ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
とても穏やかな天気だった。昨日が雨だったのにもかかわらず、清々しく晴れ渡った空。最高のお出かけ日和だった。
そして今日はイースター休暇。一日学校が休みとなるこの日は、生徒たちは家に帰ったり、ホグズミートに出掛けたりと、思い思いに過ごす日だった。
そんな日に、私は彼らとダイアゴン横丁に来ていた。
「まさか、君が姿現しが出来るとはね」
「なんかもう驚かないよ」
「そうかしら?」
「「じー」」
視線を向けて来る双子を無視して私は話を続けた。
「それより、一日ですべき事はたくさんありますよ?」
「あっ、そうだった!」
「じゃあ、初めは何する?」
「そうですね……取り敢えず、貴方達の用を済ませましょうか」
そう言って、私たちは横丁を歩きはじめた。
五軒ほど店を通り過ぎた頃、ジョージが不安そうに口を開いた。
「それにしても、本当に大丈夫かな?」
その言葉にフレッドも同意した。
「確かに……学校を抜け出してるってばれたら、僕ら退校処分だよ?」
互いに顔を見合わせヒヤヒヤしはじめた二人。今更なにを言っているんだろう?
「大丈夫ですよ。今日はダンブルドアさまは魔法省ですし。それに、日中のダイアゴン横丁ですよ?
冗談めかしく言ったこの言葉。私は気づかぬうちに、壮大なフラグを立ててしまったのだった。
この事を後悔するのはお昼を過ぎてからの話だった。
「マルフォイ殿、
「ご苦労だ。そのまま予定通り進めてくれ」
「はっ」
そう言って姿くらましをする
少しして、私がホグワーツの書類に目を通していると、ドアをノックされた。
「父上。今、よろしいですか?」
ドアを開けたのは息子のドラコだった。こんな時間にわざわざ来るなど珍しい。そう思いながらも、可愛い
「ああ、入りなさい」
「失礼します」
礼儀正しくドアを閉めるドラコに、私は問いかけた。
「突然どうしたのだ、ドラコ。何か、あったのか?」
「その……あの、ですね……」
「ドラコ。何か物を言うときは、はっきりと言いなさい」
「申し訳ありません…そのですね……す、スタージェントの当主を本当に捕らえるのですか?」
「何だ、そんな事か。気に病むことは無いぞ。
「……」
「用が無いなら、部屋に帰りなさい」
「はい、父上」
そう言って部屋を出て行くドラコ。その背中に一瞬悲しみが映ったような気がした。
父上の書斎を出て部屋戻った後、僕は先程の言葉を思い出した。
『あいつは
父上の言葉に僕は素直にうなずくことができなかった。あの少女が簡単に捕まるはずがない。何故なら、彼女は普通ではないのだ。三年前のクリスマスパーティーでそれを思い知らされた。
あの時の張りつめた空気。凛とした彼女の姿。絶対に歯向かうことのできない空気に、数分が何日、何年にも感じられた。忘れられるはずがない。
「ドビー」
僕は屋敷しもべを呼んだ。
「はい、お坊ちゃま。何でしょうか?」
「お前に、頼みがある。それは――」
パチン、と音とともに現れたしもべに、僕は一つ頼みごとをした。
その願いが叶わぬものだと分かっていても。
昼時になって、シエル含め三人はお昼ご飯を食べに、ファストフードのお店に来ていた。
「これは、ハンバーガー?! これは、フィッシュアンドチップス! あっ、これは!! まるで、マッ……」
「シエル、はしゃぎ過ぎてしょ」
「お嬢様だから、目新しいんじゃ無いか?」
少し引き気味のフレッド。対してジョージは、状況を把握しているようだった。
一方シエルは、久しぶりに見るファストフードに興奮していた。
理由は、ジョージの言う通り。プラス、
昼食を存分に楽しんだ後話し合った結果、三人は別行動をすることにした。
「じゃあ、僕らは悪戯ショップと」
「クィディッチ用品店に行ってくるよ!」
「分かりました。私は本屋にいますので」
彼らが悪戯ショップに入ったのを確認した後――スキップでもしそうな勢いで店に入っていった――シエルはカバンからマントを出し、それを羽織った。時間は限られている。
シエルはそのまま人の流れと反対の方向、ノクターン横丁の入り口へと足を向けた。
たくさんの客で賑わうダイアゴン横丁とは対照に、日が当たらずじめっとした空気が漂ったノクターン横丁。
そこで私は『ボージンアンドバークス』を目指し歩き出した。
だが、私は元々人の少ないためか、変化に気づくことができなかった。物乞いが一人もいない事に。
私がやっと変化に気づいたのは、店に入ってからだった。
「いらっしゃいませ、スタージェント殿。何かお探しものですか?」
「ええ、それが……ん?」
――今、店主は何と言った?
私は魔法道具の買い出しやらで、何度かこの店には来ている。が、これまで一度も店主に名を明かしたことなどないのだ。
まさか、と杖を構えようと思ったときには、目の前がくらんでいた。
「う、ん……はっ!」
私は飛び起きると同時に、杖を出そうとした。だが、空を切っただけだった。
「ふっ、ははははっ」
声のした方へ顔を向けると、マントに仮面をつけた男が、笑っていた。聞き覚えのある声。背格好や立ち姿から分かる。この人は――
「ルシウス?」
「ご名答だ。さすがはスタージェント殿。ですが、その洒落臭い口を聞けるのも今日までですぞ」
ルシウスがそう言っている間に、私は辺りを見渡した。どうやら、ここはマルフォイ家の地下牢らしい。という事は
「洒落臭い? 私も随分と見下されたようですね。こんな地下牢に閉じ込めて、一体何がしたいのてです?」
「何か、ですと? 馬鹿にするのもいい加減にして頂きたい。貴女は
「大罪人? 何の事です」
「とぼけないでください。あの日、貴女は私の仲間を
彼は何を言っているのだろう。私が
――違う。間違っている。
私はあの人
そう、聞いているのだ。
あの日の記憶はないけれど、ダンブルドアさまやセブルスはあの日のことを粗方説明してくれた。
だから、私の記憶に間違えなど絶対にない。
と、ここまで考えて、私は何か違和感を感じた。
もし私への復讐が目的でないのなら、彼はなぜ私を捕らえたりしたのだろうか?
まさか本当に――
「私が、殺し、た……?」
「ああ、そうだ。他に何があるというのだ」
訳が分からない。
もし、ルシウスの言うことが正しいというのならば、二人は私に嘘をついているということになる。
そんな事、ある訳がない。セブルスが嘘をつくのは分かるが、ダンブルドアさままでもが嘘をついたなど考えられない。
こんがらがった頭をどうにか解こうとするが、中々解けない。
そんな中、衝撃の言葉を彼が発した。
「そういえば、
「い、今、何て?」
「ですから、
ギギギィ――
地下牢の扉が開き、何かが投げ入れられた。
「ご主人様、お連れしました」
「
「はっ」
先程と同じ音で扉が閉まると、投げ入れられた物が何か分かった。
「……フレッド、ジョージ!!」
私は彼らの元へ一目散に駆け出そうとした。
「
ルシウスの呪文で、私は壁に打ち付けられた。
「そう簡単に動けると思われない事だな」
「くっ……」
私はルシウスを睨みつける。勢いよく打ち付けられたため、肋骨が数本折れてしまったのが分かった。
「ふふふっ。いい顔をしているな。どうだ? 敗北という名の味は。さぞかし不味い事だろう」
「その言葉、そっくりそのまま、貴方にお返しします」
「なんだと? いい加減、その口を削ぎ落としてさしあげましょうか?」
「脅しのつもりですか? ルシウス。私はそんな事では動じませんよ」
「では、これはどうですかな?
三連続の呪文。壁、床、壁と、打ち付けられる。
体がギシギシと痛み、骨折どころでは済まなかった。が、私は立ち上がった。
「まだ……!」
「ふっ。
またまた、三連続。前二つはどうにか避け、最後の呪文は直撃してしまった。
「……まだ、だ!」
「負け惜しみですか? そんなボロボロの体で何が出来るというのだ?」
「くっ……」
――私は何もできなかった。
魔法が使えなければただの一般人なのだ。初めから勝ち目はない。分かっている、そんな事は。でも、でも――
「最後だぞ。シエル・スタージェント。大人しく死ね」
「拒否、します……私、は、死な、ない!」
「ふっ。残念だ………
自分は死ぬんだ、と思った。何もできないままこうして死んで行くんだ。
――だが、運命は死よりも残酷なものを私に渡した。
「「ぐばっ」」
彼が杖を向けたのは、私ではなく、双子だった。
吐血をし、もがき苦しんでいる彼ら。ルシウスはそれを楽しそうに見下ろしている。
「どうだ、仲間が苦しんでいる姿は? ご当主様?」
――私の中で、何かが切れる音がした。
体を無理やりに動かし、立ち上がった。ボキボキ、ゴリゴリと言った音が聞こえるのは気のせいだろう。
体の痛みは、もうなかった。正確にいえば、感覚神経が狂ってしまったのだが。
まあ、そんな事はどうでもいい。
目的はただ一つ。目の前にいる
無造作に腕を突き出して、魔力を指先に集める。そのままルシウスに腕を突き出した。
ルシウスは、そんな私に目もくれず、二人を弄んでいた。
――絶対に許せない。
私の
「消えろ」
その瞬間、ルシウスが壁に打ち付けられた。
バンッ――
「なっ!」
私は一瞬何が起きたかわからなかった。少しして、体の節々に痛みを感じる。
顔をゆがませながら、私は地下牢を見渡した。ここでは魔法を使えない。なのに私は今、飛ばされたのだ。一体誰が……?
考える前に、魔法が飛んできた。次は、地面が粉々になる。
私は途端に恐ろしくなった。
シエルは無心だった。目の焦点も中々合わず、天と地がどちらかも定かではない。
ただひたすら指先に魔力を集め、それを
「やめて、くれ! 殺さないでくれ!!」
「ゴミが喋るな」
バンッ――
「し、死ぬ!!」
「煩い」
バンッバンッ――
「どうかお助けを!!」
「失せろ」
バンッバンッバンッ――
シエルは次々と打ち込んでいった。中々消えないゴミに、鬱陶しさが増してくる。
「そろそろ締めだ。さらばだルシウス・マルフォイ。せいぜい地獄で頑張るんだな。アバダ・ケ………」
「「シエル!!」」
二人の声で私は我を取り戻した。
僕らは地に這いつくばっていた。今まで感じた事のない痛みが身体中を支配している。
なぜこんなところにいるのだろう?
そこまで考えた時、僕らの意識が沈んだ。
意識が回復したのは、誰かが僕らの名前を呼んだからだった。
「……フレッド、ジョージ!!」
もしかして、シエル?
何でここにいるんだ?
答えが見つかる前に、シエルが壁に打ち付けられた。
助けなきゃ!!
そう思い、体を動かそうとしたが、びくともしなかった。
「「くっ……」」
その間に、シエルが傷ついていく。
「最後だぞ。シエル・スタージェント。大人しく死ね」
――僕らは何もできなかった。
彼女を守ることは愚か、体を動かすことすらできなかった。
もっと、たくさん話したかった。仲良くなりたかった。
なのになのに――
「拒否、します……私、は、死な、ない!」
「ふっ。残念だ………
何が起きたか分からなかった。
勢いよく押し寄せてくる痛みと、苦しさ。僕らは体をよじり、痛みに叫んだ。
「「ぐはっ」」
口から何かが溢れ出してきた。きっと、血か何かだろう。何も考えられなくなった頭で僕らは死を覚悟した。
ブチンッ――
物理的ではない何かの音がした。何かが切れた音。
少しして、痛みが止んだ。
見上げるとそこには小さい背中で僕らの前に立つ、銀髪の少女がいた。
彼女は怒り狂っていた。僕らの頭に押し寄せてくる感情がそれを伝えていた。
腕を差し出し、誰かに向けている。
「やめて、くれ! 殺さないでくれ!!」
命乞いをする、男の声がした。
「ゴミが喋るな」
バンッ――
爆音とともに、男が吹き飛んだ。
「し、死ぬ!」
「煩い」
バンッバンッ――
男に無数の切り傷ができた。
「どうかお助けを!」
「失せろ」
バンッバンッバンッ――
吹き飛び、壁に当たり……男は地に這いつくばっていた。
その時、僕らは知ってしまった。彼女がしようとしていることに。
――ダメだ。やめろ。
意識に直接話しかけてみたが、効果はなかった。
もう手段はない。
最後の力を振り絞って、僕らは彼女の名を呼んだ。
「「シエル!!」」