせる存在がいることも、わかった。

リナリアを連れ去るために、周到な用意をしている存在。

おそらくそいつが、この一件の発端となっているのだろう。

厄介なのは、運営との繋がりを持っていること…。

「どんな奴なんだろうな、その黒幕ってのは」

呟いて、息をつく。

少しずつ、連中のことがわかってきたのは良いことなんだが、だからこそ、一層深まった謎もある。

それは今、俺の隣で眠っている存在。

リナリアのことだ。

なぜ、運営とのつながりを持つような存在が、彼女をを狙うのだろうか。

考えられる可能性としては…。

「…エルダイバー…だからか?」

現在、GBNでは百人近いエルダイバーの存在が確認されている。

とはいえ、GBNのダイバーの総数は、億にも達するくらいとさえ言われるほどだ。

そんな数字に比べたら、百という数も珍しい存在であることに変わりはないだろう。

しかし、だからと言ってエルダイバーであることが何か特別なのかと言われると、案外そうでもない。

要するに「リアルでの体を持たない」というだけなので、自己申告や、モビルドールの存在を確認でもしない限り、エルダイバーか否かすら、一般のダイバーにはわからない。

フォースにいるだけで明確なバフを受けられる、というわけでもないので、言ってしまえば、ただ「珍しい」という、それだけの話なのだ。

興味本位で会ってみたいと思うことこそありすれ、わざわざ回りくどい手段を使って連れて行くほどの意味があるとは、思いにくい。

もちろん、俺が知らないだけで、何かあるのかもしれないが…。

「…俺が知らないだけ…か」

思い起こせば、リナリアにも不可解な要素が、いくつかある。

突然俺のガンプラを借りると言って、アヴァンシェルから疑似的にクリスタイル・オーガンダムを生成した。

その後の月光蝶や、ガンプラを介さない、彼女自身のブレイクブースト…。

今日起きたことだけでも、謎は多い。

…そういえば、いつか、魔改造されたジェガンと戦う前に。

俺はリナリアに呼び出されて、彼女の待つエリアまで行った。

確かあの時も、何か重大な事を話そうとしていたはずだ。

「…リナリア…か」

疑問が募ったせいか、その名前すら、不思議な響きに思えてしまう。

何か、意味があるダイバー名なのだろうか…。

なんで思った時。

「…うん…ジン?」

リナリアが目を覚ました。

「お、気がついたか」

彼女はきょろきょろと辺りを見回して、

「…ここは?」

俺を見る。

「クッタロのフォースネストだ。お前が気を失っていたから、休ませてもらっていたんだよ」

「わたしが…?」

リナリアは少し考えて、やがてビクッと身を縮めた。

「そうだ、わたし、あの時…ッ!」

小さく震えはじめる。

「おい、大丈夫か?」

その肩に手を乗せようとすると、

「きゃっ!」

リナリアは、それを払い除けた。

「…あっ…」

が、すぐに俺を見上げて、

「ち、違うの、ジン、あの、わたし…」

震える声で、俺を見つめる。

…どうやら混乱しているらしい。

無理もないか。あんなことがあったんだからな。

「…大丈夫。ちょっとビックリしただけ…だろ?」

俺は笑ってみせる。

「落ち着けって。俺は別に何もしない」

改めて、控えめに手を差し出す。

「俺はただ、そばにいるだけさ」

いつかと同じような事を言って、彼女が落ち着くのを待つ。

「…うん」

リナリアは、頷きつつも、まだ少し何かを怖がっているようで。

やがてゆっくり、本当にゆっくりと、ではあるけれど。

それでも確かに、俺の手を取った。

 

 

「…あのね、ジン」

やがて、リナリアが話し始めた。

「わたし、何だかすっごく怖い夢を見たの。わたしがわたしじゃなくなって、わたしを壊してしまう夢…」

その手は、また震えている。

「わたしの中の、わたしじゃない何かが、わたしの全部を壊してしまう夢だった。…うまく言えないけど、なんだかとっても、とっても怖かった…」

…おそらく、ブレイクブーストさせられた時のことだろう。

ブレイクブーストは、あまりバトルに慣れていないダイバーが行うと、自らの手で止められず、暴走状態に陥ることもある。

ガンプラをそうさせる何かが、エルダイバーである彼女に、精神的なダメージを負わせてしまったのだろう。

「でもね、あの時、聞こえたの」

言うと、リナリアは俺の手をぎゅっと握る。

「ジンの声。わたしの、わたしを呼ぶ声。ちゃんと聞こえたよ。…だから、わたしは手を伸ばして。…そしたら、ジンは受け止めてくれた…」

やがて、彼女の手の震えが収まった。

「ねぇ、ジン」

両手で握り、目を細める。

「あなたの手を握っていると、なんだか気持ちが落ち着くの」

柔らかい笑顔で、俺を見つめる。

「わたし、ずっとこの手を握っていたい。…リナリアとして、ずっとジンのそばにいたい…」

真剣な瞳。

「ジンには、迷惑…かな…?」

その瞳は、期待と不安で鬩ぎ合っていて。

俺の答えを、じっと待つ。

「…迷惑、なんかじゃないさ」

答えは、決まっている。

「俺は、お前のそばにいる。…お前が望んでくれる限り、ずっとお前のフレンドでい続ける」

いつか、彼女とケンカして、仲直りした時の言葉を、思い出しながら。

「俺たちは、お互いに、そばに居たいと思い合っている。…それで、いいじゃないか」

更に、俺が落ち込んだ時に、彼女がかけてくれた言葉を思い出して。

「俺は、お前が俺と一緒に居たいと思ってくれることが、一番嬉しいよ」

そう付け足した。

リナリアは、俺の言葉をじっと聞いていた。

「…ありがとう、ジン」

やがて、彼女は俺の手を離す。

「ジンが、わたしと一緒に居たいって、思ってくれること…」

目尻に涙を浮かべながら、それでも綺麗な笑顔で。

「わたしも、それが一番、とっても、嬉しい…」

ぎゅっと、俺の体を抱きしめた。

 

 

 

ついに、アレを使ってしまったのですね。ラグザさん。

ああしなければ、我々も特務捜査官に捕まっていたからな。

っていうか、あのアヴァンシェルとかいうガンプラに仕込んだのに、何でオヒメサマがブレイクブーストしたのよ? そもそもオヒメサマがガンプラを出してたし…。

それだけ事態が深刻化している、と言わざるを得ませんね。

では、次こそ俺も本気を…。

はい。ですが、お二人に頼りきっていられる状況でもありません。次は、僕が直接出向きます。

俺達は用済み、ということか?

いえ、彼が話し合いに応じなかった場合に備えておいて下さい。

話し合い…ねぇ。成功するのかしら。

そうさせるつもりです。仮にそうならなかったとしたら、お二人には全力で、彼を捕らえ、彼女を保護して頂きます。その次はありませんので、そのつもりで頼みますよ。

随分と追い込まれているようだな。

他人事ではありませんよ。既定の契約通り、あの子に最悪の事態が訪れてしまえば、お二人が得るはずのお金を、僕が払えなくなりますからね。

…わかったわ。次が最後ね。

気を引き締めよう。

頼みますよ、お二人とも。

 

なんとしても、僕はあの子を救わなければいけないのだから…。

 




方舟の少女 ガンプラデータファイル08

【ロコモ専用ヅダ】
ロコモが製作し、使用するガンプラ。
ヅダをベースとしつつ、彼女好みにアレンジされている。
大きな点として、対艦ライフルをロングライフルに改造。
懸下することで主兵装として運用可能にした。
通常の弾薬のほか、彼女の持つ特殊な権限を弾丸化したものや、物資及びダイバーそのものを打ち出す能力も備えている。
また、バックパックには未知の機能が搭載されている。


【擬似クリスタイル・オーガンダム】
リナリアが、アヴァンシェルのGNドライブを媒体として、『ジンのガンプラ』というデータそのものを、融合粒子によって実体化させたもの。
一種のバグのような存在らしいが、はたして…?
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