ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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19.脅し

 校長室の入り口に立った私は、今更ながら、合言葉を聞き忘れていた事に気がついた。

 マクゴナガル先生に聞きに行ってもいいかと思ったが、なんとなくダンブルドアが好きそうなお菓子が思いついたので言ってみることにした。

 

「グミキャンディー」

 

 すると、ガーゴイル像が動き出した。

 

「え、今ので合ってたの?」

 

 よく分からないが、取り敢えず出てきた階段を登った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シエルよ。早かったのう」

 

 ダンブルドアがそう言った。視線を横にずらすと、隣に魔法大臣、コーネリウス・ファッジがいる。

 最悪だと思いながらも、営業スマイルを彼に向けた。

 

「お待たせしました。それで、魔法大臣ともあられるお方がなぜここに?」

「お久しぶりですな。今日はスタージェント殿に話があって来たのだよ」

 

 大臣も、私に負けない営業スマイルでそう答えた。

 

「何のご用で? 先に言っておきますが、闇祓いになるのはお断りです」

「そう、焦らずに。まあ、その話をしに来たのは事実なのですがね」

「今言ったばかりですが、お断しさせてもらいます」

 

 私は背を向けて、部屋を出ようとした。だが、入り口が閉まる。

 

「シエルよ。話くらいは聞きなさい。おぬしのために魔法省からわざわざ来てくださったのじゃからな」

「私のためじゃなくて、自分(魔法省)のためでしょう?」

 

 ダンブルドアの説得に反感を持ちながらも、私は答えた。

 

「まあいいです。ご要件は」

「では早速ですが、本題に入りましょう。あなた方にとって良い話から行きましょう。この度、スタージェント殿に専属の闇祓いをつけ、スタージェント殿をお守りします。理由としてはこの間のような事が二度と起こらないようにです。他にも、闇祓いをつけることによって、マスコミの目から逃れやすくなりますし、その方がダンブルドアも安心でしょう」

 

 大臣はそう言い切ると、ドヤ顏を向けてきた。

 私は1つため息をつくと、にこやかに皮肉で返した。

 

()()ですか? それのどこに利益を感じるというのでしょうか。ダンブルドアさまはどう思います?」

「そうじゃな、わしもおぬしと同感じゃ」

「……では話は聞いたので、帰ります」

 

 次こそは帰ろうとすると、大臣から待ったがかかった。

 

「何でしょうか?」

 

 私はものすごく不機嫌に答えた。

 

「貴方の闇祓い入りには理由がある」

「どうせろくな理由ではないのでしょう?」

「いいや。重要な話だ」

 

 そう言う大臣の顔は真剣そのものだった。ダンブルドアを見ると、もう少し聞きなさい、という顔をしている。

 私は仕方なく扉に背を向けた。

 私が帰らないのを確認すると、大臣は口を開いた。

 

「……これまで魔法省はスタージェント家の当主である貴方が子供であることも、偉大なるアルバス・ダンブルドアが貴方を匿っていたことも、全て内密にしてきました。魔法省でそのことを知っているのは、私と私の秘書くらいでしょう。しかし、貴方が魔法省を出られれば、その事を知る者が増えますぞ。これまでは貴方が魔法省にいたから守られてきた秘密であって、もし断られるのであれば、私たちも考えなくてはなりませんな」

 

 大臣の顔から笑みが消えた。

 

「それに、スタージェント家はこれまで政治中心であったのにも関わらず、闇祓いというトップレベルの仕事の枠を()()()()()()用意したのですよ? これはもう、異例中の異例。他の闇祓い達の反感を抑えるのに苦労しましたよ。他にもいろいろ裏で手を引いているのはこの魔法省。その全てが貴方のたった一つの返事にかかっています。ここまで言っても断られるのであれば、スタージェント家の立場も揺るぎかねますぞ。そうでしょう、ダンブルドア?」

「うむ……」

 

 私は大臣の言葉に、動作に、彼が放つオーラに、体の底から寒気に襲われた。大人というのはこんなにも恐ろしいものだったのだろうか?

 今まで、リーサやダンブルドア、セブルスなどの私の周りにいた大人たちは皆、温かかった。愛を持って接してくれていた。

 

 この時、私は身をもって知らされた。大人の残酷さ、冷酷さ、そしてそれが愛を持たぬ故であることに。

 

 そこまで考えた私は、気づいた。これは、勧誘ではない()()なのだ。

 『魔法省に入らなければ、敵とみなす』と言われているのと大差ない。

 

 もし私が断れば、ダンブルドアの立場も危険になるかもしれない。

 絶対的な力を持つ魔法省を敵に回して、果たして得られるものはあるのか?

 そしてなにより、スタージェント家はこれまでの当主達が何十年、何百年かけて守り続けてきた。

 そのスタージェント家を、私の我儘で壊してしまっていいのだろうか?

 

 もちろん、全て否だ。

 さすれば、答えは2つに1つ。

 

「……分かりました」

 

 こうして私は闇祓いへと復職する事になったのだった。

 

「それでは明日、闇祓い局でお待ちしておりますぞ」

 

 嬉しそうな顔の大臣が校長室を出ていくと、私はソファーに座り込んだ。

 

「シエル………」

 

 ダンブルドアが顔を覗きながら、私の名を呼んだ。その声色や表情から心配してくれているのが分かる。

 私は大きな深呼吸をして立ち上がった。

 

「すみません。少し疲れただけです。そろそろ寮に戻りますね」

「シエル、待ちなさい。シエル!」

 

 後ろでダンブルドアの引き留める声が聞こえたが、私は後ろを振り返らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人、また一人と、生徒が部屋に戻って行く談話室。

 私はそこで彼女を待っていた。

 談話室を眺めると、ハリーとロンが何かこそこそと話しているし、フレッドとジョージは悪戯グッズを作っている。他にも、ハーマイオニーはレポートを書いているし、監督生のパーシーは自分のバッチを色が剥げそうな勢いで磨いていた。

 それをぼんやりと眺める。

 すると、後ろから声がかかった。

 

「フィナーラルさん、ですよね?」

 

 知らない男子生徒の声だった。

 

「はい、そうですけど……」

「よかった! 僕はネビル・ロングボトム。ルーシェさんはどこにいるか知ってる?」

「校長室に呼ばれて行きましたよ」

「こ、校長室?! 一体、どんな悪さをしたの?!」

「それが、私にも分からないんですよ」

「そっか……じゃあ、戻ってきたら、『助けてくれて、ありがとう』って、言っておいてくれる?」

「?」

 

 私が頭にはてなを浮かべた。一体、彼女がどんな事をしたんだろうか?お礼をされるような事を彼女はするだろうか?

 

「実はね。魔法薬学の時におできを治す薬が爆発したでしょ? その時、彼女が助けてくれたんだ。あの時は動揺しちゃってお礼が言えなかったから」

「えっ。ルーシェがそんな事を?」

「うん。彼女以外の人は笑ってたから、みんな気づいてなかったと思うけど」

 

 確かに、あの時薬が爆発したのに被害はなかった。まさか、ルーシェだったとは。私は驚きを隠せなかった。なにせ、授業でサボるような子なのだ。私は疑心暗鬼になった。

 しかし、彼はそれを知らないのだろう。ここで公表してもいいのだが、それは少しかわいそうだと思ったので、やめておいた。

 

「ルーシェにはきちんと伝えておくね。えっと……」

「あっ、僕の事はネビルでいいよ」

「じゃあ、ネビル。私もフィナでいいわ」

 

 ネビルが部屋に戻るのを見届けると、いつの間にか談話室には私一人しかいなかった。

 眠気が押し寄せて来る。

 

「ふぁ……」

 

 あくびを一つ。私はそのまま眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……」

 

 彼女のいなくなった校長室で、ダンブルドアは一人、ため息をついていた。

 

『すみません。少し疲れただけです』

 

 彼女が言った先程の言葉。嘘だということは、目に見えて明らかだった。

 

 前にセブルスにも話したが、シエルは自分よりも他人を優先するところがある。自分の意見、欲だけならまだしも、自分の安全まで他人を優先する。

 それをファッジが分かっていたのかは定かではないが、間違いなく効果的だった。

 

 ダンブルドアが顔を覗いたとき、彼女には表情がなかった。冗談ではなく本気に、だ。しかし、次の瞬間。彼女は必至に笑顔を取り繕った。

 

 その笑顔を見たとき、ダンブルドアは怒りを覚えた。

 人の弱みにつけ込み、自分の利益を生み出そうとする魔法省に。

 あの時と何一つ変わっていない。何一つ学ぼうとも、生かそうともしていない。そう考えると、腹立たしくて仕方がなかった。

 そのやり場のない怒りを押し鎮めるために、ダンブルドアは深い深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふらふらとした足取りで寮に戻ると、私は談話室の入り口でで座り込んでしまった。

 

「ふぅ……」

 

 ポケットからカードを取り出し部屋に戻ろうとする。ふと、視界に誰かが眠っているのが見えた。

 

「フィナ?」

 

 彼女は一人掛けのソファに座り、こくこくと船を漕いでいた。

 私の声で、うっすりと目が開く。

 

「う、ん……ふわぁ。るぅーしぇ?」

「はい、私です。なぜ、ここに?」

 

 私が聞くと、フィナは眠そうな目を擦って、こう答えた。

 

「かえってくるの、まってたのぉ」

「え?」

 

 私は衝撃的だった。

 わざわざこんな遅くまで、私をここで待っていてくれた。誰のためでもなく、私のために。出会ってからまだ数日だというのに。私はふと思い出した。こういう関係をなんと言うのかを。

 

 ――私はフィナと友達…?

 

「そういえば、ネビルってゆー子が『たけてくれて、ありがとう』だって」

「ん? ありがとう?」

「うん……ふわぁ」

 

 フィナは大きなあくびをすると、また眠ってしまった。

 

 よく分からないが、細かい事は、明日聞けばいいか。

 私は、彼女を浮遊呪文で浮かせ、ベッドへと運んだ。

 そのあと、部屋に戻った私は半分寝ながらシャワーを浴び、ネグリジェのボタンを掛け違えながらもベッドに入った。

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