ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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5.パーティー

 きらびやかな衣装を纏う人々で賑わうパーティー会場。皆、談笑という名の気の張り合いをし、ほとんど気疲れパーティーと化している。

私はそんなパーティーに出席しているのだが、子供達の輪に入ることも、大人達の輪に入ることも出来ず、一人窓際で暇を持て余していた。

 

 1週間前。

 私はルシウス・マルフォイから手紙でパーティーへの誘いを受けていた。流石、純血の名家と言うべきか、耳が早くて困る。

 個人的にはパーティーだなんて柄ではないし、何よりも面倒そうだし、すぐにでも拒否したかった。が、そういったものが届いた場合には、報告するようにとダンブルドアに言われていたので、仕方なく連絡を入れたのだ。

 すると、帰ってきた答えは『参加してみてはどうかね?』と意外な答えだった。

  命を狙われているのに参加しろだなんて、おかしな話だ。それに、マルフォイ家は元死喰い人なのだから、ダンブルドアとは敵のはずなのに。

 そう思いながらも、反論することも出来ず、私は承諾の手紙を出した。

 それから数日後、マルフォイ家にお邪魔することになり、お茶を飲みながら親睦を深め――緊張で何を話したのか記憶にないが――今日はパーティー当日というわけだ。

 ただ、もちろんの事だが、正体がバレては困るので、こうして隅っこでちびちびとジュースを飲んでいるのだ。

 さすがに、このまま何もしないのは勿体ない。そう思った私は、適当なウェイトレスにグラスを授けて、ルシウスを探すことにした。

 

「こちらにいらっしゃいましたか、シエル嬢。よろしければ、こちらをどうぞ」

 

 会場を半周したところで、突然後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはルシウスが、グラスを持って立っている。

 ()の印象では、ルシウス・マルフォイという男は冷徹で残酷なイメージだった。しかし、見れば分かる。これは、愛ある父の顔だ。初対面の時も凄く優しくて、本当にこの人がマルフォイ? と驚いたものだ。

 

「ありがとう、ルシウス」

 

 私はグラスを受け取る。ふわりと笑って見せると、ルシウスと目が合った。

 

 ――()()に翡翠の瞳。黒を基調としたドレスを纏い、深紅のペンダントを着けた少女。

 

「ルシウス? 私の顔に何か付いているの?」

 

 あまりにも長くじっと見つめられるもので、私は首を傾げた。ルシウスは横に首を振る。

 

「いえ、大丈夫ですよ」

「そう。ならいいのだけれど」

 

 ふと、そういえばと思い出した。パーティーに行く前に、ダンブルドアにやってこいと言われたことがあったんだった。

 

「そうだ、ルシウス」

「なんでしょうか?」

「良ければ、私を紹介してもらえないかしら? スタージェント家の当主として」

 

 その言葉にルシウスが相当驚いた顔を見せた。

 無理もない。私はつい先日、ルシウスに私の正体のことを隠すようにと話したばかりなのだ。

 

「宜しいのですか?」

 

 宜しくないです。全くもって宜しくありません。

 一体全体どういう風の吹き回しで、この社交の場で私が挨拶をせねばならないというのか。

 というか、大体、私が護られる立場にあるといったのは、ダンブルドアではなかっただろうか。ダンブルドアが父の意思に沿ってそうしているとしても、父親だって私を守ろうと、保護できる環境を準備していたのではないだうか。

 それなのに、ダンブルドアは『スタージェント家の社会復帰じゃのう』とか何とか言って、ふぉっふぉっふぉっと朗らかに笑うものだから、私はとうとう考えるのを辞めた。

 

「ええ、お願いします」

 

 私は、過去一くらいの作り笑いでそう言った。ルシウスはまだ驚いているようだったが、かしこまりました、と言って会場の中央へ行ってしまった。

 

 しばらくして、チンッとグラスをスプーンで叩く音が聞こえた。その音に、流れていた音楽が止まり、客の目が一気に中央に立つ、ルシウスの方へ向いた。

 

「本日はお集り頂き、ありがとうございます。毎年、開催しておりますこのパーティーですが、本日は特別な、ゲストをお呼び致しました。では、こちらへ」

 

 「特別?」「そんなに凄い人なのかしら?」などと、会場がざわつく。客同士顔を見合わせる者もいた。

 集中しないと。この数週間でフェッタに教え込まれた“当主”としての振る舞いを発揮するのは、今しかないのだ。

 

 ――思う存分、演じなくては。

 

 私はひとつ息を吐いて、歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツ、コツ――

 

 低めのヒールが大理石の床を鳴らす。

 

 コツ、コツ、コツ――

 

 徐々に会場のざわめきが収まり、足音の方へ視線が集まっていく。

 

 コツ、コツ、コツ、コツ――

 

 ルシウスの横に少女が立つ。

 

 

 ――誰もが、息を呑んだ。

 

 

 会場全体を覆い尽くす、圧迫感。まるで、金縛りにあったかの様な感覚。たった一人の少女が、ここにいる何百人の人々を、ただ歩くだけで支配し尽くしている。

 

 ルシウスは、身震いをした。

 先程の愛らしい少女の面影はどこへ行ってしまったというのか。顔つき、振る舞い、その全てが洗練されている。

 死喰い人として、『例のあの人』の恐ろしさに耐えてきた自分が、たった一人の少女に動くことさえ、制されている。

 

 

 そして、空気が揺れた。

 

 

「私は、シエル・スタージェント。スタージェント家の新たな当主であります」

 

 静寂の中、凛と話すその姿が"誰か"と重なる。その誰かを思い出すより先に、少女の声が響いた。

 

「私はここで、スタージェント家に起こった真実を語る気はありません。ただ――年齢故に問題視されることも少なからずあることでしょう。ですから、この私が当主であるという事実は、記憶の中に留めるよう、この場にいる全員に()()()()。それでは、この後もお楽しみください」

 

 少女は美しく笑みを浮かべると、それを合図にゆったりとした音楽が流れ始めた。

 徐々に喧騒が戻ってゆく。

 視線を外された少女は靴音を響かせて脇の方へ去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 端の方まで歩いて、一息つこうと思ったところに、シエルはたくさんの大人達に囲まれていた。

 

「スタージェント殿は、どこにお住まいで?」

「それは……」

「スタージェント嬢、お美しゅうございます」

「ありがとう」

「スタージェント殿――」

「はい」

「スタージェント様――」

「ええ、そうですね」

 

 そろそろ頭が限界を迎えそうになっていた。とその時。客の間を縫って、白髪の少年が現れる。

 

「おい、そこの令嬢。このパーティーの主催者の息子である僕、ドラコ・マルフォイよりも、客を集めているとはどういうことだ?」

 

 どうやら、私が()()知らないらしい。先程の話を聞いていなかったのだろうか。

 いつもの私なら、()()()()に出会えて、喜ぶところなのだが、今は相当疲れている。緊張やら気疲れやらで情緒がめちゃくちゃだ。よって、その言葉はシエルの神経を逆撫でにした。

 

「"おい"ですって? 言葉遣いには、気を付けた方がよろしいのでは? ドラコ・マルフォイ」

 

 最後の部分を強調し、シエルは威圧するように言った。

 

「な、呼び捨てにするな! 僕の父上は、お偉いお方なんだぞ! それに僕はマルフォイ家の次期当主だ!」

「そうですか……あの()()()()の息子がこれほどの愚か者だったとは。マルフォイ家の()()ですね。残念です」

「な、なに! 父上まで呼び捨てにするな! お前こそなんなんだよ! 偉そうな口、聞くな!」

 

 そんなことを言い合っていると、ルシウスが近くに来るのが見えた。

 

 ――面白い。

 

 シエルは、不敵な笑みをドラコ向ける。

 

()()? 貴方は一体、誰に口を聞いていると思っているのです?」

 

 少し声が大きくなる。周りにいた客もざわめき始めた。

 

「お前こそなんなんだよ!!」

 

 ドラコがキレた。お子様の喧嘩なら、間に誰か入るだろう。だか、少なくとも片方はお子様ではない。周りの客は、『触らぬ神に祟りなし』状態である。

 

「……愚か者。私をなんだとおもっているのだ!」

「どこの令嬢かしらないが、調子に乗るんじゃ…

…」

 

「馬鹿者!!!」

 

 ドラコが言い終わらない内に、ルシウスが、罵声を上げた。

 

「父上?! そうだ。こいつは、父上のことも侮辱していました! それに……」

 

 ルシウスに言いつけようとしているドラコを傍目に、ルシウスが深く、深く頭を下げた。

 

「うちの馬鹿息子が、ご無礼を。申し訳ございません!」

 

 ――会場なしんと静かになった。

 

 状況を把握している、周りの客は背筋が凍るのを感じた。

 

 殺される―――

 

 それ程の殺気を、一人の少女が発していた。こうべを垂らす2人を交互に見下してから、シエルは口を開いた。今にも、「腹を切って自害しろ」などと、言いそうな雰囲気である。

 

「ルシウス。貴方の息子は少し教育が必要なようですね。恥を知った方が良いかと」

 

 最後の言葉が、会場中に響き渡った。同時に、会場の端の方の客まで(こお)りつく否、()てついていた。

 

「ッ誠に申し訳ございませんでした」

 

 ルシウスが先程よりも、深くこうべを垂らす。それを見たドラコはやっと状況が把握できたらしく、顔を真っ青にしていた。

 

「貴方に免じて、今のことは忘れましょう」

「ありがとうございます」

「それとドラコ」

「は、はい……!」

 

 怖気づき、答えたドラコは、鋭い眼差し――殺意を向けられ身震いをした。

 

「私の名前はシエル・スタージェントだ。よく、覚えておきなさい。ルシウス。私は帰ります。では、また」

「はっ」

 

 そう言ったシエルの眼に光はなく、胸元の深紅のペンダントだけが輝いていた。

 

 

 ――素晴らしい。

 

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