ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
14.一ヶ月
――ハリー・ポッター。
『例のあの人』をたった一歳で打ち倒した英雄であり、魔法界の救世主。そんなヒーローはきっと、みんなにちやほやされ、豪華な暮らしをしている。
誰もがそう思うだろう。
だが現実は、マグルの従兄弟の家で奴隷のような扱いをされていた事を除けば、ごく普通の男の子だったのだ。しかも、自分が魔法使いだと知らずに。
今日は、7月31日。彼の11歳の誕生日だ。
今頃、ハグリッドが
そう言う私はスタージェント本家の客間で、セブルスと紅茶を嗜んでいた。
だが、二人の間に会話はなく、セブルスは来てからずっと黙っている。
さすがに気まずくなってきたため、セブルスに話しかけてみることにした。
「ねえ、セブルス。この紅茶とても美味しいわね。でも、何かあったのですか?」
そう聞くと、セブルスは、口をつぐんでしまった。
「……」
答えてくれないのなら、聞き出すしかない。
「私的には、来てくれるだけでとっても嬉しいのですが、貴方のことだから、用も無いのに来るとは思えないのです」
そう言ったルーシェの辺りに漂うオーラは、けして普通の少女が発せられる様なオーラではなかった。が、彼女は"普通"ではない。
凄まじいオーラに当てられ、恐る恐るセブルスは口を開いた。
「明日、そのだな……」
ブツブツと、独り言かのように話しだすセブルスだったが、話すまで気長に待つことにした私は相槌をうつ。
「新学期の買い出しに行こうと思ったのだ」
どうやら、買い物へのお誘いらしい。相変わらず私の容姿からか、セブルスの態度は落ち着かない。あのセブルス・スネイプが一人の少女におどおどとしているのだから、何とも面白い絵面だ。
私は少し微笑んで、答えた。
「もちろんいいですよ」
「……そうか」
ずずっと紅茶を一飲みして、突然立ち上がると、そのままセブルスは帰って行った。
私はまだ暖かい紅茶を1人で啜った。
真夏の日差しが痛いくらいに照り付くような暑さ。こんな日に、外に出たがる人などそういない。
だが、そこは違った。たくさんの人が行き交い、買い物をするダイアゴン横丁。
少女もまた、買い物客の一人だった。
白を基調としたワンピースに身を包む、金髪碧眼の少女。隣には黒いマントを羽織った、黒髪黒眼の男性がいる。はたから見れば、正反対のペア。
無口で歩いていた二人だったが、少女の方が沈黙に耐えかね口を開いた。
「セブルス。折角の買い物なのに、無愛想すぎではないですか?」
「うむ、ルーシェよ。吾輩がニコニコとしていたら気味が悪いであろう?」
「ふふ、そうですね」
ルーシェが笑いかけると、セブルスも少し頬を緩ませた。
「でも、せめて話しながらにしましょう?」
「うむ……それで、手紙にはなんと書いてあるのだ?」
セブルスに言われ、ルーシェはカバンを開き、『入学案内』と書かれた手紙を出した。
「教科書類と鍋は、家にあるから、買わなくて大丈夫です。あと買うのは……杖、ですね」
「それでは後で合流しよう。吾輩は用事がある」
そう言ってセブルスと別れた私は、オリバンダーの店へ向かった。少し歩くと古臭い看板が目に入った。
ふと、ルーシェの頭に五年前の事が浮かんだ。
カランカラン――
店内に入ると、珍しく店主がカウンターに座っていた。
「おお、お待ちしていたしたよ、シエルさん」
あえて、スタージェントともルーシェとも言わず、にこやかに迎えるオリバンダー。さすがだなと、私は思った。
「お久しぶりですね。そう言えば、あなたに頂いたあの魔晶石。覚えていらっしゃいますか?」
「ええ、勿論です。導いたのは、どの杖ですか?」
興味本位で聞くオリバンダーの前に、杖を出した。
「これです」
「これは、杉の木にドラゴンの琴線、30.6センチ……父上の杖ですな?」
「ええ。今日は自分の杖を探しに来ました」
「そうですか。でも、よろしいのですか? この杖の忠誠は貴方に向いておる」
「いえ、この杖は予備として使うつもりです。一応、父の形見ですし」
「これは、失礼した。ではこれを。桜の木にユニコーンの鬣とドラゴンの心臓の琴線。24センチの杖です」
そう言うと、オリバンダーは手元から古びた箱を出し、中から杖を出した。
原作のように、探してくると思っていたため私は驚いた。が、すぐに渡された杖に手を伸ばす。
ほんのり桃色に色づき、不思議な彫刻が施された杖。
どこか、懐かしい雰囲気がするその杖に触れる……と、その途端、あの時と同じような感覚が押し寄せた。
「……やはり」
「やはり?」
「いやいや、こちらの話です」
私は気になったが、教えてくれなさそうなので、話題を変えることにした。
「代金は前のお返しもしたいので、これだけもらってください」
「いえいえ、お礼など気になさらず」
「そうですか……」
「その代わりに、またいらして下さい」
「分かりました。それでは、また」
「ええ、いずれ会うでしょう」
意味ありげな笑みを浮かべるオリバンダーが、少し不気味に見えた。
店を出るといつの間にか近くの日陰にセブルスが立っていた。手にはプレゼント箱が握られていた。もちろん見なかったことにした。
「セブルス、お待たせしました。用は済みましたか?」
「うむ。ルーシェは他に寄りたいところはないか?」
「そうですね……マグルのお店に少し寄ってもいいですか?」
「ああ。だが、どこに行くのだ?」
「ふふ、内緒です。セブルスは、漏れ鍋で待っていてください」
「分かった」
「リーサ」
ルーシェが呼ぶと、どこからともなくリーサが現れた。そのまま、パチンという音と共に2人は消え去った。
少ししてルーシェが帰ってくると何も言わず、セブルスは、付き添い姿くらましをした。
目を開けると、そこはホグワーツの門前だった。
「セブルス、家に帰らないのですか?」
「うむ。ダンブルドアが呼んでいてな」
「なるほど」
セブルスの言葉に同意しながら、私はホグワーツの門を潜った。
「シエル、急に呼び出して済まんのう」
「いえ、ダンブルドアさま。構いませんよ」
久しぶりに来たホグワーツ城。呼び出しとはいえ、ここに来たのは数ヶ月ぶりだ。嬉しい気持ちが抑えきれないのも無理はなかった。
「それで、なんのご用でしたか?」
「プレゼントがあってのう。まあ、入学祝いみたいなものじゃよ。そういうものは直接渡すのが筋というものじゃ」
そう言うと、ダンブルドアさまは自分の本棚から一冊本を取り出して来た。私はそれを受け取ると、開こうとする。
「まだ、開けてはダメじゃ。これは世界に一つしかない本。何の本かは読めば分かるが、必要な時しか開いてはならぬ。よいか?」
「……分かりました。大切にします」
私は鞄の中に本を閉まった。顔を上げると、セブルス何か言いたそうな顔をしていた。そういえば、ダイアゴン横丁で――
「……ルーシェ」
「どうしましたか?」
「吾輩からは、これを」
そう言って、小さめの箱を私に渡した。リボンを解き、包みを開いて見る。すると、現れたのは、イヤリングだった。
宝石のような物がついており、キラキラと光に反射してとても綺麗だ。
私はそのまま耳につけてみた。重さはなく、何となく身体も軽くなったような気がした。
「これは……もしかして魔法具ですか?」
「その通り。ルーシェは魔力が多すぎて、疲れやすい体質がある。だから、魔法を貯めることのできる魔法具を選んだ」
「ありがとうございます、セブルス」
彼らから貰ったプレゼント。私はその日、その二つを枕元に置いて眠った。
夢の中で私は、数日後に控えるホグワーツへ入学する日を見た気がする。