やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。 作:白大河
ちょっと間が空いた気もしますが
前回謎に平日投稿したのでこれは実質週一ペースなのでは……?
俺のバイトシフトが増えて早一ヶ月。
一色は人が変わったかのように机に向かうようになった。
模試まであまり時間がないというのもあるのだろうが、授業中の無駄話もめっきり減り、今となっては、事あるごとに息抜きを要求してきた女子と同一人物だとは思えないほどだ。
去年俺が使った受験道具が少しずつ一色の家へと運び込まれ、一色の机には見慣れた参考書やノートが積み上げられ、机周りの雰囲気もガラリと変わり、見るからに受験モードというオーラを放っている。
まあ、それらがどの程度役に立つのかは分からんが、無いよりはマシだろう。
正直なことを言えば、俺が居なくても一色はそれらの参考書を使ってきちんと勉強をこなしている。
なんなら俺がバイトで一色宅に着いた時には、もう机にしがみついていて「もうちょっとでキリが良い所まで終わるんで、センパイは暫く休んでて下さい」なんて言われた事もあった。
それだけで受験に対する本気度が伺える。
言ってしまえば一色いろは第三形態という所だろうか。
もしかしたら、もう一段階変身を残しているのかもしれない。
戦闘力五十三万ぐらいありそう。
だが、俺の方はどうかと言うと、バイト時間が増えた割に仕事量は増えていない。
一色と同じ部屋にいる時間こそ増えたものの、手持ち無沙汰の時間が増えてしまっている。
先日なんてついウトウトして居眠りをしてしまったほどだ。
一色のことだから烈火のごとく責めてくるだろうと覚悟していたのに。特にお咎めもなく拍子抜けしてしまった。
なんかもみじさんとケンカしてたみたいだが……あれ? もしかして俺いらない子ですか?
いかんな、金をもらっている以上。もっとしっかり家庭教師っぽい事をしなくては。
俺がいらない子ではないという所を見せつけてやらねばならない。
一色も頑張っているのだからな。
それでも欲を言わせてもらえるのなら、もう少し早くこの受験モードになってくれていたらと思わないでもないのだが、それを俺が言うのは野暮というもの。
葉山というブーストアイテムを入手したからこそのやる気だ。
俺がどうこう言えるものでもない。
もしあのままの状態だったら、海浜総合すら危なかった可能性もある。
その場合の俺の胃痛を考えるなら、葉山に感謝こそすれど、恨むなんて筋違いもいい所だろう。
そういえば葉山とはアレ以来話してないな。
いや、俺からすると二回以上話す奴の方が珍しいんだが。
これだけ名前を思い浮かべる機会はあるのに、大した接点がないというのもなんだか妙な気分だ。
そういえばアイツは一体どんな声だったか……。
○天衆の闇担当みたいな声だった気もするし違う気もする。
あれ? それは別の奴だったか?
まあ葉山の事はどうでもいいか、今は一色の事だ。
とにかく、今やるべきなのは模試でA判定を取ること。
いや、この場合取らせることか。
全く、おっさんも面倒な事をしてくれる。
試験を受けるための条件とか……ハ○ター試験かよ。
今のままだと実力不足というのは分からなくもないが。
そもそも、その条件のせいで一色はリスクも背負う事にもなっている。
おっさんが出した条件は『年内に結果を持ってくる事』なので、模試のどちらかでAを取ったとしても恐らく推薦には間に合わない。
模試の結果発表がどちらも遅いので、他の奴に推薦枠を奪われている可能性が高いからな。
下手をすると有った筈の海浜総合への推薦枠すら無くなっているかもしれない。
模試でのA判定なんてややこしい事をせずとも、推薦が取れなかったら終了とかにしても良かったのではないかと思う。
それなら海浜を滑り止めにする事も出来ただろう。
だが、あえてA判定という条件を持ってきた。
そこに何か理由でもあるのだろうか?
あの日、おっさんと一色の間で一体どんなやり取りがされたのだろう?
少しだけ推理してみるか……。
まず大前提として……一色が葉山というイケメン目当てで総武を志望している。これは確定。
それをおっさんが知ったらどうなるか。
「男目当てで高校に行くなぞ許さん!」とかそういう事だろうか?
まあ、もし小町が同じ事をしたら俺も一度冷静になるよう勧めるだろう。
おっさんの気持ちは理解できる。
ただ、理解できるからこそ。
その条件に俺のバイトシフトの増加が含まれているのが、謎なんだよなぁ。
俺がいれば落ちる可能性が高いと思われているのだろうか?
だとすると俺が一色の手伝いをするのはおっさんにとってはマイナスなのか?
分からん……。俺の知ってるおっさんならもっとシンプルに動くはずなんだが……。
読み違えたか?
結局明確な答えはでないまま。
俺の思考はループの罠に陥り『おっさんから押し付けられた仕事』という言葉を免罪符に、ズルズルと家庭教師の真似事を続けていったのだった。
*
それから更に月日が経ち、一つ目の模試が終わり、二度目の模試が近づいてきた頃、週二の約束だったはずの俺のバイトは、一色の口車により更に追加され今では週四となっていた。
一度臨時で金曜に出勤してしまったのが悪かったのかも知れない。
まさか金曜出勤が常態化するなんて思ってなかったし……そこから更に増えるとは思っても居なかった。
今では毎週火、水、金、土曜日が俺のシフトだ。
もう立派なバイト戦士といっても良いだろう。
学校が終わったら一色の家に向かい。土曜日でさえ少し早めに家を出る。
一色の家につけば、変わらずもみじさんが迎えてくれ、一色は机にしがみついている。
もはやこれがいつもの光景。
そういえば、最近の授業中は顔を見て話すという機会も減ったように思う。
いや、別に特別顔を見て話さなきゃいけない事もないんだけども……。
だからその日、俺が部屋に入って、一色がこちらを向かなくてもそれほど大きな違和感は感じていなかった。
「少し休んだほうがいいんじゃない? 息抜きに菓子でもつまんだら? ほら、もみじさんが差し入れにってくれたチョコ美味いぞ」
集中を切らしても悪いし、切りが良いところまで進めば気がつくだろうと、少し放っておいたのが悪かったのかも知れないが、その日は中々俺の存在に気付いてくれなかったので、もみじさんからもらったチョコレートを食べ尽くす前に声をかける事にした。
一応部屋入る前も声かけたんだがな……。
「え? あ、センパイ……気付かなくてすみません、でも大丈夫です、もっと……もっと頑張らないと……」
一色の声からは覇気が感じられない。
覇王色も、武装色も。見聞色もまだ覚醒していないようだ。
いや、覚醒されても困るけど。
まぁ、ここまでテンションが低い理由はわかっている、先日の一回目の模試であまり手応えを得られず、自己採点結果も芳しくなかったらしい。
時間が足りなくて、最後まで解答を埋められなかったそうだ。
その事がきっかけで、それまで身体中から満ち溢れていた謎の自信とやる気は、みるみる不安に変換されて行き、最近では常に焦りの表情を浮かべている。
あまり自分を追い込みすぎも良くないとは思うが、時間がないという事も分かっているのでなんとも言えないのがモドカシイ。
カリカリとペンが走る音だけが部屋に響き、俺としてもどうしたら良いか分からなくなってしまう。
一応俺なりにやれることはやっているつもりだが。結果を出せていないという点では一色と同じなので俺自身にも焦りはある。
いっそ一色のステータスが数値化して見えるようになれば助言もしやすくなるのだが……そんな事が起こる筈もなく。
何をどうすれば一色の成績が好転するのか、素人の俺には皆目見当がつかなくなっていた。
……とりあえず、一色が今何やってるかだけ確認しておくか。
俺がそう思い、食べかけのチョコレートを口に放り込み、クッションから立ち上がって机を覗き込もうとすると、一色が不意にその手の動きを止めた。
「……センパイ……私、間に合いますか? 総武……受かりますか?」
それは 受験生なら誰もが感じる不安。
繰り返し繰り返し自分がやっている事が本当に正しいのか答えを知りたくなる。
自分以外の奴はもっと効率的な勉強法を実践しているのではないか? 自分だけが取り残されてるのではないか? と不安になり、意味がない事と分かっていても誰かに『大丈夫だ』と言って欲しくなる。
だから、きっとこういう時は望み通り『大丈夫だ』『お前なら出来る』『自信を持て』そう言ってやるのが正解なのだろう。
だが、俺にそんな事言えるはずがなかった。
そもそも、そんな言葉に意味はないのだ。
一人一人が大なり小なりの漠然とした不安を抱えながら戦い続ける。
それが受験で。努力した時間や熱意では決して判断されない。
報われるかどうかは結果次第。
信じられるのは自分だけ。戦うのはいつだって自分一人。
何ならそれはこの世の真理でさえあり、俺はその事を身を以て知っている。
だから、何の保証もない言葉をかけることは出来なかった。
それでも……仮にこれが模試ではなく、来年の受験へのプレッシャーから来る言葉であるならば、『まだ時間はあるだろ』ぐらいの事は言えたのかも知れない。
だが、コイツはまだその段階ですらなく。
おっさんの思惑はどうあれ、条件が達成できなかった場合でも、受験に対するやる気は維持させないといけない。
そんな事を考えていると、結局俺はなんと答えて良いか分からず、何も言えないまま口ごもってしまった。
不安げに俺を見上げる一色のその瞳は、俺を責めているのか……あるいは……。
とはいえ、いつまでも無言のままというわけにもいかない。何か、何か言わなければ。
それが、今の俺の仕事なのだから。
「……学力ってな、階段なんだと」
「階段?」
数秒答えに詰まった後、俺がそう口を開くと、一色は意味がわからないという顔で振り向いた。
今日、初めての対面だ。
少しだけ呆れ顔で俺を見上げるその顔は「とうとうおかしくなっちゃったんですか?」とでも言いたげに眉間にシワを寄せ口を開いている。
いっそ口に出してくれたら否定もできるというのに……。
だが、どうやらその気はないようだ。
再び俺と一色の間に静寂が走り、少しだけ気まずい空気を感じた俺は、一度コホンと咳払いをして話を続けた。
「たまに勉強した時間と学力は比例して伸びると思っている奴いるだろ、だがそうじゃないってことだ」
「え? 普通に勉強していけば成績あがりますよね?」
「あー……比例して伸びるっていう事自体が間違ってるわけでもないんだが……」
どう話したもんか……。
俺は顎に手をおいて、ほんの数秒頭を整理する。
その間も、一色は答えを待つように、俺を見上げていた。
「これは例えだが……一時間勉強して、学力が1上がるとするだろ? 二時間やったらどうなると思う?」
「2になるんですよね?」
シャーペンを持っていない方の手で「にっ」とピースサインをして、一色が答える。
まるで1+1を聞かれて答える幼児のようだ、シャッターチャンスかもしれない。
いや、違うそうじゃない。
「違う、1のままなんだ。いや、勉強を始めたばかりの頃はもっと上がるんだが……ある程度やると真っ直ぐ右上に伸びていくんじゃなくて、階段型に伸びていくんだと。俺も聞いた話だがな」
「はぁ……かいだん……」
俺が指で空中に階段を書いていくと、一色は猫のようにその指を目で追ってくる。
まるで猫だな。
飛びかかってきませんように。
「二時間やって、三時間やって、四時間やっても学力は1のまま。いや……2ぐらいにはなるんだが、徐々に上がりづらくなっていく……でも、そうやって伸び悩む時期を続けていくと、どこかのタイミングでぐっと一気に上がる時がくる。5とか6とかな。そうやって階段を一段ずつ上るイメージなんだと」
「はぁ……」
うん、分かりにくかっただろうか。
一色は相変わらず「何言ってんだこいつ?」みたいな顔で俺を見上げてくる。
くそっ。おかしいな、為になるいい話をしているはずなんだが……。
「なんていうか、一つ一つ覚えていったものが、まとまった知識として考えられるようになると身につくって話だ。最初は小さな点を沢山覚えて、次はその点を繋げて線にする、そうやって大きな一つの知識になった時に学力ってのは一気に伸びるんだ」
高校入試は言ってみれば中学で勉強したことの総括であり、点の知識を覚えるというステージは過ぎている。
だが、そういう時期が一番伸びにくい。
過去に教えられた知識を使う応用問題が多くなってきて。
忘れていたポイントの覚え直しだったり、勉強のし直しが必要になる事もある。
しかし、そうなると自分が前進しているのか、後退しているのかすら分からなくなって、結果が見えず不安になる。
「とはいえ、焦って最初から大きな知識として覚えろってのも難しい話で、結局一個一個やるしかない。だから伸び悩んでると感じてもあんまり思い詰めるな。全然理解できない、何度やっても頭に入らないと感じたら、頭の中で次の段階に上がるための準備期間に入ったんだと思っとくといいぞ」
俺が話を終えると、一色は納得したのかしてないのか少しだけ考えるような素振りを見せ再び俺を見上げる。
うまく伝わっただろうか?
「……まぁ聞きかじりだけどな」
「センパイも……そうだったんですか?」
俺が話し終わると、一色はようやく俺の方へと椅子を回転させる。
その顔からは少しだけ不安の色が薄れたようにも見えた。
「……多分な」
「多分って……なんですかそれぇ」
俺の答えに不満なのか、再び眉間にシワを寄せ、不服そうに唇を尖らせる。
だが、先程までの思いつめた表情ではない、あざとい仕草も忘れないいつもの一色らしい表情だった。
「俺もよく分かってないんだよ。でも言われてみたら『ああ、そうだったかもなぁ』って言う時期はあった気がする。それこそ、試験前日に一気に伸びる奴もいるらしいぞ」
そう、結局自分でもよく分かっていない。そもそも今した話が一色の問の答えとして正しかったのか、それすらも分からない。
だが、俺が肩をすくめてそう言った後、一色は少しだけ笑みを浮かべてくれた。
「フフ、自分でも分かってないって……フフ」
「何笑ってんだよ……」
「ごめんなさい、でもフフフフ」
笑み、というよりは完全に笑っているな。
やはり答えとして不適当だっただろうか?
俺を見ながらクスクスと笑う一色を見てるとどうにも居心地が悪い。
くそ、変な事言うんじゃなかった。
「あー……。なんだか久しぶりに笑った気がします」
涙を拭うように、目尻に手をやると、一色はそう言って再び俺を見つめてくる。
言われてみるとここ一週間ほどはずっと眉間にシワが寄ってた気がするな。
「そりゃ良かった」
「はい、ありがとうございます」
一色はそう言うと、丁寧にペコリと頭を下げてくる。
いや、別に頭を下げられるほどじゃ……。
「今のって私のこと励ましてくれたんですよね?」
だが、俺が何か言う前に一色がそう言って妙に良い笑顔を向けてくるものだから、俺はなんとなくバツが悪くなり、つい顔を背けてしまった。
少しだけ自分の頬が熱くなっていくのを感じる。
ああ、今、ここに誰か──小町でもいてくれたらいいのに。
いや、その場合俺を笑う奴が増えるだけか。
材木座にしよう。
ここには材木座がいる材木座がいる。材木座が一匹、材木座が二匹、うっわ暑苦しい。
「そういう話を聞いた事があるってだけだ……」
「それでも少し安心しました。今やってることは無駄じゃないって。だから、ありがとうございます」
一色は相変わらずニコリと笑みを浮かべたまま、そう言って俺を見つめてくる。
まぁ……本人が納得したならそれでいいけど……。
なら、今度は俺の質問にも答えてもらおうか。
「じゃあ、代わりにってわけじゃないが、俺からも一つ聞いていいか?」
「? 何ですか?」
きょとんとした顔で可愛らしく首をかしげる一色。
俺はその一色の額を指差し、先程、一色がこちらを向いてからずっと気になっていた事を問いかけた。
いや、本当ずっと聞いていいのか悩んでたんだよな。
「その頭どしたの?」
「頭……? あ!?」
俺の言葉に一色は慌てて両手で額を隠す。
そう、今日の一色は前髪をヘアピンで抑え、珍しくデコを出していた。
それ自体は特に問題はない。そういう気分の日もあるのだろう。
しかし、その額には丸い形のバンソーコーの様な物が貼られていたのだ。
あ、一色的にはバンドエイドたったか。
あまりにも肌に近い色をしているので、最初は気付かないほどだったのだが、どこかにブツけたのだろうか?
「あ、あんまり見ないで下さい……」
だが、一色は何故か顔を真赤にしながら恥ずかしそうにそう言って、ヘアピンを外し、前髪をぱぱっと広げると俺から顔を逸した。
なんだろう? やっぱり聞いちゃいけない事だったんだろうか?
でもなぁ……明らかに以前と違う所があるのに、無視するっていうのも違う気がする。
デコを出してるという時点で、『何かリアクションしてくれ』というアピールだとさえ感じた。
あれ?……そういやこいつ、こんなに前髪長かったっけか?
いや、そんな事より今はバンソーコーの事だな。
「何? ぶつけたんじゃないの?」
「えっと、そう! ちょ、ちょっとぶつけちゃいまして」
そう言うと一色は再び額を手で隠しながら顔を伏せ机とにらめっこを始めた。
ぶつけたのか……まあ……そういう事もあるだろうが……。
何故そんなに恥ずかしそうなのかが全く理解できなかった。
そもそも、丸いバンソーコーというのはあまり見かけないが。
あのタイプのバンソーコーって怪我っていうより……。
「……頭の怪我は気をつけろよマジで」
「は、はい。気をつけます……」
まぁ、何であれ、そこまで大きいわけでもなさそうだし、流石に覚えたことを忘れていくなんてギャグ漫画のような事も無いだろう。
それでも、頭をぶつけるのが危険というのは本当なので、十分気をつけて欲しい。
記憶障害なんてこともありえるし。最悪死に至る。
でも『最悪』ってつけると大体死ぬよな。
女子に「キモイ」って言われたら最悪死ぬし。
「ぷークスクス」ってされても最悪死ぬ。
いや、本当。言葉は刃物なんだぜ? コ並感。コ○ン君並の感想
だから軽い気持ちで追い詰めないように。
*
それからまた数週間、一色は少しだけ調子を取り戻し、軽口を言う元気も出てきたようでニ回目の模試前日には「仮にA判定取れなくても、B判定二つもってお爺ちゃんを説得してきます!」等と前向きなのか後ろ向きなのか良くわからない宣言をしていた程だ。
俺としても「絶対にA判定を取れる」なんて大きな事は言うつもりはないが、それでも十分狙えるレベルには届いたのではないかと思っている。それほどに一色の最後の追い上げは凄まじかった。
ここまで来たなら、是非ともA判定を取って、おっさんに見せつけてやってほしい。
というか、本番は来年の入試だからな。
さっさとおっさんの条件をクリアして、本番に意識を向けた方がいいと思う。
仮にここでA取っても、気が抜けて本番で落ちたとか意味なさすぎるからな。
そんな心配をしながら、あとは両模試の結果を待つだけとなったある日。
いつも通り、学校終わりに一色家へ向かうと。
一色が神妙な面持ちで俺を待っていた。
「センパイ……模試の結果今日から見れるそうです」
「お、もうそんな時期か……どっちの?」
「二つ目の方です……オンラインの……」
二つ目、と言うとこの間受けたところか。
一つ目の模試の結果がまだ届いていないようなので、本命が先に来たという事か。
まあ、ここでAが出てくれれば良いのだが……。
「で、結果は?」
「まだ見てないんですけど……センパイ、一緒に見てくれますか?」
見てないのかよ。
一緒に見たからって結果が変わるわけじゃないだろうに……。
「それは構わないけど……俺でいいの?」
「センパイがいいんです!」
「お、おう、そうか」
そういうの心臓に悪いから本当にやめて欲しい。
女子が気軽に使っていいセリフじゃないぞソレ。
俺がプロボッチじゃなかったら勘違いしているところだ。
「はい! じゃ、ちょ、ちょっと待って下さい」
だが、一色はそんな俺の心境など知らず、少し焦り気味に自らのスマホに視線を落とすと、指を高速で動かし始めた。
恐らく、結果が見れるサイトにアクセスしているのだろう。
まぁ、よく考えたら現状を理解してるのって俺ぐらいだしな。親よりは気楽ってことかもしれない。
「はい!!」
そんな事を考えながら待っていると、一色は俺の顔にスマホを押し付けるように、画面を向けて来た。
いや、俺に押し当ててきた。
「いや、それだとお前見れないじゃん」
俺と一色は向かい合っていて、その間にスマホ。
もちろん画面は俺の方に向いている。
明らかに『一緒に見る』という行為には不向きな配置だ。
「いいんです! とりあえず、センパイが見て下さい! ささ、どぞ!」
どぞ、と言いながら、グイグイと俺の顔にスマホを押し付ける。
痛い痛い。顎だから、そこ顎だから。見れないから!
というか、俺が見るとなるともう趣旨変わっちゃってるんだよなぁ……。
まあ、俺も気になってるしいいか。
「んじゃ……見るぞ?」
俺はそう言って、顔に押し当てられたスマホから離れ少し距離を取った。
さて……結果は……?
一色のスマホをスライドさせ、ゆっくりと結果が表示される箇所を探していく。
ここでもない。
ここでもない。
まだ先か……。
ってここ大学入試の模試じゃねぇか。
高校入試はこっちだな、タップする場所を間違えていたようだ。
ふぅ……焦らしやがる……そういうの、嫌いじゃないぜ?
よし、今度こそ……。
……あった!
「センパイ……どうでした?」
「待て……今結果を表示中だ……」
そうして俺はようやく
『総武高校 合格可能性 C』と表示されている画面まで辿り着いたのだった。
いよいよ次は50話です。
例によって裏話的なあれやこれやは活動報告で。
ご興味のある方はどうぞ。
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