ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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13.契約

「「シエル!!」」

 

 後ろから名を呼ばれた。

 ――私は一体何をしようとしていた?

 

 周りを見渡すと、ルシウスが地面に這いつくばっていた。

 

 ――この状態を作ったのは、私なの?

 

 考えれば考える程、恐怖を感じていった。自分自身に対して。

 

 その時、聞き慣れた指ならしの音が聞こえ、目の前が暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お坊ちゃま。ドビーめは、この方たちを連れてまいりました」

 

 姿現しをしてきた屋敷しもべ。その横には担架が三つ浮かんでいた。

 

「すぐに手当をしてくれ」

「はいでございます」

 

 ドビーが手当をしている間に、僕は母上を呼びに部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リビングに着くと、母上が落ち着かない様子で立ったり、座ったりを繰り返していた。

 

「母上。大丈夫ですか?」

 

 僕が声をかけると、母上が驚かれた様子で問いかけた。

 

「ど、ドラコ! 部屋から出てはいけないとお父様に言われたのではないですか?」

「はい。ですが、非常事態なのです。すぐに父上の元へ行ってください」

「……何故です?」

「見れば分かります。すぐに病院へ」

「病院? 一体何があったというのですか!」

「ですから母上。急いでください」

 

 少しして、母上が父上と共に、病院へ向かわれた。

 父上は先程の三人と同じくらいひどい怪我をされていて、僕は見ていられなくなった。

 だが、落ち込んでいられる時間などない。

 今のうちだ。二人が帰ってくる前に、済ませなければ。

 来た道をたどるように、僕は客室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、うん……」

 

 目が覚めた私は、自分がどこにいるのか分からなかった。

 

「目が覚めましたでしょうか?」

 

 見覚えのある屋敷しもべが私に声をかけた。

 

「貴方は…?」

「ドビーでございます。ドビーめは()()()()()()の屋敷しもべでございます」

「そう……マルフォイ家? はっ!」

 

 私は思い出したように起き上がった。が、手当ての済んだばかりの体が軋むように痛む。

 

「うっ」

「動いたらダメでございます! ドビーめは、お坊っちゃまのご命令で、手当てをするよう頼まれたのでございます。ですから、動いてはなりません!!」

「ドラコがそんな事を? 何故ですか?」

「ドビーめは、お坊っちゃまにお願いをされました。ご主人様の計画を阻止して欲しい、と。ですが、ドビーめは失敗したのでございます。そこでお坊っちゃまは、ドビーめにチャンスを与えてくださったのです。ドビーめは、急いで地下牢へ行って全員の意識を失わせた後、ここへお連れしたのです」

「……じゃあ、ドラコを呼んで来てくれるかしら?」

「かしこまりました」

 

 ドビーは部屋を出て行った後、少しして誰かを連れて戻ってきた。

 

「「シエル、大丈夫か?」」

 

 普通に歩けている彼らを見て、安心した私は彼らに抱きつこうとした。

 

「フレッド、ジョージ!!」

「動いてはいけません!!」

 

 ドビーに止められてしまったので、気を取り直して無事を確認し合った。

 

「お二人とも、怪我は大丈夫ですか?」

「ああ、ドビーがしっかり治してくれたからな」

「ありがとよ、ドビー」

「ありがとう……なんて優しい……」

 

 感激しているドビー。私は最後の一人に話しかけた。

 

「ドラコ。久しぶりですね。どうやら私は貴方に貸しを作ってしまったみたい」

「……貸し借りはどうでもいい」

「あら、優しいのですね」

「それより、大事な話がある」

 

 ドラコが一瞬照れたような気がしたが、すぐに顔を顰めた。

 

「ルシウスのことでしょう?」

「そうだ」

「それなら安心してください。()()()話して来るので」

「「「え?」」」

 

 三人分の声が重なった。

 

「まず、その体じゃ…」

「杖さえあれば、()()()治りますよ」

「父上の方は……」

「私が治すので大丈夫です」

「シエルって……」

「兄弟よ、それ以上は言わないでくれ」

 

 フレッドが何か言おうとしたが、ジョージに止められた。

 

「何か、おかしいですか?」

「「おかしいところだらけだよ?」」

「?」

 

 首を傾げるシエルに、三人分のため息が重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の傷の手当をし、フレッドとジョージをホグワーツへ送り届けた後、シエルは聖マンゴ病院へ足を運んでいた。他でもない、ルシウスと話をするために。

 

 コンコン――

 

「どうぞ」

 

 女性の声がした。ゆっくりと扉を開き中を見渡すと、ルシウスがベッドで横になり、マルフォイ夫人が見舞い用の椅子に座っていた。

 2人とも驚きを隠せない表情である。

 

「先程ぶりですね」

「なぜ、きさ」

「貴様?」

 

 シエルはルシウスの言葉を待たず言った。杖を握る手をわざとらしく動かしてみせると、2人のから向けられる敵意がひしひしと感じられる。

 

「今の立場を考えた方がいいですよ、ルシウス」

「くっ……」

 

 苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見るルシウス。シエルはにこりと微笑んで、杖を持つ手を緩めた。

 

「というのは冗談ですよ。私は貴方と戦う意思はありません。私はただ、話があってきたのです」

「話?」

「正確に言えば()()なのですが――返答によってはお二人の大切なものが失われるかも知れませんね」

「――ドラコに何をした?」

 

 病室の空気が一瞬にして凍てつく。父親の瞳で殺意を隠さないルシウス。

 やっぱり()()()()とは違う。これが本物なのか、もしくは――

 

「ふふっ」

「何をしたか聞いているんだ!」

 

 ベッドから身を乗り出してそう言うので、隣にいたマルフォイ夫人が必死に止めた。シエルは微笑みを止めない。

 

「何もしてはいませんよ。これからも私が何かをすることは一切ありません。誓いましょう」

「誰が信じると?」

「そうですね――血の誓いでもしてみますか?」

 

 今度は本気の顔だった。先程の笑みが嘘だったかのように、静かな声でシエルは言った。

 二人が息をのむ音が聞こえた。沈黙が続く。

 

「……内容は」

 

 切り出したのはルシウスだった。シエルはまた気味の悪い笑顔を向ける。

 

「それでは、私と手を組みましょう」

「は?」

「スタージェント家の配下にならないかと聞いたのです」

「いやいや、何を言っている。先程まで私たちは杖を交えていたのですぞ?」

「ええ。ですが、決して、悪いお話ではないでしょう? 私は貴方たちと戦いたくない。貴方たちは私を敵に回したくない。悪いどころか、とっても良い話だと思うのですが」

 

 少女の意図が読めない。ルシウスは訝しげにシエルを見た。

 

「何が狙いだというのです? 金? 地位か? 」

「何も」

「何も! 何も目的がないのに、ただ戦いたくないと言うだけの理由で、仲間になると?」

「ええ、そうです。それに今回、彼には助けられましたし」

「彼?」

「ドラコですよ。私をあそこから逃がしたのも彼です」

「なぜ……?」

「さあ。理由は彼にしか分かりませんわ。ですがこれでドラコに命を救われたことになります。私は命の恩人に杖を向けようとは思えません」

「信じられん」

「それは困りましたね」

「大体先程から、配下にならなければ、息子を殺すと言われているようなものでは? どうもこうもないと思われますが」

「それでは言い方を変えましょう」

 

「――ドラコを私にくれませんか?」

 

 嘘をついている顔には到底見えない、真剣な表情だった。

 

「……は?」

「ですから、ドラコを私の許嫁にしたい、と言ったのですよ」

「一体、どういう考えでそうなる……」

 

 ルシウスはさらに頭を抱えた。

 

「配下になるのが嫌なのでしょう? そしたら、ドラコを許嫁にすればいいわ。そしたら、互いに敵対は出来ない」

「いやだから、それのどこにこちらの利益が」

「ドラコを守ります」

「はい?」

 

 ルシウスも隣にいるマルフォイ夫人だって、今の状況に困惑しきっていた。

 

「私とドラコに関係がある間、私はドラコを守り続けると誓いましょう。勿論、マルフォイ家も」

「何から守るというのです」

 

 呆れながら、ルシウスはシエルを見た。どうせ嫌な笑みでこちらを――

 

「何からでしょうね?」

 

 ルシウスは息を呑んだ。困ったような、悲しいような、何とも言えない顔を向けられていたのだ。

 マルフォイ夫人がルシウスの手を掴んだ。みると、その視線は少女を向いている。そして、ルシウスの方へ顔を向けて、一つ首をこくりと頷かせた。

 ルシウスはシエルを見た。少女は目が合っているというのに、視線はその先にあるように感じた。

 

「スタージェント嬢」

「はい」

「貴方は何をしようというのです」

「……何も。私が何をしようと、何もしなかろうと、起きるべき時に起こるのですよ」

 

 今度は真っ直ぐと視線が合った。その後、契約を承諾し、少女が病室を去った後も、黒い空気が空間を漂っているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホグワーツの校長室に六人が集められていた。細かく言えば、教師と生徒二人ずつと屋敷しもべが一匹。もっと細かく言えば、ダンブルドアさまとセブルスとリーサ、フレッドとジョージだ。そして、私と双子はかれこれ5分以上は腰を直角に折り曲げ、全身全霊のお辞儀をしていた。

 

「シエルよ、おぬしはもう少し頭を使えると思っていた。実に残念でならんのう……」

「あ、頭は使いました。それに、いいことも……」

 

 私が反論しようとすると、リーサが叫んだ。

 

「いいことですって?! 何をおっしゃいますか、お嬢様! 貴方様は()()()()()()使()()を、無許可にホグワーツ城から連れ出したのですよ! その上()()()拉致されて、怪我もして……」

 

 私も未成年ですけど。というツッコミは飲み込んだ。

 実際それどころじゃないのである。ダンブルドアさまは言わずもがな、リーサは切れると本気で怖いのだ。ちなみにセブルスは、何も言わずにただただ無表情を貫いている。むしろそれが一番恐ろしい気もする。

 

「申し訳ありませんでした……」

 

 この後こっ酷く説教を受けた私は、もう二度とあんなことはしないと誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 

「シエル!」

「随分と久しぶりだな!」

「そうですね」

 

 数日しか別れていなかったはずなのに、まるで何カ月も会っていなかったような気がして、私は目を潤ませた。

 

「ほんとに行っちゃうのか?」

「ええ」

 

 私はあの後、スタージェント家に帰ることが決まった。これ以上()()()()()()()()()、らしい。それが嘘だということは自分でもよく分かっていた。

 

「寂しくなるな」

 

 ジョージが気を遣うように言った言葉。私の心に染み渡った。

 

「私、私……」

 

 気持ちを言葉にする前に、涙が溢れてきた。そんな私を二人が優しく包み込んでくれる。彼らの体温は暖かくて、暖かすぎて。私の中の冷たいものが、ゆっくりと解けていった。孤独も寂しさも全てが、その全てがどうでもいいと思えた。

 

「僕ら、ここで待ってるからな」

「絶対に来いよ」

 

 ――ずっとこのままでいられたらいいのに。

 

 私の涙が収まるまで、彼らは私をずっとずっと、抱きしめてくれていた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるお屋敷の一角にある墓地。一人の男がそこを訪れていた。

 

「セナ……」

 

 そう言った男は、自分の手に抱えていた蒼い花を静かに置いた。男の長い白髪が風になびく。

 

「済まない、君の敵を打つ事は出来なかった」

 

 男――()()()()は、悲しみに顔を曇らせた。

 

()()()()()を今から迎えに行ってくる。彼女は覚えていないかもしれないな」

 

 小さな墓地に響き渡るルシウスの声。

 彼はそうとだけ言うと、背中を向け反対方向へと歩き出した。彼の背中には悲しみが、怒りが、憎しみが、そして何より――

 

「セナ、私は君を……」

 

 独り言のように霧散に消えたその言葉は、彼女への愛する気持ちだった。それは恋情ではない。友情とも違う。しかし今のルシウスにはもう確かめる事は出来ない。

 コツコツとブーツの音を鳴らしながら、遠く離れて行くルシウス。

 

 また吹いた風に今度は備えられていた花が揺れた。

 蒼い花、ブルースター。花言葉は『身を切る思い』。普通、墓地におかれる花ではない。しかし、彼女の好きな色をした、彼女の好きな星の名の入るこの花。

 ふと、彼の足が止まった。

 

「今度は君の娘を連れてこよう」

 

 もう一度背を向けると、彼はそのまま止まる事なく歩き出した。

 

 

 

 

『フィナーラル・セナ・ソード 1987年ここに眠る』

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