少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 掌の世界を作り終えてから、時は流れる。

 

 特に何か起こる事の無い変わらない日々ではあるが、私はそんな日々も嫌いでは無いな。

 

 一人で過ごしていた日々も悪くは無かった。だが、一人であった頃に戻りたいかといわれれば、戻りたいとは思わない。

 

 今まで過ごす内に時間に対する感覚が多少変わった。

 

 私は元々時間をあまり気にしていなかったが、人類が居た頃は僅かに時間を気にかけていたカミラとヒトハも、今では全く気にしなくなった。

 

 今の私達は人類が滅びてからどれほどの時間が経ったか分からない状態になっている。

 

 現在、私は世界樹の枝に座り、月の世界と風に揺れる葉を見ている。

 

 世界樹はかなり巨大だ、上に登れば月の拠点が良く見えるだろう。 

 

 「お母様ー、食事が出来るわよー?」

 

 下からカミラの声が聞こえる。私達はこうしてわざわざ時間をかけて行動するようになっていた。

 

 私は返事を返さず世界樹から飛び降りる、ヒトハも私を追ってついて来た。

 

 私達は並んで家へと歩く。

 

 様々な興味を引く事に関わるのは勿論楽しいが、こんな時間も私にとっては心地いい。

 

 その時、私はこちらに近づいて来る小惑星を感じた。

 

 「二人とも、小惑星が近づいているが当たる事は無いから気にするなよ」

 

 私は歩きながらそう伝える。

 

 「いつもの事ね、分かったわ」

 

 『了解しました』

 

 イシリスには当たるが既に生物などいないし、あの程度でどうにかなる事も無いだろう。

 

 私達はそのまま家に向かい、食事を楽しんだ。

 

 その後、私は念の為にイシリスの様子を見に行った。

 

 恐らく先程の小惑星が落下したのだろう。イシリスの一部が煙の様な物で覆われて見えなくなっていたが、やはり特に問題は無さそうだった。

 

 私は月面からイシリスを見上げていたが、すぐに拠点へと引き返した。

 

 

 

 

 

 

 ある日、私が家畜達の様子を眺めていると念話が来た。

 

 『お母様、私の所へ来て。イシリスの様子が変わっているわ』

 

 『すぐに向かう』

 

 念話での報告を聞いた私はカミラの元へと転移した。

 

 興味深い事になっているな。

 

 イシリスは全体が黒い煙のような物に覆われて光の筋を走らせていた。

 

 『二人とも、私はイシリスへと向かうがどうする?』

 

 『行くわ』

 

 『お供いたします』

 

 『分かった』

 

 私達は転移でイシリス上空へと転移した。

 

 

 

 

 

 

 「なにこれ?」

 

 『何も見えませんね』

 

 転移後、二人の声が聞こえるが姿が見えない。

 

 予想以上に煙のような物が分厚くイシリスを覆っている様だ。

 

 「地上へ向かおう、降下しろ」

 

 私がそう言うと二人の気配が降下していった、私も二人について行く。

 

 暗闇を抜けると、地上は輝く川の世界になっていた。

 

 至る所に巨大な火山が生まれ、噴火を繰り返している。

 

 月から見た時、惑星全体が煙の様な物に覆われていたのは噴火の影響か。

 

 「なにこれ……何で急にこんな事に?」

 

 『今までイシリスでこのような事は見た事があります。ですがその時の火山は単独で、ここまでの規模の物は見た事がありません』

 

 二人はかなり驚いている様子だが、取り敢えず見て回ろう。 

 

 「障壁を張っておくべきだったな、もう遅いだろうが」

 

 火山からの物だろう、周囲には雪のような灰が大量に降り注いでいる。

 

 「あっ……帰ったらお風呂に入りましょう」

 

 『私も洗わないと問題がありそうです』

 

 二人は既に汚れているな、勿論私も汚れている。

 

 障壁を張らずにイシリスに転移した時点で手遅れだった。

 

 「帰ったら皆で風呂にする事は決定だが、まずは手分けして状況を確認しよう」

 

 「分かったわ」

 

 『了解しました』

 

 私達は三方向に分かれた。

 

 

 

 

 

 

 明るく輝く大地を上空から見て回る。

 

 火山同士の間隔があまり離れていないからか、周囲の大地が溶岩で埋まりそうな状況だ。

 

 海にも多くの火山が出来ていて、溶岩が海に流れ込み煙を上げ続けている。

 

 都市や町、集落など、人類の痕跡は全て飲み込まれていた。

 

 その後私達は状況を報告し合い、惑星全体が同じ状況である事を確認した。

 

 「この惑星規模の大噴火で何かが変わるだろうか」

 

 「どういう事?」

 

 カミラが私の言葉に対して疑問を口にする。

 

 「イシリスに新しい知的生命体が現れる可能性が、少しは上がるのではないかと思ってな」

 

 「そうね……あのままだといつまでかかるか分からなかっただろうし。これだけの規模だもの……何かが起きる可能性はあるわよね」

 

 『この状態は生命が生きていける環境では無いのでは?』

 

 ヒトハが問いかけて来る。そうかもしれないが、全く望みが無い訳でも無い。

 

 「ライベルのような事もある。以前の生物が生きていけない環境下でも、生きて行けるように進化出来るという事をあの子が示した。だからどんな環境であろうと可能性はあると私は考えている」

 

 「なるほどね……。かなり難しいとは思うけれど、無いとは言い切れない。だから待つ……という事ね?」

 

 「そうだ。どんなに低くとも可能性があるのならばいくらでも待つ、私にはそれが出来る筈だからな」

 

 私は微笑みながら答える。

 

 『主様、いつまでもお供いたします。……どれだけの時を過ごしても問題ありません』

 

 「私も生きている内はまだまだお母様といるわよ、こうしている事が楽しいし嬉しいもの。心安らぐ事はあっても嫌だとは感じた事は無いわ」

 

 「ありがとう。所で……溶岩がある訳だし、久しぶりに浸かろうと思うのだが」

 

 「私はやめておくわ」

 

 『私は強度的に可能でしょうか?』

 

 「え!?ヒトハは入るの?」

 

 結局私とヒトハは溶岩風呂に入り、カミラは近くでその様子を見ていた。

 

 その後、家に帰り改めて風呂に入った。

 

 だが体に触れた湯が一気に蒸発し風呂場が蒸気で真っ白になり、私とヒトハはカミラに苦笑いされた。

 

 

 

 

 

 

 あれから火山活動は更に活発になり、長い間イシリスは噴煙と溶岩に包まれている。

 

 時々私は溶岩に浸かりにイシリスへと降りるようになった。

 

 二度目は汚れない様に障壁を張るようにしたのだが、溶岩に浸かる時は解除するため無駄だと気が付いてからはやめた。

 

 その為、私は溶岩に浸かり、その後汚れを落とすために家で風呂に入る……という行動をしている。

 

 カミラは溶岩を持ち帰って家で入れば良いと言っていたが、火口に浸かり噴き上がる溶岩を見ながら入る方が好みだ。

 

 ヒトハは一度入ったが良さが理解出来なかったらしく、私と共に火口には来るが浸からずに隣に浮いているだけになった。

 

 溶岩浴の仲間が出来るかと思ったのだが。

 

 私が溶岩に浸かっている時にも小惑星は落下している、イシリス中に時々落下しているな。

 

 もしイシリス自体が壊れてしまうような大きさの小惑星が来た場合は手を出すかもしれないが、それ以外は放置している。

 

 ただ、人類がいた頃はこれ程小惑星が落ちて来た事など無かったはず。

 

 そこが気になると言えば気になるな。

 

 

 

 

 

 

 私は月面でイシリスを見上げている。

 

 イシリスの火山活動は少しずつ収まって来た。

 

 噴火の治まった火山が増え始め、流れる溶岩の川も減り始める。

 

 私は溶岩浴もそろそろ出来なくなるなと思いながら、イシリスを眺めていた。

 

 一応溶岩はある程度保存しておいたから家で浸かる事も出来るが、私は周囲の環境を含めて気に入っていた。

 

 家で入るかは分からないな。

 

 『大分収まって来てるわね』

 

 隣にやって来たカミラもイシリスを見上げる。

 

 『この火山活動で惑星の大半が溶岩に覆われたが、そろそろ完全に治まるかも知れないな』

 

 『また何かあると良いわね』

 

 『そうだな、これからを楽しみにしていよう』

 

 

 





 主人公は人類がいた頃は小惑星が落ちていなかったと疑問を感じていますが、イシリスに隕石が落ちる間隔は約四千年から五千年の間隔で、主人公が人類を見ていた時間は二千年程です。

 時間を気にしていない事が原因の勘違いです。



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