ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
それから、数日後。シエルは、スタージェント家の本家に来ていた。リーサの魔法でやってきたので、外見は見ていないが、玄関を見るだけで分かる。これは、超がつく豪邸だ。
「お待ちしておりました。ご案内いたしますので、こちらへ」
メイドが、恭しくお辞儀をし、案内を促す。連れられるままに着いていくと、リビングルームのような場所に通された。
「こちらへ、お座り下さい」
「ありがとう」
シングルベッドくらいのサイズのソファに腰掛ける。何だか王族にでもなったみたいだ。
ソファの感触に違和感を感じていると、メイドが紅茶を淹れてくれた。それに口をつける。なんだか気まずい雰囲気が流れていた。
「ええっと、まずは、自己紹介でもしましょうか」
カップをテーブルに置いて、私はメイドの方を向いた。大人しそうな若い女性だ。
「私は、シエル・スタージェント。今はルーシェ・エンバンズと名乗っています。貴方の名前は?」
「フェッタと申します」
「フェッタさん」
「敬称は省いてくださいませ。わたくしは、ただの小間使いです」
「では、フェッタ。これから、お世話になります」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
また、深くお辞儀をするので、私も釣られてお辞儀した。
「それで……これから私はここで生活を?」
「そう、話は伺っています」
「それなら、少し案内をお願いしたいわ」
「かしこまりました。では、こちらに」
そんなこんなで大豪邸探検が始まった。
広い。とにかく広い。廊下の幅は自宅の2倍はあるし、長さは3倍くらいはあるだろうか。しかも、5階建てに屋根裏部屋がついているのだから、恐ろしい。他には中庭が2つと大きな裏庭が1つ。地下室もあるようだが、それはまたの機会にすることにした。
こんなに広いのにどこもきちんと清掃がされていて、つい先日まで誰かが住んでいたことが伺えた。
「こちらは、ご当主様のお部屋になります」
どうやら最後の部屋のようだ。4階の端までたどり着くと、フェッタは立ち止まりそう説明をした。
他の部屋と変わらない扉だったが、この部屋だけは丸いドアノブをしていた。何か文字のようなものが彫刻されている。
「わたくしはこの部屋には入れませんので」
フェッタはそう言うと、後ろへと1歩下がった。私はドアノブに手をかける。すると、ガチャリという音がした。
「開いた?」
私はフェッタの方を見た。目が合うとこくりと頷かれる。ゆっくりとドアノブを回し、扉を開いた。
風が吹き抜けた。
凄く豪華な――という訳でもなく、案外質素な部屋だった。
と言っても、部屋の広さや大きい天蓋付きのベッド、壁一面に立てられた本棚は普通ではないが。
「いい部屋ね」
そう言いながら部屋の中を一周してみた。奥にある出窓が素敵だ。
すとんと、ベッドに腰かけてみた。なんだか、どっと疲れが出て、眠気を誘う。私は外にいるフェッタに声をかけた。
「少し、休むことにします。何かあれば呼んでください」
「分かりました、失礼します」
フェッタが部屋の前から去ると、1人でに扉が開いた。さっきのドアノブと言い、この部屋にはどうやら魔法がかけられているようだ。
あとで、どんな魔法かを……
そんなことを考えていると、いつの間にか私は眠ってしまっていた。
ホウ、ホウ。
フクロウの鳴き声が聞こえた。
「うーん……ルー?」
少し伸びをしながら、シエルは窓際にいるフクロウに話しかけた。外を見ると、もう真っ暗だ。ふと、フクロウの足に手紙がくくってあることに気が付いた。
「手紙?」
そして、そのフクロウをちゃんと見ると、そこにいるのはルーではなく、大きくて灰色のフクロウだった。とりあえず紐をほどき、手紙を開く。
『ルシウス・マルフォイ』
「これは……ダンブルドアに相談ですね」
中を読んだ私は、手紙をテーブルに置いた。
「リーサ」
シュバッという音とともにリーサが現れた。
「お呼びでしょうか」
「ええ。ダンブルドアに手紙を書きたいの」
「少々お待ちください」
リーサは一瞬消えたかと思えば、また、すぐに羊皮紙やらインクやらを持って戻ってきた。
「ありがとう、リーサ」
『ルシウス・マルフォイ氏からこのような手紙が。判断を委ねたいです』
私はスラスラと羊皮紙に書くと、先程の手紙を一緒に封筒に入れた。
「これを、ダンブルドアに」
手紙をリーサに手渡した。
「かしこまりました。それはそうと、お嬢様。下でフェッタさまが呼ばれておりましたよ。夕食が出来ただとか」
「分かった、今行くわ」
パチンッとリーサが消えると、私も部屋を出た。
月明かりに照らされ、一人ため息をつく少女。
その年に似合わぬ美貌と風格を持ち、誰もが魅了されることであろうその少女は、同じく美しい、月を見つめていた。だが、その少女の瞳の中に、光はない。翡翠の瞳に宿されるのは、深い闇のみ。
―――少女は、不安だった。
急に、名家の当主にされ、『ご当主様』などと言われれば無理もないだろう。だが、周りの者は、当たり前のような顔をする。
当主という重荷は、少女には抱えきれなかった。たとえ心が、子供ではないとしても。
―――ふと、涙がこぼれた。
思い出すのは、『過去』。優しい兄は勿論、不仲だった父までもが、今は恋しかった。だが、過去は過去。二度と会うことはないのだ。そう考えると、少女は苦しくてたまらなかった。
振り切ったはずの《孤独感》が、舞い戻ったかのように、少女の心を、魂を、蝕んでいく。無造作に手を伸ばし、助けを求めた。
と、何かが少女の手の中に収まった。
「―――え?」
涙で、曇った視界を拭い、恐る恐る目を開ける。すると、深紅の宝石がはめられた〝ソレ”が、手の中にあった。
自らキラキラと輝いている。
―――大丈夫。さあ、付けてごらん?
そうとでも言うように。少女は自分の目を疑った。だが、思うより先に手が動き、首につけていた。いや、つけてしまったのだ。
そこを定位置かというように、ぴったりとおさまった“ソレ”は、また光った。
―――もう、不安なんて、消えただろう?
“ソレ”の言う通り、少女から《孤独感》はいつの間にかどこかへ消え去っていた。
そして、その瞬間。少女は笑った。だが、笑顔なんていう可愛いものではない。
それは悪魔の歪んだ笑みだった。そして、悪魔は言った。
「―――ふっ、上等だ。やってやる」
もしこの時、リーサが、ダンブルドアが、他の誰でもいい。誰かがいれば、その歪みに気が付くことができた。だが、ここにいるのは、少女と、その元凶であるペンダントのみ。
誰かが言った。
―――スタージェント家は呪われている、と。
それは、あながち間違いではなかった。が、呪われているのは、『家』ではなく、『当主』であり、呪ったのは、スタージェント家当主の証であるこのペンダントだった。
どこからか現れ、呪った者の憎しみを糧として生き、用が済めば、消えていく。
しかし、ペンダントは初めて過ちを犯した。
呪ったのは
だが、ペンダントが気づくのはもう少し後の話。今は、呪いをかけた時点で、ペンダントは時が来るまでと、静かに眠っていった。