ハリー・ポッターと金銀の少女   作:Riena

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6.魔法省

 クリスマスが終わり、一週間が経った。

 まだまだクリスマスの熱の冷めない街で、私は一人歩いていた。

 今日の行き先は魔法省。

 少し歩くと、人気のない路地に入った。古びた電話ボックスがぽつんと置いてある。周りに誰もいない事を確認し、中に入ると、マグルのお金を入れて順番に番号を押していく。最後のボタンを押すと、まるでエレベーターのように動きだし――

 

「いらっしゃいませ、シエル・スタージェント様」

 

 私は魔法省へと迎えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 魔法省に着くと、私は地下一階にある魔法大臣室へ向かった。『大臣』と書かれたドアの前で深呼吸をする。私がノックしようとすると、先にドアが開いた。

 

「よく来てくれた、スタージェント殿。さあさあどうぞ。そこに掛けてくれ」

 

 いきなりの登場に少し驚いたが、私は表情は崩さず中に入った。

 

「私は、魔法大臣のコーネリウス・ファッジだ」

「初めまして、大臣。私は……」

「いえいえ、存じておりますぞ。シエル・スタージェント殿」

「そうですか。それで、わざわざ呼び出してまでする話とはなんです?」

「ははは、申し訳ない。スタージェント殿も、お忙しいですな。それでは、長話は控える事にしましょう」

 

 少し威圧的に言ってみたのだが、さすがは魔法大臣と言うべきか。朗らかに笑って見せた。

 ちなみに、呼び出された内容は、大臣からの手紙に事細かに書かれていたので知ってはいる。それでも、わざと私は聞いた。

 コホンと、咳払いをした大臣は真剣なまなざしで、私を見る。そして口を開いた。

 

「今、世間でスタージェント殿は、偽物だなんだと、噂されているのはご存知かね?」

「ええ、勿論。ご丁寧にそれに関する記事や資料まで送ってくださったので」

「その原因もご承知で?」

「スタージェント家の復活が囁かれているのにもかかわらず、当主は表舞台に出ず、こうして身を隠しているから、ですかね」

「その通りでございます。もし、スタージェント殿は、偽物だったと思われては、どうなるかわかりますな?」

「そうですね……スタージェント家の莫大な資産を目当てに紛争が起こる?」

「その通り。そうなっては、もう取り返しが付かない。そこで、スタージェント殿に仕事をしていただく事になった」

 

 私は顔をしかめた。どうやら魔法省は私を、早い内に()()にしておきたいらしい。

 

「分かりました。ですが、条件があります」

「条件ですか」

「ええ。私はこの通り、まだ子供。しかも、魔法の使用も容易に出来ません。そこで、私の歳を公表しない事。『臭い』を消す事。この二つを条件を承諾していただければ、どんな仕事でも受けましょう」

「……承諾しましょう」

「ありがとう」

「では、早速ですが闇祓い局に行っていただきたい」

「闇祓い局? 私を闇祓いと共に働かせるつもりですか?」

「どんな仕事でも受けると仰ったのはスタージェント殿では?」

 

 にこにこと笑みを絶やさない大臣を睨みつけそうになった。魔法省は、あわよくば私を殺すつもりなのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大臣と別れた私はそのままの足で闇祓い局に来た。茶髪黒眼で、明るそうな女性が私を迎えてくらる。

 

「あなたがスタージェントさん?」

 

 弾んだ声でそう聞く彼女は、どこか懐かしい感じがした。

 

「ええ、そうです。貴方は?」

「私は、新人の教育係をしているの。ソードって呼んでくれればいいわ」

「では、ソード。これから世話になるわ。私の事は好きに呼んでくれて構いません」

「じゃあ、シエルね! 局長から聞いていたけれど、まさか本当に子供がスタージェント家のご当主様だなんて」

「その件は触れないでいただけると……」

「それは失礼。それじゃあ、初めは訓練からよ。ついて来て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、ソード。8年前に子供が生まれ、子育ての為に闇祓いを退職。今は、魔法事故惨事部の闇祓い教育係に勤めている。自分で言うのはどうかと思うが、闇祓いの中でもトップレベルで、何度も死喰い人と闘った実績がある。

 

 そんな私は今、たった一人の少女の殺気に晒され、身震いしていた。

 

 一週間前、局長に『新人は、スタージェント家の当主だが、まだ8才だ』と聞き、正直私は、見くびっていた。だが、そのたった8才の少女が、ただ、立っているだけなのにも関わらず、空気までも支配しているのだ。身震いするのも無理はないだろう。

 ただの模擬戦だったはずが、雰囲気だけなら、これはもう殺し合いに近い。少女の相手役である男性は、完全に凍てついてしまっていた。

 

 

「? 何をしているんです? 早くやりましょう?」

 

 その声で、フリーズしていた私は我に返る。

 

「で、では、いいわね?」

 

 両者、互いに頷き杖を構える。少女は手に持っているだけだ。

 

「そ、それでは、よーい……始め!」

 

「エクス……」

 

 シュッ――

 バタッ――

 

 

 呪文を唱えるより早く、相手が倒れた。少女はというと、先程の位置からピクリとも動いていない。そして顔には、不敵な笑み。

 

 ――瞬殺――

 

そんな言葉がふと頭に浮かぶ。私は、もう一度身震いした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「? 何をしているんです? 早くやりましょう?」

 

 先程から突っ立っているソードに、私は声を掛けた。

 

「で、では、いいわね?」

 

 戸惑うように言うソード。なぜ動揺しているのか分からないが、今は集中だ。杖を持ち、頷く。

 

「そ、それでは、よーい……始め!」

 

((ステューピファイ(麻痺せよ)!))

 

 わざわざ声に出すまでもない。そう思ったシエルは、無言呪文で対応した。また、呪文を悟られないために動きは最小限に抑えた。

 

 明らかに実戦を想定し、どれだけ相手に隙を見せない様にするかを瞬時に考え、行動するシエル。

 

「エクス……」

 

 シュッ――

 バタッ――

 

 シエルは、にやりと笑った。

 

 確実的な"実力の差"。勝敗は、始まる前からついていたと言っても過言ではない。

 

 キラキラとペンダントが光る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訓練人形に向かい杖を構え直す。私は呪文を唱えた。

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

 バンッ――

 

 爆発音に似た破壊音。同時に訓練人形が吹き飛んだ。

 

「し、シエル?! 何体壊したら気が済むの?」

 

 え? いくらでも。

 内心そんなことを考えてしまったが、それを言うとさすがにソードにキレられそうなのでやめておいた。

 

「スミマセン。制御が上手く出来なくて……」

「そんな棒読みの謝罪、受け入れないわよ!! 上手く魔法を使えているのは結構よ。けれど、威力をもう少し考えなさい。それを人に向けたら、武装解除(エクスペリアームズ)じゃなくて死の呪文(アバダ・ケ・ダブラ)になるわ!」

 

 闇祓い局の訓練場にて、ソードと共に私は訓練をしていた。

 しかし、こんな感じで先程から魔法を唱えては壊し怒られ謝り、唱えては壊し怒られ謝り……。そろそろ、ソードも怒りから呆れへと変わりつつあった。

 と言っても始めてからまだ数時間。こんな風に誰かと一緒に練習するのは初めてで、なんだか嬉しい気持ちだ。

 

「もっと杖先に魔力を集めて、最小限に抑えてみて。あと……」

 

 ソードがああだこうだと色々とアドバイスをしている。私は全く聞く気になれなかった。

 人に向けたら勝手に威力抑えられるもん。人形だからだもん。

 

「じゃあ、もう一度。武装解除をやってちょうだい」

「あの、もうそろそろやめませんか?」

 

 タイミングが悪く、かぶってしまった。

 あ、やばい。

 ソードがぷるぷると震え出したかと思えば、すごい剣幕で怒り始めた。

 

「シエル、ちょっとは反省しなさい! 子供だからって容赦はしないわよ! リスタスセンプラ(笑い続けよ)!!」

「ぷ、プロテゴ(護れ)!!」

 

 マジで容赦しないなこの人!!

 

 その後、1時間にも及び死闘(説教)が繰り広げられた。

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、さんざんに怒られたシエルは少しは心を改めることにした。

 

 ガッシャーン――

 

 前言撤回。

 粉々に吹き飛ぶ人形。ソードはため息をついた。

 

「昨日あれだけ言ったのに、また壊したの? 学習能力が無いの?」

「ガクシュウノウリョクって何ですか? ワタシ、まだ8さいデスヨ?」

「は?」

「コホン、すみません。少しふざけてしまいました。それで、修正点はどこでしょうか?」

「はあ、切り替えの早いこと……まあいいわ。シエルの欠点は、魔力の無駄遣いね。それと、いやこれ以上は言わないわ」

 

 改めたのは、どうやらソードの方だった。

 

「では、いきます………エクスペリアームス(武器よ去れ)

 

 ガシャーン――

 

 今度は人形が大破……ではなく、後ろに吹っ飛んだ。そのまま壁にぶつかって人形はバラバラになる。

 

「ソード、やりましたよ! 威力抑えられました!!」

「シエル……」

 

 見ると、ソードは呆れた顔で私の方を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、1カ月後。

 

エクスペリアームス(武器よ去れ)!」

 

 シエルの呪文により、人形の()()()が吹き飛んだ。

 

「うん、上出来ね」

「ありがとうございます。あの……そろそろ次のステップにいきませんか?」

「そうね。じゃあ、治癒呪文にいきましょうか」

「治癒呪文? それなら、練習しなくても」

「そうと決まったら、早く始めましょうか」

 

 シエルの言葉を遮って、ソードは満面の笑みを向ける。

 

 この1ヶ月でシエルとソードは仲が良くなっていた。それもそのはず、毎日のように訓練を重ね、怒り怒られ、お互いのことも分かり合い始めていた。

 けれど、二人は気づけなかった。

 シエルのペンダントが徐々に輝きを取り戻していることに。

 

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