少女(仮)の生活   作:YUKIもと

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 月での穏やかな生活を続ける私達。

 

 ヒトハは今も順調に実力を伸ばし続けている。

 

 以前と違う所は、カミラとヒトハの訓練の頻度が少し増えた位だろうか。

 

 私は世界樹の枝に座り、以前訪れた知的生命体について考えていた。

 

 彼等の存在を知った後、私は月を中心に知覚する範囲を以前より拡大した。

 

 転移に似た技術を持っている彼らは、いつどこに現れてもおかしくはないからな。

 

 彼らが転移のような事をする時の反応は最初の接触で分かっている。

 

 知覚している範囲に同じような反応を確認した場合は対応するつもりだ。

 

 これからも私達は時々イシリスを確認しながら過ごすつもりだが、彼らは再びやって来るだろうか。

 

 もし再びやって来た場合、私は軍人のような立場の者達がやって来るだろうと予想している。

 

 友好的だろうと敵対的だろうと、全く武力を伴わず未知の相手の元へ向かおうとするとは思えないからな。

 

 

 

 

 

 

 夕食を終えたある日。

 

 ソファで数えきれない程読み返した本を再び読んでいると、カミラが呟く。

 

 「以前現れた知的生命体……来ないわね」

 

 「そうだな。来てくれた方が面白そうではあるが、来ないならそれでも構わない」

 

 私が呟きに答えると、カミラはソファにもたれた。

 

 「来ると思っていたんだけど、私の予想は外れちゃったのかしら……」

 

 「予想を裏切られるのは楽しい物だぞ」

 

 そんな会話をするカミラと私に、ヒトハが飲み物を持って来る。

 

 「私もカミラ様と同じように、早い内に再びやって来ると考えていました」

 

 飲み物を用意しながら言うヒトハ。

 

 「あれからそれなりに時間は経っていると思うが、現れないな」

 

 「既に私も正確な時間は分かりませんが……恐らく数百年程は過ぎていると思います」

 

 私の言葉にヒトハが答えてくれる。

 

 数百年か、あの時私と出会った知的生命体は私の事を誰かに伝えなかったのか?

 

 それともあの時に出会った者達が全てで、少数の種族だったのだろうか。

 

 「どうなったのかしら?報告はしたけれどされた側が本気にしなかった?もしくは報告自体していない……?」

 

 カミラはそう話しながら用意された酒を飲んでいる、予想が外れて残念そうだ。

 

 「分かっている事は水生生物のような特徴を持つ人型の知的生命体と言うだけだ。彼らの社会がどういった物なのか、そもそもそういった物があるのか。確かな情報が無い状態での予想は難しい、それにまだ来ないと決まった訳でも無いだろう」

 

 「数百年過ぎて来ないなら、難しいんじゃないかしらね……」

 

 カミラは溜息を吐いて言う、ヒトハはその日の夕食を彼女の好物にした。

 

 

 

 

 

 

 ある日、私がソファながらモー乳を飲んでいると、知覚に大量の転移に似た反応を感じた。

 

 例の艦が消えた時の反応だ。

 

 「お母様?急に微笑んでどうしたの?」

 

 「主様?どうなさいました?」

 

 私の様子が変わった事に気が付いて二人が声をかけてくる、どうやら私は微笑んでいたようだ。

 

 「カミラ、お前の予想は外れてはいなかったぞ」

 

 「え?」

 

 「かなり遠いが転移に似た反応を感じる。かなりの数が現れているな」

 

 私の言葉に良く分からないといった表情を見せたカミラだが、その言葉を聞くと笑みを浮かべた。

 

 「では……出発するのですね?」

 

 ヒトハが私に確認するように言う。

 

 「ああ、彼らの元へ向かう。友好的ならばいいが、そうでなければそれなりの対応をしよう」

 

 もし敵対したら彼らに強めの魔法を試してみようか。

 

 イシリス内では周囲に被害が出ない様に調整していたが、宇宙ならば多少大規模になっても問題はないだろう。

 

 「気を付けてね、お母様」

 

 「お風呂とお食事のご用意をして、ご帰宅をお待ちしております」

 

 「ありがとう、行ってくる」

 

 私は二人に答え、反応から少し離れた宙域へ転移した。

 

 

 

 

 

 

 事の発端はある屋敷の持ち主が家族を持たずに亡くなった事だった。

 

 相続する者がおらず、都市の預かりになった屋敷内の片付け作業を行っていた時の事らしい。

 

 作業員が偶然発見した屋敷の隠し金庫の中にあったのは、四百年程昔のある星系調査結果と映像だった。

 

 大量の資源が記されたその星系の調査報告の事は誰も覚えが無く、確認した結果当時は偽の報告が行われていた。

 

 その事実に上層部は怒りをあらわにしたが、当の本人は遥か昔の人物であり、子孫も既に居ない。

 

 そのため、その辺りはうやむやになったという。

 

 その後、上の興味を引いたのは調査結果と共に残されていた映像だった。

 

 映像にはヒーラン星系種に似た美しい少女が宇宙空間を漂う映像が残っていた。

 

 だが、ヒーラン星系種では無い事は確実だ。あたし達もだが、ヒーラン星系種は生身のまま宇宙空間で活動する事など出来ない。

 

 更に映像を確認すると、その少女がレーザー照射を受けて平然としている映像が映されていたという。

 

 この映像を見た事で、この少女のような姿をした存在が未確認の宇宙生命体であると判断された。

 

 そして、どうするかを話し合う事になったみたいだ。

 

 あたしはそこそこの地位にいるとはいっても重要な会議に出られる程じゃない、だけど仲の良い高官から知っておけと話をされた事で色々と知る事が出来ている。

 

 会議はかなり長引いたようだけど、最終的に星系に存在する資源が見過ごせる量では無い、という事になったそうだ。

 

 そして、最終的に資源の回収と、現在も存在していた場合は映像の未確認宇宙生命体を捕獲する。という目的で艦隊を送る事が決定されたという。

 

 宇宙生命体の中には私達の想像を超えた生態をしている物も多く存在している。

 

 四百年前の記録であっても、今も存在している可能性は十分にあると判断された。

 

 未知の宇宙生命体かぁ……知性があれば話し合いで……いや、無理かな。

 

 数が少ないならわざわざ面倒な交渉をするより力づくでどうにかしようとするだろうから。

 

 せめて捕まった少女の姿をした宇宙生命体が酷い目にあわない様に祈っておこう。

 

 

 

 

 

 

 現在、あたしは編成された艦隊の中の一つに乗船している。

 

 私の艦の準備は完了し、各艦隊の準備の完了を待っている所だ。

 

 宇宙だと些細な事でも大事故につながるから気を使うよね。

 

 「何で当時の群長は報告しなかったんでしょうか?」

 

 あたしは情報を教えてくれた仲の良い高官と通信で会話する。

 

 彼は本国に残っているが、今回の艦隊派遣の責任者だ。

 

 「映像では未確認宇宙生命体はレーザー照射に平然と耐えていた。当時の記録ではあの戦艦に搭載されていたレーザー兵器は最高の物だったとある……それが効かなかったんだ。下手に手を出せば被害が大きくなると考え、罰せられるのを覚悟で隠蔽したのではないかと俺は考えている」

 

 「なるほどー。欲を出して当時の艦隊で向かえば相手に攻撃が効かずに一方的にやられていたという訳ですか」

 

 「そうだ。一度知らせてしまえば当時の彼の階級では方針を変える事は出来なかっただろう。だから隠して知らせなかったのだと思っているよ」

 

 「当時の彼は悩んだのかな……?報告義務があるし、嘘の報告までしてかなり不安だったんじゃ?あたしだったら出来ないかなぁ……」

 

 「ははは……まあ本来は厳罰だが、仲間を守るためにした事だ。俺は一方的に責める事は出来ないな」

 

 彼が下の者から慕われているのはこういった所だ。相手の気持ちを汲んでくれたり、正式な場でなければあまり言葉遣いなどを気にしないのだ。

 

 「先輩は、彼女が捕獲された場合……どうなるか聞いていますか?」

 

 あたしは今回の捕獲について彼に聞く。

 

 「研究所で詳しく調べる事になると思う。心配しなくても殺す事は無いよ?貴重な未確認宇宙生命体だからね……死んでしまったら取り返しがつかない」

 

 「それなら良かった。後……その……」

 

 「ん……?なんだい?」

 

 無いとは思うけどもしもの時の為に聞いておかないと。

 

 「もし……もしもですが。あの未確認宇宙生命体が私達の想像を遥かに超えた化け物で……あたし達が全滅しそうなった時はどうするべきですか……?」

 

 あたしがそう言うとしばらく沈黙が流れる。

 

 沈黙が続き、不味い事を言ってしまったと後悔し始めた時、彼は口を開いた。

 

 「その時は即座に撤退し、報告するように。責任者としてやるべき事がある」

 

 彼は真剣な声でそう答えた。

 

 「了解いたしました」

 

 あたしも言葉を正し、返答した。

 

 「一応この命令も全艦隊に通達しておく事にするよ」

 

 彼は急に軽い口調でそう言った、個人的に聞いてみた事が全艦隊に通達される事になってしまった。

 

 「念の為ですから」

 

 「そういった事が役に立つ時もある」

 

 そう話して二人で笑った。

 

 艦内連絡で全艦隊のワープの準備が整い、予定の時間通りワープが開始される事が通達された。

 

 「もう行きます」

 

 「うん、行っておいで」

 

 あたしは通信を切ると急いで艦内の配置に就く。

 

 やがて予定の時間となり、艦隊はワープを開始した。

 

 

 


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