少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 私は彼女の死体を埋めてから二人の元へ戻る。

 

 「急に決めてしまって悪かったな。二人とも」

 

 「大した事じゃないわよ。それに、お母様のやる事は結構急な事が多いわよ?」

 

 『主様に対して迷惑などと言う事はあり得ません』

 

 子供を抱いたまま笑って話すカミラと、心なしか嬉しそうな声色のヒトハ。

 

 私は子供に、ライベルにペンダントをかけた。

 

 「このペンダントはどうしたの?」

 

 カミラがペンダントについて聞いてくる。

 

 「作った。中にはライベルの母親の髪が入っている」

 

 「なるほど、形見って訳ね……この子ライベルって言うのね?」

 

 「ああ、死ぬ直前に母親が教えてくれた」

 

 『かなり濃い黒髪ですね主様』

 

 「そうだな」

 

 この子が黒髪である事は見ていたから知っている、最後に私と関わりがある血筋の特徴を持つ者が残る事になったか。

 

 「お母様、これからどうするの?ここで一緒に住むのかしら?」

 

 「そのつもりだ。私達は今では珍しい長命種で、この集落で暮らしていたと言う事にしよう。集落の者は寿命と原因不明の病気で全員死に、この子の母が死ぬ時に後を頼まれたという事にしよう。どうだ?」

 

 「いいんじゃないかしら」 

 

 『私達が教えない限り知る方法はありませんからね』

 

 二人もこれで良いようだ、後はこの子が死ぬまで見守ろう。

 

 

 

 

 

 

 この子は授乳が必要な時期は過ぎているので、離乳食を作り与える事にした。

 

 成長した時、違和感が無いように周囲の畑は維持し、食事に月の拠点で作った栄養豊富な食材を混ぜて与えた。

 

 大部分は周囲の畑で取れた食材を使うためかなり味は落ちたが、それでも十分食べられる味の物が出来た。

 

 勿論作ったのはカミラだが。

 

 「この子よく食べるわね」

 

 『食べないよりは良いのではないでしょうか』

 

 「それもそうね」

 

 ライベルは幼いながらによく食べた。今まで足りていなかった物を必死に得ようとしているかのようだった。

 

 だが恐らくそれは考え過ぎで、味が以前の物より格段に良いからという理由だと思う。

 

 

 

 

 

 

 母親役はカミラに任せ、私は姉役として畑仕事をしている。

 

 私は何気なく足元の土を掴み取り、確かめる。

 

 土には極僅かな、辛うじて分かる程度の魔力しか含まれていない。これでは作物が育っても栄養は少ないだろうな。

 

 こうして土の状態を確認し、改めて今植えられている作物が存在している事に僅かながら驚きを感じた。

 

 もしかするとライベルと同じようにこの環境に適応出来たのかも知れない。

 

 少し離れた所ではヒトハが作物の状態を確認している。

 

 私は川まで水を汲みに行く事にした。

 

 ライベルの前で堂々と魔法を使うのはやめておく事にしたからな。

 

 「ヒトハ、私は水を汲んでくる」

 

 『いってらっしゃいませ』

 

 

 

 

 

 

 私は集落の近くにある川に着いた、私は川の状態も確認する。

 

 水は澄んでいて人類に悪影響を及ぼす様な問題も無い。

 

 これなら飲む事が出来るが、水草一つ生えておらず生物はいない。

 

 私は大きな器に水を汲んでいき、すぐに満杯にすると持ち上げて家へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 私達が共に暮らし始めてから時が経った。

 

 途中に何か問題などが起こる事も無くライベルは順調に成長し、大人になった。

 

 「母さん、水を汲んで来たよ」

 

 「ありがとうライベル、その水は向こうに置いて蓋をしておいて」

 

 「分かったよ、姉さんとヒトハは?」

 

 「二人とも畑よ」

 

 「俺も行ってくるよ」

 

 「もうすぐ食事だからついでに呼んで来て」

 

 「分かった」

 

 畑に居ると会話が聞こえてくる、私は現在ヒトハと共に畑の作物に水をやっている所だ。

 

 「姉さーん、ヒトハー」

 

 そう声を上げながらネックレスを付けた体格のいい黒髪の男、ライベルが駆け寄ってくる。

 

 「どうした?」

 

 今の私は寿命が長いだけの普通の人間だ、あの距離から声が聞こえる事は無い。

 

 「そろそろ飯だってさ」

 

 「そうか、丁度水を撒き終えたし一度戻ろう」

 

 『では戻ります、主様』

 

 ヒトハは私にだけそう伝えると、頷くように動き家へと移動し始めた。

 

 ライベルにはまだヒトハが話せる事を明かしていない。

 

 話す事は出来ないが、言っている事を判断し動く、人類が栄えていた頃の遺物だと話してある。

 

 

 

 

 

 

 食事は塩などが無いため素材の味だけだ。

 

 だが素材の一部に月の物を使用している事とカミラの調理技術の高さのおかげで、かなりの薄味ではあるが素材の甘みや旨味を上手く生かした仕上がりになっている。

 

 料理するための火力は衝撃を加えると高熱を発する魔法金属を私が作り、ヒトハと同じ過去の遺物であると説明している。

 

 適当な言い訳だとは思うが彼にそんな事は分からない、信じて昔は凄かったのだと夢を膨らませていた。

 

 私達がライベルを育て始めた時に集落にあった木材は少なく、どう考えても彼が生きていくには足りなかった。

 

 周囲から集める事も出来るか分からない為、言い訳を考えて道具を作った訳だ。

 

 「母さん、食料は足りてる?」

 

 食事をしながらライベルがカミラに聞く。

 

 「そうね……保存している物も合わせれば問題無いと思うわよ?」

 

 「もう少し畑を広げようと思うんだけど……駄目かな?」

 

 「それは構わないけれど……どうしたの急に?」

 

 「もう少しだけ備蓄を増やしておきたいんだ。何かあった時、次の収穫があるまで問題無く過ごせるようにさ」

 

 なるほどな、この子なりに考えたのか。

 

 「ライベル」

 

 「姉さん?何?」

 

 私が声をかけると彼は振り向いて答える。

 

 「増やしすぎるなよ?余裕は十分あった方が良いが、多すぎて保存食を駄目にしてしまったら無駄働きだからな」

 

 「うん、わかってる。大体だけど収穫から次の収穫までにどれだけ食料を使っているか調べておいたんだ。一時的に収穫量を増やして目標に到達したら、収穫量と使用量が同じくらいになるように戻すつもりだよ」

 

 元々の素質なのか私達の教育を受けたからなのかは分からないが、中々良い子に育ったと思う。

 

 『お母様、いいのよね?』

 

 『いいぞ、私とヒトハも手伝おう』

 

 『かしこまりました、主様』

 

 念話で会話をして決定する。

 

 「じゃあ保存してある種を使っていいから自由にやってみなさい、お姉ちゃんとヒトハにも手伝って貰ってね」

 

 この家族の長という事になっているカミラがライベルに言う。

 

 「分かった。慎重にやるし、何かあったら姉さんが注意してくれるから平気だよ」

 

 そう言って私を見る。

 

 「私も手伝うとは言ったが頼りすぎるなよ?私に何か言われる前に気が付けるように心がけろ」

 

 「姉さんは厳しいよなぁ……まあ俺の事を思って言ってくれてるんだろうけどさ」

 

 ライベルが苦笑いする。

 

 「食べて少し休憩したら畑へ行くぞ、どの辺りにどの程度増やすのか聞かせて貰おう」

 

 「分かったよ」

 

 それから他愛のない話をしながら昼食を終えた。

 

 

 

 

 

 

 ライベルは不安そうだったが、一度目は無事に以前より多くの収穫を得る事が出来た。

 

 そこから更に畑を広げ、現在は二度目の収穫を迎えている。

 

 今回もそれなりに上手く行っているな。

 

 備蓄が目標の量に到達するまでこのままでも問題無いが、もう少しだけなら広げても平気かも知れない。

 

 その辺りの判断はライベルに任せよう、今は全員で収穫だ。

 

 収穫した作物は一度調理し、程よい大きさにした後で熱石に当てる。

 

 熱石とは私が作った魔法金属にライベルがつけた名前だ。

 

 石では無いのだが、そう見えたのだろう。

 

 その熱石を使って加熱すると同時に乾燥させて行く。

 

 水分を限界まで抜く事で大分長く持つようになる、そして食べる時は水で戻して食べる訳だ。

 

 地面に掘った部屋に熱石を置き、熱石をしばらく叩き続けて部屋の温度を上げて乾燥させる。

 

 熱石を何かに使えないかと、ライベルが考えた方法だ。

 

 この方法だと天日で数日かけて行っていた乾燥が半日以下で終わる上に、天日で作った物よりも長く持つ。

 

 色々な面で有効な方法となった。

 

 そして冷ました後に保存用の地下室へと運び込む。

 

 全員でやればそう大変では無いし、何よりライベルが良く働いてくれる。

 

 

 

 

 

 

 ある日、畑仕事の休憩中にライベルがペンダントを開けているのを見た。

 

 彼には本当の母親の形見が入っていると教えていたが、今まで彼は一度も本当の母親の事を聞いて来ない。

 

 「姉さん」

 

 私は特に何も言わずにそのまま通り過ぎようとしたのだがライベルに呼び止められた。

 

 「何だ?」

 

 「俺の本当の母さんの事……聞いてもいいかな?」

 

 どんな心境の変化かは分からないが、知りたいと言うのなら隠す事では無い。

 

 私は彼の隣に座り話し始めた、月から見ていた間の事を思い出しながら彼にゆっくりと話して聞かせた。

 

 「……母さんの最後は知ってる?」

 

 彼が下を向いたまま言う。

 

 「知っている、看取ったのは私だ」

 

 そう言った後、少し間をあけてから話して聞かせる。

 

 「彼女は強い女性だった、何よりお前を心から愛していた」

 

 彼女が死ぬ時、誰であってももがき苦しむ程の苦痛を感じながらも、全く表に出す事が無かった事。

 

 幼かったライベルを抱き、泣きながら生きて欲しいと言っていた事。

 

 私に後を託し、ライベルに微笑みを向けたまま死んだ事を話した。

 

 彼は下を向いたまま小さく震えていた、地面にある濡れた跡は見ないでおいてやろう。

 

 しばらくそうしていた彼は腕で目元を拭うと前を見た、赤くなっていたが力強い目つきをしていた。

 

 「姉さん。仕事を再開しよう……聞かせてくれてありがとう」

 

 私達は仕事を再開した、帰った後ライベルはカミラにも感謝の言葉を伝えていた。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、ライベルが寝た後に私達は会話をしている。

 

 「どうしたのあの子?いきなり凄く感謝されたわ」

 

 私は昼間あった事をカミラに話した。

 

 「母親の事を聞いたのね」

 

 『今まで聞いて来なかった事が不思議でしたが……ようやく聞いたのですね』

 

 「後は日々を過ごすだけかしらね……何事も無ければ良いけれど」

 

 暮らすだけならもう安定している、このまま寿命を全うする事は可能だろう。

 

 「何があってもあの子の好きにさせる。母親に寿命を全うさせると約束したが、彼の人生は彼の物だ」

 

 私は彼を自由に生きさせた上で約束を果たすつもりだ。

 

 曲解すれば、永遠に寝かせたまま寿命を迎えるまで生かしておく事でも約束は守れるだろう。

 

 私はそのような事をする気は無い、彼女は「生きて」と言ったのだ。

 

 本人が生きてると実感出来なければそれは死んでいるのと大して変わらない。

 

 それでは彼女の望みが叶えられたとは言えないだろう。

 

 

 


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