ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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2.光

 目が覚めると、すっかり夜になってしまっていた。まだ混乱している頭を落ち着かせるために、とりあえずシャワーを浴びることにした。

 

 まず、状況を確認しよう。

 私の名前は星崎心笑留。ここではシエル・スタージェント。

 次に場所。ここは魔法の世界だ。しかもただの、魔法の世界じゃない。前の世界ならば誰もが名前くらいは知っているであろう、あの有名なハリーポッターの世界だ。もちろん、私も知っている。映画も見たし、原作も小さい頃から随分読み込んでいた。

 そして最後。どうして私がここいるのか。

 

 どうやら私は、転生したらしい。

 

 どういう訳かは分からない。私が死んだのか、それとも何か不思議な……それこそ魔法的な力が働いたのか、全く分からない。兎にも角にも、私が転生したことは確からしかった。そうじゃなくても、そういうことにしておく。

 

 考えては見たけれど、考えれば考えるほど混乱していくばかりだ。冷静になんていられない。半ば諦めて、シャワールームから出ると、丁度リーサが夕食を運んでくれているところだった。

 

「おはようございます、お嬢様。大丈夫ですか?」

「ええ、もうバッチリよ。迷惑を掛けたわね」

 

 そういえば、と唐突思い出した。先程、ダンブルドアは、私がリリーに似ていると言っていた。部屋に置かれた姿見が、ちらりと目に入る。確かにこの瞳は、リリー……というよりかは、ハリーにそっくりだ。

 

「ねえ、リーサ。もしかして私はお母さまに似ているのかしら」

 

 当然の問いかけに、リーサは少し驚いたようだった。それもそのはずだ。私は今まで母のことを誰かに聞くことはしなかった。母がいないのが、何か病気なのか、それとも他の理由なのか、そういったことでさえ知らない。聞いてはいけない気がしていたのだ。

 けれど今は違う。少しでも多く、自分の情報が欲しかった。この不気味な不安が少しでも消えるように。

 

「お嬢様は……確かに奥様に似ていらっしゃいますね。奥様は本がとてもお好きな方でした。この家に沢山の本があるのは、奥様の影響でしょう。マグル出の方でしたが、魔法もお上手でした。ご主人様とはホグワーツという学校で出会ったそうです。お嬢様も11歳になったら行かれるところです」

「ホグワーツに!」

「ええ、そうです」

 

 驚きと喜びで小躍りしそうになった。

 一旦冷静になって、いよいよ、本題に入る。ダンブルドアの言葉の答え合わせをするのだ。

 

「お母さま、姉妹はいるの? 親戚……従姉妹、だとか」

「何故、それを?」

「いや、気になっただけよ」

 

 リーサが少し怪しんだ顔で私の方を見た。私は不格好に笑ってみせる。

 

「お嬢様が何を考えられているのか分かりませんが……奥様には従姉妹がいらっしゃいましたよ。とても賢い方で、綺麗な赤毛の方でした」

「名前は?」

「リリーです。リリー・エバンズ。彼女の息子はお嬢様と同い年のはずですよ。生き残った男の子と言われて……」

「ええ、ええ! 知っているわ、リーサ。ほらその……リーサがいない間に、魔法界のことを調べたのよ。そう、そうなの」

「そうでございますか……」

 

 リーサがまだ怪訝そうな顔をしていたが、正直そんなことはどうでも良く思えた。今にも叫びそうだ! どうやら私は、あのハリー・ポッターのはとこに当たる! そして何より私は、ハリーポッターと同じ時間、同じ世界に入れるのだ!!

 この喜びを隠せなくなる前に、一人にならなくては。

 

「あ、ありがとうリーサ。夕食はそこに、置いておいてくれるかしら?」

「ええ、構いませんが。大丈夫ですか、お嬢様。なんというか――おかしな顔をしていらっしゃいますよ?」

 

 どうやら、もう手遅れのようだ。

 少しは浮かれたって、誰も文句は言わないでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と思っていたのは昨日までだ。

 私は早朝から、大変な事実に気がついてしまったのだ。

 

 ハリポタの世界は弱肉強食なのである。

 

 いくら、私が記憶があるからと言って、全くもって最後まで生き残れる確証はない。

 だいたい、シエル・スタージェントという人物はハリポタの世界に存在していなかったのだ。いや、いたのかもしれないけれど、言及されていない以上、どう生きてどう死ぬかはまったく予想がつかない。

 下手に動けば、死ぬか、最悪ハリー・ポッターが負けることになるかもしれない。

 

 と、言うことで、私は強くなることにした。

 

 安直な理由だ。強くなれば、死なない。死にたくないなら、強くなれ。以上。

 幸い、この家には大量の本があるため、勉強には困らないし、何かあればリーサに頼ればいい。1つ問題があるとすれば、私に魔法が使えるのか、ということだった。

 リーサにそれとなく聞いたところ、どうやら私は魔法の暴走をあまりしない子供だったらしい。スクイブの確率は大いにあるようだった。

 

「ねぇ、リーサ。どうしたら、魔法を使えるようになるかしら」

「大丈夫でございます。きっとそのうちすぐに魔力暴走を起こしてくださいます!!」

「それは少し違う気がするけれど……」

 

 まあ、魔法が使えなくとも、使えるようになるまでに知識を詰め込んでおけば、どうにかなるだろうと、気長に待つことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、リーサに連れられて、私はダイアゴン横丁へ来ていた。毎日、机に向かい勉強をしている私に、リーサが気を利かせてくれたのである。

 リーサ曰く、父や兄がいなくなった事の埋め合わせをしているのではないか、と不安になったそうだ。実際はただ、将来自分が生きられるためにやっていることなので、そんなことは全くないのだが。

 けれど、リーサの好意を無下にすることはできず、大人しく着いてくることにした。

 リーサの指パッチン魔法でダイアゴン横丁に着くと、今日もまた一段と人が多かった。たくさんの店が立ち並び、賑わう横丁。ふと、私の目に古ぼけた看板が止まった。

 

 オリバンダ―の店―――紀元前三八二年創業 高級杖メーカー

 

「リーサ、私あそこに行きたいわ」

 

 リーサは外で待っていると言うので、私は一人で扉を開いた。カランカランとドアのベルが鳴る。

 

「あの、すみません。誰かいますか?」

 

 静かな店内に私の声が響き渡った。少しして、店の奥から老人が出てきた。この店の店主、オリバンダーだ。

 

「おお、これはこれは、小さな魔女さんの来店だ。初めましてですな、シエルさんですな? お母さまに本当に似ておられますな」

「何故、私の名を?」

「分かるものじゃよ。ずぅっとここで見てきたのじゃ。お嬢さんの両親もお兄さんもここで杖を買ったのじゃ。残念ながら……いや、この話はよそう」

 

 首を横に振ると、オリバンダーは再度私を見つめた。灰色の瞳がずいっと私の緑色の瞳を覗き込んでいた。

 

「君は杖を、お探しかね?」

「そうです。杖を」

「そうか……しかし、ここにはあなたの杖はございません」

「え?」

「少々お待ちを」

 

 オリバンダーそのまま店の奥に入って行ってしまった。

 少しして、埃を被ったオリバンダーが出てきた。手には、小さな箱が握られている。その箱を見せながら、オリバンダーが口を開いた。

 

「この箱の中には、魔晶石というものが入っておる。貴重なものだが、最近は需要が減ってしまった」

「……何に使うものですか?」

「この石は、強力な魔力を持っている。いや、持っていたものだ。魔法石というものを砕いた破片で造られたものだ。魔法石は、魔力を封じたり、溜めたりすることができ、魔晶石は、魔力を持つものに反応する」

「杖の芯は魔力のあるもので作られる?」

「そういうことじゃ。あなたの家にはきっとあなたを待っている杖がある。探しなさい」

 

 オリバンダーは私の手にその箱を置いた。

 

「大きくなったら、また来ておくれ」

 

 お礼を言う暇もなく、店の奥に行ってしまう。不思議な感覚だ。私は貰った箱を少し握りしめてみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 店を出ると、リーサと合流し、昼食を取ったり、また、服や本を買ったりとぶらぶらして楽しんだ。リーサはオリバンダーの店であったことを最後まで聞かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 家に帰ったると、夕食とシャワーを済ませた。部屋に戻った時には、もう眠気がピーク……私はそのままベッドへダイブした。

 

「うーん、疲れたー」

 

 伸びをしながら、あくびをする。久しぶりの外出だ。疲れるのも無理はない。

 

 ふと思い出して、机に置いてあった、箱を手に取ってみた。開けると、中にある魔晶石が光に当たり、キラキラしてとても綺麗だった。つい見惚れてしまう。

 と、その時。魔晶石が、突然異変を起こした。キラキラと自ら光っている……?

 突然の異変にリーサを呼ぶか、そう思った瞬間。光が消え、代わりに一筋の光が扉を指した。

 

「この先に、杖が?」

 

 ドアを開けると、光がずっと遠くまで指しているのが分かった。そのまま私は廊下を歩きだした。

 少し進むと行き止まりが見えてきた。すると光は方向をかえ、一番奥の部屋を指した。勢いよく扉を開ける。

 

「宝箱?」

 

 広い部屋に、大量の宝箱が置かれていた。その中で、一番小さい宝箱を光は指している。鍵は……かかっていない。開くと、中には鍵が入っていた。

 

 そう思ったのもつかの間。光がまた方向をかえ、次は一番大きい宝箱を指した。開けるとまた鍵……それからは同じことの繰り返しだった。

 

 数十分が経ち、そろそろ飽きていた。ついに最後の一つ。鍵穴に鍵を差し込む。

 

 カチャリ―――

 

 先ほどまでとは違う、確かな手ごたえを感じた。宝箱を開く手が、少し震える。鼓動も急に早くなった。

 

 中には杖が入っていた。

 

 古いのだろうか。埃をかぶり、少し色褪せている。また、所々擦り切れた跡や傷が付いている。

 

 私は、吸い込まれるように杖に手を伸ばした。杖に触れるまで、あと3、2、1センチ……すると、杖が私の手に自分から収まった。杖を箱から出し、一振り……とその瞬間。杖先が輝き、その光が私を包んだ。

 光が消えると、私は魔法が使えるか試してみることにした。今の感覚は確かに、この杖に選ばれたのだと思うけれど、確証がなかったのだ。

 

「オーキデウス」

 

 つい最近覚えた魔法を唱えてみた。すると、まるで雪が降るように上から小さな花が降り注いでくる。

 

「私、魔法使いなんだ……」

 

 改めて自分がこの世界にいることを教えられたような気がした。

 

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