ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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27.事件

 クリスマス休暇が終わると、新学期が始まった。

 

 シエルは休暇中に色々と手続きを済ませ、スタージェントとして登校した。ダンブルドアの配慮もありホグワーツ特急は使わなかったのだが、キングズクロス駅の9と3/4番線とホグズミード駅はマスコミですごい事になっていたそうだ。

 マスコミの目は逃れたものの、次はフクロウ郵便。フクロウ郵便の時間外にも押し寄せる大量の手紙に一枚一枚焼くのも面倒になり、手紙禁止の通知を出した。

 マスコミ、手紙と来て次は何かと思えば生徒。放課の度にシエルの周りに集まりわいわいと騒ぎ、授業になると去って行く。これについては対人に使える魔法は少なく、対処できなかった。

 

 その状況がまるまる一週間は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてついに問題が起きた。

 

「スタージェント様、今日もご機嫌麗しゅう……」

「今日は少し肌寒く……」

「スタージェント様、お元気で……」

「スタージェント様……」

「スタージェント様……」

 

 シエルの中で何が崩れ落ちた。

 異変を感じ取ったのは隣で道を開けようと声をかけるフィナと、周りでこれ以上人が集まらない様にと人を捌けさせている双子とリーのみ。そしてその三人は、最悪の未来を同時に想像した。

 

「  」

 

 声も音もなく発動された魔法。何時の間にか彼女の耳のイヤリングは外れており、それは彼女が本気である事を意味する。

 

 バァン――

 

 爆音とともに魔力が暴走した。周りの生徒はその音に耳を塞ぎ、一部の者は倒れた。

 いつもならここで、シエルは自分のやってしまったことに気がつき魔法を止められる。しかし、彼女の心にはもうそんな余裕は残されていなかった。

 何の力もないはずの魔力そのものが城の全てを呑み込む勢いで溢れ出す。その魔力が力を持とうとしたその時――

 

「そこまでじゃ」

 

 今世紀で一番偉大な魔法使いの声で彼女の魔法は止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンブルドアの声で我を取り戻したシエルは、体の力が抜け崩れ落ちた。双子がシエルを支え、フィナがイヤリングをつける。シエルは意識が飛びそうになりながらもやっとのところで立ち上がった。

 

「シエル、今回ばかりは君のせいではないからのう……取り敢えず、医務室に行きなさい。ウィーズリーたちとミス・ソード、ミスター・ジョーダンは連れとしてついて行きなさい」

「分かりました。行くぞ」

 

 リーが答えると、五人は医務室へと足を向ける。彼らが見えなくなるのを確認すると、ダンブルドアは集まっていた生徒に向けて諭す様に言った。

 

「スタージェント家当主とはいえど君たちと同じ子供。同級生ならまだしも、上級生も一緒になってこのようなことを行うとは……以後、この様なことがない様に」

 

 ダンブルドアがいなくなると、生徒たちはこそこそと話しながらもその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シエル、大丈夫かな……」

 

 シエルを医務室に預けるとすぐに追い出された四人。フィナの心配の声に他の三人も頷いた。

 

 新学期が始まった初日。日刊預言者新聞にて発表されたスタージェント家当主の真実にホグワーツは大騒ぎになった。

 初日は目くらまし呪文を使い、何とかごまかすことができたのだが、二日目からは呪文をかけても上級生にフィニートされてしまい、意味が無かった。

 三日目には時間割が完全に把握され、四日目は大広間で食事を取ることも難しくなった。

 

 そして一週間経った今日がこれだ。ああなっても仕方が無いと思えるほど、シエルはストレスを抱えていた。

 マダム・ポンフリーはシエルを見るなり、「なぜ、こんなことになるまで放置していたんですか!?」と言った。そのもっともな言葉に私たちは何も言えず追い出され、今ここにいる。

 

「早く戻ってくるといいけど……」

 

 フィナの願いが叶うことはついになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 シエルが目を覚ましたのはそれから一週間が経った頃だった。体力、魔力、精神力の全てを使い果たしてしまったシエルは目が覚めてもすぐに眠ってしまうそんな状況。時々、ダンブルドアが様子を見に来て、近況を話したが、私が入院したことによってマスコミも少し収まった様だった。また、クィディッチが近づいて来たこともあって、生徒の意識もそちらの方へと流れて行っているらしい。

 しかし、問題が一つ。とにかく暇なのだ。起き上がるのも一苦労なのに勉強なんてもってのほか、面会も止められているため娯楽が本当に何もない。

 

 徒然なるままに日暮らし硯に向かいて……

 春はあけぼのやうやう白くなりゆくやまぎは……

 いろはにほへと、ちりぬるを……

 祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり……

 

 結果、私は古文を暗唱し始めた。以外とこういうものって覚えているものだ。

 

 そんなこんなでまた一週間が過ぎた。

 

 そろそろ面会も許可されると喜んでいたのだが空回りしてしまい――

 

「マダム・ポンフリー、お願いですから何か許可してください」

「ダメです。寝ていなさい」

「せめてセブルスを呼んでください」

「ダメです」

「じゃあ……」

「何度言ってもダメです。口を開くのを禁止しますよ!」

「はい」

 

 プンプンと怒り、足を鳴らしながら去って行くマダム・ポンフリー。私はため息を漏らしながら目を閉じ、この時間をどう有効に使うかと考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シエルが入院してから二週間が経った。今日こそは、と毎日のように医務室に通っているのだが、退院するどころか面会もさせてくれず、無駄足となっていた。

 今日もかすかな希望を持ちながら医務室へと向かった私たちは、変わらない状況にため息をついた。

 

「はぁ……」

「そう落ち込むなって、フィナ」

「元気だせって、フィナ」

 

 双子は私を慰めながらも、肩を落とし、医務室に背を向ける。私も寮へ戻ろうとし、ふと名案が浮かんだ。

 

「ルクスだわ!」

「は?」

「へ?」

 

 双子の気の抜けた声。私はそんな二人に気を向けず、ルクスを呼び出すために花型の首飾りを取り出した。

 

「出でよ花の精。ルクシーズ=フェアリーナ」

 

 フィナの唱えた術式によって、首飾りがキラリと光り、一人の妖精が現れる。

 

「(お呼びですか? フィナさま)」

 

「ふぃ、フィナって……」

「ま、まさか……」

「「妖精使い(フェアリー・チャーマー)なの?!」」

 

 妖精使いとは、妖精や精霊を従え、その力を借りて魔法を使う者のことだ。妖精や精霊の多い地域でも一握りしかいないと言われている。

 そんな非常に珍しい妖精使いが目の前にいる。双子が驚くのも無理はなかった。

 

「ルクス、頼みがあるの。この中にいるシエルにこれを渡して来てくれる?」

「(分かったわ)」

 

 ルクスはそう言うと、フィナから受け取ったものを持って、医務室の扉の隙間から入って行った。

 

「これで、あとは待つだけですね。ん? 先輩たちどうかしましたか?」

「いや、別に何も……」

「ただ、俺たちの周りには、すごい人が多いって気づいただけだ」

「すごい人? 確かに、シエルは凄いですけど」

「「フィナもね?!」」

「?」

 

 小首をかしげるフィナ。

 

「お前ら、そろそろチャイム鳴るぞ」

 

 どこからか現れたリーの言葉で三人は急いで次の教室へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(フィナさま、久しぶりに出してくれたかと思えば、これなんだから……全く)」

 

 目くらまし呪文をかけ、医務室に忍び込んだルクスはそんなことを考えていた。しかしそれは(あるじ)に対する反感ではなく、敬意。長い間一緒に居たからか、我が子を愛でる母親の様な感覚に近かった。

 

「(シエル……あっ、あの人)」

 

 目的の人物を見つけて近づこうとすると、ゴンッという音と共に、見えない壁に行く手を阻まれた。

 

「誰ですか?」

 

 静かに響くシエルの声。その声は警戒心からか、殺気立っている。ルクスはピタリと固まってしまった。

 

レベリオ(現れよ)

 

 目くらまし呪文が解け、ルクスが現れる。

 

「あなたは……ルクス?」

 

 緩んだ空気にルクスはフラフラとベッドの上に降り立った。

 

「(そうよ。フィナさまが、これを渡して欲しいって言うから来たんだけど……アナタ、ワタシを殺す気?)」

 

 預かったものを渡しながらそう言うルクス。シエルは自分の出していた殺気に気づいていないのか、首をかしげていた。

 

「(まあ、いいわ。それより、早く治してフィナさまのところへ戻って来て。魔力が戻ったら、回復なんてすぐでしょ?)」

「その魔力の回復? 少し待ってください……魔力が回復すれば体力が戻るんですよね。なら……」

「(?)」

 

 いきなり過ぎてついていけないルクス。シエルはそんなルクスに構わず、独り言の様に話している。

 

「……魔力が無いなら集めればいいんですよ。ここは魔法学校ですし、魔力なんて溢れていますし。ルクス、少し手伝ってください」

「(へ? あ、はい!)」

 

 よく分からないが取り敢えず、ルクスは返事をした。シエルはフィナが届けてくれたものの中から紙とペンを取り出し、何やら術式の様なものを書いている。いや、正確には、新しい魔法を作り出している。

 

「(この人、規格外……)」

 

 ルクスはため息をつきながら、彼女の隣に座った。

 

 ――数時間後。

 

「ルクス、できましたよ!」

「(へー、すごーい)」

 

 あきらかに棒読みだったが、シエルは気にしていない様子だった。

 

「ルクス、この呪文を私に向けて唱えてくれる?」

「(本当にできたのね、魔法)」

 

 そう言いながらもシエルから紙を受け取る。そこには、結構長めの呪文が書かれていた。

 

「あまり時間がなかったので少し長めですが、幼児に使わせても成功する確率は89%です。ミスはあり得ません」

「(いや、そういう問題じゃ無いと思うけど……取り敢えずやって見る)」

「お願いします」

 

 そう言うと、シエルは目を閉じた。ルクスは片手に紙を握り、もう片方の手をシエルの額に当てた。そのまま、呪文を唱える。

 

「(             )」

 

 呪文を唱えているはずなのに、その声は聞こえない。周りの音も消え、変わりに普段聞こえないはずの魔力の動く音が聞こえた。呪文が終わりに近づくに連れて、近くに魔力が押し寄せてくるような感覚がした。

 どれくらい経ったのだろう。とっくに呪文は唱え終わったはずなのに、なかなか音が戻らずルクスはぼーっとしていた。

 

「……ス……クス、ルクス!」

 

 遠くの方から聞こえたシエルの声に、意識がはっきりとしてくる。音が戻り、もう魔力の音は聞こえなくなった。

 

「(ん……魔法、魔法は成功した?)」

「ええ。でも、この呪文を使うと、どうやら術者が気を失うみたいです」

「(ミスはないんじゃなかったの?)」

「これは呪文の副作用ですから、ミスではなく改良点です」

 

 ミスを否定するシエルだが、ルクス的にはミスも改良点も大差ないと思った。それをあえて口に出すことはしないが。

 

「(そろそろ、ワタシは行くけど。他に何かある?)」

「では、一つだけ。フィナにはこのことは秘密にしておいてください。怒られそうですので」

「(うーん……分かった。じゃあまたね)」

 

 ルクスが医務室から出て行くと、変わりにマダム・ポンフリーが入ってきた。

 

「シエル。調子はどうですか?」

「完全に治りましたよ」

「そんなこと、ありえな……って、どうやってここまで魔力を回復させたんです? まるでどこかから集めた様に……」

 

 マダム・ポンフリーの感の鋭さに、シエルはギクリとした。

 

「まさか本当に……いや、どうやって?」

「でも、これで退院できますよね?」

「……はぁ、校長に報告してきます」

 

 マダム・ポンフリーは患者が退院することは嬉しいはずなのに、なぜか悲しい顔をして医務室を出て行く。シエルはその後ろで、小さくガッツポーズをした。

マダム・ポンフリーが居なくなって少しすると、ダンブルドアが入って来た。

 

「シエル、体調が()()良くなったようじゃのう」

「はい。私も()()()治癒能力にはびっくりです」

「そうか、そうか。それとは別の話じゃが、先ほど儂の魔力が少しなくなった気がするのだ。わしの気のせいかのう……」

「どうでしょう? 私は何も感じませんでしたが」

 

 医務室に来るなり、痛いところを突いて来るダンブルドア。全てお見通しと言わんばかりに眼鏡をキラリとさせた。

 

「それで、私はいつ退院できますか?」

 

 ダンブルドアはじとりと目を細めたが、すぐににこりと笑った。

 

「もう少し様子を見て、夕食までには寮に戻れるようにポピーには伝えておこう。じゃが、くれぐれも魔法を使ったりしないように。よいな?」

「わかりました」

「それでは、儂はポピーと話してこようかのう」

 

 そう言うと、ダンブルドアはマダム・ポンフリーの方へ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定より早く退院できた私は、取り敢えず自分の部屋に戻り身支度をした後、談話室に向かった。

 見渡すと、ハリー達三人は暖炉の前、双子とリーは窓辺、フィナは1人で本を読んでいるようだった。無意識に主人公達の行動を確認してしまう自分に呆れながらも、私はフィナの元へ向かった。

 

「ただいま、フィナ」

「ん? どうしたの……って、シエル!? いつのまに帰ってきてたの!!」

「今ですよ」

 

 フィナの驚いた顔にサプライズ成功! と喜んだのもつかの間、フィナが私に抱きつき、泣き始めた。

 

「シエル。心配したんだからね! ぐす、本当に、よかったあぁ!」

「すみません。迷惑をかけてしまったようですね……」

「お、シエルが帰って来たぞ」

「「シエル!!!!!」」

 

 双子も飛びついて来て、私たちは四人で盛大に転んだ。もちろん、一番下が私だ。

 

「お、重いですよ。ぐっ、肋骨が……リー、助けてください……」

「馬鹿かお前ら」

 

 そう言いながら、リーは双子を引き離した。自由になった体に、一度深呼吸をする。

 

「あなた達、私を殺す気ですか!」

「ごめんごめん」

「嬉し過ぎてつい」

「「イタッ」」

 

 全然反省していない様なので、近くにあった本で頭を叩いておいた。

 その様子を見て苦笑いを浮かべているリー。フィナはまだ目に涙を溜めていた。

 

「ようやく、退院出来たんだな」

「はい。ただ、過剰な運動と授業以外での魔法の使用は禁止されました」

「それでも、退院出来てよかったね」

 

 フィナはそう言うと、花の様に笑った。

 

「そうですね……では、改めまして。ただいま帰りました」

「おかえり、シエル」

「お帰り」

 

 フィナとリーが挨拶を返す。しかし、双子はそんなのはお構いなしに、違う話を持ち出してきた。

 

「ねえ、退院祝いは何がいい?」

「これとかどう? その名も『ビリビリペン』!」

「気持ちだけ頂いておきます」

「えー、ひどーい」

「シエル、いじわるー」

 

 そんな言い合いをしていると、横でフィナとリーが楽しそうに笑っていた。

 

「ふふっ、やっぱり先輩達にはシエルがセットですね」

「そうだな。お似合いだぞ」

「「お前らが言うな!!」」

「フィナとリーの方がお似合いですよ?」

「へ?」

「は?」

「シエルのバカ!!」

「お前ら、調子に乗んな」

 

 フィナはシエルを、リーは双子を、それぞれ追いかける。

 他の寮生はいつもの騒がしさがもどってきたことに少し安堵を感じた。

 

 戻ってきた日常は、シエルが『ルーシェ』でも、『スタージェント』でも変わらず、それでいてシエルが『シエル』で居られる場所だった。

 

 

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