彼らの艦隊は広範囲に展開していた。
分かってはいたが相当な数がいる、未知の存在に接触する為に数を揃えたのだろうか?
私は彼らを知覚しているが、彼等はまだ私を捕捉していない様だ。
間近にいきなり転移で現れたら彼らを驚かせてしまうと考えて、かなり距離を取っているからな。
私はここから驚かせない様にゆっくり近づいていく事にした。
しばらく移動していると、艦隊に動きがあった。
停止して様子を見ていると私を囲むように半円状に展開して行く。
どうやら私を捕捉したようだ。
彼らの言語がまだ分からないので、久しぶりに翻訳魔法を使用して全艦隊に語り掛けてみる事にする。
《そちらが攻撃しない限り私は攻撃しない。この言葉を理解し、話し合う気があるのなら、何か分かりやすい反応を返して欲しい》
私がそう話しかけた後、しばらく艦隊は沈黙していたが、やがて一部の艦隊から攻撃と言えなくも無い物を受けた。
これは攻撃されているのだろうか?それとも私が分かりやすい反応を返す様に言ったからか?
何しろ未知の相手だ、この行動が挨拶や風習のような物である可能性も無いとは言えない。
《申し訳ないが、話し合うという返答なのか攻撃なのかが分からない。もしも話し合う気があるのなら現在の行動を停止して欲しい》
そう言うと今度は周囲にいる全ての艦隊から攻撃のような物が放たれる。
私は障壁で全てを防ぎながらやる事をやっておく事にする。
逃げられない様に全艦隊を隔離するため、私は魔法を使用した。
これで一定の範囲からは出られず、転移のような事も出来ない筈だ。
取り敢えずやるべき事を終え、考えなおす。
いまだに艦隊からの攻撃のような物は続いている。
だが、私が彼らの事を知らないだけで彼らなりの歓迎なのかも知れない。
そもそも翻訳魔法が通じているのだろうか?
私は艦内の声を聞いてみる事にした。
……問題無く分かるな。
これなら私の言葉も聞こえていると思うのだが、この反応の意図が分からない。
そう考えていると、ある会話が聞こえる。
《捕獲中止だってよ、駆除する事にしたのか》
《一匹だったらしいし、もう終わってるだろ》
……なるほど。どうやら最初は私を捕獲しようとしていたが、殺す事に変更したのか。
途中で攻撃のような物の威力が僅かに上がっていたが、あの時点で攻撃だった様だ。
残念だが、攻撃して来るのであればこのまま返す気は無い。
本当に彼等で試す事になるとは。
私はそう思いながら少しだけ広範囲、高威力の魔法を使う、発動は艦隊の左翼中央辺りにしよう。
そして私が魔法を発動すると、船団の中心から黒い球が広がり艦を次々に飲み込んでいく。
距離があると広がっていくのが見えて分かりやすいな。
黒い球はその範囲を広げ左翼の艦隊を全てのみ込み、更に広がって行く。
艦隊の左翼中央を狙った私の魔法はその範囲を広げ、中央の艦隊にまで到達して停止した。
私の位置から見ると宇宙に巨大な暗闇が円状にぽっかりと開いているように見える。
狙った通りに魔法は効果を発揮した、周囲の空間や魔法の範囲外にも問題は起きていない。
この程度の威力と範囲なら特に問題は無さそうだな。
失敗する事は無いとは思うが、惑星内では今後も色々と気を付ける事にしよう。
惑星内で今のような魔法を使ったら使ったら敵も友人も惑星ごと消えてしまうからな。
やがて黒い球は姿を消し星の輝きが見え始めるが、そこにいた艦隊は消滅していた。
残った約半分程の艦隊は突然の事に混乱しているようだ。
我を忘れたかのように攻撃を仕掛けて来る艦が多いが、逃げようとして他の艦と衝突している艦もいる。
動かない艦はワープを行おうとしている。
恐らくあの転移のような移動の事だろう、それが行えない事に驚き戸惑っているようだ。
隔離も問題無く出来ているな。
では、攻撃してくる残りの艦を処理しよう。
私は船団の中を移動しながら魔法、素手による打撃と髪を使った斬撃で数を減らしていく。
彼らの攻撃は私が居る場所とは全く違う方向に放たれているが、どうしたんだ。
混乱しているのだろうか?
そんな疑問を感じながら敵を減らしている時、私はこの艦を一つ貰っておこうと考えた。
宇宙を航行出来る艦だ、気が向いた時にでも調べよう。
私は周囲を見回し、後方に逃げて行く艦の中に転移した。
「発見しました、映像の宇宙生物と一致します」
報告が艦内に響く。
あの未確認宇宙生命体を捕捉し、艦隊が展開する。
本当にまだ存在していたのね……。
宇宙生命体に油断は禁物、これは宇宙に生きる者なら誰もが学ぶ事だ。
展開を終えたしばらく後、突然艦内に声が聞こえた。
《そちらが攻撃しない限り私は攻撃しない。この言葉を理解し、話し合う気があるのなら、何か分かりやすい反応を返して欲しい》
私達の使用している言語だった。
なぜ私達の言語を話せるのかという疑問はあった、だけどそれよりも重要な事が分かった。
あの宇宙生命体には知性があり、私達との対話を望んでいるという事だ。
「耳を貸すな、スタンレーザー用意」
しかしそんな事にかまう事無く、捕獲用のスタンレーザーを撃ち込む。
捕獲が目的だからね……私は少しあの生物に同情しながらもその光景を見ていた。
効果が出ているんだろうか?あの生物はレーザーを受けながら平然とこちらを見ているように見えた。
そして再び声が聞こえた。
《申し訳ないが、話し合うという返答なのか攻撃なのかが分からない。もしも話し合う気があるのなら現在の行動を停止して欲しい》
「スタンレーザーが効いていないのか……?」
誰かのつぶやきが聞こえる。
私は驚いた。確かに正確には攻撃とは言えないかも知れない、けれどスタンレーザーを受けて何ともない宇宙生命体はあまり多くはいない。
その時、私の中で先輩に言った言葉がうっすらと浮かんだが、スタンレーザーが効かない相手は今までもいたと振り払う。
やがて、付近にいる全ての艦から最高出力のスタンレーザーが撃ち込まれる。
しかし、それでも全く効果があるようには見えず、レーザーを受けたままアレは沈黙していた。
「……了解しました。捕獲中止!駆除へ移る!……シトロンレーザー用意!」
スタンレーザーが効かないのならこうなるよね。
「了解!シトロンレーザー発射準備!」
捕獲から駆除へと命令が変更され、スタンレーザーから最高の威力を持つシトロンレーザーへ切り替えられた。
最高出力のスタンレーザーが効かないのなら念の為その方がいい、中途半端に傷つけて暴れられたら面倒な事になるし。
「発射!」
殺す事になってしまったかと思っていると、シトロンレーザーが発射される。
そして私は見てしまった。シトロンレーザーの集中攻撃を受けながら、平然とこちらを見るアレを。
「シトロンレーザーが全く効いていない!?」
艦内に動揺が広がる。
私も動揺で体が震える、今まであの攻撃を受けて耐えられた宇宙生命体なんていないはず……!
あの兵器が開発され現在も強化、改良が行われているおかげで、私達は宇宙生命体の脅威に対抗し繁栄しているのだから。
「司令に連絡!」
「りょ、了解!」
群長が指示を出した直後、モニタを見ていた一人が叫んだ。
「報告!右翼に展開している艦の反応が消失していきます!」
「画面映せ!」
その言葉に艦隊の右翼側が映し出される。
「何だよ……これ……」
それは誰の声だったのか、静まりかえった艦内には機材の起動音だけが響く。
画面には……宇宙より黒い巨大な何かが、艦隊の右翼を飲み込んでいく姿が映し出されていた。
気が付いた艦が逃げようとするが間に合わず飲み込まれていく。
「そこから離脱しろ!死ぬぞ!」
《何言ってる?艦隊行動中だぞ、こんな通信してどうなっても……》
あたし達は少しでも助けたくて飲み込まれる前の艦に必死に逃げろと呼び掛ける。
今、通信中に突然声が途切れた艦はたった今黒い何かに飲み込まれ消えた。
音も無く静かに消えて行く……相手の通信からはもう何も聞こえない。
あの攻撃は中央まで到達し、司令も命を落としてしまった。
そして、命令系統が混乱した私達に体勢を立て直す時間が与えられる事は無かった。
なぜならその後、あの宇宙生命体があたし達に襲い掛かって来たからだ。
あたし達を含め大半の艦隊はそれでも攻撃をしていたが、速度が怖ろしく速く全く攻撃を当てる事が出来ない。
艦隊は抵抗らしい抵抗も出来ないまま破壊されていく。
《あれはどこだ!?何処にいる!》
《レーダーが役に立たない!?来るなぁぁぁぁ!!》
《助けてくれ!誰か!?だれっ》
通信は叫び声と爆発音が響く阿鼻叫喚の様相を見せ、まともに他の艦との連絡が取れない……このままでは間違いなく全滅だ。
「どうすればいい……どうすれば……」
同僚や群長の大声が飛び交う艦内で、呟いた私の声は馬鹿みたいに震えていた。
アレは今も艦隊の中を飛び回り次々と艦を破壊している、シールドなんて何の役にも立っていなかった。
あたしは圧倒的な力の差を感じた。
……私達に手に負える相手じゃ無かったんだ!
考えろ……!この状況から生きて帰る道を……!
死は目前をうろついている……気まぐれでこちらに手を出していないだけだ。
私はレーダーの画面を凝視したまま必死に考える。
その時私は気が付いた……反応が消えて行く味方の艦の中に、残されている反応がある事に。
恐怖を抑え込みながらレーザーの情報を元に残されている艦を確認していく。
これは……攻撃をしていない艦は破壊されていない?
武器系統の不調か恐怖にすくんだか……きっと後者だろうけど、攻撃をしていない艦は狙われていない!
気まぐれで攻撃していた訳じゃなかったんだ!
……そうだ!アレは言っていたじゃないか!攻撃しなければ攻撃しないと!
攻撃してこない相手には手を出さないのかもしれない!
「攻撃中止!中止よ!やめなさい!!よく見て!攻撃していない艦は狙われていないのよ!!」
あたしは無理矢理攻撃を止めようとする。
越権行為だが生きて帰るためにはそんな事を言っていられない。先輩に伝えないと……手を出していい存在じゃなかったって!
「攻撃中止!中止しろ!」
やがてあたしの言葉を理解した群長が攻撃を止める、あなた最高よ群長!
「皆、総司令からの言葉を思い出して!逃げましょう!生き残って報告するのよ!」
あたしの勢いに群長も頷き、撤退指示を出す。あたし達の艦は全力で後退しながらワープの準備をし始める。
逃げられるかも知れない……そう希望が湧いた時、アレが艦橋指令室に現れた。
私は艦の長らしき者達がいる場所へと転移した、周囲の知的生命体は微動だにせず私を見つめている。
「始めまして。突然だがこの艦を……」
「うあぁあぁあぁぁぁ!?」
私の言葉を遮り、叫び声を上げた彼らの中の一人が腰にあった何かを掴んでこちらに向ける。
「駄目よ!攻撃しないで!」
誰かの叫び声がしたが彼は止まる事は無く、手に掴んだ何かから光が放たれ障壁に遮られる。
私は何度も光を放ち続けるそいつの頭を斬り落とした。
「艦に当たったら壊れるだろう」
「あぁ……」
小さく悲しそうな上げる者がいる、先程攻撃するなと叫んだのもこいつだな。
「お前、なぜ攻撃を止めた?」
私に話しかけられた知的生命体は怯えたような表情で話し出した。
「あ……あなたは攻撃をしていない艦を破壊していなかったので……。そ、それに……言っていました。攻撃しなければ、攻撃しないと」
声が震えていて聞き取りにくかったが、言っている事は分かった。
どの種族にもこういった者はいる様だ、彼女一人の力では攻撃を止められなかったのだろう。
「その通りだ。攻撃されたので反撃したが、私は元々話し合う気でいた。そこでお前に相談がある」
「な、何でしょうか?」
私はこの中で話が通じそうな彼女に要求を聞いて貰う事にした。
「私にこの艦を譲ってくれないか?」
「え……?」
動揺する彼女、自分達がどうなるかを気にしているのだろうか?
「心配するな、お前達は他の無事な艦に移動させてやる。そしてワープで逃げられるようにしてやろう」
「それは、どういう……?」
「私はお前達をこの宙域に閉じ込め、ワープも使えない様にしている」
私の言葉に彼女だけでなく黙って事の経緯を見ていた他の者も息をのむ。
「どうだ?譲ってくれるか?」
周囲の艦は私が突然消えたと思っているのだろうな。私を見失った事で攻撃は止まっているが、今度は逃げられない状況に焦っているようだ。
「ぐ、群長……」
彼女がそう言って高い位置にいる者を見た、あれがこの艦の長か?
その群長と思われる者は無言で頷いた。
「この艦を……お譲りします」
「そうか、ありがとう。艦を譲ってくれた礼に今残っている艦は全て見逃そう。ただし、攻撃せずに撤退する艦だけだ。今後攻撃を行った艦には消えて貰う、いいな?」
「……はい、ありがとうございます」
私はその返事を聞いた後、攻撃してこなかった艦の一つに彼らを転移させる。
それからすぐに貰った艦をマジックボックスへと収納した。
その後攻撃して来る艦を全て破壊した私は撤退して行く艦を見送り、月へと帰った。