ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
冬が過ぎ、春が訪れた。風の暖かさが、芽吹く花たちが、動き出す動物達が、それを教えてくれていた。
『禁じられた森』。ホグワーツ城の敷地内にあり、たくさんの魔法動物が住む森だ。危険な動物もいるために、生徒達だけの立ち入りは禁止されている。
それなのに、少女はたった一人でそこに来ていた。
「ケンタウロスさん、またお会いできましたね」
「また来たのですか、少女よ。今日は星の輝きが強い……あなたが来るといつもそうだ」
遠い目でそんなことを言っているケンタウロスは、自分の縄張りに入ってきた私を追い出すことはしなかった。
「私がいない間、何か悪いことはありませんでしたか?」
「いいや、いつも通りだよ……それでは私はそろそろ行きます」
「ええ、またお会いしましょう」
彼らはいつもこうだ。手短に話を終わらせて、他人とはなるべく関わらないように生きている。そうやって自分を守っているのだ。何となくそんな感じがした。
「さて、そこのニフラーさん。私の靴には金属はありませんよ? 全く……」
この子達もそうだ。金属集めが習性の彼らは、金属に目がない。まあ、このニフラーはどうやら金属目当てでは無さそうだが。ふと、肩に重みを感じたかと思うと、ボウトラックルが私の肩に座っていた。上を見上げれば、飼い梟のルーが他の鳥達と遊んでいる。
「いつも通り、か」
そう、いつも通りの時間が始まったのだった。
私は無事に退院した。目が覚めてから少しリハビリをした後、すぐに退院出来た。ダンブルドアもセブルスも、退院祝いに小さなパーティーを開いてくれたし、家に帰るとリーサとフェッタも祝ってくれた。
数日後、私はダンブルドアに呼び出され、ホグワーツに来ていた。また、彼らに会えると思うと足取りも軽く、鼻歌交じりだった。
「ミス・シエルですか? 随分変わられましたね……何かあったのですか?」
迎えに来てくれたマクゴナガルに疑われてしまうくらいに。
私は変わった。それは自分でも気づいていた。もちろん当主の時は、威厳のある態度が必要だ。だが、ルーシェの時は普通でいい。そう、
私の上機嫌は、校長室に入ってもなお続いていた。
「ダンブルドアさま、セブルス!」
「今日は機嫌がいいのう。何かあったのか?」
「いつも通りですよ」
「「……」」
両者、少し引き気味だった。
「それは、さておき、ルーシェよ。君に話がある」
「何でしょうか?」
「セブルスとも話したのじゃが、望むならここで住まんか?」
「へ?」
「校長は、ホグワーツで住まぬかと聞いているのだ」
突然の提案に大分驚いたが、意図が分かってしまった。彼らは……
「私を近くに置きたいのですね? ルーシェではなく、
「うむ、そうじゃ。今回
「お断りします」
私はきっぱりと断った。言われなくても、そんなことは分かっているのだ。自分が追い詰められている事を。
だから私は考えてきていた。とびっきりの得策を。
「ですか、策は練って来ましたよ。これです」
そう言って取り出したのは、飾り棚のミニチュアだった。それも2つ。
「これでどうすると言うのだ」
「ほう、そう言う……」
セブルスはまだ分かっていない様子だったが、さすがダンブルドアだ。
「では、
私の魔法で、飾り棚が
「これは姿をくらますキャビネットです。これを本家とホグワーツに置き、行き来できるようにします。そうすれば、ダンブルドアさまが監視することは容易ですし、逆に私も不自由なく生活できるでしょう?」
「そんなものどこで……」
「細かいことは、気にしても仕方ありませんわ」
2人はまだ何か言いたげだったが、どうにか丸め込むと、話はまとまったのだった。
それから私は毎日ホグワーツに来ていた。授業を見たり、図書館へ行ったり、厨房でリーサと話したり……楽しい時間だった。
そして、もう一つ私はここでの楽しみを見つけた。それは、魔法の鍛錬である。ホグワーツには空き部屋がたくさんあるし、セブルスに頼めば魔法薬の調合もできる。
最初は空き部屋で行っていたが、攻撃魔法が使えないためたいした練習ができず、別の場所を考えた。
次に必要の部屋。別名あったりなかったり部屋と呼ばれるそこは、自分で自由に練習でき、いい所だった。だが、なぜかあまりしっくりこない。充実し過ぎていて怖いのだ。それと、チートを使いすぎるのも転生者としても気に食わない。最後まで迷ったものの、結局次の場所に移した。
最後の候補地は、禁じられた森だった。ここなら生徒に出くわすこともない。森番と危険な動物にさえ気をつけていれば、自由だ。それに、ここは綺麗だった。生き物が皆、生き生きとしている。そんな場所で鍛錬を積めば最高の魔法が放てると思った。気がつけば私はここへ足を運び、鍛錬をするしない関係なしに、私のお気に入りの場所となっていった。
そして今、私はその森に居た。
「みんな、少しだけ離れてくださいね。当たって仕舞わない様に」
何時の間にか集まってしまった動物達に、私は声をかける。足元に居たニフラー。肩に座って居たボウトラックルも私の言葉を聞き動き出した。一人も残っていない事を確認して、私は呪文を唱えた。
「
もちろん、対象は生き物だ。この魔法を維持しながら攻撃魔法を繰り出し、二つの魔法を操る鍛錬を同時に行っていた。
「
その言葉で、魔法の刃が空を斬った。
気がついた時にはもう日が暮れようとしていた。そろそろ戻らないと、ここに来た事がバレてしまう。
「ルー、そろそろ行きますよ。皆さん、また明日来ますね」
最後まで見届けてくれていた彼らにそう言うと、彼らは頷いた(ように見えた)。ルーを肩に乗せながら私はホグワーツの方へ歩き出した。
「またあの子は、森へ行ったのか? 困ったのう…」
ダンブルドアは、森番であるハグリッドの小屋でそんな話をしていた。
「そうなんです。どうやら、動物達もなついちまったみてぇで」
「動物達が?」
「へい、あの気難しいケンタウロスも縄張りに入ったあの子を襲わねぇんです。それに、普通なら金属に目がないニフラーも、人を警戒するボウトラックルも、他の動物達もあの子の周りで見守ってるんです」
「うむ、もう少し様子を見ていてくれるかのう。何かあればすぐに対処できるように準備も頼む」
「分かりました。あと、ダンブルドア校長。赤毛の双子がまた森で遊び始めましたんで、注意をお願いしていいですか?」
「あの二人もか? 了解じゃ。マクゴナガル先生に報告しておこう」
「それでは、ハグリッドよ。また近い内にな」
「へい、いつでも大歓迎です」
そう言って小屋を出ると、丁度赤毛の双子が前を横切った所だった。
「元気かね、ウィーズリー兄弟」
ダンブルドアが声をかけると、二人とも跳び上がった。まさしく、ギクリといった擬音が付きそうである。
「こ、こ、校長先生ではありませんか」
「こ、こ、こんな所でお会いできるとは」
「二人ともどうしたのじゃ? なぜそんなに焦っておる」
二人とも目を泳がせ、棒立ちになっている。少しかわいそうになって来たので、早めに開放する事にした。
「まあ、よい……じゃがこれからは気をつけるのじゃぞ?」
「「は、はい!!」」
「引き止めて悪かったのう。行きなさい」
そう言うと、二人は猛ダッシュで城へ走っていった。その後ろ姿が、彼らとそっくりで……
二代目悪戯仕掛け人。そんな言葉がダンブルドアの頭をよぎった。
「お嬢様、お帰りなさいませ」
シエルが家に帰ると、久しぶりにリーサが出迎えてくれた。
「ただいま帰りました。それより、お仕事はいいのですか?」
いつもなら、この時間はまだホグワーツで勤務時間。真面目なリーサがサボりをするはずがないし。
「今日は早く上がって来ました。理由は後でお話しします。お嬢様は、先にお風呂を済ませてきてください。準備ができましたらお呼びしますので」
そう言って、リーサは私をリビングに通してくれなかった。覗きたい気持ちはやまやまだったが、リーサの邪魔をするなど言語道断だ。だが、リビングの入り口に立つリーサの顔に、ふと疲労が浮かんだ気がした。
私は心配になりながらも、シャワールームへと向かった。
「お嬢様、お待たせしました。そろそろ降りてきてください」
しばらくして、部屋に私を呼びに来たのはフェッタだった。私は返事をして下へ降りていく。
リビングルームのドアを開けると、リーサとソファには思わぬ二人が座っていた。
「ダンブルドアさまに、セブルス? どうしてこちらに?」
扉をフェッタが閉めたところで、4人から声がかかる。
「「「「お誕生日おめでとう(ございます)!!」」」」
今日って誰が誕生日だったっけ?
私は本気でそう考えた。リーサは誕生日知らないし、ダンブルドアとセブルスは教えてくれないし、フェッタは知らないと言っていたし……。
そこまで考えて、やっと誰か分かった。というか、この場で残っているのは一人しかいない。
「私、今日で10才になっていたのですね」
「そうじゃ。そして来年からはホグワーツ。楽しみじゃのう、セブルスよ」
「ルーシェの事だから、きっと成績は優秀だな」
「お嬢様はきっと、モテモテですね」
――こんな日がいつまでも続けばいいのに。
頭の隅っこで私はそんなことを考えていた。だが、そうは行かない。
来年ホグワーツに入学すれば、一年は寄生虫。二年は蛇。三年は犬。四年からはお辞儀さん……とこれから災難続きというか、災難しか起きないのだ。平和なのも今年までだ。
残り少ない平和な時間を大切にしよう。私はそう誓ったのだった。