ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

26 / 36
25.クィディッチ

 クィディッチの試合当日。グリフィンドール寮では選手たちの緊張感がピリピリと伝わり、それを和らげるためか、いつもよりも騒がしかった。

 ハロウィーンの日から仲良くなったハリー、ロン、ハーマイオニーは大きなソファの辺りでハリーを励ましているし、キャプテンのウッドは机の上に立って演説をしているし、フィナは『クィディッチ今昔』という本を読んでいた。どうやら、ハーマイオニーに借りたらしい。

 そう言う私はというと、双子にはさまれて身動きが取れなくなっていた。

 

「ねえ、シエル。試合、絶対見に来いよ」

「じゃないと僕ら泣いちゃうからね」

 

 双子が先程から同じ様な事をずっと言っている。しかし、その約束を私は果たせそうになかった。今日は11時半から魔法省に行かないといけないのだ。

 というのも、今日は急な任務が入ったのである。もちろん闇祓いのだ。いつもは土曜日と日曜日の午前のみで訓練をするのだが、何せ緊急任務だ。外せるわけが無い。

 

「すみませんが、試合を見る事はできません。今日は大切な用があって……」

「えっえぇぇぇ!」

「うっそぉぉぉ!」

 

 双子はそう言うと、MAXに機嫌を損ね、リーに泣きついた。

 

「どうしよぉぉ……」

「シエルがぁぁ……」

「何の用なの? 男? ねぇ、男なんでしょ?」

「彼氏? 彼氏なの?」

「お前ら、馬鹿か?」

 

 リーの正論にますます悲しくなったのか、結局私の元に戻ってくる。

 

「ねえ、なんかいい案無いの? シエル」

「そうだよ。頭がいいんだから一つくらいは思いつくでしょ?」

「うーん……」

 

 私は結構本気で考えた。リーが横で「こいつらの事は気にしないでいいよ、エバンズ。どうせ、甘えてるだけだから」と言っている。

 

「甘えている……」

 

 その部分を復唱した私はある案を思いついた。しかし、同時に顔が赤くなる。

 

「ど、どうしたの、シエル?」

「なんか、いきなり真っ赤になったぞ?」

 

 その言葉にもっと赤くなった私はリーの方へ視線で助けを求めた。しかしリーはそんな私を見て苦笑している。

 私の視線に気づき、リーの態度を見た双子は謎が深まるばかりの様で、頭をかしげた。

 

「もし、グリフィンドールがスリザリンに勝ったら……」

 

 私は次の言葉をついためらってしまう。もう一度リーを見ると伏せ目でグッドポーズをしていた。

 中々その先を言わない私に、双子はしびれを切らしたのか、私の顔を覗いた。そう言えば、出会った時もこんなことがあった気がする。あの時はいきなり()()()()二人に顔を覗かれて驚いたが、今はそんなことでは驚かない。

 

「ご褒美……」

 

 私はそうとだけ言うと、自分の部屋に転移した。

 

「「……え?」」

「ぷっ、はははっ! あははは!」

 

 私がいなくなると同時に上がった双子の疑問の声とリーの笑い声。少ししてやっと状況を把握した双子は喜びに飛び上がった。

 

「おまえらぁ、絶対勝つぞぉぉ!!」

「勝って、シエルのご褒美貰うぞぉぉ!!」

 

 違う方向で頑張ろうとしているのは気のせいであって欲しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 双子との事件からしっかりと後遺症(赤面)も治った私は、太ったレディの肖像画の前でフィナと話をしていた。

 

「さっきは災難だったね。でも、ルーシェがそんなこと言うとは私も思ってなかったよ。びっくりしちゃった」

「そ、その事にはあまり触れないでください」

 

 赤面を再発させそうになった私は慌ててフィナを止めた。

 

「ふふっ。ルーシェはそういうところ可愛いよね。

でも、あの調子ならグリフィンドールは絶対に勝つと思うよ。愛の力って感じ」

「あ、愛の力?! まあ……そ、それならいいですけどね。私の犠牲も無駄じゃなかったということで」

「そうだね」

「フィナは見に行くのでしょう?」

「もちろんだよ。双子もだけどハリーの応援にね。ハーマイオニーと約束したんだ」

「そうなんですか」

「うん」

 

 それから少しだけ他愛も無い話で盛り上がると、すぐに出発の時間になってしまった。

 

「フィナ、私はそろそろ行きますね」

「うん。ルーシェ、気をつけてね」

 

 転移カードを手に持ち、「転移、魔法省」と言った。

 次の瞬間、そこは闇祓い局の入り口だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と早く来たな。スタージェント」

 

 訓練場に来た私はいきなり後ろから声をかけられた。いつもの事なのでそこまで驚く事なく、私は応える。

 

「絡まれる前に巻いてきただけです」

 

 そう言いながら後ろを向くと、どこからか呪文が飛んで来た。

 瞬時に状況を読み取った私は、呪文を体で避け、障壁魔法に魔力を叩き込んだ。

 

 バリンッ――

 

 ガラスが割れた様な音と共に障壁魔法が破壊された。

 同時に今度は反対側から三つの呪文が飛んでくる。

 今度は読み切れない!

 前二つの呪文を間一髪の所で避けた私は、最後の呪文を避けることができなかった。右脚に鋭い痛みが走る。

 見ると、右脚が浅く切り裂かれていた。私は治癒呪文をかけるが、その隙に他方向から大量の呪文が降ってくる。

 このままじゃ負けると判断した私は、自分の耳についている《枷》を片方だけ外した。久しぶりに感じる体の重たさ。半分だけだが戻って来た魔力で私は強力な障壁魔法を展開した。

 

 パリンッ、パリ、パリパリンッ――

 

 先程と同じ様な音がするが、呪文は一つも私の元へと届くことはない。

 その間に残った魔力で足の治療をする。呪文の雨が止んだ頃には、私は完全回復していた。

 

「ムーディ。今日は随分と手厚い歓迎ですね? トンクスも力を入れすぎじゃないですか?」

「任務前の訓練だ。これぐらいは当然」

「わたしとしては、腕が鈍っていたから丁度いいわ」

「そうですか。じゃあ、手加減はしませんよい」

「望む所だ」

「ええ。かかって来なさい」

 

 二人の返事に、私は二人に見えない様にもう片方の《枷》も外した。より一層重たくなった体に、少しだけ不快感を持つ。しかし数秒後には私の体に馴染んでいた。

 

「そういえば、援護を呼んでもいいですよ。二人だけじゃ勝ち目はないです。それに、私も訓練になりませんし」

「ふーん。勝ち目がないってのは気に食わないけど、まあ事実だし……みんな、いいわよ」

 

 トンクスの呼びかけに、観覧席からざっと十人くらいの闇祓いが降りて来た。いや、正確には闇祓い見習いだが。

 

「攻撃はそっちからでいい。私は杖を置こう」

 

 自分から一メートル先に杖を転がした。そのまま両手を上げて何も持っていないことを証明する。

 

「準備はいいな。3、2、1」

 

 ビー――

 

 ムーディーの合図と共にホイッスルの様な音が訓練場に鳴り響いた。

 その瞬間、敵から攻撃が繰り出される。

 前衛は攻撃魔法、後衛は障壁呪文。まず潰すのは……後衛か。

 前衛が繰り出した攻撃呪文が自分の鼻先まで来た瞬間。私は呪文の合間を縫ってダッシュした。途中で杖を拾おうとも考えたが、時間の無駄を省いた。

 

((ブースト(加速)クウェイク(揺れよ)))

 

 無言呪文で自分を加速。さらに、範囲を後衛に絞り規模こそ小さいが大地震を起こした。

 

「うわっ!」

「なんだ、これは!」

「うぅ……気持ち悪い」

 

 パタパタと後衛の体制が崩れ、障壁魔法のほとんどが破壊音と共に壊れた。

 

((ディフィンド(裂け)))

 

 すかさず、爆破呪文を前衛に当てる。しかし、ほとんどが無傷で終わった。

 

 グワァン――

 

 ふと、頭の横で不快な音がした。瞬間、体の力が抜ける。

 

((フィニート(終われ)))

 

 倒れる前に呪文を終わらせた私は杖をアクシオで呼び寄せる。

 瞬間。トンクスの杖が私の首を、私の杖がトンクスの首を、突くようにして呪文を唱えた。

 

「「エクスペリアームス(武器よ去れ)!!」」

 

 ――決着は着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「大丈夫ですか? 少し無理しすぎですよ、トンクス」

「そう、ね……はぁ、無理しすぎた、わ……」

 

 周りを見渡すとそれはそれは酷い有様だった。

 大量の鮮血、嘔吐物、ところどころ切り裂かれた人体、力無く倒れた人、腕や脚の単体……一言でいえばグロテスクだ。

 

「リナベイト、エネルベート、エピスキー」

 

 私は取り敢えず治癒呪文を唱えた。続けてテルジオやスコージファイを使い、少し掃除する。

 

「よしっ後始末は終了……ん?」

 

 最後が疑問系になったのは意図的では無い。後ろから殺気立った何かを感じたのだ。

 そう思った時にはもう遅かった。

 

「スタージェント! おまえは同僚を殺す気か?! 手加減と言うものを知らんのか?!」

「す、すみません……」

「この状況で、すまないだと? それだけですまされるかぁ! 大体、誰がイヤリングを外していいと言った!」

「ひいっ……」

 

 あまりの恐ろしさに後退りをしてしまった。それを見て、ますますムーディの機嫌が損なわれる。

 

「おまえはなぁ!」

「すみません、すみません、すみませんでした!!」

 

 このあと、ムーディの機嫌が直ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  グリフィンドールの談話室に戻った私は、勝利のお祭り騒ぎに目をくらませた。

 

「あっ、ルーシェ。帰ってたのね。見ればわかると思うけど、グリフィンドールが勝ったわよ!」

 

 フィナまでこんなに喜んでいるのだから、それだけ素晴らしい試合だったのだろう。ウッドなんて号泣している。

 私は赤毛を見つけた瞬間、思い出したくないことを思い出してしまった。しかも彼らと目が合ってしまう。

 

「「ルーシェ!!」」

 

 抱きついて、いや、飛びついてくる二人。私はソファに押し倒された。

 リーが意地悪く笑いながら「ご褒美」と口パクで言ってくる。

 

「勝った、勝ったよ!!」

「すごいだろ! なあ、シエル!!」

「はぁ……」

 

 ため息とも言える深呼吸を一つ。

 私は双子の頬に――

 

「「「「え?」」」」

 

 四人分の声が聞こえた。リー、フィナ、フレッド、ジョージの四人だ。

 前者二人は口を押さえ、後者二人はそれぞれの頬を押さえた。

 四人の視線が一気にルーシェの方へ向く。

 

「ま、まじで?」

「る、ルーシェが?」

「「俺に?」」

「「僕たちに?」」

 

「た、ただのチークキスです! そんなに反応しなくていい! そ、それに、ご褒美はご褒美です。その……文句は受け付けません!」

「「「「えー!!」」」」

 

 顔を出し真っ赤にして抗議するルーシェ。状況を把握した双子も見る見るうちに赤くなる。

 

「そ、それに、これはただのご褒美であって、貴方たちのことが好きなわけではありません! むしろ嫌い! 大っ嫌い!」

「あ…」

「だ…」

 

 ルーシェは高速早口。双子は放心状態。

 

 数分後。

 早口で喋りすぎて疲れたルーシェが口を止めるのと、双子の放心状態が治るのはほぼ同時だった。もう冷静になった傍観者の二人はこれから起こることを予想して、頬を緩ませている。

 

 チュッ――

 

 軽やかな音が二つ。ルーシェは両頬に手を当てた。

 

「……!」

「シエル、ありがとう!」

「俺はシエルのこと好きだぜ」

「ば、ば、ば、ば…」

「「ば?」」

「馬鹿ぁぁぁぁ!!!!!」

 

 ――双子はノックアウトされました。

 

「シエルは本当に躊躇ないよな」

「確かに」

 

 リーの言葉にフィナはうんうんと頷く。

 ルーシェは二人の行動には気づかず、まだ顔を赤くしていた。しかも、ぶつぶつと独り言までしている。

 

「変わらないですね、ジョーダン先輩」

「変わんないな、フィナーラル」

 

「リーでいいぞ」

「フィナで大丈夫ですよ」

 

「フィナ、お前も大変だな」

「リー先輩もですね」

 

 どこか通じ合うものがあったらしい。フィナとリーは仲良くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで何時の間にか夜になった。双子とルーシェはお互いに少しやり過ぎたと謝罪し合い、仲良く夕食も食べ、寮に戻って来ていた。

 

「ルーシェ。そういえばさ、クィディッチの試合中にハリーが……」

 

 私が今日の試合の話をしようとルーシェの方へ顔を向けると、彼女は寝息を立てて眠っていた。

 

「シエルー! あれ寝てるじゃん」

「本当だ。疲れたのかな……?」

「用事って言ってたけど本当はどうなんだろうね」

 

 私がそう言うと、双子は少し深刻そうな顔をした。

 

「「フィナ。今日、シエル何か変な匂いがしないかい?」」

 

 真顔でそう聞く双子。リーは後ろの方で聞かないフリをしてくれていた。

 

「変な匂いですか?」

 

 私は試しにルーシェの匂いを嗅いでみた。すると、いつものお花のようないい香りの中に、何か生臭い匂いを感じる。私は思わず顔をしかめてしまった。

 

「これってまさか……血?」

 

 私が恐る恐る聞くと、双子は頷いた。

 

「一体どこに行ってたのか分からないけど、少なくとも安全な場所ではなさそうだろう?」

「それに今日、シエルはこんなに早く寝ている。っていうことはそれ程疲れるようなことをしたんだ」

「……」

 

 いきなり突きつけられた事実に私は何も言えなくなってしまった。

 今日、ルーシェは危険なところに行って、しかもこんなに疲れていて、それなのに普通に振舞っていて。

 そう考えると私は腹立たしさを感じた。

 

「シエルには秘密があるってのは、前に言ったよな」

「でも、これは結構やばめの隠し事だと思う」

「もしかしたら、シエルはもう帰ってこないかもしれないな」

 

 さっきまで何も言わなかったリーが会話に入った。しかし、誰も何も言えない。リーはそのまま続けた。

 

「今日は運が良かっただけで、明日は分からない。だけど、シエルにもシエルなりの事情があって隠してる。お前らはこのままでいいのかよ」

 

 リーの言葉に三人とも押し黙ってしまった。そのまま沈黙が続く。

 

「まっ、今の俺たちじゃ何もできないからな。側にいて、いつも通りにしておけばいいんじゃないか?」

「いつも通り……」

 

 双子のどちらかが言ったその言葉は、まだ冬になりきれない寒い空気に飲まれどこかへ消えてしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。