ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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22.フィナ

 賑やかな、休日のグリフィンドール寮の談話室。

 私は一人で変身術の教科書とにらめっこしていた。というのも、いつも勉強を教えてくれるルーシェがいないからだ。

 

 彼女は朝食の時間にスネイプに連れ去られたのだが、一日中あんなやつと一緒だなんて私には耐えられない。

 帰って来たら、ルーシェが好きそうな紅茶でもいれてあげなくちゃ。

 

 ――その時、私は違和感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーシェ・エバンズ。

 

 彼女に初めて会ったのは組み分けの時だ。いきなり声をかけられたかと思えば、ルクスのことを一発で当てられ、驚きよりも、見知らぬ人に自分の秘密を知られてしまったという、恐怖のほうが大きかった。

 

 そこで、私はルクスに頼んで彼女を監視してもらうことにした。ルクスは少しやり過ぎだと、言っていたが、私のお願いには基本応えてくれる。

 

 次の日。帰ってきたルクスは私にこう言った。

 

『何があったか、フィナさまには言えない。でも、彼女は信用していいと思う』

 

 いつもなら、ルクスはこんな事は絶対に言わない。私の欲しい情報には正確に応えてくれる。なのに、ルクスは言えないと言った。

 なぜ言えないのか、と理由を聞くと、それにも答えてくれなかった。

 

 ルクスが教えてくれないのなら、直に聞くしかない。そう思った私は、彼女に話しかけた。

 

 

 しかし、いくら近づいても彼女のことは分からなかった。

 

 

 調べれば調べるほど謎は深まるばかりで、自分の事を知られない様に彼女が隠しているような気もしてきた。

 ルクスは諦めた方がいいって言ったけど、どうしても知りたい。

 私はそんな調子で彼女の監視を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は心の中で自分の行動への矛盾を感じた。

 彼女はただの監視対象であり、近づくのは彼女を知るためだ。他に理由などない。

 

 本当にそうなのだろうか?

 

 では、なぜ私は彼女のために紅茶を入れるなどと言っているのだろう?

 なぜ、私は彼女の帰りを待っているのだろう?

 なぜ、私は彼女のことを考えているのだろう?

 

 ――まさか、私。彼女に好意を持っていた?

 

 そこまで考えた時、寮の出入り口から誰かが入って来た。

 

「ただいま、帰りました」

 

 そう言って私の隣に座ったのは、他でもないルーシェだった。

 

「お、おかえり、ルーシェ。スネイプの手伝いお疲れ様」

 

 私の不意をついたような登場に少し驚きながらも、そう返した。すると、ルーシェがふわりと笑う。とても綺麗な笑い方だった。

 

「ありがとう、フィナ。そう言えば、宿題は終わりましたか?」

 

 私が首を横に振ると、ルーシェは一緒にやりましょうか、と言った。

 なぜか胸の辺りが温かくなって、無意識に手を当てる。

 

「おい、フィナ! 僕らのシエルを独り占めとはいい度胸じゃないか!」

「そうだ、そうだ! 喧嘩だ、喧嘩!」

 

 すかさず彼らが入ってきた。

 そういえば、シエルと二人はいつ知り合ったんだろう?

 

「貴方たちは阿呆ですか? 新入生に喧嘩を吹っかけるなんて。それでも先輩ですか?」

「怖っ」

「鬼っ」

「シエルが鬼なら、マクゴナガル先生は何だろうね」

 

 フレッドとジョージの言葉に、なんとなく、思いついた疑問を口に出してしまった。

 

「シエルのボスじゃない?」

「それか、ママ?」

 

 それを聞いたシエルは、にこりと笑った。にっこり、と。

 

オパグノ(襲え)

 

 シエルが唱えた呪文によって、辺りにあったいろんな物が、フレッドとジョージを襲った。特に分厚い本が彼らを食べようと口をパクパクしている。

 

「「ぎゃぁぁぁ!!!!!」」

 

 二人分の悲鳴。

 周りの生徒は呆れたような顔をして、口々にあいつらまたやってるよ……などと言っていた。

 隣のシエルを見ると、周りの事は気にしていない様子で、私に笑いかけた。

 

「後はあの子たちに任せて、私たちは宿題をしましょうか」

「そ、そうだね」

 

 やっぱり、彼女は分からない。

 

 私はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 いつもより早く起きた私は着替えを済ませ、談話室に行った。

 

 そこまで早い時間でもないので数人の生徒はいるが、肝心のルーシェがいなかった。

 少し待てば、来るか。そう思った私は彼女を待つ事にした。

 

 

 だが、いつまで経っても彼女は来なかった。

 

 

 先に朝食をとっているのかと、大広間に行ってみるがいない。周りの寮生に聞いても、先生に聞いても、ルーシェがどこに行ったかを知っている人はいなかった。双子に聞こうと思ったが、彼らも見つからない。

 

 

 一体、どこへ行ったのだろうか?

 

 

 図書館か、スネイプの手伝いか、それとも、体調不良?

 いくら探しても、見つからなかった。

 結局、お昼になっても彼女を見つけられず、ランチのため大広間へ向かった。

 今日のメニューはサンドウィッチだった。適当に皿に取り、食べ始める。

 少しすると、誰かが私に話しかけた。

 

「フィナ、どうかしたのか?」

「何か、食欲が無いじゃん」

「別に、何にもないですよ」

 

 双子にそう言って食事に戻ろうとした時、名案を思いついた。

 

「こ、こんなところに!! 二人ともどこに行ってたの?!」

「いきなりどうしたんだ?」

「いいから、答えて」

 

「ん? どこってそりゃあ」

「もちろんあそこだよ」

「「ホグズミード!」」

 

 自身満々といった様子で胸を張る二人。どこかは知らないが、彼らが行くところはろくでもない所だという事だけは分かる。

 

「それはいいんだけどさ。ルーシェがどこに行ったか知ってる? 今朝から探してるんだけど見つからなくて」

「あら、フィナったら乙女ね」

「シエルに惚れちゃったの? 告白?」

 

 からかう様にそう言う二人。

 

「それで、知ってるの?」

「いや、俺は知らないな。ジョージは?」

「うーん……心当たりはあるけど、フィナは別に知らなくていいと思うぞ」

「?」

 

 どういう事だろう? 彼らが知っていて、私が知らなくていい?

 

「まあ、夜には帰ってくると思うぜ」

「じゃあ、休日を楽しんで」

 

 そう言って彼らは大広間を出て行く。私は彼らの言葉が胸につっかえてとれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寮に帰るとルームメイトのラベンダーやシェーマス達が固まって何やら話をしていた。

 

「ねえ、あの子って不思議ちゃんだよね」

「確かに……魔法薬学の授業とか作る薬と違うものを作ってるしね」

「すごく魔法が上手だし」

「でも防衛術の授業には来ないよね」

「絶対なんか隠してるよな」

「それに近寄りがたいよね」

「そうそう、ツンツンしちゃってさ。お嬢様気取って」

「スリザリンの方がお似合いじゃない?」

 

 これって、ルーシェの事だよね……でも、私には関係ないから……。

 そう思っている内に、悪口はエスカレートしていく。

 

「それとさ、朝にスネイプに連れて行かれたの見た?」

「俺も見たぜ。何かいい気味だよな。そのままこき使われとけっての」

「そうそう、帰ってこないといいのにね」

 

 酷い。何でそんな事言うのだろうか。ルーシェはあんなにいい子なのに。

 

 悪口を聞いている内に、なぜか自分が悲しくなってきた。関係ないと言いつつもどこか気になってしまう。

 

 ふと、自分の肩を誰かが叩いた。見上げるとそこには赤毛が揺れていた。

 

「フィナ、大丈夫か?」

「ちょっと、話しつけてくるわ」

 

 なんと双子だった。そう言って、悪口を言っている集団の方へ歩いて行く。

 

「君たち、一体なんの話をしてるんだい?」

「まさか、誇り高きグリフィンドールが悪口なんてことないよな?」

 

 少し怒ったような口調。話をしていた生徒達は動揺していた。

 

「い、いえ、別に何にも」

「そうか、ならいいけどな。フレッド」

「ああ、ジョージ。もし本当だったら、スリザリン以下だぜ?」

「じゃ、じゃあ、私たちは図書館に……」

「そうか、じゃあ、僕らも一緒に行くよ」

 

 怖気づいたのか、ラベンダーたちは寮を出て行った。双子もその後ろをついて行く。

 その背中をやるせない気持ちで私は見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「フィナ」」

 

 夕方になって、フレッドとジョージの二人が私の名前を呼んだ。

 

「なんですか、先輩達」

「あの、シエルの事なんだけどさ」

「ちょっと大事な話があるんだ」

 

 さっきの今だ。大事な話と言われて過剰反応をしてしまった。

 

「な、なんですか?」

「ちょっと、ここじゃあ人目があるから、空き部屋に行こうか」

「……はい」

 

 返事をした私は彼らについて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空き部屋に来た僕らは適当な椅子に座った。緊張した空気が張り詰める。

 切り出したのはジョージだった。

 

「いきなり、呼んでごめん。さっきも言ったけど、シエルの話をしたくて」

 

 フィナはゴクリと生唾を飲み、僕らの目を交互に見つめた。何かを決意している様にも見える。

 

「実は……実は、シエルには色んな事情があるんだ。僕らにも教えてくれない秘密も、あのダンブルドアに言えない秘密もある」

「それが何かは僕らの口からいう事はできないけれど、きっといつか、シエルから本当のことを言ってくれる日が来ると思うんだ」

「だから、見守っていて欲しいんだ。卒業するまで僕らも彼女の側にいるけれど、僕らがいなくなったら、彼女を見てくれる人がいなくなっちゃうだろう?」

「性格はキツイし、近寄り難いし、さっきだって、同じ寮生から悪口言われてた」

「「だから、頼む」」

 

 僕らはフィナに頭を下げた。けれど、帰ってきた言葉は予想外のものだった。

 

「何で? 何で私に頼むの?」

 

 フィナは戸惑っていた。

 なぜって、理由なんて一つしか無いだろうに。

 

「「だって、君はシエルの……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何となくだけど気づいてた。

 ルーシェの事情。それが何かは分からなかったけれど、彼らがそう言うなら大丈夫だろう。

 でも。

 

「何で? 何で私に頼むの?」

 

 分からなかった。私は彼女を監視するために近くにいるだけなのだ。私に頼む必要は無いだろう。なのに、なぜ?

 顔をあげた二人は見合うと、ニヤリと笑い、こう言った。

 

「「だって、君はシエルの……()()だろ?」」

 

「え?」

 

 今、友達って言った?

 それは飛んだ勘違いだ。

 私がルーシェと友達?

 そんな事絶対にあり得ない。

 

「私は……ルーシェと友達なんかじゃ無い! 貴方たちは知らないだろうけど、私はルーシェをそんな風に見ていない!」

 

 行き場のない怒りが、胸の奥から溢れてくる。私は衝動にかられ、空き部屋を飛び出した。

 

「おい! 待てよ!」

「フィナ!」

 

 彼らが止める声に耳を貸さず、私は走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走って、走って、走って。長い廊下を、階段を、走って、上って、溢れて来る涙を拭くこともせず、ただただ、尽きるまで走り続けた。

 

「ゴホ、ゴホ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 体力の限界と息苦しさに、私は倒れこんだ。

 

 肺にどうにか酸素を送ろうと、大きく息をするが、口に涙が入ってそれもままならない。

 やっと呼吸が整ったと思ったら、次は胸につっかえたもので苦しさを感じる。

 

 私はルーシェの何なんだろう?

 ルーシェは私の何なんだろう?

 

 赤の他人? 知り合い? それとも――

 

 そこまで考えた時、目の前に鏡があることに気づいた。ところどころ錆びたり汚れたりしている。

 私は吸い込まれる様にその鏡の前に立った。

 

 涙に顔はぐしゃぐしゃで、なかなか酷い顔をしていた。ハンカチを出し顔を拭う。改めて確認しようと思い、鏡を見ると、私は思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「ま、ママ!?」

 

 鏡の中に母が見えたのだ。私と同じ茶髪の女性が私の肩に手を乗せている。

 後ろを確認するが、そこには誰もいなかった。

 よく見ると鏡の上の方に、何やら文字が書かれていた。

 

「すつうを、みぞの、のろここ、のたなあ、くなはで、おか、のたなあ、はしたわ?」

 

 意味が分からなかった。何かの暗号の様だ。

 

 もう一度鏡を見ると、母が何か言っていた。読唇術で口を読む。

 

『あなたに、友達が、できて、よかった……』

 

 母は確かにそう言っていた。少しして鏡にシエルが映る。

 

「フィナ!!」

 

 そう言った。いや、声が聞こえた。私は驚いて振り向くと、本物のルーシェがいた。

 

「ルーシェ、私……」

 

 ルーシェの顔を見たら、目元がじんわりとして来た。頬に温かいものが伝う。

 滲んだ視界の中で母が私に笑いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は母が大好きだった。

 お仕事が大変なのにもかかわらず、私と遊んでくれて、寝る前には必ず本を読んでくれて。

 

 しかし、私が八歳の時、母は死んだ。職務中の事故だったらしい。

 

 その日から私の生活は一変した。

 

 もともと祖母の家で暮らして居たが、母の死とほとんど同時期に祖母も亡くなり、叔母の家に預けられた。

 しかし、貧乏だった叔母は私を孤児院に捨て、私は孤児になった。一人、孤独で寂しい生活。そんな時、私の唯一の心の支えはルクスだった。

 

 ルクスは生まれた時からずっと一緒で、家族のように慕っている。

 しかし、ルクスとの会話を同じく孤児のいじめっ子のリーダーに見られてしまい、そこから私はいじめられるようになった。また、杖なしで魔法が使えた事もあり、付けられたあだ名は「魔女」。いじめる時は「魔女狩り」と言われ、精神的、物理的から私は暴力を受け続け、私の世界は一面、闇だった。

 

 ある日、光が舞い降りた。私を引き取ってくれる人が現れたのだ。

 

「私はルシウス・マルフォイだ。迎えが遅くなって済まなかった。フィナーラル」

 

 その男性は自分を父親と名乗り、私を闇から連れ出してくれた。

 しかし、事情があり、私が彼の子供だという事は秘密らしい。

 結果、私は一人だった。彼は一週間に一度、私に会いに来てくれるが、それ以外の日はルクスと二人。

 

 それから二年後、私は11歳になった。待ちに待ったホグワーツ。そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トンクスと別れ、カードを使って自分の部屋に戻ると、私は校長室へ転移した。

 

「ダンブルドア様、ただいま帰りました」

 

 机に座ったダンブルドアに声をかけると、眼鏡をキラリと光らせ、顔をあげた。

 

「おかえり、シエル。それで、何かわしに用かね?」

「はい。大事な話がしたいのですが、お忙しければまた伺います」

「そうじゃな。そうしてくれると助かる。今日は少し野暮用があってのう」

「分かりました。ではまた」

 

 そう言って、部屋を出ようとした。しかし、ドアに手をかけた所で声をかけられた。

 

「そういえば、シエルよ。君の友達が探しておったぞ。どうやら、彼女もおぬしと同じ悩みを抱えている様じゃ」

「フィナが、私と同じ?」

「ふむ。その様子だと、おぬしの方は解決した様じゃな」

「解決……まさか!」

「分かったなら、早く行きなさい。それが彼女のためになると思うぞ」

「分かりました。失礼します」

 

 私は少し急いで校長室を出た。直ぐに転移をする。

 その背中をダンブルドアは嬉しそうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 急いでグリフィンドール寮に戻った私はいきなりフレッドとジョージに押し倒された。

 

「シエル!!」

「フィナが!!」

「へ?」

 

 一旦彼らを落ち着かせて話を聞いた私は、フレッドとジョージを置いて、寮を飛び出した。

 ダンブルドアの話はどうやら本当だったらしい。

 

「フィナ! どこなの、フィナ!!」

 

 彼女の名を呼びながら必死に探す。だが、いくら探しても見つからない。

 その時、ふと思い出した。

 

「はっ、忍びの地図!!」

 

 急いで寮に戻る。一気に視線が集まったが、気にせず、双子から地図を受け取った。お礼もそこそこに私は地図を開き、フィナーラルの文字を探す。それはすぐに見つかった。それからまた私は走り出した。

 

「フィナ!!」

 

 やっとのことでたどり着いた。膝に手を当てて息を整える。

 

「ルーシェ、私……」

 

 フィナを見ると、泣いていた。

 

「フィナ、ごめんなさい。私、貴方の気も知れずに……」

「私、私も……」

「いいえ、フィナは悪く無いです」

「ううん。私、ルーシェのこと……本当に、馬鹿みたい。ごめんなさい」

 

 そう言うと、フィナは私に抱きついてきた。ふんわりとお日様の匂いが私の鼻をくすぐる。

 

「私、今日初めて気づいたんです。フィナは私の友達だって。今まで友達という存在が私の中で消え去っていたんです。でも、貴方のおかげで思い出せました」

「私も忘れてたのかも。でも、これからは私、一人じゃないんだね。友達が、ルーシェがいるから」

「ありがとう、フィナ」

「ありがとう、ルーシェ」

 

 私達は同時にそう言って、ぺこりと頭を下げた。それが、おかしくて、二人はクスクスと笑い出す。

 日が暮れるまで笑いあった私たちは、壁に寄りかかって座り、お互いの話をし始めた。

 

「まず、私から質問ね。ルーシェは今日、どこに行ってたの?」

 

 一番初めの質問から、結構痛い所を突かれてしまった。しかし、質問をし合う前に、嘘をつくのは禁止されてしまったため、私は素直に答えた。

 

「……魔法省です」

「えっと、魔法使いの役所、だったよね?そっか、そりゃあ探しても見つからない訳だ」

 

 そう言って、彼女はそれ以上聞いてこなかった。

 

「次は私ですね。フィナはどこに住んでいるんですか?」

「うーん……実はね、私、孤児だったんだ。でも、私を引き取ってくれる人が来て、それからはその人の別荘みたいなところで暮らしてる」

「そうですか」

 

 別荘を持っている人……それなら結構いい所のお家なのではないだろうか? そう考えながらも、次の質問を待った。

 

「次は私ね。ルーシェは……私に何か隠し事をしてる?」

 

 グキリという効果音がつきそうなほど、私は動揺した。もしかして、フィナは何か知っているのだろうか?

 

「……していないと言えば嘘になりますね」

「ズバリ、それは?」

「えっと……」

 

 私は流石に話すのを拒んだ。

 隠し事なんて山ほどある。まず、スタージェントの当主でしょ、ルーシェ・エバンズは偽名でしょ、実は闇祓いでしょ、後、他に何があるかな…

 私は少し悩み、こう答えた。

 

「……私、家族がいないんです。親戚も一人もいなくて……色々あって、後見人がスネイプ先生なんです」

「へ?」

「へ? と、言われましても」

「ちょ、ちょっと、待った。それって、あのスネイプはルーシェの義父ってことだよね」

「まあ、そうなりますね」

「いや、平常心すぎでしょ。だって、あのスネイプだよ? まさか、知らないの? 噂ではあの人元死喰い人だよ? 分かってる?」

「はい。もちろん」

 

 セブルスの良い所を知っている私としては、元死喰い人だなんてどうでもいいことだった。

 いや、元なのかどうかは定かではないが。

 

「まあ、いいや……ルーシェのことだから、大丈夫だと思うし」

 

 なぜか、諦めたような顔をするフィナ。私が首を傾げると、フィナはクスリと笑った。

 

 ぐぅ――

 

 フィナのお腹がアラームの様に鳴った。その音に、フィナが吹き出し、私も釣られて笑う。

 

「ふふ、お腹空いたね」

「そうですね。そろそろ、戻りましょうか。双子が心配していそうですし」

 

 そう言って戻ろうとすると、フィナが思い出したように言った。

 

「あっ、そういえばこの鏡」

 

 振り返る、フィナ。私も振り返る。それと、同時に目を見開いた。

 そこには兄が映っていた。

 次々と人が現れ、私を囲む。父も、母も、お父様も、お兄様も、中には見覚えのない人もいたが、皆が私に笑いかけてくれていた。ふと、目尻が熱くなるのを感じる。

 ここにこの鏡を置いてくれた校長にお礼を言いつつも、私はフィナの方へ向き直り、説明をした。

 

「これはきっと、みぞの鏡ですね」

「みぞの鏡?」

「はい。上に書いてあるこの文字は逆に読むんですよ。そうすると『私は あなたの 顔 ではなく あなたの 心の のぞみ をうつす』となります。文字通り、自分の中の一番の望みを映してくれる鏡なんですよ」

「へぇ、一番の望みか。ルーシェは何が見えるの?」

「そうですね…私には家族が見えます。フィナは?」

「私も一緒だよ」

 

 ぐぅ――

 

 また、お腹が鳴った。今度は顔を見合わせて同時に吹き出す。

 

「行きましょうか」

「うん!」

 

 そう言って、私たちは大広間へ歩き出した。仲良く手を繋いで。

 フレッドとジョージが仲良くなった二人を見て、フィナに嫉妬したのはまた、別の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆が寝静まった、深夜のホグワーツ。私はダンブルドアに呼ばれ、校長室に来ていた。合言葉を言い、階段を登る。ドアを開くと、不死鳥が出迎えてくれた。

 

「貴方がフォークスですね。初めましてでしょうか? ダンブルドアさまはいらっしゃいますか?」

 

 私がそう聞くと、フォークスは首を横に振った。

 

「そうですか。それでは少し待たせて頂いてもよろしいですか?」

 

 フォークスは、首を縦に振ると、近くのソファの肘掛に止まった。どうやら、そこに座るらしい。

 

「ありがとうございます」

 

 お礼を言うと、フォークスはうなづき、止まり木の方へと飛んで行った。

 

 私が視線を戻すと、目の前の机に古びた帽子が置かれていた。

 

「組み分け帽子、少しいいですか?」

 

 わたしが帽子に話しかけると、帽子のシワが口や鼻、目になった。途端に話し始める。

 

「シエルよ、よく来たな。私に何か用かな?」

「はい、人生相談といったところでしょうか?」

「うむ。私でよければ話してみろ。少しは役に立てるかもしれん」

「では、一つ。なぜ私が転生したのか、何か知っていることはありませんか?」

「初めから難しい質問をするでないぞ。まあ……私にも分からない。これまで大勢の子供達を見て来たが、君のような転生者はいた。しかし、君のようにこの世界の未来の記憶を持つものは見たことがない」

「そうですか……」

「そう気落ちするでないぞ。君のその力は誇っていい。君だけが持つ特別な力だ。おっと、そろそろダンブルドアが戻って来たようだ。何か聞きたいことがあるのだろう? それでは、また会おう」

 

 組み分け帽子は、そう言って、古びた帽子に戻った。それと同時に扉が開く。

 

「待たせたのう、シエル。遅れてしもうた」

「いえ、今来たばかりですので、気になさらず」

「それで、話があったのだったのう」

「はい」

「夜が明けるまで、まだ時間はある。答えられることは全て答えよう」

「それでは、まず……」

 

 こうして、長い夜が老けていった。

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