少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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063-02

 

 私は湯舟に浸かりながら、体を洗っているヒトハとカミラを見ていた。

 

 カミラはヒトハの様子を見ながら体を洗っている。

 

 「もう体を洗うのは問題なさそうね」

 

 「お二人のおかげです」

 

 最初は初めての風呂の感覚に感動して泣いていたので私達が洗ったが、慣れるために入り始めるとまともに体を洗えなかった。

 

 石鹸を付けて体を洗う、その動作をするために彼女はそれなりの時間を費やした。

 

 慣れていない頃は一度の風呂で大分時間がかかったのを覚えている。

 

 今は体を洗っている彼女から違和感は感じない、もう大丈夫だろう。

 

 体を洗い終わった二人は私の両隣へと入って来た。

 

 「問題は無さそうだな」

 

 「はい。ですが主様のお世話を致しますので……これからも一人で入る事は少ないでしょう」

 

 私が声をかけると、ヒトハは微笑んで答えた。

 

 「主の世話ではなく親子として入らないのか?」

 

 そう言うとヒトハは黙ってしまう、娘になったとはいっても急には難しいか。

 

 「硬いわねぇ……娘でもあるんだからこういう時は普通でいいのに」

 

 カミラが苦笑いして言う。

 

 「一度呼んでみろ。お母様でもお母さんでも、母上やママでもいいぞ、父上やお父様でも構わない」

 

 「それは……」

 

 困ったような表情をするヒトハ。

 

 「お前は私の娘だ。主である事も間違いないが、私は娘が親を常に主と呼ぶのは好ましくないと考えている。お前が呼びたくないなら無理にとは言わないが、可能なら呼んでみろ」

 

 彼女はかなり長い間黙り込んでいたが、突然頭を下げた。

 

 「……申し訳ありません」

 

 私は慣れるまで時間がかかりそうだと思ったが、同時に嬉しくもあった。

 

 こうして考え、悩み、私が言ったとしても安易に実行しない。

 

 勿論、大抵の事は聞くだろう。だが内容によってはこうして拒否する。

 

 その事に対して私は何も言わない、私は彼女にこうなって欲しかったのだからな。

 

 「気にするな、いつかその気になった時に呼んでくれればいい」

 

 「あっ……」

 

 私はそう言いながらヒトハの頭を撫でた。彼女は一瞬体を震わせたが、目を瞑り黙って撫でられている。

 

 「私の妹は可愛いわね」

 

 その様子を見ていたカミラが楽しそうに言った。

 

 

 

 

 

 

 風呂から出た私達は、夕食の準備を始めた。

 

 今日は普段は参加しない私も娘達と料理を作る事にする。

 

 ミナやルーテシア、カミラの料理の腕が私を越えているので、私が料理をする事は滅多に無い。

 

 ヒトハは今はまだ料理に慣れていないが、やがて私を追い抜く事だろう。

 

 「じゃあ皮をむいてみて、急がなくていいわ。時間はかけていいから出来るだけ薄く、皮だけを剥くようにしてみて」

 

 カミラがヒトハへ指示を与えている。

 

 皮剥きか、料理の練習にも体に慣れるためにも丁度いいかもな。

 

 「私はどうすればいい?」

 

 「お母様はそこにある食材を全て一口大に切ってくれる?」

 

 カミラが視線を投げた方向には食材が用意されていた。

 

 「今日は何を作っているんだ?」

 

 食材を切りながらカミラに聞く。

 

 「食材を切って煮込むだけの具沢山のスープよ。味付けは私がしてるから心配しないでね」

 

 「そんな簡単な物で良いのか?」

 

 私が顔を上げそう聞くと、カミラはヒトハを見て答えた。

 

 「今はこれぐらいでいいのよ」

 

 つられてヒトハを見ると、皮を剥いている。

 

 その表情は真剣で、周りが見えていない様にも感じる。

 

 しかし、物凄く剥くのが遅い。

 

 今まで体に慣れるために料理もそれなりにしていたはずだが。

 

 体の慣れと料理の腕は別なのかもしれない。

 

 そういえばカミラも身体能力は高かったが最初は料理が下手だった。

 

 「その辺りはカミラに任せる事にする」

 

 「任せて……今度は私が教える番よ。これからきっと彼女も上手くなっていくと思うわ、お母様は覚えているかもしれないけど……私だって最初は今の彼女より酷かったもの」

 

 カミラは笑ってそう話し、自分の作業に集中し始める。

 

 「覚えているよ」

 

 私はカミラに一言返して食材を切り始めた。

 

 その後出来上がった夕食は美味しかったが、ヒトハが剥いていた食材は剥く前よりも一回り程小さくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 ヒトハの奮闘を見守りながら時は過ぎ、彼女は日常の動作を無意識に行えるようになった。

 

 体がある事が彼女の基準になり、躓く事も隙間に引っかかる事も無くなった。

 

 今もソファに座る私の前で飲み物を入れてくれている、そこで私はふと気になった事を聞いた。

 

 「ヒトハ。今の体に慣れたのは良い事だが、以前の体である球体に切り替えた時の動きは問題無いか?」

 

 いざという時は体を放棄して分離出来るが、その時に動き方を忘れていて動けなかったら意味が無い。

 

 そんな心配をしていると彼女が答える。

 

 「今の所は忘れておりません、今後忘れてしまうかどうかは不明ですが……」

 

 「時々自分で確認するようにしておいてくれ。忘れていると感じた時は私に知らせるように」

 

 「かしこまりました。……どうぞ、モー乳入り紅茶でございます」

 

 ヒトハは返事をして、滑らかな動作で飲み物を私の前に置く。

 

 「もう違和感は無いか?」

 

 「はい。意識する事無く自然に動きます」

 

 そろそろ戦闘訓練に入っても平気そうだな。

 

 「料理はどうだ?」

 

 そう言うとヒトハの表情が少し曇る。

 

 「申し訳ございません……まだ主様にご満足いただける腕では……」

 

 「そんな顔をするな、聞いただけだ。早くしろと言う訳でも絶対に上手くなれと言う訳でも無い」

 

 私は立ち上がり彼女の頭を撫でる。撫でられる彼女は恥ずかしそうに目を瞑り、微笑みを浮かべている。

 

 料理の腕前は彼女の頑張り次第だが、戦闘訓練はそろそろ始めても問題無さそうだ。

 

 私は彼女の頭を撫でながらそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 ヒトハの訓練を開始する事を決めた私は、二人を月に残してイシリスの状態を確認しに向かう。

 

 この惑星をヒトハの訓練に使おうと考え、下見を行っている。

 

 確認しても以前と大して変わっている様には見えない。

 

 イシリスを覆っていた雲はいまだに厚く、地上は一面凍り付き激しい吹雪が吹き荒れている。

 

 吹雪を遮断して訓練用の広い場所を作ろうと決め、私は広範囲に障壁を張り吹雪を遮断した。

 

 気温の低さは変わらないが、私達にとってこの程度は問題無い。

 

 こうしてヒトハの訓練の日々が始まった。

 

 

 

 

 

 

 「まずは基本的な動きからやろう」

 

 「かしこまりました主様」

 

 かつて人類に教えていた方法を参考にしてヒトハに戦闘の動きを教え始めた。

 

 攻撃、防御、回避の体の動かし方。

 

 一対一、一対多での戦闘方法。

 

 一つ一つを丁寧に教えて行く。

 

 私の作った体は私やカミラには及ばないが強力だ。

 

 弱くも作れるが、どちらにするかと問われれば私は迷う事無く強い体を選ぶ。

 

 何をされようと全てをひっくり返す事が出来る強さがあれば大抵何とかなる。

 

 少なくとも本人に害は及びにくいと思っている。

 

 私達の戦闘は大抵の場合魔法などを使う為、基本的に武器は使わない。

 

 私の手やカミラの爪の方が強力だからな。

 

 武器を使う時はその武器の扱いを学ぶ時、後は手加減する時か。

 

 防具も使わない、一定以上力を出した攻撃には無意味だったからだ。

 

 女神の鎧が軋んだ時はすぐに障壁で防御し状態を確認したが、問題は無かった。

 

 友人達が作った女神装備が、強敵相手には使えないと分かった出来事だったな。

 

 壊したくはないからな。今後、カミラとの訓練で使う事は無いだろう。

 

 そういった理由でヒトハも普段の給仕服と素手で訓練している。

 

 とは言ってもカミラもヒトハも服は私の構成物だからな、守りがかなり硬いと思う

 

 魔法の勉強と訓練も並行して行うのでヒトハはかなり忙しいだろうが、ある程度強くなければいざという時に危険だからな。

 

 

 

 

 

 

 「良いわよ、その調子」

 

 カミラとヒトハが戦闘訓練をしている、非常にゆっくりとした戦闘だが徐々にきつくなっていくだろう。

 

 「下半身が疎かになっているわよ」

 

 「あっ!?」

 

 ヒトハは足を払われ縦に勢いよく回転する、そこへ突きを入れるカミラ。

 

 「うん……やるわね」

 

 突き込んだカミラの拳を上手く受けて着地するヒトハ、今のは中々良い動きをしていた。

 

 「じゃあもう少し早くするわよ」

 

 「はい……っ!?」

 

 カミラは普通に歩くように近づくが途中で速度を上げて一気に接近した、先程までよりも僅かに早い。

 

 こうして終了の時間が来るまで二人はひたすら戦い続けた、この後は魔法の勉強だ。

 

 

 


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