あれだけの兵器を使用して各国が無事で済む訳も無く、戦争による被害は一気に増加した。
各国は魔道戦略兵器を撃ち合い、次々とその命を散らしていった。
私達には子供の喧嘩のように見えるが、彼らは本気だ。
『各国は直接都市部に攻撃を始めました、世界中に広がる都市や町、村が攻撃され非戦闘員の被害も甚大です』
「……避難はしていないの?」
ヒトハとカミラが人類の戦争について話し合っているのを聞きながら、私はモー乳を飲みソファにもたれる。
『避難しようとする動きはあります。ですが何時、何処が攻撃を受けるか不明なため各国の国民もどうすればいいか分からない状態のようです。その結果、大半の国民は環境の整っている都市や町から避難する事を躊躇い、結局避難出来ずに被害を受けているようですね』
「……何処に逃げても巻き込まれる時は巻き込まれる。それなら少なくとも生活に困らない都市部に居ようという事かしら」
私は特に何か感じる事は無かったが、カミラは非戦闘員が巻き込まれる事をあまり良く思っていないようだ。
「カミラ、また国を作って統一でもしてみるか?カミラがやりたいのなら私は止めないぞ?」
カミラは悩む事無く答える。
「……いいえ。私はもうそこまでする気は無いわ……少なくとも今はね」
カミラは私を見て答えた後、ヒトハを見る。
「私はお母様達と暮らすこの生活を気に入っているもの。今は他に何も要らないわ」
「そうか」
「さて、そろそろ食事にしましょうか?何食べたい?」
「肉料理が食べたい」
「分かったわ……待っててね」
カミラが微笑みながらキッチンに向かう。
私達の生活はまだ変わる事は無さそうだ。
四国それぞれの間で行われていた人類の戦争は国同士が同盟を結んだ事により二対二に変わった。
だが二対二になった所で大して状況が変わる事も無く、その後も戦闘は続き各国は急速に疲弊していった。
「私から見ると毎回同じような事で争い、数を減らしては元に戻る。という事を繰り返しているだけに感じる」
「私もそう感じる事はあるけど……寿命の短い種族にとってはそうでは無いでしょうね」
『人類の歴史は大体同じような事の繰り返しです。戦争を行い数を減らしては復興し、平和を大事にと叫びながら発展したかと思えば再び争うのです』
月の拠点で放送を横目に私は二人と語り合っている。
放送は戦争が始まってからどの国の放送も連日戦争の事を放送しているが、一国だけ、魔工国ガンドウの放送だけは一時期されていなかった。
戦闘に巻き込まれて魔放送設備が消滅したらしい、予備の設備を使用して放送が始まるまでの間放送が途切れていた。
どの国も戦争を続け、繁栄していた各国は衰え、かつての姿は無くなった。
そして私達が本格的に人類の滅びを感じ始めた頃、ようやく人類の戦争は終結した。
どの国も疲弊しているというのに戦争を止めようとはせず、私はこのまま人類が復興不可能なまでに数を減らしてしまうのではないかと思っていたが、どうやら止まったようだ。
終戦を呼び掛けたのは森林国家ユグラドだった、そして各国はすぐにその提案に乗ったのだ。
喧嘩をして謝るに謝れなかった子供達のために、最年長であったユグラドがきっかけを与えたとも言えるかもしれない。
戦争期間としては過去の物より長くは無かったが、兵器の威力と都市部を攻撃した影響で人類の数は激減した。
それでも戦争さえしなければまた増えて行くだろう。
戦争は終わったがどの町もボロボロ、というよりも魔道戦略兵器の威力で消滅していて、復興は今までに無いほど厳しい状態だとヒトハからの報告を受けた。
「それでも復興を始めたか。まあ、現状ではするしかないからな」
『はい。各地で協力して復興に力を注いでいます』
「戦争は終わった訳だし、放って置けばまた元に戻っているわよ」
カミラが本から顔を上げて口を開いた。
「そうだな。ヒトハ、復興がある程度終わったら教えてくれ」
『かしこまりました』
取り敢えず町に行くのは後にするとして別の話をしよう。
「国民はこの戦争の理由を知っているのか?」
私がそう言うとカミラが反応する。
「王同士の不仲が理由の一つにあるって事?」
「そうだ。そんな理由でも国民は命を懸けて戦うのか気になってな」
『各国の国民への説明や情報放送にその理由は一切入っていません』
「そういう所は良い連携するのね」
カミラが呆れたような声を出した。
『実際にその理由が知られた場合、もしかすると今回の戦争は起こらなかったかも知れません。ただ、それ以外にも意見の食い違いや利益の分配などの問題は残っているため、今回を避けていても遅かれ早かれ戦争にはなっていたでしょう』
「意見の食い違いや分配を戦争の結果で決めようとしている訳じゃないだろうな?」
『話し合いで決めようとはしていますね。ですがどこの国も折れる事は殆ど無く、かなり長く荒れるようです』
私の疑問にヒトハが答え、さらに続ける。
『大体は森林国家ユグラドが折れる様です。それでも残りの三国が言い争いを続けている事があり、今回の戦争は長期にわたってそれが続いた結果だと思われます』
「ユグラドは他の三国の争いに巻き込まれただけなのかしら?」
カミラがヒトハに問いかける。
『全く無関係と言う訳では無いでしょう。しかしかなりの決定事項に対して妥協し相手を立てているため、私としては事を荒立てずに解決しようと努力していると感じます』
「損をしているな」
私の感想を言うとカミラは私に言う。
「そうね……だけどそれは戦争になる方がもっと悪くなると思っているからだと思うわ。もし必要だと考えればユグラドだって戦争に踏み切ると思うわよ?」
「戦争を回避する方が被害が大きいと感じた時か?」
名ばかりとはいえ私は町長もしていたし、帝国にもいたが、実際に町の運営や国を動かしていたのは私以外の者達だった。
大まかな方針や最終目的は決めていたがそれを実現する方法と行程を考えていたのは私では無かった。
そういった事も実際にあったのかもしれないな。
「そうね……例えばある種族全体に何か強い思い入れがあって……それに対して他の種族がその種族にとって許容出来ないような事を要求をした場合「それなら戦って死んだほうがましだ」と思うかもしれないわね」
「なるほど」
「これは個人にも言える事よ。例えば……私であればお母様を裏切って殺せと言われたら……間違いなく勝てなくても相手に戦いを挑むわ」
「つまり相手に命よりも大事な物があって、それに危害を加えようとした場合に起きやすい訳か」
私も自分の邪魔をしてくる者や、カミラとヒトハに危害を加えようとする者がいたら、例え勝てない相手でも排除しようとするだろう。
「まあ、よほどの事が無い限りそんな状況は無いと思うけれど……そう言う事かしらね。そうすると場合によっては相手からの要求が変更される事もあるわ。要求によって得る利益と被害が合わなくなるから、ただ色々と絡んでくるからそのまま戦争になる事も多いけれど」
「人類は大変だな」
問題無ければそのままでいいだろうし、気に入らなければやらせなければいいだけだと思う。
「お母様?本当に分かってる?」
そんな事を話ながら夕食までの時間を過ごした。
私は仕事を終えて自宅に戻って来た。
「はぁ……。戦争は終わったけど各国の被害は酷いわね……どうして魔道戦略兵器を使ったりしたのよ……」
アーティア合衆国が、私の母国が最初に魔道戦略兵器を使ったのは間違いない……そんな事をすればこうなるのは分かっていたはずなのに……。
私はご飯の準備をしてからお風呂に入った、湯舟に浸かりながら今日の事を思い出す。
「気のせいだったのかなぁ……」
魔道戦略兵器用の圧縮魔力の溜まりが以前よりちょっとだけ遅い様な気がしたから報告したんだけど……上には勘違いとか、誤差だとか言われただけだった。
私はお風呂で伸びをして溜息を吐く。やっぱり気のせいじゃないと思うんだけどな……。
でも誤差だと言われれば確かにその程度なのも間違ってないし……。
「明らかに遅いなら聞いてくれるだろうけど、あの程度じゃ言っても無駄だったなー」
愚痴を言い、顔を半分ほど湯舟に沈めてブクブクと音を立ててから、顔を上げる。
「まあ、報告はしたしもういいかー」
私はお風呂から上がってご飯の仕上げにかかった。
世界の被害は甚大だ。これから長い復興が始まる……私もこき使われるんだろうな。
幸い私の居る地域は無事だったし、生き残れただけでもましか……はぁ、また明日も頑張るかー。