ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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34.プレゼント

 パリンッ――

 バンッ――

 グサッ――

 

 3つの音が廊下に響き、その場にいた者達が飛ばされた。

 

『ぐっ……』

『シャー!!』

 

 "彼"は片膝をつき腕を押さえ、バジリスクは痛みに唸る。

 私はというと、彼らに攻撃を仕掛けつつ障壁呪文で攻撃を防いだため呪文による傷害はないが、飛ばされた衝撃によって骨にヒビをいれてしまった。

 

『……バジリスク、立て。あいつをその眼で射殺してやれ!』

『シャー!』

 

 私が治癒呪文で応急手当をしている間に、怯んでいたバジリスクが"彼"の声で立ちあがろうとする。すかさず私は呪文を唱えた。

 

フリペンド(撃て)!」

 

 バジリスクの殺意が一番強い場所である眼をピンポイントに狙い撃つ。外すことも考えて大量に魔法の弾丸を撃ち込んだ。

 予想通りほとんどの弾丸が硬い鱗に弾かれる。その中で奇跡的に眼をかする弾丸があった。

 

『ぐばっ! 眼が、眼が!』

『まさか、その距離で射抜いたと言うのか?!』

 

 直接射抜いた訳ではないために一時的に怯ませる程度だが、あのバジリスクと言えど眼が無くなればただの毒蛇。これで当分顔を伏せる必要は無くなった。私は軋む身体を無理やり起こし、伏せていた顔を上げてまっすぐと"彼"を見た。

 

「やはり、貴女でしたね。ジネブラ・ウィーズリー」

 

 私の視界には焦りを隠す様に作り笑いを貼り付けた少女、ジネブラ・ウィーズリーが映っていた。

 

『やはり、ときたか……いつ気がついた』

「説明する必要性を感じませんが?」

『小癪な……まあ、お前とはもう二度と会う事はない。最後くらいは我慢してやろう』

 

 ジネブラは顔がばれても男の声で話している。いや、正体がばれても男がジネブラの身体で話していると言った方が正確か。

 

 先ほどの騒音で誰も来ていないと言う事は、ここ一帯に人避けの呪文がかかっている。自分の怪我は肋骨一本にビビが入っている以外は無傷。相手は利き腕と眼を負傷……勝機は半々といったところか。

 

 状況を整理した私は再度"彼"を見る。"彼"は苛立ちを隠す気がないのか、私に杖を向け睨んでいた。

 

『スタージェント。僕はまず、お前の様な純血でない者が純血を偽り、スタージェント家当主の座に落ち着いている事が気に食わない』

「純血の方々が気に食わないのは百も承知です。それに、私は純血主義ではないので、自分が半純血であろうとなんの関係もないのです」

 

 私の答えに"彼"は少し驚いた。

 

『ではなぜお前は、継承者のふりをするのだ?』

「私はふりをした覚えはありません。生徒達が勝手に噂を作り、私を継承者に仕立てあげただけであって、私は何も手出しはしていません」

『お前は本当に何もしていないのだな?』

「ええ、断じて何も」

 

 開心術を使いながら私が嘘をついていない事を確認した"彼"は、少し考えると杖を下ろした。牙を剥くバジリスクも下がらせて私に近づく。私もそれに習い杖を袖口にしまった。

 

『どうやら僕は勘違いをしていた様だ、スタージェント。だがしかし、ここでそのまま君を行かせる訳にはいかない』

「……」

『ここは君に選んでもらおう。記憶を消すか、石化するか、それとも……死ぬか』

 

 "彼"は私に杖を向けにやりと笑った。私も微笑み返す。

 

「その前に一つだけいいですか?」

『なんだい? 僕は寛大だからね。話くらいは聞こう』

「ありがとうございます。

では…今流れている私の本物の噂を全て教えて下さい」

 

 少し前のある日ことだった。セブルスの自室へ向かおうと廊下を歩いていると、噂をしている生徒たちを見かけた。なんと無く気になった私は何気ない感じで彼らの話に耳を傾けようと近づいた。すると、彼らの中の誰かが私に気づき逃げてしまったのだ。それからまたある日はアルフィーと一緒に歩いていた。またもや群がって噂をする生徒たちを見かけどんなことを話しているのかと近づく。すると、今度はアルフィーが私を止め、違う方向へと歩き出したのだった。それが一回だけならまだ良かった。何度も何度も繰り返されてさすがの私も気になってしまったのだ。

 

 自分がどんな事を噂されているのか知らないままは怖い。ましてやそれを隠さなければならないほどの内容ならばなおさらだ。フィナ達が私を避ける理由もきっと噂の中にある。

 随分前から温めていた疑問が、今やっと明かされた。

 

『いいだろう。まず、君は殺人犯と言う話からだが……四年前、君はアズカバンに入れられていた』

「…四年前?」

 

 四年前と言えば、私が闇祓いを始めた年だ。確か、初任務の日に死喰い人に襲撃されて私は半年ほど眠っていた。その場にいた全員が死亡し私は奇跡的に生き残ったとか――

 不意に私の頭の中に一つの疑問が浮かび上がった。

 

 ――私は本当に半年も眠っていたの?

 

 考えてみれば確かにおかしな話だ。いくら重傷だったとはいえ、半年間も気を失うほどの傷を負う事があるのだろうか?

 もし、ここが普通の世界ならばそれくらいかかるのも無理はない。しかしここは魔法界なのだ。強力な魔法による呪いを受けるか、吸魂鬼の接吻によって廃人になる以外ならば約一ヶ月で治せるだろう。

 それにあの時、ダンブルドアは私の記憶を消したと言った。その記憶がアズカバンにいる時の記憶だとしたら?私が本当に殺人犯だとすれば?

 それなら私だけが生き残った理由も全て辻褄が合う。一つの結論が導き出された。

 

「私は忘却術で記憶を操作されている……?」

『覚えていないならば、恐らくそうだな。それに、そこまで完璧に忘れているならそれ相応の魔力を持った者が術式を行ったことになる。例えば……ダンブルドア、とか』

「嘘、でしょう?」

 

 信じたくない、信じられない。一番信頼していた、一番頼りにしていた、そんな人に嘘をつかれていた。私は思わずその場に座り込んだ。

 タイミングも悪すぎた。積もりに積もってしまったストレス。無意識の内に行っている膨大な魔力の制御による疲れ。先ほどの戦闘による身体の負傷。精神面、魔力面、体力面、その全てが低下し過ぎている今、シエルが正しい判断をできるはずがない。

 頭によぎるのはダンブルドアの優しく微笑んだ顔。その全てが今は偽りのものにしか見えない。

 

「――ッ」

 

 歯を食いしばり感情を抑える。しかし、溢れ出す負の感情は止まることを知らなかった。

 

『スタージェント、お前はどうやらダンブルドアに裏切られている様だな。まあ、僕には関係ないからね。君がどうこうしたところで僕に害はない……他の噂も聞きたいかい?』

 

 これ以上、何も知りたくない。そう思った私は首を横に振った。

 

『そうかじゃあ、そろそろお開きにしよう。記憶を消すか、石化するか、死ぬかだ。全てを失ったお前に生きる価値があるのかは分からないがな』

 

 "彼"の言葉に私ははっと我に返った。

 私は『全てを失った』訳ではない。アルフィーも、ルーナも、リーサも、フェッタも、森の動物たちも…。私の周りにはたくさんの人がいる。『少し失った』くらいで何をくじけているのだろう。

 私は思わず笑みをこぼした。

 

『何が面白い?』

「いえ、自分の馬鹿馬鹿しさに呆れただけですよ」

 

 私は馬鹿だ。本当に馬鹿だ。この話の主人公を気取って、独りよがりをして。馬鹿だ。本当に大馬鹿だ。

 

「私の中に貴方が選んだ答えはありません」

 

 私は立ち上がった。まっすぐと"彼"を見つめる。

 

 私は決めた。この先、いろいろな事が起こるだろう。危険かもしれない。死ぬかもしれない。でも、それは当たり前なのだ。いくら平和な国に暮らしていても死はいつも隣り合わせなのだから。

 私が転生した理由は分からない。だとしても、未来を変えたらいけないなんていうルールは元々存在しないのだ。

 私はまた笑った。もしかしたら今日は人生で一番楽しい誕生日になるかもしれない。"彼"は意図せず私に最高のプレゼントを与えてくれた。

 

「もし……もし、ダンブルドアさまが私を裏切っていたとしても、それとこれとは別の話。私が貴方に従う理由にはなりません。()()()()()()()、私は挫ける事はあっても、倒れる事はありません。それに貴方の敵にも味方にもなりません。それを心に止めておいてください」

 

 私は杖を出す事もせず、まっすぐに立つとポケットに手を入れた。

 

『フッ、くだらない。スタージェント家はつまらないことしか言えないのか? すまない気が変わったよ。君は今殺す。さらばだ、スタージェント。アバダ・ケダブラ(死ね)!』

 

 緑の閃光が私を貫こうと迫ってきた。私はそれに照らされた口をぐにゃりと曲げる。

 ああ、こんなにも簡単に、こんなにも容易く、こんなにもあっさりと吹っ切れるならば。『自由』を手に入れられるのならば。最初から悩む必要なんてなかった。

 

 閃光が消えるとともにシエルも跡形もなく消え去っていた。

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