少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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058-03

 

 人類の数が減り、世界に小さい村や町が点在する状態になってからも私達は人類を見続けている。

 

 私はヒトハの報告をいつものリビングで聞いていた。

 

 「盗賊が減り始めたの?」

 

 カミラがヒトハに確認する。

 

 『はい、各地を荒らしていた盗賊達が盗賊をやめています』

 

 「……襲える町や村が減ったから?」

 

 『はい。現在は一部の盗賊が村と手を組み、他の盗賊から守りながら畑仕事を行うようになり始めています』

 

 文明が崩壊したため、高い情報取集能力を持つヒトハを阻む物は存在しない。

 

 その為、今では簡単に現在の人類の状況が分かるようになっている。

 

 「なるほどね。でも……よく村が受け入れたわね?」

 

 『盗賊は他の盗賊に対抗出来る唯一の戦闘集団です。村側は申し出を断れば襲われる、襲われる位なら……という状態でした。後は盗賊の中に魔法を使える者が僅かに居たためでしょうか』

 

 カミラとヒトハが盗賊について話し合っている、他者の考えを聞いているのは嫌いでは無い。

 

 「魔法使いを引き込めるという理由もある訳か。それで、上手く行っているのか?」

 

 私が話すとヒトハは私の方を向いて答えてくれる。

 

 『はい。盗賊達は予想以上に真面目に働き、村に馴染みつつあります』

 

 「心でも入れ替えたか?」

 

 『その辺りの決定的な情報はありませんでしたが、盗賊達が「もう奪うだけでは生きていけなくなる」と言っていました。生き残るために村に永住しようとしているのだと思います』

 

 「稼げなくなった盗賊は廃業か」

 

 『彼らは村の防衛や農作業などの危険な仕事や力仕事を率先して行い、自衛のために戦えない村人に訓練なども行っています。村の者が残って欲しいと考えるだけの仕事をしているようですね』

 

 中々上手い変わり身だ。村が何を欲しいか見定めて手を貸し、溶け込むつもりか。

 

 恐らくその者達が盗賊行為を再び行う事は無いだろうな。

 

 『他の盗賊の中には独自に村を作り、暮らしている者達もいます』

 

 「ほう、定住する気になったのか」

 

 『はい。一部の略奪をやめていない盗賊達は思うように利益を得る事が出来ず、少しずつ数が減っています』

 

 「同じ立場であった盗賊達が村や町の側に回ったからな」

 

 『やがて全て居なくなると思われます』

 

 「そうだろうな」

 

 人類はまた繁栄しようとしているようだ。

 

 人が定住し、子を作ればゆっくりとだがまた村は大きくなるかもしれない、だが。

 

 「長くは無いかもな」

 

 『恐らくは』

 

 「そうね」

 

 私の言葉に二人が続く。

 

 人類が大幅に減った事で魔力の使用量も大幅に減った、最も使用していた時期に比べれば極僅かだろう。

 

 だが魔力は現在も減り続けている。どんなに使用魔力が少なくても、増えないのなら減る一方なのは当然の事だ。

 

 以前カミラが海を調べた時は、魔道飛行戦艦の残骸などは見つけたらしいが、肝心の魔物はいくら探しても見つからなかったらしい。

 

 海の魔物はどうなったのか?

 

 魔素を吸う魔物が、魔力が少なくなった事で自然死するだろうか?

 

 しかし実際、海に魔物は居なかった。

 

 海の魔物は少ない魔力では生きていけなかったのか、何か他の理由があったのか。

 

 原因は分からない。

 

 魔力が増える事無く減り続けている現在の状況を考えると、恐らく本当に陸にも海にも魔物は居ないのだろう。

 

 今の人類は僅かに残った魔力を少しずつ使い潰して生き延びている状態という事になる。

 

 こうなった以上、数を増やせば魔力の使用量が増え、魔力が尽きるのが早まるだけだ。

 

 魔力が尽きた時、どうなるのか?

 

 私が思い出すのは魔力欠乏の事だ。

 

 恐らく人類は魔力が無ければ生きていけない。

 

 世界の魔力が尽きる時は、単純に魔法や魔道具が使えなくなるという事では無い。

 

 人類が滅びる時である可能性が高いという事だ。

 

 数を減らし、日々を生きる事に精一杯な人類に、どうにかする手立てがあるとは思えなかった。

 

 この状況からまだ何かが起こる事があるのだろうか、私は僅かな期待を込めて人類を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 それから人類は魔法を殆ど使う事無く、地道に世界を開拓して行った。

 

 かつてとは比べ物にならない程遅い歩みではあったが、それでも人類は再び数を増やし始めたのだ。

 

 そんなある日、いつもの様に世界の魔力と魔素の濃度を調べた後に私は二人を呼び出した。

 

 下手をすればカミラ達が危険かも知れないからな。

 

 「わざわざ呼び出して悪かったな」

 

 「平気よこれくらい」

 

 『主様より優先する事はありません』

 

 呼び出した二人に早速話をする。

 

 「魔力が無くなる前に人類が滅ぶかもしれない」

 

 「どういう事?」

 

 『他に何か原因があるのですか?』

 

 「お前達にも説明しておく。ヒトハは恐らく平気だが、カミラはドレス無しでは危険である可能性もある」

 

 「私が?」

 

 カミラが驚いた表情で私を見る。

 

 「そうだ。これはお前達には見えず、感じる事も出来ない魔素の事だ」

 

 「聞かせて頂戴」

 

 『お願いします』

 

 聞く体勢になった二人に私は話し始めた。

 

 「私は以前、魔力と魔素の濃度が生物に及ぼす影響を実験した事があった」

 

 「ああ……詳しい話は聞かなかったような気がするけど、何となく覚えているわ」

 

 カミラの言葉を聞きながら私は話を続ける。

 

 「その時の結果だが、濃すぎる魔力は単純に生物を死に至らしめ、魔素は生物をただ殺す事もあれば別の生物に変化させる事もあった」

 

 「その変化した生物のその後は問題は無かったの?」

 

 「その後、生物としての姿を保つ事が出来なくなり結局死んだ」

 

 「そう……」

 

 「人は魔素によって変化せず死ぬだけだったが、カミラは人では無い。イシリス全体の魔素が濃くなって来た事で、カミラにも何らかの影響がある可能性が出て来た訳だ」

 

 ドレスがあるからどうにでもなるとは思うが。

 

 「母様がくれたドレスがあれば平気だと思うわ。何もかもお母様が気を遣う事は無いのよ?」

 

 「娘の事だからな、もっと早く話をしておくべきだったと思っている。今後、カミラは違和感を感じたらドレスを使うようにしてくれ。後はヒトハだ」

 

 『主様の構成物で覆われた私に悪影響があるとは思えません……それに私は生物ではありませんし……』

 

 「私も恐らく平気だと思っているが、二人とも何かあれば私に言うように」

 

 「お母様に黙っている事なんてないわよ」

 

 『同じく主様に隠す事などありません』

 

 「そうか、ありがとう」

 

 「それで……人類が危険なのはそのせい?」

 

 まだ話していなかったな。

 

 「そうだ。今のイシリスは魔力が使用され続け、魔素が増えている」

 

 「魔素が濃くなって死ぬって事ね?」

 

 『主様の実験結果からすると人は死ぬだけですね』

 

 「現在イシリス全体の魔素の濃度は実験中の濃度に近づきつつある、当時の私は自然にこれ程の濃度になるとは考えていなかったと思う」

 

 当時は魔力と魔素の関係を忘れていたからな。

 

 「今回の話は忘れる事無く話す事が出来で良かった、二人の安全に関わる事だったからな」

 

 私がそう話すとヒトハが話しかけて来た。

 

 『主様……無礼を承知で申し上げます。私は主様が完璧では無い事を嬉しく感じております』

 

 この記憶力が原因で問題が起こる可能性もあるのだが、ヒトハはそれを嬉しく感じると言う。

 

 「そうか」

 

 「ヒトハ……?」

 

 私はヒトハがそんな事を言うとは思っていなかったため内心では少し驚いていた、カミラも驚いたようにヒトハを見ている。

 

 『主様が完璧であったなら私はきっと生まれませんでした。必要とされませんでした。主様に仕える事はありませんでした。……私は、完璧では無い主様をこれからも支えたいのです』

 

 なるほど、ヒトハは順調に育っている様だ。

 

 「そうだ、私は完璧な存在では無い。どれだけ強くても、様々な事が出来ても、失敗する。これからも不完全な私を私を支えてくれ、ヒトハ」

 

 『この命尽きるまでお仕えいたします、主様』

 

 ヒトハ自身が気が付いているかは分からないが、今彼女は命と言った。

 

 私は思わず微笑む。

 

 また一歩、目覚めの日へと近づいた気がした。

 

 「あ、二人とも。私も傍にいるからね?忘れないように」

 

 「当然だ、お前は私の娘だぞ」

 

 『カミラ様を忘れる事などありえません』

 

 その日の夜はカミラと共にベッドに入り、枕元にヒトハを呼んでカミラが寝るまで語り合った。

 

 

 

 

 

 

 カミラとヒトハが支えてくれる事自体は嬉しく思う、だがそれに甘える気は無い。

 

 出来るだけ私自身も取り返しがつかない事が起きないように注意しなければならないが、どうなるだろうな。

 

 後は取り返しがつかない出来事が起きない様に、更に言えば起きた出来事から取り返せるように、まだまだ力をつけなくてはならない。

 

 

 


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