ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
クィディッチの試合当日。グリフィンドール寮では選手たちの緊張感がピリピリと伝わり、それを和らげるためか、いつもよりも騒がしかった。
ハロウィーンの日から仲良くなったハリー、ロン、ハーマイオニーは大きなソファの辺りでハリーを励ましているし、キャプテンのウッドは机の上に立って演説をしているし、フィナは『クィディッチ今昔』という本を読んでいた。どうやら、ハーマイオニーに借りたらしい。
そう言う私はというと、双子にはさまれて身動きが取れなくなっていた。
「ねえ、シエル。試合、絶対見に来いよ」
「じゃないと僕ら泣いちゃうからね」
双子が先程から同じ様な事をずっと言っている。しかし、その約束を私は果たせそうになかった。今日は11時半から魔法省に行かないといけないのだ。
というのも、今日は急な任務が入ったのである。もちろん闇祓いのだ。いつもは土曜日と日曜日の午前のみで訓練をするのだが、何せ緊急任務だ。外せるわけが無い。
「すみませんが、試合を見る事はできません。今日は大切な用があって……」
「えっえぇぇぇ!」
「うっそぉぉぉ!」
双子はそう言うと、MAXに機嫌を損ね、リーに泣きついた。
「どうしよぉぉ……」
「シエルがぁぁ……」
「何の用なの? 男? ねぇ、男なんでしょ?」
「彼氏? 彼氏なの?」
「お前ら、馬鹿か?」
リーの正論にますます悲しくなったのか、結局私の元に戻ってくる。
「ねえ、なんかいい案無いの? シエル」
「そうだよ。頭がいいんだから一つくらいは思いつくでしょ?」
「うーん……」
私は結構本気で考えた。リーが横で「こいつらの事は気にしないでいいよ、エバンズ。どうせ、甘えてるだけだから」と言っている。
「甘えている……」
その部分を復唱した私はある案を思いついた。しかし、同時に顔が赤くなる。
「ど、どうしたの、シエル?」
「なんか、いきなり真っ赤になったぞ?」
その言葉にもっと赤くなった私はリーの方へ視線で助けを求めた。しかしリーはそんな私を見て苦笑している。
私の視線に気づき、リーの態度を見た双子は謎が深まるばかりの様で、頭をかしげた。
「もし、グリフィンドールがスリザリンに勝ったら……」
私は次の言葉をついためらってしまう。もう一度リーを見ると伏せ目でグッドポーズをしていた。
中々その先を言わない私に、双子はしびれを切らしたのか、私の顔を覗いた。そう言えば、出会った時もこんなことがあった気がする。あの時はいきなり
「ご褒美……」
私はそうとだけ言うと、自分の部屋に転移した。
「「……え?」」
「ぷっ、はははっ! あははは!」
私がいなくなると同時に上がった双子の疑問の声とリーの笑い声。少ししてやっと状況を把握した双子は喜びに飛び上がった。
「おまえらぁ、絶対勝つぞぉぉ!!」
「勝って、シエルのご褒美貰うぞぉぉ!!」
違う方向で頑張ろうとしているのは気のせいであって欲しい。
双子との事件からしっかりと
「さっきは災難だったね。でも、ルーシェがそんなこと言うとは私も思ってなかったよ。びっくりしちゃった」
「そ、その事にはあまり触れないでください」
赤面を再発させそうになった私は慌ててフィナを止めた。
「ふふっ。ルーシェはそういうところ可愛いよね。
でも、あの調子ならグリフィンドールは絶対に勝つと思うよ。愛の力って感じ」
「あ、愛の力?! まあ……そ、それならいいですけどね。私の犠牲も無駄じゃなかったということで」
「そうだね」
「フィナは見に行くのでしょう?」
「もちろんだよ。双子もだけどハリーの応援にね。ハーマイオニーと約束したんだ」
「そうなんですか」
「うん」
それから少しだけ他愛も無い話で盛り上がると、すぐに出発の時間になってしまった。
「フィナ、私はそろそろ行きますね」
「うん。ルーシェ、気をつけてね」
転移カードを手に持ち、「転移、魔法省」と言った。
次の瞬間、そこは闇祓い局の入り口だった。
「随分と早く来たな。スタージェント」
訓練場に来た私はいきなり後ろから声をかけられた。いつもの事なのでそこまで驚く事なく、私は応える。
「絡まれる前に巻いてきただけです」
そう言いながら後ろを向くと、どこからか呪文が飛んで来た。
瞬時に状況を読み取った私は、呪文を体で避け、障壁魔法に魔力を叩き込んだ。
バリンッ――
ガラスが割れた様な音と共に障壁魔法が破壊された。
同時に今度は反対側から三つの呪文が飛んでくる。
今度は読み切れない!
前二つの呪文を間一髪の所で避けた私は、最後の呪文を避けることができなかった。右脚に鋭い痛みが走る。
見ると、右脚が浅く切り裂かれていた。私は治癒呪文をかけるが、その隙に他方向から大量の呪文が降ってくる。
このままじゃ負けると判断した私は、自分の耳についている《枷》を片方だけ外した。久しぶりに感じる体の重たさ。半分だけだが戻って来た魔力で私は強力な障壁魔法を展開した。
パリンッ、パリ、パリパリンッ――
先程と同じ様な音がするが、呪文は一つも私の元へと届くことはない。
その間に残った魔力で足の治療をする。呪文の雨が止んだ頃には、私は完全回復していた。
「ムーディ。今日は随分と手厚い歓迎ですね? トンクスも力を入れすぎじゃないですか?」
「任務前の訓練だ。これぐらいは当然」
「わたしとしては、腕が鈍っていたから丁度いいわ」
「そうですか。じゃあ、手加減はしませんよい」
「望む所だ」
「ええ。かかって来なさい」
二人の返事に、私は二人に見えない様にもう片方の《枷》も外した。より一層重たくなった体に、少しだけ不快感を持つ。しかし数秒後には私の体に馴染んでいた。
「そういえば、援護を呼んでもいいですよ。二人だけじゃ勝ち目はないです。それに、私も訓練になりませんし」
「ふーん。勝ち目がないってのは気に食わないけど、まあ事実だし……みんな、いいわよ」
トンクスの呼びかけに、観覧席からざっと十人くらいの闇祓いが降りて来た。いや、正確には闇祓い見習いだが。
「攻撃はそっちからでいい。私は杖を置こう」
自分から一メートル先に杖を転がした。そのまま両手を上げて何も持っていないことを証明する。
「準備はいいな。3、2、1」
ビー――
ムーディーの合図と共にホイッスルの様な音が訓練場に鳴り響いた。
その瞬間、敵から攻撃が繰り出される。
前衛は攻撃魔法、後衛は障壁呪文。まず潰すのは……後衛か。
前衛が繰り出した攻撃呪文が自分の鼻先まで来た瞬間。私は呪文の合間を縫ってダッシュした。途中で杖を拾おうとも考えたが、時間の無駄を省いた。
((
無言呪文で自分を加速。さらに、範囲を後衛に絞り規模こそ小さいが大地震を起こした。
「うわっ!」
「なんだ、これは!」
「うぅ……気持ち悪い」
パタパタと後衛の体制が崩れ、障壁魔法のほとんどが破壊音と共に壊れた。
((
すかさず、爆破呪文を前衛に当てる。しかし、ほとんどが無傷で終わった。
グワァン――
ふと、頭の横で不快な音がした。瞬間、体の力が抜ける。
((
倒れる前に呪文を終わらせた私は杖をアクシオで呼び寄せる。
瞬間。トンクスの杖が私の首を、私の杖がトンクスの首を、突くようにして呪文を唱えた。
「「
――決着は着いた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「大丈夫ですか? 少し無理しすぎですよ、トンクス」
「そう、ね……はぁ、無理しすぎた、わ……」
周りを見渡すとそれはそれは酷い有様だった。
大量の鮮血、嘔吐物、ところどころ切り裂かれた人体、力無く倒れた人、腕や脚の単体……一言でいえばグロテスクだ。
「リナベイト、エネルベート、エピスキー」
私は取り敢えず治癒呪文を唱えた。続けてテルジオやスコージファイを使い、少し掃除する。
「よしっ後始末は終了……ん?」
最後が疑問系になったのは意図的では無い。後ろから殺気立った何かを感じたのだ。
そう思った時にはもう遅かった。
「スタージェント! おまえは同僚を殺す気か?! 手加減と言うものを知らんのか?!」
「す、すみません……」
「この状況で、すまないだと? それだけですまされるかぁ! 大体、誰がイヤリングを外していいと言った!」
「ひいっ……」
あまりの恐ろしさに後退りをしてしまった。それを見て、ますますムーディの機嫌が損なわれる。
「おまえはなぁ!」
「すみません、すみません、すみませんでした!!」
このあと、ムーディの機嫌が直ることはなかった。
グリフィンドールの談話室に戻った私は、勝利のお祭り騒ぎに目をくらませた。
「あっ、ルーシェ。帰ってたのね。見ればわかると思うけど、グリフィンドールが勝ったわよ!」
フィナまでこんなに喜んでいるのだから、それだけ素晴らしい試合だったのだろう。ウッドなんて号泣している。
私は赤毛を見つけた瞬間、思い出したくないことを思い出してしまった。しかも彼らと目が合ってしまう。
「「ルーシェ!!」」
抱きついて、いや、飛びついてくる二人。私はソファに押し倒された。
リーが意地悪く笑いながら「ご褒美」と口パクで言ってくる。
「勝った、勝ったよ!!」
「すごいだろ! なあ、シエル!!」
「はぁ……」
ため息とも言える深呼吸を一つ。
私は双子の頬に――
「「「「え?」」」」
四人分の声が聞こえた。リー、フィナ、フレッド、ジョージの四人だ。
前者二人は口を押さえ、後者二人はそれぞれの頬を押さえた。
四人の視線が一気にルーシェの方へ向く。
「ま、まじで?」
「る、ルーシェが?」
「「俺に?」」
「「僕たちに?」」
「た、ただのチークキスです! そんなに反応しなくていい! そ、それに、ご褒美はご褒美です。その……文句は受け付けません!」
「「「「えー!!」」」」
顔を出し真っ赤にして抗議するルーシェ。状況を把握した双子も見る見るうちに赤くなる。
「そ、それに、これはただのご褒美であって、貴方たちのことが好きなわけではありません! むしろ嫌い! 大っ嫌い!」
「あ…」
「だ…」
ルーシェは高速早口。双子は放心状態。
数分後。
早口で喋りすぎて疲れたルーシェが口を止めるのと、双子の放心状態が治るのはほぼ同時だった。もう冷静になった傍観者の二人はこれから起こることを予想して、頬を緩ませている。
チュッ――
軽やかな音が二つ。ルーシェは両頬に手を当てた。
「……!」
「シエル、ありがとう!」
「俺はシエルのこと好きだぜ」
「ば、ば、ば、ば…」
「「ば?」」
「馬鹿ぁぁぁぁ!!!!!」
――双子はノックアウトされました。
「シエルは本当に躊躇ないよな」
「確かに」
リーの言葉にフィナはうんうんと頷く。
ルーシェは二人の行動には気づかず、まだ顔を赤くしていた。しかも、ぶつぶつと独り言までしている。
「変わらないですね、ジョーダン先輩」
「変わんないな、フィナーラル」
「リーでいいぞ」
「フィナで大丈夫ですよ」
「フィナ、お前も大変だな」
「リー先輩もですね」
どこか通じ合うものがあったらしい。フィナとリーは仲良くなった。
そんなこんなで何時の間にか夜になった。双子とルーシェはお互いに少しやり過ぎたと謝罪し合い、仲良く夕食も食べ、寮に戻って来ていた。
「ルーシェ。そういえばさ、クィディッチの試合中にハリーが……」
私が今日の試合の話をしようとルーシェの方へ顔を向けると、彼女は寝息を立てて眠っていた。
「シエルー! あれ寝てるじゃん」
「本当だ。疲れたのかな……?」
「用事って言ってたけど本当はどうなんだろうね」
私がそう言うと、双子は少し深刻そうな顔をした。
「「フィナ。今日、シエル何か変な匂いがしないかい?」」
真顔でそう聞く双子。リーは後ろの方で聞かないフリをしてくれていた。
「変な匂いですか?」
私は試しにルーシェの匂いを嗅いでみた。すると、いつものお花のようないい香りの中に、何か生臭い匂いを感じる。私は思わず顔をしかめてしまった。
「これってまさか……血?」
私が恐る恐る聞くと、双子は頷いた。
「一体どこに行ってたのか分からないけど、少なくとも安全な場所ではなさそうだろう?」
「それに今日、シエルはこんなに早く寝ている。っていうことはそれ程疲れるようなことをしたんだ」
「……」
いきなり突きつけられた事実に私は何も言えなくなってしまった。
今日、ルーシェは危険なところに行って、しかもこんなに疲れていて、それなのに普通に振舞っていて。
そう考えると私は腹立たしさを感じた。
「シエルには秘密があるってのは、前に言ったよな」
「でも、これは結構やばめの隠し事だと思う」
「もしかしたら、シエルはもう帰ってこないかもしれないな」
さっきまで何も言わなかったリーが会話に入った。しかし、誰も何も言えない。リーはそのまま続けた。
「今日は運が良かっただけで、明日は分からない。だけど、シエルにもシエルなりの事情があって隠してる。お前らはこのままでいいのかよ」
リーの言葉に三人とも押し黙ってしまった。そのまま沈黙が続く。
「まっ、今の俺たちじゃ何もできないからな。側にいて、いつも通りにしておけばいいんじゃないか?」
「いつも通り……」
双子のどちらかが言ったその言葉は、まだ冬になりきれない寒い空気に飲まれどこかへ消えてしまった。