それは運命のいたずらか、それとも心操人使の幸運か。
もしも爆豪勝己がヒーロー科を受験していたならば、心操は別の会場で実技試験を受けていたに違いない。
ただ現実として彼は、『爆破』の個性を使う受験生と同じ会場になった。
観察力によって次々と仮想敵のウィークポイントを爆破していく様子を、遠巻きに目にする。
ああいうのがヒーロー科に受かるのだろうな、という現実に心底まいった。純然たる戦闘力が、俺にはないと内心で独り言ちる。
ダメ元で受けてはみたものの、実力差に打ちのめされるのならよせばよかった。こんな証拠も残らないヴィラン向きの個性でなく、もっと戦闘向きであったならば。
そんな後悔の中、20メートルをゆうに超える巨大な0ポイント仮想敵が現れた。足が震え、思考は逃げる以外の選択肢を出そうとしない。
辺りの受験生はみな背を向けて駆け、足が動かない心操とすれ違う。心操には動けない理由があった。
視線の先で、足を挫いたのか瓦礫に足を挟んだのか、それとも恐怖やパニックで身体が言う事を聞かないのか。とにかく倒れている女がいた。
心操は逃げろと叫んだ。しかし聞こえていないのか、それとも巨大仮想敵の足音や破壊されているビルの音で掻き消されているのか女は反応しなかった
舌打ちして心操は女に駆け寄る、返事をしろと念じて声を掛ける。返事さえすれば、痛みや恐怖を無視して逃げる事が出来る。仮に衝撃で個性が解除されても、気付薬にはなる。
無力な自分が、圧倒的脅威に向かって行っている事を無視して叫び続ける。
「聞こえないのか! 立て!」
「ごめん、逃げて……」
女は心操が助けに来ている事に気づき、巻き添えにならぬように
「痛いかもしれないが、我慢しろよ。『立ち上がって、逃げろ』」
その一言で、女の腰が抜けて立てなかった身体は自らの意思とは無関係に動き出す。巨大仮想敵は彼女に気付き、手を伸ばした。
その大きさに、心操も圧倒された。このままだと俺も、いやポイント的にはどうせ失格か。
女が心操の腕を掴む。
「飛ぶよ!」
「は!? はぁあ?」
二人は宇宙空間で投げ出されたスパナのような等加速直線運動で空中へ逃げた。一瞬遅れて巨大仮想敵の手が二人を空ぶった。
女の個性『無重力』により、窮地を脱したのだ。
巨大仮想敵と距離を取って着地する。同時に実技試験終了のアナウンスが響いた。
心操はとにかく落胆とか、諦観だとか、そういった感情が沸き上がるものだと思っていたが、違った。ちょうど眼前には、仮想ヴィランの首を爆破し飛ばした受験生がいた。その幽鬼のような色の無い瞳の印象による悪寒が、何よりも上回っていたのだ。
巨大仮想敵から上手く逃げ出した安堵感よりも、それが上回ったのは女も同じだった。
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まさかレスキューポイントなんて制度があったとはな。と、心操は運動着に身を包み、まだ実感の湧かないプロへの第一歩を噛みしめた。
受験の時に助け、助けられた女、麗日お茶子のおかげでもあった。一緒のクラスというのも心強い。しかし、と同じ1-Aのクラスメイトであり、一般入試主席の緑谷を盗み見る。最初の授業という事で、どこか緊張したおももちのようだった。受検日に見た、あの異様な雰囲気とはまるで違う。別人のようだった。
クラスで少し話した時も、初対面のせいかキョドった口調の中に、どこか親しみやすささえ覚えた。
思い悩むまでも無いかと思考を切り替えた。今から個性把握テストが始まる。
こりゃ最下位は覚悟の上だな、と腹を括ると、誰かが「面白そー」とはしゃぎ、担任の相澤はトンでもない事を言いだした。
「んじゃ、最下位は除籍な」
冗談じゃないと心操は焦った。向いていない個性の者が他にもいたが、だからといって除籍が免れる訳ではない。
焦りからか身体が強張る。結果が出ず、それで次の種目の結果も芳しくない。
嫌だ。と強く思った。ヒーロー科に受かったのは、偶然と幸運によるもので、実力は満たしていないのかもしれない。それでも、踏み出した夢への歩みを止めたくは無かった。
なり振りは構っていられなかった。
「あのさ、麗日。頼みがあるんだが」
「うん? なに?」
とりあえず最下位は免れそうな面々は、安堵感と憐れみを覚えながら心操のボール投げを眺めていた。はっきり言って彼は一般人と変わらない。
変わらないはずが、心操の投げたボールは線を描いたように空に消えていった。
「え!? どういう事だこれ」
「これって無重力の……」
「どういうことだ心操」
と相澤は鋭い眼光で問う。心操は震えを隠すように手を握った。
「俺の個性、『洗脳』を麗日に使って、ボールを無重力にさせました」
「そんなイカサマまがいの事が許されると思ってるのか」
「これは、
こういう生徒も悪くない。相澤は内心で密やかに笑った。
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雄英入学後、初のヒーロー科らしい授業が行われた。戦闘訓練である。同時に、生徒のコスチュームの初のお披露目でもある。
みな、それぞれの個性を活かし、アイデンティティを主張するような衣装に身を包んでいた。
集合場所であるグラウンド・βに移動中、轟は静かに緑谷に値踏みするような視線をやっていた。一般入試の首席らしいがしかし、峰田と女性ヒーロートークに花を咲かせている(緑谷は純粋なヒーローフリークとして話しており、峰田のそれではない)のほほんとした表情からはその貫録は無い。
「オイラだけかと思ったよ。ヒーロー名鑑vol.5に記載されてる自称スリーサイズより、絶対にヒップがあると睨んでたのは」
感激する峰田に、どこか恥ずかしそうに答えている。
「ま、まあ、やっぱり相手の体格を見て選択する戦術とかあるからさ、偽の情報を流すのも手なんじゃないかな」
「それでコスチュームがそんなコートみたいになってるのか?」
「まあね、他にも理由はあるけど。けっこう便利だと思うんだけど、どう?」
「黒一色だと正直中二臭いな」
身も蓋も無い答えに、これでも一生懸命に考えたんだけどなと緑谷は肩を落とす。
透湿性に優れた生地の戦闘服の上に、丈の長いダスターコートとケープ、長く大きなショルダーマントが両肩に留められており、羽のようだ。
太陽光を吸収する為に黒で統一してあるので、峰田の意見も一理あるかもしれない。
「そんなんでちゃんと動けるのか?」
「コートの裾の所は切れ目が入ってるから飛んだり跳ねたりは大丈夫だよ」
「ほーん。でもなんかヴィランっぽいな」
何気ない一言で、がーん、と聞こえてきそうなほど緑谷はショックを受けた。
なあ、と轟は心操に声を掛けた。
「おまえ、実技試験で緑谷と同じ会場だったんだよな。あんま主席って感じしねえんだが」
言われて心操は緑谷を盗み見る。それは自分も思った事だ。試験の時のような鬼気迫る雰囲気は微塵も感じられず、峰田や上鳴にイジられている。頼りにならなそうだがどこか愛嬌がある、たぶん良いやつって感じ。
「話を戻すけど、やっぱMt.レディのスゲーとこは下半身だと思うわけよ」
「う、うん? そー、かもね。」
「ケロ、峰田ちゃんと緑谷ちゃんがいやらしい話してるわ」
と、軽蔑するような口調で蛙吹。
「ちち、違うよ! 『巨大化』した状態で転倒すると都心部では建物を壊しちゃうし、やっぱり下半身を鍛えてると思うよ!?」
と、必死すぎて逆に誤解を加速する緑谷。
「ちち? ちちもいいよね」
と、わきまえない峰田。
まあ、実力はいずれわかるか。と、轟は思考を切り替えた。必ずNO.1ヒーローになる。その為にも、まずは1-Aでトップは押さえておかなければならない。
一般入試の首席とは、遠くないうちに格付けしておく必要がある。
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戦闘訓練はヒーローとヴィランの陣営に分かれた2対2の室内戦、ヒーロー組は5階建てのビル内に隠した核兵器に触れると勝利条件を満たす。ヴィラン組は制限時間の15分が経過。あるいはどちらかの陣営を鎮圧させても残った方が勝利する。
オールマイトの抽選で組み合わせが決まった。
第一回戦。ヒーロー組、轟、八百万 対 ヴィラン組、緑谷、蛙吹。
思ったより機会は早かったな。と、轟は緑谷に視線をやった。半信半疑の実力を確かめ、上回ってやるという気概を持つ。
確認する、という目的があったのは轟だけではない。オールマイトもまたそうだった。極めて効率的に、
結果だけを見れば、危うさが漂う。
ヴィラン側のセッティング時間が終了した。
峰田との会話が卑猥に聞こえていた事から、まだどこか不信感を残した蛙吹が緑谷に話しかけようとした瞬間、ビル全体が凍りついた。
外に繋がる窓やドアはもちろん、室内の壁や床までもが徐々に氷で覆われる。
八百万は呆然としながら轟に尋ねた。
「あら。これほどまでに広範囲とは……どうします? ここから」
「緑谷の個性は『爆破』って聞いたからな。足首まで凍らせても氷を砕けるだろ。念のため凍らせ続けて、このままビル内を氷蔵にして、体力を奪ってから突入する」
「では突入に備えて、防寒着やスノーブーツを『創造』で産み出しておきますわ。あまり私の役割はなさそうですが」
モニタしていた生徒は、ほぼ同じ感想を抱いていた。轟の個性で十分すぎる。いかにコスチュームが断熱防寒防刃その他諸々に優れた、一般の衣類とは一線を画している性能だとしても、緑谷のコスチュームが保温に優れていたとしても、寒さは確実に体力を奪い続ける。
そして何より、蛙吹は急激な外気の低下でうつらうつらと舟を漕いでいる。
「ごめんなさい緑谷ちゃん。『蛙』の個性の都合上、どうしても寒さには……眠くて」
ふっと、鼻孔に漂う
発動や変形型なら起動のタイミングで虚を突くなり、個性制御の熟達によって性質を変えられる。要するに応用が効きやすい。
半面、異形型の個性は常時起動しており、奇襲等には強いが性質を変える事は出来ないし、不利な状況で個性を解除する事も出来ない。故にどうしても相性という問題が付いてまわる。
交戦前からの人数と環境の不利に、モニタしていた全員が同情を覚えなくも無かった。なにせ相手は推薦入学者の強個性使いなのだ。
それでもヒーロー組は油断や慢心といった浮ついた感情を切って捨てていた。轟が炎で玄関口の扉を溶かし、曲がり角や潜伏していそうな場所では必ず八百万が、柄を伸ばした手鏡で距離を保ったまま安全を確認する。推薦入学は伊達では無かった。
一階の探索が終わり、二階へ続く廊下へ向かうと、白い吐息を両手に吐きかける緑谷が佇んでいた。
『蛙』の個性使いは冬眠でダウンしている以上、廊下という狭い空間で待ち構えるのが最善手である。二人はこの状況を予期していた。
だが緑谷のそのたたずまいに妙な違和感を覚えた。色の無い瞳は二人に畏怖を与えたが、追い詰められて切羽詰まっているのは緑谷の方であるようにも感じる。低体温症による精神的錯乱だろうか。
訓練開始前とは別人のようだった。
ゆっくりと二人に歩を進めている。
「やる気満々って訳か。俺にとっては都合がいいが」
轟が不意打ち気味に手のひらを突き出し、凄まじい速さで氷柱を生やした。それに対して緑谷は駆け寄り、手から威力の低い爆破を発動させて軌道を逸らす。破壊するほどの威力ではないので、氷柱と繋がっている轟の腕もまた逸らされて反応が遅れ、接近を許す。
緑谷の行動は二人にとって不可解だった。数的不利である以上、攻撃に対しては回避を優先してタイムアップを狙うのがベターな戦略だ。
ましてや向かって来る氷の塊など、反射的に避けてしまいそうなもの。そこを逆に迎え撃つなど、恐怖心というものがないのか。
「八百万! 先に行け!」
緑谷に組み付かれそうになるも、かろうじて距離を取った轟が氷壁で八百万を分断して言った。初動で体力を削る目的で待ちを選択した以上、二手に分かれるのがベストという考えだ。
「わかりましたわ!」
八百万の背を視界に収めたまま、轟は試算する。
体術に自信がある方ではないが、接敵前から緑谷の体力は消耗されているはず。仮に『爆破』で暖を取っていたとしても、それに個性を使用した分の体力は失われている。防ぐ事の出来ない環境による攻撃。
緑谷の両手から発せられる爆破に耐える厚さの氷壁を造りだしながら、轟は隙を伺った。おおよその爆圧半径も掴んでいる。緑谷の攻撃にカウンターで一歩足を踏み込んだ。そこから生み出された氷が、一瞬で緑谷の身体を覆う。
無力化した。あとは八百万と共にビル内を洗って終わりだ。
轟がそう確信した瞬間、緑谷を覆っていた氷が爆散した。飛来する氷片に身を守った隙を突かれ、首をがっしりと掴まれる。熱を帯びた手に固唾を飲んだ。この状態で個性を使われたら、と考えてしまった時点で負けだ。
「まいっ、た」
降参の宣言は、緑谷に対してではない。インカムを通して、相方に伝える為だ。
解氷材で二階の一室のドアを溶かしていた八百万はだから、策を練る。どういう手段かは謎だが、あの戦闘能力に長けた強個性を倒した。もちろん自分も強個性である事は認識しているが、戦闘向きとは言い難い。中衛の位置から、柔軟に前衛をサポートする方に向いている。
幸いにも、今度はこちらが待ち構える立場だ。核のオブジェクトに触れればヴィラン側の負けであり、八百万を見失っている以上、核を守りに戻らなければならない。もしも核の部屋に陣取られれば、八百万の個性では攻略は難しい。つまりそれまでに奇襲をかけるのが最善。
一階には無かったのだから、少なくとも二階にはやって来るはず。
階段の手すりの影に隠れ、足音にタイミングを合わせて『創造』で産み出した棒を突き出し、マント越しに横腹に鋭い打撃を与える。そのはずが、衣類全体が打撃に対応して爆発し、威力を減衰さる。
「これは!?」
と八百万は広い知識の中から一つを呼び起こして距離を取った。衝撃に反応して爆発を起こし、その力を減衰させる機構には覚えがあった。戦車でよく使用されている追加装甲。
「まさかマントが反応装甲の役割を」
さすがは一般入試の首席ですわね。と棒を薙刀に見立てて構えた。古くより武家の女子の護身術とされてきた薙刀術は、名家である八百万家の彼女も嗜んでいる。
狭い階段の踊り場では取り回しに難があるので短いが、素手よりもマシだ。それに緑谷の様子を見るに、反応装甲も威力を完全に相殺できる訳ではなさそうだ。
リーチの差で緑谷の接近を拒めてはいるが、数合打ち込むが、爆破の目くらましと軌道を逸らされて思うようにいかない。
ふいに
バックステップで避けられた斬り上げから手首を捻り、得物の向きを変える。石突を緑谷の胸部に突き立てるように振り下ろした。
同時に緑谷が腕を振り上げ、肩マントを八百万の頭部側面に翻す。
『反応装甲』が起動する。衣類全体が爆発を起こし、石突の衝撃が減衰されるも胸部への打撃で緑谷は気を失う。八百万もまた、側頭部で発生した爆発により軽い脳震盪が起き、意識を失った。
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「マジ……か。一人で引き分けやがった」
とモニタしていた上鳴が感心していた。
「いや、ヴィラン組の勝ちだ」
緑谷の危うさに気付いたオールマイトが神妙な面持ちで答える。
「つってもどっちの陣営も全員再起不能なんじゃあ」
モニタの隅で分割表示していた蛙吹が冬眠から覚め、現状を把握しようときょろきょろと周囲を探っている。
「あれ? 蛙吹の身体、なんで凍ってないの?」
「ま! その辺を含めて講評といこうか!」
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意識を回復した緑谷と八百万、気の沈んでいる轟。それに――
「蛙吹ちゃんなんでそんなベトベトなの!?」
と、麗日が驚いた。
――謎の透明な粘液にまみれた蛙吹が、モニタルームに揃った。
「わからないわ。起きたらなぜだかこんな状態で。あとこれ、少し甘いのだけど」
「あ、それ僕の個性です」
おずおずと緑谷が申し訳なさそうに答える。
「水を含んだグリセリンは凍らないので、蛙吹さんが目を覚ますかなあと」
「ぬ、ぬ、塗ったのか緑谷! 寝ている女子に自分の粘液を塗りたくったのか!」
興奮する峰田のセリフに、蛙吹は緑谷から距離を取った。
「違うよ! こう……手から垂らしただけだってば! 2対1は大変そうだったから、なりふり構ってられなくて」
そう言われると、足手まといにされるよりはと蛙吹は考え直す。
轟は拳を握りしめた。大変そう、だと……その程度って事かよ俺は。
「なるほど、『グリセリン』を操る個性によって、ニトログリセリンを生成したのですね。あの甘い香りで、もっと早く気付くべきでしたわ」
「厳密には違うんだ。僕の個性は『グリセリン』と『酸化汗』を両親から受け継いだ複合型で、汗腺からニトログリセリンに似た物質が出るってだけで。個性制御がヘタクソだったからさ。複合前の個性から練習してたら出せるようになったというか」
「それでインナーの戦闘服は透湿に優れた素材にし、上着で吸湿するわけですわね。だからニトログリセリンを吸ったマントが『反応装甲』のような役割を果たすと」
「あ、たしかにこいつすげぇ甘い匂いがする!」
「汗が甘いってすげぇ女子ウケしそうだよな?」
「マジか、あんま個性制御がヘタにゃあ見えなかったがな。全身爆破とか、漢気溢れてたぜ」
「そうだよな?」
いや、あの全身爆破は。とオールマイトは資料をめくった。
受験前の個性届けによれば、掌から爆破を発動できるようになったのは最近の事だ。それまでは全身からしか出せず、個性制御の鍛錬不足でしかなかった。
失敗技を応用している。緑谷自身の言う通り、個性制御はまだまだだ。爆破の威力も、発動までの時間も磨きが足りない。身体の制動まで使いこなせるように、とまでは求めないが。
つまりは個性そのものに対する理解力で勝利を収めたという事だ。自分の未熟な個性で最大限の力を発揮できる、コスチュームに対する要望といい、並大抵のヒーロー知識ではない。地道に努力を積み重ねれば、一線級のヒーローも夢じゃないだろう。まるで爆豪少年とは対極に位置するような、とオールマイトは評価した。
「ところで緑谷少年。きみのその
「あ、それオイラも気になった。あんな寒いところで二人と戦って、よく持つよな」
それは、と緑谷は口を詰まらせた。ニトログリセリンを体内に取り入れ、血圧管理と血管拡張により持久力を無理やり底上げしたと言うべきか迷った。スポーツ界ではドーピング扱いだ。
「その、鍛錬ですかね。人より肺が大きいのかな」
「ふむ。総評としてヒーロー組は数的有利を維持すべきだったな。ヴィラン組にしても、蛙吹少女の冬眠は致命的弱点だし、メーカーと話し合ってコスチュームで改善すること。緑谷少年、きみは」
言いさして、氷柱に何の疑念も恐れも持たずに向かった姿を脳裏に反芻する。
この少年には恐怖というものが無い。あるいは、
誰かに向けられた恐怖を理解しないという事は、誰かに向ける恐怖も理解しないという事だ。
ヒーローとしてその感性は危うい。個性把握テストは自分との戦いだからかその兆候は見られなかったが、誰かと競う状況で人が変わったように無機的になるのも。一歩間違えれば、道を外れてしまいかねない。
「きみは、もっと自分を大事にしなさい」