やはり一色いろはが俺の許嫁なのはまちがっている。   作:白大河

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3月ももう終わりですね。
本日、我らが一色いろは嬢の「中の人」
佐倉綾音さんが新サクラ大戦のメインヒロインになったという情報を発見してテンションが上がったので一気に仕上げてみました。
今回は分割した分の投稿となります。楽しんで頂けると嬉しいです。



第7話 マッドティーパーティー

 目的階に到着したエレベーターを降り、二人で廊下を歩く。

 ゴミひとつ落ちていないその綺羅びやかな廊下はマンションというよりはまるで高級ホテルのような作りだった。高級ホテル行ったこと無いけど。

 

「つきました」

 

 『一色』のプレートが飾られた堅牢な扉の前で足を止めた一色は俺の返事を待つことなくドアノブを捻る。ちょっとまって心の準備が……!

 

「ただい……」

「おかえりなさーい!!」

 

 ドアを半分ほど開けると同時に出迎えの言葉が掛けられ、パンっと炸裂音がした。一色の頭に細かい紙切れと紙テープがひらひらと舞い落ち、火薬の匂いが周囲に漂ってくる。どうやらクラッカーが鳴らされたようだ。

 突然のことに驚いたのか一色もその大きく丸い瞳をぱちぱちと瞬かせている。正直俺もびびった。だから心の準備が出来るまで待ってって言ったのに! あ、言ってないわ。

 

 硬直している一色に『大丈夫か?』と声を掛けようとすると、その一色を押しのけ、扉の奥から一人の女性が出て来た。姉……? 母……?

「あなたが八幡くんね、初めまして。一色もみじです♪」

 一色と同じ亜麻色の髪に、ヒラヒラとしたワンピースを纏った女性は土産を持っている俺の左手を両手で握り自己紹介をしてくる。

 

「あ、はい。初めまして、比企谷八幡。です……」

「あら? 駄目よいろはちゃん、お客様に荷物もたせちゃぁ……めっ!」

 

 もみじと名乗った女性は俺の右手から素早く買い物袋を取り上げると一色に荷物を渡し、幼い子供を叱るように人差し指でその額を叩いた。それはあくまで自然に、しかし俺に見られていると言うことを意識した動きだった。なんで分かるかって? だってチラチラと俺の方見てるもん。やはりあざとい。確実に一色の血縁であろう。

 

「ささ、入って入って。色々お話聞かせて頂戴?」

「ちょっママ!? 娘を置いて行かないでよ!」

 

 母だったか、一瞬「お姉さんですか?」と聞いてしまおうかと思ったが口に出さなくて正解だったな。そんなテンプレトラップに引っかかる俺ではない。

 かといって母親だという確証もない状態でむやみに言葉を発するような愚も犯さない。数多のラノベを読み漁った俺を舐めてもらっては困る。『石橋は叩いて、渡らない』が正解だ。叩いて待っていれば不審に思った向こう側から渡ってきてくれる、こちらから渡る必要はない。うむ、完璧な理論だ。

 そうして石橋の前で待っていた俺は一色母に引っ張られ、家の中へと招き入れられた、慌てて靴を脱ぎ、あまりの勢いに転びそうになるのをなんとか堪え、ドタドタと廊下を抜けると、四人掛けテーブルの椅子に座らされる。

 

「アイスティーでいいわよね?」

 

 戸惑う俺に考える暇を与えず、一色母はそう言うとテキパキと茶の準備を始めた、一色はブツブツと文句を言いながら買い物袋の中身を冷蔵庫へと仕分けている。

 俺はそこで小町から渡された(おそらく俺の自腹)の土産を渡す。今度は忘れないと决めていたからな。

 すると「気を使わなくていいのに」と言いながら一色と一色母は「ウソ! これ限定のめっちゃ高いやつ!」と驚愕の声をあげていた。一体中には何が入っていたのだろう? 限定で高いの? ちょっとそこkwsk(くわしく)

 

 少しして俺の前に氷の入ったアイスティーが振る舞われ、皿に盛られたクッキーがテーブル中央に置かれると、一色母は俺の正面の席に座り、両手の指をくみながら笑顔を向けてくる。

 一色は溜息を吐きながら、俺の隣へと座った。

 

「さて、改めまして私は一色もみじ。いろはの母です。これからよろしくね」

「あ、比企谷八幡です。今日から一色……いろはさんの家庭教師やらせてもらいます。よろしくお願いします」

 

 俺の返答にちょっとだけ不服そうな一色が視界に入ったが、まあここで『一色』呼びは流石におかしいだろう……。フルネームぐらい勘弁して欲しい。目の前にいる二人とも一色なわけだし……。と言い訳めいたことを考えていると今度は少し厳しい口調で一色母が次の言葉を投げかけてきた。

 

「『家庭教師』だけじゃないでしょう?」

 

 意地の悪い笑みを浮かべる一色母、そこには逃さないぞ。という確かな意思が感じられる。

 何を言わせたいのかはすぐにわかった、だが……と俺は隣の一色に一度だけ目配せをする。一色もその意図は汲み取ってくれたようで一度「はぁ」と溜息を吐くと諦めたように小さく頷いてくれた。どうやら許可が下りたようだ。許可制なのね、覚えておこう。

 

「えっと……いろはさんの許嫁……ということにもなってます」

「そこ大事よね♪」

 

 一色母はパンと手を叩き、楽しそうに俺と一色を交互に見つめ、うんうんと頷いた。

 いや、別にそんなに大事でもないし、寧ろ今日の訪問で一番いらない部分じゃないですかね? これから家庭教師に来てるのに許嫁感だすとか逆に心配にならないのだろうか? いや、別に心配されるような事をするつもりもないけどね……。

 もし小町がこんな男を連れてきたら俺は断固抗議するし、なんならサスマタ装備で家庭教師中も小町の部屋でずっと監視するまである。は? 小町の許嫁だと……? 許さん!

 

「じゃあ八幡くんは私の義理の息子って事になるのよね、あー、私男の子ほしかったのよね、やっぱり今からでも遅くないかしら? もうひとりふたり子供が欲しかったんだけど、色々タイミングが悪かったのよ。ねぇ、八幡くんは義理の弟と妹どっちがいいと思う?」

 

 俺が脳内『小町の許嫁』と戦っていると。一色母が今度は何やら家族計画めいたことを話し始めた、大丈夫かこの人……? 一体俺は何を試されているのだろうか? ごめんなさい私こんな時どんな顔をしたらいいかわからないの……。笑えばいいの?

 

「ちょっとママ! そんな話やめてよ!」

 

 どうやら笑わなくて正解だったらしい。一色の怒号がリビングに響き渡り、ギロリと睨まれる。一瞬ビクッとしちゃったけど、いや、俺なんもしてねぇだろ。冤罪にもほどがある。

 

「あら、いいじゃない、家族なんだから」

「センパイは家族じゃありません!」

「えー、そんな事いったら可哀想よ。ねぇ八幡くん?」

 

 我関せずを決め込んでいるのだから話を振らないで欲しい。何も言うことがない俺は「ははっ」と情けない愛想笑いを浮かべ、目の前のアイスティーで口をふさいだ。

 

「許嫁は一年で終わりだから! 家族にはならないの!」

「えー、そんなの認められませんー! そうだ! 私の事はお義母さんって呼んでね?」

 

 なんでこの人はこう、次から次へと爆弾をぶっこんでくるの? 何なの? ボンバーマンなの? 確実におっさんの血縁だとわかる。そういえば目元なんか楓さんそっくりだな。

 ということは一色父は婿養子だろうか? もし一色父も同じノリだったらどうしよう……? いや、さすがに父親ともなれば娘の許嫁にいい顔はしないか。しかしそれはそれで面倒くさい、一方からは許嫁を推され、一方からは拒否される。うっ……考えただけで気が重くなる。八幡は現代っ子なんだからもうちょっとデリケートに扱って!

 

 ともかく、ここで『わかりました』と『お義母さん』呼びを鵜呑みにするのは悪手だ、娘にもパパはすにも睨まれそうだしな……。

 

「あー……それは……どうでしょう?」

 

 俺は一色に視線を移し助けを求めた。お願い! いろはす! 僕の平和を守って!

 

「ほら、センパイも困ってるじゃん!」

 

 断固反対! と言わんばかりに一色がテーブルを叩き抗議をする。よし、その調子だ! いけ!

 

「うーん……じゃあもみじって呼んで?」

 

 しかし、それを聞いた一色母はさも名案を思いついたとでも言いたげに目を輝かせ代替案を提示してきた。

 楓さんといい、何故一色一族の女性は呼び方を指定するんだろう? 全国共通の知り合いのお母さんを呼ぶあの呼び方では駄目なんだろうか? そう、声を高らかにあの名で呼ぼう。

 

「おば……」

「もみじって呼んで?」

 

 どうやら駄目らしい、食い気味で訂正されてしまった。そして目が笑っていない。怖い、ママはす怖い。背筋に冷たいものが走る。あれ……? おかしいな、手が震えているぞ? 風邪かな?

 

「モ・ミ・ジ、って。呼んで?」

 

 三回目はやけに低音だった。心なしか周囲の温度が下がった気さえする。恐らくこれが最後通告というやつなのだろう。

 『断ったら何をされるかわからない、死にたくなければ従え』俺の本能がそう告げていた。

 

「もみじさん……」

 

 俺は諦めて悪魔に魂を売った。一色が横で「うわぁ……」と声を上げている。仕方ないだろ……。俺はまだ死にたくない。

 

「はい、よく出来ました♪ いろはも名前で呼んでもらえばいいのに」

「うるさいなー! 私はいいの!」

 

 やいやいと言い合う二人に挟まれながら俺は再びアイスティーを胃に流し込む。女三人寄れば姦しいというが、二人でも十分すぎるな。まあうちも小町とお袋が揃うとうるさくなるし、娘がいる家というのはどこも似たようなものなのだろうか?

 

「ねぇねぇ八幡くん、いろはとはLIKE交換してるんでしょ? 私とも交換しましょ?」

「ママは連絡とる必要ないでしょ!」

「あらーそんな事ないわよ。私だって八幡くんとお話したいわ。許嫁だからって独り占めはよくないわよ?」

「独り占めとかそういうんじゃないから! 恥ずかしいことしないでよー!」

「ええー? 恥ずかしくなんてないわよね? 八幡くん?」

 

 もうどうにでもしてくれ。俺は目の前のクッキーに手を伸ばし、口の中に放り込んだ。美味い。小町にも食べさせてやりたいぐらいだ。

 相変わらず言い合いを続ける二人を横目に、続けて二個、三個と口に放り込む。

 

「あ、そのクッキー気に入った? いろはちゃんの手作りなのよ? どう?」

 

 ここにも地雷があった。くそ、迂闊に手を出すべきではなかったか。

 

「あ、美味い……です」

 

 横に座る一色を見るとフフンと鼻を鳴らし得意気だ。なんかむかつく……!

 

「なんですか? こんな美味いクッキーを食える俺は幸せものだとでも言いたいんですか? 家庭教師の初日にプロポーズとかちょっとそういうの考えられないので無理ですごめんなさい」

「いや、そんな事一言もいってないだろ……」

 

 丁寧に膝に手をついて、きっちりお辞儀姿勢でのごめんなさい。もう今日何度目? なんなのこれデジャヴ?

 

「あら、じゃあ私が八幡くん貰っちゃおうかしら? いろはちゃんにクッキーの作り方教えたの私なのよ? 食べたかったらいつでも作ってあげるから言ってね?」

「ママっ!」

 

 またしても言い合いを始める二人に思わず隠しきれないほどの大きな溜息をついてしまった。

 こんな調子で一年本当にやっていけるだろうか? やっぱ辞めさせてもらおうかな……。

 

 というか今日って家庭教師に来たんだよね俺? いつまでお茶飲んで談笑してんの? この時間って時給発生してるのかしら? 今はただそれだけが気になった。




というわけでやっとママはすの登場となりました。

一応ここで一色家の人々(オリキャラ)のおさらいをしておきたいと思います。

・一色縁継(むねつぐ)
 いろはの祖父

・一色楓(かえで)
 いろはの祖母

・一色もみじ
 いろはの母

いろは→いろはもみじ→もみじ→楓
という連想ゲームですね(汗)

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