ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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31.第一の犠牲者

 ロックハートを諦めてから、シエルは心の余裕ができた。具体的にはロックハートが何を言っていても「おとぎ話」を聞かされているのと同じ感覚で聞いていたのだ。

 彼に付きまとわれても笑顔一つ崩さない。こんなに簡単に切り捨てられるならもっと早くしておけばよかったと思ったのは一度ではない。

 授業もいつも通り、休日は午前は訓練、午後はフィナ達と過ごし、たまにセブルスとお茶を飲んだりもした。なんと言うかこの一ヶ月は平和に終わった。

 そのせいか、私は忘れてしまっていた。ハロウィーンの出来事を。手を出さないと決めていながらも何となく気にはしているのだ。ついこの間はロンがナメクジを吐いていたし。

 

 現在、ハロウィーンパーティーの帰り道。

 お腹も一杯だし、疲れたし、みんなよりも早く帰った私。今思えば馬鹿だった。

 

 聞こえてきたのだ、誰かの声が。聞きたく無かった、何かの声が。

 

『……引き裂いてやる……八つ裂きにしてやる……殺してやる……』

 

 何かの這うような音とともに、その声は聞こえた。

 

 チャポン――

 

 私の足元で水が跳ねた音がした。見ると、床に大きな水溜りが出来ている。

 

 ポチャン、チャポン……

 

「嘘……」

 

 私は顔を上げた。

 

『秘密の部屋は開かれたり

 継承者の敵よ、気をつけよ』

 

 血のような赤い字でそれは書かれていた。下にぶら下がっている猫はミセス・ノリス。

 

「ハリー、一体これはどう言うことだい? 僕には何も……」

 

 廊下の角からロンの声が聞こえた。彼らはどんどん近づいて来る。

 逃げなくてはと思った時にはもう遅かった。

 

「文字……下にぶら下がってるのは?」

 

 ロンとハリーの目には壁とミセス・ノリスしか入っていない。しかし、ハーマイオニーの目は視線は私を貫いていた。

 

「シエル……? 何でここに」

 

 彼女の声を聞いた二人が私に目を向ける。その顔は恐怖に塗られていた。

 

「私じゃ、ない……私は何も……」

 

 既に遅かった。

 パーティーが終わり生徒達がその廊下に現れたのだ。話し声、ざわめき、その全てが突如消え去った。文字。猫。ハリー・ポッター。そして――

 

「こ、こいつだ!こいつがやったんだ!」

 

 前の方にいたグリフィンドールの上級生が私を指差しそう言った。声も指差す腕もその唇も震えて。恐怖を隠そうとせず。

 

「ぎゃぁぁああアア」

 

 その生徒は甲高い悲鳴を上げ走り去って行った。それを境に他の生徒達も悲鳴を上げ、逃げて行く。

 

「シエル、嘘でしょ?」

「そんな訳ないよな?」

「ありえねえ……シエル」

「……」

 

 フィナは崩れ落ち、双子は私に問いかけた。リーはフィナを支えながら私を見るだけで、何も言わない。

 

「なあ、シエル。何か言えよ。お前がやったんじゃないって!」

「……ッ」

 

 声が出なかった。体の感覚が全て消えたようだった。

 なぜなら、彼らの目が、瞳に映るその色が『恐怖』に塗られていたから。他の生徒と変わらず私を加害者の目で見たから。

 

 ――信じてくれないんだ。

 

 双子の怒鳴り声。フィナの泣き声。遠くから聞こえる先生達の足音。

 

「お前は、シエルは、俺たちの友達じゃ無かったのかよ!!」

「……」

「行くぞ、フィナ立てるか?」

「うぐっ、うんっ、ぐすん」

「ぁ……」

 

 私は友達を、親友を、全てを失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁に書かれた文字。

 血の気のなくなった猫。

 叫ぶアーガス。

 恐怖に顔を歪めたハリー達三人。

 顔を俯き立ち尽くすシエル。

 

 

 ダンブルドアはその状況に目を疑った。すぐに彼らに声をかける。

 

「アーガス。一緒に来なさい。そこにいる三人と……シエルもじゃ」

「良ければ私の部屋を使って下さい。すぐ上です。どうぞご自由に」

 

 ロックハートに礼を述べるとダンブルドアたちは歩き出した。しかし、後ろに続いたのは三人のみ。彼女はその場からぴくりとも動かなかった。

 

「シエル?」

「我輩が支えましょう。どうやら歩けないようだ」

 

 セブルスはそう言うと、彼女の肩を支えた。

 

 

 

 

 

 

 

「猫を殺したのはきっと呪いに違いない。多分、『異形変身拷問』の呪いでしょう。私は何度も……」

「ひっくっ、ひっくっ」

 

 ギルデロイの熱弁に返事をするようにフィルチのしゃくりあげる声が響いた。

 

「アーガス、猫は死んでおらんよ」

 

 ダンブルドアは体を起こしながらそう言った。

 

「死んでない? それじゃ、なんで。こんなに冷たく、固まって……」

「石になっただけじゃ。

 ただし、どうしてそうなったのか…儂には答えられん……」

「あいつに聞け! あいつが、あいつが石にしたんだ!!」

 

 アーガスはそう言うと、彼女を指差した。目の焦点が合わず、瞳に光はない、銀髪碧眼の少女シエルを。

 

「あいつ以外に誰がいるんだ! じゃなきゃ、あいつか? あいつはわたしが出来損ないの『スクイブ』だと知っている!」

「僕じゃありません! スクイブが何かも知りません。僕たちが来た時に彼女がいたんだ! きっと彼女が!」

「そうだ! ハリーじゃない。それは僕らが証言する。彼女が、彼女が!」

 

「私が、一体……何をしたと、言うのです……」

 

 やっと彼女が口を開いた。顔を俯き、震えている。

 

「何か、悪いことを……したって、言うんですか? 私がスタージェントだから? 私が魔法に優れているから? 私の性格が悪いから? 何だったらいいんですか? 私が普通の家庭だったら? 私が何も出来なかったら? 私の性格が良かったら? 私が魔法使いじゃ無かったら?」

 

 彼女は顔を上げた。怒りに、恐怖に、絶望に、彼女は震えている。その胸元がキラリと光った。

 

「はっ」

 

 この場でダンブルドアとセブルスだけが状況を把握した。彼女は『壊れかけている』のだ。体が、心が、精神が。

 

 バンッ――

 

 何かの爆発音と同時に、いきなり扉が開いた。聞いたことのない言葉で誰かが話す。目の前が真っ白になった。

 

 シュルルル――

 

 魔力が流れ出す様な音が聞こえ、だんだん視界が鮮明になる。

 

「君は?」

 

 そこにはレイブンクローの男子生徒がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いきなり押しかけてしまいすみません。だいぶ非常事態のようでしたので、助けに参りました」

 

 彼はシエルを椅子に座らせながらそう言った。

 

「君は、何者じゃ?」

「申し遅れました。ノア・アルフィー・レオナルドと申します」

 

 ダンブルドアは記憶を遡った。確か去年、外国の魔法学校から転入して来た。三年生の生徒だ。

 

「シエルに何をしたのじゃ?」

「彼女の魔力を少し吸い取っただけです。これに」

 

 そういうと、アルフィーは長方形の紙を取り出した。

 

「僕の国ではこれを使うのですよ。呪符と言います。それより、今はこちらの処理をした方が良いと思いますよ」

 

「ふむ。そうじゃな。まず、アーガス。君の猫は治してあげられる。スプラウト先生がマンドレイクを手に入れられてのう。成長したら蘇生させる薬を作らせましょうぞ。三人は帰りなさい。レオナルド君は、悪いがシエルを医務室に連れて行ってくれぬか?」

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 目を開くと、見慣れた天井が見えた。

 

「ここは……」

「目が覚めましたか?」

 

 視線を横にやると、黒髪眼鏡の男子生徒がいた。

 

「アルフィー?」

「はい、そうですよ。シエルさん」

「……どうなりましたか?」

「犯人はまだ分かりません。ですが、学校中であなたが継承者と言われていますね」

「そう、罰則は?」

「『疑わしきは罰せず』だそうです。校長は貴女がこんなことをするとは……と言っていましたよ」

「完全に疑っていますね」

「まあ、仕方がないでしょう」

「アルフィーは? 貴方は疑わないのですか?」

「もちろんです。僕があなたを疑うなんてあり得ませんよ。僕は貴女のためにここに来たのですから」

「私のため? それはどう言うことですか?」

「うーん……今はまだ言えませんね。ただ、これだけは言えます。僕はあなたを裏切ることはありません。僕の役目が終わるまで」

「役目?」

「ええ。いつか分かりますよ。あなたと僕がここにいる意味。僕とあなたが出会った理由が」

 

 彼はそう言うと私の手を握った。そっと、壊れてしまわないように。そして、小さな声で呟いた。

 

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