ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
30.ロックハート
夏休みは明け、9と3/4番線にはたくさんの人々が押し寄せていた。その中には生徒やその保護者以外の大人たちも紛れている。
しかし、彼らが目当てのシエルはここにはいない。
私はそれを知らない彼らを横目で見ながら、ドラコと共に列車に向かった。
「遅いぞ、ドビー早くこい!」
「は、はい、お坊っちゃま」
彼は私が別荘に行ってからやけに機嫌が悪い。ドビーへの態度もこの有様だ。
「フィナーラル、お前も遅いぞ!」
「すぐに行くね」
列車に乗るとすぐ、ドラコはずんぐり体の護衛の二人を見つけるために何処かへ行った。私は適当なコパートメントを探し中に入る。少しすると列車が動き出した。
列車を降り馬車に揺られる。同席したのは双子とリーとレイブンクローの制服を着た黒髪紺眼の生徒だった。彼が先に乗っていて、私たちが相乗りをお願いした形だ。彼は本を読み、誰とも話す気はない。
しかし、双子には話さないという選択肢はなかった。
「君、三年生だよね、名前は?」
私は彼が答えるとは思えなかったが、驚いたことに彼は読んでいた本を閉じた。
「三年生のノア・アルフィー・レオナルドです。アルフィーと呼んで下さい」
「アルフィーね。俺は四年でフレッド・ウィーズリー。でもってこっちが同じくジョージ・ウィーズリー」
「見ての通り双子。フレッド、ジョージでいいぞ。よろしく」
アルフィーに続けて双子が自己紹介をした。
「フレッドさんと、ジョージさんですね。そちらのお二方は?」
「リーだ。リー・ジョーダン。同じく四年」
「二年のフィナーラル・ソードです。アルフィー先輩とお呼びしますね」
「リーさんにフィナーラルさんですね。みなさんは友達なのですか?」
「ああ。あともう一人いるけどな」
「それもとびっきり大物が」
「あんまり言うと、シエルに怒られるよ、先輩」
「シエルさんって、あのシエルさんですか? スタージェント当主の?」
「そうだ」
「へぇ、彼女にも友達が……って、勿論いい意味でですよ!」
双子が睨らまれ、アルフィーは慌てながらも取り繕った。
「まあ、確かにあいつは人を近づけないようにしてるけどな」
「リー先輩まで、本当に怒られますよ! 後ろからぐさっとやられますよ!」
「フィナこそ。シエルが殺人者みたいに聞こえるぞ」
「なにが後ろからぐさっとだよ。やられるのやの字が違うぞ、それ」
「ぷっ、はははっ」
いきなりアルフィーが吹き出した。
「な、なんだよ」
「今の会話に面白い要素あったか?」
「い、いえ、すみません。ただ、本当に仲がいいんだなって」
「あったり前だろ」
「生まれた時から決まってる」
その後も四人とアルフィーの五人で盛り上がり、城に着いた頃には双子とアルフィーは肩を組んで話すまでになっていた。
前日からホグワーツ城に泊まっていた私は、余裕を持って大広間へと迎えるはずだった。制服に着替え準備をし、大広間に向かおうとしたその時、ダンブルドアから呼び出されたのである。
校長室に入ると、ダンブルドアとセブルスがいた。
「何の御用でしょうか?」
「少し話しておかねばならない、注意事項があってのう」
「なぜ、今日?」
「校長は昨日まで魔法省で仕事があったのだ」
「手短にお願いしますね」
「心掛けよう」
ダンブルドアはそう言うと、くるくると巻かれた紙を出してきた。長くなりそうな予感。
「まず、初めにシエルの学校生活の話じゃが……学力は申し分ないのう。しかし、闇の魔術に対する防衛術の授業に出ていないと聞いた。なぜじゃ?」
「不必要と判断しました」
私は素直に答えた。しかし、ダンブルドアは顔をしかめる。
「シエルよ。自主的に勉強を行う意欲は良いが、授業に出る出ないはまた別の話じゃよ」
「要するに、授業に出ないことを禁じると?」
「まあ、そういうことじゃ」
「……撤回して下さい」
「無理じゃ」
「お願いします」
「無駄じゃ」
「テストで一位になりますから」
「既にじゃ」
「なんでもしますから」
「では授業に出なさい」
「……」
ダンブルドアの即答に私は少しめげた。しかし、それも一瞬だ。
「セブルス、お願いします」
ふいっと横を向いて無視された。
「フォークスは?」
首を横に振った。
「組み分け帽子は?」
ただのボロ帽子がそこにはあった。
「歴代の校長様方は?」
全員が目を逸らし、中にはどこかへ去っていく絵もあった。
最後の手段だ。私はダンブルドアの方を向いた。
腰を90度に曲げて、綺麗に頭を下げる。
「お願いですから、撤回して下さい!」
「……無理じゃ」
二年は生きられる気がしなくなってきた。
ダンブルドアに完敗した私はその他の注意事項を軽く聞き流し、力なく大広間に向かった。いつもの場所にいる四人を見つけ声をかける。
「こんばんは。少し遅くなってしまいました」
「こんばんは、シエル。何かあったの?」
「いえ。少しお話ししていただけです。それより、新入生は誰が入ってくるか楽しみですね」
「うちの可愛い末っ子ちゃんが入ってくるぜ」
「その名もジネブラ・ウィーズリー」
「妹ですか? それならグリフィンドールですね」
「だといいけどな」
そんな話をしていると、すぐに歓迎会が始まった。
組み分けでは原作通り、ジニーはグリフィンドールに入った。双子が嬉し涙を堪えていたことは見なかったことにしよう。今年は有名人や組み分け困難者もおらず、スムーズに終わった。
しかし、ここで問題が起きた。
「次は新しい先生の紹介じゃ。闇の魔術に対する防衛術の先生をしておったクィリナス・クィレル先生の代わりに今年からギルデロイ・ロックハート先生が教えることになった。先生、挨拶をお願いできるかね?」
ダンブルドアの最後の言葉を聞く前に、それは立ち上がった。白い歯を見せつけるようにして笑い、ウィンクを一つ。
食事の前なのに、胃から何かが出そうだった。なぜなら、心笑瑠がハリポタ一苦手な男だったからだ。
「ダンブルドア校長、ご紹介ありがとうございます! 私はギルデロイ・ロックハート! 今年から闇の魔術に対する防衛術の授業を教えることになりました!私は……」
長々と話し始めたので、私は上を向いて、空飛ぶロウソクの数を数えていた。
ロックハートは最後に「よろしくお願いします!」と言って、ウィンクをした。一部から黄色い歓声が上がった。私はまだロウソクを数えていた。
「ロックハート先生、ありがとう。儂からも少し話が」
ダンブルドアは去年と同じような挨拶と注意事項を言う。それが終わると食事だ。
全く食べる気にならない。
「シエル、顔色悪いけど大丈夫?」
フィナに心配をさせてしまった。私は大丈夫と答えながらサラダを自分の皿に盛り付ける。
少し遠い場所で、ハーマイオニーの声が聞こえた。
「ハリーとロンは一体どこをほっつき歩いているの? 空飛ぶ車だとかそんなものに乗ってる訳ないでしょうね!」
「落ち着けって、ハーマイオニー」
「すぐに来ると思うぜ」
私の横から移動した双子が彼女をなだめている。
ふと、セブルスがマントを翻しながら大広間から出て行く。続いてダンブルドアとマクゴナガル先生も足早に出て行ったのが見えた。
「あなた達、どこに行ってたの? 噂も全て馬鹿馬鹿しいものばかりなのよ!」
歓迎会の終わったグリフィンドール寮。そこにある二人が入って来たことによって、拍手が湧いた。ハーマイオニーの説教ももう聞こえない。
「子供ですね……」
「シエルもでしょ?」
隅の方で私とフィナはポツリと呟いた。
なぜこんなに騒いでいるのか。それは、ハリーとロンが空飛ぶ車で学校に登校したからだ。それには9と3/4番線への入り口が閉されてしまったという理由があるのだが、そんなことを知らない寮生達は大盛り上がりした。その様子はまるで――
「まるで英雄気取りだな、ハリーとロンは」
リーに先を越された。たしか、原作ならば一緒に盛り上がっているはずなのだが、冷静に遠目で見ている。
そういえば、リーはなんで性格が変わってるのかな?
やっと私は原作キャラの性格改変が行われているのに気づいた。
「その……僕たち疲れたからベッドにいくね」
「おやすみ」
ハリー達の声でその騒ぎはお開きとなった。隣を見ると、リーも一緒に男子寮へと入って行く。
「私たちもそろそろ寝ましょう」
「そうだね。おやすみ」
私はフィナにおやすみを返すと、自分の部屋に戻った。
次の日。
「あなたはミス・スタージェントですね。お会いできて本当に光栄です! サインとかいただけますか? よければ私の本にでも。いつもストックがありますからいくらでも……」
「結構です」
朝からロックハートにベタベタされた私は不機嫌なまま大広間へと向かった。
「おはよ、シエル」
「おはよう、フィナ」
なんとか笑顔を取り繕って誤魔化したのだが、多分笑えていないだろう。フィナは教員席へ向ける視線を読み取り、状況を把握したようだ。
席に着くと机にポンっと突然、パイが現れた。見るとカードがついている。
お嬢様へ
リラックス効果のある食材で作りました。よろしければお食べ下さい。
リーサより
なんと、リーサが私の気持ちを察して作ってくれたようだ。後でお礼を言っておかなくては。
フォークを持ち一口。一気に私の中の黒い部分が浄化された様だった。
と、その時。
『車を盗み出すなんて、退校処分になって当たり前ですよ! わたしとお父さんが車がなくなっているのを見てどんな思いだったか!』
爆発音のような騒音を出す吼えメール。シエルは食事をする気が一気に失われた。
せっかくリーサのおかげで浄化されたというのに、これでは台無しだ。それに私は今、余裕がない。
この出来事はシエルの癇に障ることだった。
「ちょっと、シエル? どうした?」
「……」
フィナの問いにも答えず、私はそちらの方へ歩き出す。何をするかを悟ったのか双子達が止めようとした。しかし止まらない。
『昨夜、ダンブルドアからの手紙が来て、お父さんは恥ずかしさのあまり死んでしまうかと思いましたよ! こんな子に育てた覚えは……』
バンッ――
その爆発音と同じくらいの破裂音が大広間には鳴り響いた。
次の瞬間、吼えメールは粉々になり、その騒音が消えてなくなる。
静寂。
耳を押さえていた人も、何もできずその騒音に耐えていた人も、全員がその騒音を止めた者の方を見た。それと同時に固まる。
「ウィーズリー。朝食くらい、静かに食べませんか?」
口調はとても優しく、微笑みながら言う。しかし、肝心の目が笑っていない。ロンはというと口をぽかんと開き、状況が読み込めていないようだった。
大広間に流れるなんとも言えない空気。そこにいる人たちはは皆、早く終わることを願った。
――そこに勇者が現れた。
「ミス・スタージェント、少しよろしいですか?」
その男子生徒は勇敢にもシエルとロンの間に割って入った。
勇者の中の勇者。教師陣達も驚きを隠せないようだ。
「何か私に?」
「外でお話ししてもよろしいでしょうか?」
「いいですよ」
二人が大広間から出て行くと、もとの喧騒が戻ってきた。
「ここら辺でいいですかね」
男子生徒。青色の制服からして、レイブンクロー。イギリスでは珍しい黒髪。吸い込まれそうなほど深い紺の瞳。角ばった眼鏡を付けており、いかにも
一体、彼は誰だろう。原作には登場していないのは確実で、レイブンクローとの合同授業でも見たことがない。ましてや同級生なのかも定かではない。
空き部屋に到着してもなお、その答えは出せずにいた。
「いきなり呼び出してしまい、すみません。あのままあそこにいるのは、あまり効率的ではないと思ったので」
「……そうですか」
「おっと、まだ名乗っていませんでしたね。僕はレイブンクローの三年生でノア・アルフィー・レオナルドと言います。アルフィーと呼んで下さい」
うん、誰だろう。
名前を聞いても全くピンと来なかった。
「アルフィーですね。私はシエル・スタージェントです。グリフィンドールの二年生。私のことはシエルでいいですよ」
一応、私も名乗っておく。
「では僕はこれで。きっとまた、お会いするでしょう」
そういうと、アルフィーは足早にその場を去って行った。
一体、何だったんだ?
「アルフィー先輩は、シエルに用があったわけじゃないんだね」
「はい。ただ単にあの場を収めたかっただけみたいですよ」
「ふぅん……」
まだ誰も居ない温室の外。次の授業が薬草学の為ここにいるのだが、草の匂いと土の匂いとあまりいい気分では無かった。
そんな中、フィナに事情を説明した私は何か引っかかる物を感じていた。
「ですが、何か特別なものを感じた気がします。紺色の瞳……何か特別な……」
「瞳? 私はなにも感じなかったけどな」
二人で考えても、結局答えを出すことはできなかった。少しすると、生徒達が集まってきて、先生も現れる。
「みなさん、こんにちは!」
私は心の中でげっ、と言ってしまった。あいつは、言うまでもない。ギルデロイ・ロックハートだ。
「フィナ、私は一度消えます。次の授業でお会いしましょう」
「え? りょ、了解」
逃げるが戦法。私は目くらまし呪文をかけた。
はっきり言って、最悪。控えめに言って、最低。ここまで拒絶するのも酷いかもしれないが、とにかく苦手なのだ。
それは、授業をしていても廊下ですれ違う時も変わらない。
「私だ!」
ウィンクが飛んで落ちた。
「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、『週間魔女』五回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。もっとも、私は泣き妖怪バンシーをスマイルで追い払った訳ではありませんけどね!」
「はあ」
「シエル、声に出てるよ……」
「全員が私の本を全巻揃えたようで、たいへんよろしい。まず今日はミニテストをやります。心配無用。どのくらい私の本を読んでいるか、覚えているかチェックするだけですからね。
三十分間です。よーい、始め!」
テスト用紙は見るまでもない。
1 ギルデロイ・ロックハートの好きな色は?
2 ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は?
3 現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?
(省略)
54.ギルデロイ・ロックハートの誕生日はいつで、理想的な贈物は何?
ナルシスト、自惚れ、自己中心的。そこらへんの言葉を全て組み合わせた物ががこの目の前にいるギルデロイ・ロックハートだ。
こんな授業を受けるなんて問題外。しかしダンブルドアから授業のサボりを禁止されてしまったため、仕方なくこうして受けている。
「眠い……」
「だから、声に出てるってば」
フィナの声は聞き流してしまっている。無意識だから許して欲しい。
テストが終わると、ロックハートは満点だったハーマイオニーを褒め、十点を上げた。彼女は嬉しさに震えている。
テストの話が終わるとやっと授業に入った。しかし、予想通り。
「捕まえたばかりのコーンウォール地方のピクシー小妖精だ。これを君たちがどう扱うかやって見ましょう!」
「ピクシーより前にあなたを檻に入れたいですね」
「シエル、声っ」
暴れ出す妖精たち。教室をめちゃくちゃにするだけでなく、生徒たちにも手を出し始めた。そろそろ終わりにしようと思ったのか、ロックハートが呪文を唱えた。
「
予想通り無効。彼は杖を取られ、机の下に潜る。
呆れ返った私は、それを一瞥しピクシーが寄ってくる前に障壁呪文を唱えた。
「フィナは私のそばにいて下さいね」
「う、うん」
しばらくすると、終業のベルが鳴った。教室から雪崩のように生徒が出て行く。私もフィナを連れて教室を出た。
「ミス・スタージェント! またお会いしましたね! 写真はいかがですか?サインは?」
「いえ、結構です」
「そうですか、それは残念。気が変わったらいつでも言って下さいね」
ロックハート先生はそう言うとシエルに向けてウィンクをした。そのまま鼻歌交じりに何処かに行く。それと対照にシエルはため息をついた。
「シエル、大丈夫?」
「ええ。まあ」
微笑みながらそう答えるシエル。明らかに疲れが溜まっていた。
ギルデロイ・ロックハート。
彼女の疲れの原因は他の誰でもなくその人だった。
今のように廊下ですれ違う度に声をかけられ、付きまとわれ、疲れるのも無理はない。
まだ二年生になって3日なのにシエルの顔は休みなく働く会社員のようにも見える。
「医務室行く?」
「いえ。大丈夫です」
シエルはフラフラとした足取りで歩き出した。その肩を軽く支えながら私も続く。正直、シエルをこんな風にする先生は許せなかった。
「失礼します。スタージェントです。セブルス教授はいらっしゃいますか?」
「入りたまえ」
セブルスの声に私はドアを開き中へと入った。彼はいつも通り宿題のチェックをしている。
「ロックハートか?」
私が椅子に座ってすぐ、セブルスは私にそう聞いた。
「それ以外に何かあると?」
「気持ちは分かる」
なだめる様にセブルスは言った。
「何が分かるんですか。授業だけならまだしも、四六時中付きまとわれるんですよ。なぜあんな詐欺者を先生になんかしたんですか? ダンブルドアさまも今回だけは誤った判断をしたと思います」
「仕方ない。あいつしか居なかったのだ。出来れば私が教えたいものだが、ダンブルドアはそれをお許しにならない」
「手はないと?」
「今のところはな。今年は諦めろ」
「分かりました。邪魔をしてしまいましたね。すみません」
「別にいい。生徒の悩みを聞くのも教授の仕事であろう?」
「ありがとうございます、セブルス」
私はそう言うと、セブルスの自室を出た。すると、通りがかったロックハートに声をかけられる。丁度いいタイミングだ。
「ミス・スタージェント! やっと見つけましたよ。まさかここにいるとはね」
「ロックハート先生。私は決めましたよ」
「ん? いいですね! 若い時の決断とは思い切りが大事ですよ!」
「あなたのことを呆れるのをやめます。その代わりに……諦めます」
彼に向けて宣言した私はそのままその横を通り、その場から去る。幸い、ロックハートにはその意味を理解できなかった様だった。