ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
城に戻った私はすぐに朝食を済ませ、一度部屋に戻った。
そのあと、支度を済ませ教室へ向かう途中。ピーブズに悪戯されたのでし返したら、『お使えいたしますので、ご勘弁を』と命乞いをされたり、「あら、フィルチさんの猫じゃありませんか」と声をかけただけでミセス・ノリスに懐かれたり、赤毛の双子に抱きつかれたり……多少問題はあったが無事にたどり着く事ができた。
教室に入ると、一番後ろの隅の席に座る。本を開き、授業の開始を待った。
少しすると、隣に誰かが座った。
「えっと……ルーシェ、だったよね? ちょっといい?」
フィナだった。私はすぐに本を閉じる。
「私に何かご用でしょうか?」
「うん。さっきルクスが禁じられた森で、あなたに会ったって言うんだけど本当?」
なんだ、そのことか。そう思った私は頷いた。
「はい。スネイプ先生と一緒に森に行っていました」
「えっ! あの、スネイプと?!」
「ええ。朝早く、寮を抜け出したら見つかってしまって」
「そうなんだ……って、規則破ったの?! 減点された?」
「いいえ。皆さんが思うより、スネイプ先生は優しいですよ?」
「うーん…そうかな?」
「まあ、誤解を生みやすい顔をしていますけどね」
「確かに、あの人すっごい無愛想だもんね」
これ以上言うと悪口になりそうなので、私は話題を変えた。
「それより……ルクスは貴方の使い魔か何かですか?」
「ううん。小さい頃から友達なんだ」
「そうですか。どうやら、勘違いだった様ですね」
「勘違い?」
「いえ、こちらの話です。それより、そろそろ授業が始まりますよ」
「皆さん、おはようございます」
マクゴナガル先生の声で、授業が始まった。
一年生は、薬草学、魔法史、妖精の呪文、闇の魔術に対する防衛術など、他にもたくさんの教科がある。
その中で、一番初めの授業は変身術だった。
一番楽しみにしていた、一番初めの授業。しかし私は、イレギュラーな彼女に頭を悩ませる事となった。授業が始まる前に話しかけてしまった事を悔いてしまうくらいに。
「皆さん、おはようございます」
授業はマクゴナガル先生の挨拶で開始した。
「変身術は、これから学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの1つと言えます。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒は、出て行ってください。もちろん、二度とここには入れませんよ。初めから警告しておきます」
そのあと、机を豚に変え、元に戻した。
「すごい……」
周りの生徒も私と同じ様に同じ呪文を唱えたくてウズウズしているのが分かる。
一方彼女は、私の隣で先生の死角を使い、本を読んでいた。そのため、先生の話は耳に入っていない。
私は彼女に小声で声をかけた。
「ねえ、ルーシェ。読書なんてして、バレたら追い出されちゃうよ?」
「大丈夫ですよ、フィナ。先生の話はきちんと聞いていますから。今から板書を写すのでしょう?」
「はい、それではこれから書く事をノートに写して下さい」
ルーシェの声にかぶせる様に、マクゴナガル先生がそう言ったのが聞こえた。
「ね?」
彼女の勝ったと言わんばかりの表情に、私はため息をついた。
変身術の授業が終わると、次は薬草学。
屋外で実技の授業だ。さすがに読書はしないだろうと思っていたのだが、彼女は一枚上手だった。
「シエルさん? 授業中に何をしているのですか?」
「すみません……先生のおっしゃった事を、メモしておこうかと思いまして」
彼女は宙に浮かせたノートにひたすら書き続けていた。少し覗いて見たが、得体の知らない薬草や薬品の名前、目も眩む様な数式がびっしり書かれている。
これにはハーマイオニーもびっくりだろう。
「素晴らしい行いですよ。グリフィンドールに5点」
先生は感心したように加点をしてしまった。
次の授業もその次の授業も、彼女は同じ様なことをしていた。ノートを広げたり、読書をしたり……
そしてとうとう、闇の魔術に対する防衛術の授業に至っては『授業に出る必要性を感じないので』とかなんとか言って図書館へ行ってしまった。もっとも、クィレル先生は気づいていなかったが。
酷い有様である。なぜ、こんなに悪い事をしている彼女が減点されずに、何もしていない生徒がスネイプに減点されるのだろうか?
そんな疑問を抱きながら、いつの間にか金曜日を迎えていた。
ホグワーツに入学して初めての金曜日。とは言っても特別な事は何も無い。いつも通り談話室で読書をしていると、隣に座ったフィナが私に声をかけた。
「ねえ、ルーシェ。今日はスリザリンと合同授業だって」
「そうですか」
もちろん知っている。何と言ってもセブルスの授業なのだ。私が忘れるはずが無い。
だが、私の気の無い返事を、フィナは勘違いしてしまったらしい。
「また、授業をサボるつもりなんでしょ。闇の魔術に対する防衛術だけならまだしも、ダメだよルーシェ!」
注意を受けてしまった。
というか、防衛術の授業はいいんだ。
そう思いつつも、私は一応反論をしておいた。
「私は授業をサボっているつもりはありません。それに、魔法薬学で読書はしません」
「ほ、本当に?」
なぜか驚かれた。
「本当です。この本に誓いましょう」
「分かった。絶対に、だからね」
なぜか指切りまでさせられた。
魔法薬学の授業が始まった。
「魔法薬学では、魔法薬調剤の微妙な科学と、厳密な芸術を学ぶ」
セブルスの声に、生徒達のざわめきが一気に消えた。
「ここでは杖を振り回すようなバカげたことはやらん」
セブルスの演説が始まる。
改めて思うが、セブルスは自分が美しいと思ったものはとことん好きになる。そのため、演説をしてしまうほど熱がこもってしまうのだ。
そろそろ。
私がそう思ったと同時に、セブルスが彼の名を呼んだ。
「ポッター! アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じた物を加えると何になるかね?」
困ったような顔を見せるハリー。それをセブルスは喜んで見ていた。
「……わかりません」
「名ばかりだなポッター? え?」
「では、もう一つ。ベアゾール石はどこにあるかね?」
ハーマイオニーが手を高く挙げ、ドラコ達がこらえきれないように笑っている。
だが、セブルスはそれに目もくれなかった。
「分かりません」
「フッ、ここに来る前に、教科書を一度でも開こうとは思わなかったのかね? では、サービス問題だぞ、ポッター。モンクスフードとウルフスベーンの違いは?」
ハーマイオニーがついに席を立った。
「分かりません」
「ハーマイオニーに聞いてみてはどうですか?」
シェーマスの言葉にセブルスの顔が一気に歪んだ、と思いきや私の方を見て、にっこりと笑う。寒気がした。
「ルーシェ・エバンズ。お前ならどうだ?この全てを、答えられるのではないかね?」
まさかの展開だった。
遠くでハーマイオニーが私を睨み、ドラコ達の笑いが止んだ。
一瞬の静寂。
私は口を開いた。
「答える前に、1つよろしいですか?」
「言ってみよ」
セブルスの顔がもっとにこやかになった。言うなれば、極寒だ。
「
教室が水を打ったように静かになった。教室の生徒全員が、口を開け唖然をしている。一部の生徒は鯉のように口をパクパクさせていた。
「その根拠は?」
「ご自分でもお分かりでしょう?」
(ルーシェよ。吾輩を怒らせて楽しいか?)
(セブルスこそ、ポッターをいじめて楽しいですか?)
(何が望みだ)
(私は普通に授業を受けたいだけですよ?もちろん、贔屓なく)
私たちは意思疎通をしながら、無言の睨み合いをした。
勝者は……
「答えられたら、グリフィンドールに1点やろう」
「ありがとうございます、スネイプ先生」
私だった。
生徒達は、何が起こったか把握出来ていない。
「では、ルーシェ・エバンズ。答えを」
「まず、アスフォデルとニガヨモギは強力な眠り薬、生ける屍の水薬になります。次に、ベアゾール石は、山羊の胃から取り出せ、解毒剤となります。
最後のモンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、他にもアコナイトと呼ばれます。とりかぶとのことですね。これで、よろしいですか?」
全て、明確に答えを出した。
「グリフィンドールに1点」
皮肉そうなセブルスの声。同時にドラコ以外のスリザリンの生徒からブーイングがかかった。
一方、グリフィンドールの生徒はまだ起動していないようだ。
「フンッ。ところで諸君。なぜ、ノートを開かぬのだ?」
その声でやっと動き出した。
その後は、原作通り。おできを治す薬を調合した。セブルスはドラコを褒めまくって機嫌はすっかり元どおり。と、思っていたのだが。
すっかり忘れていた。この授業でのハプニングに。思い出すと同時に、隣で調合していたネビルが山嵐の針を調合し間違えたのが見えた。
「
咄嗟に魔法を唱えてしまった。だが私の障壁で、被害は最小限に済んだ。
「バカ者!」
そう叫ぶセブルス。たいそう、おかんむりだった。
「グリフィンドールは、2点減点」
とばっちりを受けたハリーが、肩を落とすのが見えた。
授業が終わると、フィナがおどおどしながら私に話しかけてきた。
「ねえ……やばいよ。ルーシェ」
何のこと? と、聞く前に、理由が分かった。
「ねえ、アンタ。グリフィンドールの癖にいいご身分ね? どう思う、ミリセント」
パグ顔の少女、パーキンソンと、
「そうね、パンジー。何様かしら?」
がっちりとした体つきの少女、ミリセントがそこにいた。
「私は、ルーシェ・エバンズと言います。身分はあなた達と同じ学生です」
私は丁寧に自己紹介をしておいた。
「アンタの事なんて、どーでもいいわ。それより、謝んなさいよ。我が寮監のスネイプ先生に歯向かった罪として!」
「……貴方たちの気に障ったなら、謝ります。すみません」
私は心の中で言い返しながらも、素直に謝った。
「何、素直に謝っちゃってんのよ! もう少し怖がったらどうなの? もう、腹が立つわね!」
どうやら、謝って欲しい訳ではないらしい。この年の子、特に女子は本当にめんどくさい。前世でもこういったことがあった気もする。
「他に用件が無いのであれば、行ってもいいですか?」
「はあ? アンタ、バカなの? もう少し、自分の立場を考えてから物を言いなさいよね。大体、アンタなんかにこんな時間費やしたく無いのよ」
「そうですか。では、終わらせましょう」
そう言って、私は杖を出した。
「な、何をする気?」
「廊下での魔法は、禁止よ!」
「別に、怒られても構いません。ウィンガーディアム……」
私が浮遊呪文を唱えようとすると、怯えたような顔をして、二人が後ずさりをした。そのまま後ろに走って行く。
「ひっ、お、覚えてなさい!」
遠くでそんな声が聞こえた。
「厄介ですね……それではフィナ、行きましょう」
「えっ。あ、う、うん。」
私は茫然としたフィナを連れて、その場を後にした。
寮に戻ると、これまた手厚い歓迎をされた。
「シエル! スネイプを出し抜いたって本当かい?」
「スネイプ、どんな顔してた?」
「君が本当にやったの?」
「真面目だと思ってたのに……」
「やっぱり、グリフィンドールだな!」
次々に言われる悪口と紙一重の褒め言葉。しばらくはその対応に追われた。
夕食の時も寮内はその話で持ちきりだったが――セブルスがそれをすごい顔で見ていた――夕食後寮に帰ると、その話題が一転した。
「ミス・エバンズはいますか?」
「はい、ここに」
「ダンブルドア校長から、校長室に来るように、と伝言です。それと『客人を待たす事のないように』だそうです」
「分かりました。すぐに行きます」
そう言って、私は寮を出た。
ルーシェがいなくなると、談話室では、校長室に呼ばれた理由について、語り合っていた。
一番多かったのは、スネイプを怒らせたから、というものだったが、私はそうとは思わなかった。
まあ、帰ってきたら教えてくれるだろう。そう思った私は、談話室で彼女を待つ事にした。