ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
クリスマス休暇が終わり、また元の生活に戻った。
一つ変わったことと言えば、毎日アルフィーと一緒にお昼ご飯を食べたり、宿題をやったりするようになったくらいだ。
新学期が始まり数週間したある日。アルフィーと一緒にグリフィンドール寮への道を歩いていた。すると、フィルチがすごい形相で喚きながら去るのが見えた。
「余計な仕事がまた出来た! もう、堪忍袋の緒が切れたぞ! ダンブルドアの所へ……」
私はアルフィーと顔を見合わせた。
「ぐすっ、ひっく」
耳を澄ましていると、誰かの泣き声も聞こえる。
「行ってみましょう」
「うん」
私たちは少し歩くと、あの事件の廊下に出た。半分くらいが水浸しになり、トイレの方から水が溢れている。
「待って、シエル。ここは女子トイレですよ。僕は入れな……」
「シーッ」
私は人差し指を口に当て、静かに扉を開き中を覗いた。
「どうして僕が君に何かを投げつけるの?」
「わたしに聞かないでよ」
見るとハリーとロン、そして「嘆きのマートル」がいた。私は自分とアルフィーに目くらまし呪文をかけて中に入る。アルフィーは少し抵抗したが中にいるハリーたちを見て渋々私に続いた。
「ここで誰にも迷惑をかけずに過ごしているのに、わたしに本を投げて面白がる人がいるの」
「でも、君は痛くないだろう? 体を通り抜けて行くだけじゃないの?」
ハリーの問いかけにマートルは膨れ上がった。
「マートルに本をぶっつけろ! 大丈夫、あいつは何も感じやしない! お腹は十点! 頭は五十点! なんて愉快なゲームなんだ! これのどこが愉快よ!」
「一体、誰が投げつけたの?」
「分からないわ。そこに座って、死について考えてたの。そしたら、頭を通って……そこにあるわ」
マートルは手洗い台の下を指差した。ハリーとロンはそこを探す。少しすると、びしょ濡れになったボロボロの黒い表紙の本を見つけた。ハリーがそれを見つけるなり、手を伸ばす。
「ダメだよ、ハリー! 気は確かか? 危険なものかもしれないんだぞ」
「危険だって? よしてくれ。なんでこんなのが危険なんだよ」
「見かけにはよらないんだ。パパが言ってたんだけど、魔法省の没収した本には……」
ハリーとロンが言い合っているうちに、私は呪文を解いて、その本を拾った。隣のアルフィーは警戒し、本に杖を向けている。背表紙には擦れた文字が書かれていた。
「"T・M・リドル"」
「だ、誰だ!」
「し、シエル?!」
私の声でやっと気がついた2人は3歩ほど後ずさった。しかし、私の手にある本を見て、元の位置に戻る。
「それは、僕たちが見つけたんだ! 返せ!」
ロンが勇気を振り絞り、私にそう言った。しかし私はそれを無視し、アルフィーに話しかけた。
「これは、闇の魔術がかけられていますね……「」」
「ダンブルドアに渡しに行った方がいいのでは?」
「いえ。彼らに返します」
「え?」
「いきなりお邪魔してすみませんでした。ポッターとウィーズリーでしたね。これはあなた方にお返しします」
ハリーにそれを渡すと、私は扉の方へ歩き出した。ワンテンポ遅れてアルフィーも続いてくる。扉から出る直前。私は振り返ると、彼らにこう言った。
「くれぐれも気をつけて」
「あんなもの、生徒に渡して良かったのですか?」
部屋に着くと、アルフィーは私にそう聞いた。
「あれは、彼らが乗り越えなくてはならない試練の一つ。私たちが手を出すべきことではありません」
これは、私が原作改変しないための言い訳の1つに過ぎない。しかし、アルフィーは真に受けてくれたようだ。
「ではシエルはもう継承者が誰か、石化の犯人が誰か、分かっているのですね?」
「どうでしょうね……」
私のはぐらかすような言葉にアルフィーは不満げだったが、それ以上異を唱えることは無かった。
2月14日。
リア充たちがチョコレートなどを渡したりして楽しんでいる、あの日がやって来た。
「バレンタイン、か……」
正直私は無関係どころか興味もない。しかし、今年は無関係では終わらなかった。なぜなら――
「シエル・スタージェント嬢に、ギルデロイ・ロックハート様からの歌を歌わせていただきます」
校内のお気に入りの生徒に彼は歌を届けていた。小人にキューピッドの衣装を着せて。
私は状況を把握した。どうやら、ロックハートは空気を読み間違えるのが得意らしい。
「
私はキューピッドの声を止めると、次の教室へ歩き出した。
次の放課。
「シエル・スタージェント嬢にギルデロイ・ロックハート様……」
「
その次の放課。
「シエル・スタージェント嬢にギル……」
「
その次の放課も……
「シエル・スタ……」
「
「ストップ、ストップ!」
どんどん呪文がエスカレートして行った私は、ついに持っていた教科書を武器にキューピッドを襲おうとした。すると、アルフィーが止めに入る。
「なぜ止めるのですか! 小人の一つや二つ、いいじゃないですか!」
「いや、駄目ですよ! というか、もう数え方が生き物じゃない!」
そんなことを話している内に、キューピッドが歌い始めてしまった。
「翡翠の瞳のー綺麗な人ー金色の髪がー風になびくー……」
((
私の呪文でキューピッドが五十メートル先に吹っ飛んだ。
「ぐはっ!!」
「む、無言呪文!?」
「ふんっ」
それからというもの、キューピッドは私を恐れて近づいて来なくなった。
地獄のバレンタインが終わり、10日間が経った。
その日はよく晴れていて、外の風も心地よさそうだ。
アルフィーとお昼ご飯を済ませ、部屋でゆっくりしていた私は、久しぶりに私は森に行くことにした。
「少し森に行って来ますね。次の授業までには帰ります」
「はい分かり……って、ダメですよ! 1人で行くには危なすぎます!」
「それでは、アルフィーも行きますか?」
「いやそういう問題じゃ……まあ、1人よりは2人の方が安全でしょう」
森に着くと早速沢山の動物達がシエルを迎えた。
ボウトラックル、二フラー、ニーズル、サラマンダーにピクシー妖精……
「あのー、シエル? あなたは森の主か何かですか?」
あまりにも集まって来た動物達が多過ぎて、思わずアルフィーはそう聞いた。しかし、シエルは意味が分からなかったのか首をかしげる。
「この森に主はいませんよ? それに、管理しているのはハグリッドです」
「いや、そうじゃなくて……」
「?」
再度首をかしげるシエルにアルフィーは理解してもらうのを諦め、違う質問をした。
「……それより、今日はなぜ森に来たのですか?」
「ああそれは、今日が
「へ?」
アルフィーは自分の耳を疑った。再度聞く。
「い、今、何と?」
「ですから、今日は
「………え?」
たっぷり三拍開けたあと、アルフィーは驚いて大声を出した。またその声に驚いた動物達が逃げて行く。
「煩いですよ、アルフィー。何を驚く事があるんですか?」
「い、いや、だって、プレゼントとか、本当になんにも……」
「そんなもの必要ありませんよ。大体、ついこの間のクリスマスにマフラーをくれましたし」
「それとこれとは、違います!! 今すぐ行って来ます! 次の放課に会いましょう」
アルフィーは早口でそう言うとこれまた早足で城の方へ去って行った。
「?」
1人になったシエルは状況が読み込めず、首をかしげた。
アルフィーがいなくなって数分が経った。私は1人、森の中を散策している。アルフィーの大声のせいで動物達は皆、巣に帰ったりしてしまったので、近くにいるのはフクロウのルーくらいだ。
少し歩くと、大きな木の下の開けた場所に出た。
「こんなところに?」
見ると、セストラルが六匹見えた。声に反応して私と視線を合わせる。
「あれ? どうしたの?」
そのセストラル達の後ろから少女の声が聞こえた。
「あなたは?」
銀髪に大きめのイヤリング、Tシャツ・ジーパンに大きめのカバンを下げた少女。彼女は私を見るなり名前を聞いた。
「シエル・スタージェントです。グリフィンドールの二年生。シエルと読んで下さい」
「あっ、もしかしてスタージェントって、
「ええ、多分ですがあなたが思っているスタージェントに違いありません」
キラキラと目を輝かせて聞く少女に私は冷たく返事をした。しかし、それにあまり効果はない。
「あっ、わたしはルーナだよ。ルーナ・ラブグッド。レイブンクローの一年生。ルーナでいいよ」
ルーナは自己紹介をすると、すぐにセストラルに体を向けた。
「ねえ、シエルはさ、この子達が見えるんだよね?」
「……はい。そう言うあなたは?」
「わたしの名前はルーナだよ!」
「えっと、ルーナは?」
名前を呼んでもらえず頬を膨らますルーナ。私が名前を呼ぶと上機嫌になった。
「もちろん。わたしはね、ママが目の前で死んだの。今でもくっきり覚えてるよ……でもね、わたしにはパパがいるから大丈夫なんだ。シエルは?」
ルーナは少しさびしそうな声でそう言った。
「私は……」
待てよ、と思った。一体私はいつ死を見たのだろう?
お父さまは? いや、この目で見た事はないから違う。お兄さまも同じく違う。お母さまは私が生まれて間もない頃になくなったはずだから違う。一体、私は誰の死を目の当たりにしたのだろうか?
「そ、そんなに深刻そうな顔しないでいいんだよ?言いたく無かったら全然言わなくてもいいから」
ルーナの声で思考から呼び戻された私は、ルーナの瞳を見てこう呟いた。
「もしかしたら、私はわたしの死を見たのかもしれません……」
私=シエル、わたし=心笑瑠。これは私にしか分からない。しかし、ルーナは特別驚いた表情も見せず、にこりと笑った。
それから2人で話していると、いつのまにか放課は終わり、授業が始まっていた。
「ルーナ、次の授業は?」
「えっと……あっ! スネイプ先生の授業だ!」
「それは、急がないと行けないですね」
「うん、じゃあ私は先に行くね。シエルも遅れないようにね、ばいばい」
ルーナはそう言うとダッシュで城へ走って行った。
ルーナと別れてから教室に向かうと、授業はもう始まっていた。静かに後ろの扉から入ろうと扉に手をかける。
その時、後ろから殺気立った何かを感じた。
「
「――ッ」
いきなり飛んで来た爆破呪文に身を躱しながら袖口から杖を出した。
「
何もない空間に私は呪文を当てる。それは空を切ることなく見えない何かに当たった。
現れたのは――
「バジリスク!」
バジリスクの眼を見れば即死は免れない。私は顔を反らし殺気を辿って杖を向けた。
『血が欲しい……血が……お前の血が……』
シャーシャーと蛇語を話しながら近づくバジリスク。私は杖は向けたまま背中を見せぬように反対側へ走り出した。
『逃げるのか! スタージェント!』
そう叫んだのはバジリスクの横にいるもう一つの殺気立った誰かだった。私は足を止める。
「貴方は……継承者ですね?」
私がそう聞くと、バジリスクの動きも止まった。
『ご名答だ、スタージェント。よくも僕の計画を邪魔してくれたね。だが、これでもう終わりだ』
「私は貴方の邪魔などしていませんが」
『惚けないでくれ。まあお前が継承者と疑われてくれたお陰で行動はしやすかったがな』
「お役に立てて光栄です」
『ちっ、もう話は終わりだ。お前にはもう消えてもらう』
「出来るものなら、ご自由に」
私は煽るようにそう言った。すると、怒りを覚えた男がバジリスクを動かす。
『『死ね!!』』
バジリスクと男の声が廊下に響いた。私は顔を伏せながら彼らに杖を向ける。
パリンッ――
バンッ――
グサッ――
3つの音が重なり合い、少し強めの風が吹いた。