少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 人類最後の一人の死を見届けた私達は月の拠点へと帰り、イシリスに次の知的生命が現れるのを待つ事にした。

 

 この状態のイシリスに生命が発生するのはいつになるかは不明だが。

 

 長い目で見る事にしよう、場合によっては私が少し手を加えれば良いだろう。

 

 「ここに帰ってくるのも久しぶりね」

 

 「カミラ、イシリスでの生活中に消費した物資は補給しておけよ」

 

 ライベルと共に過ごしていた間は戻っていなかったからな。

 

 「分かったわ、でもまずは家に異常が無いか確認しないとね」

 

 カミラは返事をしながら家の中に入って行き、私は外で拠点の環境に異常が無いかどうか確認した。

 

 ……全て問題無いな、後は世界樹の様子を見に行っておくか。

 

 『世界樹の所へ行ってくる』

 

 『いってらっしゃい』

 

 いつもより少し明るいカミラの声が返って来た、月に戻って来た事が嬉しいのかも知れない。

 

 私がヒトハと共に世界樹の元へと向かうと、嬉しそうな気配がする。

 

 世界樹も問題は無い様だ。

 

 ……ん?。

 

 私が根元に近づくと、この拠点の環境を維持している闇の塊が土台ごと世界樹の根に取り込まれかけている。

 

 近くに植え過ぎたか。

 

 しかし、世界樹が闇の塊を狙っているようにも見えるな。

 

 「お前、何か企んでいないだろうな?私と敵対するのならお前も処分するぞ」

 

 そう口にしてみるが、世界樹からは嬉しそうな気配がするだけだ。

 

 出来るだけ好きにさせてやるつもりだし、しばらく様子を見る事にしようか。

 

 問題になりそうならやめさせればいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 拠点全体の状態と世界樹に問題が無い事を確認した後、私とヒトハは家へと戻った。

 

 「お帰りなさい、食事の用意するわね」

 

 「頼む」

 

 私が帰るとカミラが食事の用意を始めた。

 

 『戻ってきましたね、主様』

 

 「しばらくは何処かに行く事も無いだろう、またここでの生活が始まるな」

 

 ソファに座り、自分でモー乳を用意して飲む。

 

 ヒトハはいつもの様に、私の隣に浮いて待機している。

 

 私はマジックボックスから本を取り出す。

 

 新しい本は以前から手に入らなくなっている。

 

 紙の本は脆く簡単に駄目になる上に、人類に火を起こす材料として使われ早々にイシリスから存在を消してしまったからだ。 

 

 そんな事を考えつつ、しばらく本を読んで待っているとカミラが食事を持って来た。

 

 「出来たわよー。色々揃ってるから楽しかったわ」

 

 「美味そうだな」

 

 久し振りとも言える月での食事という事もあり、カミラは張り切って作ったようだ。

 

 普段よりかなり量が多いが、私に量など関係ない。

 

 「カミラは無理して食べようとするなよ」

 

 「分かってるわ、お母様がいるからこれだけ作ったの。それに今回だけよ、次からはいつもの量を作るわ」

 

 カミラはどこか満足そうだ、たまにならこういう事も良いだろう。

 

 「頂こうか」

 

 私とカミラは大量の料理に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 食事を終えた後、私とカミラはゆっくりと風呂に入っていた。

 

 湯舟に浸かりながら、私はカミラに世界樹の話をした。

 

 「闇の塊を飲み込もうとしている様に見える……ねえ……」

 

 「カミラの目から見て何かおかしい事に気が付いたら教えてくれ、対応する」

 

 「んー、世界樹はお母様の事好きみたいだし、悪い事はしないと思うけど……」

 

 私もそこまで心配はしていないが、世界樹には問題無くても私には問題があるかも知れないからな。

 

 「私は不都合な事が起きないのなら、世界樹が私の構成物を取り込んでも構わないと考えている。念の為だ」

 

 「分かったわ、何か気が付いたら教えるわね」

 

 「頼む。それとヒトハ、忘れていたがお前も洗う」

 

 私は隣で湯舟に浸からずに浮いているヒトハに目を向けて立ち上がる。

 

 『かしこまりました』

 

 カミラに返事をしてから、私はヒトハを洗う為に洗い場へ向かう。

 

 その後は三人でゆっくり我が家の風呂を満喫した。

 

 

 

 

 

 

 月での生活に戻り、ある程度時が過ぎたある日。

 

 皆でくつろいでいると、カミラが私に提案して来た。

 

 「お母様、これから三人で何かしない?」

 

 「何か?」

 

 「ええ、何かしましょう?」

 

 『私は賛成いたします』

 

 ヒトハはすぐに参加を選んだ。

 

 「急にどうした?」

 

 私はカミラに問いかける。

 

 「今ならお母様が多少熱中しても問題無いでしょ?それに私が皆で何かしたいの」

 

 カミラがやりたいのならば今の私には特に断る理由も無い。

 

 「新しく何かが見つかるまで他の事をしておこうという訳か」

 

 「そんな所よ」

 

 私の言葉にカミラは微笑んで答える。

 

 「構わないぞ、何をする?」 

 

 ただ日々を過ごすのも悪くはないが、何かをする事も楽しいものだ。

 

 それに、そうして手に入れた技術や力がいつか訪れた脅威に対して役に立つかもしれない。

 

 「三人で話し合って何をするか決めましょう?」

 

 「何をするかも皆で決めるのか」

 

 「そういう事、お母様は何かある?」

 

 「新たな力や技術の開発だな」

 

 「それを皆でやるの?」

 

 カミラは苦笑いしている、何かおかしいのだろうか。

 

 「ヒトハは何かある?」

 

 カミラがヒトハに話を振る。

 

 『……特に思いつく事は……申し訳ございません』

 

 言葉通り申し訳なさそうに言うヒトハ。

 

 「気にするな。必ず意見を出さなくてはいけない訳では無い」

 

 私はヒトハを軽く撫でる。

 

 不安そうな子供には触れてやるのが良い。

 

 幼い頃のカミラにもよくやった、今でもたまにする事もある。

 

 これは以前からヒトハにもやっている。

 

 同じように効果があるかは分からないが、やらないよりは良いと考えている。

 

 「色々と話してみようか」

 

 私はカミラに言う。

 

 「そうね。……ヒトハ?ゆっくり決めましょう?」

 

 私に返事を返してから、カミラはヒトハに声をかけた。

 

 『はい、ありがとうございます』

 

 さて、何をしようか。

 

 

 

 

 

 

 話し合いは長く続いていたが、途中からはただの雑談の様になっていた。

 

 そんな中でカミラが言う。

 

 「そう言えば前に、マジックボックスの技術を使って広い空間を持ち歩けるようにしようって話をしたわよね?それはどうかしら?」

 

 そんな事を話した事もあったな。惑星を持ち歩こうなどと話していたような覚えがある。

 

 『良いのではないでしょうか?賛成です』

 

 ヒトハも良いと感じている様だな。

 

 「お母様。ヒトハも賛成みたいだし作ってみない?好きなように世界を作るのも楽しいかも知れないわよ?」

 

 「実際に世界を作るかはともかく、小さな物の中に惑星一つが入る程度の空間を作れるかは試してみたいな」

 

 「じゃあ決定ね?持ち運べる世界の作成をしましょう」

 

 『微力ながらお手伝いいたします』

 

 こうして私達は持ち運べる世界を作る事に決め、今後の事の話に移った。

 

 

 

 

 

 

 私に合わせてしまうとカミラが睡眠と食事を取れなくなる。

 

 そういう理由からいつもの様に生活しつつ、その合間に持ち運べる世界を製作する事に決めた。

 

 カミラが居ない間に進めてしまったら皆でやる意味が無くなるからな。

 

 二人には念の為、私が夢中になっていたら声をかけるように頼んだ。

 

 私は夢中になると多少周りが見えなくなる事が多い。

 

 以前は夢中になって二人を放置していた事もあったが、今はそのような事をする気は無い。

 

 こうして二人に頼んでおけばどちらかが止めてくれるだろう。

 

 「さて、これからやる事だが」

 

 私はリビングでこれからの事を話す。

 

 「何から始めるの?」

 

 カミラが私に尋ねる、何となく楽しそうな声色をしているな。

 

 「まずは内部と外部を行き来する魔法を完成させる」

 

 「完成してから出入りできない状態になっていたら無駄になるものね」

 

 『早速行いますか?』

 

 「そうだな、二人が良ければやろうか」

 

 

 

 

 

 

 それから私達は三人で魔法開発を進めたが、元々難しい魔法では無いためすぐに完成間近になった。

 

 そこで、私は二人に先にやっていて欲しい事があると頼む。

 

 「やって欲しい事?」

 

 『何でしょうか?』

 

 私は尋ねて来る二人に伝える。

 

 「使う素材の選定と、形状を決めて欲しい」

 

 「素材と形状……形状はともかく、素材は大事な事よね」

 

 カミラは納得した様に話す。

 

 「そうだ。実際に惑星などを入れていた時、器が壊れてしまったら周囲に影響が出ると思う」

 

 『どうなるのです?』

 

 私はヒトハの問いに答える。

 

 「恐らく内部の物が出て来るはずだ。もしも他の惑星の中で壊れてしまった場合、惑星同士が衝突する事になるだろう」

 

 『……確かにそれは危険ですね』

 

 「そうなったら住んでいる生物達に迷惑がかかるからな、出来るだけの対策は必要だ」

 

 「迷惑で済めばいいけど……」

 

 カミラが呟いた。

 

 「その場に私がいれば問題無いが、私が居ない時に壊れてしまうのは避けたい。勿論魔法で強化や保護はするが、念の為に素材も厳選したい」

 

 「確かにしっかり選んでおいた方が良いわね。後は形状だけど……これは後でも構わないかしら」

 

 「形状は特に言う事は無いが、大きさは私達が片手で掴める程度の大きさを予定している」

 

 「……なるほど。まずは素材の選定だけれど、形状も考えておきましょうか」

 

 カミラはそう言いながらも何か考えている様だ。

 

 こういった魔道具を作る際には、安心して使える強度と持ち運びやすい大きさは重要だ。

 

 後は軽さだが、これはマジックボックスも魔法鞄も問題無いので内部の重量は影響しないと考えている。

 

 それでも確認はするが。

 

 もし何か問題が起きて、手で持てる大きさのまま重量が内部の総重量と同じになっていた場合、私以外は持てないかもしれない。

 

 「素材を入れた魔法鞄を渡しておくから、先に確認しておいてくれ」

 

 「分かったわ」

 

 私は魔法鞄をカミラに渡す。

 

 「なんだか楽しくなって来たわね。行くわよヒトハ」

 

 『かしこまりました』

 

 そう言って二人は外へ出て行く、私も出入り用の魔法を仕上げよう。

 

 

 


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