ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
賑やかな、休日のグリフィンドール寮の談話室。
私は一人で変身術の教科書とにらめっこしていた。というのも、いつも勉強を教えてくれるルーシェがいないからだ。
彼女は朝食の時間にスネイプに連れ去られたのだが、一日中あんなやつと一緒だなんて私には耐えられない。
帰って来たら、ルーシェが好きそうな紅茶でもいれてあげなくちゃ。
――その時、私は違和感を覚えた。
ルーシェ・エバンズ。
彼女に初めて会ったのは組み分けの時だ。いきなり声をかけられたかと思えば、ルクスのことを一発で当てられ、驚きよりも、見知らぬ人に自分の秘密を知られてしまったという、恐怖のほうが大きかった。
そこで、私はルクスに頼んで彼女を監視してもらうことにした。ルクスは少しやり過ぎだと、言っていたが、私のお願いには基本応えてくれる。
次の日。帰ってきたルクスは私にこう言った。
『何があったか、フィナさまには言えない。でも、彼女は信用していいと思う』
いつもなら、ルクスはこんな事は絶対に言わない。私の欲しい情報には正確に応えてくれる。なのに、ルクスは言えないと言った。
なぜ言えないのか、と理由を聞くと、それにも答えてくれなかった。
ルクスが教えてくれないのなら、直に聞くしかない。そう思った私は、彼女に話しかけた。
しかし、いくら近づいても彼女のことは分からなかった。
調べれば調べるほど謎は深まるばかりで、自分の事を知られない様に彼女が隠しているような気もしてきた。
ルクスは諦めた方がいいって言ったけど、どうしても知りたい。
私はそんな調子で彼女の監視を続けた。
私は心の中で自分の行動への矛盾を感じた。
彼女はただの監視対象であり、近づくのは彼女を知るためだ。他に理由などない。
本当にそうなのだろうか?
では、なぜ私は彼女のために紅茶を入れるなどと言っているのだろう?
なぜ、私は彼女の帰りを待っているのだろう?
なぜ、私は彼女のことを考えているのだろう?
――まさか、私。彼女に好意を持っていた?
そこまで考えた時、寮の出入り口から誰かが入って来た。
「ただいま、帰りました」
そう言って私の隣に座ったのは、他でもないルーシェだった。
「お、おかえり、ルーシェ。スネイプの手伝いお疲れ様」
私の不意をついたような登場に少し驚きながらも、そう返した。すると、ルーシェがふわりと笑う。とても綺麗な笑い方だった。
「ありがとう、フィナ。そう言えば、宿題は終わりましたか?」
私が首を横に振ると、ルーシェは一緒にやりましょうか、と言った。
なぜか胸の辺りが温かくなって、無意識に手を当てる。
「おい、フィナ! 僕らのシエルを独り占めとはいい度胸じゃないか!」
「そうだ、そうだ! 喧嘩だ、喧嘩!」
すかさず彼らが入ってきた。
そういえば、シエルと二人はいつ知り合ったんだろう?
「貴方たちは阿呆ですか? 新入生に喧嘩を吹っかけるなんて。それでも先輩ですか?」
「怖っ」
「鬼っ」
「シエルが鬼なら、マクゴナガル先生は何だろうね」
フレッドとジョージの言葉に、なんとなく、思いついた疑問を口に出してしまった。
「シエルのボスじゃない?」
「それか、ママ?」
それを聞いたシエルは、にこりと笑った。にっこり、と。
「
シエルが唱えた呪文によって、辺りにあったいろんな物が、フレッドとジョージを襲った。特に分厚い本が彼らを食べようと口をパクパクしている。
「「ぎゃぁぁぁ!!!!!」」
二人分の悲鳴。
周りの生徒は呆れたような顔をして、口々にあいつらまたやってるよ……などと言っていた。
隣のシエルを見ると、周りの事は気にしていない様子で、私に笑いかけた。
「後はあの子たちに任せて、私たちは宿題をしましょうか」
「そ、そうだね」
やっぱり、彼女は分からない。
私はそう思った。
次の日。
いつもより早く起きた私は着替えを済ませ、談話室に行った。
そこまで早い時間でもないので数人の生徒はいるが、肝心のルーシェがいなかった。
少し待てば、来るか。そう思った私は彼女を待つ事にした。
だが、いつまで経っても彼女は来なかった。
先に朝食をとっているのかと、大広間に行ってみるがいない。周りの寮生に聞いても、先生に聞いても、ルーシェがどこに行ったかを知っている人はいなかった。双子に聞こうと思ったが、彼らも見つからない。
一体、どこへ行ったのだろうか?
図書館か、スネイプの手伝いか、それとも、体調不良?
いくら探しても、見つからなかった。
結局、お昼になっても彼女を見つけられず、ランチのため大広間へ向かった。
今日のメニューはサンドウィッチだった。適当に皿に取り、食べ始める。
少しすると、誰かが私に話しかけた。
「フィナ、どうかしたのか?」
「何か、食欲が無いじゃん」
「別に、何にもないですよ」
双子にそう言って食事に戻ろうとした時、名案を思いついた。
「こ、こんなところに!! 二人ともどこに行ってたの?!」
「いきなりどうしたんだ?」
「いいから、答えて」
「ん? どこってそりゃあ」
「もちろんあそこだよ」
「「ホグズミード!」」
自身満々といった様子で胸を張る二人。どこかは知らないが、彼らが行くところはろくでもない所だという事だけは分かる。
「それはいいんだけどさ。ルーシェがどこに行ったか知ってる? 今朝から探してるんだけど見つからなくて」
「あら、フィナったら乙女ね」
「シエルに惚れちゃったの? 告白?」
からかう様にそう言う二人。
「それで、知ってるの?」
「いや、俺は知らないな。ジョージは?」
「うーん……心当たりはあるけど、フィナは別に知らなくていいと思うぞ」
「?」
どういう事だろう? 彼らが知っていて、私が知らなくていい?
「まあ、夜には帰ってくると思うぜ」
「じゃあ、休日を楽しんで」
そう言って彼らは大広間を出て行く。私は彼らの言葉が胸につっかえてとれなかった。
寮に帰るとルームメイトのラベンダーやシェーマス達が固まって何やら話をしていた。
「ねえ、あの子って不思議ちゃんだよね」
「確かに……魔法薬学の授業とか作る薬と違うものを作ってるしね」
「すごく魔法が上手だし」
「でも防衛術の授業には来ないよね」
「絶対なんか隠してるよな」
「それに近寄りがたいよね」
「そうそう、ツンツンしちゃってさ。お嬢様気取って」
「スリザリンの方がお似合いじゃない?」
これって、ルーシェの事だよね……でも、私には関係ないから……。
そう思っている内に、悪口はエスカレートしていく。
「それとさ、朝にスネイプに連れて行かれたの見た?」
「俺も見たぜ。何かいい気味だよな。そのままこき使われとけっての」
「そうそう、帰ってこないといいのにね」
酷い。何でそんな事言うのだろうか。ルーシェはあんなにいい子なのに。
悪口を聞いている内に、なぜか自分が悲しくなってきた。関係ないと言いつつもどこか気になってしまう。
ふと、自分の肩を誰かが叩いた。見上げるとそこには赤毛が揺れていた。
「フィナ、大丈夫か?」
「ちょっと、話しつけてくるわ」
なんと双子だった。そう言って、悪口を言っている集団の方へ歩いて行く。
「君たち、一体なんの話をしてるんだい?」
「まさか、誇り高きグリフィンドールが悪口なんてことないよな?」
少し怒ったような口調。話をしていた生徒達は動揺していた。
「い、いえ、別に何にも」
「そうか、ならいいけどな。フレッド」
「ああ、ジョージ。もし本当だったら、スリザリン以下だぜ?」
「じゃ、じゃあ、私たちは図書館に……」
「そうか、じゃあ、僕らも一緒に行くよ」
怖気づいたのか、ラベンダーたちは寮を出て行った。双子もその後ろをついて行く。
その背中をやるせない気持ちで私は見つめていた。
「「フィナ」」
夕方になって、フレッドとジョージの二人が私の名前を呼んだ。
「なんですか、先輩達」
「あの、シエルの事なんだけどさ」
「ちょっと大事な話があるんだ」
さっきの今だ。大事な話と言われて過剰反応をしてしまった。
「な、なんですか?」
「ちょっと、ここじゃあ人目があるから、空き部屋に行こうか」
「……はい」
返事をした私は彼らについて行った。
空き部屋に来た僕らは適当な椅子に座った。緊張した空気が張り詰める。
切り出したのはジョージだった。
「いきなり、呼んでごめん。さっきも言ったけど、シエルの話をしたくて」
フィナはゴクリと生唾を飲み、僕らの目を交互に見つめた。何かを決意している様にも見える。
「実は……実は、シエルには色んな事情があるんだ。僕らにも教えてくれない秘密も、あのダンブルドアに言えない秘密もある」
「それが何かは僕らの口からいう事はできないけれど、きっといつか、シエルから本当のことを言ってくれる日が来ると思うんだ」
「だから、見守っていて欲しいんだ。卒業するまで僕らも彼女の側にいるけれど、僕らがいなくなったら、彼女を見てくれる人がいなくなっちゃうだろう?」
「性格はキツイし、近寄り難いし、さっきだって、同じ寮生から悪口言われてた」
「「だから、頼む」」
僕らはフィナに頭を下げた。けれど、帰ってきた言葉は予想外のものだった。
「何で? 何で私に頼むの?」
フィナは戸惑っていた。
なぜって、理由なんて一つしか無いだろうに。
「「だって、君はシエルの……」」
何となくだけど気づいてた。
ルーシェの事情。それが何かは分からなかったけれど、彼らがそう言うなら大丈夫だろう。
でも。
「何で? 何で私に頼むの?」
分からなかった。私は彼女を監視するために近くにいるだけなのだ。私に頼む必要は無いだろう。なのに、なぜ?
顔をあげた二人は見合うと、ニヤリと笑い、こう言った。
「「だって、君はシエルの……
「え?」
今、友達って言った?
それは飛んだ勘違いだ。
私がルーシェと友達?
そんな事絶対にあり得ない。
「私は……ルーシェと友達なんかじゃ無い! 貴方たちは知らないだろうけど、私はルーシェをそんな風に見ていない!」
行き場のない怒りが、胸の奥から溢れてくる。私は衝動にかられ、空き部屋を飛び出した。
「おい! 待てよ!」
「フィナ!」
彼らが止める声に耳を貸さず、私は走り続けた。
走って、走って、走って。長い廊下を、階段を、走って、上って、溢れて来る涙を拭くこともせず、ただただ、尽きるまで走り続けた。
「ゴホ、ゴホ、はぁ、はぁ、はぁ……」
体力の限界と息苦しさに、私は倒れこんだ。
肺にどうにか酸素を送ろうと、大きく息をするが、口に涙が入ってそれもままならない。
やっと呼吸が整ったと思ったら、次は胸につっかえたもので苦しさを感じる。
私はルーシェの何なんだろう?
ルーシェは私の何なんだろう?
赤の他人? 知り合い? それとも――
そこまで考えた時、目の前に鏡があることに気づいた。ところどころ錆びたり汚れたりしている。
私は吸い込まれる様にその鏡の前に立った。
涙に顔はぐしゃぐしゃで、なかなか酷い顔をしていた。ハンカチを出し顔を拭う。改めて確認しようと思い、鏡を見ると、私は思わず悲鳴を上げてしまった。
「ま、ママ!?」
鏡の中に母が見えたのだ。私と同じ茶髪の女性が私の肩に手を乗せている。
後ろを確認するが、そこには誰もいなかった。
よく見ると鏡の上の方に、何やら文字が書かれていた。
「すつうを、みぞの、のろここ、のたなあ、くなはで、おか、のたなあ、はしたわ?」
意味が分からなかった。何かの暗号の様だ。
もう一度鏡を見ると、母が何か言っていた。読唇術で口を読む。
『あなたに、友達が、できて、よかった……』
母は確かにそう言っていた。少しして鏡にシエルが映る。
「フィナ!!」
そう言った。いや、声が聞こえた。私は驚いて振り向くと、本物のルーシェがいた。
「ルーシェ、私……」
ルーシェの顔を見たら、目元がじんわりとして来た。頬に温かいものが伝う。
滲んだ視界の中で母が私に笑いかけていた。
私は母が大好きだった。
お仕事が大変なのにもかかわらず、私と遊んでくれて、寝る前には必ず本を読んでくれて。
しかし、私が八歳の時、母は死んだ。職務中の事故だったらしい。
その日から私の生活は一変した。
もともと祖母の家で暮らして居たが、母の死とほとんど同時期に祖母も亡くなり、叔母の家に預けられた。
しかし、貧乏だった叔母は私を孤児院に捨て、私は孤児になった。一人、孤独で寂しい生活。そんな時、私の唯一の心の支えはルクスだった。
ルクスは生まれた時からずっと一緒で、家族のように慕っている。
しかし、ルクスとの会話を同じく孤児のいじめっ子のリーダーに見られてしまい、そこから私はいじめられるようになった。また、杖なしで魔法が使えた事もあり、付けられたあだ名は「魔女」。いじめる時は「魔女狩り」と言われ、精神的、物理的から私は暴力を受け続け、私の世界は一面、闇だった。
ある日、光が舞い降りた。私を引き取ってくれる人が現れたのだ。
「私はルシウス・マルフォイだ。迎えが遅くなって済まなかった。フィナーラル」
その男性は自分を父親と名乗り、私を闇から連れ出してくれた。
しかし、事情があり、私が彼の子供だという事は秘密らしい。
結果、私は一人だった。彼は一週間に一度、私に会いに来てくれるが、それ以外の日はルクスと二人。
それから二年後、私は11歳になった。待ちに待ったホグワーツ。そして――
トンクスと別れ、カードを使って自分の部屋に戻ると、私は校長室へ転移した。
「ダンブルドア様、ただいま帰りました」
机に座ったダンブルドアに声をかけると、眼鏡をキラリと光らせ、顔をあげた。
「おかえり、シエル。それで、何かわしに用かね?」
「はい。大事な話がしたいのですが、お忙しければまた伺います」
「そうじゃな。そうしてくれると助かる。今日は少し野暮用があってのう」
「分かりました。ではまた」
そう言って、部屋を出ようとした。しかし、ドアに手をかけた所で声をかけられた。
「そういえば、シエルよ。君の友達が探しておったぞ。どうやら、彼女もおぬしと同じ悩みを抱えている様じゃ」
「フィナが、私と同じ?」
「ふむ。その様子だと、おぬしの方は解決した様じゃな」
「解決……まさか!」
「分かったなら、早く行きなさい。それが彼女のためになると思うぞ」
「分かりました。失礼します」
私は少し急いで校長室を出た。直ぐに転移をする。
その背中をダンブルドアは嬉しそうに眺めていた。
急いでグリフィンドール寮に戻った私はいきなりフレッドとジョージに押し倒された。
「シエル!!」
「フィナが!!」
「へ?」
一旦彼らを落ち着かせて話を聞いた私は、フレッドとジョージを置いて、寮を飛び出した。
ダンブルドアの話はどうやら本当だったらしい。
「フィナ! どこなの、フィナ!!」
彼女の名を呼びながら必死に探す。だが、いくら探しても見つからない。
その時、ふと思い出した。
「はっ、忍びの地図!!」
急いで寮に戻る。一気に視線が集まったが、気にせず、双子から地図を受け取った。お礼もそこそこに私は地図を開き、フィナーラルの文字を探す。それはすぐに見つかった。それからまた私は走り出した。
「フィナ!!」
やっとのことでたどり着いた。膝に手を当てて息を整える。
「ルーシェ、私……」
フィナを見ると、泣いていた。
「フィナ、ごめんなさい。私、貴方の気も知れずに……」
「私、私も……」
「いいえ、フィナは悪く無いです」
「ううん。私、ルーシェのこと……本当に、馬鹿みたい。ごめんなさい」
そう言うと、フィナは私に抱きついてきた。ふんわりとお日様の匂いが私の鼻をくすぐる。
「私、今日初めて気づいたんです。フィナは私の友達だって。今まで友達という存在が私の中で消え去っていたんです。でも、貴方のおかげで思い出せました」
「私も忘れてたのかも。でも、これからは私、一人じゃないんだね。友達が、ルーシェがいるから」
「ありがとう、フィナ」
「ありがとう、ルーシェ」
私達は同時にそう言って、ぺこりと頭を下げた。それが、おかしくて、二人はクスクスと笑い出す。
日が暮れるまで笑いあった私たちは、壁に寄りかかって座り、お互いの話をし始めた。
「まず、私から質問ね。ルーシェは今日、どこに行ってたの?」
一番初めの質問から、結構痛い所を突かれてしまった。しかし、質問をし合う前に、嘘をつくのは禁止されてしまったため、私は素直に答えた。
「……魔法省です」
「えっと、魔法使いの役所、だったよね?そっか、そりゃあ探しても見つからない訳だ」
そう言って、彼女はそれ以上聞いてこなかった。
「次は私ですね。フィナはどこに住んでいるんですか?」
「うーん……実はね、私、孤児だったんだ。でも、私を引き取ってくれる人が来て、それからはその人の別荘みたいなところで暮らしてる」
「そうですか」
別荘を持っている人……それなら結構いい所のお家なのではないだろうか? そう考えながらも、次の質問を待った。
「次は私ね。ルーシェは……私に何か隠し事をしてる?」
グキリという効果音がつきそうなほど、私は動揺した。もしかして、フィナは何か知っているのだろうか?
「……していないと言えば嘘になりますね」
「ズバリ、それは?」
「えっと……」
私は流石に話すのを拒んだ。
隠し事なんて山ほどある。まず、スタージェントの当主でしょ、ルーシェ・エバンズは偽名でしょ、実は闇祓いでしょ、後、他に何があるかな…
私は少し悩み、こう答えた。
「……私、家族がいないんです。親戚も一人もいなくて……色々あって、後見人がスネイプ先生なんです」
「へ?」
「へ? と、言われましても」
「ちょ、ちょっと、待った。それって、あのスネイプはルーシェの義父ってことだよね」
「まあ、そうなりますね」
「いや、平常心すぎでしょ。だって、あのスネイプだよ? まさか、知らないの? 噂ではあの人元死喰い人だよ? 分かってる?」
「はい。もちろん」
セブルスの良い所を知っている私としては、元死喰い人だなんてどうでもいいことだった。
いや、元なのかどうかは定かではないが。
「まあ、いいや……ルーシェのことだから、大丈夫だと思うし」
なぜか、諦めたような顔をするフィナ。私が首を傾げると、フィナはクスリと笑った。
ぐぅ――
フィナのお腹がアラームの様に鳴った。その音に、フィナが吹き出し、私も釣られて笑う。
「ふふ、お腹空いたね」
「そうですね。そろそろ、戻りましょうか。双子が心配していそうですし」
そう言って戻ろうとすると、フィナが思い出したように言った。
「あっ、そういえばこの鏡」
振り返る、フィナ。私も振り返る。それと、同時に目を見開いた。
そこには兄が映っていた。
次々と人が現れ、私を囲む。父も、母も、お父様も、お兄様も、中には見覚えのない人もいたが、皆が私に笑いかけてくれていた。ふと、目尻が熱くなるのを感じる。
ここにこの鏡を置いてくれた校長にお礼を言いつつも、私はフィナの方へ向き直り、説明をした。
「これはきっと、みぞの鏡ですね」
「みぞの鏡?」
「はい。上に書いてあるこの文字は逆に読むんですよ。そうすると『私は あなたの 顔 ではなく あなたの 心の のぞみ をうつす』となります。文字通り、自分の中の一番の望みを映してくれる鏡なんですよ」
「へぇ、一番の望みか。ルーシェは何が見えるの?」
「そうですね…私には家族が見えます。フィナは?」
「私も一緒だよ」
ぐぅ――
また、お腹が鳴った。今度は顔を見合わせて同時に吹き出す。
「行きましょうか」
「うん!」
そう言って、私たちは大広間へ歩き出した。仲良く手を繋いで。
フレッドとジョージが仲良くなった二人を見て、フィナに嫉妬したのはまた、別の話だ。
皆が寝静まった、深夜のホグワーツ。私はダンブルドアに呼ばれ、校長室に来ていた。合言葉を言い、階段を登る。ドアを開くと、不死鳥が出迎えてくれた。
「貴方がフォークスですね。初めましてでしょうか? ダンブルドアさまはいらっしゃいますか?」
私がそう聞くと、フォークスは首を横に振った。
「そうですか。それでは少し待たせて頂いてもよろしいですか?」
フォークスは、首を縦に振ると、近くのソファの肘掛に止まった。どうやら、そこに座るらしい。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、フォークスはうなづき、止まり木の方へと飛んで行った。
私が視線を戻すと、目の前の机に古びた帽子が置かれていた。
「組み分け帽子、少しいいですか?」
わたしが帽子に話しかけると、帽子のシワが口や鼻、目になった。途端に話し始める。
「シエルよ、よく来たな。私に何か用かな?」
「はい、人生相談といったところでしょうか?」
「うむ。私でよければ話してみろ。少しは役に立てるかもしれん」
「では、一つ。なぜ私が転生したのか、何か知っていることはありませんか?」
「初めから難しい質問をするでないぞ。まあ……私にも分からない。これまで大勢の子供達を見て来たが、君のような転生者はいた。しかし、君のようにこの世界の未来の記憶を持つものは見たことがない」
「そうですか……」
「そう気落ちするでないぞ。君のその力は誇っていい。君だけが持つ特別な力だ。おっと、そろそろダンブルドアが戻って来たようだ。何か聞きたいことがあるのだろう? それでは、また会おう」
組み分け帽子は、そう言って、古びた帽子に戻った。それと同時に扉が開く。
「待たせたのう、シエル。遅れてしもうた」
「いえ、今来たばかりですので、気になさらず」
「それで、話があったのだったのう」
「はい」
「夜が明けるまで、まだ時間はある。答えられることは全て答えよう」
「それでは、まず……」
こうして、長い夜が老けていった。