やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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ごくり……こ、ここが噂の53話か……。

いつも感想、お気に入り、評価、誤字報告、メッセージ、ここすきありがとうございます。
この作品は皆様の応援で出来ています。

そして古戦場はお肉で出来ています。


第53話 怠惰で勤勉な新年

 クリスマスのキ……キ……キむにゃむにゃ事件から。早一週間。

 年も明け、世間はすっかり正月モードに切り替わっていたのだが……。

 そんな中俺はと言うと、アレ以来一色と会えていなかったりする。

 

 というのも、あの後一色は熱が再び上がり完全にダウン。

 更に続けて、俺も大晦日に熱を出してダウンしちまった。いや本当笑える。

 そりゃ感染ってもいいとは言ったが正直、本当に倒れるとは思っていなかった。

 どうせだったら終業式前とかにしてくれれば学校も休めたというものを……。

 冬休みに入って、大掃除も全て終わったタイミングで熱をだし、大晦日のテレビ特番を見るでもなく、寝ている間に年も越す事になるなんて誰が想像しただろうか。

 社会人になると『会社を休めないから長期休みになった瞬間に熱を出す』という特殊スキルを得る事があるらしいが。まさか俺もソレを取得してしまったというのか?

 なんなの? 本能レベルで社畜になっちゃったって事なの? 人間は社畜になるようにプログラムでもされてるっていうの? 仕事に忖度しすぎだろ。

 絶対そんなスキル破棄してやる……! 

 

「お兄ちゃーん、ご飯持ってきたよー」

「おお、悪いな……」

 

 そんな風に、億劫なベッド生活を過ごしていると、土鍋を乗せたトレイを持って小町が部屋に入ってきた。

 どうやら飯の時間らしい。持つべきものはやはり妹だ。今の俺に許された唯一の楽しみとも言える。

 千葉の兄妹バンザイ。

 

「全く、この時期に熱だすなんて、いろはさんに感染さないように気をつけてよ?」

「先に熱出したのはあっちだけどな……」

 

 体を起こし、トレイを受け取ると、それを膝の上に乗せるようにして土鍋の蓋を取る。

 それと同時に大量の湯気が視界を塞ぎ、中から熱々の玉子粥が顔を出した。

 うん、美味そうだ。まあ母ちゃん作なのは知ってるけど。

 これを持ってきてくれたというだけで多少の嫌味を言われても耐えられるというものだろう。

 いただきます。

 

「えー、わかんないじゃん? 感染するような事したかもしれないし?」

「は!? はぁ!? 変な事ってなんだよ、なななな、何もしてねぇよ」

 

 だが、そうしてレンゲを手にとった瞬間。突然の小町の一言に慌てて、思わず土鍋をひっくり返しそうになってしまった。

 あっぶねぇ。

 全く何言い出すのこの子は……。

 感染するような事なんて……感染……するような事……。

 

「何慌ててんのさ、え? まさか本当にしたの? なんかこう、風邪が感染るような何かを?」

「す、するわけないだろ」

 

 そう言われて思い出すのは、やはりあの日のクリスマスの出来事。

 一色にカレンダーを見ろと言われて……その後……突然……後ろから……。

 なんだかまた顔が赤くなっていくのを感じるが、それは果たして熱のせいか、それとも……。

 いや、考えるな。

 小町は適当な事を言ってるだけで、あの日の事は知らないはずだ。

 全てブラフだ、偶然だ、騙されるな。ここは知らぬ存ぜぬを通すのが最適解。

 反応したら負けだ。

 

「んー? ……まぁお兄ちゃんにそんな甲斐性ないか」

 

 そうそう、俺がそんな事をするはずがないだろう。

 そもそもアレが原因で熱が出たと決まったわけでもない。

 平常心平常心。

 さぁ、今度こそ粥を食おう。ふーふー。熱っ!

 

「あ、そういえば知ってる? さっきテレビで言ってたんだけど。ここ、手首を左右からこうやってギューってして、皮を集めるでしょ? そうするとね」

「ほうふると?」

 

 気を取り直し、レンゲで粥を掬って口に含むと、小町がそう言って左手の手首を右手で握り込むようにしながら、そこに小さな皺を作って見せてきた。

 なんだろう?

 糸でも出るんだろうか?

 もしかして蜘蛛に咬まれて変な能力に目覚めた? 正体バレには気をつけろよ?

 あと怪人が現れたら一人で戦う前にスターク社長に相談しなさい? 本当、心配だから。

 あ、でもスターク社長はもういないのか……悲しいね……。

 

「唇と同じ柔らかさになるんだって、ここにキスするとキスの感触疑似体験が出来るよ」

「ぶっ!!」

「うわっ! きったなぃ! 何してんのさ! もぉー!!」

 

 完全にスパイダー脳になっていた所に不意打ちを食らい、俺は思わず口に入れた粥を吹き出してしまった。

 あああ、勿体無い。

 しかも布団に粥が飛び散ってしまった……最悪だ……。 

 

「お前が変なこと言うからだろ……」

「変なことって……え? もしかしてお兄ちゃん……」

「な、なんだよ……」

 

 俺が小町を責めながらティッシュを手に、後始末をしていると。

 小町がジト目で俺のことを睨んでくる。

 まさか……こいつやっぱり……あの日の事を?

 

「……もう試したことあるとか? うわー、そうなんだ? 自分の手首とキスしちゃったんだぁ?!」

 

 はぁ……。

 やはり知らないか……。そりゃそうだよな……。

 あの場に居たわけでもないのに、あの事を知っているはずがない。

 つまり、今までの話の流れは本当に全部偶然……全く心臓に悪い……。

 

「するわけないだろ……初めて聞いたわそんな話」

「およよよ……可哀想なお兄ちゃん。これから先手首としかキスできない寂しい人生を送るんだって理解してるんだね……。でも大丈夫、もしお兄ちゃんがいろはさんに見捨てられたら、慰めにほっぺにチューぐらいならしてあげるよ、あ、今の小町的にポイント高い」

「全然高くないから……」

 

 プラスどころか、せっかく夕飯持ってきてくれたポイントがチャラになったまである。

 本気で感謝したんだがなぁ……今の俺に“ホッペニチュー”は効きすぎる。

 いや、違う、違うな。認識を改めろ比企谷八幡。あれはホッペニチューなどではない、そう思わせるための何か……だったはずだ。

 ああ、もう……だから思い出させるなよ。

 もうあれから何日経ってると思ってるんだ……。

 

「はぁ……もういいから、そろそろ出てけよ、マジで感染るぞ」

「はーい、そんじゃお大事に。あ、鍋は部屋の前に置いておいてくれたら回収するから!」

「おう」

 

 とにかく今はもう一刻も早く出ていって欲しい。一人になりたい。

 そんな思いを込めて溜め息交じりにそう言うと、小町がとててっと部屋から出ていき、漸く部屋の中に平穏が訪れる。

 ふぅ、これでようやく夕食にありつける。全く、なんなんだアイツは……。

 一色から聞いてたって事はないんだよね? え? ないよね?

 

*

 

 そうして更に時は過ぎ、三が日が終わっても熱が下がらなかったので病院に行くと、俺の熱の原因がインフルエンザだと診断された。

 まさに踏んだり蹴ったりだ。

 一応、弁明しておくと一色はただの風邪で既に快復済み、検査にも引っかかっていなかったらしいので、どうやら一色の風邪が感染(うつ)ったとか、その……一色にされたアレが原因という訳ではない事が証明されたわけだ。

 良かった……。

 

 そもそも、アレはアレだしな。うん。

 海外だとほっぺにキー……ぐらいは普通だっていうし?

 ほら、なんかそういう、アレだったんじゃないの?

 挨拶? 的な?

 アイツあの時熱出てたし?

 総武受けられるようになって、テンションも上がってたから訳分からなくなってやってしまったという可能性が非常に高い。

 第一、アイツが好きなのは葉山な訳だし?

 俺でなくても同じ事をしていたのだろう。

 それに、頬だからな。ほっぺなら色々セーフなんじゃないか?

 ほら、兄妹とかでもイタズラでする事あるだろ? そんな感じのアレ。

 小町もそんなような事言ってたし?

 まぁ俺小町にされた事なんてないけどな。

 うん、こうやって冷静になって考えてみても、やはり変な意味は無さそうだ。

 むしろ葉山に悪い事をしたまであるな。

 

 そう、アイツの総武行きの目的は葉山。そのために受験も頑張っているのだ。

 俺が変な勘違いをする隙もない。

 例え今年一年許嫁という関係を続けた所で、来年には黒歴史にしかならないんだからな。

 

 あと数ヶ月もすれば、お互い会話をする事もなくなり、そのうちあの二人が仲良く歩いているのを見かける事になるのだろう。

 それは学校の廊下かもしれないし、放課後の教室かも知れない。

 タイミングが悪ければ二人の唇が重なるその瞬間なんかも……。

 

 その時、俺はあの唇が俺の頬に当たった時の事を思い出したりするのだろうか?

 うっ……なんだか胸が苦しくなってきた……。

 まだインフルが完治していないようだな。

 既に一般化された病とはいえ、年間の死者数も馬鹿にできない病気だ。熱が下がったとしても菌は体内に残っているわけで、だからこそ出席停止期間なんてものも設けられている。

 せっかく風邪から快復した受験生──一色の家にインフル菌を持っていく訳にもいかない。

 今はとにかくウイルスを根絶させるためにも今日も一日安静にするとしよう。

 

 ちなみに小町には感染ったので、もう手遅れである。

 まあ一色とは違い、こっちは確実に俺から感染したようなものだから申し訳ない気持ちはある。今年受験じゃなくて本当に良かった。

 来年は一緒に予防接種受けようね。

 

 

***

 

 そんなわけでインフルエンザ騒動で冬休みのほとんどを無駄にし、冬休みも残すところあと僅かとなった訳だが、熱が下がった最近は潜伏期間の事も考えてLIKEでのビデオ通話で、一色の様子を見ながらの授業をしていたりする。いわゆるリモート授業という奴だ。

 といっても、俺が授業をするのではなく、どちらかというと一色を監視している感じ。

 まあ正直俺としても、顔を合わせ辛いという思いは多少あったので、このタイミングでのビデオ通話は少し助かったまである。

 

『センパーイ、ココやっぱ意味わかんないですー』

「ん? どれ?」

 

 年が明けても、一色は勉強三昧だ。

 あの日の事などまるで無かったかのように、変わらずに接してくる。

 寧ろ俺のほうが拍子抜けしてしまったほどだ。

 いや、より正確に言うならば、去年ほど切羽詰まった表情はしなくなっているので、多少の変化はあったのかもしれない。

 おっさんの試練が終わり、余裕が出来たというのもあるのだろうが、だからといって受験に対する熱量が減ったわけでも無さそうなので、一応一安心というところか。

 やはり、あの時の事は熱で舞い上がっていただけで、変な意味は無かったという事なのだろう。残念。

 

 ん?

 ……残念?? 何を残念に思う必要があるというんだ? どうやら俺もまだ本調子じゃないみたいだ、しっかりしなければ。

 

 充電器に刺したままのスマホには熱心に机に向かい、殆ど頭しか映っていない一色の姿が映っている。

 正直、この状態だとビデオ通話である意味があるのかは疑問だが、切ろうとすると烈火のごとく怒られるのだから仕方がない。

 一色いわく「出勤と同じ扱いなんだから、ちゃんと繋げておいて下さい」との事なのだが。

 いや、これで金貰うのは流石に違わないか?

 おっさんの許可取ってんの?

 こんなんで金貰えるなら全世界の家庭教師、このシステム導入すればいいのに。

 リモート家庭教師。

 出勤もせず、この環境で金貰えるなら、将来の夢に追加してもいいまである。

 

 実際、今もカメラに映らない角度でラノベを読んでいたりするからな。

 傍から見れば随分不真面目に思われるかもしれないが、一色が集中している間は暇なので仕方がない。

 偶に軽口を挟んでくるぐらいの事はしてくるが、基本的には勉強している一色の姿がスマホの画面に映るのみ。

 普段と違いノートの中身も確認できないので、こちらから声をかけて邪魔をするわけにも行かず、延々その様子を見せられているだけで、BGMはシャーペンの走る音のみ。

 ラノベに手を伸ばしてしまうのも仕方ない事だろう。

 なんだか、特殊なIV(イメージビデオ)でも見ている気分だ。IV見たこと無いけど。その手の作品が大好物な人には怒られそう。

 まあ、それでも何か言われたら返答はするのだし、完全にサボってるわけでもなく仕事なのだから寛大な心で許して欲しい。

 

『ここです、この図形問題。長さ求める奴!』

 

 って、そうそう今はラノベ読んでる場合じゃなかったな。

 こういう時はちゃんと対応しなければ。

 俺は読みかけのラノベとスマホを持ち替え、アップにされた問題集に目を走らせる。

 それは円の中に二つの三角形が描かれ、至る所にアルファベットが置いてある図形のページだった。

 見ているだけで頭がクラクラしてくる。

 正直、数学に関しては他の奴を頼って欲しいんだよなぁ……。

 自慢ではないが、ニ学期末の数学では散々だった身で、もはや順位も平均を大きく下回って来ている。

 一色のバイトに時間を割かれているからというのも多少はあるのだが、ソレを抜きにしても次の数学のテストはワーストから数えた方が早いレベルまで落ちているだろう。

 俺は根っからの文系なのだ。 

 

「あー……数学はあんま俺に頼らないで欲しいんだが……」

『なんでですかー。こういうの解けるようになっておかないと、点数上がらないじゃないですかー』

「んー……っていうか、それ確か正答率ゼロパーセントとかいう奴だろ? やらなくても別に良いよ。むしろもっと他の所で点を取れ」

 

 一色が見せてきたスマホの画面に映したそれは、確か去年俺も挑戦した超難問。

 ネットでも話題になった正答率ゼロパーセントという図形問題だった。

 いやもう解かせる気ないだろ。なんだよゼロパーセントって。

 もう完全に嫌がらせじゃん。

 

『え? だってこういうの解いたほうが点数上がりますよね?』

「そこまで難しい問題になると、どうせ他の奴も間違えるんだから時間取られるだけ無駄だ。寧ろ他の奴が落とさない所を落とさない用にすればいいんだよ」

 

 そう、正答率が低い問題は、他のやつも正解していない可能性が高い。

 つまり自分が間違えても大して問題はないのだ。言ってしまえば誤差。

 寧ろ、試験では取れるべき所できちんと取る事を意識する方が遥かに大事だったりする。

 なまじムキになって解こうとすれば時間も取られてしまうし、早めに見切りをつけるスキルも大事だからな。

 勿論、成績トップとかを狙うなら話は別だし、正解できるに越したことはないのだが……。

 

「今は九十五点を百点にする努力より。確実に八十点を取る努力をしろ」

 

 今の一色に必要なのはケアレスミスをしない事だ。

 例え満点を取れなくても、合格さえできればいい。

 だから、あまり余計な事に時間を使わせたくはない。

 よほど時間が余っている時でもなければ、こんな難問は無視で良いだろう。 

 

『……はーい……』

 

 俺の言葉に納得したのかしていないのか。

 画面の向こうで一色は渋々という感情を隠そうともせず、唇を尖らせていた……。

 唇を……唇……うっ……頭が……。

 

『でも、それだとやっぱり数学やるしかなくないですか?』

「ん? なんで?」

『私、他の教科に比べて、数学だけ点数低いんですよ。全教科確実に八十点取るならやっぱり数学からは逃げられないかなぁって……』

「あー……」

 

 確かに、言われてみれば一色も決して数学が得意という方ではなかった。

 いや、特別悪いという訳でもないのだが、他に比べると幾らか数学だけ悪い。

 だがそれは一色が問題というより……。

 俺に問題があるんじゃないのか?

 ココに来て完全に俺が家庭教師になったという事への弊害が出てしまっていた。

 

『センパイ?』

 

 結局の所、俺は家庭教師としての努力を怠ってきたのだ。

 元々一色の成績はそれほど悪くはなかった。

 初見の問題に弱く、ケアレスミスが多いという弱点こそあったが。

 他の教科の成績は十分に伸びている。

 ならば一色の数学だけ伸びが悪いのは明らかに俺の怠慢。

 俺が得意科目を優先してしまった結果とも言えるだろう。

 少なくとも、今日までその考えに至らなかったという責任はある。

 まぁ、より厳密にいうならおっさんのせいなんだけども……。

 

『せっかくのビデオ通話なんだからちゃんとカメラの方見て下さいよー』

 

 しかし、そうは言っても実際何をどうすればいいのか?

 去年の模試でB判定だったという事を考えても、恐らく現段階での一色の総武合格率は六~七割といった所。いや、もしかしたらもう少し高いかもしれないが、正直もう一割は上げておきたい。

 結局どう足掻いても数学のレベルアップは必須で。

 数学を上げるべきという一色の意見は最もだ。

 

『センパーイ、おーい、聞こえてますかー?』

 

 どうにか数学の点数をもう少し伸ばせないだろうか?

 苦手分野のレベルを上げる。それは受験対策としては間違っていない。

 でも今更数学だけ別の家庭教師を雇うなんておっさんが許可してくれるとも思えないし、塾も同様だ。

 

 となると残された選択肢は……仕方ない……結局、俺がやるしか無いのか……。

 

「よし! しばらく数学メインで行くか」

『わわ! びっくりさせないでくださいよ!』

「? 何してんの?」

 

 俺が改めてそう決意すると、一色が驚いたような声をだし、スマホの画面が大きく揺れる。

 どうやらスマホを落としたらしい、何やってんの? ちゃんとスタンドに立てて置きなさい? うっ……まともに見てると画面酔いしそう。

 

『あ、いえ。えっと、数学……ですよね?』

「ああ、なんか問題ある?」

『いえ、ないです、よろしくお願いします!』

 

 ようやく画面に戻ってきた一色はそういうと勢いよく敬礼のポーズを取り、カメラに視線を向けてきた。

 真面目なのかふざけているのか、判断に悩む所だが……本当、頼むぜ受験生?

 

*

 

 それから一色との数学強化月間が始まり、冬休みも終わって、すっかり体調も快復した最初の日曜。俺は休日を返上して一人、図書館へとやって来ていた。

 

 図書館に来るのは実に一年ぶりだろうか。

 去年は受験勉強で結構世話になったんだけどな、気がつけば随分足が遠のいた。

 地味にラノベも置いてあるから、金欠の時なんかも重宝してたんだが、最近はバイト代があるので態々借りに来ることもなくなったからな。

 都合の良い関係って案外こういう事なのかも知れない。

 図書館を萌え擬人化して「図書館(ワタシ)……いつでも君を待ってるからね……」とか言わせたらワンチャン人気出たりしないだろうか? 

 

「悪いな、もう図書館(おまえ)は用済みなんだ……」

「待って! 図書館(ワタシ)を見捨てないで! あなたの言うことなら(本のリクエスト)聞くから!」※県内の図書館に在庫があれば一週間程度でお取り寄せ可能です。

 

 って感じのポスター刷ればバズって二次創作が出来……ないな。

 アホな事考えてないでさっさと中入ろう、また風邪引いたら何言われるか分かったもんじゃない。インフルの時は随分恨み節を聞かされたからな……。

 俺は小町の怒り顔を頭に浮かべながら、図書館の中へと入っていく。

 ふぇぇ……図書館ちゃんの中温かいよう……暖房効きすぎぃ……。

 やめよ、なんか虚しくなってきた……。

 

 さすがに受験間近ということで、図書館の中は受験生の姿も多く、個人スペースはほぼ満員のようだった。

 まぁそれは仕方ない。俺も去年は席予約とかしてたしな。

 なんだか、懐かしさすら感じるが、今は感傷に浸っている時間も勿体ないか。

 とりあえず使えそうな本をピックアップするとしよう。

 『分かりやすい数学』『数学の教え方~数学教師になるために』『数学の理解力を高めるなら~今っしょ?~』『ダイオウグソクムシでも分かる図形問題 中学編』『本当はエモい数学』

 うん、ちょっと古い本もあるが、まぁこんな所か。

 本だけ積み上げても意味はないし、あんまり本を独占するのも問題だろうからな……。

 

 俺は、ざっと目についた数学関連の書籍を数冊手に、人の居ない角の共用テーブルへと陣取った。

 こちら側は個人スペースとは違い、混んでいるという事もなく、完全独占状態なので集中できそうだ。

 よし。

 

 俺は気合を入れて、一冊目の表紙を捲る。

 う……もう眠くなってきた……。いかんいかん。

 だが暫くは数学をメインでやると決めたからな、しっかりしなければ。

 俺がレベルアップすれば、一色もレベルアップ出来るはず。

 後数ヶ月しかないが、だからこそ少しでも理解しやすい教え方を覚えて帰る。

 例え付け焼き刃であっても、数学教師のノウハウを身につける。

 それが今日の俺のメインミッションだ。

 

 そのために今日は一日空けておいたんだからな。

 どうせまたすぐバイトだし……。

 いや、っていうか実質コレもバイトみたいなもんか。

 なんか、俺の生活がどんどん一色に侵食されていくな、困ったものだ。

 受験が終わったらバイト代とは別枠で何か請求してやろう。

 おっさんじゃなくて一色に。

 まぁ、それも受かったらの話か、逆に落ちたら請求されるまである。

 って……うわ、マジで何か請求されそう。

 怖っ。

 と、とりあえず今はやれることをやるとするか。

 

「あれ? 比企谷?」

 

 しかし、そうして入れた気合に水を指すように、突如背後から声がかけられた。

 誰か来たようだな……なんだ? 宅配か?

 って違う違う、ここ自分の家じゃなくて図書館じゃん……え? 誰?




おっと誰かきたようだ……。

というわけで53話でした。
また少し繋ぎ回が続く感じとなりますが
一年生編ラスト突っ走るぞー!という事で。
今週もなんとか間に合わせました。

ただ、既に古戦場が始まっておりますので
誤字チェックがいつも以上に甘くなっております。
見つけた方はお手数ですが報告いただけると助かります。

感想、評価、誤字報告、お気に入り、メッセージ、古戦場中でもいつでもどこでもお待ちしてます!

※(2021/04/07~2021/04/14)の間にここを見ている騎空士の皆様へ

<●><●> アレ? 本戦ハジマッテマスヨ?

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