少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 今後主人公の考えがぶれていても気にしないでください、以前と違う事を言っていても、考えを改めたか、作者が忘れているだけです。

 この作品の注意事項

・作者の自己満足

・素人の作品

・主人公最強

・ご都合主義

・辻褄が合わないかもしれない設定

・注意事項が増える可能性

 等が含まれます。

 以上をご理解したうえでお読みください。

 読者の皆さんの暇潰しの一助になれば幸いです。





010

 

 ん?空に大きな何かが飛んでるな、あんなもの昔は居なかった。

 

 草原を歩く私は不意に出来た陰に空を見上げる。

 

 獣人の群れを離れ、今までの生活で人々と過ごす楽しみを覚えた私は新しい環境を求めるようになった。

 

 当てもなく旅をして出会った人々に関わる、良いかも知れない。

 

 様々な人々や土地……時には戦う事もあるかもしれないが、戦う事は好きではないが嫌いと言う訳でもない。

 

 森の木々を眺めながら思う。

 

 私だけなら余裕を見せるかもしれない……が、死なれては困る存在を守る時は容赦はしない、余裕を見せて守れなかったら意味がない、確実に排除する。

 

 ただ……拷問のような意味もなく苦痛を与えるような事はしたくはないかな?私は苦痛が分からないが皆を見る限り少ない方がいい……筈だ、情報が欲しければ頭を読んだりすればいいだけだしな、滅多に使わないが。

 

 ほう、こいつはモフモフだな。危機感が足りないのではないかこいつは。

 

 掌サイズの毛の塊のような生物をいじりながら歩く。

 

 私はこの頃、急いでいない時は魔法や能力をあまり使わないようにし始めていた、過程を楽しむと言うのか?何もかも簡単に出来てしまう、思い通りに出来る事がつまらなくなってしまった、今の私を過去の私が見たら「無駄に時間をかけるとは愚か者が」と言われそうだ、私の寿命がここまで長いとは思って無かったしな。

 

 ……今思えば魔法などの練習をしていた頃は楽しかったと言えるのではないだろうか、時間を忘れるほど熱中していた訳だしな。

 

 誰かを育てたり誰かの夢の手伝いをするのも悪くは無かった、出来れば何か対価が欲しいが気になった技術や気に入った者、興味がわいた事には首を突っ込むのも良いかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 自分が以前と少し変わったのを感じながら、当てもなく森を歩いていると森を抜け踏み固められた道に出た、各町をつなぐ道だろうか。

 

 む、あれは……商人か旅馬車か?

 

 遠くに三台の幌馬車が見える、商人か?そういえば売っている物を見た事は無いな、商人なら品を見せてもらおうか。

 

 「ん?何か用かいお嬢さん」

 

 馬車が来るまで待っていると馬上の男が声をかけてくる。

 

 「この馬車は商人の物か?もしそうなら品を見たいのだが……あなたが持ち主か?」

 

 「いや、俺達はただの護衛さ……ジャレンさんよ!客だぜ!」

 

 男が声を上げると、幌馬車の中から穏やかそうな茶色の髪の男が出て来た。

 

 「お待たせしました、アルベリク商店のジャレンと申します」

 

 ジャレンと名乗った男は軽く頭を下げる、この見た目の私にも礼を失しないか。

 

 「突然申し訳ない、遠くからこの馬車が見えたのでな、もしよければ品を見せてもらいたいのだが」

 

 「構いませんよ、気になる物がありましたらお見せします」

 

 そう言って紙を渡してくる、日用品に雑貨、食料、調味料か……試しに食料の干し肉を買ってみるか。

 

 「干し肉を一つ貰おうか」

 

 「かしこまりました、一つ五百イェンになります」

 

 ……あっ、今まで金を使った事が無いから持ってないじゃないか。 

 

 「……すまない、金がない事を忘れていた」

 

 「おいおい、金がないのに声をかけたのか?」

 

 護衛の男の呆れたような声が聞こえる、反論できんな。

 

 「おいくらなら持っているんです?」

 

 ジャレンが声をかけてくる、答えたくないが……。

 

 「……全く持っていない」

 

 そう答えるとジャレンは真剣な顔になり口を開く。

 

 「こんな所に何も持たず、お金もなく一人で?……何か事情がおありで?」

 

 真剣に聞いてくるジャレン、本気で心配されていそうだ。

 

 「あー、何処か私でも金が稼げる所を探しているんだが」

 

 咄嗟に言った事だが、金が欲しいのは間違いない、買い物がしたいとき盗む訳にもいかない。

 

 ジャレンは何か考え込むと私を見て言う。

 

 「もし、よろしければ家で住み込みで働きませんか?」

 

 突然私を雇うと言い出した、どういうことだ?

 

 「おいおい……ジャレンさんよ、わざわざこんな訳ありそうなガキ雇う事は無いんじゃないか?」

 

 護衛の男の一人が言う、確かに客観的に見ると怪しいな。

 

 「このままでは野垂れ死にです、一人の娘を持つ親として知ってしまったからには放ってはおけません」

 

 随分お人好しなようだが……騙されそうで心配になるな、怪しいと分かりながら手を伸ばすか。

 

 「それに娘と歳も近そうです、良い友人になれるかも知れません……どうでしょうか?」

 

 店か……良いな、この話受けてみるか。

 

 「お誘いお受けします、よろしくお願いします」

 

 そう言って彼に頭を下げた。

 

 「ジャレンさんが良いならいいけどよ、じゃあさっさと乗りな、余り遅れる訳にもいかねぇ」

 

 護衛の男に促され幌馬車に乗る、人が乗るための馬車らしく座れる場所があった……周りは商品だらけだが。

 

 「さて、これから君には家で働いてもらう訳だが……改めて挨拶しようアルベリク商店店主のジャレン・アルベリクだよ」

 

 そう言って手を差し出してくる。

 

 「クレリア・アーティアとい……言います、クレリアでもアーティアでも好きに呼んでください」

 

 握手をしながら答える、するとジャレンは笑いながら言う。

 

 「先程までの言葉づかいで構いませんよ、歳に不相応な話し方でしたがとても自然でした」

 

 「そうか、悪いな……後、私はこんな見た目だが既に成人している」

 

 手を放しながら言うと、ジャレンは困ったような顔をした。

 

 「そうですか、大丈夫です……これからは何も心配はいりませんよ」

 

 何か、変な風に捉えられた気がするな、まあ信じて貰えない事も多いからな。

 

 ……これなら大人の姿で行くべきだったか?しかしこうなると思っていた訳では無いから今更だな。

 

 「これからよろしく頼む」

 

 「期待していますよ」

 

 そう答えると、彼は御者席に移動して行った。

 

 

 

 

 

 

 その後大人しく馬車に揺られて夕方に差し掛かると、町が見えてきた。

 

 「あの町が私の店があるエスタラだよ」

 

 少し前に幌馬車の中に入ってきたジャレンが私に言う、比較対象が無いから町として大きいのか小さいのか分からないな。

 

 「町としては大きい方なのか?」

 

 「?クレリアさんはあの町から来たのでは無いのですか?」

 

 街道の途中で会ったからな、最寄りの町はここしかないのか?

 

 「ああ、私のいた所は森の中のでな、そこを出て来たのだ」

 

 嘘は言ってない、居た所は森の中の獣人の群れ……そこを出て来たのだからな。

 

 「なるほど……何があったかは聞きませんよ」

 

 「助かる」

 

 そんな会話をしながら夕暮れの迫る中、早足に馬車は町に向かって進むのだった。

 

 

 

 

 

 

 「まずは部屋の割り当てかな、後は皆への紹介だ、その後食事をしたら今日はもう休んで、説明は明日にしよう」

 

 到着時、外はもう暗くなり始めていた、数人の店員らしき人々が荷物を運び込んでいるのを横目に見ながらジャレンについて裏口らしき入り口から中に入る。

 

 店舗らしき建物はあまり大きくは無いが生活する建物はそれなりの大きさだった。

 

 私の部屋は二階の角でシンプルな狭く簡単な鍵が付いている部屋だった、そして私の名前が扉に掛けられた。

 

 「皆がそろった、降りて来てくれ」

 

 部屋のベッドに座って足をプラプラさせていると扉の外からジャレンの声が聞こえた、外に出ると彼について行く。

 

 「皆歓迎してくれると思う」

 

 そう言いながらとある部屋の中について行く、視線が集まるのを感じながら彼に連れられ皆の前に立つ。

 

 「今日から皆の仲間になる色々目をかけてやって欲しい」

 

 「クレリア・アーティアと言う、よろしく頼む」

 

 彼の紹介の後挨拶をする、皆「よろしく」と返してくれた。

 

 「よろしくねクレリア!ここを自分の家だと思っていいのよ!」

 

 見た目には私と同じぐらいの赤い髪の少女が私の前に来て手を握ってくる、随分フレンドリーだな。

 

 「ああ、ありがとう」

 

 「これから私の部屋でお話ししましょう?」

 

 答える私を引っ張る彼女、しかしそれを遮って傍に居た女性が言う。

 

 「モニカ、今日は彼女も疲れている筈だから、休ませてあげて?」

 

 そう言った彼女の方を見ると赤い髪をした気の強そうな女性が居た、この少女と似ている気がする。

 

 「ごめんね、クレリアちゃん……私はアリエラ・アルベリク、ジャレンの妻でこの子、モニカの母よ」

 

 ジャレンの妻と娘か、なるほど似ていると感じたが納得だ母親似なんだな。

 

 「はーい」

 

 大人しく私の手を放した。

 

 「また今度ね!」

 

 笑いながらそう言って離れて行った。

 

 「さて、今日は彼女はここまでだ」

 

 やり取りを見ていたジャレンが私を連れて部屋を出る、私の部屋へ移動中ジャレンが声をかけてくる。

 

 「娘が失礼をしたね」

 

 「明るく人を引っ張って行きそうな娘だな」

 

 そう言うと嬉しそうな顔をしながらジャレンが言う。

 

 「妻によく似ています……それに娘は年の近い友人が居ない、きっと嬉しかったんだと思う」

 

 商人では無く父親としての顔で言うジャレン、まあ面倒は見るさ、子供の扱いは過去に経験しているからな。

 

 話しているうちに私の部屋の前に着いた、彼は明日の起床時間と誰かが起こしに行く事、起きたらそのままついて行くように私に伝えると戻っていった。

 

 「店か、これから何があるか楽しみだ」

 

 思わず笑みを浮かべる、やるからには世界一の店にしてしまおうか……などと考えつつ魔法の訓練をしながら朝までの時間を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 「それでね……!」

 

 翌日起こしに来た店員について行きジャレンの所に着いた私が聞いた最初の仕事はモニカと仲良くなることだった、まあ仕事というか出来れば仲良くして欲しい、というような頼み方だったが。

 

 幸いというかモニカは同年代……に見える私が来たのが嬉しいらしく彼女の性格もあり簡単に仲良くなった、しかし良く喋る、今は気持ちが舞い上がっているからかもしれないが。

 

 「モニカ」

 

 話し続けるモニカを遮って声をかける。

 

 「なーに?クレリア」

 

 会話を止めて話を聞く彼女、こういう所が歳に合っていないような気もする、グイグイ来るが最後の一線を越えないというか、相手の気分を害さない範囲を分かっているというか……人の子は皆こうなのだろうか、昔暮らしていた子供たちはそれなりに我が儘だったが。

 

 「将来は店を継ぐのか?」

 

 「勿論よ、何言ってるの?」

 

 何を言っているのかという顔で言うモニカ、必ず子供が継ぐとは限らないと思うが彼女の中では当然のようだ。

 

 「私は店を継いで誰もが知っているような店にするのよ」

 

 真剣なしかし楽しそうな顔をして言う、ジャレン夫妻よこの子は逸材かもしれないぞ。

 

 

 

 

 

 

 モニカと仲良くなり仕事も少しづつ覚え始めたある時店に損害が出た、ジャレンのお人好しで。

 

 夫妻の話し合いが終わった後、私はアリエラに話しかけた。

 

 「こう言った事はよくあるのか?」

 

 「クレリアちゃん……彼はお人好しでね相手が困っていると高く買い取ってしまったり安く売ってしまう事があるの」

 

 「私の事も拾ったしな」

 

 そう言うと苦笑するアリエラ。

 

 「かなり不味い状態なのか?」

 

 「いいえ、私もいるし彼もそこまででは無いわ……十分に利益も出しているけれど取り返しのつかない騙され方をしそうで……」

 

 確かに店の権利など不味いものはある、しっかり話せばいいと思うのだが。

 

 「でもその優しさは忘れてほしくない、私が好きになった優しさを……」

 

 なるほどな、だが問題無いと思うぞ。

 

 「大丈夫だと思うぞ?ジャレンの家族や店の皆を思う気持ちは本物だ、それを壊すようなことはお人好しの彼もしないだろう」

 

 私が言うのだ、安心すると良い……ただ、もし強引に彼女達とこの店をどうこうしようとするなら、相手はどうなるかわからんが。

 

 「ふふ、そうね……ごめんねクレリアちゃん、子供の貴女にこんなことを話して……貴女と話していると大叔母様と話しているような気になって……こんな若い可愛らしい子に失礼ね」

 

 申し訳なさそうな顔で言う彼女……いい勘をしている、あの子にしてこの親ありか、ジャレンももしかしたら色々感づいているかもな、ただ私は大叔母様とやらの百倍以上の年齢だと思うが。

 

 

 

 

 

 

 私が店で働くようになって五年が過ぎた、商売のノウハウを覚え店も順調に大きくなり町で一二を争う規模になっていた、そんなある日の事。

 

 「錬金薬?」

 

 「ええ、この町のもう一つの大手の店で売り出しているみたいなの」

 

 この五年で店の運営会議に出るようになった私は、十八になったモニカから報告を受けた。

 

 錬金……ラムラン?錬金術を広める事が出来ているのか。

 

 「それでそれが何か問題なのか?」

 

 ジャレンが聞く、何か理由が無ければ今ここで言う必要は無いからな。

 

 「それが、効果はあるらしいんだけど物凄く高くて、病気の金持ちにばかり売ってるらしいんだ」

 

 うん?そんな高価になるような材料は使って無いぞ?効果を十分に引き出せば少ない材料でそれなりの量が作れる筈だが……。

 

 「ディノで有名になって来てる錬金術師のラムランの弟子って人が作ってるらしいんだけど」

 

 ……おかしい、彼女がそんな事を良しとするとは思えない……何かあるな。

 

 「その事は心当たりがある、少し時間が欲しい」

 

 そう言うと皆は納得してくれた、私は早速店に向かい薬を確かめることにした。

 

 

 

 

 

 

 「いらっしゃいませ」

 

 店員が声をかけてくる。

 

 「錬金薬を見たいのだが」

 

 私は服を変化させいかにも金持ちの娘のような服装にした、効果はあったようだ、奥の部屋に案内される。

 

 「私の錬金薬をご覧になってください」

 

 奥の部屋に居た男は少し軽そうな、だがそれ以外は普通の男だった。

 

 私は早速置いてある薬を手に取り分析する。

 

 「これは最高の物か?」

 

 「はい、私の自信作です」

 

 自慢げに言う男……こいつはダメだ、薬の効果は僅かしか出ていない上にバランスも悪い、それ以前に意味のない成分が多すぎる……いや、この状態でわずかにでも効果が出ているのは凄いのか?とにかく話にならないことが分かった。

 

 「そうか……また来る」

 

 そう言って店を後にする、男は戸惑ったようだが金持ちの娘と思っている私に何か言う事は無くそのまま店を出た。

 

 自分の部屋に戻りずっと使っていなかった念話を使う。

 

 『ラムラン、聞こえるか?』

 

 『ぴゃっ!?し、師匠?!』

 

 驚いた声が聞こえてきた、ふむ……何か変わった感じはしないな。

 

 『時間はあるか、話したいことがある』

 

 『……何かあったんですか?』

 

 有無を言わぬ感じになってしまった、彼女が察して聞いてくる。

 

 『今私はエスタラという町で商人の真似事をしていてな……その町でお前の弟子を名乗る者が薬を高値で金持ちにだけ売っている』

 

 『えっ……?』

 

 あっけにとられたような気配がする、私はさらに続けた。

 

 『病気を盾にほとんど効果がない粗悪品を高値で売りつける事がお前の目指す物か?』

 

 『違います!私はそんなこと考えていません!私は……!』

 

 猛反発するラムラン、良かったお前は変わってなかったな。

 

 『悪かったなラムラン、少し試した』

 

 『……止めて下さいよ師匠!まったく……』

 

 怒るラムラン、少し逞しくなったかな?私に怒ることなど無かったと言うのに。

 

 『で、だ……心当たりはあるか?』

 

 『心当たりと言っても……弟子はみんな此処に居ますしそんな人は……あっ!?』

 

 『心当たりがあるのか?』

 

 『前に弟子入りしに来た人が……授業もあまり受けず私や他の弟子を口説いてばかりだったので遠慮して頂いたのですが』

 

 決めつけは良くない、良くないが……そいつな気がするぞ。

 

 『軽薄そうなそれ以外特に特徴がない男だったか?』

 

 『確かにそんな感じでしたけど……』

 

 まず間違いないと考えていいだろう、だとすると……そうだな。

 

 『ラムラン』

 

 『はい?』

 

 未だに男を思い出そうとしているラムランに声をかける。

 

 『このままだとこちらでの錬金術の印象は最悪だ、こっちに来て本物を見せてやってくれないか?』

 

 『えっ?師匠が居るのにですか?』

 

 『私はそんな事をして目立つ気は無い』

 

 『ええー?!私が目立つじゃないですかー!?』

 

 『目立たなくてどうする、ここで錬金術の良さを伝えられれば皆が良い印象を持ってくれる、学ぼうとする者も居るかもしれない』

 

 『た、確かに……!』

 

 『それに私が居る商会もある、お前が作る薬を仕入れて広めてくれるかもしれないぞ?汚い事をするような者達では無い事は私が保証しよう』

 

 『……行きます』

 

 よし、これでいい後は大々的に効果を見せる機会を作ってやればいい。

 

 『私が居る町の場所は分かるのか?』

 

 『はい大丈夫です、師匠が教えてくれたマジックボックスがあるのですぐ出発できますし』

 

 『良し、着いたらアルベリク商店に来い』

 

 『分かりました』

 

 

 

 

 

 

 「では契約はこの条件でよろしいですか?」

 

 「はい、問題ありませんよ!」

 

 今私はジャレンとラムランの契約に同席している所だ、アリエラとモニカもいる、あの後ラムランが到着し偽錬金術の男を誘導し町の人々の前で奴の薬の酷さと値段について言及した。

 

 ラムランが姿を見せた時の男の様子は面白かったな、そして町の人々は本物の錬金術を知ることになり、ラムランの名は町に広まった、酷い薬を売っていた商会は客が一気に居なくなり商会としての形を保てなくなり自然に消滅した。

 

 その後、その効果と値段の安さに驚いたアルベリク商店の面々に話を持ち掛け今こうして成立したわけだ。

 

 「しかし……」

 

 契約書大事にしまいながらジャレンが言う。

 

 「ラムランさんとクレリアさんはどんなご関係で?」

 

 まあそう思うな、どう言ったものか……。

 

 「師匠は私の師匠ですよ!」

 

 ラムラン!? 

 

 「馬鹿者……」

 

 「えっ?!」 

 

 私とアルベリク一家が同時に声を上げる、その後静寂が部屋に訪れた。まあ、最初から成人しているとは言っているがお前

の師匠であることは言って欲しくなかった。

 

 「あのー。すいません師匠その、私……」

 

 泣きそうなラムラン、久しぶりに見たなその情けない顔は……仕方のない奴め。

 

 「泣くなラムラン。絶対に言っては駄目な訳では無い、誰しもうっかりしてしまう事はある……私もな」

 

 「ごめんなさい……師匠」

 

 泣いているラムランを撫でているとジャレンが声をかけてくる、その顔は何とも言えない表情だった。

 

 「あの、師匠と言う事は?」

 

 「初めて会った時に行っただろう?成人していると、私はこの子の錬金術の教師を……師をしていた、恐らくこの中で私が一番年上だぞ」

 

 彼らは一般的な年齢を想像しているだろうが、一万を超えているからな……信じられないような顔のアルベリク一家。

 

 やはり信じていなかったな、気持ちは分かるが。

 

 「クレリアちゃ……さんは本当に成人していたのね……私達より年上だなんて……今まで申し訳ありません」

 

 すまなそうに言うアリエラ、気にしていないがな。

 

 「今までと同じで構わない、私は悪い気はしていないからな」

 

 「クレリアちゃん!」

 

 そう言うとホッとしたような嬉しそうな顔をして抱きしめてくるアリエラ。

 

 「えーと……クレリア、さん?」

 

 たどたどしく敬語で話しかけてくるモニカに向き直る、どうしていいか分からないと言った顔をしているな。

 

 「モニカ、私たちは友達だ……歳など関係無いぞ」

 

 薄く微笑みながら声をかけると、嬉しそうに飛びついてきた。

 

 「クレリアってすごい若作りよね!」

 

 「放っておけ」

 

 あっという間にモニカは元に戻ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 今回の事が終わりを迎え、ラムランは一泊する事になり部屋に案内されたがすぐに私の部屋にやってきた、卒業してからの苦労や喜びを語る中彼女はぽつりと言った。

 

 「……こんな事が起こるなんて思いませんでした」

 

 彼女は俯きながら手をいじっている。

 

 「名が売れると言う事はこういう事だ。これから更にお前は有名になるだろう、様々な善意が……そしておそらくそれ以上の悪意がお前に集まってくるだろうな」

 

 彼女はうつむいたままだ。

 

 「師匠はそれが嫌で表に出ないようにしているのですね……」

 

 「どうだろうな?嫌な事は確かだが、やりたいようにやった結果そうなってしまったなら甘んじて受けるかもしれないし、全てを薙ぎ払って無かった事にするかも知れんな」

 

 それを聞いた彼女は顔を上げて引きつらせながら言う。

 

 「……師匠が言うと冗談に聞こえないんですが」

 

 「冗談では無いからな」

 

 彼女はブルっと震える、それからは他愛のない事を話し続けた。

 

 こうしてアルベリク商店は町一番の店となり商品にラムランの薬が並び錬金術とラムランの名が知れ渡り、私の事が少しアルベリク一家に知られた、翌日ラムランは別れを惜しみながらディノに帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 私は今エスタラの裏路地に居る、目的はすぐそばにいる顔を隠している男だ。

 

 「あの女、俺の誘いを断った上に邪魔しやがって……」

 

 悪態をつきながら町の外に向かう男、ぶつぶつと何かを呟いている。

 

 「まだ他の町がある……そこで上手くやれば一生安泰だぜ」

 

 わかっていたが止める気は無いか……またどこかで同じ事をされては面倒だからな。

 

 「それは困るな」

 

 男の前に立ち塞がり声をかける。

 

 「ああ……?てめえ!あの女と居たガキだろ!」

 

 私に気が付いたようだが……。

 

 「もっと前に会っているがな」

 

 「?……あ!お前あの時店に来た!」

 

 すぐ分かったようだ、私の見た目は目立つらしいからな、他の者が言うには美人らしい。 

 

 「丁度いい、初めて見た時に良いと思ったんだ……」

 

 「私はお前に特に興味は無いな」

 

 「今から俺がっ?!」

 

 迫ってくる男の手足と口を凍らせると転倒する男。

 

 「……?!……!!」 

 

 呻くだけの男に歩み寄りながら言う。

 

 「私の弟子の名と錬金術を貶めた、その上まだ繰り返すのなら放ってはおけない」

 

 私の体から黒い霧が漂い始めるがすぐに引き戻す……久しぶりにイライラしているせいで少し開放的になっているかもしれない。

 

 男は涙を流しながら呻いているが今更許すことは無い。

 

 「悪いが私の弟子に手を出す者は許さない」

 

 その後、偽錬金術師だった男の行方は分からなくなったがすぐに忘れられた。

 

 

 

 

 

 

 錬金薬事件の後私の事はアルベリク一家だけの秘密となった。

 

 それから更に二年後、二十歳となったモニカは無事想い人と結婚した、私から見ても問題は無さそうだ、元は護衛をしていた傭兵で長期契約で彼女を守っているうちにお互い……と言う訳だ、そんな彼女の夫から相談を持ち掛けられた。

 

 「クレリアさん、腕のいい鍛冶屋を知らねぇ……ご存じありませんか?」

 

 私の部屋に訪れた彼が言う、傭兵から商人という職業変更をした彼は言葉使いを始め、商人修行真っ最中だが、まだまだ時間が必要なようだ。

 

 「どうした急に」

 

 この商会では武防具は販売していない、その内扱おうかという話をしては居たが急に決める事でもない。

 

 「傭兵仲間から聞いたんですが各地で魔物が多くなってるらしいんです」

 

 真剣に話す彼、彼はさらに続ける。

 

 「まあ、居ないよりは良いんですけどね、肉や素材になるので良い稼ぎになりますから」

 

 戦いに身を置く者にとって魔物や動物は収入源らしいな、それなりに良い値段になるらしい。

 

 「ただ魔物になるべく安全に勝つために今の装備では不安なんです、そこで色々つてがありそうなクレリアさんが誰か良い職人を知らないかと思いまして」

 

  彼は私の秘密は知らないが私に色々なつてがある事を知っている。しかし……武具で思い出すのはあの夫婦しか居ない、ロドロフとミシャだ。

 

 「知ってるな」

 

 そう言うと顔を明るくさせる彼、その時部屋がノックされる。

 

 「開いているぞ」

 

 そう言うとドアが開きモニカがやってきた。

 

 「あれ……あなた浮気?」

 

 にやつきながら言うモニカ。

 

 「勘弁してくれよ……」

 

 苦笑いする彼、私はそんな彼を横目にしながら彼女に答える。

 

 「魔物の数が増えてるらしい、それで装備を何とかできないかと私に心当たりを聞きに来たんだ」

 

 モニカはにやついた顔を止めて答える。

 

 「なるほど、優秀な鍛冶屋はいつか欲しいと思っていたけど、のんびりしていられないかもね」

 

 「それで今知っていると答えた所だ」

 

 「知ってるの?」

 

 彼女はやや驚いた顔をしている、そこまで驚かないのは何となく私ならと思っていたのかもな。

 

 「ああ、夫婦で大地人の住処に居る、移動していなければ同じ所に居るはずだ」 

 

 考え込むモニカ、しかしすぐに私を見て口を開く。

 

 「貴女が知ってるって事は腕はいいのよね?」

 

 「私が知る限り最高の鍛冶師だな、妻の方も魔道具作りの熟練者だ」

 

 「本当に!?」

 

 食いつくモニカ、魔道具は最近大地人から広まり始め、数も少なく値も張るが欲しがる者が後を絶たない人気商品だ。

 

 「もしできる事なら私達の商会と取引して欲しいわね、出来ればうちの商会に住み込みで雇いたいわ、駄目なら輸送料を全てこちらで持っても良い、クレリアが認める鍛冶師と魔道具製作者よ、見逃す手は無いわ!」 

 

 そんなモニカを冷や汗を流して見る彼、彼女のやる気に火がついてしまった。

 

 「クレリア!すぐに連絡とってせめて話だけでも聞いて貰える様に話をつけて貰えない?来てもらえるならいつでも来て良いし、何なら行くわよ!」

 

 彼女なら悪いようにはしないだろう、彼らがどんな反応をするかは分からないがチャンスはあげたいな。

 

 「分かった話しておく」

 

 その答えにガッツポーズをして出て行く彼女……かと思うとすぐに戻ってきて言った。

 

 「ご飯に誘いに来たんだった!行こ!」

 

 私と彼は呆れた顔をしながら食事に付き合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 その日の仕事をすべて終え、部屋に戻った私は早速ロドロフとミシャに念話を送る。

 

 『ロドロフ、ミシャ聞こえるか?』

 

 ……返ってこないな。

 

 『どうした?何かあったか?』

 

 『大丈夫だ、ちょっと上手く行かなかっただけだ』

 

 ロドロフの声が聞こえてくる、念話が苦手なのは変わって無さそうだが……いや少し上達したかな?

 

 『お嬢!久しぶりだね!何年経ったかしらね』

 

 ミシャも元気そうだ……十年?もうちょっと経っているか?気にしないからあいまいだな。

 

 『久しぶりだな、いきなりで悪いが相談したい事があってな』

 

 私は今商人の元にいる事、その商会が武具と魔道具の職人を探している事とその理由、商会の者は信頼できる事を伝えた。

 

 『なるほどなぁ、そう言う事なら構わねぇぜ』

 

 『そうだね、お嬢のお墨付きなら問題も無いだろうし』

 

 『でも条件があるんだ』

 

 『なんだ?言ってみろ』

 

 『材料の一部は俺達の住処から買って欲しい』

 

 『なるほどな、伝えておこう』

 

 そうだ、町の場所を教えていない。

 

 『エスタラという町だが分かるか?』

 

 『分かるよ、それでいつ行けばいいのさ』

 

 ミシャが聞いてくる。

 

 『いつ来ても良いようにしているそうだ』

 

 『よっし、じゃあ準備をしたらすぐ行くぜ』

 

 ラムランといい行動が早いな。

 

 『名前はアルベリク商会だ、待っている』

 

 そう伝えて念話を切った。

 

 

 

 

 

 

 ロドロフとミシャに連絡を取った後、二人はアルベリク商会を訪れ無事に契約をした、その際にレクシドという大きな町に本店を移すとモニカから聞いた、ロドロフとミシャの二人と契約出来たら拡大するつもりだったようだ、そういう話は先に言って欲しかった。

 

 二人が本格的に武具魔道具を作るのはレクシドに行ってからになる、それまでこれからの話をしていたのだが問題が起きた。

 

 「値段が高すぎる?」

 

 仕事中にモニカが相談にやってきた。

 

 「ええ、性能は素晴らしいわ、だけど買うのは傭兵や兵士がメインになるでしょう、彼らにこの金額は払えないわ」

 

 魔法金属は製作に時間と手間がかかる、そうなると値段は上がる……かと言って安くするわけにもいかない、そう思っていると彼女が言う。

 

 「だから二人には性能を落とした装備と魔道具を作ってもらって、高性能な物はオーダーメイドにしようかと思うのよ」

 

 そうするしかないだろうな、二人に損をさせる訳はいかない。

 

 「一般装備は値段の割に良い物を、オーダーメイドは値段に見合った性能をってね」

 

 同じ材料で同じものを作っても製作者の腕で質は大きく変わる、設計次第で少ない材料で高い強度と効果を出すこともできる、あの二人ならその点は十分だろう。

 

 「二人は納得しているのか?」

 

 こちらから声をかけたんだ嫌がる事はなるべく避けたいが。

 

 「これから話してみるつもり」

 

 「強引に話を通さないでくれよ?」

 

 「当然よ、嫌々やっても良い物は出来ないわ」

 

 彼女は頷くと仕事に戻って行った、後日あっさりと了承して貰えたらしい、簡単に解決してよかった。

 

 それから、モニカがエスタラの店の人員と管理責任者などの人事を進め始め、ジャレンとアリエラとモニカの夫は新店舗の調整にレクシドに向かった、一週間程の後、私達も旧店舗を任せ新店舗へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 新しい店舗は広くそれぞれの分類ごとに売り場を分けてあった、住む部屋は建物が大きくなったが人員も増えた為エスタラのと広さは大して変わらなかった、家具は少し良くなっていたが。

 

 「さて、これで移動は終わりましたが開店するのはもう少し後です、ロドロフ夫妻に製品の生産に入っていただき数が揃ってからになりますね」

 

 ジャレンが言う、すでに新店舗の皆とは顔合わせをした、いつも通り私の紹介でざわついたが成人していると伝えた。

 

 今は中核のメンバーでの会議中だ、私、アルベリク一家の三人、ラムラン、ロドロフ夫妻、そして各方面を担当している古参の店員達だ。

 

 「ではこれからの予定と連絡事項を伝えます」

 

 こうして会議が始まった。 

 

 

 

 

 

 

 「ラムラン、お前は頻繁にこっちに来られないから何かあったら今後にしっかり話しておけよ」

 

 会議が終わり殆どのメンバーが居なくなった会議室で私は言う。

 

 「そうですね、行き違いが無いようにしないといけませんね」

 

 二人で話していると残っていたアリエラが会話に参加してきた。

 

 「ラムランちゃんもこっちに店を移して暮らしたらどうかしら?」

 

 効率は良くなるな、商品を卸している商会が同じ町にあった方が仕入れも売るのも都合がいい。

 

 「そうですねぇ……」

 

 そう言いながら横目で私を見るラムラン、どういう意味の視線だそれは。

 

 「私に何かあるのか?」

 

 ラムランは慌てた様子で胸の前で手を振りながら言う。

 

 「何でもないですただ、し……クレリアさんが居るなら私もこっちに来るのも良いかなって思ったり」

 

 「私を理由に決めるな」

 

 私が居なくなったらどうするつもりだ、いつかは必ず居なくなるぞ私は。

 

 「そう言われると思いましたけどぉ……」

 

 「しっかり考えてお前がそうしたいならそうすれば良い」

 

 本当にやりたい事ならやればいいさ。

 

 「……自分のやりたい事をやりたい様にやれ」

 

 彼女は小さくあの言葉を呟いて考え込むのだった。

 

 結局ラムランは答えを出さず自分の住む町へ帰った、後悔しないようにしろよ。

 

 

 

 

 

 

 レクシドに新店舗を出してから十年程過ぎたジャレン夫妻は引退した、モニカとその夫は店を継ぎ更に男女の子供も出来た。

 

 ロドロフは弟子を育て魔法武具の名工として名を高め魔法武具の祖として有名になった、ミシャも同じく弟子を育て魔道具製作の祖として名を上げ子供も出来た、最初は私を差し置いてと悩んでいたようだが弟子を育て広めたのは二人であると説得した。

 

 ラムランは結局レクシドには来なかったが錬金術の祖として有名になり結婚もし、多くの弟子に囲まれて頑張っているようだ、そしてそんな日々の中私に一報が入る。

 

 「手紙?」

 

 私宛だと言って渡された一枚の封筒、そこには大樹の根元に一人の少女らしき人物が佇んでいる封蝋印が押されていた。

 

 誰だ?

 

 差出人はケイン・イヌスと書いてあった、念話があるのになぜ手紙……どうやって私の場所を知ったんだあいつは。

 

 仕方ない奴だ。

 

 そう思いながら手紙を読む、その内容は大都市ウルグラーデにティリア魔法技術学校を創設した事、魔法だけであったが魔法以外の様々な事も教えられるように学科を増やしたい事、そのために現在広まりを見せている魔法武具鍛冶、魔道具、錬金術の教師を探している事が書かれていた、そして最後の一文を見る。

 

 「……くっくっく」

 

 思わず笑いがこぼれる、まったくお前は良く分かっているよ、私は笑いながら再びそれを見る、そこには……。

 

 《師が関わっているのでしょう?》

 

 と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 それから私は関係者を集めて話をした、ケインの手紙にはそれぞれの教師には十分な環境を用意する事、より多くの者に正しい技術と知識を教える気があるのなら、ぜひ教師として力を貸して欲しい事などが書かれていた。

 

 ラムランは迷わずに行く事にしたようだ、薬の納品も既に弟子に任せているため自由に動ける為やりたい事をやるらしい、夫も特に反対しなかった、ラムランはケインが私の教え子だと昔から知っていたしな。

 

 ロドロフとミシャもケインの事は話してあるし、既に商会の仕事は弟子に任せており弟子を育てる為の学校に行く事を決めた、ただ三人共もしも弟子では難しい仕事が来た場合は学校に連絡をして仕事を優先するようにして欲しいとモニカから頼まれ、三人はそれを了承した。

 

 「バラバラに私の教え子になった者達が今になって学校という場所に集まるとはな……」

 

 話がまとまり皆が一息ついたとき、私は思わず呟いた。

 

 「そういえばそうなんですね、皆さん師匠のお弟子さんなんですもんね」

 

 ラムランが言う、そこにミシャが答えを返す。

 

 「そうね、新しい技術に知識、魔法まで教えて貰っちゃってお嬢と会ったのは運命だったと思う事もあるわよ」

 

 「その通りだな、俺達が此処までになれたのはお嬢のおかげだぜ」

 

 ロドロフが相槌をうつ、皆も頷いている……そう言って貰えるのは悪い気はしないが。

 

 「私はきっかけを与えただけだ、技術を身に着け、知識を蓄え、此処までにしたのはお前達自身だ……自分の努力を私のおかげなどと言う言葉で否定するな」

 

 「ありがとよ、お嬢」 

 

 ロドロフが照れ臭そうに言う、残りの二人も気恥ずかしそうな表情で笑っている。

 

 「……本当に皆の先生なのね」

 

 モニカが思わずといった様子で言う、今更何を言っているんだお前は。

 

 「師匠は見た目は完全に子供ですからね!しかも美人さんです!」

 

 ラムランが声を上げる、前々からよく言われるな。

 

 「そんなに美人なのか私は」

 

 そう答える私にミシャが話しかけてくる。

 

 「そりゃもう美人だよ、今まで男に声をかけられなかったのかい?」

 

 「特に無いな、そもそも好き好んで人前に出る事が少ないからな」

 

 そう答える私に、ロドロフが口を開く。

 

 「お嬢は姿も声も綺麗だが、なんつーか、その……あれだ」

 

 言い淀むロドロフ、はっきり言え。

 

 ロドロフが言い淀んでいるとラムランが割り込んできた。

 

 「師匠、性格は男みたいですよね……言葉使いもこう、無駄に重々しい感じで」

 

 ラムランがそう言った瞬間部屋が静かになった、不味い事を言ったと思っているのだろうが私に性別は無い筈だからな。

 

 「特に誰かに性的に好かれたいとは思っていない、それに私は昔からずっとこんな感じだ……これから変わるのかずっとこのままなのかは分からないが」

 

 皆のホッとした雰囲気を感じる、その程度で怒らないぞ、自覚もしているしな。

 

 こうして余計な事も多く話したが話はまとまりケインに教師が見つかった事、その条件を書いた手紙を送った。

 

 

 

 

 

 

 手紙を送ってからおよそ一月後条件を全て受け入れ教師として正式に雇いたいという手紙が来た、三人はその一週間後ウルグラ

ーデに向かい旅立っていった。

 

 皆はウルグラーデに永住するそうだ、そろそろ落ち着いて暮らす気らしいな。

 

 さて、商会も盤石な状態になったしまた興味を引く物を探しに行くかな。

 

 「その前に辞める理由を考えないとな」

 

 どうしようか……私の事を教えて納得してもらうしかないかな。

 

 流石に若作りで済むような時間は過ぎてしまったし、姿を変えなければ長くいるほど怪しまれる、個人なら問題なく付き合えても不特定多数に異常性が知られると何が起きるか分からないからな。

 

 どうしても長い間一か所に留まるなら、その都度姿を変えて暮らせばずっと問題無く暮らせるだろう。

 

 

 

 

 

 

 「クレリア。話ってなに?」

 

 あれから半年、学校の皆も商会も順調だ。

 

 私は大事な話があるとジャレン、アリエラ、モニカの三人を会議室に呼び出した、ジャレンとアリエラはだいぶ老けたな。

 

 皆忙しいのに時間を作ってくれた事に感謝を述べてから話をする。

 

 「私はそろそろ商会を辞めようと思う」

 

 「なんで……?クレリアも楽しそうに過ごしていたじゃない」

 

 モニカが聞いてくる、彼女は寂しそうだ。

 

 「三人に聞いて欲しい事がある。今から話すことは本当の事だ」

 

 そして三人に今までの事を話した、目覚めてから今に至る出来事を。

 

 「……」

 

 三人は黙ってしまった、いきなりこんな話をされてあっさり信じるのもおかしいからな。

 

 「えっと……私はクレリアちゃんが人間じゃないかもって薄々分かっていたわよ?モニカもそうよね?」

 

 「うん、気づいてた」

 

 全く動揺することなく会話するアリエラとモニカ、今まで私の事を知った者の中で一番驚いてないかもしれない。

 

 「まあ、僕も成人していると聞いて、子供が生きて行くために無理な嘘をついていると思ったよ……最初はね」

 

 ジャレンが苦笑いしながら話す……出会った時のあの反応はそう言う事か。

 

 「私もそう思ったわ……だけどラムランちゃんが貴女が師匠だと言った、それは本当でロドロフさんとミシャさんの事もあってあなたが本当に子供では無いと知ったわ」

 

 「そうなると、クレリアのその姿は若作りと言うレベルを完全に超えているのよね」

 

 アリエラ、モニカと続く。

 

 今までの皆もだが、長い時間一緒にいるとまずそこに疑問を持つのは当然だな。

 

 「そして今話を聞いて自然と思ったわ、やっぱりって」

 

 モニカが胸を張りなぜかどや顔で言う。

 

 「少数なら良い……三人や教え子達の様に受け入れてくれる者も居る……だがこのまま居続ければ町の者も気が付く時が来る」

 

 三人は納得したような顔をする。

 

 「お前達なら分かるだろう。一定以上の集団に私の異常性を知られた時、何が起こるか分からない」

 

 これまで暮らしていた中で似たような事はあった、私達に無関係な事ではあったが……集団はどう動くか分からない、同じ様に暴走してお前達にも被害が出る可能性がある。

 

 「でも、誰にもばれないようにすれば……」

 

 何とかしようと声を上げるモニカ、だけどそれでは駄目なんだ。

 

 「誰にも会わないなど不可能だ……ここで暮らす以上誰かの目に留まる、完全に閉じ籠れば可能性はあるがそんな生活、私はする気は無いぞ」

 

 「そうよねぇ……」

 

 私の返答を聞き椅子にもたれかかるモニカ、分かってて言ったなこいつ。

 

 「笑って送り出してあげましょう?モニカ」

 

 アリエラがモニカを諭す、ジャレンも頷いている。

 

 「分かったわよ、でも私達はずっと友達よ!私の子孫たちの店にも来てよね!」

 

 モニカが生きている間にまた訪れる可能性は低い、彼女も分かっているのか涙目に笑顔を浮かべながら言う。

 

 「ああ、また来るよ」

 

 微笑みながら答えるとモニカが抱き着いてくる、彼女が十三の時から姉妹の様に過ごしてきたが立派な大人になった……彼女を抱き返しながらしばしの時を過ごした。 

 

 その後私がこの家に来た当初から知っている僅かなメンバーのみでお別れ会をしてくれた、今までの苦労や思い出話に花が咲き夜遅くまで続いた……そして。

 

 

 

 

 

 

 「これからも長く続く商会にしてくれよ」

 

 「当り前よ、世界が終わっても残すわよ!」

 

 今でも元気なモニカ。

 

 「僕の人生で一番の友人ですよ貴女は」

 

 年を取り更に優しく穏やかになった、ジャレン。

 

 「クレリアちゃん元気でね」

 

 今でもちゃん呼びで抱きしめてくるアリエラ。

 

 そして古参の店員達。

 

 「じゃあ、行ってくる」

 

 「行ってらっしゃい!」

 

 重なる皆の声を背に私は町を出た。

 

 

 


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