出入り用の魔法はそれほど時間はかからずに完成した。
これで本格的に持ち運べる世界の開発が出来る、そう思いながら私は二人の元に向かった。
……爆発音が聞こえるな。
私が音の方へ向かうと、魔法金属を始めとした素材の残骸が散らばっていた。
「何をしている?」
「強度確認よ」
カミラが私の問いに答える。
『……損傷が大きいですね、これも駄目なようです』
ヒトハが残骸を確認して言う。障壁を張って周囲に被害が出ない様にしているなら特に言う事は無い。
「今の所どれが良いと見ている?」
「お母様が作ったクレリウムかしらね。厚みがあれば一番耐えているわ」
軽く、薄くても高い強度を持たせるために作った魔法合金だからな。性能は頭一つ抜けているかも知れない。
人類は結局これを超える魔法金属を作る事が出来なかったな。
「これしかないか」
「でも強度はこれでも駄目だと思うわ。人類の魔道飛行船も外装はクレリウムだったはずだもの」
「そうだったな」
私達の攻撃に全く耐えられずに落とされていたのを思い出す。
『主様……このままではどれも使えないかもしれません』
ヒトハの言葉を受けて私は考え始める。
また新しく魔法金属を作るか?
納得出来る物を作るのに時間はかかりそうだが、三人で魔法金属から作るのも悪くは無いな。
そう思いながら何気なく二人を見ていて気が付く。
……良い素材が身近にあるな。
「私の構成物」
私が呟いた言葉に二人がこちらを見る。
「それは……確かに素材としては最高かも知れないけれど……」
『主様に問題が無いのでしたら私は賛成です』
「私の構成物は高い強度を持ち、様々な特性を付けられる便利な物だ。万全を期すなら今の所これ以外思いつかない」
「……本体を別な物で作って、覆って保護すればいいんじゃないの?」
それも悪くない、むしろそれで十分かも知れない。
だが、私は私の構成物がこういった事に使えるのかを試してみたい。
「カミラが言う方法でも十分だとは思うが、私の構成物を使う事にする」
「お母様がそうしたいのなら私は構わないけれど、何かあったらやめて欲しいわ」
『主様、十分にお気を付けください』
「ありがとう、問題がありそうならすぐに中止するつもりだ」
私は二人に礼を言うと、私の構成物を分離する。
「よし、これに手を加えて行こう」
私達は作業に取り掛かった。
こうして持ち運べる世界を作り始めたのだが、すぐに問題が起きた。
「私達じゃ手を加えられないわよこれ」
『どうにもなりませんね』
二人では分離した私の構成物に手を加える事が出来なかったのだ。
その為作業はすべて私が行い、二人は私と会話しながら眺めているだけになった。
「悪かった。こうなる可能性を考えていなかった」
私は二人に謝った。
皆で製作するという目的の一つを、私が試したい事を行った事で潰してしまった。
「良いわよ、見ているだけでも楽しかったわ」
『主様の素晴らしい力を見せていただく事が出来ました』
二人はそう言ってくれる。
皆で作るという点では失敗だったが、私は意見を変える気は無い。
事前に気がついていても、恐らく行っただろうな。
今度三人で別な物を作ろうか。
「お母様、問題無いのなら本体の入れ物を作りたいわ。どうかしら?」
そう考えていると、カミラが提案して来た。
それはいい案だ。
「何の問題も無い、是非作って欲しい」
問題は無いのでそう答えたが、もし問題があっても私はどうにかして問題を無くしていただろう。
「本体の作業を見ていたいから、本体をお母様が作り終わったら作りましょうか。ヒトハもそれでいい?」
『はい、問題ございません』
それからは再びいつもの様に過ごしながら製作を進めた。
時には訓練をして、時には人類が残したゲームで遊んだ。
私に新しい知識が流れ込んで来たり、巨大な隕石が月にぶつかるのを防いだりしながら時は過ぎて行く。
月の研究所で少しずつ製作を進めていた私は。
たった今本体を完成させた。
「持ち運べる世界の本体が完成したぞ」
そう言って二人の前に本体を置く。
出来上がったのは小さな闇の塊だった。
「正直……見た目は変わってないわよね?」
カミラが手に取り眺めている。
『確かに、違いが分かりませんね』
間違いなく完成しているが、外見は何も変わっていないからな。
「変えた方がよかったか?入れ物を作ると言っていたから気にしなかったのだが」
「何も問題無いわ、ありがとうお母様。この方が自由に入れ物を作れるから良かったと思う」
「正式な名前を決めないとな」
私がそう言うと二人も考え出した。
しばらく皆で考えている時、私はカミラの掌にある完成品を見て思いつく。
「掌の世界、というのはどうだろう?」
そう言うと二人は私を見る。
「いいんじゃないかしら」
『素晴らしい名前です』
「そうか、決定だな。この完成品の名前は「掌の世界」だ」
こうして名前も決まり、後は入れ物を作るだけになった。
その後、カミラとヒトハの二人は入れ物を作り始めたのだが、私は顔を出していない。
経過を見ずに完成品を見て欲しいというカミラの頼みを聞いたからだ。
私はいつも通りに過ごし、二人が製作をしている時は世界樹の元で二人の周囲の知覚を完全に遮断して過ごしている。
今でも世界樹は嬉しそうに私の事を迎えてくれる。
闇の塊は今では完全に世界樹の根に包まれて見えなくなっていたが、それから何か問題が起きる事も無く時が過ぎているな。
「お前、また少し大きくなったな。元気で何よりだ」
私は太い幹に手をついて話しかける。
風に吹かれて周囲の大きな葉が鳴っている、ここは中々居心地がいい。
ある日、カミラから完成したという報告があった。
私はリビングで待っていて欲しいと言われ、言われた通りソファに座って待っている。
「お待たせ、お母様」
しばらく待っていると、カミラとヒトハが現れる。
ヒトハは小さな箱を持っていた。
『どうぞご覧ください』
ヒトハがテーブルに箱を置き、中身を取り出してそっと私の前においた。
「良いな」
私はそう呟いた。
一目見てすぐに分かるとても良い出来だった。
横幅は私の掌から少しはみ出る程で、高さは15cm程だろうか。
質素で穏やかさを感じさせる装飾が施された台座が美しい。
その台座の上には透明度の高い球体が乗っていて、気品を感じる装飾が表面に施されている。
そして球体の中心には私が製作した黒い本体が納められ、常に揺らめいて見えていた。
『台座は私が担当いたしました。クレリウム魔法合金を使用し、装飾を施しました』
ヒトハは私に説明してくれる。
『カミラ様より主様は派手過ぎる装飾は好まないと聞いたため、私なりに考えさせて頂きました』
これはヒトハが考えたのか。
こういった事も出来るようになったのは成長しているという事だろう。
「次は私ね。本体を覆う素材は透明度を出すために魔水晶を魔法強化して材料にしたわ。装飾はお母様に好みに合わせて控えめで主張し過ぎない物にしたつもりよ」
透明な魔水晶に表面の装飾が映えている、いい出来だと思う。
「実際には本体は魔水晶内部に固定されているけど、水晶の透明度を生かして浮いて揺らめいて見えるように加工しているわ」
なるほど、実際に浮いて揺らめいている訳では無い訳だな。
二人が作った物ならばどんな物であっても構わないと考えていたが、予想以上に素晴らしい出来だ。
「二人ともありがとう。私の予想以上の出来で驚いている」
私がそう伝えるとカミラは嬉しそうに微笑み、ヒトハは左右に少し揺れていた。
「今はまだこれ以上する気は無いが、いつか世界を作る時には手伝ってくれると嬉しい」
「もちろんよ」
『お手伝いさせていただきます』
製作した掌の世界は部屋に飾る事にした。
本来ならマジックボックスにしまっておく方がいいが、私達の合作でもあるし美術品としても気に入っている。
そして何処に置くかを話し合った結果、リビングに飾る事に決まった。