ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
「ねえ、ルーシェ。今日は初めての休日だけど、何する?」
大広間で朝食を取っていると、向かい側に座ったフィナがそう聞いてきた。すると、私を挟んで座っていたフレッドとジョージもその話にのってきた。
「もちろん、僕らを手伝ってくれるんだろう?」
「悪戯グッズを作るとか、ピーブズを打ちのめしに行くとか」
「えっと、今日はですね……」
私は対応に困った。さすがに魔法省に行くとは言えないし、嘘をつくのも何となく嫌だ。
私は紅茶を飲んで口の中の物を流すフリをしながら彼らへの口実を考えた。
すると、意外なところから救いの手が差し伸べられた。
「ミス・エバンズ。食事中に悪いが、授業の事で話がある。ついでに手伝って欲しいこともあるため、せっかくの休日だが潰れることを覚悟しろ。ついてこい」
なんと、セブルスだった。
これ以上グリフィンドールの近くにいたくない、と言わんばかりの態度でマントを翻すセブルス。
私は彼に返事をして、フィナ達にも断った。
「は、はい。すぐに行きます。ごめんなさい。スネイプ先生に呼ばれたので行きますね」
「初めての休日なのに……」
「スネイプのグリフィンドール嫌いも大概にして欲しいよな」
「頑張ってね」
三人に手を振りながら、私はセブルスを追いかけた。
セブルスに連れられて着いたのは校長室だった。入学してまだ一週間も経っていないというのに、校長室に来るのはこれでもう二回目。入学前を合わせると、十回以上来ているかもしれない。別に怒られるわけではないのだが、何となくここに来ることに慣れるのは、いいことではない気がした。
「校長が中で待っている。それと、頑張りたまえ」
「はい。ありがとうございました」
私がそう言うと、セブルスは顔を隠すように私に背を向け、歩き出した。
セブルスの足音が聞こえなくなると、私は合言葉を言い、出てきた螺旋階段を上った。
中に入ると、ダンブルドアが一枚の肖像画と話しているようだった。
「闇祓いだと!? まだ、未成年ではないか! ダンブルドア、お前が止めずにどうするのだ!」
「いや……儂も止めようとはしたんじゃが……」
「言い訳は聞き飽きたぞ! 今すぐ私が大臣に話をしにいく!」
どうやらただ話しているのではなく、言い争いをしているらしい。ダンブルドアが怒られているという不思議な光景を見つつも、私はどのタイミングで入っていいか分からずに、突っ立っていた。
「2人共、本人が来ていますぞ」
それを見ていた他の肖像画が彼らに声をかけてくれた。私はその肖像画に軽く頭を下げお礼をすると、あまり上手いとは言い難いウィンクを――両眼が閉じてしまっていたが――された。
ホグワーツの校長って、お茶目な人が多いのかな。
「すまんのう、シエル。少し話が伸びてしまったようだ」
「ダンブルドア! 話は終わっていないぞ!」
「フィニアスよ。後でゆっくり話しましょう」
「フンッ」
肖像画からフィニアスという校長がいなくなると、ダンブルドアは私の方に向き直り、話を戻した。
「随分と早かったのう。朝食の時間が終わってからで良いと言ったはずじゃが?」
「実は、フィナとフレッドとジョージに今日の予定を聞かれて困っていたら、セブルスが助けてくれたんです。そのままここへ来ました」
「そうか。では、少し早いが行くかのう」
「はい」
「しっかり捕まっているのじゃぞ」
私はダンブルドアと共に、付き添い姿くらましで魔法省の入り口へと向かった。
来客用の入り口である電話ボックスのエレベーターを使い魔法省に着くと、ダンブルドアが闇祓い局の入り口まで送ってくれた。
「ではシエル。儂はホグワーツに戻るぞ」
「はい。お忙しい中、ありがとうございました」
「礼はいいのじゃ。帰りはあのカードを使いなさい。それと、くれぐれも気をつけるのじゃぞ」
そう言うと、半月型の眼鏡を輝かせながら上手なウィンクをして、ダンブルドアは来た道を戻って行った。
「ふぅ」
闇祓い局と書かれた大きな扉の方を向き、深呼吸をする。
気持ちを当主モードに切り替えた私は、堂々と扉を開いた。
「スタージェント殿、久しぶりですな。改めて私は、ルーファス・スクリムジョールだ」
「久しぶりですね、局長。シエル・スタージェントです」
「それにしてもスタージェント殿、随分と変わられたようで」
とは言っても、シエルはフードを被っており顔は見えない。たが、落ち着いた雰囲気と堂々ととした態度は、以前と比べて女性らしさを出していた。
が、表情がそれを台無しにしている。不機嫌そうな顔を見て、思い直した彼は、仕事の話に移った。
「では、本題に入りますぞ。前回、貴方は適性検査は合格しているが、あれから訓練を三年間行っていない。そのため、今日から訓練を開始してもらう。
だが、君はまだ就学中のため、平日の任務は難しい。そのため、神秘部からこれを借りてきた」
私はあらかじめ用意しておいた箱を取り出し、開いた。
「これは、
「その通り。これは授業と任務が被った場合のみ使用可能だ。一回回せば一時間遡れる。最大一日、二十四時間まで遡ることができる」
「二十四時間? 時間を遡っていいのは五時間程度だと……」
「できる、と言っただけだ。だがもし、しなければならないような事態が起これば、許可する。これについては大臣やダンブルドアと話した結果であるため、遠慮なく使ってくれ」
私は箱ごとそれを渡した。彼女は受け取ると、カバンに仕舞った。
「次に、教育係について。去年から闇祓いの教育方法が変わり、教育係というものがなくなった。プロの闇祓いの下でプロと同じように任務を行い、三年間の訓練を経て闇祓いとなれる」
「……教育係?」
シエルは何かが引っかかったように、そう聞いた。
スクリムジョールははっとした。
そう言えば、彼女はあの事件の事実を知らないのだった。記憶を忘却術で消されたのだ。
死喰い人を倒したことも、仲間を殺したことも、アズカバンに居たことも。全て彼女は覚えていないのだ。
もちろん
どうやって話を反らそうかと考えていると、ちょうどいいタイミングでドアが叩かれた。
コン、コン――
「来たぞ、スクリムジョール」
「入ってくれ」
そう言って入って来たのは、義眼をぎょろつかせ義足の鈍い音を鳴らす男性と、明るい髪色の若い女性が入ってきた。
親の仇のような者を選ぶだなんて。
私は魔法大臣を、コーネリウス・ファッジを呪った。
「2人共、紹介しよう。こちらが、シエル・スタージェント殿だ。そして、スタージェント殿。こちらが……」
「トンクスよ。ニンファドーラ・トンクス。トンクスって呼んでね。よろしく!」
髪を鮮やかなピンクにしながらトンクスが局長を遮り、私に手を差し出してきた。が、私が手を出す前に、もう一人の闇祓いが彼女に注意をした。
「トンクス!」
名前を呼ばれただけなのだが、静かになった。
だが数秒後。
「そういえば、スタージェントさんはいくつなの?見た感じ私より若そうだけど。あっ、もしかして、年齢を隠すために幼く見せてるとか? それなら……」
「コホン」
男が咳払いをすると、トンクスはすぐに黙った。
「えー、こちらは知っての通り、アラスター・ムーディだ」
「どうも……と挨拶すべきでしょうか?」
「その必要は無い」
私がそう言うと、ムーディはきっぱりとそう言った。局長は気まずそうな顔をしている。
「……揃ったところで一つだけ。スタージェント殿の事情はこちらの二人は把握済みだ。他に何か質問はあるかね?」
「私は大丈夫です」
「わしも用は無い」
「わたしも大丈夫ですよ」
「トンクスには聞いていない。それでは、後はムーディに任せる」
「フンッ。行くぞ」
私はそう言うムーディと拗ねているトンクスの後ろにつきながら、局長室を後にした。
漏れ鍋。薄汚いパブだ。それと同時に魔法界への入り口でもある。
目の前に座る二人の女。
一人は少し前にわしの弟子となった者。もう一人は先程弟子となった者だ。
「シエルって全身からお嬢様オーラがにじみ出てるよね」
「ニンフは阿呆オーラがにじみ出てる、いや、溢れすぎてこぼれていますね」
「ニンフって何よ! そのまんまじゃない! それに阿呆って言わないでくれる!」
「では、馬鹿ドーラ?」
「馬鹿も阿呆も大差ないでしょ! それに、ドーラでもない!!」
「やっぱりニンフ?」
「何で疑問形なのよ……」
はっきり言って、わしの入る隙間など無い。この短時間でなぜこれほど仲が良くなったのだろうか。
わしが疑問に思っていると、トンクスがいじられるのに飽きたのか、新しい話題を出した。
「そう言えば、おじさんの事忘れてたわ」
「ああ、そう言えば。まだきちんと挨拶もしていなかったですね」
やっと、気づいた。夜まで気づかれないかと思ったわい。
「トンクス、おじさんと呼ぶな」
「えっ、じゃあ、お、お兄さん?!」
なぜか驚きながらそう言った。わしはため息をつく。
「はぁ……まあ、いいだろう。改めて、わしはアラスター・マッド・アイ・ムーディだ。今日からお前の師となる。わしのことは好きに呼べ」
「シエル・スタージェントです。ムーディ」
先程までトンクスと話していたのとは打って変わって、不機嫌を丸出しでそう言った。
まあ、無理はないだろう。自分の家族を殺された者に好意など寄せるはずがない。
あの時。
逃げる奴らのクルマがいきなり止まったかと思うと急降下した。多分、あの時に
一瞬だけ仲間たちの心に余裕ができた。だが、その隙に逃げるつもりだと予想したわしは、車目掛けて渾身の一撃を打った。
爆音と爆風。
粉々になった車から男が二人、落ちて行く。
忘れもしない。彼らの表情。あの時彼らは………
「ムーディ、そのことは思い出させないでください。私は貴方のことを憎んでも、恨んでもいません。悪いのはあの時代です。過去が悪い。貴方に非が無い訳では無いですけれど。ですが、気持ちは受け取っておきましょう」
そう言って、スタージェントは微笑んだ。
あの時と同じ笑顔。嬉しさではなく、悲しさやさみしさから作られる笑顔。だが、彼女の笑顔はわしの心にあった罪悪感を消し去ってくれるものだった。
「ねえ、何の話よ。わたしでも分かる話をしてくれない?」
せっかくの感動シーンだと言うのに、トンクスは本当に空気が読めない。
「すまないな、トンクス。そろそろ私は帰る。また明日、闇祓い局の前で10時でいいな?」
「ええ」
「じゃあ、シエル。先生達によろしく言っておいてね!」
「分かりました。では、お先に失礼します」
そう言って、スタージェントは漏れ鍋を出て行った。