少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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059-02

 

 人類の中に誰彼構わず殺したり犯したりする者や、自殺する者が現れたらしい。

 

 カミラは自暴自棄になっているのではないかと言っていたな。

 

 魔力欠乏と魔素中毒の恐怖に怯え、数を減らし続けながらもまだ人類は存在している。

 

 町は無くなり、村や集落の様な規模の集団を作り日々を生きているようだ。

 

 「以前から思っていたけど、誰も都市に住んだりはしないのね」

 

 カミラの言葉にヒトハが答える。

 

 『都市部を住処にしていたのは盗賊などの略奪者ですね。基本的には土の地面が残っていて水源がある場所……川や湖などの水辺に多く集まって住んでいます』

 

 「あ……考えたら当然よね。石や金属で覆われた地面で農作業は無理だし、水も無いもの」

 

 都市の機能が生きているなら間違いなく都市が良かっただろう。だが、機能が死んでいたら都市では食糧や水が手に入らない。

 

 現在の人類の都市や大きな町は、人が長く住めるような場所では無い。

 

 『現在の人類の分布は水辺の周囲に村や集落が点在している状態です。残されていた道具や武器を使い、農作物を頼りに暮らしています』

 

 「果樹が少しでも残っていれば果実を取る事も出来たんでしょうけど」

 

 『果樹は人類同士の争いで大半が死んでしまい、残りも魔力の減少と魔素の増加が原因で全滅しましたからね』

 

 「魔物が居れば狩りも出来たでしょうけど……」

 

 本を読みながら二人の話を聞いていた私は、会話に割り込んだ。

 

 「魔物はこうなってしまった人類にとってはいなくて良かったかも知れないな」

 

 私がそう言うとカミラがこちらを見る。

 

 「どうして?食料にもなるし素材も手に入るわよ?」

 

 「今の人類が魔物に勝てると思うか?」

 

 私の問いにカミラは難しい顔をする。

 

 「……無理かもしれないわね」

 

 「以前、家畜化された魔物が人類を襲うと言った事を覚えているか?」

 

 「ええ、覚えているわよ」

 

 「あの時はすぐに処分したようだが、恐らく人類は魔物に対抗する力は無かったと思う。魔道兵器は無く、個としての力も落ち、訓練もしていない。あの状態では自由になった魔物に狩られて絶滅していた可能性がある。そうなっていれば人類がいなくなり魔物が増え、時間はかかるだろうが魔力が回復し始めたかもな」

 

 「確かにそうなっていたかもしれないわね……」

 

 「ただ、その後に魔物が滅びる可能性もあると思う。人類以外の食料が存在しないため食い尽くした後は共食いになり、残りも飢えて死ぬかも知れない。環境が回復するまで持つかと言われれば、難しいと思う」

 

 『行きつく結果は同じかも知れないですね』

 

 ヒトハが言う通り、過程は違うが全ての生き物が全滅しそうな状況は変わらないと思う。

 

 「以前も似たような事を言ったかも知れないが、人類が樹々と魔物達を絶滅寸前に追いやった時点で結末がほぼ決まってしまった気がする」

 

 私は二人にそう話して本に目を移した。

 

 その後も二人はしばらく話していたが、やがてヒトハが転移していった。

 

 「イシリスに行ったか」

 

 「ええ」

 

 「そろそろヒトハに人類の情報を集めて貰う事も無くなるかも知れないな」

 

 「そうね」

 

 「念の為最後まで情報収集は続けて貰うが、何か新たな事が起きるだろうか」

 

 「難しそうよね。後は彼らが減って行くだけでしょうし、この環境で新しい何かを生み出すと言っても……何が出来るのかしら……」

 

 カミラも同じ意見か、私から見ても今の人類にこの状況をどうにか出来るとは思えない。

 

 後は滅びるのを待つだけになりそうだが、それでもまだ人類は生きている。

 

 まだ可能性は残っている。

 

 「お母様、そろそろ訓練の時間よね?」

 

 「そうだな、行くか」

 

 カミラの確認に答える。

 

 「少しずつだが確実に伸びている、無茶はするなよ?」

 

 「ええ、体調には気を付けているわ」

 

 私が念の為注意すると彼女は微笑んで答えた、分かっているなら良い。

 

 その後カミラとの戦闘訓練を一週間ほど続けて行った。

 

 休憩、睡眠、食事、水分補給などは無しだ、いつでも必ず休めるとは限らないからな。

 

 

 

 

 

 

 「私は寝るわね……おやすみなさい……お母様」

 

 「おやすみ、しっかり休め」

 

 『お休みなさいませ』

 

 一週間の戦闘訓練を終えたカミラは食事を取り風呂に入るとすぐに寝室へと向かって行った。

 

 ある時期からカミラは過酷な状況で長く戦う訓練をし始めた。

 

 私はカミラの体調に気を付けながら訓練に付き合っている。

 

 現在は一週間程度なら問題無く戦い続ける事が出来るようになった。

 

 服の魔力供給は使用はするが、制限している。

 

 彼女は状態が悪くなっても、数時間ほどで元の状態に回復する。

 

 何か問題が起きるのではないかと慎重に確認しているが、今まで問題は起きていない。

 

 これからどうなるのかはまだ分からないが、場合によっては長時間戦い続けても睡眠時間が数時間あれば万全な状態に戻る。という不思議な存在になるかも知れない。

 

 そこまで考えて自分の事を思い出し、私の方が不思議かも知れないと考えたがすぐにやめた。

 

 これから彼女はまだまだ成長する可能性がある、彼女にやる気があるのなら私はこれからも手を貸すつもりでいる。

 

 

 

 

 

 

 数時間後、起きて来たカミラはやはり完全に状態が戻っていた。

 

 今は元気に遅めの昼食を作っている。

 

 「出来たわよー」

 

 声が聞こえカミラがキッチンから現れた。周囲には料理を盛りつけた皿が浮いている、ヒトハは飲み物を持って来てくれたようだ。

 

 「今日はお母様が好きな肉料理よ」

 

 そう言いながら席に着く彼女、同時に周囲に浮いていた料理達がテーブルに並ぶ。

 

 「では、頂こうか」

 

 いつもの様に私の一言で食事を始める。

 

 『どうぞ、主様』

 

 「ありがとう」

 

 ヒトハがモー乳を入れてくれた、私は礼を言い一口飲む。

 

 今日もいい味だ。

 

 『カミラ様、どうぞ』

 

 「ありがとう、今日は何?」

 

 『世界樹の果実を使った果実酒に、草食生物の血液を少々加えています』

 

 私はあまり酒が好きでは無いがカミラは中々気に入っているようで、こうしてたまに食事中に酒を飲む。

 

 色々と飲み方や味を変えられるのが良いらしい。

 

 「うん、美味しいわ。ありがとうヒトハ」

 

 『喜んでいただけて光栄です』

 

 世界樹の果実は私が食べてきた果実の中で一番の味だ。

 

 その果実で作られた酒は美味い。

 

 あまり酒が好きではない私でも世界樹の果実酒は美味く感じる。

 

 「カミラ、世界樹の果実酒より美味い酒はあるのか?」

 

 私がそう言うと彼女は少し考えてから話し始める。

 

 「私の個人的な感想だけれど、総合的には世界樹の果実酒が一番だと思うわ。ただ、好みや気分で飲みたい物が変わるでしょう?だから人によっては他の物が良いと思うかもしれないわね。実際に私は他のお酒も美味しいと感じているから、その時の気分で飲み分けているわ。ヒトハに任せる事も多いけれど、それもまた良い物よ?」

 

 「そうか」

 

 私は飲むのなら世界樹の果実酒だけで十分だが、酒が好きならばそういう事もあるか。

 

 しかしカミラがここまで気に入るとは。

 

 使う事はあまり無いと思っていた魔法を使った酒の製造技術だったが、覚えておいて良かったな。

 

 「話は変わるが、訓練の事で話がある」

 

 「何?」

 

 訓練の事と聞いてカミラが真面目な雰囲気になる。

 

 「内容に問題がある訳では無い、ただこれからもカミラはこの訓練をやりたいのかを聞きたいだけだ」

 

 「お母様が迷惑でないのならやりたいけれど……駄目?」

 

 そう言ってくる彼女の表情は何かをねだる子供のように見える。

 

 「迷惑では無い、体に悪影響が出ないなら好きにすると良い。いつでも手を貸そう」

 

 そう言うと彼女は嬉しそうに微笑んで言った。

 

 「うん、ありがとうお母様」

 

 

 

 

 

 

 私達は日々を過ごしながら人類を見ていたが、何かが起こる事も無く数を減らし続けて行った。

 

 そしてある日、いつもの様に戻って来たヒトハから報告を受ける。

 

 『主様、人類が限界を迎えています』

 

 「そうか」

 

 もう何かが起こる事は無いのだろうか。

 

 「現在の人類の状態は?」 

 

 『川沿いの集落に居る五人が、最後の生き残りです』

 

 残った人類は五人か。

 

 人類は私が初めて出会った知的生命体だ、最後は見ておきたい。

 

 私は彼らの居場所を見つけてリビングの空間に様子を映し出した。

 

 「私はこのままどうなるか見ているつもりだが、二人はどうする?」

 

 「私も起きている間は見ていようかしら」

 

 『お供いたします』

 

 カミラが私の隣に座り、ヒトハも私の横に飛んできた。

 

 映し出されているのは小さな集落だ、かろうじて家だと分かるような物が一つあり周囲には畑が広がっている。

 

 その畑で男二人と女二人が畑仕事をしていた。

 

 「もう一人はどうしたのかしら?」

 

 カミラが言うとヒトハが答えた。

 

 『もう一人は赤子です』

 

 「……今の状態で良く生きてるわね」

 

 確かにそうだな、人類は魔素に対する耐性の低い者、少ない魔力に体が耐えられなくなった者から死んでいたと思う。

 

 赤子の場合、魔力が少なくても平気と言うのはまだ分かるが、魔素に対する抵抗はそう高くはないはずだ。

 

 「ヒトハ、赤子は魔素中毒で死んでいる者が多かったはずだな?」

 

 『はい、私が知る限り赤子や幼い子供の死因の多くは魔素中毒です』

 

 今の環境に耐えられる子供が生まれたのか?しかし、そうだとしても生まれるのが遅すぎた。

 

 「もしかしてその子は今の環境で生きて行けるのかしら?」

 

 カミラが集落を見ながら私の考えと似たような事を言う。

 

 「今の環境でまだ死んでいないのなら、その可能性が高いかも知れない」

 

 「お母様もそう思う?」

 

 私の言葉にカミラがこちらを見る。

 

 『あの赤子がこの環境に適応しているのなら、あの四人が先に死ぬでしょう。その時、残された子はどう致しますか?』

 

 ヒトハが私へと問いかける。

 

 「特に何もしない」

 

 私はそう答えた。

 

 それよりも、何処かにヒトハが見落としている適応者がいないだろうか。

 

 私はすぐに他に適応して生きている者が居ないか探してみたが、他には見つからなかった。

 

 このままだとあの赤子が最後の人類になりそうだ。

 

 

 

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