ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
16.
「マクゴナガル先生、イッチ年生の皆です」
「ありがとう、ハグリッド。ここからは私の仕事です」
開いた扉から、見るからに厳格そうな魔女、マクゴナガル女史が出てきた。
彼女に連れられ、玄関ホールを抜けると、大広間の脇にある空き部屋にたどり着いた。新入生たちは皆、興味津々の様子。
「入学、おめでとうございます。ようこそ、ホグワーツへ」
マクゴナガル先生の挨拶に、ほとんどの生徒が視線をそちらに向けた。
「新入生の歓迎会が間もなく始まります。その前に寮を決めなくてはなりません。組み分けはとても大切な儀式です。そして……」
マクゴナガル先生が寮の説明やホグワーツでの生活などを話す。だが、私は彼女の話を完全に聞き流していた。なぜなら、私の視線の先にいる、茶髪の女子生徒。その斜め上のあたりに、目くらまし呪文の痕跡が見えたのだ。しかも、呪文をかけているのはその生徒ではない。
一体何を連れているのだろうか。
「待っている間、身なりを整えておきなさい。戻ってくるまで静かに待つように」
結論を出す前にマクゴナガル先生の話が終わり、部屋を出て行った。周りを見渡すと、生徒たちはそわそわと緊張しているのがうかがえた。友達同士で身なりをチェックし合っている人もいる。
少しすると生徒の悲鳴と共に、ゴースト達が現れた。
「もう、許してくだされ。彼にもう一度チャンスを……」
太った修道士がそう言った。
「おっと、新入生ではないか」
遮るようにして、ほとんど首なしニック。
彼らが話していると、いつの間にかマクゴナガル先生が戻ってきていた。
「さあ、皆さん。組み分けの儀式が始まりますよ」
マクゴナガル先生の厳しい声が聞こえた。
「一列になって。ついてきてください」
私はまた、列の一番後ろについた。
大広間は前に来た時と変わらない美しさを保っていた。
「本当の空に見えるように魔法がかけられているのよ。『ホグワーツの歴史』に書いてあったわ」
前の方でハーマイオニーの得意げな声が聞こえる。
私は天井や生徒、教師たちよりも、マクゴナガル先生が出してきた組み分け帽子から目が離せなかった。
あれも魔法で動いてるんだもんな……。
マクゴナガル先生の誘導で、新入生たちが前の方に集まると、その帽子が歌いだした。
私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう
山高帽は真っ黒だ
シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組み分け帽子
私は彼らの上をいく
君の頭に隠れたものを
組み分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに行くならば
勇気ある者が住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール
ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない
古き賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん! 恐れずに!
興奮せずに、お任せを!
君を私の手にゆだね(私に手なんかないけれど)
だって私は考える帽子!
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」
「アボット・ハンナ!」
おさげ姿の少女が椅子に座る。帽子を被ると、少しして帽子が叫んだ。
「ハッフルパフ!」
ハッフルパフ寮のテーブルから歓声とともに拍手が上がり、そのテーブルに彼女がついた。
その後も組み分けは続いた。
私の苗字はE。ということは、呼ばれるのもすぐのはずで。
「エバンズ・ルーシェ!」
呼ばれた。
マクゴナガル先生の声で、私は前へ出る。
ふと、ダンブルドアを見ると、目が合った。微笑んでいる。セブルスを見ると、無表情ながらも口角が上がっているのが見える。
椅子に座り、帽子を被ろうとする……と、その時。
「スリザリン!」
その声と同時に、『波乱の組み分け』の開始を知らせるベルが鳴り響いた。
「スリザリン!」
それが彼女の組み分けだった。スリザリンの生徒から歓声と拍手が聞こえる。もちろん、僕も手を叩いた。
――だが、彼女は動かなかった。
帽子を脱ぐことも、椅子から立つこともなく微動だにしない。
「ミス・エバンズ? あなたの組み分けは終わりましたよ。スリザリンのテーブルへ……」
「マクゴナガル先生。少し
彼女の声に、大広間は静寂に包まれた。
長くて暗い。僕はあの時のことを思い出した。
しばらくして、
「グリフィンドール!」
組み分け帽子がそう叫んだ。
目を見開く先生に、彼女は帽子を渡す。
彼女はとても晴れやかな顔をして、グリフィンドールの席へ足を向けた。
なぜ、私が動かなかったのか。それは単に気に食わなかったのである。
中身を見る前に、外面だけで判断されたことが。マクゴナガル先生が話しかけてきたが、ここを退く気はない。
「組み分け帽子、少しいいですか?」
「おっと、どうかしたかね。
やっぱり、と私は思った。
「申し訳ありませんが、私はルーシェ・エバンズです」
「……私は君の心が見える。偽っても仕方がないであろう?」
「確かに、偽っているかもしれません。しかし入学したのは
「……分かった。だが、理由は他にもあるのだろう?そうだな……例えば『転生者』だとか」
「ふふ、そこまで見えているのですね?」
「まあ、開心術が私の命、だからな。では、転生者の君に私から一つだけ助言だ」
「救えるものを救うのは罪ではないが、未来を変えることは時に罪となり得る。君がその力を生かすも殺すも自由だが、いつも以上に頭を働かせるのだ」
「よいな?」
「難しいことを仰いますね……ですが、自分の、いや、世界の最善を尽くします」
「それでよいのだ。さて、では君の寮を決めるとしよう。君の性格ならどこへ行ってもいいとは思うが、ここは君の事を信じよう」
「分かりました。では、改めて。私の寮はどこですか?」
私が聞くと、帽子ははっきりとこう言った。
「グリフィンドール!」
納得する答えがやっと得られた。マクゴナガル先生に帽子を渡し、軽い足取りでテーブルへ向かった。
私がテーブルについても、拍手も歓声も起こらなかった。
「あの……私はスリザリンに行った方がよかったですか?」
私が正面にいたハリーに聞くと、みんなが我を取り戻したかのように動き出した。
「もちろん、歓迎するよ。ミス・エバンズ。僕は監督生のパーシーだ。パーシー・ウィーズリー」
「ありがとうございます」
「続いては、ソード・フィナーラル」
茶髪に蒼い瞳。さっきの子だった。頭上には先程と変わらず魔法の痕跡が浮いている。
「グリフィンドール!」
彼女が隣に座ったことで、私はその正体を確信することが出来た。
組み分けが終わると、マクゴナガル先生は帽子を片付けた。
ダンブルドアが立ち上がり、満面の笑みを生徒たちに向ける。
「おめでとう、新入生たち! 歓迎会の前に、二言、三言、言わせてもらいたい。では、そーれ! わっしょい! こらしょ! どっこいしょ! 以上!」
ダンブルドアはそう言い切り、席に着いた。途端に拍手と歓声があがる。
「あの人……ちょっぴりおかしくない?」
ハリーがパーシーにそう聞いている。確かに同感だ。
そういえばと空だったお皿を見ると、いつの間にか料理が盛り付けられているのに気が付いた。
私は料理に手を付けた。少しして、自分のお皿にサラダをのせていると、
「ねえ君って、どこかのお嬢様だったりするの?」
斜め前に座っているロンがそう聞いてきた。
「屋敷しもべにはお嬢様と呼ばれています」
「屋敷しもべ? それって、すごく大きいお屋敷にしか住まないってママが言ってたよ。本当にいるの?」
「はい」
「やっぱり、食べ方とかがすごくお嬢様らしいから」
「そうですかね……」
「それより、さっき、帽子と何を話していたんだい?」
パーシーの問いかけに、周りの生徒がうなずいた。どうやら、結構目立ってしまったようだ。確かに、組み分けされた後に寮が変わった、なんて話は聞いたことがない。
「人を外見で区別しないでほしい、と頼んだだけです」
「「?」」
意味がよく分からなかったようだ。まあこれで、容易に話しかけてくる人はいないだろう。
少しして、ローストチキンに手を付けていると、ほとんど首なしニックがどこからともなく現れた。
「これはこれは、お嬢さんではありませんか! 随分とお久しぶりで」
「こんばんは、ニコラスさん。でも、私はお嬢さんではないです。人違いでは?」
「そ、そうだよ、ニック!」
「そ、そんな訳ないだろう!」
「「だって彼女は、ルーシェだもん!」」
フレッドとジョージが話に割って入ってきた。これでは、疑いの目が増えるだろうに。
「それよりさ!」
「僕らの悪戯グッズを見てくれよ!」
どうやらポケットが膨らんでいるのはそのためらしい。
とりあえず、無視。
「そういえば、グレンジャーさんって本がお好きなんですか?」
「え、ええ。そうだけど……」
「「ぼ、僕らのことは無視?!」」
「実は、私も読書が好きなんですよ」
「へ、へえ……」
少し引き気味のハーマイオニー。私は話す相手を変えた。
「えっと、ソードさんでしたよね。あなたは?」
フレッドとジョージを無視しつつ、私は彼女に話を振った。
「……読書は嫌いです」
「そうですか。じゃあ、何がお好きですか?」
「えっと、動物とか?」
「そうですか……例えば、
私は彼女の肩の2センチ上を見ながらそう言うと、彼女が目を見開いた。
私は人差し指を口に当て、口パクで「誰にも言わない」と言った。
「えっと……貴方は、エバンズさんだったよね」
「ええ、ルーシェでいいですよ。フィナーラル」
「フィナでいいです……」
それから私たちが他愛無い話をしていると、デザートが消え、ダンブルドアが立ち上がった。
「エヘン。皆よく食べ、よく飲んだことじゃろう。また二言、三言。新学期を迎えるにあたり、いくつか知らせがある。一年生に注意しておくが、構内にある森に入ってはいけない。これは上級生にも、何人かの生徒たちには特に注意しておく」
ダンブルドアは、赤毛の双子を見ているように見えた。一瞬私の方に視線が向いたのは気のせいか。
「管理人のフィルチさんからも、授業の合間に廊下で魔法を使わないようにと注意があった。また、今学期は二週目にクィディッチの予選がある。チームに参加したい人はマダム・フーチに連絡するように。最後に、とても痛い死に方をしたくない人は、四階の右側の廊下に入らぬように」
少数人がその言葉に笑った。もちろん私は笑っていない。むしろ、
「では、寝る前に校歌じゃ」
一気に場の空気が明るくなる。ダンブルドアは、金のリボンで文字を書いた。
「みんな好きなメロディーで。では、さん、し、はい!」
ホグワーツ ホグワーツ
ホグホグ ワツワツ ホグワーツ
教えて どうぞ 僕たちに
老いても ハゲても 青二才でも
頭にゃなんとか詰め込める
おもしろいものを詰め込める
今はからっぽ 空気詰め
死んだハエやら がらくた詰め
教えて 価値のあるものを
教えて 忘れてしまったものを
ベストをつくせば あとはお任せ
学べよ脳みそ 腐るまで
赤毛の双子が葬送行進曲で歌い終わると、みんな拍手をした。ダンブルドアは一番大きな拍手だった。
「音楽とは何にもまさる魔法。さあ、就寝時間じゃ。駆け足」
グリフィンドールの生徒たちは、パーシーに続いて歩き始めた。
寮に到着し、男子寮と分かれるところで誰かに袖を引かれた。私は最後尾にいたはずなので、そんなことはありえない。後ろを振り返ると、手袋が私の袖を引いていた。
その手袋がくるりと一回転したかと思うと手紙を差し出した。『ダンブルドア』と書かれている。
「ルーシェ、何してるの?」
「いえ、何も。少しぼーとしてしまいました」
「そう、じゃあ行きましょう」
私は女子寮に入った。奥に進みながら、ドアに書かれた自分の名前を探す。
途中でフィナと別れたが、いくら探しても自分の名前が見つからなかった。
そう言えば、さっきの手紙の存在を忘れていた。
なんでもっと早く思いつかなかったのだろう。手紙を開くとこう書かれていた。
シエルへ
君の部屋は少し特殊でのう、中に入っているカードを使ってくれ。
それと入学おめでとう。
ダンブルドアより
書かれているとおり、手紙には洒落たカードがついていた。端の方になにか文字が書いてある
「……て、んい? 転移」
その言葉で視界が歪んだ。
目を開けるとそこは知らない部屋だった。
机の上に、置手紙がある。
「君への入学プレゼント……? ふふ、ダンブルドアさまらしいですね」
その日、私は久しぶりに楽しい夢を見た気がする。