【完結】偶像の象り   作:hige2902

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第五話 若木の洞 後編

 袖時計のカウントダウンがゼロになると、小さな電子音が鳴った。

 

「おっといけない」

 

 と、発目は背中から外骨格に乗り込んで身体を固定し、脚部のタイヤを接地させる。片足だけ駆動させ、爆豪に背を向ける。

 

「それではまた~」

 

 車の衝突防止アシストを姿勢制御としてアレンジしているのか、人型二輪にもかかわらず走行は安定していた。そのまま入口とは反対方向のシャッターを複腕で破壊して去って行く。

 

 初動組は各々が好き勝手な手段で工場を後にしている。爆豪も慌ててヘルメットを被り、箱をサドル下の荷物入れ(タイヤのゴムを加工して耐衝撃を考慮した袋)に入れ、エンジンを点けてそれに続く。

 

 まだ工場に残っている受験生もいた。レーススタートの指示を待っていたり、そもそもアイテムの完成が間に合わずにモタモタしていた受験生たち。その内の一部が痺れを切らせて、律儀に入ってきたシャッターから出て、工場を回り込むように先へ進もうとする

 

「なんか投げっぱなしじゃね? 雄英」

「ていうか工場壊して出るとか普通ダメですよ」

「まあ、先に行ったやつらってフライングとか民間施設の破壊で減点されるんだろうけど」

「ズルよね、あれはやっぱり」

 

 ふと、自分たち乗ってきた何台もの無人バスの間から、妙な影がいくつか遠くに見えた。徐々にこちらに迫ってくる。

 

「なんだ?」

 

 目を凝らすと、どうやら角ばったフォルムの人型のロボットのようだ。規則正しいフォームで人間の走り方を真似ているのが、被生物の見た目とのギャップで不気味さを覚える。

 

「なんだろ、レースの監視ロボかな」

「やっぱまだ始まってないんじゃん」

 

 そんなのんびりとした受験生のアイテムに、ロボットは有無を言わさずに腕部から粘質なネットを射出して移動を制限する。

 

「ちょちょ、何するんですか」

 

 そんな間の抜けた質問を無視し、ロボットは受験生にもネットを撃ち込み、ザラついた合成音声を発した。

 

「物質ヲ渡セ」

 

 その様子を工場から見ていた受験生は、ようやく理解し自覚する。

 あれは、物質を狙って追撃して来たヴィランとしての仮想敵なのだ。そして、自身の想像力の欠如に。

 

「ヤバいヤバい、行け行け行けって!」

「追手が来るなんて説明されてないよ」

「はよ出ろって、邪魔だ邪魔」

 

 足切り役の仮想敵によって工場内は蜂の巣をつついたように混乱し、多くが脱落した。

 

 

 

 xxxxxx

 

 

 

 工場を脱出した先の道は、森の中の比較的穏やかな直線だった。とは言え基本的なステアリング性能をチェックする為のカーブも所々にある。

 やはり二輪にした方がよかっただろうか、と三輪を作った者は思わないでもなかった。三輪のコーナリングがこれほどやりにくいとは思わなかった。身体を倒して曲がるような運転が出来ない。

 

 爆豪は、初動組に少し出遅れた30人ほどの集団の先頭付近に居た。

 運よく完成間近の車を見つけ、少し手を入れただけの受験生を先頭にして、縦に長くぞろぞろと進んでいる。

 

 不意に後方が騒がしくなった。サイドミラーでちらと見やると、接触事故が起きたらしい。そんな混乱の中から一人、何事も無く抜けて来る男がいた。

 

 不自然な出来事に爆豪は振り返る。ヘルメットのシールドから覗く、どこか他者を見下した目元には憶えがあった。俺に上からものを言いやがった、いけ好かないヤローだ。

 

「てめェなんかやりやがったな」

 

 男は鼻で笑って小馬鹿にした。

 

「ん? きみは……人のせいにするのが好きだな。それとな、私はてめェじゃない。端田屋だ、覚えておかなくていいよ。きみとは同級生にならないだろうからな」

 

 爆豪は舌打ちで男のアイテムに視線をやる。初動組のような異質さは感じられず、発目からすれば普通としか評価の出来ない三輪バイクだ。しかしどこか違和感がある。あるべきはずの物が無い。前輪にあるべきはずの()()()()()()()()()()()

 

 前のバイクが速度を僅かに落とした。視線を先へやるとなだらかなカーブだ。爆豪もアクセルを緩める。

 その瞬間、一帯の受験生は想定以上の減速によりガクっと身体が後ろへ引っ張られる感覚をおぼえた。

 

 カーブである事と、予想外のトラブルに全員が軽いパニックを起こす。

 ふらつく車体を押さえようと無理にハンドルを切り、かえって大きくブレたせいで接触が起こり、それを避けようとした者がまた接触を起こす。

 幸か不幸か、一帯の全車両は原因不明の減速を受けているので大事には至らなかった。それどころか、アクセルを回しても加速しない。

 

 そんな中、アウトコースから余裕を持った速度で端田屋だけが追い抜いて行く。いや、それに追随する一台。優れた精神制御で減速の原因を即座に突き止め、センスとしか言いようがないドライビングテクニックで縫うようにインコースを抜けた爆豪だ。

 

 端田屋がノンキそうに言った。

「へーこりゃ驚いたな。あの混乱した車両の中を抜けて来るなんて。そういう個性?」

「ふざけんな! 個性使いやがったろ!」

「ああ、そうだよ。それがなに?」

「なにじゃねーよ! 禁止事項だろうが」

 

「意図的な妨害はね。私の場合は違う」

「はあ? あんだけ周囲を混乱させといてなに言ってんだコラァ!」

「たしかに私の個性、『電子妨害(パルス)』はEMPに似た影響を周囲に与える。それを発動したから、私のアイテムを含んだ、電子制御によって稼働していた周囲のエンジンは停止した。それに慌てて、接触事故を勝手に起こしただけだろ。停止に気付いたきみは、再びエンジンをかけたみたいだが」

「自分自身を巻き込んだから妨害じゃねぇって言いたいわけか? ンな理屈が」

 

「違う。見てわかるように、私のアイテムにはディスクブレーキ機構が無い。そしてアクセルを調整する機構も無いんだ、常時ベタ踏みって訳さ。エンジンブレーキだけで減速する。しかしエンジンを停止する機構もオミットしてあるので、一度エンジンをかけると、かかりっぱなしだ。つまり私が減速するには、『電子妨害(パルス)』を発動して強制的にエンジンを停止するしかない」

 

「つまりこう言いたい訳か? 妨害した訳じゃなく、てめェが減速しようとした結果として、意図せず周囲のエンジンも停止しただけだと」

「てめー、ではない端田屋だ。一応言っとくが、なぜそういう作りにしたかと言うと、オミットによる減量や空気抵抗を減らす為の時間を注ぎたかったからだよ。パワーユニットが一般に流通されているものと違って時速50キロメートルほどしか速度が出ない造りである以上、そういった細かいところで速度を稼がないと距離は縮まらないからな。私は正しい」

 

「俺にはそのクソ仕様が、『電子妨害(パルス)』を使う為の建前としか思えねえ」

「だからそういう主観的な感想はいいんだよ。感情論以外で私のロジックを否定できるか? 私は正しい。上を見てみろ」

 

 爆豪が視線を青空に向けると、監視用のドローンが飛んでいた。墜落していない所を見るに、対電子戦用の防護措置が施されているのだろう。

 

「雄英側は認識していながらも、私を失格扱いにしていない。たとえきみの言う通り、『電子妨害(パルス)』を使用して妨害する為の方便としてこのアイテムを作ったとしても、私がそうだと言わない限りは証拠が無い。疑わしきは罰せずだよ。ほら、カーブだぞ」

 

 自身のアイテムの速度調整の名の下に、端田屋が断続的に個性を発動する。その度に爆豪はイグニッションスイッチを押さねばならず、端田屋の周囲に居る限りは常に唐突な減速を意識せねばならない。

 

電子妨害(パルス)』の個性が及ぼす影響は実際には僅かなものだが、本人はそれで構わなかった。ペースが乱れれば追い越しやすく、それにより接触事故を起こせば箱に衝撃が加えられる。

 

「ああそうそう、個性届けにも周囲に影響を及ぼすと書いてあるからな。もっとも、入学後即、個性制御が上手くいって範囲を限定出来るようになるけど」

 

 森を抜け、切り立った斜面にヘアピンカーブが続く坂がすぐそこに見える頃には、10メートルほどの差が開いていた。

 前を行く端田屋をブッ殺してやりたい気持ちを抑えつつ、爆豪はヘル登坂に瞠目した。

 

 斜度40%はあろうかという道幅の狭い坂で、高さは30メートルほどの崖を登らねばならない。

 さすがの初動組もここで足止めを食らっている。球体で移動していた者は諦めていた。

 難なく突破しそうなのはホバー走行をしている者と、多脚の者。それと腕部に付けられたフックを突き刺し、坂から外れた横をクライミングしている外骨格の発目くらいだ。

 

 マジか、と爆豪は己に対しての自信を失いそうになる。発目はあの説明時の簡易的な地図でここまで予期していたのか?

 それと同時に嫌な思考が脳裏を這った。

 

「おい端田屋、ちっとばかし個性使うの待て!」

「は、なぜ」

「見てわかんねーのか! 坂じゃなくて崖を登ってる奴が」

「悪いが、ヘル登坂に入る最初の直角カーブだ」

 

 端田屋が素知らぬ顔で個性を発動する。坂を上っていた全員の駆動系が停止した。

 

「ほ?」

 

 発目の外骨格が、片腕を抜いた状態で機能を停止する。一本では自重を支えられず、バコリとフックが抜け、背から重力に引っ張られる。

 

 ヤバい、と爆豪は思考する。高さ約30メートル。外骨格とは言え急造品、プロテクター入りのジャンプスーツを着ていてもその高さから落下すればただでは済まない。

 そう()()()()()()()()()()()()

 

 エンジンを再起動しながら崖めがけて最高速度で突っ込み、ほぼ垂直の壁面を駆け上がる。空中で発目を見下ろして言った。

 

「それ脱げ!」

「んなんで爆豪くんが!? どーやって! どんなアイテムを使ったんですか!? 教えてくださいぃ!!」

 

 驚きつつも発目は従った。落下に対して重質量を保持する必要はないからだ。

 爆豪は発目の手を掴み、引き寄せる。

『OFA』で強化された身体であればこの高度の着地は問題ない。だが発目は耐えらないだろう。

 

 徐々に地面が近づき、位置エネルギーが運動エネルギーに変換される。

 ではどうすべきか。爆豪は病院にて既に体験していた。あとは一発勝負で実践するだけだ。

 

 右腕に炎色の雷光が奔る。

 爆豪は感覚で理解していた。今の個性制御ではまだ、『OFA』を十全に使いこなすのは不可能だという事を。それほどまでに継承されてきた力は、底知れぬ強大さだという事を。

 故に心中で叫んだ。決して超えてはならない、現状のしきい値であるという戒めを込めて。

 

 20%解放!(ラフ アウト)

 

 地面に向けて渾身の掌底を放ち、瞬間的に発生させた空圧で落下するエネルギーを減衰させる。同時に、最初にオールマイトと手合わせした時の布団を殴ったような空気の層をクッション代わりにした。

 

 冗談のような現象で着地する。発目の体感的には数メートルからの落下で済んだ。

 

「お、ぉお。生きてます。助かりました。というか今のは爆豪くんの個性ですか? 興味深いです」

 と、発目は状況を理解しているのかしていないのか。目を輝かせて爆豪の身体をしげしげと見回し、べたべたと触る。

 

「……そうだが、んなこと気にしてる場合じゃねえだろ」

 

 道路に転がる無残な姿のアイテムを見やった。爆豪の三輪は崖に衝突して大破しており、発目の外骨格は背から落ちたせいでバッテリーが格納されていたバックパックが破損していた。

 上を見上げれば、端田屋の個性で多くが足止めを食らっている。動力や駆動系を『旋風』や『テレキネシス』といった個性で走らせている受験生はその影響を免れているようだったが、個性の使用は体力を消耗する。市街地エリアでは端田屋の一人勝ちになりそうだ。

 

「ほほう、何かこう、風を操る的な?」

「ん、あー。増強系だ、身体能力の」

 

 ここで脱落か、と爆豪は感傷的になってサドルシート下の箱を取りだす。物質が壊れているのかどうか、判断がつかないのがこの試験のいやらしいところだ。

 オールマイトみたいなヒーローになると言っておいてこのザマとは。情けない。

 

「んんん、それはワンチャンですね。ちょーっと私のどっ可愛いベイビーのバックパックを外してもらえます?」

「そりゃいいが、電力がぶっ壊れてんならもうこれ動かねーだろ。俺のアイテムのバッテリーも使い物にならねえ」

 

 言いながら爆豪は外骨格を起き上がらせ、硬く絞められたボルトを素手で外し、溶接されている金属を引きちぎった。

 

「その様子だと大丈夫そうですね」

 と発目は各関節のクランクを回してサイズを調整する。

「こんな感じですかね。乗ってください」

 

「は?」

 爆豪は口を半開きにして発目の言わんとする事をかみ砕く。

「いや乗れってこれお前のアイテムだろ、しかもバッテリーをオミットしたんだから動くわけ」

 

「動力源はバッテリーではなく、あなたですよ爆豪くん」

 発目は爆豪の箱を預かり、手早く外骨格の背に乗る。車のドアハンドルが掴まるのにちょうどいい感じ。

「ほら早く。受かりたくないんですか。さっき採寸したのでぴったりのはずですから」

 

 これにはどうしたものか、と別室で映像を眺めていた教師陣は頭を悩ませた。実技試験で協力関係は初めて見た。

 悩ませたものの、四肢に使用されているロボットアームの数からして1トン近い外骨格を身に着け、動力無しで人間一人を背負ってクライミングしている姿を見て笑ってしまった。無茶苦茶すぎるパワープレイ。

 笑ってしまったら、もう負けだ。エンジニアがアイテムを見てウケるという事は、予想外を提示されたのだ。つまり、教師陣の想像力を上回ったという事実に他ならなかった。

 

「なにこの脳筋的解決方法」

「いや有効な解決策ってのは、往々にしてシンプルなもんですよ」

「一応これ、増強系の個性を使ってアイテムを駆動しているって建前でいいんだよね」

「移動手段は作成したアイテムに限られる。ってルールには、まあ反しないんじゃない」

「爆豪って受験生のバランス感覚どーなってるのこれ、外部の姿勢制御無いんでしょ。少しでも重心移動ミスったら落ちるぞ」

「あーおかしい……」

 

 でも、と教師陣の全員は心のどこかで冷静に考えた。

 発目のクラスを受け持つのは面倒そうで嫌だな。

 

 

 

 xxxxxx

 

 

 

 工事の音かと思うほどの足音を響かせ、外骨格が駆ける。

 

「どーですか爆豪くん、どっ可愛いでしょう! 乗り心地には激しく改良点がありますが!」

「クソ重ぇよ!」

「女の子に向かって重いとは失礼ですね!」

「テメーに言ってねえ!」

「? わかってますよ?」

 

 ダメだ、この女の思考は理外に位置する。自分の価値観が誰にでも通用すると思ってるし、通用しなくても気にしてない。

 気持ちを切り替えて市街地エリアに突入する。

 

 都心で行われる大規模なマラソンのように道が制限されており、コースとして設定されているようだ。

 さっそく簡易的な障害物で左折を促される。

 

「あ、そこは直進してください。ショートカットするので」

「無茶言うなや! ゴールがどこだかわかんねぇんだぞ!」

 

「わかりますよ」

 ほらこれ、と発目はポケットから取り出していたモノを爆豪に見せた。

 存在するはずがないと、虚を突かれる。

 

「地図、だと」

「最初に表示された簡易的な図には一目で架空の地理だとわかる地名が表記されていたので、存在して当然ですよ、架空の都市の架空の地図もまた」

 

 発目の指示に従って直進しながら爆豪は口からこぼすように尋ねる。

 

「どこで、こんな」

「工場の事務所です。大抵は置いてありますから。たぶんその辺のオフィスにも同じのがありますよ。で、工場から最短距離にあるヒーロー事務所はここ。あ、次の三又路は左です」

 

 爆豪は自分の才能とは別種の、発目の異能に胸が苦しくなった。

 今までは無個性だから上手く行かないのだと思っていた。勉学も運動神経も戦闘センスも優れる自分が、個性さえ手に入れれば他を寄せ付けないはずだと。そう思っていた。

 

 だが現実は違った。世の中には全く違う分野から、想定外の角度で能力を発揮するやつがいる。発目の桁違いの想像力がそれだ。

 架空の地理がシチュエーションとして与えられているからといって、故に地図まで用意されているなどと誰が想像できるだろうか。むしろ、彼女の想像力をカバーしている雄英が異常でもあるが、逆説的に雄英こそが彼女の異能を受け入れるだけの器があるという事だ。

 

 発目に頼りきりの敗北感を強く噛みしめた。前向きに考えろ。個性を手に入れた以上、グズってる暇はない。俺はまだ欠けている、成長して補え。その為にも想像力を働かせ、サポート科に受からなければならない。

 

 公園を横断すると、バイクの走行音が聞こえる。大通りに出て先頭車両と合流した。

「驚いたな。きみたち、それでよく失格にならないな」

「ああ! その声は私にぶつかってきた失礼な人ですね!」

 

 視線の先のビルには、『最寄りヒーロー事務所』と描かれた看板がデカデカと掲げられている。最後の直線だ。

 爆豪はふと気づいて、会話を続けようとする。

 

「テメーはまた個性使って他人を蹴落としたのかよ」

「端田屋だ、何度も言わせるな。その記憶力だと筆記もマズいんじゃないのか」

 

 一瞬、端田屋の速度が落ちる。すぐに自動的にエンジンが再点火される音がした。

 

「ふーむ。きみの個性で無理やり動かしているのか、それ」

「『電子妨害(パルス)』使いやがったな」

「なーるほど、それで私のどっ可愛いベイビーが急に停止した訳ですね……許せません!」

 

「いや、もう争う気はない。なんなら一位を譲ってもいいよ」

「どういうつもりか知らねーが、信用すると思ってんのか」

「本心だよ、二位でも十分に合格圏内だからね。興味ないんだ、アイテムの優劣とか」

 

「じゃあどうしてサポート科に?」

 きょとんとして発目が尋ねた。

 

「そりゃあ入りやすいからさ。経営、普通科ほど筆記が難しくなく、ヒーロー科ほど戦闘力が求められる訳じゃない。それにほら、私の個性なら実技で有利だろ、今どきのアイテムは電子制御だし、競争なら尚の事」

「雄英のブランドが欲しいだけか」

「そうだよ。それなりに課題をこなして卒業できればいい。別に普通だろ? 大学で法学部に行くやつ全員が法律関係の仕事に就くわけじゃない。取りあえず学校出て、適当にステップアップするやつは多いだろ」

「それについて何か言える立場じゃねーが、だからって怪我人出す事もいとわないってか、ぁあ?」

 

「だとしたらなんだよ。私を攻撃する気か? それこそ意図的な妨害だぞ。ヒーロー気取りもいい加減にしてくれ。私は正しい」

「いいや違うね。てめェは間違えてる」

「端田屋だ! いい加減にしろ、何を間違っているというんだ!」

 

 端田屋は並走する爆豪を睨みつける。敵対する意思を持った視線が結ばれた。

 

「いやなに、俺もちっとばかし想像力を働かせてみた。俺がヴィランならどう動くかってのを」

「なにが言いたい」

「だからよぉ、国営の工房を襲うくらいの組織な訳だから、最寄りのヒーロー事務所の場所くらいは把握して当然だし、逃げたエンジニアが駆け込むのもそこしかねぇ……俺がヴィランなら待ち構えとくね」

 

 前方で物音がした。端田屋が視線をやると仮想ヴィランが腕部からネットを射出しているのに気づく。反射的に『電子妨害(パルス)』を向けるが、既に放たれたネットを止める事は出来ない。

 前輪に絡まり、ディスクブレーキが無いので速度を殺しきれず、スリップしながら電柱にバイクをぶつけた。掘り出された端田屋は大破した自分のアイテムから、先を行く爆豪に向かって叫ぶ。

 

「きさまワザと注意を逸らしたな!」

 

 見ることなくネットを避けてみせた爆豪が捨てセリフを吐く。

 

「きさまじゃねえ、爆豪だ。同級生にはならないから忘れていい。あとよ、証拠があんのかァ? ワザとやったっつーよぉ」

 

 移動手段は作成したアイテムに限られる以上、端田屋はこれ以上進むことは出来なさそうだった。途中で誰かが手を貸せば話は別かもしれないが。『電子妨害(パルス)』の代償は大きそうだ。

 

 ばんばんとフレームを叩きながら発目が抗議する。

「急制動するなら前もって言ってください!」

「悪いな。あんたなら予想が付いてるもんだと思ってたが」

 

「あーんまりそういう自分に関する戦闘にはどうも普通でして。そこは爆豪くんが一枚上手って感じですかねー」

「ま、助かったわ」

 

 爆豪は器用に発目の襟元を掴む。

 

「はい?」

 と発目は間の抜けた声。

 

「正直言って、認めるよ。俺の負けだ」

 

 そのままゴールに突き出し、遅れて自分も実技試験を終わらせた。

 

 

 

 発目 明。最終リザルト、順位1位。

 爆豪 勝己。最終リザルト、順位2位。

 

 

 

 xxxxxx

 

 

 

「けっこう律儀なんですねえ」

 

 発目は事務所の二階に設置された医療スペースでスポドリを飲みながら、ぼーっと後続が向かって来るのをガラス越しに眺めて言った。

 面白くなさそうに爆豪が答える。

 

「実力はあんたの方が上だった」

「……そう言えば私、自己紹介してませんでしたっけ」

「いや」

「だったら、あんた、じゃない。発目です。同級生になりそうなんで覚えといてくださいね」

 

 そう、屈託なく笑って言った。

 

「いやでもよ」

 視線を逸らして歯切れを悪くした。

「わかんねえだろ、正直、物質はお互いほぼ損壊してんじゃねえの」

 

「そんなのただの減点対象でしょ。箱の中にいくつ物質があるのか分かりませんが、二人の箱の内、一つでも残っていればエンジニアとしては及第点なのでは?」

「さすがにそれは無茶だろ」

「まあまあ、過ぎた事を考えたってしょうがないですよ。うん?」

 

 会話の途中で、発目は爆豪の首筋に小さなかすり傷がある事に気付いた。まだ新しい物らしく、レース中に負ったものだろう。個性『ズーム』を発動し、ぽつりと言った。

 

「あのー爆豪くんの個性って『身体能力の強化』なんでしたっけ?」

「ん、ああ」

 

 へえー、と発目は悪戯に笑う。初めて見るオモチャを目にした時のような気持ちを覚えた。

 まあ追及はしませんけどね。近年では個性を秘密にする権利も唱えられてますし。と、内心で付け加える。

 

 

 

 xxxxxx

 

 

 

 サポート科の試験の全ての工程が終了した数日後、残すは実技の結果を反映させるだけになった。

 それこそが教師陣を悩ませるものだった。

 発目と爆豪をどう評価すべきか。

 

「これがヒーロー科なら爆豪くんにはレスキューポイントが入るけど、サポート科はクリエイティブポイントだしな」

「爆豪なー、アイテム作成は正直言って凡でしたよね。その加点も見込めず、合格ラインに達しない。惜しいけど」

「筆記はずば抜けてるんだけど、お利口さだけでサポート科やってくのは難しいんじゃないかな。不合格は却って本人の為かもしれん」

「個性は凄かったけど。ヒーロー科行けばよかったのに」

「個性届けを見るに発現したのが最近で、願書とか間に合わなかったんじゃないですか? 筆記も法律関係で出題範囲が違うし」

 

「ふーん。半面、発目さんは頭一つ抜けてましたね、受け持ちたくないタイプですが」

「初手で市街地エリアの地図探すムーブ取るのがヤバい。こっちが設定した架空の世界の中で、そこに住む自分ならどうするかを考えるのはヤバい。受け持ちたくないタイプだけど」

「物質は3つのうち2つ損壊。ま、端田屋くんの個性のせいもあって全体的に減点は多いけど、順位とクリエイティブPで補って余りあるし。文句なく主席合格かな。受け持ちたくないタイプなのがあれだけど」

 

 発目の話題で盛り上がる中、ちょっといいですか、とパワーローダーが水を差す。

 

「爆豪くんなんですが、私はクリエイティブPを認めてもいいと思うんですよね。アイテムではなく、行動に」

 

 教師陣は顔を見合わせて、続きを促した。

 

「発目くんを助けた時の個性の使い方とか、ヴィランの待ち伏せを想像力で推察していた所とか」

「想像力が無い、とは言い切れない訳ですか。でも彼の物質は全損ですよ」

「発目くんとバディを組んでゴールしたのですから、発目くんと合算してもいいんじゃないですか。それが認められないのなら、爆豪くんを使って走破しておきながら、順位だけは認めると言うのもおかしな話では?」

 

 確かに、それもそうか。と、誰かが呟いた。

 じゃ、発目さんはパワーローダーさんが受け持つって事で。と、誰かが呟いた。

 

「いやいやちょっとそれはまた話が違うのではないでしょうか!?」

 

 サポート科の誰もが薄々は勘付いていた。発目のような自分の世界で生きているエンジニアは、好奇心で物を作り、壊す。

 それはもう雄英の工房が大変なことになるだろうから。

 

 

 

 xxxxxx

 

 

 

 トップヒーローは、学生時代の逸話をこう締めている。

 考えるより先に、身体が動いてた。と。

 

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