ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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11.赤毛の双子

「君、誰だい?」

「どこから来たの?」

 

 僕らは目の前にいる少女に問いかけた。

 綺麗な顔立ちに、春風にふわりと揺れる金色の髪。

 顔つきはまだ子供だが、醸し出す雰囲気はまるで大人の様だった。

 少しして、彼女はその潤んだ唇を開いた。

 

「……赤毛……双子……なぜ、森に?」

 

 鈴の音のような声が、静かな森に響き渡る。

 見惚れたか、聞き惚れたか……僕らはワンテンポ遅れて、やっと返事をした。

 

「「えっと、それは……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕らは走っていた。鬼の形相で追いかけて来る、管理人から逃げるために。

 

「おまえらァーいい加減にしろ!!」

「「やなこったー!」」

「ウィィィィズリィィィィ!!!!」

 

 どうやらフィルチをキレさせてしまったらしい。まあ、いつもの事だ。周りの生徒が白い目で見ながら、「また双子か」などと話しているが、こちらも同じく。

 

「そろそろだ!」

「投げるぞ!」

 

 互いに意思疎通し合うと、同時に煙幕爆弾をフィルチに投げつけた。

 

「「じゃあな、フィルチ!」」

「逃がさんぞ!! ゴホ、ゴホッ」

 

 フィルチは煙を吸い込んだのか、咳をしている。その隙に僕らは近くの道に隠れた。

 

 

 

 

 

 生徒達の声がだんだん小さくなっていき、ついに聞こえなくなった。それを確認した僕達は、足を動かしながら、お互いに声を掛け合った。

 

「やったな、ジョージ!」

「そうだな、フレッド!」

 

 お決まりのハイタッチを交わした。

 今日はなかなかの偉業を成し遂げた。

 というのも、今日はフィルチの管理室に忍び込んで、没収された物を取り返す事が目標だったのだ。

 入学してから二年が経ち、悪戯に慣れてきた僕らは、その反面怒られる数も、没収品の数も、増える一方だった。そこで今回、没収品の回収をすることにしたのだ。

 

 いざ実行してみると、管理室は意外と簡単に忍び込む事ができ、加えて自分達の没収品以外の興味深い品も手に入れる事ができた。

 が、浮かれて油断したその時、フィルチが帰ってきてしまったのだ。どうやら見られなくなかったものがあったらしく……

 まあ、そんなこんなで今に至るわけだ。

 

「ジョージ、そういえば、この道って森に行くんじゃなかったか?」

「……そうかもしれない」

 

 先ほど急いで逃げ込んだため、どこの道か確認し忘れてしまった。

 

「まあ、着けば分かるさ」

「そうだな、フレッド」

 

 僕らは軽い足取りで前へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた達、もしかして悪戯をしていたの? フィルチ()()を困らせたの?」

 

 心に入り込まれる感覚と同時に発せられた彼女の声で、僕らの意識が現実へと戻った。

 

「「フィルチさん?!」」

「な、なんで、さん付け?」

「あいつに、敬称付ける人がいたんだ……」

「フィルチさん……何が変なんですか?」

 

 僕達が驚いている理由が分からない、といった様子で、彼女は小首をかしげている。少しして諦めたのか、話を戻した。

 

「それはさておき。貴方達、やはり、悪戯していたのですね?」

「「ち、違うよ!!」」

「い、悪戯なんて、し、してないよ! ねえ、ジョージ?」

「そ、そうだよ、フレッド。ぼ、僕らは優等生だから、ね?」

「怪しいですね……」

「「……」」

「はあ…ハグリッドがこんなのに半日を費やすなんて、可哀想で仕方ありません……そう言えば、お二人はなぜこんな所にいるのですか? ここは、生徒の立ち入りが禁止されているはずです。先生方も周りにいらっしゃいませんし」

 

 溜息交じりに彼女はそう言った。透き通った瞳が、僕らの目を交互に覗き込んでくる。

 

「はっ、えっと……僕達、秘密の裏道から逃げて来たんだ」

「そ、そうそう」

 

「ん? 逃げて来た? やっぱり、怪しい……」

 

 覗き込んで、ではなく睨んで、に訂正しよう。

 

「そ、それで……君は何でここにいるんだい?」

「制服じゃ無いけど、ホグワーツの生徒?」

「理由は無いです。強いて言えば、この森が好きだから、ですかね。それと私は、ホグワーツの生徒ではありません」

「「そうなんだ……って、へ?!」」

 

 僕らは幻聴でも聞いたかと思った。見かけによらず、随分と大胆な事を言う。

 

「へ? と言われましても。そのままです」

「せ、『生徒でもありません』って、じゃあ君は誰なんだい?」

「どこから……というか、まずいくつ?」

「その、女性に年齢を聞くのはどうかと思いますよ? どこからかは、城からです」

「「ひ、姫?!」」

「漫才ですか……?」

 

 そう言って苦笑する彼女は、姫と呼ぶのにふさわしい。それに、黒を基調としたワンピースが、彼女の雪のように白い肌を映えさせていて、彼女の周りだけ冬がきたのかと思ってしまうくらいだった。

 

「何か、言いたいことでも? 早めなら聞いてあげますよ?」

「あ、ああ、ごめん。そうだ! せっかくこうして会えたんだから」

「お互い、自己紹介をしよう!」

「…お好きにどうぞ」

 

 そう言って、彼女はツンっと顔を反らしてしまった。

 

「僕はフレッド! よろしくな」

「僕はジョージだ。よろしく!」

 

「「それで、君の名前は?」」

 

 僕らはそう言って、彼女の顔を覗き込んだ。すると、いきなり小さな悲鳴をあげて、後ずさりした。よく見れば、みるみるうちに赤くなっていく。

 もう一度僕らが覗き込もうとすると、もう五歩程度後ずさりをして、やっと口を開いてくれた。飛びっきりの早口で。

 

 

「……ひ、秘密、です!! それに、貴方達が知る権利も、私が教える義務もありません! 私が貴方達の名前を知っていれば、いいのです!」

 

「「え?」」

 

 先ほどの威厳はどこへやら……耳元を赤くしてそう答えた彼女に、僕達は唖然としてしまった。今の会話のどこに、恥ずかしがる要素があったのだろうか?

 

「な、なにをジロジロと見ているのですか?! 私の顔は見世物ではありません!! しかも、授業を抜け出してここに来ているとマクゴナガル女史が知れば、ただ事では済みませんよ? それに……」

「「ぷっ、ぷはははっ」」

 

 僕らは吹き出してしまった。あまりにも彼女のおどおどしている姿が面白かったのだ。

 

「なにが面白いんですか? 私は怒っているんですよ!」

「だって君、注意しながら」

「僕らの心配をしてるんだもん」

「な! 心配など、これっぽっちも………してない事も……ない事も……ない……?」

 

「「ぷはははっ、ははっ」」

「ちょっと、もう!! いい加減にして下さい」

 

 ――これが彼女との出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お二人はまた来たんですか? 全く懲りない人達ですね……」

「もちろんさ!」

「明日も、明後日も、明々後日も」

「なんなら毎日来るぜ!」

「ふふ、お二人らしいですね」

 

 あの日から、彼らは毎日森に遊びに来るようになった。その姿を見つける度に、私は彼らにこうして声をかける。彼らの意図は分からないが、いい話し相手だ。

 

「ねえ、今日は何してるんだ?」

「また、魔法見せてよ!」

「今日は動物と話したり、守護霊呪文の練習をしたりしていました。エクスペクト・パトローナム(守護霊よ来たれ)‼」

 

 呪文を唱えると、私の杖先から銀白色のフクロウパトローナスが現れた。気高い仕草で私の肩に乗っているパトローナス。私は彼らの周りを飛ぶよう命じた。

 

『キューキュー』

 

「わあ、すごい!」

「君、本当にすごいよ!」

「ありがとうございます」

 

 賞賛してくれる二人に私は頬を緩ませた。

 随分と長い間、年の近い人と接する機会がなかったためか、彼らといるとなんだか新鮮だった。それに、彼らは気さくで明るい。気を張ることなく話せる人は彼らが初めてだった。

 深入りは良くないのだけれど。

 そう思いつつも、私は彼らと会う事が楽しみだと感じるようになってしまった。そう、いけない事だと分かっていたのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は3日ぶりの雨が降っていた。動物たちが次々と目覚め出すこの時期に、この天気で森に行くのはさすがに危ない。そのため私は図書館で読書をする事にした。

 双子達には「雨の日は図書館にいる」と前から話していたので、しばらくすると彼らが現れた。

 

「「やっほー!!」」

「ねぇ、今日は僕達の部屋においでよ」

「ここだと、マダム・ピンスが……」

「ウィーズリー兄弟!! また、貴方達ですか。すぐさま、出ていきなさい!!」

 

「「はい……」」

 

 図書館に入ってきて1分も経っていないのに、追い出されてしまった。

 肩を落として図書館を出て行く彼らを見て、私はつい笑ってしまう。待たせるのも悪いので、すぐに本を閉じ、ポケットに忍ばせて、彼らの後を追った。

 

 

 

 

 

 

「もうすぐイースター休暇だぜ!!」

「うさぎの悪戯グッズ、大量生産しないとな!」

「ほどほどにしてくださいね? 私、ダンブルドアさまにうっかり話してしまうかもしれませんから」

 

 意地悪な笑みを浮かべながら、彼らに釘を刺した。これで当分、大掛かりな悪戯は起こらないだろう。

 

「そ、それにしても()()()ってさ」

「ホグワーツにいつまでいるの?」

「そうですね……来年入学して卒業するま……」

 

 私はピタリと口を閉じた。今彼らは、私の名を呼んだ?

 思考が追いついた時には、もう彼らに杖を向けていた。

 

「「!?」」

 

 彼らは突然の事でなにが起きたか分からず、取り敢えず両手を上げている。

 

「なぜ……なぜ貴方達は、私の名を知っているのですか? まさか、魔法省の使い? こんな事に子供を使うなんて……私も迂闊でしたね」

「な、なにを言っているんだ?」

「魔法省の使い? 僕らは……」

「黙りなさい!!」

 

 いつもなら独り言で済ませる言葉を声に出し、口調もだんだん強くなっていく。いつもならもう少し頭を使ってから行動するが、真っ先に杖を出している。

 結論、私は怒っていた。純粋な子供を使う魔法省に。そして、それに気づけなかった、自分自身に。

 

「なにを言っているか? そんな事、分かり切っているのでしょう? 最初から、私を魔法省に連れて行くことが目的だった。どうせ、貴方の父親にでも言われたのでしょう?」

「「……」」

 

 つい先日、ダンブルドアに警告されたばかりだった。なのに、私は――

 

「まあ、そうでしょうね。ですが、子供に彼らが多くのことを教えているわけでは無い。しかし、残念でしたね。あと一歩だったのに……後で手紙にでも書いておきなさい。『魔法省の餌になるつもりはない』と言っていた、と。どうせ、その時には、貴方達の記憶はありませんが」

 

 そこまで言って、彼らがやっと口を開いた。

 

「ま、待ってくれ」

「一回、僕らの話を聞いてくれないか?」

「……まあいいでしょう。どうせ明日には覚えていないのですから」

「僕達は魔法省の使いなんかじゃ無い」

「僕らが君の名前を知ったのには、訳があるんだ」

 

 そう言って、彼らはぽつぽつと、語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 ――君と出会った日のことだ。

 あの日、僕らは没収品を返してもらうために、フィルチの管理室に行ったんだ。

 

『ジョージ、全部見つけたかい?』

『ああ、それとなんか面白いものもあったぞ』

 

 そう言ってジョージが古い羊皮紙を出して来たんだ。

 その時はただの羊皮紙だと思ったけど、ここに置いてあるってことは、何か意味があるんじゃ無いかなって……。

 僕らは寮に帰って調べて見ることにしたんだ。

 そしたら、びっくり! なんと、地図だったんだよ。しかも、誰がどこにいるかまで分かる特別な地図。

 

 それで、3日前の雨の日。君に会いに、図書館に行ったんだ。その地図を開きながら。

 そしたら……

 

 

 

 

「今すぐ、その地図を持って来てください!」

 

 二人の話を遮って、私はそう言った。

 

「わ、分かった…」

 

 いきなりの事に驚きながらもそう言って、ジョージが悪戯グッズの入っている箱から羊皮紙を出して来た。

 それをひったくった私は、中央部に杖を当て、叫ぶように言った。

 

「我、ここに誓う。我、よからぬ事をたくらむ者なり」

「なんで、その呪文を?」

 

 ジョージの声を他所に、先ほどまでなにも書かれていなかったはずの羊皮紙に、文字や図形が浮き出していく。現れたのは、地図だった。

 私は知っている。この地図の正体を。これは。

 

「やっぱり。これは……忍びの地図」

「「しのび?」」

「ええ、この地図の名前は忍びの地図と言います……はっ」

 

 ここまで言って、私はある事に気がついた。すぐさま現在地を地図で確認する。

 そこには足跡が三つと、名前が三つ。そして、その一つには『シエル・スタージェント』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お二人とも、すみませんでした!!」

 

 シエルが額を床につける勢いで頭を下げていた。東の方にある島国では、土下座とかなんとか言うらしいスタイルで。しかも、僕達に向けて……

 

「いや、勘違いしてただけだから」

「そこまで謝らなくても大丈……」

「大丈夫な訳がありません! 私の勘違いによって貴方達に忘却術をかける所だったのですよ! 謝る他になにをしろと? 本当に申し訳ありませんでした!!」

 

 さすがに見苦し過ぎる………これ以上彼女が、地面で伏せているのは見ていられない。そう思った僕らは、シエルにもう一度声をかけた。

 

「とにかく、一度顔をあげてくれ」

「君に謝る気があるなら、僕達の話を聞く義務ってものがあるだろう?」

 

 そう言うと、渋々といった感じで、シエルは顔を上げた。

 

「取り敢えず、説明してくれ」

「なぜ、名前を知られたらいけないのか。魔法省とどんな関係があるのか」

「なんでそんなに神経質になるのか」

「「教えてくれ」」

 

 僕らがそう頼むと、シエルは近くのベッドにぺたんと座り込み、少しずつ話し始めた。

 

「シエル・スタージェント……名前、特に名字に、聞き覚えは無いですか?」

「「スタージェント?」」

 

「ジョージ、分かるか?」

 

 お手上げの様子のフレッド。ジョージは顎に手をやりながら答えた。

 

「えーと……確か、随分前の新聞で見たような」

「新聞ですか……アクシオ(来い)

 

 呼び寄せ呪文によって、どこからか飛んできた新聞ががシエルの手に収まった。そのままページをめくると、少しして僕らにそれを差し出した。

 そのページの見出しには『スタージェント家、復帰か! 秘密多きスタージェント家の謎に迫る……!!』と書かれている。

 

「これです」

「まさか、君……そのスタージェント家、なの?」

 

 シエルは静かに頷いた。

 

「そうです。私が、スタージェント家の()()()なのです……」

「「………え?」」

「当主………その年で?」

「一体何があったんだい?」

「私は―――なのです」

 

 僕らはシエルの言葉をよく聞き取ることができなかった。俯き加減のシエル。周りを漂う空気がどんよりと重いものに変わっていった。

 少ししてシエルは大きく深呼吸をした。そのときにはもう、彼女に悲しみの面影は消えてなくなっていた。

 

「ふぅ………それで、ですね。スタージェント家は代々、大きく政治・経済面で魔法省を支えてきました。しかし、現在スタージェント家で魔法省で務めている者はいません。というか、スタージェント家に務められる人はいません。イコール魔法省は今忙しいんです。猫の手も借りたいくらい。それなのに、当主()は仕事をしていない……」

「でも、君はまだ子供じゃないか!」

「そうだよ! 魔法省もそこまでは……」

 

 僕らの言葉にシエルは首を振った。

 

「自分で言うのもあれですが、私は魔法力が高いです。これはスタージェント家として、異例の事態。一種の先祖返りだとダンブルドアさまに言われましたが、魔法省はこのことを見逃さなかったのです。これもダンブルドアさまから聞きましたが、私は生まれた時から出世を約束され、少し前まで()()()の下で働いていました」

 

「「闇祓い?!」」

「それって一年に一人も入れない年があるって噂の仕事だろう?」

「そんな仕事を君に?」

「はい………それから()()()()の集団に襲われた事件がありまして…」

死喰い人(デスイーター)?!」

「君……よく生きてるね………」

「厄にでも憑りつかれてるんじゃない?」

「変なこと言わないでください……でも、今生きているのは奇跡が重なったからですね……とにかく私は今、魔法省から追われているんです」

「「へー(棒)」」

「………コホン。今言ったことは、くれぐれもご内密にお願いしますね………これで、返事になっていましたか?」

「うん、まあ君が大人みたいなのは、大変な目に遭ったからってことは」

「よーく分かったよ!」

「そう、ですか………今日はもう帰りますね。明日も雨なので、図書館……ではなく、ここでいいですか?」

「「ああ、もちろん」」

「では………」

 

 そう言って、シエルは部屋を出て行った。

 シエルが部屋を出た後、僕らは同じことを思った。

 

「「イースターが勝負だな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 私は何度目かのため息をついた。

 久しぶりにセブルスの研究所に来たのだが、セブルスはおらず、適当な椅子に座り、彼を待っていた。しかし、気が重い。原因は先程の双子との会話だった。

 先程から、彼らが言った言葉が耳から離れないのだ。

 

『君……よく生きてるね………』

 

 ほんとに、その通りだ。いつ死んでもおかしくなかった。

 

「はあ…」

 

 何度考えても、駄目だ。

 次が最後かもしれないという"死の恐怖"。覚えてはいないが、半年の間に、一時は死を彷徨っていた時もあったそうだ。あの時は運が良かっただけで、次は分からない。

 

「死にたくないな……」

 

 ふと、口からそんな言葉がこぼれた。

 そしてもう一つ。ここ最近、私の中で彼らの存在がだんだん大きくなってしまっている。それによって彼らが巻き込まれてしまうのが怖い。もしかしたらという、負の可能性が、思い当たる節がいくつもありすぎて、私の頭は混乱してしまっていた。

 

 明日、彼らの記憶を消そう。

 私はそう決意した。

 

 

 

 ――はずだった。

 

 

 

 

「ねえシエル!」

「イースター休暇にさ!」

「「遊びに行こう!!」」

「……いいですよ」

 

 あ。

 気づいた時には時すでに遅し。

 私は断るはずが、承諾してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓の外で小鳥が鳴き、森も緑が増え始めているのが見えた。そんな校長室で、吾輩は校長と話をしていた。

 

「最近、シエルはどうかね?」

「赤毛の双子と仲良くしているようですぞ」

「うむ、そうか」

 

 ダンブルドアは吾輩の報告に、あまりいい顔をしなかった。

 

「何か問題でもありますか?」

「いいや、それほど気にするほどでもないのじゃが……」

「と、いいますと?」

「シエルはのう、若くして()()を持ちすぎなのじゃ。それによって、視野が狭まっておる。そのくせ、自分より相手を優先する性格がある。彼女とそっくりじゃ……」

「……」

 

 吾輩はその彼女の姿を思い浮かべた。確かに容姿も性格もそっくりだ。

 

「同じ運命をたどらねばよいが……」

 

 ダンブルドアは遠くを見ながらそう言った。

 

 

 

 校長室を出ると、吾輩は足早に自分の研究所に向かった。すると、先客がいた。

 

「ルーシェ、どうしたのだ?」

「…」

 

 返事はなかった。机に伏せて、何かぶつぶつと言っている。近づいていくと、何を言っているのかがはっきりと聞こえた。

 

「死にたくないな……」

 

 はっきりと聞こえた彼女の言葉。吾輩は自分の耳を疑った。

 ルーシェが死を恐れている? あれほど強い彼女が?

 吾輩は、すぐに思い直した。ルーシェは超人ではないし、()()()()なのだ。そんなこと当たり前――いやちがう。そんな、はずがない。()()()()()が死を恐れるなどおかしいのだ。生死を彷徨ったからこそ、人の死を目の当たりにしたからこそ、なのだ。

 ふと、先程の校長の言葉が頭をよぎる。

 

『…シエルはのう、若くして()()を持ちすぎなのじゃ』

 

 まさかその()()のなかに、"死"があったなんて……

 

「ルーシェ」

 

 壁。高くて平らで、上ることのできない壁。強くて頑丈で、壊すことのできない壁。

 吾輩は気づいてしまった。

 

 ――こんなにも遠く離れた場所に。

 

 

 

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