私は現在、時々イシリスの状態を確認しながら過ごしている。
今回起こった大規模な火山活動は治まりかけた状態を維持したまましばらく続いていたが、やがて完全に治まった。
火山活動が治まりイシリスの煙も完全に落ち着くかと思ったが、今もイシリスを覆っている煙は消えていない。
それどころか再び煙が厚くなり、現在では惑星全体が煙に覆われ地表が見えない状態だ。
「イシリスの煙は中々晴れないわね」
食事をしている時、カミラがイシリスを話題にする。
「そうだな」
「全く消える気配が無さそうだし……しばらくはこのままかしらね」
「私は一度地表の様子を見にイシリスに行くが、二人はどうする?」
「どうしようかしら……気にはなるけれど……大体予想出来るのよね」
「私も予想はしている。煙によって太陽の光が長い間遮断されているからな、恐らく地表の温度はかなり下がっているだろう」
「今回はやめておくわ、帰ったら話を聞かせて?」
「良いぞ、もし予想外の事が起きていたら呼ぶか?」
「いいの?じゃあ何かあったら呼んで欲しいわ、見に行くから」
「分かった、ヒトハは?」
『お供いたします』
「では行くか」
「行ってらっしゃい、気を付けてね」
「分かった」
私はカミラの見送りの言葉に答え、イシリスへと転移した。
転移した直後、激しい吹雪に襲われた。今は昼のはずだが薄暗く、予想通り気温が低い。
『行くぞヒトハ』
『了解しました』
吹き荒れる吹雪の轟音で声が聞こえないと判断し念話に切り替えると、そのまま私達は地上へと下りて行く。
『真っ白ですね』
地上に近づいた時にヒトハが言う。
周囲は全て真っ白に染まり、何処を見ても白しか見えない。
『大体予想通りだったな』
このまま極端に環境が変わり続けると、生命の誕生が遠のきそうだ。
『少し見て回ろう』
『かしこまりました』
それから地表を確認したが、最後まで白い景色が変わる事は無かった。
「ただいま」
『ただいま戻りました』
「お帰り、どうだった?」
カミラがソファに座ったまま聞いてくる。
「強い吹雪になっていて地表は真っ白だ。かなり積もっているようだったが、それだけの様だったから戻って来た」
「予想通りだったのね」
「その通りだ。いつか気温が上がる事があれば、次は大量の氷が解けて水浸しだな」
「ふふ、やっぱりそう思うわよね」
カミラも同じ事を想像していたのか笑いながら言う。
あれだけ氷があれば次はどうなるか簡単に予想出来るからな。
「何か動きがあるまではあのままだと思うが、待っていればまた何か起こるだろう」
「そうね、ゆっくりと過ごしましょうか」
『お二人とも、何か飲み物をお持ちいたしましょうか?』
「モー乳入りの紅茶を、割合はいつものままで頼む」
「私は世界樹の果実酒をお願い」
『かしこまりました』
ヒトハが飲み物を用意しにキッチンへと向かう。私はソファに座り、またいつもの生活へと戻った。
私は現在、小惑星を警戒するためにイシリスと月の周囲の宇宙空間を知覚しながら過ごす様にしている。
大小さまざまな宇宙の飛来物を確認し、ぶつかると問題のありそうな物だけを排除している訳だが、その中の一つの動きが気になる。
『二人とも私の元へ来い』
私は念の為、二人を自分の元へと呼び寄せた。
心配しすぎかもしれないが、宇宙には何があるか分からない。
「どうしたの?」
『主様、御用でしょうか?』
すぐに現れた二人に私は説明を始める。
「私が周囲の宇宙空間を知覚しているのは知っていると思うが、気になる動きをしている物がある」
「どう気になるの?」
カミラの疑問に私は答える。
「途中で減速した上に、方向を数回変えながら近づいて来ている」
『ただの漂流物がそのような動きはしませんね』
「お母様、何だか分かる?」
普段はやらないが、明らかに不審な物なら話は別だ。
私は知覚を使い詳しく調べる。
……これは……なるほどな。
私は口元が緩むのを感じた
「詳しく知覚してみた。どうやら乗り物のようだ、多数の生命体が乗っている」
「乗り物!?生命体が乗ってるの!?」
カミラが驚いた声を上げるが、私も内心では驚いている。
イシリスの人類は宇宙に辿り着かなかった。
生身でも問題無いかまでは分からない。
だが、少なくとも宇宙空間を移動する事が出来るだけの技術を持った生命体が、この宇宙には存在していたようだ。
宇宙には他にも私が想像も出来ない何かが溢れているのだろう。
つい先ほど私自身が言った通り「宇宙には何があるか分からない」のだから。
『その様な生命体がいるのですね……』
私が内心で喜んでいると、ヒトハが呟く。
この生命体が何であれ、近づいて来ている以上ただ見ている訳にはいかない。
「私は確認しに行くが、お前達は来るな」
「でもっ!……分かったわ、お母様に任せる」
カミラは叫ぶが、すぐに私に任せてくれた。
未知の存在。
敵かどうか分からずどれだけの力があるかも分からない。
そんな相手の前にこの二人を連れて行く気にはならないな。
「ヒトハ、構わないな?」
『……主様がそうおっしゃるのならば』
ヒトハも納得してくれた。
私は念の為、拠点の障壁を強化してから目標へと向かった。
この辺りの星系は見ていなかったな……。
惑星の資源を調べて回り、豊富な資源があれば本格的に動き回収する。
これも軍の仕事だ。
ワープを使ってかなり離れた星系に来たが、この星系は凄いな……。
これほど資源が豊富な星系は珍しい。
距離は離れているが時間的にはそうでも無かった、ワープ航法は偉大だ。
今までの調査結果だけでも十分我々が動く価値があるが、もう少しだけ調べていない所を調べておこう。
その後は……帰還するべきか?
いや、まだ余裕はある。この付近を調べてから改めて考えようか……。
「加速した?……群長。何かが……こちらへと迫っています」
私が色々と考えていると、レーダーを観測していた者の報告と共に情報が送られて来る。
「まだ加速している!?……まもなく本艦の最高速度を越えます!」
一体なんだ……?そんな速度を出せる艦が何故こんな所に?
「何処の所属艦か特定出来るか?」
「もうすぐ解析が終わります、お待ちください……っ!?」
返答した者が言葉に詰まる、どうした?
「ぐ、群長……これは艦ではありません。われわれと同程度の大きさの何かです……それ以外はエラーを起こし不明です!」
その報告が静かな艦内に響いた。
「特一戦闘警戒!!」
私は迷うことなく警戒令を発動させた、途端に艦内が騒がしくなる。
我々と同程度の大きさ……?そんな大きさでこの艦以上の速度を出す物など私は知らない。
「各出力最大!攻撃にも防御にも最大の出力を出せるようにしておけ!……ワープは!?」
「十分必要です!!」
何かあってもすぐには逃げられないか……。
一体なんだ?我々と同じ程度の大きさしかない物がこの艦以上の速度をどうやって出している?
新種の宇宙生物か?もしそうなら危険だ、奴らは我々の常識を超えている事がある。
……もうすぐアレがこちらに到着するな。
危険だろうが危険でなかろうが報告しなければならないが……その前に生きて帰らなくてはならない。
僅かな時間の後、それは我々の艦から離れた所で停止した。
映像には黒髪の美しい少女が映っている。
「ヒーラン星系種の少女……?」
誰かのつぶやきが聞こえ、全員が見とれているかのように映像を見ている。
確かに似ている、似ているが……。私には宇宙よりも暗い何処かへと我々を引きずり込もうとしているように見えた。
「目を覚ませ!ヒーラン種の少女が生身で宇宙にいられるか!?この艦以上の速度で移動する訳がないだろう!?見た目に騙されるな!!」
私の怒声に部下達は我に返ったように動き始める。
「レーザー照射準備!シールド展開!」
「りょ、了解!」
「レーザー照射準備完了!」
「シールド展開完了!」
僅かに遅れるが皆も優秀な部下達だ、すぐに指示に答えてくれた。
映し出されているアレは我々に近づいてくる。
……どうする?
……いや、近付けるのは危険だ……殺すしかない。
「レーザー照射!」
「レーザー照射します!」
この艦に装備されているレーザーは強力な物だ、念のため戦艦で来た事が幸いした……。
「ぐ……群長……レーザーが……」
映像には照射されているレーザーがアレに当たる前に、見えない何かによって遮られている様子が映されていた。
部下達が信じられない様な顔をしているが、私だって信じられない。
「馬鹿な……」
私はそう呟きながらも、頭では次の行動を考えていた。
もう私達は攻撃してしまったのだ、攻撃してしまったからには向こうも我々を敵と判断するだろう。
私はどうするかを考える、急がなければアレの攻撃が来る……!
しかしいつまでも反撃は来ない、画面の中の何かはこちらをじっと見つめている様に見える。
「群長!ワープ可能です!」
「ワープ開始!」
ワープ可能の報告を聞いた私は、即座にワープの指示を出した。
そして私達は隣の星系へとワープする。
……生き延びる事が出来たか……。
資源があれ程豊富であるにも関わらず、あの星系が手を付けられていないのはアレがいるからか。
私達と同じように訪れて資源に釣られ、あれに殺されたのだろう。
この映像と戦闘記録、各種データは全て提出するべきだが、相手は考えた方が良いかも知れないな……。
私が考えているうちに艦が消えてしまった。
周囲にもいない。
転移に似た反応を出していたから何処かへ移動したのだろう。
接近するまでの間で、中にいるのがイシリスの海洋生物を思わせる特徴を持った人型の生物である事と、知性がある事が分かった。
知性があるのなら会話が出来るかも知れないと更に近づいた事が問題だったのだろうか?
……そういえば、イシリスの野生動物も急に近づけば警戒したし、時には抵抗もして来たな。
次はもう少し慎重に近づこう。
私は月へと帰り、二人に話して聞かせた。
「どうしようか考えている内に消えたのね」
私の説明を聞いたカミラが言う。
「周囲にもいなかった、転移のような反応があったからどこか遠くへと移動したんだろう」
「逃げたのかしら?」
「恐らくそうだろう、失敗してしまったな」
『失敗ですか?』
聞き返してきたヒトハに私は答える。
「そうだ。どんな判断をするにしても、先にあの艦が逃げられない様にしておくべきだった」
「次はそうしたらいいじゃない、また来るわよきっと」
「カミラはまた来ると思っているのか?」
私の言葉にカミラは頷いて話し始める。
「……知性があってそこまでの文明があるなら、逃げた艦は何処かに所属していると思うわ。そして今回の事を報告するはずよ」
「なるほどな」
「きっと国も相当大きいはず、宇宙を移動出来るのならいくつもの惑星を支配下に置いていてもおかしくないわ。そんな国がこのまま逃げるとは思えない」
『ここに来た目的も分かっていませんね』
「そう言えばそうね」
ヒトハの言う通り、なぜあの艦があの場にいたのかが分からない。
カミラの予想では再びやって来る可能性が高いようだし、次に期待だな。
「可能性が高いのなら待っていよう。次は友好的でない場合に備えて月やイシリスからもっと離れている時に会う事にしようか」
「お母様が負けるとは思っていないけれど……」
「不安か?」
「不安よ、それがお母様であってもね」
『危険であれば逃げてしまえば良いのではないでしょうか?』
「その選択もある」
私はヒトハの言葉を肯定する。
「お母様も逃げる気はあるのね?」
カミラが意外そうに言う。
「場合による。逃げた方がより良い結果につながると思えば逃げもする、そんな状況はそうあるとは思えないが」
「なるほどね……」
「食事の前に風呂に入るか」
「じゃあみんなで入りましょうか」
あの知的生命体が再びやって来る事を期待しよう。
私はそう考えながら、風呂へと向かった。
種が変われば言葉も大きく違うのでしょうが、考えるのが大変なのであまり変えません。