やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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 一話の時点でお気に入りがろ……ろくじゅっけん……あわわわ。
 思わずひらがなになってしまいました。まだヒロインも登場してないのに……。 なんだかありがたいやら申し訳ないやら……。
 感想も頂き、天にも登る気持ちです。本当に皆さんありがとうございます。


第2話 青天の霹靂を絵に描いたような一日

 無事、退院出来たのは良かったのだが、すでに入学式から三週間という時が流れてしまっている。そのまま学校に行こうにもゴールデンウィークという長期休暇を挟むため。学校とも相談し、通学はゴールデンウィーク明けからにすることにした。

 今すぐ留年などという事にはならないが、ほぼ一ヶ月休学しているというのは大きなハンデを背負う事になる。新生活でのぼっち脱却を夢見た俺はもはや虫の息だ。

 

 ならばせめて休み明けに行われるであろうテストで、上位に入り、存在感をアピールする作戦を決行しようと、このゴールデンウィークはそれなりに勉学に励んでいた。

 病み上がりの俺を残し、揃って連日出かけていく小町にもマケズ両親にもマケズ。ただひたすら引きこもる、そういう八幡に俺はなる! あれ? なんか混ざったな? 少し休憩がてらコンビニでも行くか、ありったけの小銭かき集め探し物を探しに行くのさマッ缶。

 

 そして迎えたゴールデンウィーク最終日、なにかつまめる物でもないかとスマホ片手に一階へ降りた俺は何やらニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべる小町に捕まった。てっきり今日も出かけてるのかと思ってたわ。

 

「お兄ちゃん。一色さん退院したんだって、お祝いにこれ持って行ってってお母さんが」

 

 そんな事を言いながら高級そうな紙袋を押し付けてくる。

 

「いや、俺一応病み上がりなんだが……? 小町行ってくれよ……俺勉強もしなきゃだし」

「いやいやいや、お兄ちゃんもう一ヶ月もまともに外でてないでしょ? 体力も落ちてると思うよーリハビリも兼ねてここはお兄ちゃんが行ったほうがいいんじゃないかなぁ? これからお世話になるんだし?」

「これからお世話になる?」

「あーうん、こっちの話こっちの話。ほらほら、行った行った。もし行かなかったらお小遣い減らすってお母さんも行ってたよ!」

「んな横暴な……。ってか退院ってことはもう家なんだろ? 俺住所とか知らな……」

 

 ピコン。

 突然、スマホが鳴った。

 

「はい、住所と地図送っといたから!」

「送ったって……急に行っても迷惑かもわからんだろ?」

「そこらへんは大丈夫、もうお兄ちゃんが行くって連絡済み。「楽しみにしてる」って言ってたよ?」

 

 ぶいサインを決めながら言われても……グーを出せば勝てるだろうか?

 

「ほらほら、もういい加減観念して」

 

 そういいながら小町は俺の部屋着を脱がせ、事前に用意していたのかソファの上に置いてある服をテキパキと、まるで着せ替え人形のように着せる。

 

「ほら、お兄ちゃん下も!時間がっ無いんっだかっらっ!」

 

 流れでパンツまで脱がそうとする小町を慌てて止める。

 

「自分で出来るわ!」

 

 下まで着替えさせられるのは流石に兄としてダメすぎだろうと俺も観念して着替えにとりかかった。

 

 

 

「ん、まぁこんなもんかな」

 

 自分が用意していたコーディネートに満足がいったのか、うんうんと頷き俺の背中を叩く。痛い。

 

「それじゃ、ほ~っら……! 行ってらっしゃ~い♪」

「え? おい、ちょっと? 小町ちゃん?」

 

 着替えが終わると、ため息をつく暇もなく玄関までグイグイと背中を押され、あっという間に外に追い出された。え? マジで? 財布も持ってないんだが?

と思ったら再びドアが開いた。

 

「はいこれ、忘れ物。今度小町にも紹介してね♪ 楓さんによろしく~♪」

 

 ドアの隙間からさっと財布を手渡されるとガチャリと鍵が閉まる音がする。

 

「えぇぇ……?」

 

紹介するって誰をだよ……。

 

 仕方なく俺は、スマホに送られてきていた住所を確認し、トボトボと歩きだした。

 割と遠いじゃん……。とりあえず電車? まずは駅に向かわねば。

 一色のおっさんは嫌いじゃない、面白い人だと思うが、正直に言えばもう二度と会うことはないだろうと思っていた。退院のときのやり取りだって社交辞令みたいなものだし。ラノベは見舞いの品として渡したもの。お互いに何かを貸し借りしているわけじゃない。

 

 小町は楓さんと連絡を取り合っているようだが、俺自身は連絡先の交換なんてしていなかった。だからこのまま思い出の一つになるんだろうな、と感じていたのだが。まさか家にまでいくハメになるとは……。

 俺も何か買っていったほうがいいんだろうか、ラノベとか……?

 本屋の前でふと財布を確認すると中には六百円。

 わぁ、お金持ち。ただし幼稚園児なら。という注釈がつく。いや、今日び幼稚園児でももっと持ってるか。

 これではラノベの一冊も買えない。世知辛い。最近は本一冊買うのも楽じゃないのよ? 不況って怖いね。っていうか往復の電車賃足りるかしら? そんな事を考えながら歩いているとまたしてもスマホが鳴った。

 

【紙袋に入ってるお年玉袋を調べるべし】

 

 小町からのLIKEだ。メッセージアプリ『LIKE』。大好きな友達とつながろう! をキャッチコピーに、スマホに登録してある電話番号だけで友達と繋がれるらしいのだが俺がアプリを入れても家族以外表示されなかった。バグってんじゃねぇの?

 とりあえず小町の指示に従い紙袋を覗いてみると「電車賃」と書かれたポチ袋が入っていた。

 中には千円札が1枚。俺の財布事情もきちんと考慮しての行動だったのか。小町恐るべし。

 

 電車に乗り、揺られることおよそ二十分。俺は千葉郊外の住宅地に降り立った。

 田舎というほどでもないが栄えているという程でもない。ただ一軒一軒の家がべらぼうにデカイ印象を受けるその住宅地は小市民の俺にはちょっと場違いな感じがした。

 送られてきた地図を頼りに、目的の家を捜索する。目印などがあまり無いその地区を歩くこと数分。高い塀と広い敷地。和風の屋根付き門の横にある『一色』の表札をみつけた。

 

 どうやらここで間違いなさそうだが、高級そうな佇まいに少々気圧されてしまい一瞬ひるんでしまう、悔しい。これが小市民としての性というものか。あのおっさん金持ちだったのか、何してる人なんだ?

 しかし、いつまでもここで立ち往生というわけにもいかない。俺は気合いを入れ、一度深呼吸をしてから、表札の下にあるインターフォンを鳴らす。べ、別にびびったわけじゃないんだからね! 勘違いしないでよね!

 

「はーい? どちらさまですか?」

 

 予想に反し、インターフォンから聞こえてきたのは若い女性の声。

 少なくとも楓さんではなさそうだ。俺と同じ、いや、それより若いぐらいだろうか? まさかメイドさんか? 夢があるよねメイドさん。幼さすら感じるその声に若干の期待と警戒をしながら俺は返答する。

 

「ひ、ヒキがヤと申します」

 

 声が裏返った。死にたい。

 違うの、知ってる人がでてくると思ってたから。ちょっと驚いただけなの、お願いもう一回やり直させて!

 

「あ、お爺ちゃんから聞いてます。もうすぐ帰ってくると思うので中に入って待ってて下さい」

「ど、ども」

 

 お爺ちゃん? ということはお孫さんだろうか? メイドじゃなくて残念なんて思ってないよ? 本当だよ?

 しかし、孫がいるって話は聞いてたけどおっさん何歳なの? てっきり孫は小学生とかだと思ってたんだが……っておっさんいないのかよ!

 連絡済みなんじゃないの? こういうのが嫌だから来たくなかったんだよ! うおおお……こんな事ならやはり断ればよかった。後悔の念が俺を襲う。だが今更どうする事も出来ない。

 中に入って待つって、中だよね? 門の……? 家の……? え? これ入っていいの? 一見さんお断りとかじゃない?

 高級な料亭の雰囲気を醸し出すその門に俺はつい躊躇してしまう。

 だがもうインターフォンは鳴らしてしまったのだ、いつまでもこうしているわけにはいかない。俺は悩んだ末に恐る恐る門を開けると、数メートル先の玄関がすでに開いているのが見えた。

 玄関の扉を開けているのは一人の少女、年の頃は小町と同じぐらいだろうか? 春らしい薄いピンクを基調とした装いでこちらを伺っている。

 やはり俺が想像していたより遥かに大きなお孫さんだ。少なくとも小学生ではないだろう。幼さも感じるが、僅かに大人の妖艶さも垣間見える、一言で言うならゆるふわビッチ系美少女がそこにいた。

 彼女は人好きのする愛らしい笑顔でこちらを出迎えてくれている。しかしそんな笑顔につられる八幡ではない。すでに俺の中の何かが警告音を鳴らしていた。

 アイドルでセンターやってます! と言われても信じてしまいそうな顔立ちに亜麻色の髪の美少女の笑顔なのだが……妙にあざとい、きっとこの笑顔は罠だ。うかつに飛び込むと痛い目を見る、そんな予感がする。

 

 いくら笑顔がかわいくても……ってあれ? 笑顔消えてますね? 気がつけば彼女は怪訝そうな顔でこっちを見ていた。

 あの目は知ってる不審者を見る目だ。親の顔より見たことあるわ、うん。やばいやばい通報されてしまう。

 

「あのー? どうかしました? 比企谷さんですよね?」

「あ、はい。です」

 

 しまった。ついDeath(即死魔法)を唱えてしまった。しかしどうやら彼女には効いていないようだ。ボス級かな? レベルが足りないのかもしれない、やはりもっと装備を整えてから来るべきだったな……小町とか。

 そう反省しながら俺は慌てて門をくぐり抜けると、お孫さんの元へと歩み寄った。

 

「えっと、おっさんが退院したって聞いてお見舞いにきたんだけど……」

「どぞどぞ。お爺ちゃんのお友達……なんですよね? 比企谷さん?」

 

 友達? 友達なんだろうか? 友達ではない気がするが

 

「ああ、ちょっとした知り合い……かな?」

 

 そういうとお孫さんは

 

「はぁ……」

 

 とまたしても不審そうな目で俺を一瞥した。

 

 本当は玄関先で退院祝を渡し帰るつもりだったのだが、それを告げる前に「とりあえずあがってください」といわれ、結局家に上がってしまった。お孫さんに案内されるままに和室に通される。

 和室は俺の部屋の三倍はあろうかという広さで、中央に十人ほどで囲めそうな大きなテーブルと、上座には座椅子がおかれていた。おっさんの席だろうか。

 俺は「どうぞ」と用意された座布団に座り。辺りをキョロキョロ見回す。その部屋には何かの賞状や記念写真やらが飾られていた。

 

「お爺ちゃん、すぐ帰ってくると思うので。ちょっとだけ待っててください」

 

 そう言うと氷が入った麦茶を出してくれた。よく出来たお孫さんだ。

 

「あの、おっさ……縁継(むねつぐ)さんは退院したんじゃ?」

「今日退院だったんですけど、なんか手続きに時間がかかっちゃってるみたいで、比企谷さんが来るっていうから私だけ先にこっちに来たんです」

 

 それは暗に「お前のせいで留守番させられている」と責められているのだろうか?

 

「な、なんかすまん」

「いえいえー、それじゃごゆっくり~」

 

 そう言うと彼女は部屋から出ていった。

 

 

 

 俺は一人、知らない家の、知らない部屋に取り残される。仕方ない、飾られてる写真で「おっさんを探せ」でもするか。俺はここぞとばかりに足を崩し、ため息をつく。しかし見た所、それほど古い写真はなさそうだ。赤ん坊の写真は先程のお孫さんだろうか? あんなに大きくなって……。

 そんな事を考えていると部屋の向こうから声が聞こえてきた。

 

「おーい、いろは戻ったぞー!」

「ただいま、いろはちゃん」

 

 きっとおっさんと楓さんだ。

 俺は崩していた足を戻し、背筋を伸ばす。いや、そんなかしこまる必要もないと思うのだが これは場の空気がそうさせたとしかいえない。

 

「遅ーい! お客さんもう来てるよ!」

「お、もう来てたか! 悪い悪い! で、どうだ? いろはから見て」

「え? うーん? なんか……目が死んでるなぁって……?」

「ガハハ、そうかそうか。よく見てるな! よし、一緒にこい! 楓、荷物は任せたぞ」

「はいはい。まったくもう……」

「え、ちょ、ちょっと待ってお爺ちゃん、私今日は退院のお手伝いで来たんだから荷物なら私が!」

「いいからいいから、来い! 大事な話があるんだよ!」

 

 会話が完全に筒抜けなのだがいいのだろうか?

 というか、そうか、初対面でわかるほどに目が死んでたか俺。ハハ……。

 そんな風になんとなく聞き耳を立てていると、ドタドタという足音が猛スピードで近づき、バンッと勢いよく襖が開けられる。そこにはポロシャツ姿のロマンスグレーなおっさんが立っていた。その手には先ほどの美少女のお孫さんを引き連れている。なんかもう完全に犯罪の匂いしかしない絵面なんだが……本当に血縁なんだよね……?

 

「おう! 久しぶりだな八幡!」

「うす、退院おめでとうございます」

 

 一体なんで入院してたんだ? と思うほど元気な姿を見て、一瞬今日の目的を忘れかけていたが、なんとか立ち上がり、必要な言葉を発する事が出来た。これであとは土産を渡して帰れば初めてのおつかい完了! 小遣いは減らされない。ドーレミファソーラシドー♪ いや、別に初めてではないんだけども。

 

「それで、どうだ八幡? いろはは?」

「いろは?」

 

 ミッションコンプリートでホッとしていた俺の脳裏に突然意味のわからない言葉が投げかけられる。

 いろはってなんだろう? いろは歌? おすすめのラノベだろうか?

 

「なんだお前ら自己紹介もしてないのか?」

 

 そう言うと、おっさんは自分の後ろに隠れてしまっているお孫さんに視線を送る。

 いろは。なるほど、彼女の名前か。なかなかに雅な名前だ。

 

「まぁ……。こんな大きいお孫さんがいるとは思ってなかったんで驚いたと言うか……」

 

 俺はちらっとお孫さんを見る。何故かちょっとかしこまった喋り方になってしまうのは件のお孫さんの前だからだろうか。病院では普通に喋れてたのに。なんだか格好悪い。

 

「かー! 仕方ねぇなぁ、最近の若いもんは初めて会ったのにお互い自己紹介もしないのかよ」

 

 あんたと初めて会った時にも自己紹介された覚えがないんだが……。むしろ怒鳴られたんだが……。

 おっさんはテンションが上がりきっているのか俺の視線の意味に気づく様子もなく、お孫さんの背中を押し、一歩前に出させた。

 

「こっちが俺の自慢の孫娘、一色いろはだ」

 

 一色いろはと紹介された少女は「ども」と軽く頭を下げた、俺もつられるように頭を下げる。

 

「そして、いろは」

 

 おっさんは孫娘から手を離し、今度は俺の方に大きく手を広げると胸を張り、次の言葉を発した。

 

 

「こいつの名前は比企谷八幡。いろは、今日からお前の許嫁だ」

 

「は?」

「え?」

「「はぁぁぁ!?」」

 

 思わずハモってしまった。

 俺は今後の人生で今以上の驚きを感じる事があるのだろうか? と思えるほどの特大爆弾発言。

 このおっさんは一体何を言ってるの? 許嫁? 俺が? 今日会ったばかりのこの子と?

 一体何故? どうして? 様々なクエスチョンが脳裏をよぎる俺達を、おっさんは「やってやった」とでも言いたげな満足げな表情で、見下ろしていた。




 というわけで、我らがヒロイン一色いろは嬢初登場回となりました。
 いかがでしたでしょうか、いろはすらしさを出せたかなぁ……? 出せてるといいんですが……。

 ヒッキーのスマホについて少しだけ言及しておくと。原作準拠の携帯&メールのやりとりの方が良いとも思ったんですが、私自身がメールを普段あまり使わないのもあって、書いているうちにボロが出る気がしたので、この部分は変更させていただきました。
 作中の「LIKE」は皆さんお持ちのスマホに入っているであろう緑のアイコンのアプリに似た何かですw
 創作の世界だと『LIME』とか『RINE』とかになってるのはよく見かける気がしたので同じく一文字モジって『LIKE』ということで……。

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