ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
この列車に乗車してから、もう20分が経つ。
ぼーっと窓の外を眺めながら、過去の記憶を思い出しているうちに、発車まであと10分となっていた。
コンパートメントに誰か来る前に、さっさと着替えを済ませる。着替え終わった私は、ローブのポケットから本を出した。
しかし、読み始めようとしたところで、ノックの音ですぐに現実へ引き戻される事となった。
「はい、どうぞ」
声をかけると、控えめに扉が開いた。
ガラガラ――
そこに居たのは、先程窓から見えた黒髪碧眼の少年――ハリー・ポッターだった。
一瞬にして、頭が冷める。
「あの……ここ空いてるかな? もう2人来るんだけど」
「えっ、と……」
私は混乱していた。原作と、違う?
「あ、いや! 先客が居るなら全然いいんだ。その、迷惑じゃないならで……」
「ええ……もちろんいいですよ」
「ありがとう。それじゃあ、呼んで来るね」
歩いて行く彼の背中を見届けながら、私は焦りを感じていた。
もしかしてここは――
私は恐怖と焦りを振り払うべく、大きく深呼吸をした。
「本当にありがとう。君がいなかったら、僕たち座れないところだったよ」
「いえ、お役に立てて光栄です」
黒髪の少年、ハリーに軽い会釈をする。驚いたような顔を見せたが、それ以上は触れられなかった。
きっと、話しかけづらさを感じているのだろう。だが、下手に話しかけて未来を変えてしまうのはよくない。そう思った私は先ほどの本を開き、読み始めようとした。すると、ハリーの隣に座る赤毛の少年が話し始めた。
「ねえ、せっかくだから、自己紹介しないかい?
僕はロナウド・ウィーズリー。ロンって呼んで」
「えっと、僕はハリー・ポッター。ハリーでいいよ」
「えっ! 君、本物?じゃあ、あれはあるの? その……ここにある、あれ」
ロンが右の額を指差し、驚いた様子でそう言った。ハリーが前髪を手で上げる。
そこには稲妻型の傷が、確かにあった。
「ロンとハリー? 自己紹介がまだ済んでいないのだけれど」
ロンとは反対側のハリーの隣に座る、栗毛の少女がそう言った。原作と同じく、随分とキツイキャラである。
「コホン。私はハーマイオニー・グレンジャーよ。ハーマイオニーと呼んで頂戴」
「「……」」
ロンとハリーは、どうやら敵対意識を持ったようだ。
まあ、私には関係ないので、もう一度本を――
「ねえ、君は?」
そう聞いたのはハリーだった。
「私ですか?」
「そうよ。私達だけして、あなただけしないのは不自然だわ」
ハーマイオニーがハリーの言葉を押した。
「……ルーシェ・エバンズ」
私は小声でボソッとそれだけ言うと、目線を本に落とした。
「じゃあ、ルーシェだ。よろしくね」
ハリーがそう言ったのが聞こえた。
こうして、私は主人公達と面識を持ったのだった。
「車内販売はいかが?」
お昼時になると、車内販売のおばさんが、カートを引いてやって来た。
ルーシェとロンとハーマイオニーはお弁当を持って来ていたため、何も買わなかった。だが、ハリーはというと、爆買いというものをしていた。
それぞれ昼食をとっていると、コンパートメントの扉が勢い良く開いた。同時に誰にも気づかないれないように、ルーシェがフードを被る。嫌な予感は的中した。
「ここに、ロニー坊やはいるかい?」
「それと、金髪碧眼の美人」
「あと、ハリー・ポッターと」
「ペットのカエルと」
「「金髪碧眼の美人」」
入って来たのは赤毛の双子だった。ハリーとハーマイオニーが『金髪碧眼の美人』の言葉に先程までルーシェが居た場所を見つめた。だが、いない。二人は顔を見合わせた。
その間に、ロンと双子が話していた。
「僕は、坊やじゃない! それで、兄さん達何かよう?」
「かわいい、かわいい弟の入学なんだぜ?」
「どんな感じか偵察に来たってわけさ!」
ジョージ、フレッドの順にそう言った。
「ああ、それなら心配ないよ。だって、あのハリー・ポッターと友達になれたもん」
「なんだって?!」
「そんなバカな!?」
ロンの得意げな表情に、彼らはわざとらしく頭を抱えた。
「それより、カエルならここにいるわ」
双子が驚いていることを傍目に、ハーマイオニーがカエルを差し出した。
「おお、サンキュー」
「良かったな、トレバー」
「他に何かあるかい?」
ロンが聞くと、
「ああ、もうないぜ」
「そんじゃ、僕たちはこれで」
そう言って先程と同じようにして出ていった。
「ねえ、ハリー彼女はどこに行ったの?」
「彼女とは私のことですか?」
そこには、『金髪碧眼の美人』がいた。
数分後。
ガラガラ――
「ここにハリー・ポッターがいるって聞いたんだが。誰の事だい?」
入って来たのは青白い少年、マルフォイだった。後ろにずんぐりむっくりの弱そうなボディーガードが二人いる。力士でもいけそうだ。
「僕だよ」
ハリーが答えた。ただし、顔に『嫌だ』と書いてあったが。
「そうか、君が。僕はマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ。よろしく。それと、友達の選び方には気をつけた方がいいぞ。少なくとも、赤毛のウィーズリーと付き合うのは止めといた方が君のためだ。それに……」
「友達ぐらい、自分で決められる」
ハリーがそう言った。
どうやら、本当に二人は相性が悪いらしい。
ロンとハーマイオニーが、止めなきゃ、と思ったその瞬間、パタンという音がした。どうやら誰かが本を閉じたらしい。そして、本を読んでいたのはこのコンパートメントでただ一人。
「あら、ドラコ。私には挨拶してくれないのですか?」
その声に過剰反応したドラコは、背筋をピンと伸ばた。
「こ、これは、これは! すた……ではなくて、シエル嬢ではありませんか。お元気でしたか?」
「ええ。それより、ルシウスの調子はどうですか?」
「お陰様で、とても元気になりました」
「それは、よかった」
「では、僕はこの辺で。同じ寮になれる事を祈っています」
扉を閉め、足早に出ていこうとする彼の背中に、
「ルシウスに、今度の休暇に会いに行く、と伝えておいてください。また手紙も送りますね」
爆弾を投げ込んでおいた。
扉が閉まると一気に空気が悪くなった。
ルーシェ以外の三人は、口を閉ざし、キョロキョロと辺りを見渡していた。
少しして沈黙に耐え兼ねたのか、ハリーが口を開いた。
「ルーシェは彼と仲がいいの?」
「いいえ。色々とありまして……彼が私にああしなければならないだけです」
また沈黙が始まった。
ルーシェは何事もなかった様に、読書をしている。ハーマイオニーも諦めたのか、教科書を読み始めた。
だが、その沈黙はまたすぐに破られる。
ガラガラ――
「ルーシェ!!」
「やっと見つけた!」
バフッ――
「「「え?」」」
ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人の声がシンクロした。
驚くのも無理はない。なんと、先程来たロンの兄達が、ルーシェに抱きついた、いや、飛びついたのである。
「なんで隠れていたのさ!」
「僕らの事嫌いになったの?」
「……そういうところが嫌いです」
ガーンという効果音が付きそうなくらい、落ち込む二人。本人は気にせず読書を続けていた。
またまた沈黙。他の三人は状況を飲み込めず、ルーシェを見つめていた。
耐え兼ねたのは、ルーシェだった。
「あの、私の顔に何かついていますか?」
「いや、その、何と言うか……」
「おい、兄さん達、何時の間にそんな綺麗な人を!」
「も、もしかして、先輩?!」
ハリー、ロン、ハーマイオニーの順で、問いかけた。返って来た答えは。
「フッ、どうだ!」
「羨ましいか? ロニー坊や」
これには唖然としてしまった。どうやら彼らと彼女は
と、ここまで想像を膨らませてしまった三人。
すると、バンッという音とともに、双子が頭を抑えた。
「「イタっ!!」」
どうやら、ルーシェに本で頭を叩かれた様だった。
「二人とも、調子に乗らないでください。口を縫いますよ? それとも声帯を切って差し上げましょうか?」
「「怖っ」」
「三人とも勘違いしないでください。彼らとはただの知り合いです。それに私は新入生です」
「そ、そうなんだ」
「びっくりしたよ……」
「よかったわ」
三人が胸をなでおろした。
「「ちっ」」
すかさず、フレッドとジョージが揃って舌打ちをした。
その瞬間。
バンッ――
「「ルーシェ、酷い」」
次は、本が自分で叩いた様に見えた。加害者のルーシェは無表情である。
「でも、待てよ。もしかして、これは『寂しかったからちょっと意地悪したくなっちゃった』的な感じなんじゃ」
「そうか! よしよし、僕らも同じだよ」
バンッ――
どこからともなく現れた大量の本。そのまま重力に任せ、彼らの頭に直撃した。
「「ぐはっ……す、すみませんでした!!」」
ルーシェは無言で杖を構えていた。それも、とびっきりの悪魔の笑顔で。どうやら、『次に、何かしでかしたら、窓から放り出す』らしい。全く、恐ろしいものだ。
そんなこんなで、騒がしい時間が過ぎていった。
「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に届けますので、車内に置いていってください」
車内に放送が響き渡った。
ちなみにだが、フレッドとジョージは運転手にクソ爆弾を仕掛けてくると言って、どこかに行ってしまった。ルーシェによって窓から放り出されたのは、まあご愛嬌ということで。今頃、車内販売のおばさんに説教でもされているのだろう。
身支度をしながら、三人の顔が青白く見えることに気が付いた。
私はというと、組み分けの方法を知っているため、テストがある勘違いをしているハーマイオニーの様に呪文を唱える必要もないし、ロンの様にプレッシャーもない。はっきり言って、緊張など一ミリもしていなかった。
しばらくすると列車の速度が落ち、停車したのが分かった。
「ハリー、行こう」
「うん……」
「私も行くわ」
そう言ってコンパートメントから、彼らが出て行くのを見届ける。ほとんどの生徒が列車から降りたことを確認してから、私は下車した。
「イッチ年生、イッチ年生はこっちだぞ。ついて来い!」
外に出ると、ハグリッドが引き連れる一年生達の後ろについて、私も進み始めることにした。