ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

5 / 36
4.本家

 それから、数日後。シエルは、スタージェント家の本家に来ていた。リーサの魔法でやってきたので、外見は見ていないが、玄関を見るだけで分かる。これは、超がつく豪邸だ。

 

「お待ちしておりました。ご案内いたしますので、こちらへ」

 

 メイドが、恭しくお辞儀をし、案内を促す。連れられるままに着いていくと、リビングルームのような場所に通された。

 

「こちらへ、お座り下さい」

「ありがとう」

 

 シングルベッドくらいのサイズのソファに腰掛ける。何だか王族にでもなったみたいだ。

 ソファの感触に違和感を感じていると、メイドが紅茶を淹れてくれた。それに口をつける。なんだか気まずい雰囲気が流れていた。

 

「ええっと、まずは、自己紹介でもしましょうか」

 

 カップをテーブルに置いて、私はメイドの方を向いた。大人しそうな若い女性だ。

 

「私は、シエル・スタージェント。今はルーシェ・エンバンズと名乗っています。貴方の名前は?」

「フェッタと申します」

「フェッタさん」

「敬称は省いてくださいませ。わたくしは、ただの小間使いです」

「では、フェッタ。これから、お世話になります」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 

 また、深くお辞儀をするので、私も釣られてお辞儀した。

 

「それで……これから私はここで生活を?」

「そう、話は伺っています」

「それなら、少し案内をお願いしたいわ」

「かしこまりました。では、こちらに」

 

 そんなこんなで大豪邸探検が始まった。

 広い。とにかく広い。廊下の幅は自宅の2倍はあるし、長さは3倍くらいはあるだろうか。しかも、5階建てに屋根裏部屋がついているのだから、恐ろしい。他には中庭が2つと大きな裏庭が1つ。地下室もあるようだが、それはまたの機会にすることにした。

 こんなに広いのにどこもきちんと清掃がされていて、つい先日まで誰かが住んでいたことが伺えた。

 

「こちらは、ご当主様のお部屋になります」

 

 どうやら最後の部屋のようだ。4階の端までたどり着くと、フェッタは立ち止まりそう説明をした。

 他の部屋と変わらない扉だったが、この部屋だけは丸いドアノブをしていた。何か文字のようなものが彫刻されている。

 

「わたくしはこの部屋には入れませんので」

 

 フェッタはそう言うと、後ろへと1歩下がった。私はドアノブに手をかける。すると、ガチャリという音がした。

 

「開いた?」

 

 私はフェッタの方を見た。目が合うとこくりと頷かれる。ゆっくりとドアノブを回し、扉を開いた。

 風が吹き抜けた。

 凄く豪華な――という訳でもなく、案外質素な部屋だった。

 と言っても、部屋の広さや大きい天蓋付きのベッド、壁一面に立てられた本棚は普通ではないが。

 

「いい部屋ね」

 

 そう言いながら部屋の中を一周してみた。奥にある出窓が素敵だ。

 すとんと、ベッドに腰かけてみた。なんだか、どっと疲れが出て、眠気を誘う。私は外にいるフェッタに声をかけた。

 

「少し、休むことにします。何かあれば呼んでください」

「分かりました、失礼します」

 

 フェッタが部屋の前から去ると、1人でに扉が開いた。さっきのドアノブと言い、この部屋にはどうやら魔法がかけられているようだ。

 あとで、どんな魔法かを……

 

 そんなことを考えていると、いつの間にか私は眠ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホウ、ホウ。

 

 フクロウの鳴き声が聞こえた。

 

「うーん……ルー?」

 

 少し伸びをしながら、シエルは窓際にいるフクロウに話しかけた。外を見ると、もう真っ暗だ。ふと、フクロウの足に手紙がくくってあることに気が付いた。

 

「手紙?」

 

 そして、そのフクロウをちゃんと見ると、そこにいるのはルーではなく、大きくて灰色のフクロウだった。とりあえず紐をほどき、手紙を開く。

 

『ルシウス・マルフォイ』

 

「これは……ダンブルドアに相談ですね」

 

 中を読んだ私は、手紙をテーブルに置いた。

 

「リーサ」

 

 シュバッという音とともにリーサが現れた。

 

「お呼びでしょうか」

「ええ。ダンブルドアに手紙を書きたいの」

「少々お待ちください」

 

 リーサは一瞬消えたかと思えば、また、すぐに羊皮紙やらインクやらを持って戻ってきた。

 

「ありがとう、リーサ」

 

『ルシウス・マルフォイ氏からこのような手紙が。判断を委ねたいです』

 

 私はスラスラと羊皮紙に書くと、先程の手紙を一緒に封筒に入れた。

 

「これを、ダンブルドアに」

 

 手紙をリーサに手渡した。

 

「かしこまりました。それはそうと、お嬢様。下でフェッタさまが呼ばれておりましたよ。夕食が出来ただとか」

「分かった、今行くわ」

 

 パチンッとリーサが消えると、私も部屋を出た。

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 月明かりに照らされ、一人ため息をつく少女。

 

 その年に似合わぬ美貌と風格を持ち、誰もが魅了されることであろうその少女は、同じく美しい、月を見つめていた。だが、その少女の瞳の中に、光はない。翡翠の瞳に宿されるのは、深い闇のみ。

 

 ―――少女は、不安だった。

 

 急に、名家の当主にされ、『ご当主様』などと言われれば無理もないだろう。だが、周りの者は、当たり前のような顔をする。

 当主という重荷は、少女には抱えきれなかった。たとえ心が、子供ではないとしても。

 

 ―――ふと、涙がこぼれた。

 

 思い出すのは、『過去』。優しい兄は勿論、不仲だった父までもが、今は恋しかった。だが、過去は過去。二度と会うことはないのだ。そう考えると、少女は苦しくてたまらなかった。

 

 振り切ったはずの《孤独感》が、舞い戻ったかのように、少女の心を、魂を、蝕んでいく。無造作に手を伸ばし、助けを求めた。

 と、何かが少女の手の中に収まった。

 

「―――え?」

 

 涙で、曇った視界を拭い、恐る恐る目を開ける。すると、深紅の宝石がはめられた〝ソレ”が、手の中にあった。

 自らキラキラと輝いている。

 

 ―――大丈夫。さあ、付けてごらん?

 

 そうとでも言うように。少女は自分の目を疑った。だが、思うより先に手が動き、首につけていた。いや、つけてしまったのだ。

 そこを定位置かというように、ぴったりとおさまった“ソレ”は、また光った。

 

 ―――もう、不安なんて、消えただろう?

 

 “ソレ”の言う通り、少女から《孤独感》はいつの間にかどこかへ消え去っていた。

 

 そして、その瞬間。少女は笑った。だが、笑顔なんていう可愛いものではない。

 それは悪魔の歪んだ笑みだった。そして、悪魔は言った。

 

「―――ふっ、上等だ。やってやる」

 

 もしこの時、リーサが、ダンブルドアが、他の誰でもいい。誰かがいれば、その歪みに気が付くことができた。だが、ここにいるのは、少女と、その元凶であるペンダントのみ。

 

 

 

 

 

 誰かが言った。

 

 ―――スタージェント家は呪われている、と。

 

 それは、あながち間違いではなかった。が、呪われているのは、『家』ではなく、『当主』であり、呪ったのは、スタージェント家当主の証であるこのペンダントだった。

 どこからか現れ、呪った者の憎しみを糧として生き、用が済めば、消えていく。

 しかし、ペンダントは初めて過ちを犯した。

 

 呪ったのは当主(シエル)のみであり、過去(心笑留)は、呪われていない。いや、正確には呪えなかったのだ。

だが、ペンダントが気づくのはもう少し後の話。今は、呪いをかけた時点で、ペンダントは時が来るまでと、静かに眠っていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。