やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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今回から夏(休み)編スタートです!

(あれ? 投稿日が10月……?おかしいな……? 夏とは……?)


第22話 夏休みに向けて

 七月、第一週の家庭教師の日、二度目の給料をもみじさんから渡された。

 今回は茶封筒ではなく、水玉模様の可愛らしい細長い封筒。丁寧に封止にはハートが立体的に膨らんだシールが貼られている。

 いやいや、コレ中身現金ですよね? どうみてもラブレターか何かなんですけど……。

 だがもみじさんは、そんな俺の抗議の視線にびくともせず、ニコニコと笑顔を浮かべるだけだ。

 

 「……ありがとうございます」

 

 何を言っても無駄だ、そう悟った俺は礼を述べつつ、失礼かとも思いながら、体を斜めにし、封筒を隠すようにして中身を確認する。

 何故って? 先月の例があるからだよ。

 自分が思っていたより給料が多いというのは嬉しくもある反面、恐ろしくもある。後で何か請求されるのではないか、何か意図があるのではないか。と勘ぐりたくなる。

 厄介事はゴメンだ。

 

 そしてその予感は見事に的中した。

 また多すぎる。

 計算してみると、何故か焼き肉に連れて行かれた日の分まで換算されているようだ。

 なんなの? もしかして俺が実際に来たかどうかじゃなくて、カレンダー見て、土曜日の数で計算してる? 流石に「これは貰えない」と返したのだが。「家族なんだから遠慮しないで」「お年寄りの道楽に付き合って貰ったんだもの、それぐらい受け取って」と言われた。

 それでいいのか? いやいや駄目だろう。

 そもそも家族じゃないんだよなぁ……。

 

 先月ですら貰いすぎているという自覚があったのだ、これ以上甘えるわけにもいかない。

 毎週夕食を食わせて貰っているので食費だって確実にかかっている。

 未来から青い猫型ロボットが突然やってきたお宅だって、学校にも仕事にもいかない癖に何故か食事だけはするアイツのせいでエンゲル係数は上がっているはずなのだ。

 まあアイツ、意外と短期で金増やす道具とかも持ってるから、いざとなったらどうとでもなりそうだけどな……。

 とはいえ、俺にはそんな道具はないし、一色の未来を変えるために遣わされた訳でもない以上、そんな施しを受ける理由がない。

 後々禍根も残しそうだしな……。

 そう思い、今回は強気で拒否の姿勢を示し、何度目かの応酬で、やっともみじさんにバイト代の一部を返却することに成功した。

 のだが……。

 

「わかったわ、じゃあこれはしばらく私が預かっておきます」

 

 と、何やら不穏な事を言われた。

 いや、預かるんじゃなくて、そっくりそのままそちらのお金ですからね? しばらくじゃなくて永久に。

 金を返して不安になるってどういう事だよ……。

 いっそ自分で受け取ってしまった方が精神衛生上良かったのかもしれない……。

 一色一族怖い。

 

 そんな不安にかられながら、残り時間で授業を行う。

 模試もそうだが、今週は期末考査があったということもあって一色は比較的従順に勉強に励んでくれた。

 本人も中間での汚名を返上しようと頑張っているらしい。

 まあ、俺自身の期末もあるので、楽ができるのはありがたい。

 話は逸れるが、当然この時期だと小町も期末期間に入っているので、先月言っていた買い物とやらにも行っていない。

 また変なもの買わされるのも嫌だし、忘れてくれているならそれでいいのだが……。

 

 しかし、一色も小町も大人しいというのは天国だな、もういっそずっと期末期間だったらいいのに。

 でもそうはならないのが現実……きっとこの夏、また碌でもない事が起こったりして俺の日常が脅かされるのだろう。

 なんとなくそんな予感がしていた。 

 

***

 

 そうして期末も終わり、我が総武高は一学期のイベントが終了、あとは終業式を残すのみとなると、学校内はすっかり夏休みムードへと切り替わっていた。

 今もホームルーム中だというのに教室では「夏休みに何をする」「どこへ行く」という会話が至る所で繰り広げられている。

 

 え? 俺の夏休みの予定? もちろん、しっかりと立てている。

 夏は暑いので、冷房の効いた室内で読書をしたり、アニメを見る予定だ。図書館にいくのもいいな、意外と知られていないが、最近の図書館には普通にラノベも置いてあるのだ。学生には非常にありがたい公共サービスといえよう。ビバ夏休み。

 

「比企谷ー! 比企谷八幡はいるかね?」

 

 ホームルームも終わり、さて、帰るか。と鞄を持ち、立ち上がったタイミングで、教室の前の扉の方から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 教室にはまだ多くの生徒が残っており、誰に声をかけられたのか、瞬時には判断できない。

 なんとか人の隙間から声のした方角を覗き見ると、そこには一人の女教師の姿があった。

 担任ではないな、なんだっけ、確か現国の……そう、平塚先生だ。

 平塚先生の方はどうやらまだ俺のことを認識できていないらしくキョロキョロと教室を見回し「比企谷ー?」とこちらを探している。

 なんだろう? 俺なんかしたっけ? 課題の提出忘れとか?

 だが、特に思い当たるフシがない。

 まあいいか、と俺は生徒たちの影に隠れるように教室の後ろの扉から退出した。

 今日は金曜。このまま帰ってしまえば月曜には忘れさられているだろう。

 めでたしめでたし。

 

「なんだ、まだいるじゃないか、ちゃんと返事をしたまえ」

 

 だが回り込まれてしまった。

 俺よりすばやさが高い……だと?

 突如現れた腕に肩を捕まれ、俺は思わず冷や汗を垂らす。

 逃げられないのならばもう対峙するしかない、覚悟を決めろ八幡。

 俺は一度目を閉じ、気合を入れ、ゆっくりと首だけで振り返る。そこには笑顔の女教師がいた。

 

「な、なんすか?」 

 

 平塚先生は、俺が入院している時に二度ほど、見舞いに来てくれた事がある。

 それほど怖い先生だとは思っていなかったのだが……え? 何これ? 肩に置かれた手がはずれない……振りほどけない。怖い。

 

「何故逃げるのかね? 君は期末の成績も悪くなかったと思うが……なにか疚しい事でも?」

「いやだなぁ、気づかなかっただけですよ、早く帰りたいなぁと」

 

 「面倒臭そうだったから」とは流石に言えない空気だったので、とりあえずお茶を濁しておく。

 

「……そうか、まあ時間は取らせんよ、今日は少し様子を見に来ただけだ。生活指導の一環でな」

 

 平塚先生は何かを悟ったのか、それ以上その事は追求せず、ゆっくりと手を離すと本題へと入っていった。

 肩に手形とか残ってないといいんだけど……。

 それにしても様子? 生活指導?

 保護観察処分を受けたつもりはないが、俺はちょくちょく様子を見に来られるほど危険人物認定されていたのだろうか?

 指導されなきゃいけないような事はしていないと思うが……。

 

「もう一学期も残り少ないが……学校には慣れたかね?」

「あー……まぁボチボチですかね」

「ボチボチか……」

 

 そう、ボチボチである。可もなく不可もなく。

 学校に過度な期待もしているわけでも、絶望しているわけでもない。入学式初日から入院というトラブルこそあったものの、どっちみち中学の頃とやることは大して変わらない。俺のクラス内カーストは例年通り最下位。だが、学校内に知り合いがいない分、今のほうが楽でもある。

 ボッチにとって周囲の変化など微々たるものだ。

 

 強いて中学と変わった事といえばバイトで家庭教師をしている事ぐらいだが、それは学校とは関係がないし、バイト代にも不満はない。

 まああの一族に対して色々言いたい事はあるが、あくまで仕事先の関係なので深入りさえしなければ許容範囲だ。

 一応、もう一点許嫁という変化もあったが、こっちは最早あってないようなものだろう。

 一色にしたって、来年高校に入れば「外で見かけても話しかけないでくださいよ」と、関係をリセットしに来るのは目に見えている。

 まあそんな感じなので、少なくとも学校には不満はない。

 まさにボチボチofボチボチ。

 そしてボッチofボッチ。ボッチ舐めんな。

 

「怪我の具合は、どうだ? まだ体育は見学していると聞いたが」

「あー……そうですね……」

 

 実の所、俺は事故を理由にして今学期の体育を全て見学していた。

 「ペアが作れないから、少しでもやってみないか?」と誘われたこともあったが、「医者に止められているので」と、完全に断っていたのだ。

 一応言っておくと退院する時に「体育はしばらくは見学すること」と医者からも言われているので、嘘は言っていない。

 期限は設けられていないし。「今日からやっていい」という許可を受けたわけでもないので、俺に罪はない。医者が悪い。

 実際いつまでが「しばらく」なのかは俺にもよくわからない。

 そして、怪我を特に気にしなくなり、医者からも「何もなければもう来なくてもいいよ」と言われた頃。すっかり日差しも強くなり、運動には適さない季節になっていった。

 これはもう、日陰で見学をしていなさいと言う、神の思し召しに違いない。そう考えた俺はそれとなく体育教師の目を避わし、見学を続け。今日に至ったのである。

 

「まだどこか調子が悪いのかね? 骨折をしたりしたわけではないのだろう?」

「あー、まぁ肋骨にヒビが入ったのと打撲ですかね。頭も打ったりしたんで……あとはちょっとした擦り傷程度です」

 

 そう、折れてはいない。だからこそ小さい傷も含め、とにかくひどい怪我だったというアピールだけはしておく。

 逆にいっそ骨折でもしていれば、もう少しわかりやすくサボれたものを……。人生ってままならないものだ。

 まあ痛いのは嫌なので、そこらへんの加減は難しいところでもあるな。

 

「そうか……まあ大変だったのもわかるし、事故の後で多少不安になるのもわかるが、少しでも動いておかないと体力も落ちる一方だぞ? 問題ないなら二学期からは事故による体育の見学は認められんからそのつもりでな」

「まじすか……」

「大マジだ、ドクターストップが掛かっているというなら診断書を持ってこい」

 

 そう言うと平塚先生は俺の頭を小突く。

 そういうの、今の時代コンプライアンス的にどうなんですかね? 暴力反対!

 ……もう見学は無理か。ペアが必要な授業が終わるまで逃げていたかったんだけどな……。

 

「はぁ……しかし、重大な後遺症があるとかではないなら安心したよ。実は少し心配していたんだ」

 

 平塚先生はそう言って、俺を厳しく睨みつけた後、優しい笑みを浮かべ、今度は俺の肩をポンと叩いた。

 

「学校生活で何か困ったことがあったら気楽に相談してくれたまえ、私達教師はそのためにいる」

「はぁ……」

「ほら、いい若者がそんな背中を丸めるもんじゃない、しゃきっとしないか」

 

 俺の丸まった背中をバンとたたき「それじゃあ、気をつけて帰りたまえ」と、タバコの匂いを残して去って行く。

 なんとなくだが、きっといい先生なのだろう。

 だが、できれば俺のことは放っておいて欲しかった……。

 まぁ、どちらにせよ。ずっとサボってるわけにはいかないのだ。見学中のレポートの提出も面倒くさかったし。ここらが潮時と諦めるとするか……。

 

 そうして今度こそ帰ろうと、踵を返した瞬間。背中に何か妙な気配を感じた。

 

「ん?」

 

 だが振り返っても、すでにそこには平塚先生はおらず、廊下で喋っている生徒達も含め、誰も俺の事など見ていない……。

 気の所為……か?

 ボッチの俺が見られてるとか……自意識過剰もいいとこだな、帰るか……。

 

***

 

「えっと……怖い話ですか?」

「ちげーよ……。多分」

 

 七月二週目の授業中、話の流れで、そんな学校での出来事を語ったら。

 一色が目をパチパチと大きく瞬かせてそう聞いてきた。

 実際、あの後しばらく誰かにつけられてるような、そんな気配がしたのだが結局原因は不明なままだ。

 マジでホラーだったらどうしよう?

 違うと思いたいが、お祓いしてもらったほうがいいかしら?

 

「っていうか……センパイって交通事故で入院してたんですか?」

 

 だが一色はそういった話には興味がないのか、それとも怖い話が苦手なのか。

 次の瞬間には、もう次の話題へと意識を移していく。

 

「おっさんから聞いてなかったの?」

「そういった話は全然。入院してたっていうのは聞いてましたけど……まだ痛むんですか?」

「いや、全然?」

 

 そもそも、いまだに痛むような怪我をしていたら最初からここには来ていない。

 じゃあむしろなんで入院してたと思ったんだ。

  

「怪我、治って良かったですね」

 

 しかし、少し呆れた表情の俺とは逆に、一色はこちらを見ずに優しい声色でそう呟いた。

 なんだよ……。ちょっとドキッとするじゃないか。

 こいつは普段はあざとい癖に、急に自然体で優しい言葉をかけるのはやめてほしい。非常に対応に困ってしまう。

 相手が俺だったから良かったようなものの、そういうの、非モテ系男子には勘違いの元だからね? 気をつけようね? 

 

「……ほら、期末返ってきたんだろ? 答案見せろ」

「はーい」

  

 俺は、それ以上その優しさに触れないよう、そう言って、話を逸らす。

 すると、一色は引き出しのクリアファイルから答案用紙を取り出し、机の上に広げた。

 平均七十八点。

 少なくとも中間の時程は悪くない。

 特別悪い教科というのも見当たらなかった。

 恐らくこれが本来の一色の実力なのだろう。

 

「ケアレスミスが多いな」

「……はい、気をつけてはいるつもりなんですけどねー」

「つもりじゃ意味ないんだよ、ほら、とりあえず一個ずつ確認してくぞ」

「はーい……」

 

 一色が不満げにそう答えるのを確認して、俺はプリントへと目を落とす。

 さて、家庭教師のお仕事の始まりだ。

 

*

 

「……センパイは夏、どこか遊びに行くんですか?」

 

 一通りミスした問題のチェックが終わると、一色は「うーん」と伸びをした。

 「センパイはあんまり海って感じしませんよねー」と言いながら、ペンをクルクル回し始める。どうやら集中モードが切れたようだ。

 

「あ、そういえば今年は宿直室も使えないのか」

 

 こちらが口を挟む暇もなく、一色は次々と話題を転換させていく。

 って宿直室? 何やら聞き馴染みのない単語が出てきた。宿直室って生徒が使うものだったか?

 

「あ、うちの学校、旧校舎の方にもう使われてない宿直室があるんですけど」

 

 一色の言葉の意味がわからず首を傾げていると、一色は何やら得意げに語りだした。

 どうやらお勉強モードは本格的に店じまいのようだ。

 

「ほら、夏場サッカーの練習中って暑いじゃないですか? 熱中症対策もしなくちゃだし、部員達のドリンクを冷やすためにも宿直室の冷蔵庫を借りる事にしてるんですよ。だからその宿直室の鍵をマネージャー特権で預かってたんです」

 

 まあ確かに最近は熱中症で倒れる学生とか普通にニュースでやってたりするからな。

 そういう配慮も必要なのだろう。俺にはよくわからんが。

 っていうかマネージャー特権ってなんだ。

 

「それでですね、何気にクーラーも完備してるんで試合に飽きた時とか、ママが煩くて一人になりたい時に使ってたんですけど……今年はもう使えないんですよねぇ」

 

 一色は最後に「ふぅ」と息を吐き「もう麻子ちゃんに鍵渡しちゃいましたから……」と、聞こえるか聞こないかギリギリの声量で呟やいた。

 その物憂げな表情は、たった今サボりを告白した少女のものとは思えないものだったのだが……。

 

「いや、飽きるなよ、応援してやれよ」

 

 サッカー部のマネージャーが試合に飽きて宿直室でだらけてるとか知ったら頑張ってる選手達が報われなすぎるだろ。

 

「そこはまぁほら、可愛いマネージャーがいるっていうだけで頑張れません?」

 

 いや、いないじゃん、宿直室に行ってるんじゃん。

 意外な所で、一色のマネージャー事情を聞いてしまった。

 自称敏腕マネージャーはどこへ行ってしまったんだろうか、聞き間違いかな……?

 

「はぁ……まぁ、そんな事はどうでもいいんだよ……模試までもう時間ないんだぞ、夏休みで部活もないなら夏期講習とかも考えてみたら?」

「あー、模試……そういえばもう来月なんですね……。夏期講習……夏休み中かぁ……」

 

 俺がなんとか、一色の雑談モードを脱しようとそう言うと。

 一色は模試という言葉に一瞬だけ、目の光を取り戻したが。その後はのんびりと、眠たそうな声色でそう答えた。

 やらなきゃいけないという意識はあるが、やる気が出ない。そんな感じだ。

 こいつのやる気スイッチどこにあるんだろう? 常時オンにする方法を教えて欲しい。

 しかし、そんな風に頭を抱えていると、一色は椅子を一度ぐるりと回転させ、俺の目を真っ直ぐ見ながら今度はこう聞いてきた。

 

「そういえば、センパイって夏休みもカテキョ来るんですか?」

 

 それは暗に「来るな」と言っているのだろうか。

 別に来たくて来ているわけではないのだが……。

 俺だって夏休みぐらい休みたい。

 

「よくわからん、おっさんからは何も言われてないし、そうなんじゃないの? なんか予定あるなら来ないけど」

 

 なんなら丸一ヶ月休みをくれてもいいけど……。という言葉はギリギリの所で飲み込む。

 おっさんに知られたらまた面倒くさいことになりそうだからな……。 

 

「実は……八月の第三週の土曜。お休みもらいたいんですけど、駄目ですかね?」

「第三週?」

 

 俺が問いかけると、一色は壁にかけられているカレンダーを指差した。

 

「その日、サッカー部で打ち上げをやろうって話になってて……ほら私、元マネージャーなんで一応顔だけでも出さないとって……」

 

 一色は恐る恐るという様相で、上目遣いに俺にそう訴えかけてくる。

 あざとい。

 この角度が一番男を落としやすいと分かってやっている目だ。

 だが、『どうしても行きたい』という意思は不思議とあまり感じ取れなかった……。

 俺の気のせい……?

 

 打ち上げねぇ……中学の部活にそんなもの必要なんだろうか?

 もし俺なら絶対行かないんだが、一色の場合どう判断したらいいんだろう。

 そもそも俺に「行くな」という権利があるのか?

 第三週なら模試も終わった後だし、少し息抜きも必要……なのだろうか?

 俺は少し考える、模試は確か第二週の平日……八月八日。つまり第二集の土曜にはここにきてどの程度出来たか、自己採点はできる。

 正確な結果が届くのは少し先だろうし、第三週ならそれほどやる事もないか……。

 

「模試の後ならまぁ、いいんじゃないか? ただ俺の雇い主はおっさんなんでな、そっちにも確認とってくれる?」

 

 少なくとも俺が独断で、「行くな」と言っていいレベルの話ではないだろう。

 受験生なのに? と、多少は思わないでもないが、一色の交友関係にまで口を挟むような立場でもないし。

 期末もそれなりの結果はだしているし、あとは本人のやる気の問題で、気晴らしが必要な時がある、というのも理解できないわけじゃないしな。

 

 ただ、このバイト。シフト管理がザルすぎるので、ちゃんと「休み」と申告しておいてもらわないと下手するとその分まで計上されてしまう可能性がある。

 だからこそ、おっさんには最低限の連絡はしてもらいたい。

 

「はい、わかりました。お爺ちゃんに電話しときます」

 

 後からおっさんに文句言われても面倒くさいしな、しばらくおっさんとも会ってないし、俺から連絡を入れるのもいいかもしれない。

 まあ、覚えていたら連絡してみよう。

 

「打ち上げって何やんの?」

「別に特別なことはしないと思いますよ、その日お祭りがあるので少しブラブラしてからカラオケに行くらしいです」

 

 お祭り。そうか、そんな時期なのか。

 去年は完全に受験モードだったから、夏にそんなイベントがある事すら忘れていたな。

 

「八月の第三週だな?」

「はい」

「了解」

 

 俺は再度確認すると、スマホのカレンダーに休みのマークを入れた。

 久しぶりの土曜休みだ。来月のバイト代が少し下がるが、まあ仕方ない。

 どうせ休みは一ヶ月以上あるのだ、どこかで田舎の爺ちゃんの家にでも行って、小遣いをせびれば損失分は取り戻せるだろう。

 

「んじゃ、今日は休みの分までみっちりやっとくか」

 

 残り三十分。

 俺がそう言うと。一色は「うへぇ」と露骨に嫌そうな顔をし、机に突っ伏したのだった。




というわけで平塚先生登場でした!

そして、今話でまた一つ「独自設定」解禁。
(まぁ二次創作なので基本独自設定・独自展開だらけなんですが……)
八幡の足、折れていません。
最初から割と普通に歩いています。
気付いていた方、いらっしゃったでしょうか?
「気付いてたけど二次創作だし……」と思って黙っていてくれた方。ありがとうございます。
実は今話までの間に突っ込まれたらどう答えようかと少しヒヤヒヤしていましたw

細かい言い訳はまた活動報告にて。

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