ハリー・ポッターと金銀の少女 作:Riena
きらびやかな衣装を纏う人々で賑わうパーティー会場。皆、談笑という名の気の張り合いをし、ほとんど気疲れパーティーと化している。
私はそんなパーティーに出席しているのだが、子供達の輪に入ることも、大人達の輪に入ることも出来ず、一人窓際で暇を持て余していた。
1週間前。
私はルシウス・マルフォイから手紙でパーティーへの誘いを受けていた。流石、純血の名家と言うべきか、耳が早くて困る。
個人的にはパーティーだなんて柄ではないし、何よりも面倒そうだし、すぐにでも拒否したかった。が、そういったものが届いた場合には、報告するようにとダンブルドアに言われていたので、仕方なく連絡を入れたのだ。
すると、帰ってきた答えは『参加してみてはどうかね?』と意外な答えだった。
命を狙われているのに参加しろだなんて、おかしな話だ。それに、マルフォイ家は元死喰い人なのだから、ダンブルドアとは敵のはずなのに。
そう思いながらも、反論することも出来ず、私は承諾の手紙を出した。
それから数日後、マルフォイ家にお邪魔することになり、お茶を飲みながら親睦を深め――緊張で何を話したのか記憶にないが――今日はパーティー当日というわけだ。
ただ、もちろんの事だが、正体がバレては困るので、こうして隅っこでちびちびとジュースを飲んでいるのだ。
さすがに、このまま何もしないのは勿体ない。そう思った私は、適当なウェイトレスにグラスを授けて、ルシウスを探すことにした。
「こちらにいらっしゃいましたか、シエル嬢。よろしければ、こちらをどうぞ」
会場を半周したところで、突然後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはルシウスが、グラスを持って立っている。
「ありがとう、ルシウス」
私はグラスを受け取る。ふわりと笑って見せると、ルシウスと目が合った。
――
「ルシウス? 私の顔に何か付いているの?」
あまりにも長くじっと見つめられるもので、私は首を傾げた。ルシウスは横に首を振る。
「いえ、大丈夫ですよ」
「そう。ならいいのだけれど」
ふと、そういえばと思い出した。パーティーに行く前に、ダンブルドアにやってこいと言われたことがあったんだった。
「そうだ、ルシウス」
「なんでしょうか?」
「良ければ、私を紹介してもらえないかしら? スタージェント家の当主として」
その言葉にルシウスが相当驚いた顔を見せた。
無理もない。私はつい先日、ルシウスに私の正体のことを隠すようにと話したばかりなのだ。
「宜しいのですか?」
宜しくないです。全くもって宜しくありません。
一体全体どういう風の吹き回しで、この社交の場で私が挨拶をせねばならないというのか。
というか、大体、私が護られる立場にあるといったのは、ダンブルドアではなかっただろうか。ダンブルドアが父の意思に沿ってそうしているとしても、父親だって私を守ろうと、保護できる環境を準備していたのではないだうか。
それなのに、ダンブルドアは『スタージェント家の社会復帰じゃのう』とか何とか言って、ふぉっふぉっふぉっと朗らかに笑うものだから、私はとうとう考えるのを辞めた。
「ええ、お願いします」
私は、過去一くらいの作り笑いでそう言った。ルシウスはまだ驚いているようだったが、かしこまりました、と言って会場の中央へ行ってしまった。
しばらくして、チンッとグラスをスプーンで叩く音が聞こえた。その音に、流れていた音楽が止まり、客の目が一気に中央に立つ、ルシウスの方へ向いた。
「本日はお集り頂き、ありがとうございます。毎年、開催しておりますこのパーティーですが、本日は特別な、ゲストをお呼び致しました。では、こちらへ」
「特別?」「そんなに凄い人なのかしら?」などと、会場がざわつく。客同士顔を見合わせる者もいた。
集中しないと。この数週間でフェッタに教え込まれた“当主”としての振る舞いを発揮するのは、今しかないのだ。
――思う存分、演じなくては。
私はひとつ息を吐いて、歩き出した。
コツ、コツ――
低めのヒールが大理石の床を鳴らす。
コツ、コツ、コツ――
徐々に会場のざわめきが収まり、足音の方へ視線が集まっていく。
コツ、コツ、コツ、コツ――
ルシウスの横に少女が立つ。
――誰もが、息を呑んだ。
会場全体を覆い尽くす、圧迫感。まるで、金縛りにあったかの様な感覚。たった一人の少女が、ここにいる何百人の人々を、ただ歩くだけで支配し尽くしている。
ルシウスは、身震いをした。
先程の愛らしい少女の面影はどこへ行ってしまったというのか。顔つき、振る舞い、その全てが洗練されている。
死喰い人として、『例のあの人』の恐ろしさに耐えてきた自分が、たった一人の少女に動くことさえ、制されている。
そして、空気が揺れた。
「私は、シエル・スタージェント。スタージェント家の新たな当主であります」
静寂の中、凛と話すその姿が"誰か"と重なる。その誰かを思い出すより先に、少女の声が響いた。
「私はここで、スタージェント家に起こった真実を語る気はありません。ただ――年齢故に問題視されることも少なからずあることでしょう。ですから、この私が当主であるという事実は、記憶の中に留めるよう、この場にいる全員に
少女は美しく笑みを浮かべると、それを合図にゆったりとした音楽が流れ始めた。
徐々に喧騒が戻ってゆく。
視線を外された少女は靴音を響かせて脇の方へ去っていった。
端の方まで歩いて、一息つこうと思ったところに、シエルはたくさんの大人達に囲まれていた。
「スタージェント殿は、どこにお住まいで?」
「それは……」
「スタージェント嬢、お美しゅうございます」
「ありがとう」
「スタージェント殿――」
「はい」
「スタージェント様――」
「ええ、そうですね」
そろそろ頭が限界を迎えそうになっていた。とその時。客の間を縫って、白髪の少年が現れる。
「おい、そこの令嬢。このパーティーの主催者の息子である僕、ドラコ・マルフォイよりも、客を集めているとはどういうことだ?」
どうやら、私が
いつもの私なら、
「"おい"ですって? 言葉遣いには、気を付けた方がよろしいのでは? ドラコ・マルフォイ」
最後の部分を強調し、シエルは威圧するように言った。
「な、呼び捨てにするな! 僕の父上は、お偉いお方なんだぞ! それに僕はマルフォイ家の次期当主だ!」
「そうですか……あの
「な、なに! 父上まで呼び捨てにするな! お前こそなんなんだよ! 偉そうな口、聞くな!」
そんなことを言い合っていると、ルシウスが近くに来るのが見えた。
――面白い。
シエルは、不敵な笑みをドラコ向ける。
「
少し声が大きくなる。周りにいた客もざわめき始めた。
「お前こそなんなんだよ!!」
ドラコがキレた。お子様の喧嘩なら、間に誰か入るだろう。だか、少なくとも片方はお子様ではない。周りの客は、『触らぬ神に祟りなし』状態である。
「……愚か者。私をなんだとおもっているのだ!」
「どこの令嬢かしらないが、調子に乗るんじゃ…
…」
「馬鹿者!!!」
ドラコが言い終わらない内に、ルシウスが、罵声を上げた。
「父上?! そうだ。こいつは、父上のことも侮辱していました! それに……」
ルシウスに言いつけようとしているドラコを傍目に、ルシウスが深く、深く頭を下げた。
「うちの馬鹿息子が、ご無礼を。申し訳ございません!」
――会場なしんと静かになった。
状況を把握している、周りの客は背筋が凍るのを感じた。
殺される―――
それ程の殺気を、一人の少女が発していた。こうべを垂らす2人を交互に見下してから、シエルは口を開いた。今にも、「腹を切って自害しろ」などと、言いそうな雰囲気である。
「ルシウス。貴方の息子は少し教育が必要なようですね。恥を知った方が良いかと」
最後の言葉が、会場中に響き渡った。同時に、会場の端の方の客まで
「ッ誠に申し訳ございませんでした」
ルシウスが先程よりも、深くこうべを垂らす。それを見たドラコはやっと状況が把握できたらしく、顔を真っ青にしていた。
「貴方に免じて、今のことは忘れましょう」
「ありがとうございます」
「それとドラコ」
「は、はい……!」
怖気づき、答えたドラコは、鋭い眼差し――殺意を向けられ身震いをした。
「私の名前はシエル・スタージェントだ。よく、覚えておきなさい。ルシウス。私は帰ります。では、また」
「はっ」
そう言ったシエルの眼に光はなく、胸元の深紅のペンダントだけが輝いていた。
――素晴らしい。