少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 宇宙を移動する技術を持った知的生命体が存在する事を確認してからも、私達は時を過ごしている。

 

 時々イシリスの様子を見ながら自由に過ごしているが、一つ大きな出来事があった。

 

 「主様、お飲み物の用意が出来ました」

 

 ぎこちない動きで一人の女性が飲み物を持って来た。

 

 私ともカミラとも違うその声には、はっきりとした感情が込められている。

 

 見た目は十八歳程になっている。

 

 灰色の瞳を持ち、肌は白く、瞳と同じ灰色の髪を肩辺りで揃えている。

 

 彼女は体を得てから給仕服を好んで着ているな。

 

 「新しい体はどうだ?」

 

 「まだまだ慣れが必要ですが、素晴らしい体です。私もお二人と同じように共に生きて行ける事が夢のようです」

 

 私が作り上げたこの体はヒトハの要望を聞き、作り上げた物だ。

 

 見た目や触り心地は私達と大差ないが、その肉体は私、カミラ、人類、ゴレム、魔動機、そのどれとも違う。

 

 名前を付けるとすれば、魔法生物とでも言うべきか。

 

 身長は155㎝。体重の基準は46kg、胸はやや控えめだ。

 

 カミラからは私に少し似ていてかなりの美人だと評価された。

 

 外見が私に多少似ているのは、ヒトハが私を主にしているからだろうか。

 

 「問題が無いようにしているつもりだが、慣らしだという事を忘れるなよ?」

 

 「はい、承知しております」

 

 彼女は微笑む。

 

 体を手に入れてからヒトハの感情が良く分かるようになった、表情が分かるのは重要だな。

 

 「隣に座れ」

 

 「私は主様に仕える使用人ですが……」

 

 困ったような表情になるヒトハ。

 

 こうしてヒトハを見ていると、彼女が一つの生命になった事を感じる。

 

 体だけでは無く、精神や魂という意味でも。

 

 「いつもお前は私の隣に浮いていただろう」

 

 「……では、失礼します」

 

 ヒトハはそう答えて隣に座る、問題は無いようだな。

 

 彼女はある日、私達のように共に生きたいと言い出した。

 

 作られた意思ではなく自分の意思で共に居たいのだと。

 

 体を与える準備は事前に終わっていた。

 

 それを伝えた時のヒトハの呆けた念話の声は初めて聴いた声だったな。

 

 そして彼女は体を得た。

 

 体を得て目を覚ました時、彼女が初めてした事は嬉し泣きだった。

 

 それからの彼女は食事をしては泣き、風呂に入っては泣きと、それはもうよく泣いた。

 

 以前では感じていなかった感覚が一気に押し寄せていたのだろう。

 

 もっと早くこうしてやれば良かったとも思ったが、彼女自身が変わらなければ意味が無かった。

 

 そうでなければ、私達に似た姿の魔道具が出来上がるだけだからな。

 

 体の感覚や見た目などは私達に近く、排泄はしない。

 

 痛覚は無く、何かあった際はヒトハに異常が通知されるようになっている。

 

 「主様、何か御用があったのでは?」

 

 ヒトハを見ながら考えていると彼女が声をかけて来た。

 

 「その服の着心地はどうだ?」

 

 「素晴らしいです、他の服は必要ないですね」

 

 彼女の着ている給仕服は私の構成物を使用している、カミラのドレスと同じだ。

 

 この服は私の構成物の色を変化させた物だ。

 

 これはヒトハの提案だった。

 

 今まで私は色を変えるという事を試さなかった、考えからすっぽりと抜けていた。

 

 私はその事を二人に話したのだが、カミラには「お母様が何処か抜けているのは昔から知っているわ」と言われ、ヒトハには「そんな主様を支える事が私の幸せです」と言われた。

 

 この服はカミラのドレスのように変化させる事が出来る、ヒトハはロングスカートを好んでいるようだ。

 

 カミラのドレスも他の服に変化出来るようにするか聞いたが、彼女が「後々必要だと感じた時に付けて欲しい」と言ったので見送った。

 

 「デザインを変更したい時は言うようにな」

 

 「はい」

 

 元のヒトハの本体は頭部に人類の脳のように収められ、体に接続されている。

 

 もしも何か問題が起きた時は体を放棄する事も可能だ。

 

 「色々とこれから教える事になるが、まずは普通に生活を続けて体に慣れろ」

 

 「はい、そう致します主様」

 

 これは重要だ。

 

 今でこそ私に飲み物を用意出来る程になっているが、体を得てからしばらくの間は立ってゆっくり歩くだけで精一杯だった。

 

 更に以前の体の感覚が抜けず、物の上を通ろうとして足を引っかけたり、狭い隙間を通ろうとして体が引っかかったりもしていたな。

 

 私達と同じような体で生活する為には、今まで必要無かった様々な事を覚えなくてはいけない。

 

 最終的にはこの体で私達と一定以上戦えるようになって貰う。

 

 そんな事を考えているとカミラが風呂から上がって来た。

 

 「ふー……さっぱりしたわ」

 

 「カミラ様、お飲み物はいかがいたしますか?」

 

 「お風呂上がりだし、モー乳を貰える?」

 

 「かしこまりました」

 

 カミラは風呂上がりの時だけ、時々だがモー乳を飲む。

 

 風呂上がりの時だけは紅茶や酒より良いらしい。

 

 『カミラ』

 

 私はヒトハに気付かれないように念話でカミラに話しかける。

 

 『どうしたの?』

 

 『私はヒトハにアーティア姓を与えようと思う』

 

 「どうぞ、モー乳でございます」

 

 「ありがとう」

 

 カミラは念話をしながらもヒトハに対応する。

 

 『もう家族みたいなものでしょう、遅いくらいよ?』

 

 『ヒトハが体を得た時に与えたい、という私の我が儘だ』

 

 『あの子が体を欲しがらなかったらどうするつもりだったのよ』

 

 『その時は普通に与えていた、いつになったかは分からないが』

 

 『もう……ほら、お母様。決まったのだから早くしてあげて』

 

 『分かった』

 

 ヒトハは飲み物を用意した後、私の傍に控えている。

 

 「ヒトハ、こちらに来い」

 

 「はい」

 

 そう答えてヒトハは私の前にやって来る。

 

 「お前にこれから名乗る姓を与えたいと思うが、構わないか?」

 

 「ありがたく頂戴いたします」

 

 ヒトハはそう言って跪き、首を垂れた。

 

 「これからお前はヒトハ・アーティアと名乗れ」

 

 「……え?」

 

 声を上げて私を見るヒトハ。

 

 やはり体があると良いな、表情で驚いているのが良く分かる。

 

 「お前が使用人でありたいのなら私達はそれを否定しない、これからも頼む。しかし、私達はお前を既に家族だと思っている。この姓を与えるのは当然だ」

 

 「家族なら同じ姓を名乗りたいものね」

 

 カミラも優しい微笑みを浮かべてヒトハを見ている。

 

 「私は娘が二人になったな」

 

 「ありがとう……ございます」

 

 この日、ヒトハはまた泣く事になった。

 

 こうして彼女は正式に使用人でもあり家族でもある存在となった。

 

 

 

 

 

 

 それから私達はいつもの様に暮らしながらヒトハに生活の事を教え、完全に体に慣れるのを待った。

 

 最初の内はただ日々を過ごしているだけでも訓練のような物だっただろう、それから彼女は少しずつ出来る事を増やして行った。

 

 彼女は私達の助けを借りながら、おぼつかない動きで給仕や掃除、料理などを行う日々を繰り返した。

 

 カミラは「教える相手がいると楽しい」と言って嬉しそうにヒトハに色々と教えていたな。

 

 家の事をやり終えると、彼女は「一刻も早く体を慣らしたい」と言い、家畜の世話なども行い始めた。

 

 私達はそれを止めなかった、今の彼女は色々な事をやりたいように見えたからだ。

 

 

 

 

 

 

 やがて全身の動きは少しずつ滑らかになり、大雑把な動作をする事が減り繊細な動作をするようになって行く。

 

 歩き方や身のこなしから少しずつぎこちなさが無くなっていき、佇まいも徐々に洗練されて行った。

 

 こうして以前とは見違えるほどに滑らかに動けるようになったが、もう少し時間が掛かりそうだ。

 

 意識せず自然に動けなくては戦闘訓練には移れない。

 

 現在はキッチンから楽しそうな娘達の声が聞こえている。

 

 私はその声を聴きながらソファでモー乳を飲んだ。

 

 

 





 ヒトハの髪形はボブカットを想定しています、アレンジはご自由に想像して下さい。

 給仕服の外見はお好みのロングスカートの物を想像してください。



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