ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
ダンブルドアの知らせを聞いた時、吾輩は自分の耳を疑った。何せあんなに明るい少女が、
ダンブルドアの守護霊からの伝言を聞いてすぐ、吾輩は現場へ姿現しをした。着いた瞬間、強い目眩に襲われた。
視界を覆い尽くす鮮血。切り裂かれ原型を無くし、辺りに散らばった人体。肌を刺す様な寒気。近づいてはいけないと、本能が警報を出していた。
「セブルスよ、こちらに」
ダンブルドアが吾輩を呼んだ。その声で理性を取り戻した吾輩は、ゆっくりと足を動かした。
近づくに連れて、ダンブルドアが何かを抱いているのが見えた。認めたくなかった。それが何か、いや、誰なのかを。
「セブ、ル、ス……」
――彼女だった。
苦しそうに紡ぎ出した言葉はたったそれだけ。
身体には無数の傷が走り、ダンブルドアが治癒魔法を掛け続けているが、治る前に闇祓い達が到着してしまうのは、目に見えて明らかだった。
すぐさま吾輩も呪文を唱えようとしたその時、彼女の手が吾輩の杖を下ろした。
意味が無い。そう言っているようだった。
「先程意識が戻ったのじゃ。じゃがもう、間に合わん」
虚ろな目で少女がこちらを見る。綺麗な緑色の瞳が、色を無くしていく。
「ごめ、んな、さ、い」
意識を失う直前、少女の零した言葉はそれだけだった。
――怖い夢でも見ていたのだろうか?
体を包む倦怠感に私はそんなことを思った。
手、背中、足と、徐々に四肢の感覚が取り戻されていく。私は、重くなった瞼を持ち上げた。
「セブ、ルス?」
私の視界に彼の顔が入る。だが窓から差し込む光が逆光になり、表情までは見えなかった。
「ルーシェ? 目が、覚めたのか? 少し待っていろ」
そう言ったセブルスが部屋から出ていってしまった。
シエルが目覚めた。
セブルスからその報告を聞いて、ダンブルドアは安堵のため息を漏らした。
あの日、シエルは闇祓い達の手により、アズカバンに連行されてしまった。
そのまま4ヶ月という長い時間をシエルはアズカバンで過ごすことになった。
そしていよいよ、開放される日……病室のベッドに座る少女が誰か分からなかった。
痩せこけた体。病的までに白くなった肌。瞳に色はなく、顔には表情が全く無い。まるで、亡者の様に。
すぐさま聖マンゴ病院にシエルを入院させた。が、一週間、一ヶ月経ってもシエルの瞳に光は戻ることはなく、いつもどこか一点を見つめ、息をしているのかも分からない状態が続いた。
そしてついに、
「シエル・スタージェントさんは、魂が壊れかけています。治すには、彼女の記憶を、こうなってしまったきっかけを、全て消し去らなけねばなりません」
簡単に言えば、彼女はいつ
迷わず、ダンブルドアは記憶を消すことを決断した。
しかし、セブルスがそれを止めた。
「たった一人の少女を救うために、偉大なる魔法使いと呼ばれるあなたが行う必要はないのでは? それ以上、その少女に固執する必要もないはずです。彼女の父親も、きっとそう言う。あなただけの過ちではないと」
「その
セブルスは何も言わなかった。そしてダンブルドアはシエルの記憶を消し去った。
記憶を消した後、シエルはベッドに寝たきりになってしまった。全くもって目を覚まさない。その代わり、見た目は健康になっていった。痩せこけた体は、少しずつふっくらとしていき、スースーと寝息を立てながら眠っている。癒者が言うには、体の治癒能力を最大限に使うためために眠っているらしい。が、実際、心配でしかなかった。
そしてついに、セブルスから連絡が来た。
セブルスが部屋を出てから、少しして、彼はダンブルドアを連れて戻って来た。
「ダンブルドアさま」
先程よりも元気になった声で、私は彼の名を呼んだ。
「
「はい。ん? やっと? ダンブルドアさま、私はそんなに長く眠っていたのですか?」
「……」
ダンブルドアは、顔をしかめて黙ってしまった。私は代わりにセブルスに目で答えを求める。彼から返ってきた答えは私にとって、衝撃的なものだった。
「
「はん、とし? 一体、なぜ?」
「……魔法省に
「こんなことに?」
「そうじゃ。そして、操られていた間の
全てを聞き終えて、私は彼らが何を言っているか分からなかった。
半年も眠っていた? 私が操られていた? 記憶を消した? セブルスもダンブルドアさまも一体、何を言っているの……?
頭が回らないせいか、理解が出来なかった。だが、一つ確かなのは、彼らが
「少し、一人にしてください」
今にもパンクしそうな頭を抱えながら、私は二人が出て行くのを見届けた。
扉がしまった途端に私はつぶやいた。
「嘘よ。ダンブルドアさまも、セブルスも嘘つき。だって私は、そんな」
それ以上は、言葉にすることが出来なかった。溢れる涙とともに、私から何かが流れて行くのを感じた。
私はそれから、涙が枯れ尽きるまで泣き続けた。夜が更け朝が来た頃にやっと泣き止んだ私は、スヤスヤと眠ってしまった。夢の中で自分が何か叫んでいた気がする。それが呪文なのか、人の名前なのか、それとも言葉なのか…次に目が覚めた時には、忘れてしまっていた。
その時私は知らなかった。いや、記憶を
ダンブルドアが嘘をついていることに。
胸元にあった"ソレ"が消えていることに。
自分のリミッターが外れていることに。
そして、大切な人を失ったことに。
病室の外で、ダンブルドアとセブルスが顔をしかめ、話し合っていた。
「ダンブルドア校長。本当によかったのですか?」
「……うむ。もしあの子が真実を知れば、それこそもう二度とあの時のように戻れなくなっていたかもしれん……今回の選択は良いも悪いも言えぬよ。それに、あの子が気づくのも時間の問題じゃ。儂の忘却術は、完全と呼ぶにはには程遠いからのう」
「ご謙遜を。しかし、貴方がおっしゃった通りなら、彼女は」
「それは考えても仕方のないことじゃ。時が来るのを待つしかない。ただの記憶の欠片じゃ。未来のことなど、儂らには計り知れんよ」
「ですが、策だけでも練っておくべきでは? 本当に起りうる可能性は、十分にある」
「うむ」
ダンブルドアが記憶を消す時、彼女の記憶の一部分だけ、厳重に鍵がかかっていた。気を失っているのにも関わらず、その部分だけ閉心術が使われている様で。不思議に思ったダンブルドアは、術の隙間から中身を覗いて見ることにした。すると驚いたことに、彼女はこの世界の未来の記憶を持っていた。それが似通った何かなのか、それとも、彼女に予知の能力があるのか、それは分からないが、取り敢えず目的の記憶を封じることにした。その記憶を思い出す度に胸騒ぎがした。そこで、セブルスにその話をしたのだった。
「様子見じゃよ。今は何も出来ぬ」
「分かりました。では私はそろそろホグワーツに戻ります。何かあればまた」
そう言って、セブルスが姿くらましをした。
「時を待つ……運命というものは」
そう言って窓から見上げた空は、真夏のごとく照り付ける太陽が浮かび、遠くには黒い雲が見えた。