side エシ
『さあ、来てくれ。ここが君の
美しい。
『エシ』の人生はあの日あの瞬間から始まった。
本名「
母親は女の子を望んで出産したが、男の子として生を受ける。両親は幼いころに離婚し、母親に引き取られた。母親は『私』が生まれる前に女の子を流産しており、母親は『私』に「女の子」を求めていた。幼い頃から女性用の服を母親に着せられて、育ってきた。成長するにしたがって化粧や髪のセットも行い、『私』に女装を徹底させた。成長するに従い、性別の違いというものが分かってきたため、女装を嫌がったこともあったが、その時は『私』の意識がなくなるまで『私』を殴り続けた。
そんな母親が唯一許してくれた趣味が「絵を描くこと」だった。母親は『私』がその姿を絵に描くとひどく喜んでくれた。
周りとの差異を感じながら母親の奇行に従う日々。
そんな時、あの動画を見た。
―――美しい。
最初に見た感想はそれだけだった。
『あの方』が話している内容なんて耳に入らなった。
ただただ、その容貌に目を奪われた。
3回ほど見直してからようやくその内容が頭に入ってきた。
だけど、
美しいものを描きたい。そう思って動画の中の『あの方』をスケッチする。
時間を忘れる。
『あの方』が動く1コマ1コマを描写したい。
走り出したペンは止まらない。
ただひたすらにスケッチブックに『あの方』を描く。
…
『---!----!』
途端、スケッチブックが乱暴に奪われたことで、母親が帰ってきたことに気が付いた。
「おかえりなさい。お母さま。」
『何よ!この絵は!男の人なんて描いて汚らわしい!』
そう吐き捨てるとともに、スケッチブックがビリビリと破かれる。
視界が一瞬にして真っ白な世界に変わった。
気が付いた時には、
―――あぁ、『あの方』のもとに行こう。
これが『エシ』のオリジン。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
だから、あの日、あの裏路地で『あの方』に会えたのは奇跡だったんだ。
目に止めてもらい、
出向組として、死穢八斎會に付いてこれたのは僥倖だった。
『あの方』と同じ時を同じ空間で過ごせる。それだけでも幸せだったのに、『エシ』の絵についても褒めてくれた。
あの時はもう死んでもいいと感激して涙してしまった。
そんな幸せな日々。
これからもずっと続けばいいなと思った。
死穢八斎會の本拠地邸宅前では死穢八斎會の鉄砲玉たちがすでに鎮圧されていた。
門の前に2人の人影が見える。
黄緑がかったカールした髪をベレー帽で抑えている中性的な人物と、対照的に派手な真っ赤なドレスを着こなす容姿端麗な美女だった。
「
「えっ!?あんたそんなしゃべり方だったの?ティキの前では猫被ってたの?」
「ティキ・ミック様だ。美容オタク。」
「まぁ、
「聞きなさい!私たちはヴィラン連合!ここから先、門を通りたいなら死ぬと思いなさい!」
その言葉と同時にエリアーデの周りには無数のシャボン玉が現れる。
そのシャボン玉に触れた5人ほどの警官が一瞬にしてミイラに変わった。
それを見たねじれは「波動」で一部のシャボン玉を壁へと吹き飛ばす。
「みんな!気を付けて!このシャボン玉に触っちゃダメ!」
そのままシャボン玉を吹き飛ばした少女とエリアーデの中距離での弾幕戦になった。
シャボン玉の一部が吹き飛ばされたことにより、エリアーデまでの道ができる。
そこを、接近しようとする人影が2つ。
「ねじれ先輩が作ってくれた道で本体を倒す!」
「ケロ!」
「
エシがエリアーデのカバーをする。
それぞれに1撃加えたところで距離を置かれてしまう。
「体が重いわ。」
「あの子の個性!?」
「ティキ・ミック様の所には行かせないよ。」
エリアーデの元へ向かう少女たちにそれを阻むようにしてエシが立つ。
「私たちに何をした?」
「クックック、君たちに明日はないよ。」
職場体験で接近格闘術を学んできたお茶子が接近戦を仕掛けようとするが、体がいつものように動かずに、2発貰ったところで撤退する。
「エシの個性は『加重』。エシに触れば触るほど重くなる。お前はもう立ってるのもやっとなんじゃないか?」
「そういうことね。それならウチの個性で対応できる。」
そういうと、お茶子は自分の身体をペタペタと触る。
「よっし、気持ち悪いけどこれで元通りや!」
そう言うと再び接近してインファイトを仕掛ける。
お茶子が激しいラッシュをエシに仕掛けるがその度にお茶子の身体には「加重」が掛けられており、最早個性を解除したらペチャンコになることは確実になっている。
そんな中、お茶子はエシに語り掛ける。
「エシって言ったっけ?アナタ『
「
「…そうなんだ。」
「エシはただ『あの方』のお傍にいたいだけだ!」
お茶子の言葉に反応したエシが反撃を開始した。
もう、お茶子の身体は彼女の個性をもってしても立っているのがやっとなほど「加重」を受けている。
「あはははは!踠け。踠け。踠け。踠け。」
エシのラッシュをお茶子は棒立ちで受け止める。
お茶子は自分の身体をペタペタと触り己の限界を超えて軽くする。あまりの重さに嘔吐くが「フロッピー」に指示を出す。
「梅雨ちゃん!上げて!」
指示を受けた梅雨が舌でお茶子をエシの上空へと投げた。
その様子をエシは一瞥し、落胆する。
「
しかし、お茶子のその瞳にはまだ希望の炎が灯っており諦めてなどいなかった。
いや、もう
「いいえ…チカラは…あなたがくれた。
それにね。
私たち同じ匂いがするから分かるんだ。
ソノ気持ちをね。人は恋っていうんだよ。」
「エシの気持ちをそんな物と一緒にするなー!」
丁度、エシの頭上に到達した瞬間、お茶子は自身の個性を解除した。
エシの個性により何十倍もの重力の影響を受け通常の何倍ものスピードで落下する。
事態に気が付いたエシが個性を解除する。
が、圧倒的な初速をもって放たれたお茶子の身体という弾丸は人型の純粋な運動エネルギーの塊となり彗星のような勢いをつけエシへと落下していく。
避けようにも間に合わないし、なにより。
足掻いて避けようとも思わない。
その威力を全てこの身で受け止めよう。
お茶子の決死の覚悟に答えるようにエシも決死の覚悟で受け止める。
初めて『あの方』に頼ってもらったんだ!
『ヴィラン連合として箔を付けてこい。』
まだ『エシ』は始まったばかりなんだ!
『
こんな所で負けてどうする!
『さあ、来てくれ。ここが君の
「うおおおぉぉぉ!」
―――あぁ、エシはお約束を守れそうにないです。
―――そんなエシをアナタは許してくれますか?
―――ティキ・ミック様。
エシがすべてを受け止めたことにより、一瞬。
そう、一瞬だけ間ができた。
その一瞬に事態は急変する。
エシの足元から、守ろうとした地下から、塗装されたアスファルトを突き破って黒いムカデのような触手が無数に蠢きながら這い出てきた。
その様子は巣をつつかれた蜂が防衛の為に勢いよく飛び出してくるかのようだった。
エシとお茶子の覚悟を歯牙にもかけず、無数の黒いムカデは天に向けて伸びる。
無数の黒いムカデの直撃を受けたエシは足を一本その触手にもぎ取られ、その余波を受けたお茶子はエシとの衝突の衝撃も相まって全身に傷を負い、気を失いながら吹き飛ばされる。
エシも衝撃、痛みのショックを受けて気を失いそうになったが、地下にわずかに見えた無数の黒いムカデの発生源、黒い騎士のような姿をした男性の姿を見てその狂いに狂った気勢で意識を保つ。
あの身長、あの肩幅、手の長さ、足の長さ、腰から首にかけて究極美といえるそのライン。他の誰が見て分からなくても自分にだけは分かる。ひたすらに思い、
地下を制圧した『あの方』が触手を使い地上へと這い出して来る。
先程まで苦しみ喘いでいた痛みがその姿を見て、歓喜により上書きされる。
「…あぁ!やっぱり、『あなた様』は天使だ!
おぉ!神よ!ハレルヤ!アーメン!
万歳、万歳、おおぉぉォッ、万歳ァィ!
黒い騎士はそのまま宙に浮かび、地上にいた人物を見境なく無数の黒いムカデで襲い、嗤っていた。
竜の姿のヒーローはお茶子や梅雨を回収しながら防衛できているが、一定以上の実力のない者、警官隊や無力化されたヤクザたちはその触手の波に飲まれていく。
『ひははははははははっ♡』
一見狂気に染まっている表情が、ずっと『彼』を観察していたエシには嘆き、悲しみ、怒り、弾劾するように。
まるで子供の癇癪のように激しく。
『彼』を見ることに夢中になっていたエシの周りに黒い靄が立ち込める。
黒霧さんがマグ姉を引き連れ現れた。
「エシ、緊急事態です。急ぎ避難を。アナタとマグ姉が最後です。」
「エシちゃん!アナタ足が!急いで止血しなきゃ!早く行きなさい!アタシは最後でいいわ。」
「ダメです。」
2人の心配をよそにエシは
この身がどうなろうと構わない。
ただ、『あの方』の為にあろう。
それが『
「マグ姉、私を『あの方』の元へと飛ばして。」
「何言ってんの!近づいたらアレに巻き込まれちゃうわよ!」
「そんなことはどうだっていい!!!」
私はマグ姉に視線を合わせ叫ぶ。
こんな時間1秒ですら惜しい。
「私は!ティキ・ミック様の為に
「「…/…。」」
「ティキ・ミック様が苦しんでる時!見捨てるようなことをすれば『
…頼む。
最早、余力が尽きかけてその言葉はかすれるようにしか出なかった。
血を失い過ぎたようだ。
両腕も心なしか青白い。
少しでも気を抜けば意識が飛びそうだ。
マグ姉が黒霧さんの肩を掴んで話し出す。
「…いい顔するわね。エシちゃんあなたの本名は?」
「
「
自嘲気味に笑いながら這いつくばる私に肩を貸して立ち上がらせる。
腕力をもって体格差のある私の身体を支えてくれる。
「アタシはね。彼の
…でも。
「
至近距離で、そのサングラス越しに視線を合わせて私に微笑みかける。
そして、その両腕で私を包み込み抱きしめた。
耳元で小さく囁く。
「あなたの想い。ちゃんと伝えてきなさい。」
「はい!」
「なにを言ってるんですか!撤退を!」
「ごめんね。黒霧ちゃん。アタシ愛の戦士だからこういうの弱いのよ。」
そういうとマグ姉は私を黒霧さんへと渡し、その背後に回り両肩に手をかざす。
少し悲し気に私に
「
「はい!
反発合流
空中で『エシ』に生まれ変わってからの幸せな時間に思いを馳せる。
そして、辛かった『
『私』は2人で
どちらも欠けてはいけない。
全てを『あの方』に捧げると決めたのだから。
空中で黒い触手が私に向かってくる。
だけど、止まらない。
そばにいるって決めたから。
触手に下半身を持っていかれたが勢いは未だに衰えない。
真っすぐに『あの方』へと向かっていく。
…
そして、遂に黒く染まった体に手を伸ばせば届くという距離まで飛んできた。
両腕を真っ直ぐ『
なめるな。
そこら辺の有象無象と一緒にするな。
私たちは
『
この手は届く!
勢いのまま伸ばした手は彼の背中まで伸び、私の身体は彼の身体に
そのまま、優しく抱きしめるようにして彼に個性を使う。
下半身を失い最早、痛みすら感じることができなくなってきた。
それでも彼に語り掛けよう。
「…あぁ。ようやく『あなた様』に触れられた。」
万感の想いを込めて出た言葉がこれか。
我ながら自己中な言葉で呆れてしまう。
だけど、今際の際だ。思っていたこと、封じていたこと、全てさらけ出してしまおう。すでに数度触っており、急激に増えた重力に従い落下していく。
「『わたし』は『あなた様』に巡り合えて良かったです。」
『………。』
「…何故、そんなに嘆き悲しんでいるのかは分かりません。」
でも
「大丈夫です。
そう言い、地面落ちた『
『
その掌には知らず知らずのうちに流れ出した涙が伝っていく。
「…なんでも言って、ちゃんと聞くから。」
その瞬間、兜が割れ『
まるで、穏やかに眠るその表情からは先ほどまでの
―――美しい。
どこまで行っても私は彼に心酔しているようだった。
1秒でも長くそのお顔を見るために見つめる。
涙でぼやけた視界がうっとおしい。
幻か苦痛の果てに見た幻覚か彼の眼が開かれる。
「…エシ?何してんの?」
「!…ティキ・ミック様。…エシは…
あぁ、幻覚ではない。
お目覚めになられたのだ。
血をせき込む我が身が恨めしい、その御身を血に染めてしまった。
自責の念が湧いてくるが、言葉にできない。
もう、それほどまでに終わりは近いようだった。
御身は私の心配などしなくていいのですよ。と目線で話しかける。
私の状態を心配そうに確認した後、彼は
「あぁ、お前のおかげだ。
そう言いエシの頭に右手が伸び、
あぁ、視界がぼやけたところから闇に染まっていく。
この気持ちを!
感謝を伝えねば!
『
言うことの聞かない身体を無理やり動かして笑みを返そうとする。
『
「…エシ!…生まれて良かった。『
『私の
最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想欄でエシの退場を悲しんでいただき嬉しかったです。
エシの容姿は『シノアリス』のキノピオです。
キャラの特徴としては『依存』、『絵描き』、『無自覚』を設定としていました。
中性的な容姿のため、お茶子は女の子だと勘違いしていました。
イノセンスなんてものが無いため、覚醒状態を止めるためには触れることが可能な人間が制圧をしなくてはいけませんでした。
描いていて好きでしたが無念の退場です。
「…なんでも言って、ちゃんと聞くから。」
作者の大好きな小説のアニメ版では無くなった告白です。
あの葛籠ちゃんと回収して欲しかった。
この一言にエシの全ても詰まってます。
今後も拙作をよろしくお願いします。
最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m
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